
1.はじめに
@ITの2025年12月11日付の記事「AIで離職予兆を可視化する「freeeサーベイ」提供開始 どうリスク評価するのか、プライバシーは?」によると、freeeは、「AI(人工知能)が従業員の離職予兆を可視化し、離職リスクのある従業員へのフォローアップを具体的に支援するサービス「freeeサーベイ」の提供を開始した。従業員の見えないSOSをAIで早期に検知し、面談アジェンダを生成することで離職防止をサポートする」とのことです。
・freeeサーベイ|freee

(freeeウェブサイトより)
記事によると、freeeサーベイは、「キャリア開発研究を基としたサーベイテンプレートを採用し、学術的知見に基づき、AIが従業員の離職リスクを4段階で自動評価し、対応が必要な従業員を可視化する」そうです。
どのように従業員の個人情報・個人データを収集・分析するかについては、記事によると、「「freee人事労務」の従業員情報と自動連携」するとともに、「従業員へのアンケートは月に1回実施し、…「匿名性を確保することで本音を引き出す設計」」となっているとのことです。
とくにこの、従業員にアンケートを実施しするにあたり、「匿名性を確保することで本音を引き出す設計」」と、まるで従業員に対して”だまし討ち”のような方法で個人情報・個人データを収集し、従業員の個人個人の離職リスクをAIでモニタリング、スコアリングすることは個人情報保護法などの観点から問題ないのでしょうか。
(また、従業員本人は離職の意向がないのに、AIが勝手に「この人は離職したがっている」と判断し、人事部や上司にそのように伝えてしまうこと、つまり「AIによる(誤った)個人の選別」が行われてしまうAIのリスクも重大であると思われます。)
2.個人情報保護法ー適正な取得、不適正利用の禁止
個情法20条1項(適正な取得)は、「個人情報取扱事業者は、偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはならない。」と規定しています。そのため、例えば「このアンケートは匿名です」「離職リスクを判定するためのアンケートではありません」等と偽ってアンケートを実施し、個人情報を収集した上でそれらのデータを基にAIで個人個人の離職リスクを分析することは、個情法20条1項に抵触し違法なものとなるおそれがあります。
また、法19条(不適正利用の禁止)は、「個人情報取扱事業者は、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法により個人情報を利用してはならない。」と規定しています。これは2019年のリクナビ事件等を受けて規定化されたものです。すなわち、例えば、就活生や従業員からだまし討ちのような形で個人情報を収集し、そのデータを基に就活生や従業員に不利となる「内定辞退予測データ」等を作成し、就活生や従業員などに不利な人事考課等の判断・処分を行うことは、法19条に抵触し違法となるおそれがあります。
3.AI事業者ガイドライン・人事データ利活用原則
また、経済産業省・総務省の「AI事業者ガイドライン」は、法令のように法的拘束力をもつものではありませんが、しかしガイドラインとして事業者がAIを開発・提供・利用する場面における基準を定めています。
そのなかの「指針(共通)8:公平性・非差別性」は、「AIシステムの開発・提供・利用において、特定の個人や集団に対する不当な差別や偏見が生じないよう、公平性に配慮すること」を規定しています。すなわち、不透明な方法で収集されたデータや、離職リスクという機微な情報をAIで分析することは、結果として特定の従業員が不当な扱いを受けるリスクがあり、これは不公平な人事判断につながる恐れがあり、「指針(共通)8:公平性・非差別性」に抵触しているおそれがあります。
また、同ガイドラインの「指針(共通)3:透明性・説明可能性」は、利害関係者がAIシステムの仕組みや判断プロセスを理解できるよう、透明性を確保することが重要であると規定しています。この点、従業員に目的を隠したアンケート等のだまし討ち的なもので収集したデータの利用では、分析の透明性が全く確保されていません。どのようなデータが、どのように離職リスクの判断に使われたのかが不明瞭な「ブラックボックス」状態であり、「指針(共通)3:透明性・説明可能性」に抵触しているといえます。
さらに、人事労務の業界団体である、一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会の「人事データ利活用原則」も、「原則2:透明性・説明責任」、「原則3:目的特定・制限」等のデータ活用の透明性や従業員への配慮を求める規定があります。そのため、同様にだまし討ちのような形で収集されたデータを基にした離職リスクの分析等は、「人事データ利活用原則」にも抵触しているおそれがあります。
4.まとめ
このように、従業員にアンケートを実施しするにあたり、「匿名性を確保することで本音を引き出す設計」で個人情報を収集し、AIで離職リスクなどをモニタリング、スコアリングするfreeeサーベイは、個人情報保護法、AI事業者ガイドラインおよび人事データ利活用原則との関係で問題があるといえます。
このサービスを提供するfreeeだけでなく、このサービスの導入を検討する企業・事業者などは、個人情報保護法や事業者AIガイドライン、人事データ利活用原則などをよく検討し、法的リスクやレピュテーション・リスクなどをよく考える必要があるように思われます。
■追記(2025年12月25日)
Grayrecord Technow様が、このブログ記事を取り上げてくれています。どうもありがとうございます。
・「匿名」という名の騙し討ち:Freeeサーベイはリクナビ事件を超える最悪の「処遇AI」だ|Grayrecord Technow