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1.はじめに
2026年2月8日の衆議院選挙の大勝を受けて、高市氏は憲法改正を推進する意向を示しています。自民党ウェブサイトの憲法改正実現本部のページをみると、自民党は、①自衛隊の明記、②緊急事態対応、③合区解消、④教育充実、の4点を憲法改正すべき項目に掲げています。そこで、本ブログ記事では、まずは「自衛隊の明記」の部分を見てみたいと思います。

(関連するブログ記事)


改憲4項目
(自民党憲法改正推進本部サイトより)

2.自民党の憲法改正案の「自衛隊の明記」
上記の自民党憲法改正実現本部ページの「日本国憲法の改正実現に向けて(資料編)」によると、「自衛隊の明記」について、自民党は、憲法9条全体を維持したまま、「9条の2」として以下の条文を付け加えるとしています。

9条の2
1項 前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
2項 自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
9条の2
(自民党「日本国憲法の改正実現に向けて(資料編)」より)

3.自民党の自衛隊追記案の検討
(1)この自民党の自衛隊追記案は、以下見ていくようにさまざま問題点があると思われます。

まず、9条の2第1項の前半は、「前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず」となっており、つまり、「前条の規定は…自衛の措置をとることを妨げず」となっています。

現行の憲法9条は、1項で戦争・武力行使が禁じられ、2項では「軍」の編成と「戦力」不保持が規定されています。しかし、次の条文の9条の2で、「前条の規定は…自衛の措置をとることを妨げず」と規定されることは、9条の条文の空文化・死文化を招くことになりますが、これは憲法前文および9条が掲げる平和主義の廃止をもたらすことになり、現行憲法の原則の一つである平和主義に反します。

この点、憲法改正手続(憲法96条)を経たとしても、憲法の根本原理を根本から覆すような改正は、法的に正当化されず無効であるとする考え方が憲法学の通説です(「憲法改正の限界」)。そしてこの「憲法の根本原理」には、国民主権、基本的人権の尊重だけでなく平和主義も含まれると解されています。そのため、このように憲法9条の次に憲法9条の2の規定を置き、「前条の規定は、自衛の措置をとることを妨げず」と規定することは、憲法改正の限界を超えるものとして無効となる可能性があります。

(2)また、9条の2第1項後半の「自衛隊」については、どのような任務と権限を持った組織であるかが規定されていません。しかし、この「自衛隊」の意味する内容が条文上明確にされなくては、何をどう統制・コントロールしてよいのかが明確ではなく、立憲主義(国民の基本的人権を保障するために、憲法によって国家権力を制限し法に基づいて統治を行う考え方)の観点から大きな問題があります。

(3)さらに、9条の2第1項前半の「必要な自衛の措置」についても、その内容が条文上明確でなく立憲主義の観点から問題があります。

また、従来の政府見解は、9条2項の「戦力」の解釈として、自衛隊について「必要最小限度」の実力は許容されるとし、個別的自衛権は認容されるとの見解を採用していました。その後、2015年の安保関連法の制定により、政府は最小限度の集団的自衛権も認容されるとして現在に至っています。そのため、安保関連法の存在する現在では、自民党のこの自衛隊追記案の「必要な自衛の措置」とは、最小限の集団的自衛権を含む自衛権、あるいは制約のない集団的自衛権を含む自衛権(いわゆるフルセットの自衛権)を指すのであろうと思われます。

しかし、9条に関する憲法学においては、自衛隊を合憲とする学説においても、従来の政府見解の「必要最小限度の実力」すなわち個別的自衛権を認容するに止まるのであり、最小限の集団的自衛権を含む自衛権、あるいは制約のない集団的自衛権を含む自衛権は違憲と考えられています(長谷部恭男教授、木村草太教授など)。

したがって、9条の2第1項前半の「必要な自衛の措置」についても、憲法前文および9条の規定する平和主義の観点から大きな問題があります。

(4)加えて、9条の2第2項は、「自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。」と規定しています。しかし、国会の承認を得る手続きや、その時期(「行動」の前なのか後なのか等)、承認の対象となる事項や、「その他の統制」とは何なのか等についても条文上まったく規定がありません。これでは自衛隊を実効的に統制・コントロールすることができず、時の政権によって濫用されてしまう危険があり、これも立憲主義の観点から大きな問題があります。(「法律の定めるところにより」との文言により、憲法で規定すべき事項を法律および国会にまるごと委ねてしまうことは、立憲主義の観点から大きな問題があります。)

(また、一般の行政組織とは異なる軍事組織を新設するのですから、憲法の条文上、国会、内閣、司法の次に「自衛隊」等の章を新設し、自衛隊をどのようにコントロールしてゆくのか等を規定してゆく必要があると思われますが、自民党の資料にはその点の記述がありません。)

4.まとめ
このように、自民党の憲法改正案の自衛隊追記案の9条の2は、同1項が、現行憲法9条を「前条の規定にかかわらず」と打ち消している点で平和主義に反しており、また「自衛隊」がどのような組織であるかが明確化されておらず立憲主義に反しており、さらに「必要な自衛の措置」についても明確に条文化されておらず、立憲主義・平和主義に反しています。加えて同2項は、自衛隊がどのように統制されるのかについても明確に規定されておらず、これも立憲主義に反しています。

したがって、自民党の憲法改正案の「自衛隊の明記」は、平和主義・立憲主義に反し、また「憲法改正の限界」をも超える可能性があるものであり、政府・自民党は憲法改正の是非を含め、再検討すべきであると考えられます。

(関連するブログ記事)

・自民党憲法改正草案を読んでみた(憲法前文~憲法24条まで)
・自民党憲法改正草案を読んでみた(憲法25条~憲法102条まで)

(参考文献)
・徳島弁護士会「憲法改正問題について、9条の2を創設し自衛隊を明記する案に問題点があることを指摘し、憲法9条の改正の要否並びに改正の必要がある場合にその具体的内容について国民に熟議を促すとともに、国会に対し憲法改正手続法の見直しを求める決議」
・安倍首相の言う「自衛隊明記改憲」をまじめにシミュレーションしてみる 木村草太『自衛隊と憲法』|じんぶん堂
・木村草太『自衛隊と憲法』
・伊藤真『赤ペンチェック自民党憲法改正草案』
・小林節・伊藤真『自民党憲法改正草案にダメ出しくらわす』

増補版 自衛隊と憲法
木村草太
晶文社
2022-07-08


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