1.はじめに
自民党は、①自衛隊の明記、②緊急事態対応、③合区解消、④教育充実、の4点を憲法改正すべき項目に掲げています。そこで、本ブログ記事では、「合区解消」(一票の格差(合区解消・地方公共団体))の部分を見てみたいと思います。


「地方の声が届かないから、合区をやめるべきだ」  

そう言われると、たしかに合区解消は必要な改革のように思えます。
しかし、選挙制度は“誰の一票も同じ価値を持つべきだ”という憲法の大原則の上に成り立っています。自民党案は、この原則とどのように関わるのでしょうか。

(関連するブログ記事)
・自民党の憲法改正案の「自衛隊の明記」について
・自民党の憲法改正案の「緊急事態対応」について
・自民党の憲法改正案の「一票の格差(合区解消・地方公共団体)」について
・自民党の憲法改正案の「教育充実」について

2.自民党の改憲案
自民党の「日本国憲法の改正実現に向けて(資料編)」2頁によると、「一票の格差(合区解消・地方公共団体)」の条文案はつぎのようになっています。

条文案
(自民党「日本国憲法の改正実現に向けて(資料編)」2頁より)

条文案について自民党は「日本国憲法の改正実現に向けて(解説)」8頁で、つぎのように説明しています(抜粋)。

「一票の格差をできるだけ少なくすることは憲法14条の「法の下の平等」の要請だが、これを徹底すると、過疎化の進展による人口減少が著しい地域では、選挙区が広域となり身近な議員を出せなくなってしまう。これは衆議院・参議院に共通する問題である。この問題が大きく表れたのが現在、参議院議員選挙に導入されている合区であり、身近な代表を出せないことで地域の民意の反映が著しく阻害される。

「そこで、一票の格差の問題については、投票価値の平等の確保に偏ってしまっている現在のアンバランスを解消するため、国会の章(第4章)の選挙に関する事項を定める規定(47条)において、人口を基本としつつも、行政区画、地域的な一体性、地勢等を総合的に勘案する旨、明記し、地域の民意を適切に反映できる選挙制度が構築できるようにする。特に、参議院議員の選挙については合区を解消できるよう憲法上、担保する。併せて、地方自治の章(第8章)において、基礎自治体と広域自治体を明確に位置付ける。これにより、地域の民意の基盤として広域自治体を位置付け、広域自治体を参議院の選挙区と定める根拠とする。」
(「日本国憲法の改正実現に向けて(解説)」8頁より(抜粋))

この条文案および説明についてはどのように考えるべきなのでしょうか。

3.一人一票の原則
(1)憲法学説
自民党の改憲案は、合区解消などのために選挙における一人一票の原則を撤廃しようというものですが、これは平等原則に反する非常に問題のある改憲案です。

憲法学説は、選挙権の平等は、表現の自由と同様に民主政を支える重要な権利であることから、選挙権の平等の原則には投票価値の平等(=投票が選挙の結果に対して持つ影響力の平等)も含まれること、そのため、この投票価値の平等の意味は、一般の平等原則の場合の「平等」よりもはるかに形式化されたものであるとしています。

すなわち、投票価値の平等の意味は、結果の平等・実質的意味の平等ではなく、機会の平等・形式的意味の平等が非常に重視されるべき場面であり、そのため、国民の意思を公正かつ効果的に代表するために考慮される非人口的要素(例えば、行政区画を一応の前提として定められる選挙区制)は、定数配分が人口数に比例していなければならないという大原則の範囲内で認められるにすぎないとしています。そのため学説は、衆議院選挙においては1票の格差が2対1を超えることは一人一票の原則に反するとしています。(芦部信喜『憲法 第8版』149頁)

(2)判例
このような学説の考え方を受けて、最高裁は一票の格差に関する訴訟において、衆議院選挙については1対2.079の格差を合憲と判断しています(最大判令和5年1月25日)。

参議院選挙については、約1対5の格差を「違憲状態」と判断した最高裁判決(最大判平成26年11月26日)を受け、国は鳥取県と島根県、徳島県と高知県を一つの選挙区とする各選挙区とする仕組み(いわゆる「合区」)を導入したところ、格差は1対3.08となったため、最高裁はこれを合憲と判断しています(最大判平成29年9月27日)。

このように、学説だけでなく裁判所も、衆議院選挙・参議院選挙において選挙権の平等原則を非常に重視する判断を示しています。

(3)自民党の改憲案
上でみたように、選挙権の平等は、表現の自由と同様に民主政を支える重要な権利であることから、選挙権の平等・投票価値の平等の意味は、一般の平等原則の場合の「平等」よりもはるかに形式化されたものであり、つまり結果の平等(実質的平等)ではなく例えば大学入試等のような機会の平等(形式的平等)が重視されるものです。

そのため、例えば、行政区画を一応の前提として定められる選挙区制などの非人口的要素は、定数配分が人口数に比例していなければならないという大原則の範囲内で認められるにすぎないと考えられるのです。

この点、自民党の改憲案は、憲法の条文に、「行政区画、地域的な一体性、地勢等を総合的に勘案」という文言を盛り込み、また、「広域の地方公共団体のそれぞれの区域を選挙区とする場合には、改選ごとに各選挙区において少なくとも一人を選挙すべきものとする」との文言を盛り込んで「合区解消」を主張する等していますが、これは、結果の平等・実質的平等を追求して、選挙権の平等において何より重視されるべき機会の平等・形式的平等を軽視するものであり、非常に問題であり妥当でないと考えられます。

4.「全国民の代表」
(1)議会の「代表」
憲法43条1項は、「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。」と規定し、国会議員は「全国民の代表」であるとしており、自民党の改憲案は、地域の「選挙区の民意を国政に反映させる」ことばかりを重視して、国会議員が「全国民の代表」であることを軽視しすぎなのではないかと考えられます。

憲法43条1項の「全国民の代表」の意味、つまり議会の「代表」については、憲法学上、つぎの3つの考え方があるとされています。

「代表」

すなわち、「法的代表」とは、議員は選挙母体や選挙区の意見に拘束されるという近代以前的な考え方です。しかしわが国の憲法は議員は「全国民の代表」と規定しているので、この「法的代表」の考え方はとれません。

つぎに、「政治的代表」は、「議員は自己の信念に基づいてのみ発言・表決し、選挙母体の意見に拘束されない。(自由委任)」というものですが、この考え方が通説的な見解であるとされています。

さらに、第二次世界大戦以降においては、「政治的代表に加えて、国民の多様な意思をできるかぎり国会に反映する選挙制度」も重要であるとする「社会学的代表」の考え方も有力説であるとされています。(ここでいう「国民の多様な意思」とは、性別、職業、世代などであるとされています。)(芦部・前掲316頁)

(2)自民党の改憲案
ここで自民党の改憲案をみると、説明にあるように自民党改憲案は、「身近な代表を選出して地域の民意を反映させる」ことを非常に重視しています。そして、参院選挙においては合区を解消し、広域地方自治体(=都道府県と思われる)ごとに1人以上の国会議員を選出するとしていますが、これは上の3類型でみた「法的代表(命令委任)」に類似するものであり、議員は選挙母体や選挙区の意見に拘束されず、国民や国全体のことを考えて自由に意見し討論・表決を行うべきであるとする通説の「政治的代表」や有力説の「社会学的代表」の考え方に反しています。

したがって、憲法47条、92条の自民党改憲案は妥当ではないと考えられます。

5.まとめ
上でみてきたように、一票の格差(合区解消・地方公共団体)に関する自民党の改憲案は、一人一票の原則・投票価値平等の原則の観点から非常に問題であり、また、「全国民の代表」の考え方からも問題です。したがって、一票の格差に関する改憲案は妥当ではなく、自民党はこれを撤回すべきです。

(関連するブログ記事)
・自民党の憲法改正案の「自衛隊の明記」について
・自民党の憲法改正案の「緊急事態対応」について
・自民党の憲法改正案の「一票の格差(合区解消・地方公共団体)」について
・自民党の憲法改正案の「教育充実」について
・自民党憲法改正草案を読んでみた(憲法前文~憲法24条まで)
・自民党憲法改正草案を読んでみた(憲法25条~憲法102条まで)

■参考文献
・芦部信喜『憲法 第8版』149頁、316頁
・木村草太『増補版 自衛隊と憲法』193頁
・伊藤真『増補版 赤ペンチェック自民党憲法改正草案』71頁

増補版 自衛隊と憲法
木村草太
晶文社
2022-07-08




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