1.「被害女性が名乗り出ない限りセクハラを事実と認定できない」
財務省の福田淳一事務次官が新聞記者に対してセクハラを繰り返してきたと報道されている問題について、4月16日に、財務省は、「事実ではない」という報告書とともに、「被害者記者らは名乗り出て財務省の調査に協力せよ」との趣旨の文書を発表しました。

そして翌17日、麻生財務大臣は、閣議後の記者会見で、福田事務次官のセクハラ疑惑について「状況が分かるように(被害者の女性が)出てこないといけない。申し出てこないと、どうしようもない」と話し、女性が名乗り出ない限りセクハラを事実と認定できないという考えを示したとのことです。(「財務相 被害者名乗り出ないと認定できず セクハラ疑惑」毎日新聞2018年4月17日付より)

しかし、役職員のセクハラという不祥事のおそれが発覚した後の麻生大臣ら財務省の対応には疑問があります。

2.民間企業におけるセクハラ相談窓口・内部通報窓口
使用者は労働者に対して安全配慮義務を負い(労働契約法5条)、男女雇用機会均等法11条は、職場におけるセクハラ防止のために、雇用管理上必要な措置を事業主に義務付けています。男女雇用機会均等法における「労働者」には、公務員も含まれています(法2条2項)。

このような法律の規定を受けて、民間企業は、①セクハラ防止のためのポスターの掲出、②社内研修会の実施、③アンケートを実施して社内の状況を把握、④セクハラ相談窓口の設置、を実施しています。

また、2006年に公益通報者保護法(内部告発者保護法)が施行されたことを受け、民間企業は法務部門などに、内部通報窓口を設置しています。企業によっては、セクハラ相談窓口と内部通報窓口を一つにしているところもあれば、それぞれ設置しているところもあります。しかしどれも存在しないということはありえません。

そして、これらの内部通報窓口等においては、マスコミに報道されり、監督官庁から指摘を受ける前に不祥事の芽をつみ、レピュテーションの低下を回避するために、リスク情報は幅広く収集すべきであるとされ、通報者は社内の役職員に限られず、グループ会社や取引先の役職員なども含まれるべきであるとされています。

つぎに、内部通報窓口等へのアクセス方法は、通報者の選択肢を増やし、リスク情報を幅広く収集するために、面談、電話、電子メール、ファクシミリ、郵便などできるだけ広い範囲とすべきとされています。そして、通報対象の事実に関しても、法令違反に限る等と限定するのではなく、企業行動規範、社会倫理、就業規則などへの違反や、その「おそれ」も含めるべきとされています。加えて、従業員を委縮させないために、内部通報を行っても不利益処分を会社が科すことは法律で禁止されていること、内部通報制度のしくみ等を従業員向けのパンフレットやポスターなどでわかりやすく説明すべきであり、また、従業員を委縮させない観点から、匿名による内部通報も受け付けるべきであるとされています。(西村あさひ法律事務所『実例解説 企業不祥事対応』122頁)


このように、民間企業における内部告発制度においては、通報者は社内の人間に限られず、また、アクセス方法も郵送などを可とし、さらに匿名での内部通報も受け付ける実務を行っています。

3.国家公務員のセクハラ対応
国家公務員のセクハラ対応については、人事院が、「人事院規則10―10(セクシュアル・ハラスメントの防止等)の運用について」等を発出しており、各省庁に対して、セクハラ防止に関する基本方針・内部規則の策定、研修の実施、セクハラ等の苦情相談を受ける体制整備、などを各省庁の長に義務づけています(規則10-10・4条関係、8条関係)。

しかし、この人事院規則を読むと、民間企業におけるセクハラ防止への取り組みに比べ、国家公務員・人事院側に非常に「お役所的」というか、温度差を感じます。

同規則には、一応、「セクシュアル・ハラスメントの態様等によっては信用失墜行為、国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行などに該当して、懲戒処分に付されることがある。」との規定も存在しますが(別紙1・第1・4)、セクハラの苦情相談の対応の規定を読むと、とにかく被害者から事実を詳細に聞き出し、間違いがないか確認を求める構成となっており、被害者の基本的人権や精神的苦痛への配慮は二の次のようです。

逆に、「加害者には十分に弁明の機会を与える」「セクハラの程度が軽い場合は、加害者本人からの聴取は行わない」など、あたかもセクハラは被害を訴える側が悪く、加害者側は悪くないという前提のうえでこの人事院規則が作られているようにも読めます(別紙2・第2・第3)。

4.まとめ
このように、民間企業におけるセクハラへの取り組みに比べると、もともと国家公務員・各省庁のセクハラへの取り組みはレベルがやや低いようです。

とはいえ、財務省の4月16日付の報告書によると、福田事務次官は「女性が接客するような店舗ではそのような発言をすることもある」「話し相手からそのような話題を振られたら、応じることもある」等の趣旨の発言を調査担当者にしてはばからない人物のようであり、以前より職場の内外でセクハラ的な言動を日常的に行っていたのではないかと推察されます。

この点、男女雇用機会均等法11条がセクハラ防止の取り組みを事業所の長に義務づけていること、まがりなりにも人事院規則10-10が、各省庁の長に、セクハラ防止の各種の取り組みを求めているにもかかわらず、財務省内のセクハラ防止のための体制は長年にわたり機能不全に陥っていたのではないかと推測されます。

さらに、「被害者が申し出てこないことには事実を認めるわけにはいかない」「福田事務次官には人権はないのか」などと発言する麻生財務大臣は、男女雇用機会均等法などのセクハラ関連の法令の趣旨をまるで理解していないとしか思えません。事業所内でセクハラの芽をつめず、週刊誌に事務次官のセクハラ問題をスクープされ、自省のレピュテーションをさらに低下させた財務省の不祥事対応・危機管理対応は、最悪といえます。

なお、「1億総活躍」とか「女性活躍」などと昭和の臭いがする政策を掲げるのも結構ですが、その前に、政府・与党の首脳陣は、自分たちがどんなに一般国民の社会倫理・モラルの感覚からずれているか、把握すべきであると思われます。

■関連するブログ記事
・財務省の福田事務次官がセクハラを否定ー取引先からのセクハラ

■参考文献
・菅野和夫『労働法 第11版補正版』240頁、263頁
・西村あさひ法律事務所『実例解説 企業不祥事対応』122頁
・戸塚美砂『管理者のためのセクハラ・パワハラ・メンタルヘルスの法律と対策』182頁、186頁