1.「百合展2018」の開催を池袋マルイが拒否
少し前ですが、本年春に「百合展2018」が開催される予定であったところ、その会場であったファッションビルなど小売業の池袋マルイがこれを拒否し、同展の東京での開催が一時宙に浮くという事態が発生し、ネット上で話題となりました。

ネット記事などによると、「百合展」とは女性同士の友情や愛情をテーマに、漫画家・イラストレーターや写真家が出展するというイベントです。ところが、池袋マルイは、本展示に先立って同店で3月9日より開催予定だった、「ふともも写真の世界展 2018 in 池袋マルイ」も諸事情を理由として突如中止し話題となっていました。そして池袋マルイは、「ふともも写真の世界展 2018」に出展予定だった作家と同じ作家が参加予定であることを理由として、「百合展2018」の開催も拒否したとのことです。

・池袋マルイで開催予定だった「百合展2018」が中止に|ねとらぼ

しかし、少し前に展示を拒否した展示と同じ作家が含まれているという漠然とした理由で、別の展示も拒否するということは、池袋マルイが民間企業であることを差し引いても許容されるのでしょうか?

2.民間施設における集会の自由・表現の自由-プリンスホテル事件
(1)公の施設の場合
従来、ある施設における表現の自由・集会の自由(憲法21条1項)への制約は、自治体の公民館などの「公の施設」を舞台として裁判において争われてきました。

そのようななか、泉佐野市民会館事件(最高裁平成7年3月7日判決)は、自治体が住民からの集会の申請を拒否できるのは、「集会の自由の保障の重要性よりも…集会が開かれることによって人の生命、身体または財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し防止する必要性が優越する場合に限られる」とし、その危険性の程度は、「明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されること」と厳格な判断を示しました。(ただし判決は住民側の敗訴。)

このように、裁判所は、表現の自由・集会の自由が自己実現・自己統治のためにとりわけ重要な基本的人権であることを重視し、表現の自由・集会の自由への制約には厳しいハードルを課しています。そして泉佐野市民会館事件のあと、上尾市福祉会館事件においても同様の判断が示されています(最高裁平成8年3月15日判決)。

(2)民間施設の場合-プリンスホテル事件(東京高裁平成22年11月25日判決・確定) そのようななか、平成22年には、民間企業であるプリンスホテルに関しても、上の判例の考え方を維持した判決が出され注目されました。

この事件は、日教組が全国大会を開くため、プリンスホテルと、ホールと客室を借りる契約を締結していたところ、プリンスホテルが「他のお客様にご迷惑となる言動」との同社の会場利用規約の条項を理由として、日教組との契約を解除したため訴訟となったものです。

本高裁判決は、

「本件使用拒否は、…本件各集会の中止を余儀なくさせるものであって…違法であることは明白であり、かつその違法性は著しく、不法行為にも当たる」とし、また、「規約に定める「他のお客様のご迷惑となる言動」とは、法令又は公序良俗に違反する行為に準ずる程度の不利益をほかの利用客に与える行為であると解するのが相当…本件各集会を開催したとしても、そのような程度の不利益が他の利用客に生じると認めるに足りる的確な証拠はない

と判示し、プリンスホテル側の主張を退けました。

このように、自治体の公民館などのような公の施設だけでなく、民間企業のホールなどの利用においても、裁判所が集会の自由・表現の自由を重視していることが注目されます。

3.まとめ
本高裁判決に照らしても、池袋マルイは、「百合展」が開催されることにより「法令又は公序良俗に違反する行為に準ずる程度の不利益をほかの利用客に与える行為」が発生するという証拠を示せない限りは、その開催拒否は債務不履行(民法415条)だけでなく不法行為(709条)に該当することになります。

そのため、「以前拒否した展示と同じ作家が参加している」という漠然とした理由で池袋マルイが「百合展」を拒否したことは、作家達の集会の自由・表現の自由を不当に軽んじる、 債務不履行または不法行為に該当する違法な対応であるといえます。

また、最近は、渋谷区や世田谷区など全国で、同性パートナーシップ協定条約が相次いで制定されるなど、同性パートナーやLGBTの問題についても、社会の理解が進みつつあります。そのようななかファッション小売業などを営むマルイが、このような社会の変化に鈍感な経営判断を行ったことは、残念な事例であると思われます。

■関連するブログ記事
・集会の自由 プリンスホテル日教組会場使用拒否事件(東京高裁平成22年11月25日)
・渋谷区、世田谷区でパートナーシップ証明条例等が成立

■参考文献
・野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅰ 第4版』349頁
・松田浩「プリンスホテル日教組大会会場使用拒否事件控訴審判決」『平成23年重要判例解説』24頁