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カテゴリ: 憲法

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本日(2022年9月20日)の内閣府などのプレスリリースなどによると、次世代医療基盤法の認定事業者ライフデータイニシアティブがデータを委託しているNTTデータが、約9万5千件の医療データを本人への通知なく収集していたとのことです。内閣府などのプレスリリースによると、原因はNTTデータのプログラムの不備であるそうです(次世代医療基盤法では患者本人への第三者提供等の「通知」が必要なところ、その通知が行われていない患者の医療データをNTTデータが誤って収集していた)。言うまでも無く医療データは要配慮個人情報であり、これは重大なインシデントであると思われます。
・次世代医療基盤法の認定事業者による医療情報の不適切取得事案について(PDF)|内閣府

内閣府リリース
(内閣府のプレスリリースより)

ライフデータイニシアティブおよびNTTデータのサイトのプレスリリース
・次世代医療基盤法に基づく認定事業における不適切な情報の取得に関して(PDF)|ライフデータイニシアチブ・NTTデータ

LDIプレスリリース
(LDIプレスリリースより)

NTTデータのプレスリリース
・次世代医療基盤法に基づく認定事業における不適切な情報の取得に関して|NTTデータ

なお、9月15日の個人情報保護委員会の会議はこの次世代医療基盤法の事故の件だったようです。
・第216回 個人情報保護委員会|個人情報保護委員会
PPCリリース
(個人情報委員会のプレスリリースより)

次世代医療基盤法とは、国民個人のカルテや処方箋、各種検査結果などのセンシティブな個人情報である医療データを国が認定した事業者(LDI)が一元的に収集し、当該医療データをIT企業や製薬企業などに第三者提供し、AI分析などで研究開発等を行わせて、日本の経済発展の起爆剤にしようという内容の法律です。

次世代医療基盤法
(内閣府サイトより)

次世代医療基盤法は、センシティブ情報である患者の医療データの収集や第三者提供を行うものなのに、通知を受けた患者本人からの「拒否」がない限りは患者本人の医療データは第三者提供等がなされているなど、さまざまな問題をはらんでいます(水町雅子『Q&Aでわかる医療ビッグデータの法律と実務』6頁)。

今回の個人情報の事故は、その通知の取扱いすら不備があったという点で重大な個人情報のインシデントであると思われます。

■関連する記事
・健康保険証のマイナンバーカードへの一体化でカルテや処方箋等の医療データがマイナンバーに連結されることを考えた
・「内閣府健康・医療戦略推進事務局次世代医療基盤法担当」のPPC・令和2年改正個人情報保護法ガイドラインへのパブコメ意見がいろいろとひどい件
・スーパーシティ構想・デジタル田園都市構想はマイナンバー法・個人情報保護法や憲法から大丈夫なのか?



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MEXCBTのロゴ

最近、ネット上で、文科省の学校CBTシステム(eラーニングシステム)の「MEXCBT」(メクビット)は生徒の個人情報を取り扱っていないというのは本当なのか?とちょっとした話題になっています。

このMEXCBTは文科省サイトによると、「児童生徒が学校や家庭において、国や地方自治体等の公的機関等が作成した問題を活用し、オンライン上で学習やアセスメントができる公的CBT(Computer Based Testing)プラットフォームである「文部科学省CBTシステム(MEXCBT:メクビット)」の開発・展開を進めています。」というもので、要するにeラーニングのシステムのようです。
・文部科学省CBTシステム(MEXCBT:メクビット)について|文科省

メクビットの概要
(文科省「MEXCBTについて」より)

ところで文科省サイトの解説ページのQAをみると・・・

Q1-8. MEXCBT を活用する際の児童生徒の個人情報の取り扱いはどうなっていますか。
A. MEXCBT は児童生徒の氏名等の個人情報は扱いません。詳細は利用申込フォームの「<留意事項>●MEXCBTにおける情報の取扱いについて」をご参照ください。
メクビットQA1-8
(文科省サイトの解説ページのQAより)

と、「MEXCBTでは児童生徒の個人情報は取り扱わない」と説明されています。

また、「文部科学省CBTシステム運用支援サイト」のQAも、「MEXCBTは、児童生徒の氏名等の個人情報は扱いません。」としています。

メクビットは個人情報を取り扱っていますか
(文部科学省CBTシステム運用支援サイトより)

しかしこの「MEXCBTは個人情報を取り扱っていますか」のページをざっと読んでも、MEXCBTは生徒に「児童生徒0001」などの一人一アカウントを割り振って管理を行っていること、また生徒の答案や解答、成績などのデータを収集・保存・利用・分析等することが書かれています。

このブログでは何度も取り上げているように、個人情報とは「個人に関する情報」であって、氏名、住所・・・「その他の記述により特定の個人を識別できるもの」です。そして容易に参照できる場合にも個人情報に含まれます。(個人情報保護法2条1項1号。)ここでいう「特定の個人を識別できる」とは、当該個人の氏名などが不明でも構わないものであり、「あの人、この人」と個人を識別できれば要件を満たします。

つまり、MEXCBTは仮に生徒の氏名・住所などは登録・管理していないとしても、アカウントで生徒個人を管理しており、さらにそれぞれの生徒の解答や成績などのデータを収集・保存などしているのですから、それらのデータは「個人に関する情報」であって、かつそれらのデータにより「あの人、この人」と特定の個人を識別できるので、やはりMEXCBTは個人情報・個人データを取り扱っていると考えるのが自然なのではないでしょうか。

(あえて言えば、生徒の氏名等を管理していないので「仮名加工情報」的に個人情報・個人データを取り扱っているといえますが、しかし仮名加工情報も個人情報・個人データに含まれます(法2条5項)。)

MEXCBTが個人情報・個人データを扱っているということになれば、第一に当該システムの運営主体である文部科学省は生徒や保護者などに対してプライバシーポリシーを作成して個人情報の利用目的などを通知・公表する義務を負います(法62条)。そうでなければ「偽りその他不正の手段による個人情報の収集」として違法となる可能性があります(法64項)。また、文科省が必要最小限の個人情報を持つことを規律するために、利用目的はできるだけ特定されなくてはなりません。「GIGAスクール構想のため」などの漠然とした利用目的は違法のおそれがあります(法61条1項)。

第二に、文科省はMEXCBTで収集した個人データで生徒をプロファイリングして不当に差別・選別等することは不適正利用の禁止に抵触して違法となるおそれがあります(法63条)。加えて、文科省はこのMEXCBTについて個人データが滅失・棄損・漏洩などが発生しないように安全管理措置を講じる義務を負い、システムの運用等を民間企業等に委託する場合には委託先の監督も義務付けられます(法66条)。

第三に、文科省は生徒や保護者等から生徒の個人データの開示請求・訂正・利用停止請求などがあった場合にはこれに応じる義務があるので、その手続き等についてもプライバシーポリシーに明示が必要です(法76条以下)。あわせて文科省はMEXCBTで収集した個人データについて、原則として生徒や保護者の同意のない目的外利用や第三者提供は禁止されます(法69条)。

第四に、2022年の個人情報保護法改正で、個人情報保護委員会は行政機関等に対しても個人情報の取扱いに関して報告徴求や立入検査、行政指導などを実施することができるようになりました(法153条、154条)。そのため、個人情報保護委員会は、MEXCBTやGIGAスクール構想、「行政の保有する子どもの個人データの共有プラットフォーム構想」などにおける個人情報の取扱いに関して、文科省やデジタル庁、子ども家庭庁などに対して、報告徴求や立入検査などを実施し、行政指導などを行うべきではないでしょうか。

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■参考文献
・岡村久道『個人情報保護法 第4版』624頁、457頁

■関連する記事
・デジタル庁「教育データ利活用ロードマップ」は個人情報保護法・憲法的に大丈夫なのか?
・文科省が小中学生の成績等をマイナンバーカードで一元管理することを考える-ビッグデータ・AIによる「教育の個別最適化」
・小中学校のタブレットの操作ログの分析により児童を評価することを個人情報保護法・憲法から考えた



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mynumber_people
1.はじめに
マイナンバー訴訟について、国民のプライバシー権(憲法13条)を侵害するものではないとする仙台高裁令和3年5月27日判決が『判例時報』2516号(2022年6月21日号)26頁に掲載されていました。ざっと読んでみたのですが、行政運営の効率化等の制度の目的は適法であり、法制度および情報システム技術上も相応の安全管理の対策が講じられているのでマイナンバー制度は違法・違憲ではないとの住基ネット訴訟(最高裁平成20年3月6日判決)のいわゆる「構造審査」を踏襲した判決となっているようです。本判決は結論は妥当であると思われますが、いくつか気になった点を見てみたいと思います。

・仙台高裁令和3年5月27日判決(令和2(ネ)272・各個人番号利用差止等請求控訴事件)|裁判所

判示事項の要旨
  控訴人らは,国のマイナンバー制度により憲法13条の保障するプライバシー権が侵害されると主張し,被控訴人国に対し,プライバシー権に基づく妨害排除又は妨害予防請求として個人番号の収集,保存,利用及び提供の差止め並びに削除を求め,国家賠償法1条1項に基づき各11万円(慰謝料10万円及び弁護士費用1万円)の損害賠償と訴状送達の日の翌日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

 マイナンバー制度によって,控訴人らが,憲法13条によって保障された「個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由」を侵害され,又はその自由が侵害される具体的な危険があるとは認められないから,国がマイナンバー制度により控訴人らの個人番号及び特定個人情報を収集,保存,利用及び提供する行為が違法であるとは認められない。

 よって,プライバシー権に基づく妨害排除又は妨害予防請求として控訴人らの個人番号の収集,保存,利用及び提供の差止め並びに削除を求め,これらの行為による損害の賠償を求める控訴人らの請求は,国による個人番号の収集,保存,利用及び提供の行為が,控訴人らのプライバシー権を侵害する違法な行為であるとは認められないから,すべて理由がない。
(仙台高裁令和3年5月27日判決の判示事項。裁判所サイトより)

2.事案の概要
本件は、仙台市等に在住する8名の個人(Xら)が国のマイナンバー制度によりプライバシー権(憲法13条)が侵害されているとして、プライバシー権に基づく妨害排除又は妨害予防請求権として個人番号の収集・保存・利用及び提供の差止めと個人番号の削除を求めるとともに、国賠法1条1項に基づき慰謝料10万円と弁護士費用の損害賠償を求めるものです。Xらはプライバシー権の侵害とともに、自己情報コントロール権の侵害、またマイナンバー制度による個人情報の容易かつ確実な名寄せ・突合(データマッチング)により本人の関与のないままにその意に反して個人像が作られる危険があること等を主張しました。

3.判旨(仙台高裁令和3年5月27日判決・棄却・上告中)
(1)マイナンバー制度の趣旨目的、しくみ等について
本判決は、マイナンバー制度の趣旨目的について「行政機関…が個人番号…の有する特定の個人を識別する機能を活用し…行政運営の効率化及び行政分野におけるより公正な給付と負担の確立を図」るものであるとしています。

そして本判決は、個人番号および特定個人番号(個人番号を含む個人情報)の提供等ができる範囲は、「国・地方の機関での社会保障分野、国税・地方税の賦課徴収および防災に係る事務での利用」等に限定されているとしています。

(2)情報漏洩等を防止するための法制度上の措置
本判決は、情報漏洩等を防止するための法制度上の措置として、個人番号利用事務等実施者による個人番号の漏洩等を防止するために必要な措置(安全管理措置)の実施義務付け、行政機関等による情報提供の記録・保存の義務付け、情報連携が実施された際の記録を本人が確認するためのマイナポータルの設置、総務省等による秘密の管理のために必要な措置の実施義務付け、罰則の準備などの法制度上の措置が講じられていることを判示しています。

また、情報漏洩等のリスクを防ぐために、マイナンバー制度は個人情報を集中的に管理するのではなく、情報の分散管理などのシステム技術上の措置が講じられているとしています。

(3)マイナンバー制度の運用によるプライバシー侵害の有無
本判決は、「何人も個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由」としてのプライバシー権を有するところ、Xらは、「マイナンバー制度の目的はこのようなプライバシー権を制約するための目的として、高度に重要であるとはいえない」と主張しているとしてその検討を行っています。

そしてマイナンバー制度は「社会保障・税制度の効率性・透明性を高め、国民にとって利便性の高い公平・公正な社会を実現するための社会基盤を構築するため」のものであるとして、重要性がないとはいえないとして、Xらのプライバシー権に関する主張を退けています。

(4)自己情報コントロール権について
Xらはマイナンバー制度は自己情報コントロール権の侵害であるとの主張も行っていますが、本判決は、「Xらの主張する自己情報コントロール権については、マイナンバー制度の運用によってXらの同意なく個人番号や個人番号に結び付いた特定個人情報を第三者に提供することが、すべて自己情報コントロール権の侵害となり、憲法13条の保障するプライバシー権の侵害にあたるという趣旨の主張であるとすれば、原判決「事実及び理由」第3の1の説示のとおり、そのような意味内容を有する自己情報コントロール権までは、憲法13条の保障するプライバシー権として認められるとは解されない。」と判示しています。

(5)マイナンバー制度によるプライバシー侵害の具体的な危険性について
本判決は、「マイナンバー制度で取り扱われる個人情報のなかには所得や社会保障の受給歴など秘匿性の高い情報も含まれること」や、「様々な個人情報が個人番号をキーに集積・集約されて本人が意図しない形で個人像が構築されるデータマッチングの危険」などがあることを認定しています。

しかし本判決は、「Xらが…プライバシー権に基づく妨害予防又は妨害排除請求として、Xらの個人番号の収集、保存、利用及び提供の差止め並びに削除を求め、これらの行為による損害の賠償を求め…るには、国がマイナンバー制度の運用によってXらの個人番号の収集、保存、利用及び提供をすることが違法であるといえる必要があり、制度の運用に…具体的な危険が生じているといえる必要がある」としています。

その上で本判決は、「マイナンバー制度は正当な行政目的の範囲内で行われるように制度設計がなされている」とし、さらに「法制度上も、システム技術上も、相当の措置が講じられている」としています(=「構造審査」)。

とはいえ本判決は「通知カードや個人番号カードが誤交付された事例」があることや、「平成30年分の公的年金等の受給者の扶養親族等申請書記載の個人番号を含む個人情報…が中国のインターネット上に流出し、自由に閲覧できる状態になっていた事故事例も発生している」と認定しています。

しかし本判決は、これらの事故事例は「人為的な誤りや不正行為に起因するものであり、番号利用法の法制度上又はシステム技術上の不備そのものに起因するものとはいえない」と判示していますが、この点については、法制度上又はシステム技術上の不備と人為的なミス等を分離して考えてよいのか疑問が残ります。

その上で本判決は、「Xらの懸念する個人情報の不正な利用や情報漏洩の危険性が一般的抽象的には認められるとしても、…具体的な危険を生じさせる…ということはできない」として、結局、「国がマイナンバー制度によりXらの個人番号を収集、保存、利用及び提供する行為が違法であるとは認められず、マイナンバー制度やこれを定めた番号利用法が憲法13条に違反してプライバシーの権利を侵害するものとは認められない」としてXらの請求を棄却しています(上告中)。

4.検討
(1)自己情報コントロール権について
1970年代以降のコンピュータの発達を受けて、憲法学の学説においては、プライバシー権を「一人でほっておいてもらう権利」(古典的プライバシー権)としてだけでなく、「個人の私生活上の事項を秘匿する権利を超えて、より積極的に公権力による個人情報の管理システムに対して、個人に開示請求、修正・削除請求、利用停止請求といった権利行使が認められるべきである」とする見解(自己情報コントロール権)が有力に展開されています。しかしこの権利は包括的である一方で、漠然性が高く法的な要件化が困難であるとの批判もなされています(渡辺康行・宍戸常寿・松本和彦・工藤達朗『憲法1基本権』121頁)。

ところで本判決は上の3.(4)の部分によると「原判決「事実及び理由」第3の1の説示のとおり」と述べているので、原判決(仙台地裁令和2年6月30日判決)の該当部分をみると、憲法12条、13条の条文がコピペされ、「憲法が国民に保障した権利が「公共の福祉」により制約されることを認めているから、個人に関する情報に係る国民の権利についても「公共の福祉」によって制約されることを認めていると解される」として自己情報コントロール権を否定しています。

しかしこれはやや乱暴な判示のように思われます。つまり、憲法12条、13条の「公共の福祉」による基本的人権とは、原則として「国民・個人の基本的人権は絶対無制限なものではなく、他の個人の基本的人権と衝突する限度において制約される」というものです(内在的制約説)。

ところが仙台地裁の原判決は、この憲法12条、13条を「国家が法律で制約さえすれば国民の基本的人権は制限できる」という意味で「公共の福祉」という用語を使用しているように見えますが、これはまるで明治憲法の「法律の留保」と同様の理解のようであり、現行憲法の理解として疑問が残ります。現行憲法は明治憲法と異なり天皇主権(政府主権)ではなく国民主権(現行憲法1条)であり、また国民の個人の尊重と基本的人権の確立という目的のために行政などの統治機構は手段として存在する構造をとっています(11条、97条)。

そのため、政府・国会が企画・立案して制定した「社会保障・税制度の効率性・透明性を高め、国民にとって利便性の高い公平・公正な社会を実現するための社会基盤を構築するため」のマイナンバー制度を国民はありがたく推し戴くべきであり、そのためには当然に国民の基本的人権は制限されるという考え方は明治憲法に先祖返りするようなもので疑問が残ります。

この原判決の考え方を是認した仙台高裁の本判決を含め、裁判所は自己情報コントロール権についてより精密な判断を行うべきではないかと思われます。本判決はせっかく国民本人に勝手に公権力が個人番号をキーにして個人情報を名寄せ・突合して個人像を作成してしまうデータマッチング、あるいはプロファイリングの危険性については認めたのですから、「自己の情報の開示・非開示、そして開示する場合はその内容について相手に応じて自分が決定できる」という自己情報コントロール権についてより精密な検討を行ってほしいと思います。

(2)個人情報漏洩事故は人為的なミスに過ぎないのか?
また、本判決は上の3.(5)でみたように、全国で発生している通知カードや個人番号カードの誤交付や漏洩などは「人為的なミス」に過ぎないとして、マイナンバー制度は「法制度やシステム技術」に準備された各種の措置には落ち度はないので制度として問題ないと強調しています。

しかし、マイナンバー法は委託・再委託の規律(法10条、11条)や個人番号利用事務等実施者に安全管理措置を義務付け(法12条)、総務大臣などに秘密の管理のために必要な措置の実施を義務付け(法24条)などの法的規定を置いており、それを受けてシステム上の措置として、情報提供ネットワークシステムにおけるアクセス制御や地方自治体におけるシステムのインターネットからの分離などが義務付けられているのです。

にもかかわらず全国の自治体等で通知カードや個人番号カードの誤交付や漏洩などの漏洩事故が多発し、平成30年には日本年金機構の約500万件もの大量の個人番号を含む個人情報が中国に漏洩してしまったという事件が発生していることは、人為的なミスでは済まされず、マイナンバー法の法制度やシステム技術そのものに重大な問題があると考えるべきなのではないでしょうか。

すなわち本判決が前提としている住基ネット訴訟で最高裁が示した「構造審査」は、その前提が崩れているのではないでしょうか。

最近の2022年6月にも兵庫県尼崎市で、個人番号は含まれていませんでしたが、全市民約46万件の個人情報がUSBメモリにより持ち出され漏洩した事件が起きたばかりです(ただし当該USBメモリは回収された)。にもかかわらず裁判所がマイナンバー法は法制度と情報システムがしっかりしているのだから、マイナンバー制度には問題はないと判示することは空論なのではないかとの疑問が残ります。本裁判は上告中であり、最高裁の判断が待たれます。

■参考文献
・『判例時報』2516号26頁
・渡辺康行・宍戸常寿・松本和彦・工藤達朗『憲法1基本権』121頁
・黒澤修一郎「プライバシー権」『憲法学の現在地』(山本龍彦・横大道聡編)139頁
・山本龍彦「住基ネットの合憲性」『憲法判例百選1 第7版』42頁
・仙台高裁令和3年5月27日判決(令和2(ネ)272・各個人番号利用差止等請求控訴事件)|裁判所

■関連する記事
・尼崎市が全市民46万人分の個人情報の入ったUSBメモリを紛失したことを個人情報保護法制的に考えた(追記あり)
・日本年金機構の500万人分の個人情報が中国業者に-独法個人情報保護法から考える
・デジタル庁「教育データ利活用ロードマップ」は個人情報保護法・憲法的に大丈夫なのか?
・スーパーシティ構想・デジタル田園都市構想はマイナンバー法・個人情報保護法や憲法から大丈夫なのか?
・健康保険証のマイナンバーカードへの一体化でカルテや処方箋等の医療データがマイナンバーに連結されることを考えた
・xIDのマイナンバーをデジタルID化するサービスがマイナンバー法違反で炎上中(追記あり)



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KSB瀬戸内海放送などの報道によると、本日(2022年8月30日)、香川県ゲーム条例訴訟について高松地裁で、残念ながら原告の大学生らの請求を棄却する判決が出されたとのことです。

・【速報】香川県のゲーム条例は「憲法に反しない」 原告の大学生らの訴えを退け 高松地裁|KSB瀬戸内海放送

この訴訟は、18歳未満の子どものゲームの利用は平日60分、休日90分まで、スマートフォン等の使用は午後9時または10時までを目安として家庭でルールを作り、保護者に守らせる努力義務を課すという香川県のネット・ゲーム条例は憲法違反であると香川県の当時高校生の方が訴訟を提起したものです。

報道によると、原告側の訴えは、①本条例は家庭における親の子どもの教育・しつけに関する自己決定権(憲法13条)の侵害であること、②子どものゲームやスマホの利用に関する自己決定権の侵害であること、③子ども等のゲームをする権利(憲法13条の幸福追求権から導き出される「新しい人権」)の侵害であること、④そもそも本条例はゲームやスマホを依存症とするが、それは科学的根拠が欠けていること、などの内容であったそうです。

これに対して高松地裁の本日の判決は、「医学的知見が確立したとは言えないまでも、過度のネット・ゲームの使用が社会生活上の支障や弊害を引き起こす可能性は否定できず、条例が立法手段として相当でないとは言えない」と指摘し、また、「条例は原告らに具体的な権利の制約を課すものではない」などとして、「憲法に違反するものということはできない」と、原告の訴えを退けたとのことです。(KSB瀬戸内海放送の記事より。)

この点、本判決は「努力義務にすぎないから違憲でない」としているようですが、努力義務なら憲法の定める国民の基本的人権を制限する、あるいは憲法の定める基本的人権に反するような内容の条例でも許されると考えているようですが、このような考え方には疑問が残ります。

いうまでも無いことですが、憲法は国の最高法規(憲法98条1項)であり、国の行政機関も自治体も裁判所も憲法を遵守する必要があります。国・地方の公務員や裁判官は憲法尊重擁護義務を負っています(99条)。そして日本を含む西側自由主義諸国の近代憲法は、国民の個人の尊重と基本的人権の確立が目的であり、国・自治体や裁判所などの統治機構はその手段であるという構造をとっています(11条、13条、97条)。

そのように考えると、香川県が憲法の定める基本的人権に不当な介入をし、「子供の親への愛着を育てる」などの自由主義とは相いれない家族主義的・集団主義的な思想を押し付けるかのような本条例はやはり違法・違憲と評価せざるを得ないのではないでしょうか。

また、本条例は香川県議会での審議やパブリックコメントの手続き面でも多くの問題点が指摘されていましたが、それらが裁判所で十分に審理されたのかも気になるところです。

本判決において、高松地裁は、香川県とその議会の、地方自治体の自律権あるいは地方自治(92条)を重視し、本条例を違法・違憲とはしなかったのかもしれません。しかし裁判所は"基本的人権の最後の砦"であることを考えると、香川県の子どもとその親の基本的人権を軽視した本判決には疑問が残ります。

最後に、本判決により、「努力義務であれば憲法の定める基本的人権の規定や趣旨を制約したり、それらに反するような思想を押し付ける条例も合憲である」との考え方が司法上、裁判例として定着してしまうと、他の自治体や国の政策への悪い影響がおよぶことが懸念されます。

■関連する記事
・「幸福追求権は基本的人権ではない」/香川県ゲーム規制条例訴訟の香川県側の主張が憲法的にひどいことを考えた
・香川県ネット・ゲーム依存症対策条例素案を法的に考えた-自己決定権・条例の限界・憲法94条・ゲーム規制条例



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seiji_kokkai_gijidou
1.はじめに
最近、岸田首相が新型コロナに罹患し、リモート会議などのシステムを利用して執務を行っています。また本年7月の参院選で当選した海外に居るNHK党のガーシー氏がリモート会議のシステムなどによる国会への出席の意向を示していることなど、Zoomなどのリモート会議システムによる国会は可能なのか?という問題に一部のメディアで関心が高まっているようなので、私も少し考えてみました。

2.海外の動向
海外の動向をみると、フランスの上院および下院の委員会がTixeoというシステムを利用してテレビ会議形式で委員会を開催したとのことです(投票は含まず)。またイギリスは2020年4月21日に庶民院が「ヴァーチャル議会」を全会一致で承認し、650人の議員のうちの50人のみを議会に入れ、さらに別の120人の議員がZoomによるテレビ会議を通じてリモートで議会に参加する取り組みが同年4月22日から行われているとのことです。

さらにアメリカの下院議会の議員規則委員会では、2020年5月15日に、本会議において代理人議員を通じた遠隔投票を認めるための決議が賛成多数で可決したとのことです。(小林祐紀「リモート国会」『コロナの憲法学』254頁。)

このようにG7に属する西側先進国では、フランス、イギリス、アメリカなどで先行する事例があるようですが、他の諸国は未だ検討中の段階のようです。これは、西側諸国の憲法に、議会に議員が物理的に「出席」することを前提とする条文の文言があるため、リモート議会に慎重であるためであろうと思われます。(例えばアメリカ合衆国憲法は、1条4節、修正20条に「招集」という文言があり、また1条5節には「欠席議員の出席の強制」という文言があります。)

3.日本における「リモート国会」に関する議論
日本の現行憲法も56条1項、2項などが「出席」という文言を用いており、国会議員が国会に物理的に出席することを前提に規定されています。

日本国憲法

第56条 両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
 両議院の議事は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。

(なお地方議会についても、地方自治法113条、116条等が「出席」という文言を置いています。)

リモート国会との関係で憲法56条の「出席」の文言の意味をどう解するかについて、憲法学の重鎮の一人である早大の長谷部恭男教授は、「できない、というのが私の立場です。議員が議場にプレゼント(出席)していないとだめです。」「(モニター画面によるリモート国会は、)それはリプレゼント(代表)です。憲法は国会議員について「全国民の代表」と定めています(=憲法43条1項)。議員が議場に現に出席(プレゼント)することによってはじめて、主権者たる全国民をその場に改めて現前(リプレゼント)させることができる。「出席」なき「代表」はあり得ません。議場にいるのは単なる形式で、機能的に代替できるのならリモートで構わないというのは危ない議論です。」として「リモート国会」に消極的な立場をとっています。(「(考論 長谷部×杉田)コロナ対策、「罰則」と「自由」と」朝日新聞2020年7月26日朝刊2面。)

一方、東大の宍戸常寿教授(憲法)は、「(憲法56条の要件を満たし)成立した本会議にオンライン参加しても良いのではないか。『出席』は本会議場に集まることに限らない。(議場にいない議員も)審議に参加して表決し、その様子が公開される議会制の本質的要素を満たせば、出席と見て差し支えない」として「リモート国会」に積極的な立場をとっています。(東京新聞2020年5月10日。小林・前掲253頁。)

この点、憲法は直接民主制ではなく代表制民主制を原則としており(前文1項、43条1項)、議会に議員が出席して審議を行うことを原則としています。なぜ代表民主制が原則となっているかというと、日本をはじめとする現代国家は何千人、何億人の国民がいるため規模の面で直接民主制は現実的ではないこと、国民のすべてが審議に対応することができる時間的余裕がないことなどの理由があげられます。

また、第二次世界大戦のドイツや日本を振り返ると、議会での審議には意味はない、街頭における民衆の拍手・喝采こそがデモクラシーであるとドイツの国学者C・シュミットはナチズムを支持したのに対して、ケルゼンは議会における冷静な審議が重要であると主張していました。現在から振り返ると、ケルゼンの主張が正しかったことは明らかです。つまり、少数意見にも配慮した十分な議論(熟議)を行うためには、ある一定の数のメンバーを定め一定の時間、議会などで議論を行うことが優れており、そのために西側諸国の憲法は、議会に議員が「出席」して熟議を行う代表民主制を原則としているものと考えられます。(野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅱ 第5版』9頁、杉田敦『現代政治理論 新版』149頁、163頁)

4.まとめ
このように考えると、情報システムの発達した現代社会においても議会に議員が物理的に「出席」して審議を行うことが原則であるべきである一方で、新型コロナの感染拡大など、現実に議会に議員が物理的に出席して審議を行うことが困難である事情があるような例外的な場合には、少数意見にも配慮した十分な議論・審議が行える限りにおいて、イギリスやアメリカなどのように、リモート議会・リモート国会を行うことも許容されるように思われます。

(なおNHK党のガーシー議員の事例は、新型コロナの感染拡大などで現実に国会に物理的に出席が困難な場合には該当しないので、依然として同議員は日本に戻り、国会に出席することが求められるように思われます。)

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■参考文献
・小林祐紀「リモート国会」『コロナの憲法学』254頁
・野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅱ 第5版』9頁
・杉田敦『デモクラシーの論じ方』
・杉田敦・川崎修『現代政治理論 新版』149頁、163頁
・「(考論 長谷部×杉田)コロナ対策、「罰則」と「自由」と」朝日新聞2020年7月26日朝刊2面
・東京新聞2020年5月10日



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