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とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

カテゴリ: 憲法

seiji_kokkai_gijidou

1.はじめに
NHKなどの報道によると、本日の国会で、石破首相が「企業献金禁止は企業の表現の自由を保障した憲法21条に抵触する」旨を発言したとのことです。首相の念頭にあるのは企業献金は違法ではないとした八幡製鉄事件判決(最高裁昭和45年6月24日判決)だと思うのですが、あの最高裁判決は憲法学界から批判が大きいところのはずだよなあと思い、憲法の教科書を開いてみました。

2.法人の「人」権?
そもそも企業・団体などの法人に政治活動の自由や政治的表現の自由(憲法21条1項)が認められるかが問題となりますが、人権は「個人の権利」であるからその主体は本来人間でなければならないものの、経済社会の発展にともない、法人その他の団体の活動の重要性が増大し、法人もまた人権を有する主体であると理解されるようになっています。そのため、人権の規定が「性質上可能な限り」法人にも適用されることは判例・通説の認めるところとなっています(結社の自由、信教の自由、プライバシー権など)。冒頭であげた八幡製鉄事件判決は、法人が人権を有することを正面から認めた初期の判決ですが、この点は正当であると思われます。

3.企業の政治活動の自由、企業献金への憲法学説の見解
しかし、人権は個人の権利として生成・発展してきたものですから、それを法人にも認めるとしても限定的に認めることが必要であると憲法学説はしています。つまり、法人の精神的な自由権、たとえば政治的行為の自由については、「法人の持つ巨大な経済的・社会的な実力を考慮に入れると、一般国民の政治的自由を不当に制限する効果をともなったりする等の場合がありうるので、自然人と異なる特別の規制に服すると解すべきである」と学説はしています(芦部信喜・高橋和之補訂『憲法 第8版』92頁)。

このように学説の通説的見解は考えているため、八幡製鉄事件判決が「(企業による)政治資金の寄付もまさにその自由(=政治行為の自由)の一環であり、…政治の動向に影響を与えることがあったとしても、これを自然人たる国民による寄付と別異に扱うべき憲法上の要請があるものではない」と判示して特別の制約を認めず、無制限の政治活動の自由、無制限の企業献金の自由を認めたことについては「この点で、この判決は行きすぎであり妥当ではない。」と批判しています(芦部・高橋・前掲94頁)

4.まとめ
このように、石破首相や自民党が(おそらく)八幡製鉄事件判決を念頭にして、企業献金は企業の政治活動・政治的表現の自由(憲法21条1項)の観点から許されると主張することは正当であると思われますが、しかし同判決については憲法学説から強い批判がなされていることをスルーしている点についてはややズルい、一見、憲法を持ち出して法令を重視しているように見せて、その実は憲法や法律学に誠実ではないように思われます。

法人の献金などについては、やはり「法人の持つ巨大な経済的・社会的な実力を考慮に入れると、一般国民の政治的自由を不当に制限する効果をともなったりする等の場合がありうるので、自然人と異なる特別の規制に服すると解すべきである」と考えることが妥当であるように思われます。

企業・団体献金を企業の政治的な自由・政治的表現の自由(憲法21条1項)と考えること自体は正しいとしても、それは無制限の権利ではないのであり、「公共の福祉」の観点からも何らかの法律的な規制が必要なのではないでしょうか。

■追記(2024年12月11日)
このブログ記事を書いた後に、石村修・専修大学名誉教授(憲法学)の「会社による政党への寄附-八幡製鉄事件最高裁判決・再読-」『法と民主主義』2024年5月号に接しました。同論文も「政治活動は、本質的には自然人の判断で決定されるものであり、会社が関与すればそこに利権が絡むことは必至である。」と、八幡製鉄事件判決を批判しています。

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山本龍彦先生の『アテンション・エコノミーのジレンマ <関心>を奪い合う世界に未来はあるか』(2024年8月)を購入し、さっそく山本先生と森亮二先生との対談の個人情報保護法制に関する部分を読みました。

ケンブリッジ・アナリティカ事件、リクナビ事件等のあとの、最近の生成AIの発達・普及をうけて、広告業界やプラットフォーム業界、世界や日本の個人情報はどうなってゆくのかという点が非常に興味深いと感じました。(これまでますます力を強めてきたGoogleが、chatGPT等の普及による”検索をしない世界”の到来に大いに慌てているのではないかという予測等など。)

また、日本の個人情報保護法がプロファイリングについてほとんど規制を設けていないことはやはり大問題であること、「個人を特定できるか」が重要なのではなく、事業者などが「個人の認知システムにどれだけ働きかけるか」が重要なのであることは本当にその通りだと思いました。

さらに、デジタル社会において「個人の自律性・主体性」を回復するためにはやはり自己情報コントロール権や情報自己決定権の考え方が重要だと感じました。

高木浩光氏や鈴木正朝教授などの「関係のない情報による自動処理・決定・差別の防止」の考え方ももちろん重要ですが、「関係のない情報による自動処理・決定・差別の防止」の考え方では個人の自律性・主体性の回復、もっと言えば憲法や法律学が核心の価値として掲げる、個人の尊重や個人の基本的人権の確立の価値は導き出せないように思いました。

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seiji_kokkai_gijidou

前回のブログ記事では、「憲法改正を大臣や国会議員などが主張することは憲法違反なのか?」という問題を考えてみました。
・憲法改正を大臣や国会議員などが主張することは憲法違反なのか?ー憲法99条・96条・憲法尊重擁護義務・憲法改正の限界

この問題に関連し、石村修・専修大学名誉教授(憲法学)の「憲法尊重擁護義務と最高権力者の言葉」『法律時報』89巻5号(2017年5月号)45頁を読んでみました。

同論文は、憲法尊重擁護義務(憲法99条)の条文が最高法規の章にあり、同章は97条が最高法規(=憲法)は基本的人権を中核とするものであることを宣言し、これを中心として構成される憲法が最高法規であり(98条1項)、「この憲法」を国家機関の構成員は遵守する責務(憲法尊重擁護義務)を負わねばならないと規定していることから、99条の義務は道義的な義務ではなく法的な義務であるとします。

そのため公務員が職務を遂行するにあたり憲法違反の行為があったときは、罷免その他の懲戒処分を受けることが免れないが、国務大臣等の憲法侵害行為について弾劾制度が設けられていないのは、憲法および法律の重大な欠陥であるとします。

とはいえ現行制度上も、内閣総理大臣や国務大臣が憲法侵害行為を行った場合には、政治的には内閣不信任決議や問責決議がなされ、司法的にも行政訴訟により責任を問う余地があるとします。(同論文は、国会法の改正により国務大臣の弾劾制度の創設を提言しています。)

その上で、同論文は、内閣総理大臣が憲法改正を提言できるかについては、96条の文言から消極的に解すべきであること(96条には国会議員の文言はあるが総理大臣の文言はない)、96条にある国会議員は、憲法改正提案権の範囲内で99条から離れると考えられるが、しかしその場合でも憲法改正の限界はある、としています。(石村修「憲法尊重擁護義務と最高権力者の言葉」法律時報89巻5号(2017年5月号)45頁より)

このように、憲法尊重擁護義務の法的義務性を重視する考え方によれば、内閣総理大臣が憲法改正を提言できるかについては、96条の文言から消極的に解すべきであること、ただし国会議員は憲法改正を提言できること、しかしその憲法改正の内容が憲法改正の限界を超える場合には、前回のブログ記事でふれたとおり、やはりその憲法改正は無効なものとなるということになるようです。

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seiji_kokkai_gijidou
1.憲法改正を政治家が主張することは憲法違反?
最近、X(旧Twitter)上で、「憲法改正を大臣や国会議員などの政治家が主張することは憲法違反(憲法99条)なのか?」という論争が起きているようです。

例えばこの投稿はリプ欄で賛成・反対多くの論争を巻き起こしているようです。

Drナイフ投稿
(Dr.ナイフ氏(@knife900)の投稿より)

2.憲法96条・99条
この憲法上の論点を考える上で、まず前提として、憲法は憲法改正(96条)の規定と憲法尊重擁護義務(99条)の規定を置いています。

憲法
第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ

つまり、憲法上には憲法改正の規定がある一方で、国務大臣、国会議員、公務員等は憲法尊重擁護義務が課されているのですが、憲法改正との観点ではこの両者をどのように考えるべきなのでしょうか?

3.憲法学的には
この点、憲法の教科書はつぎのように解説しています。

「確かに、憲法自身が改正手続を定めている以上、憲法改正を主張することは(憲法尊重)尊重擁護義務に反するものではない。しかし、国務大臣が憲法の規定や精神に反する立場を明らかにし、その改正を主張・唱道することによって、憲法および法令に従って行われるべきその職務の公平性に対する信頼を疑わしめる結果となるような場合には、本条の義務違反の問題となる。」
『基本法コンメンタール憲法 第5版』446頁(畑尻剛執筆部分)
つまり、「憲法自身が憲法改正手続の規定をおいている以上、憲法改正を主張すること自体は憲法尊重尊重擁護義務に反するものではない。しかし、国務大臣が憲法の規定や精神に反する立場を明らかにし、その改正を主張・唱道することによって、憲法および法令に従って行われるべきその職務の公平性に対する信頼を疑わしめる結果となるような場合には、本条の義務違反の問題となる」というのが、この論点に対する憲法学の考え方のようです。

なお、憲法改正には「憲法改正の限界」、つまりかりに憲法改正手続きによっても許されない限界があり、憲法の基本原則つまり国民主権、基本的人権の確立、平和主義、立憲主義、憲法改正手続などを侵害する憲法改正は「憲法改正の限界」に抵触し無効であるというのが憲法学上の通説です(芦部信喜・高橋和之補訂『憲法 第7版』409頁)。そのため、国民主権、基本的人権の確立、平和主義、立憲主義や基本的人権を大きく制約するような憲法改正を大臣や国会議員が主張したり実行することは憲法96条、99条違反になると考えられます。

4.まとめ
すなわち、「憲法自身が憲法改正手続の規定をおいている以上、憲法改正を主張すること自体は憲法尊重尊重擁護義務に反するものではない。しかし、国務大臣などが憲法の規定や精神に反する立場を明らかにし、その改正を主張することによって、憲法および法令に従って行われるべきその職務の公平性に対する信頼を疑わしめる結果となるような場合には、本条の義務違反の問題となる。国民主権、基本的人権の確立、平和主義、立憲主義や基本的人権を大きく制約するような憲法改正を大臣や国会議員が主張したり実行することは憲法96条、99条違反になる」というのが、この論点に対する憲法学上の考え方になるように思われます。

■関連するブログ記事
・(続)憲法改正を大臣や国会議員などが主張することは憲法違反なのか?ー憲法99条・96条・憲法尊重擁護義務・憲法改正の限界

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個人情報保護委員会が『個人情報保護法いわゆる3年ごと見直しに係る検討の中間整理』のパブコメを2024年7月29日まで実施しているので、つぎのとおり意見を書いて送ってみました。

1.生体データについて
(該当箇所)
「要保護性の高い個人情報の取扱いについて(生体データ)」(中間整理3頁~4頁)
(意見)
生体データも要配慮個人情報に含め、その取得には本人同意を必要とすべきである。
(理由)
個人情報のなかでも生体データの要保護性は高いと考えられるから、自己情報コントロール権(情報自己決定権、憲法13条)の観点からは、生体データについても要配慮個人情報(個情法2条3項)に含め、その取得には本人同意を必要とするべきである。かりにそれができない場合には、柔軟なオプトアウト制度の導入など、本人関与の仕組みを強化すべきである。

2.従業員の生体データのモニタリング
(該当箇所)
「不適正な利用の禁止」「適正な取得」の規律の明確化(「中間整理」4頁~6頁)
(意見)
使用者がパソコンやプログラム等を利用して従業員の生体データや集中度などを監視・モニタリングすることは個情法19条、20条違反であることを明確化すべきである。
(理由)
近年、使用者がパソコンやプログラム等を利用して従業員の脳波や集中度などを監視・モニタリングしている事例が増えているが(「東急不動産の新本社、従業員は脳波センサー装着」日本経済新聞2019年10月1日付、日立の「ハピネス」事業など参照)、このような従業員の監視・モニタリングは労働安全衛生法104条違反であるだけでなく、これがもしEUであればGDPR22条違反であり、さらに従業員の「自らの自律的な意思により選択をすることが期待できない場合」に該当するので、個情法19条、20条に抵触して違法であることをガイドライン等で明確化すべきである。

3.生徒・子どもの生体データのモニタリング
(該当箇所)
「不適正な利用の禁止」「適正な取得」の規律の明確化(「中間整理」4頁~6頁)
(意見)
学校・教育委員会等がパソコン・タブレットやウェアラブル端末等を利用して生徒・子どもの生体データや集中度などを監視・モニタリングすることは個情法19条、20条違反であることを明確化すべきである。
(理由)
近年、学校・教育委員会等がタブレット・パソコンやウェアラブル端末等を利用して生徒・子どもの生体データ等から集中度などを監視・モニタリングしている事例が増えているが(「「聞いてるふり」は通じない? 集中しない生徒をリアルタイムで把握 教員からは期待、「管理強化」に懸念も」共同通信2023年6月21日付、デジタル庁「教育データ利活用ロードマップ」など参照)、このような生徒・子どもの生体データの監視・モニタリングは、これがもしEUであればGDPR22条違反であり、さらに生徒・子どもの「自らの自律的な意思により選択をすることが期待できない場合」に該当するので、個情法19条、20条に抵触して違法であることをガイドライン等で明確化すべきである。

4.電話番号、メールアドレス、Cookieなどの個人関連情報について
(該当箇所)
「不適正な利用の禁止」「適正な取得」の規律の明確化(「中間整理」4頁~6頁)
(意見)
電話番号、メールアドレス、Cookieなどの情報も個人関連情報とするのではなく、個人情報に該当するとすべきである。
(理由)
電話番号、メールアドレス、Cookieなどの情報も、多くの場合、特定の個人を追跡可能であり、ターゲティング広告等により当該個人の自由な意思決定に影響を及ぼし得るのであるから、電話番号、メールアドレス、Cookieなどの情報も個人関連情報とするのではなく、個人情報に該当するとすべきである。

5.プロファイリングと不適正利用
(該当箇所)
「不適正な利用の禁止」「適正な取得」の規律の明確化(「中間整理」4頁~6頁)
(意見)
不適正利用の禁止(法19条)に関する個人情報保護法ガイドライン(通則編)の「【個人情報取扱事業者が違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法により個人情報を利用している事例】」に、「AI・コンピュータの個人データ等のプロファイリングの行為のうち、個人の権利利益の侵害につながるもの」を明示すべきである。
(理由)
本人の認識や同意なく、ネット閲覧履歴、購買履歴、位置情報・移動履歴やSNSやネット上の書き込みなどの情報をAI・コンピュータにより収集・分析・加工・選別等を行うことは、2019年のいわゆるリクナビ事件等のように、本人が予想もしない不利益を被る危険性がある。このような不利益は、差別を助長するようなデータベースや、違法な事業者に個人情報を第三者提供するような行為の不利益と実質的に同等であると考えられる。
また、日本が十分性認定を受けているEUのDGPR22条1項は、「コンピュータによる自動処理のみによる法的決定・重要な決定の拒否権」を定め、さらにEUで成立したAI法も、雇用分野の人事評価や採用のAI利用、教育分野におけるAI利用、信用スコアなどに関するAI利用、出入国管理などの行政へのAI利用などへの法規制を定めている。
この点、厚労省の令和元年6月27日労働政策審議会労働政策基本部会報告書「~働く人がAI等の新技術を主体的に活かし、豊かな将来を実現するために~」9頁・10頁および、いわゆるリクナビ事件に関する厚労省の通達(職発0906第3号令和元年9月6日「募集情報等提供事業等の適正な運営について」)等も、電子機器による個人のモニタリング・監視に対する法規制や、AI・コンピュータのプロファイリングに対する法規制およびその必要性を規定している。
日本が今後もEUのGDPRの十分性認定を維持し、「自由で開かれた国際データ流通圏」政策を推進するためには、国民の個人の尊重やプライバシー、人格権(憲法13条)などの個人の権利利益を保護するため(個情法1条、3条)、AI・コンピュータによるプロファイリングに法規制を行うことは不可欠である。
したがって、「AI・コンピュータの個人データ等のプロファイリングの行為のうち、個人の権利利益の侵害につながるもの」を「【個人情報取扱事業者が違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法により個人情報を利用している事例】」に明示すべきである(「不適正利用の禁止義務への対応」『ビジネス法務』2020年8月号25頁、『AIプロファイリングの法律問題』(2023年)50頁参照)。

6.こどもの個人情報等に関する規律の新設
(該当箇所)
こどもの個人情報等に関する規律の在り方(中間整理8頁~11頁)
(意見)
こどもの個人情報等に関する規律を新設することに賛成します。
(理由)
こどもは大人に比べて脆弱性・敏感性及びこれらに基づく要保護性があるにもかかわらず、近年、学校・教育委員会などが、生徒・子どもにウェアラブル端末をつけさせて生体データを収集し集中力や「ひきこもり」の予兆などを監視・モニタリングする事例などが野放しで増加しているが、このような学校等による生徒・子どもの監視・モニタリングは子どもの内心の自由やプライバシー、人格権を侵害しかねないものであり、子どもの権利利益を侵害している(個情法1条、3条、憲法13条、19条)。
したがって16歳未満の子どもの個人情報については収集等に法定代理人の同意を必要とし、また厳格な安全管理措置を要求するなどの法規制を新設することに賛成します。

7.課徴金制度・団体訴訟制度
(該当箇所)
課徴金、勧告・命令等の行政上の監視・監督手段の在り方(中間整理11頁)および団体による差止請求制度及び被害回復制度の導入(中間整理12頁)
(意見)
課徴金制度の導入などおよび団体請求制度の導入等に賛成します。
(理由)
国民・消費者の個人の権利利益のさらなる保護のため(個情法1条、3条)に賛成します。経済界は団体による差止請求にも反対しているようであるが、差止請求は違法な行為にしかなされないところ、経済界は違法行為がしたいのだろうかと疑問である。

8.漏えい等報告・本人通知の在り方
(該当箇所)
漏えい等報告・本人通知の在り方(中間整理18頁)
(意見)
現行の漏えい等報告・本人通知の在り方を緩和することに反対。
(理由)
二次被害・類似事案の防止が漏えい等報告及び本人通知の趣旨・目的なのであるから、たとえば事業者がセキュリティインシデントに対応中でマルウェア等の犯人を泳がせて調査しているような場合は別として、原則として個人情報漏えい事故が発生した場合は、迅速に漏えい等報告・本人通知を事業者に行わせるべきである。現行の漏えい等報告・本人通知の在り方を緩和することには反対。 また、漏えい等に関する義務が生じる「おそれ」要件についても、「おそれ」が発生している以上は安全管理措置義務違反が発生していることは事実なのであるから、事業者は違法であるのであって、「おそれ」要件を緩和することには反対である。

9.医療データの収集・目的外利用・第三者提供の規制緩和
(該当箇所)
社会のニーズ及び公益性を踏まえた例外規定の新設並びに明確化(中間整理23頁)
(意見)
医療データにつき例外規定を設け、取得や目的外利用、第三者提供等に本人同意やオプトアウトを不要とする議論に反対。
(理由)
現在の情報法・憲法の学説上、個人情報保護法(個人データ保護法)の趣旨・目的は自己情報コントロール権説(情報自己決定権説)が通説であり、ドイツやEUなど多くの西側自由諸国でも同様である(曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説第2版』209頁、渡辺康行・宍戸常寿・松本和彦・工藤達朗『憲法Ⅰ基本権』121頁、山本龍彦『個人データ保護のグローバル・マップ』247頁、359頁等参照)。
そして自己情報コントロール権説からは、個人情報保護法が目的外利用や第三者提供をする場合、医療データなどの要配慮個人情報を収集する場合において、事業者や行政機関等が患者などの本人の同意を取得することが必要と規定されていることは当然のことと考えられる。
そのため、この目的外利用や第三者提供をする場合、医療データなどの要配慮個人情報を収集する場合に本人の同意の取得を不要とする有識者ヒアリング等における森田朗名誉教授や鈴木正朝教授、高木浩光氏などの主張は自己情報コントロール権説に反し、つまり個人情報保護法(個人データ保護法)の趣旨・目的に反している。
また、法律論を離れても、たとえば4月3日の個人情報保護委員会の有識者ヒアリングでは、横野恵准教授の「医療・医学系研究における個人情報の保護と利活用」との資料13頁の「ゲノムデータの利活用と信頼」においては、一般大衆の考えとして、ゲノムデータの利活用に関する「信頼の醸成に寄与する要素」の2番目に「オプトアウト制度」が上がっている。
したがって、医療データの利用等に関して、患者の本人の同意やオプトアウト制度などの本人関与を廃止する考え方は、一般国民の支持を得られないと思われる。
また、森田名誉教授や鈴木正朝教授、高木浩光氏など、医療データの製薬会社やIT企業などによる利活用を推進する立場の人々は、「日本国民はすべて医療データを製薬会社などに提供し、医療や社会に貢献すべきだ」との考え方を前提としているように思われる。
たしかに患者が医療に貢献することは一般論としては「善」である。しかし、日本は個人の自由意思を原則とする自由主義・民主主義国である(憲法1条、13条)。患者個人が医療や社会に貢献すべきか否かは個人のモラルにゆだねるべき問題であり、ことさら法律で強制する問題ではない。すなわち、患者の医療への貢献などは、自由主義社会においては自由な討論・議論によって検討されるべきものであり、最終的には個人の内心や自己決定にゆだねられるべきものである(憲法19条、13条)。
「日本国民はすべて医療データを製薬会社などに提供し、医療や社会に貢献すべきだ」「そのような考え方を個人情報保護法の改正や新法を制定し、国民に強制すべきだ」「そのような考え方に反対する国民は非国民、反日だ」との考え方は、中国やロシアなど全体主義・国家主義国家の考え方であり、自由主義・民主主義国家の日本にはなじまないものである。
さらに、患者の疾病・傷害にはさまざまなものがある。風邪などの軽い疾病のデータについては、製薬会社などに提供することを拒む国民は少ないであろう。しかし、がんやHIVなど社会的差別のおそれのある疾病や、精神疾患など患者個人の内心(憲法19条)にもかかわる疾病など、疾病・傷害にはさまざまな種類がある。それらをすべて統一的に本人同意を不要とする政府の議論は乱暴である。
したがって、憲法の立憲主義に係る基本的な考え方からも、医療データの一時利用・二次利用について患者の本人の同意を原則として不要とする議論は、個人情報保護法(個人データ保護法)の趣旨・目的に反しているだけでなく、わが国の憲法の趣旨にも反している。以上のような理由から、私は医療データの一時利用・二次利用について患者の本人の同意やオプトアウト等の本人関与の仕組みを原則として不要とする個人情報保護委員会や政府の議論に反対である。

10.その他:プロファイリング・AI法
(該当箇所)
その他(中間整理26頁)
(意見)
プロファイリングによる要配慮個人情報の「推知」を要配慮個人情報の「取得」として法規制すべきである。本人同意または本人関与の仕組みを導入すべきである。また、日本も早期にEUのようなAI法を制定すべきである。
(理由)
2016年のケンブリッジ・アナリティカ事件、最近のイスラエルの軍事AI「ラベンダー」など、プロファイリングの問題は個人情報保護の本丸である。個人情報保護法20条2項は要配慮個人情報の取得については本人同意を必要としているが、プロファイリングによる要配慮個人情報の「推知」、すなわち要配慮個人情報の迂回的取得は法規制が存在しない。これでは本人同意は面倒だと、事業者はプロファイリングによる推知を利用してしまう。
この点、世界的には、EUのGDPR21条はプロファイリングに異議を述べる権利を定め、同22条は完全自動意思決定に服さない権利を規定している。またアメリカのいくつかの州も同様の法規制を置いている。
このように世界的な法規制の動向をみると、日本もプロファイリングによる要配慮個人情報の「推知」を要配慮個人情報の「取得」として法規制すべきである。すなわち、本人同意または本人関与の仕組みを導入すべきである。
また、日本も早期にEUのようなAI法を制定すべきである。

11.顔識別機能付き防犯カメラ(1)
(該当箇所)
「要保護性の高い個人情報の取扱いについて(生体データ)」(中間整理3頁~4頁)
(意見)
生体データに関連し、個人情報保護法16条4項や施行令5条の法改正を行い、顔データは保有個人データであると改正すべきである。
(理由)
生体データに関連し、顔識別機能付き防犯カメラシステムによる誤登録の問題に関して、現行法上、顔識別機能付き防犯カメラシステムによる顔データは、個人情報保護法施行令5条のいずれかの号に該当し、当該顔データは保有個人データではないということになり(個人情報保護法16条4項)、結局、顔識別機能付き防犯カメラを運用する個人情報取扱事業者は個人情報保護法を守る必要がないということになってしまうが、そのような結論は誤登録の被害者の権利利益の保護(法1条、3条、憲法13条)との関係で妥当とは思えない。
そのため個人情報保護法16条4項や施行令5条の法改正を行い、顔データは保有個人データであると改正すべきである。

12.顔識別機能付き防犯カメラ(2)
(該当箇所)
「要保護性の高い個人情報の取扱いについて(生体データ)」(中間整理3頁~4頁)
(意見)
生体データの問題に関連し、顔識別機能付きカメラシステムによる顔データの共同利用については、全国レベルや複数の県をまたがる等の広域利用を行う場合には、個人情報保護委員会に事前に相談を求めることを個情法上に明記すべきではないか。そのために個人情報保護法の法改正等を行うべきでないか。
(理由)
「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会第6回」の議事録5頁に、「そういった観点から、一つ地域というのがメルクマールになると理解している。広域利用に関しては相当の必要性がなければできないとしつつ、個人情報保護委員会に相談があったような場合に対応していくのが1つの落としどころかと感じた。」等との議論がなされているから。 また、宇賀克也『新・個人情報保護法の逐条解説』275頁、園部逸夫・藤原静雄『個人情報保護法の解説 第二次改訂版』187頁などにおいても、共同利用が許される外延・限界は「一つの業界内」、「一つの地域内」などと解説されており、全国レベルの共同利用や県をまたぐ広域利用、業界をまたぐ共同利用などは個人情報保護法が予定しておらず、本人が自分の個人情報がどこまで共同利用されるのか合理的に判断できないと思われるから。

13.顔識別機能付き防犯カメラ(3)
(該当箇所)
「要保護性の高い個人情報の取扱いについて(生体データ)」(中間整理3頁~4頁)
(意見)
開示・訂正等請求を求める一般人(顔識別機能付き防犯カメラの誤登録の被害者等)が個人情報保護法などにおいて取りうる法的手段(例えば個人情報取扱事業者のウェブサイト上のプライバシーポリシー上の開示・訂正等請求の手続きに従って請求を行う、民事訴訟を提起する等)に関して、個人情報法保護法ガイドライン(通則編)や「個人情報の保護に関する法律についてのガイドラインに関するQ&A」等に一般人にもわかりやすい解説を用意するべきではないか。
(理由)
生体データの問題に関連し、顔識別機能付きカメラシステムの誤登録の被害者が個人情報取扱事業者に顔データの削除などを請求しても事業者から拒否される場合が多い。また誤登録の被害者等は法律のプロではないことが一般的である。
そのため、開示・訂正等請求を求める一般人(防犯カメラの誤登録の被害者等)が個人情報保護法などにおいて取りうる法的手段(例えば個人情報取扱事業者のウェブサイト上のプライバシーポリシー上の開示・訂正等請求の手続きに従って請求を行う、開示・訂正等請求の民事訴訟を提起する等)に関して、個人情報法保護法ガイドライン(通則編)や「個人情報の保護に関する法律についてのガイドラインに関するQ&A」等に一般人にもわかりやすい解説を用意するべきではないか。あるいは一般人向けに開示・訂正等手続きについて解説した「自治会・同窓会等向け会員名簿をつくるときの注意事項ハンドブック」のようなパンフレットを作成すべきではないか。

以上

■関連するブログ記事
・MyData Japan 2024の「George's Bar ~個人情報保護法3年ごと見直しに向けて~」の聴講メモ
・個情委の「3年ごと見直し」における医療データの取扱いに本人同意を不要とする議論に反対する

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