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カテゴリ: 労働法

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このブログ記事の概要
2022年の改正職業安定法および改正個人情報保護法との関係で、ネット系人材会社の一部や、就活生・求職者のSNSの「裏アカ」調査会社等の業務は違法のおそれがあるのではないかと思われる。

1.2022年の職業安定法の改正
厚生労働省は2022年2月に、従来の法律では職業安定法の対象と言い切れなかった、アグリゲーター(おまとめサイト)、利用者DB、SNSなどの新しい多様なサービスを提供している求人メディア等を職業安定法の適用される事業に新たに位置付け、一定のルール化を図るための職業安定法改正法案を含む「雇用保険法等の一部を改正する法律案」を国会に提出し、同法案は同年3月31日に成立しました。これを受けて厚労省はウェブサイトで改正された法律や政省令、指針を公表しています。これらの法改正は原則として本年10月1日から施行されます。

この職業安定法改正では、とくに「労働者となろうとする者に関する情報を収集して行う募集情報提供事業者」を「特定募集情報提供事業者」と定義し、厚労大臣への事前の届出義務を課し、「事業概況報告書」の提出など一定の事業状況の公開を義務付け、行政命令に違反したときは事業停止命令等を発出することができるようにするなどの法改正を盛り込んでいることが注目されます。また、募集情報等については的確性を求め「虚偽又は誤解を生じさせる表示」を禁止し、さらに特定募集情報等提供事業者に対しても個人情報を保護する義務を課すこととしています。

本ブログ記事では、改正職業安定法の、とくに特定募集情報提供事業者に課される個人情報保護の義務と、ネット系人材紹介会社や就活生・求職者のSNSの「裏アカ」を調査する会社等の業務についてみてみたいと思います。

・令和4年職業安定法の改正について|厚労省
・「労働市場における雇用仲介の在り方に関する研究会」の報告書を公表します|厚労省

雇用仲介機能のイメージ
(労働市場における雇用仲介の在り方に関する研究会報告書より)

2.雇用安定法の改正の概要
(1)「募集情報等提供」の定義の追加

現行の職業安定法においては、「募集情報等提供」は「労働者の募集を行う者等の依頼を受け、当該募集に関する情報を労働者となろうとする者に提供すること」または「労働者となろうとする者の依頼を受け、当該者に関する情報を労働者の募集を行う者若しくは募集受託者に提供すること」の2つの事業と定義されていました(法4条6項)。つまり労働者の募集を行う企業などや求職者の委託を受けて情報を提供する、リクナビ、マイナビなどの「求人メディア」がこの「募集情報等提供」の具体例です。

求人メディア
(労働市場における雇用仲介の在り方に関する研究会報告書より)

これに対して近年、労働者の募集を行う企業などや求職者から委託を受けているわけではなく、ロボット(ボット)やAIなどがウェブサイト上やSNS、Githubなどを巡回(クロール)し情報を収集し、求人情報等のコピーをまとめて掲載する、indeedなどのアグリゲーター(おまとめサイト)などのITサービスが現れました。これらを職業安定法の「募集情報等提供」に含め適切な運用を規律することが今回の法改正のポイントの一つです。

そのため、職業安定法の改正法は、つぎの3つを「募集情報等提供」の定義に追加しています。
「募集情報等提供」の対象の追加(新設)

①「前号に掲げるもののほか、労働者の募集に関する情報を、労働者になろうとする者の職業の選択を容易にすることを目的として収集し、労働者になろうとする者等に提供すること。」(改正法4条6項2号)

②「労働者になろうとする者等の依頼を受け、労働者になろうとする者に関する情報を労働者の募集を行う者等又は他の職業紹介事業者等に提供すること。」(同3号)

③「前号に掲げるもののほか、労働者になろうとする者に関する情報を、労働者の募集を行う者の必要とする労働力の確保を容易にすることを目的として収集し、労働者の募集を行う者に提供すること。」(同4号)
(2)「特定募集情報等提供」の新設
また、近年は募集情報提供を行う事業者が労働者の募集を行う企業や、求職者から委託を受けていなくても、求職者や求職候補者の個人情報をネット上やSNS上をクローリング・収集し、求職者や潜在求職者の情報を求人企業や職業紹介事業者に対して提供したり、条件に合致する求職者を求人企業等にリコメンド、ランク・合致率付けして提示したり、さらには求人企業や職業紹介事業者が求職者情報を検索し、スカウトを送付する等の「人材データベース」と呼ばれるITサービスが現れています。

人材データベース
(労働市場における雇用仲介の在り方に関する研究会報告書より)

これに対して改正法は、「労働者になろうとする者に関する情報を収集して行う募集情報等提供」を「特定募集情報等提供」と新たに定義して規律しています(改正法4条7項)。つまり「人材データベース」などのサービスの、「労働者になろうとする者」・「潜在求職者」の個人情報をネット上やSNS上などでクローリング等し収集して行う募集情報等提供は、「特定募集情報等提供」として新たにルール化されることになります。

(3)厚労大臣への届出・事業概況報告書・的確な表示・正確かつ最新の内容の表示義務・改善命令などの新設
そして改正法は、「特定募集情報等提供」に対して厚労大臣への事前の届出を義務付け(改正法4条11項、43条の2第1項)、特定募集事業等提供事業者は厚労大臣に事業概況報告書の提出が義務付けられます(改正法43条の5)。また、募集事業等提供事業者は「苦情の処理に関する事項」などをインターネット上で公開することが義務付けられ(改正法43条の6)、「求人等に関する情報の的確な表示」が義務付けられ(改正法5条の4第1項)、「求人・求職情報などを正確かつ最新の内容に保つ措置」が義務付けられます(改正法5条の4第2項)。さらに募集情報等提供事業者に対しても、改善命令、立入検査、報告徴求、罰則などが課されることになります(改正法48条の3、50条2項、64条9号、65条7号、66条7号、同8号)。加えて特定募集情報等提供事業者に対しても秘密保持義務が課されることになり(改正法51条1項)、この秘密保持義務違反には罰則が科されることになります(改正法66条11号)。

3.個人情報の保護に関する厚労省指針(労働省告示平成11年第141号)の改正
(1)職業安定法の改正
前回の平成29年(2017年)の職業安定法改正の際には、求人メディアなどの「募集情報等提供」は、求職者の個人情報保護を定める改正前法5条の4の対象に含まれていませんでしたが、今回の改正では「特定募集情報等提供」が対象に含まれることになっています(改正法5条の5)。

改正職業安定法

(求職者等の個人情報の取扱い)
第5条の5

 公共職業安定所(略)、職業紹介事業者および求人者(略)、特定募集情報等提供事業者(略)は、それぞれ、その業務に関し、求職者、労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報(略)を収集し、保管し、又は使用するに当たっては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で、厚生労働省令で定めるところにより、当該目的を明らかにして求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りではない。

(2)厚労省指針(労働省告示平成11年第141号)の改正
また、法48条に基づく、個人情報の保護(改正法5条の5)などに関する厚労省指針(労働省告示平成11年第141号)も今回、特定募集情報等提供事業者を対象に含める大きな改正がなされています。

改正厚労省指針の第五(求職者等の個人情報の取扱いに関する事項(法第5条の5))の(一)は、特定募集情報等提供事業者などに対して「法第5条の5第1項の規定によりその業務の目的を明らかにするに当たっては、求職者等の個人情報(略)がどのような目的で収集され、保管され、又は使用されるのか、求職者等が一般的かつ合理的に想定できる程度に具体的に明示すること」を義務付け、また(二)は、「その業務の目的の達成に必要な範囲内で、当該目的を明らかにして個人情報を収集すること」を義務付けています。

4.AIを利用するネット系人材会社や、就活生のSNSの「裏アカ」の調査会社の業務を考える
(1)利用目的の特定
つまり、ネット上、SNSやGithubu上などをクロールして求職者やその見込みのある人間の個人データを収集し、「人材データベース」を作成して求人企業などに営業を行う等の事業を行うHackerBase JobsやLAPRASなどは、自社サイトなどにプライバシーポリシーを制定・公表するにあたっては、個人データの利用目的について「求職者等の個人情報(略)がどのような目的で収集され、保管され、又は使用されるのか、求職者等が一般的かつ合理的に想定できる程度に具体的に明示すること」が必要であり、一般的・抽象的な利用目的は許されないことになります(第5、一(一))。

(2)センシティブな個人情報・個人データ
また、「その業務の目的の達成に必要な範囲内で、当該目的を明らかにして個人情報を収集することとし、次に掲げる個人情報を収集してはならないこと。」として、「イ 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項」、「ロ 思想及び信条」、「ハ 労働組合への加入状況」に関する個人情報・個人データを収集することは「特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合」以外は認められません(第5、一(二))。同時に、同(六)は「業務の目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を収集し、保管し、又は使用することに対する同意を、職業紹介、労働者の募集、募集情報等提供又は労働者供給の条件としないこと」も事業者等に要求しています。

そのため、「思想及び信条」(=人生観、生活観、尊敬する人物、尊敬しない人物、愛読書、愛読書でない書籍、購読新聞・雑誌、支持政党・支持しない政党、労働活動・政治活動の有無などの個人データ)などセンシティブな(あるいはプライベートな)個人データを含む求職者やその見込みのある人間のさまざまな個人データをネット、SNS、Github上などから網羅的・継続的にボットやAIでクローリングして収集し、それらの個人データを突合・加工・分析するなどして求人企業などに営業活動を行っているLAPRASなどの事業は、本年10月1日以降は違法となるおそれがあります。

(なお、本改正厚労省指針・第5、一(二)は「特別な職業上の必要性が存在する場合」には思想・信条などのセンシティブな個人データの収集も本人からの取得に限り認めることとしていますが、この場合に該当するのは、例えば公共交通機関の運転手等に精神障害や薬物などの問題がないか確認する場合など例外的な場合に限定されると解されています(岩出誠『労働法実務大系 第2版』68頁)。

さらに、上の2.でもみたように、今回の職業安定法改正では、「募集情報等提供」に「前号に掲げるもののほか、労働者になろうとする者に関する情報を、労働者の募集を行う者の必要とする労働力の確保を容易にすることを目的として収集し、労働者の募集を行う者に提供すること。」(改正法4条6項4号)が追加されました。そして「労働者になろうとする者に関する情報を収集して行う募集情報等提供」「特定募集情報等提供」としています(改正法4条7項)。

そのため、就活生や求職者などの求人を行う企業などの求人業務のために、労働者になろうとする者に関する情報を収集している就活生などのSNSの「裏アカ」を調査し分析し報告等を行っている調査会社なども「特定募集情報等提供」に該当することになります。

したがって、LAPRASなどと同様の理由で、就活生などのSNSの「裏アカ」調査会社のソルナ、KCC企業調査センターなどの企業の事業も、本年10月1日以降は職業安定法違反として違法となるおそれがあります。

改正厚労省指針(労働省告示平成11年第141号)

第五 求職者等の個人情報の取扱いに関する事項(法第5条の5)
一 個人情報の収集、保管及び使用
(一)職業紹介事業者、(略)特定募集情報等提供事業者(略)は、法第5条の5第1項の規定によりその業務の目的を明らかにするに当たっては、求職者等の個人情報(略)がどのような目的で収集され、保管され、又は使用されるのか、求職者等が一般的かつ合理的に想定できる程度に具体的に明示すること。

(二)職業紹介事業者、(略)特定募集情報等提供事業者(略)は、その業務の目的の達成に必要な範囲内で、当該目的を明らかにして個人情報を収集することとし、次に掲げる個人情報を収集してはならないこと。ただし、特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合はこの限りではないこと。
 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
 思想及び信条
 労働組合への加入状況

(三)職業紹介事業者、(略)特定募集情報等提供事業者(略)は、個人情報を収集する際には、本人から直接収集し本人の同意の下で本人以外の者から収集し、又は本人により公開されている個人情報を収集する等の手段であって、適法かつ公正なものによらなければならないこと。
(略)

(六)職業紹介事業者、(略)特定募集情報等提供事業者(略)は、法第5条の5第1項又は(二)、(三)若しくは(五)の求職者等本人の同意を得る際には、次に掲げるところによらなければならないこと。
イ 同意を求める事項について、求職者が適切な判断を行うことができるよう、可能な限り具体的かつ詳細に明示すること。
ロ 業務の目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を収集し、保管し、又は使用することに対する同意を、職業紹介、労働者の募集、募集情報等提供又は労働者供給の条件としないこと。


三 個人情報の保護に関する法律の遵守等
 一及び二に定めるもののほか、職業紹介事業者、求人者(略)、特定募集情報等提供事業者(略)は、個人情報の保護に関する法律(略)第16条第2項に規定する個人情報取扱事業者に該当する場合には、それぞれ同法(略)第4章第2節に規定する義務を遵守しなければならないこと。


(3)「適法かつ公正」な手段
加えて、改正厚労省指針(労働省告示平成11年第141号)の第五、一(三)は、特定募集情報等提供事業者が就活生などの個人データを収集する際には、「適法かつ公正」な手段により個人情報・個人データを収集しなければならないと規定しています。(なお個人情報保護法20条も「偽りその他不正の手段」による個人情報の取得を禁止している。)

この点、Githubについては、Github利用規約の「5.情報利用の制限」は、「ユーザーの個人情報を、人事採用担当者、ヘッドハンター、求人掲示板などに販売することなどの目的で、Githubのサービスから取得して利用することはできない」とはっきり禁止規定が存在します。

したがって、Githubから求職者や潜在求職者などの個人データを収集し、突合・分析・加工等を行い求人企業などに売り込みの営業などを行っているLAPRASやHackerBase JobsなどのAIを活用したネット系人材企業の業務は、「適法かつ公正」とはいえないのでこの面でも改正職業安定法に違反し、本年10月1日から違法となるおそれがあります。

(4)ネット上の「身元調査」
同様に、就活生などのSNSの「裏アカ」の調査・分析を行っている調査会社の業務も、「ネット上の「身元調査」」を行っているといえるので、厚労省「公正な採用選考の基本」が「身元調査」を「望ましくない」としていることからも適法・妥当な業務ではなく(河合塁・岩手大学准教授(労働法)「(フォーラム)裏アカ調査、どう考える」朝日新聞2021年12月12日付記事)、「適法かつ公正」でないとして、本年10月1日から違法となるおそれがあります(改正厚労省指針(労働省告示平成11年第141号)の第五、一(三))。

身元調査がこのように評価されるのは、身元調査の際に、就活生などの思想・信条や本籍地、親の職業などの個人情報が収集されるおそれがあり、それらの個人情報に基づく採用選考は採用差別(職業安定法3条、憲法14条1項)に抵触する違法な採用選考の活動であるからです(可合塁・前掲)、そのため「裏アカ」調査を行ってあるいは委託して採用選考を行う求人企業や「裏アカ」調査会社等は不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)が認められる可能性があります(菅野和夫・安西愈・野川忍『論点体系 判例労働法1』297頁)。

(5)プロファイリングの規律-個人情報保護法19条(不適正利用の禁止)
最後に、改正厚労省指針の第五(求職者等の個人情報の取扱いに関する事項(法第5条の5))の「三 個人情報の保護に関する法律の遵守等」は、求人企業や特定募集情報等提供事業者などは、個人情報保護法における個人情報取扱事業者に該当する場合には、同法第4章第2節の「個人情報取扱事業者等の義務等」を遵守しなければならないと規定しています。

この点、2022年4月1日より施行された改正個人情報保護法19条は「個人情報取扱事業者は、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法により個人情報を利用してはならない。」と個人情報の不適正利用禁止を規定していますが、この改正個情法19条について個人情報保護委員会は令和3年8月の令和2年法改正に対応する個人情報保護法についてのガイドライン(通則編)のパブコメ回答において、「プロファイリングに関連する個人情報の取扱についても、それが『違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法』による個人情報の利用にあたる場合には、不適正利用に該当する可能性があります」(意見募集結果57番)と回答しているとおり(不肖・私の質問ですが)、個情法19条はプロファイリングを規制する趣旨も含んでいます。(第201回国会参議院・内閣委員会会議録13号「其田真理政府参考人答弁」(令和2年6月4日)も「いわゆるプロファイリングにつきましては、今回の改正で、利用停止、消去の要件緩和、不適正利用の禁止、第三者提供の開示、提供先において個人データとなることが想定される情報の本人同意といった規律を導入した」と国会答弁している。大島義則「個人情報保護法におけるプロファイリング規制の展開」『情報ネットワーク・ロー・レビュー』20巻31頁(2021年)。)

そのため、LAPRASなどや就活生等のSNSの「裏アカ」の調査会社などの業務が、個人情報・個人データのプロファイリングにおいて『違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法』に該当するような場合には、これは個人情報保護法19条に抵触する違法な業務ということになります。

具体的には、例えば2019年のいわゆる「リクナビ事件」においては、求人メディアのリクナビを運営するリクルートキャリアとトヨタなどの求人企業が個人データなどをやり取りし、リクルートキャリアからトヨタなどにAIで分析・加工された就活生の「内定辞退予想データ」が就活生本人の同意なしに提供されていたことが大きな社会問題となりましたが、就活生本人の真正な同意のないままに本人に不利益となるデータをAIやコンピュータなどで作成し、第三者提供されたそのデータをもとにトヨタなどの求人企業が採用選考等を実施することは、個人情報保護法19条、職業安定法5条の5違反となるおそれがあります。(また、職業安定法51条の秘密保持義務違反となる可能性があります。)

5.まとめ
このように本ブログ記事は2022年の改正職業安定法の概要をみてみましたが、ネット系人材会社の一部や、就活生・求職者のSNSの「裏アカ」を調査する会社等の業務は改正職業安定法および個人情報保護法との関係で違法のおそれがあるのではないかと思われます。

((注)本ブログ記事を書くにあたり、ネット系人材会社の一部や、就活生・求職者のSNSの「裏アカ」を調査する会社等の業務が違法となるおそれがあるのではないかという点については、厚生労働省職業安定局のご担当者の方に電話にて確認をさせていただきました。どうもありがとうございました。)

■関連する記事
・就活のSNSの「裏アカ」の調査や、ウェブ面接での「部屋着を見せて」等の要求などを労働法・個人情報保護法から考えた(追記あり)
・Github利用規約や労働法、個人情報保護法などからSNSなどをAI分析するネット系人材紹介会社を考えた
・リクルートなどの就活生の内定辞退予測データの販売を個人情報保護法・職安法的に考える
・コロナ下のテレワーク等におけるPCなどを利用した従業員のモニタリング・監視を考えた(追記あり)
・令和2年改正個人情報保護法ガイドラインのパブコメ結果を読んでみた(追記あり)-貸出履歴・閲覧履歴・プロファイリング・内閣府の意見

■参考文献
・菅野和夫『労働法 第12版』69頁
・岩出誠『労働法実務大系 第2版』68頁
・菅野和夫・安西愈・野川忍『論点体系 判例労働法1』297頁
・岸健二「多様化する求人情報サービスを雇用仲介業に位置づけ労働者になろうとする者の個人情報を収集する募集情報提供事業者に届出義務や事業停止命令の対象」『月刊人事労務実務のQ&A』2022年4月号5頁
・「求職者情報を収集し募集情報等提供事業を行おうとする者の『届出義務』を新設」『労働基準広報』2022年3月11日号8頁
・大島義則「個人情報保護法におけるプロファイリング規制の展開」『情報ネットワーク・ロー・レビュー』20巻31頁(2021年)
・高木浩光「個人データ保護とは何だったのかー就活支援サイト「内定辞退予測データ」問題が炙り出すもの」『世界』2019年11月号55頁
・令和4年職業安定法の改正について|厚労省
・「労働市場における雇用仲介の在り方に関する研究会」の報告書を公表します|厚労省
・河合塁・岩手大学准教授(労働法)「(フォーラム)裏アカ調査、どう考える」朝日新聞記事2021年12月12日付
・「個人情報の保護に関する法律施行令等の一部を改正する等の政令(案)」、「個人情報の保護に関する法律施行規則の一部を改正する規則(案)」及び「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編、外国にある第三者への提供編、第三者提供時の確認・記録義務編、仮名加工情報・匿名加工情報編及び認定個人情報保護団体編)の一部を改正する告示(案)」に関する意見募集の結果について(2021年10月29日)|個人情報保護委員会



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このブログ記事の概要
東北大学大学院工学研究科が教授職について「女性限定」で募集・採用を行うことは、それがポジティブ・アクションのための取組であるとしても、憲法および男女雇用機会均等法との関係で違法・不当と評価されるおそれがある。東北大学当局は再検討を行うべきではないか。

1.東北大学が女性限定の教授公募を開始
4月23日の朝日新聞の記事によると、東北大学大学院工学研究科が女性限定の教授職(任期無し)の公募を開始したとのことです。記事によると、東北大学は多様性、公正性、包摂性を理念に掲げた「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI)推進宣言」を4月5日に発表したとのことで、この教授職の女性限定公募はその目玉策であるそうです。また東北大学は、「東北大学工学系女性研究者育成支援推進室(ALicE)」を設置し、同推進室は、「工学系分野において女性が安心してキャリアを継続できる真に豊かな社会の実現を目指し活動」しているとのことです。

もちろん職場や学問の場におけるダイバーシティ(多様性)の重要性は当然です。しかし、雇用・採用・募集を女性に限定することは、労働法や憲法との関係で違法のおそれがあるように思われます。
・東北大が女性限定の教授公募を開始 SNSでは否定的な声も|朝日新聞
・「東北大学ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI)推進宣言」について|東北大学
・女性が工学分野で、生き生きと活躍できる社会を目指して。|東北大学工学系女性研究者育成支援推進室(ALicE)

2.労働法から考える
(1)男女雇用機会均等法
1985年に制定された男女雇用機会均等法(雇用機会均等法)は当初は、「女性への差別」を努力義務として禁止する法律でした。その後、1997年に、雇用機会均等法は採用・募集・配置・昇進において「女性への差別的取扱」を法的義務として禁止する方向で法改正が行われました。しかしこれは「女性への差別的取扱の禁止」であり(片面的差別禁止)、「あらゆる性的な差別禁止」(両面的差別禁止)ではなかったため、「男性のみ募集」との趣旨の求人は違法でしたが「女性のみ募集」との求人は当時の雇用機会均等法との関係では違法ではありませんでした。

しかし2006年以降の法改正で雇用機会均等法は男女両方のあらゆる性的な差別を禁止するもの(両面的差別禁止)となりました(雇均法2条1項、5条、6条など)。

男女雇用機会均等法

(基本的理念)
第二条 この法律においては、労働者が性別により差別されることなく、また、女性労働者にあつては母性を尊重されつつ、充実した職業生活を営むことができるようにすることをその基本的理念とする。

(性別を理由とする差別の禁止)
第五条 事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。

第六条 事業主は、次に掲げる事項について、労働者の性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない。
 労働者の配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)、昇進、降格及び教育訓練
 住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置であつて厚生労働省令で定めるもの
 労働者の職種及び雇用形態の変更
 退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新

(2)ポジティブ・アクション
ここで、企業などの行う男女の格差是正のためのポジティブ・アクション(アファーマティブ・アクション、積極的格差是正措置)と「あらゆる性的差別禁止」との関係が問題となりますが、雇用機会均等法8条は「前三条の規定は、事業主が、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となつている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げるものではない。」と規定しています。

この点、厚労省は平成18年に「労働者に対する性別を理由とした差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」(「性差別禁止等に関する指針」平18.10.11厚労告614号)を定めています。

この指針の「14 違反とならない場合」は、例えば、つぎのような場合はポジティブ・アクションに該当し、性的差別に該当しないとしています。

女性労働者が男性労働者と比較して相当程度少ない雇用管理区分における募集若しくは採用又は役職についての募集又は採用に当たって、当該募集又は採用に係る情報の提供について女性に有利な取扱いをすること、採用の基準を満たす者の中から男性より女性を優先して採用することその他男性と比較して女性に有利な取扱いをすること。

しかし同指針は、「2 募集及び採用」で、つぎのような行為は違法であるとしています。

イ 募集又は採用に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること。
(排除していると認められる例)
①一定の職種(いわゆる「総合職」、「一般職」等を含む。)や一定の雇用形態(いわゆる「正社員」、「パートタイム労働者」等を含む。)について、募集又は採用の対象を男女のいずれかのみとすること。

・労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針(平成18年10月11日厚生労働省告示第614号)|厚生労働省

(3)まとめ
そのため、雇用機会均等法および厚労省「性差別禁止等に関する指針」(平18.10.11厚労告614号)からは、「女性労働者が男性労働者に比べて相当程度少ない職場などにおいて、採用の基準を満たす者の中から男性より女性を優先して採用すること等」は、ポジティブ・アクションとして違法ではないことになりますが、「一定の職種について、募集又は採用の対象を男女のいずれかのみとすること」は違法のおそれがあるということになります(菅野和夫『労働法 第12版』275頁、278頁)。

この点、朝日新聞の記事を読むと、東北大学の事例は大学院工学研究科の教授職(任期無し)の公募を「女性限定」で行うとなっており、これはポジティブ・アクションであるとしても雇用機会均等法5条や厚労省「性差別禁止等に関する指針」(平18.10.11厚労告614号)「2 募集及び採用」との関係で違法である可能性があるのではないでしょうか。

3.憲法から考える
また、日本は西側世界の近代立憲主義憲法を持つ国の一つとして、自由主義をとりますが、自由主義においては、結果の平等(実質的平等)よりも機会の平等(形式的平等)がまずは重視されます。そのため、「例えば国立大学への入学につき、一定の社会的弱者に優先枠を設けることは、仮に実質的平等の要請にかなうものであるとしても、受験機会の平等という形式的平等の要請に明らかに反する」ことになり、違法・不当ということになります(野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法1 第5版』283頁)。

そのため、東北大学の教授の「女性限定」の募集は、憲法14条1項との関係でも違法・不当と評価されるおそれがあります。

(なお、東北大学は現在、国立大学法人の一つであり、憲法が直接適用される行政機関ではありませんが、行政機関でない法人・団体に対しても、憲法は法令の一般条項(民法1条2項、同90条など)を通じて間接的に適用されると判例・通説上解されています(間接適用説・最高裁昭和48年12月12日判決・三菱樹脂事件など)。)

4.結論
このように、東北大学大学院工学研究科が教授職について「女性限定」で募集を行うことは、それがポジティブ・アクションのための取組であるとしても、憲法および男女雇用機会均等法との関係で違法・不当と評価されるおそれがあります。東北大学当局は今一度再検討を行うべきではないでしょうか。

■追記(4月28日)
この東北大学の事例について、私が大学院時代にお世話になった憲法学者の先生から次のようなコメントをいただくことができました。

『国の総合科学技術会議では、自然科学系の研究者の25%以上を女性にしたいとの目標を作成している。第三者機関による大学評価では、教員の年齢構成、出身大学、男女比などを判断し、これが偏らないようにあることを厳しく評価される。そのため、例えば仮に工学研究科の求人が6名であれば、2名を女性とする求人をすることが望ましいのではないか。』


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■参考文献
・菅野和夫『労働法 第12版』275頁、278頁
・野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法1 第5版』283頁

■関連するブログ記事
・コロナ禍の就活のウェブ面接での「部屋着を見せて」などの要求や、SNSの「裏アカ」の調査などを労働法・個人情報保護法から考えた(追記あり)
・コロナ下のテレワーク等におけるPCなどを利用した従業員のモニタリング・監視を考えた(追記あり)-個人情報・プライバシー・労働法・GDPR・プロファイリング
・「月曜日のたわわ」の日経新聞の広告と「見たくないものを見ない自由」を法的に考えた-「とらわれの聴衆」事件判決
・東京医科大学の一般入試で不正な女性差別が発覚-憲法14条、26条、日産自動車事件

















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面接
■追記(2022年7月7日)
本ブログ記事に関連して、2022年7月7日につぎのブログ記事を書きました。

・2022年の改正職業安定法・改正個人情報保護法とネット系人材紹介会社や就活生のSNS「裏アカ」調査会社等について考えるープロファイリング

2022年改正の職業安定法により、就活生等のSNSの「裏アカ」の調査会社や、一部のAIを利用したネット系人材会社の業務は違法となるおそれがあります。(厚生労働省職業安定局に確認済み。)

1.朝日新聞の「ウェブ面接で「部屋着見せて」 就活セクハラ、対策は」
2021年8月22日付の朝日新聞の「ウェブ面接で「部屋着見せて」 就活セクハラ、対策は」という記事がネット上で話題となっています。
・ウェブ面接で「部屋着見せて」就活セクハラ、対策は|朝日新聞

この記事によると、コロナ禍における就活のウェブ面接において、採用選考を行う企業の人事部やリクルーターなどが、就活生に対して「部屋着を見せて」「部屋の様子も見せて」などとセクハラ・パワハラ的な要求を行う事例が発生しているとのことです。

またツイッター上では、この問題に関連して、ウェブ面接において本棚の本などに関して企業の面接担当より「そのような本は当社にあなたが入社した際に何の役にたつの?」などと、採用選考と関係のない嫌がらせのような質問をされたなどの事例も投稿されています。

このような企業の人事部やリクルーターなどのウェブ面接での行為は、セクハラ・パワハラに該当するおそれがあり、また企業による就活生・求職者などに対するプライバシー権侵害として、そのような行為を行った企業は不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性もあります(民法709条、憲法13条)。

2.職業安定法5条の4・労働省告示平成11年第141号が禁止する個人情報の収集
大昔の最高裁の判決には、日本は民事上「私的自治の原則」があり、企業側には「採用の自由」があるので、企業側が求職者等の思想・信条に関する情報を収集することは違法ではないとする判決も存在します(最高裁昭和48年12月12日判決・三菱樹脂事件)。

しかしこの判決は当時においても求職者のプライバシーを軽視しすぎであるとの社会的批判を受け、就活生や求職者の採用選考に関する職業安定法は、立法により求人を行う企業などによる就活生や求職者の個人情報の収集に法規制を設けています。

つまり、職業安定法5条の4(求職者等の個人情報の保護)は、求人を行う企業、人材紹介会社、ハローワークなどは、就活生・求職者等の個人情報に関して、「個人情報を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。」と規定しています。

つまり、求人を行う企業や人材紹介会社などは、就活生・求職者などから無制限に個人情報を収集することは許されず、当該求人を行う企業の「業務の目的の達成に必要な範囲内」でのみ求職者等の個人情報を収集し保存・利用することが許されています。

そして求人を行う企業や人材紹介会社などは、個人情報保護法15条に基づき、就活生などから個人情報を収集する際の個人情報の利用目的を特定し、同法18条に基づきその利用目的などをあらかじめ就活生などに対して通知・公表しなければなりません。

また、この職業安定法5条の4に関連して厚労省は、労働省告示平成11年第141号(以下「労働省告示」という)という通達を出しています。
・職業紹介事業者、労働者の募集を行う者、募集受託者、労働者供給事業者等が均等待遇、労働条件等の明示、求職者等の個人情報の取扱い、職業紹介事業者の責務、募集内容の的確な表示等に関して適切に対処するための指針(平成11年労働省告示第141号)|厚労省

この労働省告示は「第4 法第5条の4に関する事項(求職者等の個人情報の取扱い)」において、つぎのように、①人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出身地その他社会的差別の原因のおそれのある事実②思想および信条③労働組合への加入状況などの個人情報の収集を禁止しています。

そして厚労省の「公正な採用選考の基本」は、求職者等の個人情報の収集に関して「(3)採用選考時に配慮すべき事項」においてさらに詳しい説明を行っています。
・公正な採用選考の基本|厚労省

厚労省「公正な採用選考の基本」
(3)採用選考時に配慮すべき事項
次のaやbのような適性と能力に関係がない事項を応募用紙等に記載させたり面接で尋ねて把握することや、cを実施することは、就職差別につながるおそれがあります。

<a.本人に責任のない事項の把握>
本籍・出生地に関すること (注:「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当します)
家族に関すること(職業、続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産など)(注:家族の仕事の有無・職種・勤務先などや家族構成はこれに該当します)
住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近郊の施設など
生活環境・家庭環境などに関すること

<b.本来自由であるべき事項(思想信条にかかわること)の把握>
宗教に関すること
支持政党に関すること
人生観、生活信条に関すること
尊敬する人物に関すること
思想に関すること
労働組合に関する情報(加入状況や活動歴など)、学生運動など社会運動に関すること
購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること

<c.採用選考の方法>
身元調査などの実施 (注:「現住所の略図」は生活環境などを把握したり身元調査につながる可能性があります)
・合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施


したがって、朝日の記事にあった、「部屋着を見せて」などの企業側の要求は、この「採用選考の基本」が禁止する「生活環境・家庭環境に関する情報の収集」に抵触する違法な要求と思われますし、「部屋のなかをよくみせて」などの要求も「住宅状況に関する情報の収集」や「生活信条に関すること」などの規定に抵触する違法なものと思われます。また、冒頭であげた、部屋のなかの本・雑誌・CDなどに関する企業側の質問なども、「採用選考の基本」が禁止する「購読新聞・雑誌・愛読書など」、「人生観、生活信条」、「思想」、「尊敬する人物」などに関する情報収集に該当し違法です。

3.調査会社による就活生などのSNSの「裏アカウント」の書き込み等の調査
さらに労働省告示は、求人を行う企業や人材紹介会社などは、就活生・求職者から個人情報を収集する場合には、本人から直接収集するか、または本人の同意の下で本人以外の者から収集しなければならないなど、個人情報の収集の方法も適切かつ公平な手段で行われなければならないと規定しています。

加えて厚労省の「公正な採用選考の基本」は、「身元調査」も望ましくないとしています。

そのため、求人企業の人事部が安易に調査会社・探偵会社等に委託して、TwitterなどSNSのアカウントや裏アカウント(「裏アカ」)を割り出してその書き込みの調査を行うなどのネット上の身元調査・素行調査を行う調査会社・探偵会社(「KCC 企業調査センター」(東京都千代田区飯田橋)や「ソルナ」(東京都中央区)など)の違法・不当なサービスを利用するであるとか、GithubやSNSなどネット上の個人情報を勝手に収集して違法・不当な人材紹介ビジネスを行っている、HackerBase JobsLAPRASなどのネット系・AI系人材紹介会社などを利用することは望ましくないと考えられます。

企業調査センター
(KCC企業調査センターのサイトより)

ソルナネットの履歴書
(ソルナのサイトより)

LAPRAS
(LAPRASのサイトより)

(2019年には就活生内定辞退予測データの売買を行っていたことが発覚した「リクナビ事件」が大きな社会的非難を受けました。この事件においては、個人情報保護委員会は、リクルートキャリアだけでなく、リクナビを利用していた求人企業のトヨタなどに対しても、「新しい事業を行うにあたって、社内で組織的に個人情報保護法などの法令を十分に検討していなかった」ことを理由の一つとして行政指導を行っています(個人情報保護委員会「株式会社リクルートキャリアに対する勧告等について」(令和元年12月4日))。)
・「株式会社リクルートキャリアに対する勧告等について」(令和元年12月4日)|個人情報保護委員会
・リクルートなどの就活生の内定辞退予測データの販売を個人情報保護法・職安法的に考える

なお、労働省告示は、上であげた個人情報の収集の制限に関して、「ただし、特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合はこの限りでない」とのただし書きを置いています。しかし労働法の実務書は、一般企業においてこのただし書きが適用される場合は少ないとしています(大矢息生・岩出誠・外井浩志『会社と社員の法律相談』53頁)。

加えて、求人を行う企業や人材紹介会社などは、収集した個人情報については滅失・毀損・漏えいなどが発生しないように安全管理措置を講じることが要求されます。加えて求人を行う企業や人材紹介会社などが就活生等の秘密に係る個人情報を知った場合はこれを厳重に管理しなければならないと規定されています。(そのため、2019年の就活生の内定辞退予測データの授受を行っていたリクナビ事件の、リクルートキャリアやトヨタなどはこの点にも違反しています。)

4.職業安定法5条の4・労働省告示平成11年第141号に違反があった場合
求人を行う企業や人材紹介会社等が、上でみたような職業安定法5条の4や労働省告示に違反があった場合、当該企業などは厚労省から改善命令を受ける場合があります(職業安定法48条の3)。また、当該企業が改善命令に違反した場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の罰則を科せられる場合があり、これは両罰規定となっています(法65条7号、法67条)。

さらに、求人を行う企業や人材紹介会社などから上のような行為を行われた就活生や求職者などは、ハローワークや都道府県労働局、労基署などを通じて厚生労働大臣に申告を行い、厚生労働大臣に必要な調査や措置を行わせることができます(法48条の4)。

加えて、このような企業などによる違法な個人情報の収集などが行われた場合は、当該企業は不法行為に基づく損害賠償責任を負う法的リスクがあります(東京地裁平成15年5月28日判決・東京都警察学校・警察病院HIV検査事件など)。

5.まとめ
いずれにせよ、就活生や求職者に対して採用選考の場面で上のようなセクハラ・パワハラ的な行為、プライバシー侵害やSNSにおける「裏アカ」の調査など、違法な個人情報の収集、調査などを行うような企業は、もし就活生などが採用されたとしても、職場でセクハラ・パワハラや労働法違反、各種の法令違反などが横行しているコンプライアンス意識が欠けたブラック企業である可能性が高いのではないでしょうか。就活生や求職者の方々は、ウェブ面接などやSNS上の書き込みなどに関して上のような違法・不当な被害を受けた場合は、その企業への就職は辞退したほうがよいかもしれません。

■追記(9月25日)
朝日新聞が9月に企業の就活生のSNSの「裏アカ」の調査の問題を特集して取り上げていました。そのなかの、「「取り違えないといえるか」「社会の萎縮心配」 裏アカ調査に識者は」との記事は、個人情報保護法や知的財産権法などの専門家の岡村久道先生などのコメントが大変参考になります。
・「就活生の裏アカ特定、企業に報告…ネットから見える「ホントの姿」」|朝日新聞
・「取り違えないといえるか」「社会の萎縮心配」 裏アカ調査に識者は|朝日新聞

■追記(2021年12月22日)
朝日新聞の12月12日付の記事「(フォーラム)裏アカ調査、どう考える」のなかで、朝日新聞は労働法の河合塁・岩手大学准教授に取材し、おおむねつぎのような河合先生のコメントを掲載しています。
・(フォーラム)裏アカ調査、どう考える|朝日新聞

河合塁・岩手大学准教授(労働法)のコメント(概要)
『1999年に改正され新設された職業安定法5条の4とそれに関連する厚労省の通達(労働省告示平成11年第141号)は、採用選考で企業側が収集してはならない個人情報(出身地域、人種、民族、思想・信条、労働組合活動の有無、親の借金など)を列挙しているおり、厚労省「公正な採用選考の基本」などのガイドラインは「身元調査」「望ましくない」としている。採用企業や調査会社がSNSの裏アカなどを調べていて、意図せずにそうした収集してはならない個人情報に接して、その情報をもとに不採用とするケースがあった場合、それは身元調査と変わらず採用差別(職業安定法3条)に該当し違法であるおそれがある。現在の企業側の「SNSの裏アカ調査をやったもの勝ち」の現状を是正するために、厚労省はまずは指針・ガイドラインで企業側に努力義務などを規定すべきだ。』

採用選考おいて企業側が就活生本人の同意なくSNSやSNSの「裏アカ」を調査する問題については、日経新聞などは「企業側は就活生等の「本音」や「日常の普通の様子」が知りたいのだからしかたない」などと開き直る企業側の姿勢を支持・応援するかのような記事を書いたり、朝日新聞なども就活生や企業側の意識のアンケート調査など、ピントのずれた記事ばかり掲載しているのが現状ですが、この朝日の記事が労働法の学者の先生に取材し、「職業安定法や厚労省の関連通達等に照らして違法のおそれがある」と明確なコメントを記事にしているのは、新聞記事にはめずらしいクリーンヒットな記事であると思われます。

採用選考おいて企業側が本人の同意なくSNSやSNSの「裏アカ」を調査することは、企業の人事部側の「お気持ち」や「ご意向」、あるいは就活生や企業側の「アンケート調査」などで決すべき社会学や人文科学的な問題ではなく、職業安定法5条の4(求職者の個人情報保護)同法3条(雇用における差別の禁止)に違反する違法な行為である、つまりSNSの「裏アカ」調査の問題は、法律の問題コンプライアンスガバナンスの問題であることを、就活生などを採用選考する企業の人事部や経営陣などは、まずは明確に認識する必要があります。

就活生等を募集する企業に、職業安定法違反があった場合、ハローワークや労働基準監督署、都道府県労働局、厚労省などは企業に対して報告徴求や立入検査を実施し、行政指導や行政処分を行う権限を持っています。

これは労働法の専門家の河合准教授が指摘するとおり、法律違反の行為であり、アンケート調査や、企業側の人事部や経営陣が就活生の「本音」や「日常のすがた」が知りたいと思っているから許されるという問題ではないのです。

■参考文献
・菅野和夫『労働法 第12版』69頁
・浜辺陽一郎『労働法実務相談シリーズ10 個人情報・営業秘密・公益通報』98頁、100頁
・大矢息生・岩出誠・外井浩志『会社と社員の法律相談』53頁
・労務行政研究所『新・労働法実務相談 第2版』45頁
・公正な採用選考の基本|厚労省

■関連する記事
・2022年の改正職業安定法・改正個人情報保護法とネット系人材紹介会社や就活生のSNS「裏アカ」調査会社等について考えるープロファイリング
・人事は就活生のSNSを見ているのか?-就活と個人情報・SNS
・Github利用規約や厚労省通達などからSNSなどをAI分析するネット系人材紹介会社を考えた
・コロナ下のテレワーク等におけるPCなどを利用した従業員のモニタリング・監視を考えた(追記あり)-個人情報・プライバシー・労働法・GDPR・プロファイリング
・リクルートなどの就活生の内定辞退予測データの販売を個人情報保護法・職安法的に考える
・令和2年改正個人情報保護法ガイドラインのパブコメ結果を読んでみた(追記あり)-貸出履歴・閲覧履歴・プロファイリング・内閣府の意見
・欧州の情報自己決定権・コンピュータ基本権と日米の自己情報コントロール権
・JR東日本が防犯カメラ・顔認証技術により駅構内等の出所者や不審者等を監視することを個人情報保護法などから考えた















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1.Githubの利用規約とネット系人材紹介会社
ある方が、Twitter上で「「Githubをみてメールしました」との人材紹介会社からのメールが来るけれど、これはGithubの利用規約違反ではないか?」という趣旨の投稿をされているのを見かけました。

以前より、私もGithubやSNSなどネット上で個人情報を収集している最近のネット系人材紹介会社(LAPRASHackerBase Jobsなど)に関心があったので、Githubの利用規約をみてみました。

すると、Github利用規約「5.情報利用の制限」はつぎのように規定しており、たしかに、ユーザーの個人情報を、人事採用担当者、ヘッドハンター、求人掲示板など販売することなどの目的で、Githubのサービスから取得して利用することはできないとはっきり禁止規定が存在します。

Github利用規約
5.情報利用の制限
「ユーザ個人情報」を、ユーザに対して未承諾メールを送信する、人事採用担当者ヘッドハンター求人掲示板など販売するといった目的を含め、スパム目的で本「サービス」から取得 (スクレイピング、APIを介した情報収集、その他の手段による取得) した情報利用することはできません。


github利用規約5情報の利用制限
(Githubより)

・Github利用規約

また、Github企業向け利用規約「3.プライバシー」も次のように規定し、企業(「お客様」)はGithubから「外部ユーザー」(=当該企業の顧客には未だなっていないユーザー)個人情報を収集して使用するには、当該ユーザー「利用目的」への「承認」が必要であると明記しています。

つまり、ここでも企業がユーザーの個人情報を取得し利用するためには、ユーザー本人の同意が必要であると明記されています。

「お客様がGitHubから「ユーザ個人情報」を収集した場合、お客様は「外部ユーザ」承認した目的にのみその個人情報を使用するものとします。


github企業向け利用規約
(Githubより)

このようにみてみると、人材紹介会社が、Github上のユーザーの本人の同意なしに、ユーザーの個人情報を収集し、分析、加工するなどして求人を行っている企業の人事部やヘッドハンターなどに第三者提供することは、Githubの利用規約に違反していることになります。

もし、Github上のユーザーの個人情報の企業などによる違法・不当な収集・利用があった場合、「GitHubはGitHubまたは「外部ユーザ」からの苦情、削除要請、および連絡拒否の要請速やかに対応する」と規定されており(Github企業向け利用規約「5.情報利用の制限」)、また、企業などは「当社やその他ユーザからの苦情、削除要請、および連絡拒否の要請速やかに対応する」(Github利用規約「6.プライバシー」)ことが義務付けられています。

2.ネット系人材紹介会社と職業安定法5条の4・2019年の厚労省通達
また、2019年に就活生のネット閲覧履歴などのAI分析に基づく内定辞退予測データの販売が大きな社会的問題となったリクナビ事件を受けて、厚労省職業安定局は2019年9月6日付で「募集情報等提供事業者等の適正な運営について」(職発0906第3号令和元年9月6日)との通達を発出しています。

・厚労省職業安定局「募集情報等提供事業者等の適正な運営について」(職発0906第3号令和元年9月6日)|厚労省(PDF)

厚労省通達職発0906第3号

この2019年の通達では、人材紹介会社や求人企業などは、求職者の個人情報を収集する際には、「本人から直接収集」するか、あるいは「本人の同意」の下に収集をしなければならないと明記されており、職業安定法5条の4および指針通達平成11年第141号第4「法5条の4に関する求職者等の個人情報の取扱い」の規定が再確認されています。(なお、本人同意は形式的なものであってはならないこと、人材会社等のサービスを利用するために本人の同意を条件とするなど同意を事実上強制してはならないこと等も明記されていることも注目されます。)

また、この2019年の通達では、「人材会社などの事業者の判断により求職者の個人情報選別または加工を行うことの禁止」を明記していることも大いに注目されます。(これは、EUのGDPR22条や、2000年の労働省「労働者の個人情報保護に関する行動指針」第2、6(6)などの「コンピュータによる個人データの自動処理のみによる法的決定・重要な決定の拒否権」と同じ趣旨の考え方であると思われ注目されます。平成28年の個人情報保護委員会の「個人情報保護法ガイドライン(通則編)」制定後は、日本の官庁はこの自動処理拒否権を無視・否定しているかに見えたのですが、この考え方は現在も日本で有効であるようです。すなわち、現在の日本政府は、AIやコンピュータによる個人情報の無制限な利活用を許容していないことになります。

ネット系人材会社LAPRASなどは、サイトの説明によると、転職を希望している「転職顕在層」だけでなく、「転職潜在層」のGithubなどネット上の個人データを収集・加工して求人企業の人事部などに提供を行うビジネスを業務を行っているようです。また、同社サイトはオプトアウト手続きのための入力フォームを現在も設置しており、やはり本人の同意を得ていない個人の個人データをネット上で収集し加工するビジネスを現在も行っているようです。

LAPRAS宣伝
(LAPRAS社サイトより)

そのため、LAPRASなどネット系人材紹介会社の業務は、(LAPRASの場合は「転職潜在層」に関して)個人の個人情報について、「本人から直接取得」あるいは「本人の同意」を得て収集しておらず、また、それらの個人情報・個人データを事業者の判断で選別・加工して、その個人データを求人企業などに提供しているようです。

したがって、Githubなどネットで個人情報を収集してるネット系人材会社のLAPRASなどのビジネスモデルは、やはり、Githubの利用規約に違反してると共に、職安法5条の4や厚労省の通達平成11年第141号、2019年の厚労省通達職発0906第3号などに違反しているのではないかと思われます。

■参考文献
・菅野和夫『労働法 第12版』69頁、262頁
・小向太郎・石井夏生利『概説GDPR』93頁
・山本龍彦『AIと憲法』101頁

■関連する記事
・AI人材紹介会社LAPRAS(ラプラス)の個人情報の収集等について法的に考える
・リクルートなどの就活生の内定辞退予測データの販売を個人情報保護法・職安法的に考える
・コロナ下のテレワーク等におけるPCなどを利用した従業員のモニタリング・監視を考えた-個人情報・プライバシー・労働法・GDPR
・人事労務分野のAIと従業員に関する厚労省の労働政策審議会の報告書を読んでみた
・デジタル庁のプライバシーポリシーが個人情報保護法的にいろいろとひどい件-個人情報・公務の民間化
・LINEの個人情報・通信の秘密の中国・韓国への漏洩事故を個人情報保護法・電気通信事業法から考えた











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東急不動産脳波センサー
(東急不動産本社の脳波センサーを着けた従業員達。日経新聞より)

1.コロナ禍によるテレワークの進展で、PCなどによる従業員のモニタリング・監視が進んでいる
コロナ禍によるテレワークの進展にともない、自宅等で業務を行っている従業員をPCやスマートデバイスなどでモニタリング・監視しようという研究開発が進んでいるようです。

例えば最近、NHKは4月24日に、「テレワーク 働きぶりの“見える化” 導入広がる 新型コロナ」というニュースを報道しました。

このニュースで取り上げられたIT企業アイエンターのシステムは、自宅等で働いている従業員がソフトウェア上の「着席」のボタンを押して仕事をしている間の、パソコンの画面がランダムに撮影され、上司に送信される仕組みがあるとのことです。いつ画面が撮影されるか社員には分からない仕様とのことです。

また、2019年10月に、東急不動産が職場の従業員に脳波センサーのヘッドギアを着けさせて従業員のモニタリング・監視を行っているという報道は、ディストピアSFのようだと、ネット上で大きな話題となりました。東急不動産は、脳波センサーだけでなく、音圧センサーなどのスマートデバイスを従業員につけさせることにより、従業員の感情、ストレスの度合い、会話や位置情報も収集し分析しているそうです。

・東急不動産の新本社、従業員は脳波センサー装着|日経新聞
・「働き方改革」の見える化を実現し、選ばれるオフィスへ|東急不動産


日立も、スマホ等で従業員をモニタリング・監視するアプリなどを開発する「ハピネス事業」を展開しています。また、NECやパナソニック、凸版印刷なども、「働き方改革」やテレワーク対策のために、従業員をPCやスマートデバイスなどでモニタリング・監視する商品・サービスの展開を進めているようです。

・幸せの見える化技術で新たな産業創生をめざす「出島」としての新会社を設立|日立
・残業時間が丸見え NECが働き方監視サービスを強化|日経新聞
・ニューノーマル時代のオフィスとは? パナソニックの「worXlab」を訪ねる|マイナビニュース


2.日本の個人情報保護法制・労働法
このような事業者・使用者による従業員のPCやスマートデバイス、監視カメラなどによるモニタリング・監視は、法的に問題はないのでしょうか。

この点、2000年に制定された労働省「労働者の個人情報保護の行動指針」の「第2 個人情報の処理に関する原則」の6(5)(6)は、つぎのように規定しています。
「(5)職場において、労働者に対して常時ビデオ等によるモニタリングを行うことは、労働者の健康及び安全の確保又は業務上の財産の保全に必要な場合に限り認められるものとする。」

「(6)使用者は、原則として、個人情報コンピュータ等による自動処理又はビデオ等によるモニタリングの結果のみに基づいて労働者に対する評価又は雇用上の決定を行ってはならない。

・労働者の個人情報保護に関する行動指針|厚労省

また、厚労省2019年6月27日付『労政審基本部会報告書~働く人がAI等の新技術を主体的に活かし、豊かな将来を実現するために~』の9頁、10頁は、HRtechや人事労務分野でAIを利用することについて、つぎのように問題点を指摘しています。

プライバシーについては、AI 等の活用により、個人データから政治的立場、経済状況、趣味・嗜好等が高精度で推定できるため、企業は、労働者の権利が侵害されないよう、サイバーセキュリティの確保を含むリスク管理のための取組を進めるなど適切に情報セキュリティを確保しつつ、個人データを扱うことが求められる。

『このため、AI の活用について、企業が倫理面で適切に対応できるような環境整備を行うことが求められる。特に働く人との関連では、人事労務分野等において AI をどのように活用すべきかを労使始め関係者間で協議すること、HRTech を活用した結果にバイアスや倫理的な問題点が含まれているかを判断できる能力を高めること、AI によって行われた業務の処理過程や判断理由等が倫理的に妥当であり、説明可能かどうか等を検証すること等が必要である。

このように、テレワーク等の環境下において、PCやスマートデバイス等により歯止めなく無制限に従業員をモニタリング・監視することや、収集された個人データのみにより従業員の人事考課を行うことは、「労働者の個人情報保護に関する行動指針」第2.6(5)(6)に違反しており、また、厚労省の2019年6月27日付の労政審基本部会報告書「~働く人がAI等の新技術を主体的に活かし、豊かな将来を実現するために~」9頁、10頁の趣旨にも抵触していることになります。

3.裁判例から考える
企業・使用者には、労働契約に基づいて従業員に対して指揮命令権(労務指揮権)があり、また職場の施設管理権も有しています。

しかし職場内においても、労働者にとって私的な領域が存在し、労働者のプライバシー権や人格権が問題となります。そのため、企業が会社の備品の保全や製品・サービスの品質管理などのために、労働者のロッカーなどの所持品検査や職場の電子メールの監視・モニタリングなどをどの程度行うことができるのかついて、裁判で争われてきました。

この点のリーディングケースである、西日本鉄道事件の最高裁判決は、使用者が行う所持品検査について、①検査を必要とする合理的な理由の存在、②検査方法と程度の妥当性、③制度として職場の従業員に画一的に実施されていること、④就業規則その他に明示の根拠があること、という所持品検査が適法となる4要件を示しました(最高裁昭和43年8月2日判決・西日本鉄道事件)。

そして、職場の電子メールの監視・モニタリングが争点となった、F社Z事業部電子メール事件(東京地裁平成13年12月3日判決)の判決は、「監視の目的、手段およびその態様等を総合考量し、監視される側に生じた不利益とを比較考量の上、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合、プライバシー権の侵害となる」と判示しています。

すなわち、「監視の目的、手段、その態様などを総合考量し、監視される側に生じた不利益とを総合考量して、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合」には、労働者のプライバシー権が侵害され不法行為が成立することになります(山本龍彦「職場における電子メールの監視と不法行為責任」『新・判例ハンドブック情報法』98頁)。

この裁判例をもとに冒頭の東急不動産や日立の「ハピネス事業」の取組や、NHKの報道しているテレワークにおける従業員のモニタリング・監視を検討すると、「よりよい職場環境のための研究」「テレワーク中の従業員が職務に専念しているか監視すること」などの「監視の目的」は、一応、妥当なものといえるかもしれません。

しかし、業務時間中ずっとPCや脳波センサーなどのデバイスで従業員を監視し続けることは、「監視の手段、その態様」において、社会通念上相当な範囲を超えていると思われます。とくに東急不動産の脳波センサーなどの事例は、従業員の脳波というセンシティブな生体データを業務時間中ずっとモニタリングしており、「監視の手段、様態」の面で大きく社会通念上相当な範囲を逸脱しています。

したがって、テレワークにおけるPCによる従業員のモニタリング・監視や、東急不動産や日立の脳波センサーやスマホによる従業員のモニタリング・監視は、かりに従業員側から民事訴訟が提訴された場合、「監視の手段、様態」などが限度を超えており、従業員のプライバシー権(憲法13条)が侵害され不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)が成立するという判決が出される可能性があります。

■追記(2021年5月)
なお、個人情報保護委員会の個人情報保護法ガイドラインQA5-7は使用者による従業員のモニタリングについてつぎのように規定しています。

①モニタリングの目的をあらかじめ特定し、社内規程等に定め、従業員に明示すること。
②モニタリングの実施に関する責任者及びその権限を定めること。
③あらかじめモニタリングの実施に関するルールを策定し、その内容を運用者に徹底すること。
④モニタリングがあらかじめ定めたルールに従って適正に行われているか、確認を行うこと。

そして使用者はあらかじめモニタリングの重要事項等について労働組合等と協議し、従業員に周知する努力義務を負うとしています。

個人情報保護法ガイドラインQA5-7
(個人情報保護法ガイドラインQA5-7。PPCサイトより)

4.EUのGDPRから考える
2018年から施行された、EUのGDPR(一般データ保護規則)は、同22条1項において、「コンピュータによる自動処理(プロファイリング)のみによる法的決定・重要な決定を拒否する権利」を規定しています。

管理者(事業者)とデータ主体(本人)との契約に必要な場合等はその例外となるとされていますが(同22条2項)、生体データ・健康データ等のセンシティブ情報(特別カテゴリーの個人データ)はそのさらに例外で「本人の明示的同意」が必要(9条)とされています。しかも管理者は、本人から同意を取得する前提として、本人にどのようなデメリットがあるか等の情報提供義務(13条、14条)を負います。

またさらに、GDPRにおいては、本人の同意の任意性が重視されます。管理者とデータ主体との間に力関係の明らかな不均衡がある場合は、同意は有効な適法要件とすべきではないと規定されています(前文43条)。

そして、GDPRの解釈・運用指針の一つの、29条作業部会「同意に関するガイドライン(WP259 ver.01)」5頁以下は、「管理者が本人に対して強い立場にある場合は、同意を根拠に個人データを取扱うことはできない。雇用主に対して、個人データを取扱わないでほしいと本人が要請することは通常難しい。雇用主が職場の監視カメラ設置や、人事関連書類の提出について従業員に同意を求めれば、従業員はこれを拒否することに躊躇するはずである。そのため、雇用主は、基本的に同意を根拠として個人データの処理はできない。」と規定しています(小向太郎・石井夏生利『概説GDPR』60頁)。

したがって、日本では、さまざまな企業がわれ先にと、PCや監視カメラなどを利用した従業員のモニタリング・監視の商品・サービスの研究開発を行い、これらの商品・サービスの販売が行われていますが、このような日本の従業員の監視・モニタリングの商品・サービスは、EUのGDPRにおいては違法と判断される可能性が高いと思われます。

とくに日立は欧州に事業所を設置して業務を行っておりますが、自社の「ハピネス事業」についてEUのデータ保護当局から説明を求められた場合に、どのように説明しようとしているのか気になるところです。

なお、EUは4月21日に、AI規制法案を公表しました。これは、GDPR22条のAI版とも呼べるものであり、防犯カメラによる顔認証の原則禁止や、信用スコア、運輸・ガス・水道関連の社会インフラ、教育分野、採用・人事考課、ローンなどに絡む信用調査、移民・難民に関わる事務などへのAIの利用が規制の対象となります。

・EUのAI規制案、リスク4段階に分類 産業界は負担増警戒|日経新聞
・Europe fit for the Digital Age: Commission proposes new rules and actions for excellence and trust in Artificial Intelligence|European Union

5.西側自由主義諸国の個人データ保護法制の歴史(?)とまとめ
1960年代からのコンピュータの発展による人権侵害のおそれを受けて作成された、1974年の国連事務総長報告書「科学の発展と人権」以来、「コンピュータによる人間の選別を拒否する権利」(プロファイリング拒否権)プライバシー権・自己情報コントロール権などと並んで世界の個人情報保護法(個人データ保護法)の重要な法目的のひとつでした。この考え方は、1980年のOECD8原則や、1996年のILO「労働者の労働者の個人情報保護に関する行動準則」などに受け継がれ、EUにおいては1995年のEUデータ保護指令15条から2018年のGDPR22条となり、さらに本年4月に公表されたAI規制法案に受け継がれています。(2009年発効のリスボン条約により法的拘束力を持つEU基本権憲章Ⅱ-8は「あらゆる人は、自らに関する個人情報を保護される権利を持つ」と個人情報保護を規定しています。)

そして日本においても、2000年の労働省「労働者の個人情報保護に関する行動指針」第2「個人情報の処理に関する原則」6(6)「使用者は、原則として、個人情報のコンピュータ等による自動処理又はビデオ等によるモニタリングの結果のみに基づいて労働者に対する評価又は雇用上の決定を行ってはならない」と規定され、2019年の厚労省の「労働政策審議会労働政策基本部会報告書~働く人がAI等の新技術を主体的に活かし、豊かな将来を実現するために~」9頁、10頁においてもこの考え方は踏襲されています。つまり日本においても、プロファイリング拒否権の考え方は無縁ではないのです(宮里邦雄・徳住堅治『労働法実務改正8 高齢者雇用・競業避止義務・企業年金』144頁)。

コンピュータ自動処理拒否権の歴史の図1
コンピュータ自動処理拒否権の歴史の図2

日本の個人情報保護法制においては、この「コンピュータによる人間の選別を拒否する権利(プロファイリング拒否権)」がなぜか立法目的においてぼかされたまま立法や運用が行われてきました(個人情報保護法1条、3条)。

しかし、国民の個人の尊重や基本的人権の確立を国家の目的(憲法11条、97条)とする、18世紀以降の西側自由主義諸国の近代憲法による民主主義国家という国家体制を、日本が今後も採ろうとするのであれば、日本は個人情報保護法制において、「コンピュータによる人間の選別を拒否する権利」やプライバシー権、自己情報コントロール権などを立法目的に明記し、それを守るための立法や運用を行うべきです。

このままでは、日本の個人データ保護法制はガラパゴス化の道を進み、西側自由主義諸国の個人データ保護法制からますます離れて、中国などのような国家主義・全体主義国家の個人データ保護法制にますます接近してしまうと思われます。

■追記(2021年8月)
『ビジネス法務』2021年9月号78頁の弁護士の川端小織先生の論文「在宅勤務における「従業員監視」はどこまで許されるか?」は、ウェアラブル端末による従業員のモニタリングについて、「ウェアラブル端末を用いれば在宅勤務中の従業員の脳波を計測し、そこから従業員の集中力を導き出して人事評価に利用するとの発想もあり得る。しかしこのようなモニタリングはプライバシー侵害の危険という法的問題があるうえ、従業員にとって納得感のある客観的な人事評価指標とはいえないであろう」としておられます。

■関連するブログ記事
・従業員をスマホでモニタリングし「幸福度」「ハピネス度」を判定する日立の新事業を労働法・個人情報保護法的に考えた
日銀『プライバシーの経済学入門』の「プロファイリングによって取得した情報は「個人情報」には該当しない」を個人情報保護法的に考えた(追記あり)
・AI人材紹介会社LAPRAS(ラプラス)の個人情報の収集等について法的に考える
人事労務分野のAIと従業員に関する厚労省の労働政策審議会の報告書を読んでみた
・【デジタル関連法案】自治体の個人情報保護条例の国の個人情報保護法への統一化・看護師など国家資格保有者の個人情報の国の管理について考えた
・2021年の個人情報保護法の改正法案の学術研究機関の部分がいろいろとひどい件-デジタル関連法案
・トヨタのコネクテッドカーの車外画像データの自動運転システム開発等のための利用について個人情報保護法・独禁法・プライバシー権から考えた
・LINEの個人情報・通信の秘密の中国・韓国への漏洩事故を個人情報保護法・電気通信事業法から考えた
・リクルートなどの就活生の内定辞退予測データの販売を個人情報保護法・職安法的に考える
・デジタル庁のプライバシーポリシーが個人情報保護法的にいろいろとひどい件-個人情報・公務の民間化
・令和2年改正個人情報保護法ガイドラインのパブコメ結果を読んでみた(追記あり)-貸出履歴・閲覧履歴・プロファイリング・内閣府の意見
ドイツの国勢調査事件判決と情報自己決定権についてーBVerfGE 65,1, Urteil v.15.12.1983
・ドイツ・欧州の情報自己決定権・コンピュータ基本権と日米の自己情報コントロール権について
・デジタル庁「教育データ利活用ロードマップ」は個人情報保護法・憲法的に大丈夫なのか?
・スーパーシティ構想・デジタル田園都市構想はマイナンバー法・個人情報保護法や憲法から大丈夫なのか?-デジタル・ファシズム

■参考文献
・菅野和夫『労働法 第12版』262頁、695頁
・岡村久道『個人情報保護法 第3版』225頁
・小向太郎・石井夏生利『概説DGPR』60頁、64頁、93頁
・山本龍彦「職場における電子メールの監視と不法行為責任」『新・判例ハンドブック情報法』98頁
・労務行政研究所『新・労働法実務相談 第2版』551頁
・田島正広『インターネット新時代の法律実務Q&A 第3版』110頁
・川端小織「在宅勤務における「従業員監視」はどこまで許されるか?」『ビジネス法務』2021年9月号78頁
・宮里邦雄・徳住堅治『労働法実務改正8 高齢者雇用・競業避止義務・企業年金』144頁
・高木浩光「個人情報保護から個人データ保護へ―民間部門と公的部門の規定統合に向けた検討」『情報法制研究』2巻75頁
・衆憲資第56号 欧州憲法条約-解説及び翻訳-|衆議院
・労働政策審議会労働政策基本部会報告書~働く人が AI 等の新技術を主体的に活かし、豊かな将来を実現するために~(2019年)|厚労省 


■追記(2022年3月18日)
2022年3月18日に、情報法制研究所の高木浩光先生のつぎのインタビュー記事に接しました。
・高木浩光さんに訊く、個人データ保護の真髄 ——いま解き明かされる半世紀の経緯と混乱|Cafe JILIS



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