なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

カテゴリ: 会社法・商法

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1.はじめに
コロナ対策のために、定時株主総会において株主に対して事前登録制や抽選制などの制限を設けることが違法でないとされた興味深い裁判例が出されていました(静岡地裁沼津支部決定令4.6.27(確定)、『資料版/商事法務』461号137頁)。

2.事案の概要
Y1会社(スルガ銀行株式会社)の代表取締役であるY2は、令和4年6月、株主ら(議決権のある株式を有する株主約2万9000名)に対して、定時株主総会(本件株主総会)を令和4年6月29日午前10時から静岡県沼津市の総合コンベンション施設の一室(本件会場)で開催することを通知した。その招集通知には、新型コロナの感染拡大防止の観点から、健康状態にかかわらず来場を希望する株主は事前登録をし、事前登録を希望する者が本件会場の座席数を超える場合には抽選を実施すること等が記載されていた。

これに対して、Y1会社の株主のXら(合計303名)は、株主には株主総会に出席し、議題や議案に関する説明を求め、もしくは意見を述べる機会または株主提案の趣旨説明をする機会を与えられる権利(総会参与権)があり、本件株主総会の事前登録制や抽選制はこの総会参与権を不当に奪うものであると主張した。

XらはY1に対して、主位的に①株主の総会参与権に基づく妨害排除請求権または会社法360条所定の違法行為差止請求権を争いがある権利関係として本件株主総会の開催禁止を求め、予備的に②Y1会社およびY2に対して上記妨害排除請求権を争いがある権利関係として、本件株主総会にXらが出席して株主権を行使することの妨害禁止を求める仮の地位を定める仮処分命令を申し立てたのが本件訴訟である。

3.裁判所の判断
裁判所はつぎのように判示してXらの訴えを退けた(確定)。

判旨
(1)Xらは、株主総会に出席し、議題や議案に関する説明を求めもしくは意見を述べる機会等が権利(総会参与権)として各株主に保障されているとして、総会参与権を確保するための妨害排除請求権として本件株主総会の差止請求権を有していると主張する。しかし、会場の規模や時間的制約等により出席株主数を無制限とすることはできず、総会参与権を有するとしても、希望すれば必ず株主総会に出席できる権利であると認めることはできない。各株主の総会参与権に基づく株主総会開催差止請求権を観念することは困難である。

(2)仮に、各株主の総会参与権に基づく差止請求権を観念する余地があるとしても、令和4年6月時点で、不特定多数の株主がY1会社の定時株主総会に全国から集まる際に、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止という公益目的のために出席株主数を一定数に限定し、かつ、株主間の公平性を担保するために、事前登録の希望者が会場に設置する座席数を超える場合には事前登録者から抽選により出席者を選定するという事前登録制を採用することは、やむを得ないものであり、事前登録制の採用自体が合理性を欠くものであるとは認められない。

4.検討
株主は株主たる資格に基づいて株主総会に出席し、質問および意見を述べるような権利、すなわち総会参与権(総会参加権、広義の議決権)を有していると解されています(加美和照『新訂会社法 第10版』251頁)。

本判決は、このような総会参与権を認めつつも、新型コロナの感染拡大防止などの要請との比較衡量により、株主の総会参与権が制約を受けることがあり得るのであり、Xら株主の総会差止請求権は否定されることがあり得ると判示したものと解され、その結論は妥当であると思われます。

なお、令和2年4月に経産省と法務省が策定した「株主総会運営に係るQ&A」は、Q2で「会場に入場できる株主の人数を制限すること」も可能であるとし、Q3で「株主総会への出席について事前登録制を採用」することも可能であるとしており参考になります。

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■関連する記事
・新型コロナの緊急事態宣言をうけ、代表取締役が招集通知後に取締役会決議を経ずに株主総会の日時場所を変更したことが違法でないとされた裁判例-大阪地決令2.4.22

■参考文献
・前田庸『会社法入門 第12版』381頁
・加美和照『新訂会社法 第10版』251頁
・「スルガ銀行定時株主総会開催禁止等仮処分命令申立事件」『資料版/商事法務』461号137頁
・『銀行法務21』2022年10月号69頁
・経産省・法務省「株主総会運営に係るQ&A」(令和2年4月)



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kabunuushi_soukai
1.はじめに
2020年(令和2年)4月に、国の新型コロナ緊急事態宣言をうけ、代表取締役が招集通知後に取締役会決議を経ずに株主総会の日時場所を変更したことが違法でないとされた興味深い裁判例が出されています(大阪地裁令和2年4月22日決定・積水ハウス株主総会事件)。

2.事案の概要
訴外A社(積水ハウス株式会社)は、住宅建設などを行う建設会社であり、会社法上の公開会社かつ大会社であり監査役設置会社である。YはA社の代表取締役であり、XはA社の取締役であり、A社の株式を6か月以上前から保有している。訴外Bは、A社の前代表取締役である。

XおよびBは、2020年2月14日付で、A社に対し、X、Bなど9名を取締役に選任するための提案権を行使した。同年3月5日、A社の取締役会は定時株主総会招集決議を行った(本件定時株主総会決議)。同年4月1日、A社は本件定時株主総会決議に基づき、定時株主総会(本件定時株主総会)の招集通知を同社のウェブサイトに公表し、同年4月6日、Yは株主に対して招集通知の書面を発送した。

招集通知においては本件定時株主総会は、日時は2020年4月23日午後10時より、場所は大阪市のCホテル2階のホテル大宴会場と記載されていた。

同年4月7日、国は新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)32条に基づき、新型コロナウイルス感染症に係る緊急事態宣言を発出し、同日、大阪府知事は、特措法24条9項に基づき府内の一定施設に対して、同年4月14日から同年5月6日までの休業等の要請を行った。

この緊急事態宣言を受けた大阪府知事の休業要請により、Cホテルのホテル大宴会場が利用不能となったため、Yは同年4月15日、本件定時株主総会の開催場所を大阪市のCホテルに隣接するDビルの35階フロアとし、開始時刻を30分遅らせて午前10時30分と変更し(本件変更)、「定時株主総会 開催場所・開始時刻変更等について」との情報を、A社ウェブサイトで公表した。

これに対してXは、Yの本件変更は、招集手続きに関する法令(会社法298条1項1号、4項、299条)に違反したYの違法行為であり、本件決定を前提に本件定時株主総会を開催することは、YのA社に対する善管注意義務違反であると主張し、差止請求権を被保全権利として、本件定時株主総会の開催禁止を求める仮処分命令を申し立てたのが本件訴訟である(同360条3項、1項)。

3.裁判所の決定の要旨
「会社法上、株主総会を招集するにあたり、取締役会で定めた会社法298条1項所定の事項を変更しようとする場合の要件や手続きにつき、明文の規定はない。(略)もっとも、(略)本件定時株主総会招集決議の権限の範囲は、本件定時株主総会招集決定の合理的解釈によって画定されるものというべきである。招集通知(略)の最初の頁には、新型コロナウイルス感染症への対応として、『本定時株主総会運営に変更が生じた場合には、以下のウェブサイトに掲載いたしますので、ご出席の際にはご確認ください。』という一文が明記され、参照先のURLが記載されていたのであるから、本件定時株主総会招集決定は、新型コロナウイルス感染症の動向いかんによっては定時株主総会の運営に変更があり得ることを前提としていたことは明らかであり、変更をおよそ許容しない趣旨と解することはできない。」

Y限りで株主総会の日時及び場所を変更することの可否等も、本件定時株主総会招集決議の解釈により決せられることになる。もとより、本件定時株主総会招集決議を執行するにあたり、株主の議決権行使が妨げられることとなるような恣意的な変更を許容する趣旨と解することはできないが、少なくとも本件のように、Yが、当初予定していたホテル大宴会場の使用が事実上不可能となったことに伴い、代替会場として、隣接する高層ビルの35階をフロアごと確保し、これに伴い、35階空きフロアへの移動時間を考慮して開始時刻を30分繰り下げる範囲で本件定時株主総会の開始時刻及び場所を変更するにとどまる本件変更は、本件定時株主総会決議の執行の域を逸脱するものとまではいえない。」

「Xは、Yが自己の保身等のために本件定時株主総会開催を強行しようとするものであるかのように主張する。(略)しかし、A社取締役会も、取締役候補者選任をめぐっては鋭く対立しているものの、緊急事態宣言前後を通じて、本件定時株主総会を開催する方向で異論なく準備を進めてきたと認められるのであり、それまでのYの認識と前提を全く異にする義務を肯定することは困難である。(略) よって、本件仮処分命令申立は、被保全権利の疎明を欠くものとして、理由がない。」

4.検討
(1)株主総会の日時・場所の変更について
監査役設置会社などの取締役会設置会社が株主総会を開催する場合には、株主総会の日時・場所など所定の事項を取締役会で決議し(会社法298条1項、4項)、株主総会の日の二週間前までに書面またはウェブサイト等で株主に通知しなければなりません(299条1項、2項、3項)。

しかし、会社法は株主総会の日時・場所などを変更する場合の要件や手続きなどの規定がないため、本事例のような場合に、株主総会の日時・場所などを変更できるのか、できるとしてどのような手続きをとるべきなのかが問題となります。

この点、学説・裁判例は、招集通知を通知後に株主総会の日時・場所を変更することも、正当な理由があり、かつ変更について株主に対する適切な周知方法がとられていれば、そのような変更は許されるとしています(広島地裁高松支部昭和36年3月20日判決)。

ただし、理由なく変更が行われた場合には、決議不存在事由になりうるとする裁判例も存在し(大阪高裁昭和58年6月14日判決)、開始時間を長時間遅らせることは決議取消事由となるとする裁判例も存在します(水戸地裁下妻支部昭和35年9月30日判決、江頭憲治郎『株式会社法 第7版』327頁)。

本判決の決定は、上の広島地裁高松支部の判決と異なり、招集通知送付後に取締役会決議を経ずに代表取締役限りで株主総会の日時・場所を変更することは、「本件定時株主総会招集決定決議の合理的解釈により決せられる」と判示しており、この点に意義のある裁判例です。

そして本裁判の決定は、招集通知に「本定時株主総会運営に変更が生じた場合には、以下のウェブサイトに掲載いたしますので、ご出席の際にはご確認ください」と明記されていることから、新型コロナの動向によっては定時株主総会の運営に変更がありうることを前提として取締役会決議がなされたことは明らかであり、変更を許容しない趣旨とは言えないとしています。この点は、招集通知からうかがわれる本件株主総会決議の内容として合理的な解釈であるといえるので、妥当なものであると思われます。

(2)取締役会決議を経ないで株主総会の日時・場所を変更することの可否
本裁判の決定は、取締役会決議を経ないで株主総会の日時・場所を変更することの可否について、「代表取締役限りで本件変更をすることの可否は、本件定時株主総会収集決議の解釈による」、そしてその解釈にあたっては、「株主の議決権行使が妨げられるような恣意的な変更は許されない」としています。

そのうえで、本裁判の決定は、①Cホテルのホテル大宴会場が事実上使用不可能となったこと、②代替会場として、隣接するDビルの35階フロアを確保したこと、③Dビルの35階フロアへの移動時間を考慮して開始時刻を30分遅らせて午前10時30分からとしたこと、の3点から、本件変更は本件定時株主総会招集決議の解釈の限度内にとどまると判示しています。これは妥当な判断であると考えられます。

(3)Yの善管注意義務違反の有無
Xは、Yが自己保身のために本件定時株主総会の開催を強行しており、それは取締役の善管注意義務(会社法330条、民法644条)の違反に該当すると主張しています。

これについて本裁判の決定は、「本件定時株主総会招集決議の趣旨は、流会等の措置を講じることではなく、新型コロナの動向に照らし、Yが本件変更を前提として本件定時総会を開催することにある」として、その趣旨に沿って開催のために事務を行う以上は、Yに善管注意義務は認められないと判示しています。上でみたように本件変更は妥当であると考えられますので、それを実現するためのYの行為は善管注意義務違反にならないとの判断は妥当であると思われます。

(4)その他、新型コロナと株主総会について
法務省は、新型コロナに関連して、定款で定めた時期に定時株主総会を開催できない場合には、その状況が解消された後、合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りるとしています。また、定款に定めた基準日から3か月以内に定時株主総会を開催できない場合は、新たに議決権行使のための基準日を定め、当該基準日の2週間前までに当該基準日および基準日株主が行使することができる権利の内容を公告した上で、定款に定めた基準日から3か月以上を経過した日に株主総会を開催することができるとしています(法務省「定時株主総会の開催について」2020年4月2日更新)。

また、新型コロナの動向により、招集通知送付後に予定していた株主総会の会場が使用できなくなった場合は、予定していた株主総会の会場のできるだけ近隣の施設や社内などを利用し、代替会場の手配を行い、開催場所・時間の変更を行うべきとされています。旧会場からの移動のために、開催時間の繰り下げや、株主を案内するためのスタッフの用意などが必要になります。そして株主総会の変更を会社のウェブサイト等で株主に周知する必要があります(須磨美月「総会準備と当日の運営」『新型コロナウイルス影響下の法務対応』44頁、52頁)。

■参考文献
・尾形祥「株主総会の開催場所の変更等を理由とする違法行為差止めの可否」TKCローライブラリー新・判例解説 商法136
・江頭憲治郎『株式会社法 第7版』327頁
・須磨美月「総会準備と当日の運営」『新型コロナウイルス影響下の法務対応』44頁、52頁
・東京弁護士会会社法部編『新・株主総会ガイドライン 第2版』6頁
・法務省「定時株主総会の開催について」2021年1月29日更新
・経産省・法務省「株主総会運営に係るQ&A」2020年4月2日
・経産省「「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集」を策定しました」2021年2月3日













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1.はじめに
名古屋地裁で商品先物取引業の会社の代表取締役らについて内部統制システムの確立・整備義務違反があったとして損害賠償責任を認めた興味深い判決が出されています(名古屋地裁平成30年11月8日判決・一部認容・控訴、金融・商事判例1559号19頁・コムテックス事件)。

2.事案の概要
それまで商品先物取引を含む投資経験のなかった会社役員の30歳台の原告Xは、商品先物取引業を営む被告会社Y1の営業職員Y4らの勧誘により平成24年7月から11月にかけて124日間、金を対象とする商品先物取引を行ったが、約1700万円の損害が発生したとして、Y1、Y4および、取引期間中のY1の代表取締役であったY2およびY3に対して、不招請勧誘禁止違反、適合性原則違反、新規委託者保護義務違反などを理由として損害賠償請求訴訟を提起したのが本件訴訟である。

本件訴訟において、XはY2およびY3に対しては、Y1社における内部統制システム整備義務違反による会社法429条に基づく損害賠償責任を主張した。なお、Y1社は平成20年1月に商品先物取引法に基づき、農林水産省および経済産業省(主務省)より35日の業務停止処分および業務改善命令を受けていた(本件行政処分)。

3.判旨
請求一部認容。控訴。

判決はXの過失を4割と認定し、Y2およびY3に対してつぎのように判示して、Y1、Y2、Y3、Y4らに対して連帯して約1020万円の損害賠償の支払いを命じる判決をだしています。

『前記4(2)ア及びウ認定事実によれば、本件行政処分以後、Y1社においては、営業外務員に対する懲罰規程(略)、受託業務管理規則に係る勧誘規程(略)、社内監査規程(略)等の各種規程が改正策定され、従業員に対する研修や社内監査などを実施してきたこと、Y1社は、本件行政処分以後は行政処分を受けていないこと、平成23年1月に法第193条1項3号に基づく許可を受けていることなど、Y1社では、前記各規程等に沿い、法令等遵守体制や内部管理体制を構築しようとしてきたことが認められる。

 しかしながら、前記認定事実4(2)によれば、Y1社が、本件行政処分以前の平成13年頃から平成18年頃にかけて、顧客との間で多数の紛争を抱え、多数の訴訟を提起され、適合性原則違反、新規委託者保護義務違反、両建てによる特定売買などの違法行為を認める判決が出されていたこと、主務省から受託業務停止処分(35営業日)及び業務改善命令という極めて重い本件行政処分を受け、前記第2の2(2)のとおり、同処分の中で、本件の違法事由と同様に、商品取引市場における取引等につき、特定の上場商品構成物品等の売付け又は買付けその他これに準ずる取引等と対当する取引等であってこれらの取引と数量又は期限を同一にしないものの委託を、その取引等を理解していない顧客から受けていたことが指摘されていること、その後Y1社では、前記各種規程を改正策定していたが、その後も依然として顧客との間で多数の苦情、紛争、訴訟が発生し続けていたこと、実際に前記2認定説示のとおり、従前の訴訟や本件処分で指摘された事項と同様あるいは類似の事項について違法性が認められる。

そうすると、Y2及びY3においては、Y1らが主張する前記各種規程及び諸施策の実効性に疑問を持つべきであり、Y4らが本件のような違法な勧誘行為を行うことは予見可能というべきであるから、内部管理体制を確立・整備を怠ったことについて、重過失が認められるというべきである。
(略)

 したがって、Y2及びY3は、Xに対し、連帯して、会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負うものというべきである(同法430条)。』

4.検討
(1)内部統制システム
内部統制システムまたはリスク管理体制とは、一定以上の規模の会社において、会社の計算および業務執行が適正かつ効率的に行われることを確保するため、取締役および各部署の長が業務執行の手順を設定するとともに、不祥事の兆候を早期に発見し是正できるように人的組織を組み立てることを指します(伊藤靖史ほか『LEGALQUEST会社法 第4版』181頁)。

そして、この内部統制システムは取締役会で決定しなければなりません(会社法362条4項6号、会社法施行規則100条)。そのため、業務執行権限を有する代表取締役などの取締役は、内部統制システム構築義務を負い、また、各取締役は代表取締役等が内部統制システムを構築して運用する義務を履行しているか監視する義務を負います(神田秀樹『会社法 第21版』232頁)。

さらに、この内部統制システム構築義務に代表取締役等が違反した場合には、代表取締役は会社に対する任務懈怠責任(会社法423条)が問題となり、当該代表取締役は第三者に対する損害賠償責任(同429条)を負うことになります(野村修也「内部統制システム」『会社法判例百選 第3版』108頁)。

企業がどのような内部統制システムを構築するかについて、学説は、構築すべき最低水準のシステムを前提とした上で、その具体的な手段の選択と最低水準を超えてどこまで充実させるかは経営判断の原則に基づくとしています(野村・前掲108頁)。

この点、内部統制システムについて最高裁は、システム開発会社内の架空売上による不正経理の事案において、「通常想定される架空売上の計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制は整えられていた」とした上で、同社の代表取締役の責任を否定しています(最高裁平成21年7月9日判決・日本システム技術事件、判例時報2055号147頁)。

(2)本名古屋地裁判決について
本名古屋地裁判決は、Y1社は平成20年の行政処分以降、営業職員に対する懲戒規定、勧誘規定、社内監査規定など各種の社内規定の整備を行い、これらの社内規定に沿って内部統制システムを構築しようとしてきたと認定しつつも、その後も本件と同様の違法な取引が行われ、「依然として顧客との間で多数の苦情、紛争、訴訟が発生し続けていた」と認定し、結論としてY2およびY2は内部統制システムの確立・整備の義務に違反していたとして、会社法429条に基づく損害賠償責任を認定しています。

この本判決の考え方は、企業がどのような内部統制システムを構築するかについて、構築すべき最低水準のシステムを前提とした上で、その具体的な手段の選択と最低水準を超えてどこまで充実させるかは経営判断の原則に基づくとする学説・判例の考え方に沿うものであると考えられます。

■参考文献
・『金融・商事判例』1559号19頁
・神田秀樹『会社法 第21版』232頁
・伊藤靖史ほか『LEGAL QUEST 会社法 第4版』181頁
・野村修也「内部統制システム」『会社法判例百選 第3版』108頁







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1.はじめに
最近、電子メールによる取締役会招集通知には法的に瑕疵があるとした興味深い裁判例が法律雑誌に掲載されていました。

2.東京地裁平成29年4月13日判決(棄却・控訴棄却)
(1)事案の概要
Y社(株式会社ロッテホールディングス)の創業者であるXはYの高齢の代表取締役であった。Xの息子AはY社の取締役であったが、総会決議により解任されて以来、Yの経営陣と対立していた。

2015年7月27日、AらはXとともにY社を訪れ、法令上の手続きを経ずにXを除くY社の取締役をすべて同日付で解任する人事発令をY社の社内ネットに掲載した。

これを受けて、Xを除く取締役は対応を協議し、同日午後11時23分に、全取締役および監査役の社内メールアドレス宛てに、同月28日午前9時30分から臨時取締役会を開催する旨の電子メールを送信した。

Y社の定款には、取締役会の招集期間を3日間とし、「緊急の必要があるときはこの期間を短縮することができる」旨の規定があった。

28日に開催された臨時取締役会においては、Xを代表取締役から解任する決議が取締役6名のうち5名の賛成により成立した。この解任決議の無効を確認する訴えをXが提起したのが本件訴訟である。

(2)判旨
『取締役会の招集通知は、各取締役に到達することを要すると解されるところ、招集通知が各取締役に到達したというためには、当該通知が当該取締役に実際に了知されることまでは要しないものの、当該取締役の了知可能な状態に置かれること(いわゆる支配圏内に置かれること)は要するものと解される(最高裁平成10年6月11日判決、最高裁昭和43年12月17日判決、最高裁昭和36年4月20日判決)。』

『これを本件についてみると、前期認定事実によれば、Xは、自らパソコンを操作することがなく、Y社内においてXのパソコンは、Xの秘書室において管理されていた(略)。YにおいてXに割り当てられたメールアドレスに電子メールが送信されたことがなく、秘書室においても、同アドレスの受信状況を確認していなかった(略)。

以上のような諸事情を総合考慮すると、本件において、本件メールが上記アドレスに係るメールサーバーに記録されたことをもって、Xの了知可能な状態に置かれた(支配圏内に置かれた)ということはできない(略)』

『加えて、本件メールの送信から本件取締役会までの間隔が非常に短く、かつ、深夜のメール送信であって、(略)実質的にみてもXに対し本件取締役会の招集通知がなされたと評価することは困難である。』

『したがって、本件取締役会についてXに対する招集通知がされたということはできず、(略)その招集手続には法令上の瑕疵があるというべきである。』

『取締役会の開催にあたり、取締役の一部の者に対する招集通知を欠くことにより、その招集通知に瑕疵があるときは、特段の事情のないかぎり、上記瑕疵のある招集通知に基づいて開かれた取締役会の決議は無効となると解すべきであるが、この場合においても、その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは、上記瑕疵は決議の効力に影響がないものとして、決議は有効になると解するのが相当である(最高裁昭和44年12月2日判決)。』

(本件においては)『前期(略)の瑕疵は決議の効力に影響がないものとして、本件決議は有効になるというべきである。』

3.検討
会社法368条1項は、取締役会の招集についてつぎのように規定しています。

第368条 取締役会を招集する者は、取締役会の日の1週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、各取締役(監査役設置会社にあっては、各取締役及び各監査役)に対してその通知を発しなければならない。


このように、会社法においては取締役会の招集の方法に規制はなく、また、招集期間も定款の定めにより短縮することができることになっています。

ところで、会社法に関する解説書においては、”民法上、隔地者に対する意思表示はその通知が相手方に到達したときからその効力を生ずるものとされるところ(民法97条1項)、取締役会の招集通知についても、民法の一般原則に従う”と解説されています(落合誠一『会社法コンメンタール8』274頁)。

この点、本判決も同様の考え方を採用しています。また、学説も、「物質の移動をともなわない電子メールによる通知の場合には、招集通知が取締役に了知可能な状況におかれたかどうかを判断するにあたり、到達した通知がおかれる物質的な環境が重要であるのではなく、株主総会の招集通知を電磁的方法により発するためには株主の承諾を得ること(だけ)が要求される(会社法299条3項、会社法施行令2条1項2号、会社法施行規則230条)のと同様に、そのメールアドレスに招集通知が送信される可能性について取締役の承諾(あるいは認識)があることが重要(または必要)である」と解説しています(鳥山恭一・判批『法学セミナー』2018年12月号767頁)。

そのため、社長以下の経営陣もバリバリとパソコンを使って業務を行っていることが公知となっているようなベンチャー系IT企業などでは、取締役会の招集通知を社内メールアドレスに電子メールで送信しても、当該通知が法令上の瑕疵をおびることはないと思われる一方で、「会長が初めて電子メールを送信した」ことが組織内で絶賛され社会的に大きな話題となる経団連のトップのような方々が経営陣を務めている伝統的で古めかしい大企業においては、電子メールによる招集通知は本件訴訟のように法令上の瑕疵があると判断されるおそれがあります。

■参考文献
・鳥山恭一「代表取締役への電子メールによる取締役会の招集通知およびその解職決議の効力」『法学セミナー』2018年12月号767頁
・『金融・商事判例』1535号56頁
・落合誠一『会社法コンメンタール8』274頁
・江頭憲治郎『株式会社法 第7版』418頁
・奥島孝康・落合誠一・浜田道代『新基本法コンメンタール会社法2 第2版』205頁







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1.はじめに
平成28年に、ホテル内のテナントのマッサージ店が利用者に施術のミスで重い障害を負わせたことにつき、マッサージ店だけでなくホテルに対しても名板貸の責任を認めた興味深い裁判例が出されていました(大阪高裁平成28年10月13日判決・確定)。

2.大阪高裁平成28年10月13日判決(確定)
(1)事案の概要
Xは、ホテルY1に宿泊して滞在中、Y1内のマッサージ店Y2でのマッサージ施術を受けたが、その施術過誤により両下肢の機能不全による身体障害4級の障害を負った。なお、マッサージ店Y2はY1との間の出店契約に基づいてホテル本館の男湯と女湯との中間に位置する賃貸部分で営業を行っていたが、入口に扉はなく、またその入口には屋号であるY2 の看板ないし表記はなかった。また、ホテル館内の館内案内板にも、Y2部分は「マッサージコーナー」と表記されているだけであった。

そこでXは、Y2には施術において被施術者の生命・身体を侵襲しないよう注意して施術を行うべき契約上の不随義務および施術者としての注意義務に違反したとして、Y2に対して債務不履行に基づく損害賠償を求めるとともに、Y1に対しては会社法9条の類推適用による名板貸の責任を主張して損害賠償の請求を求めたのが本件訴訟である。原審および本高裁判決はXの主張を認めた(確定)。

(2)判旨
『本件マッサージ店にはY1のロゴが記載されていたタオルが常備されていたが、本件マッサージ店の屋号を記載したタオルは置かれておらず…本件マッサージ店の経営主体がY1以外であることを積極的に示す表示はなく、むしろ、Y1の一コーナーとしてY1が経営主体であるかのような誤認を利用者に生じさせる外観が存在していたものと認められる。』

『本件施術が行われた当時、本件マッサージ店の営業主体がY1であると誤認混同させる外観が存在したと認められる。そして、そのような外観の存在を基礎づける要素のうち、本件イラストマップ、本件案内図などの記載は、Y1自身が作出したものであり、また、本件マッサージ店の看板、張り紙等については、本件協定書の合意に基づいて、Y1がY2に是正を求めることができたものである。(略)また、(略)看板内での配置などに照らし、Xがこれを見落としたことについて重大な過失があると認めることはできない。』

このように判示し、本高裁判決はY1の名板貸の責任に関するXの主張を認めました。

3.検討・解説
会社法9条が規定する名板貸の責任は、「自己の商号を使用して事業又は営業を行うことを他人に許諾した会社」に生じる責任です。例えば、甲商店を営む甲が、乙に対して自己の営業の一部であるかのように甲商店神田支店の商号のもとで営業をすることを認めるような場合です(近藤光男『商法総則・商行為法 第5版補訂版』59頁)。営業主体を誤認させる外観の存在、名板貸人の帰責性、取引の相手方の誤認が責任要件です。

また、取引の相手方保護の見地からは、この規定は商号の使用を許諾した場合だけでなく、商標等の使用を許諾した場合にも類推されると解すべきとされています(神田秀樹『会社法 第20版』14頁)。

判例は、商号だけでなく、広く自己の氏、氏名の使用許諾も名板貸責任の枠組みで規律していた旧商法23条のもと、「商号を使用して営業を行うことを許諾」するという要件が満たされていない事案においても、それでも営業主体を誤認させる外観の存在と当該外観作出に対する責任主体の関与が認められる場合は同法が類推適用されるとして、ペット店をテナントに入れていたスーパーにペット店の名板貸責任の類推適用を認めたものがあります(最高裁平成7年11月30日判決)。

本判決は、この平成7年最高裁判決に沿って、外観の存在を認定し、名板貸人側の帰責性を認め、類推適用を認めたもので、現行法においても平成7年最高裁判決が妥当することを示したことに意義があります。

なお、本判決を消費者保護の観点から出された判決とする見解が一部にありますが(弥永真生『ジュリスト』1508号2頁)、会社法9条の趣旨はあくまでも権利外観法理であると思われます(神田・前掲15頁、土岐孝宏『法学セミナー』752号107頁)。

4.まとめ
本判決や平成7年最高裁判決の事例のように、ホテル、スーパーなどでテナントに別法人の店舗が入っている事業者等は、本判決等を参考に、テナントの店舗がホテル・スーパーと同一法人であるかのような外観を作出していなか等を改めてチェックする必要があるといえます。また、このことはインターネット上で商取引のプラットフォームを提供し、”店子”のテナント事業者にBtoCの取引を行わせている、例えば楽天市場、ヤフーショッピング、アマゾンなどのIT企業においても同様と思われます。

■参考文献
・土岐孝宏「テナント営業に対するホテル主の名板貸責任(類推)」『法学セミナー』752号107頁
・『金融・商事判例』1512号8頁
・弥永真生『ジュリスト』1508号2頁
・神田秀樹『会社法 第20版』14頁
・近藤光男『商法総則・商行為法 第5版補訂版』59頁







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