なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

カテゴリ: 金融機関

internet_online_kessai
1.阿武町4630万円誤振込事件の代理人弁護士が記者会見で無罪を主張
2022年5月に、山口県阿武町が国の新型コロナに関する臨時特別給付金4630万円を同町の24歳の男性の銀行口座に誤って振込み、男性が当該金銭をネットバンキングで複数のオンラインカジノの決済代行業者に振込んだ事件については、9月22日に男性が阿武町に解決金約340万円を支払うことで民事裁判上の和解が成立しました。

また、阿武町は男性を電子計算機使用詐欺罪で刑事告訴しているところ、10月に初公判が行われることを受けて、男性の弁護人の山田大輔弁護士が9月29日に記者会見を行い、「男性は無罪である」との訴訟方針を明らかにしたとのことです。

・4630万円誤振込・弁護士が会見で無罪主張「事実はあったが、違法ではない」|テレビ山口

本事件は4630万円もの金銭を町役場から誤振込で受け取った男性が、それを奇禍として当該金銭をオンラインカジノに使ってしまい、非常に大きな社会的非難を招きました。たしかにこの男性のふるまいは道徳的に問題であると思われますが、しかしこの男性の行為は電子計算機使用詐欺罪などの刑罰の適用が妥当といえるのでしょうか?

結論を先取りすると、本事件で電子計算機使用詐欺罪は成立しないと思われます。以下見てみたいと思います。

2.電子計算機使用詐欺罪
刑法
(電子計算機使用詐欺)
第246条の2 前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。

(1)行為
本事件が問題となる電子計算機使用罪(刑法246条の2)の前段部分は、銀行等のコンピュータに「虚偽の情報」または「不正な指令」を与えて「財産権の得喪もしくは変更に係る不実の電磁的記録」を作成し、これによって自己または第三者に財産上の利益を得せしめる行為です。

ここでいう「不実の電磁的記録」とは、銀行等の顧客元帳ファイルにおける預金残高記録などが該当するとされています。「不正な指令」とは改変されたプログラムなどを指します。

(2)「虚偽の情報」
またここでいう「虚偽の情報」とは、銀行等のコンピュータ・システムにおいて予定されている事務処理の目的に照らしその内容が真実に反する情報をいうとされています。言い換えれば、入金等の入力処理の原因となる経済的・資金的な実態を伴わないか、それに符合しない情報を指します(園田寿「誤入金4630万円を使い込み それでも罪に問うのは極めて難しい」論座・朝日新聞2022年5月26日)。例えば架空の入金データの入力等がこれに該当します。

一方、銀行等の役職員が金融機関名義で不良貸付のためにコンピュータ端末を操作して貸付先の口座へ貸付金を入金処理するなどの行為は本罪にあたりません。

なぜなら、たとえこのような行為が背任罪になりうるとしても、貸付行為自体は民事法上は有効とされる結果、電子計算機に与えられた情報も虚偽のものとはいえず、作出された電磁的記録も不実のものとはいえないからです(東京高裁平成5年6月29日・神田信金事件、西田典之・橋爪隆補訂『刑法各論第7版』235頁)。

同様に、インターネット・バンキング等を利用した架空の振替送金データの入力は「虚偽の情報」に該当し、その結果改変された銀行等の顧客元帳ファイル上の口座残高記録は「不実の電磁的記録」にあたり本罪が成立することになります。あるいはネット・バンキングの他人のID番号とパスワードを無断で利用し銀行等の顧客元帳ファイル上のデータを変化させ、自らの利用代金などの請求を免れる行為も本罪が成立します。(西田・前掲236頁)

3.本事件の検討
ここで本事件をみると、誤振込であるとはいえ、阿武町から本件の男性に4630万円は民事上有効に振込まれ、男性の銀行口座には4630万円が有効に存在します(ただし民事上の不当利得返還請求の問題が発生する(民法703条、704条)。)。

そして男性はその自らの銀行口座の4630万円の金銭に対して、ネットバンキングから複数のオンラインカジノの決済代行業者の口座に振込の入力を行っています。この男性の振込入力は原因関係として民事上有効に存在する金銭に対するものであり、また他人のIDやパスワードを入力などしているわけではなく、さらに不正なコンピュータ・プログラムをネット・バンキングのシステムに導入している等の事情もないので、2.(2)の金融機関の不良貸付の事例と同様に、電子計算機使用詐欺罪は成立しないことになると考えられます。

したがって、本事件の男性の代理人の山田弁護士の「無罪である」との訴訟方針は正しいと思われます。

4.まとめ
このように本事件では電子計算機使用詐欺罪は成立せず、男性は無罪になる可能性が高いと思われます。たしかにこの男性の行為は道徳的には問題でありますが、この問題に関しては民事上、不当利得返還請求権が阿武町には発生し、民事上解決が可能です。現に本事件は9月に裁判上の和解が成立しています。それをさらに刑法をもってこの男性を処罰するというのは、刑罰の謙抑性や「法律なくして刑罰なし」の罪刑法定主義(憲法31条、39条)の観点からも妥当でないと思われます。

本事件は報道によると、阿武町の町役場では職員がコロナの臨時特別給付金の振込の事務作業をたった一人で行っていたことがこの4630万円もの巨額の誤振込につながったとのことであり、むしろ町役場の給付金支払いの事務作業を適切に行う体制整備を怠っていた阿武町役場の幹部や花田憲彦町長などの方こそ大きな社会的責任・政治的責任を負うべきなのではないでしょうか。

とはいえ、銀行や保険などの金融機関や行政機関などにおいて誤振込、誤払いは残念ながら多く発生しているところ、そのような誤振込を受けた人間がその金銭をネットバンキングなどで使用してしまったような場合に電子計算機使用詐欺罪は成立するのかという本事件の事例は先例となる裁判例がないようであり、本事件について裁判所が司法判断を示すことは、金融機関などの実務上、非常に有益であると思われます。

■参考文献
・西田典之・橋爪隆『刑法各論 第7版』233頁
・大塚裕史・十河太郎・塩谷毅・豊田兼彦『基本刑法Ⅱ各論 第2版』263頁
・畑中龍太郎・中務嗣治郎・神田秀樹・深山卓也「振込の誤入金と預金の成立」『銀行窓口の法務対策4500講Ⅰ』957頁
・園田寿「誤入金4630万円を使い込み それでも罪に問うのは極めて難しい」論座・朝日新聞2022年5月26日



[広告]








このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

三菱銀行トップページ
(三菱UFJ銀行サイトより)

1.はじめに
2022年5月8日の読売新聞の報道によると、三菱UFJ銀行はサイバーエージェントと提携し、年度内に自社の個人・法人の顧客の金融資産などの個人データを利用した広告事業を年度内に開始するとのことです。記事によると三菱UFJ銀行はこの新しい広告事業を同銀行本体で実施するようですが、これは2021年の銀行法改正で可能になったスキームのようです。銀行の広告事業などには関心があったため、2021年の銀行法改正や個人情報保護法上の「本人の同意」について少し調べてみました。

・三菱UFJ銀、サイバーエージェントと提携し広告事業参入…同意得て匿名化の顧客情報活用|読売新聞

2.三菱UFJ銀行の広告のスキーム
まず、本記事によると、「三菱UFJ銀は約3400万人の預金口座や約120万社の取引データの活用を想定している。顧客の事前の同意を前提に、口座所有者の年齢や性別、住所に加え、預金額や運用資産・住宅ローンの有無といった金融データを匿名化した上で利用する。広告主は宣伝したい対象として、例えば「預金1000万円以上の女性」や「資産運用している40歳代男性」などに絞る。対象に合った個人や法人が、スマホやパソコンなどの端末でSNSやアプリ、検索サイトなどを利用すると、広告が表示される仕組み」とのことです。

三菱銀行の広告スキーム図
(三菱UFJ銀行の広告事業のスキーム図。読売新聞より)

3.2021年の銀行法改正
(1)2021年の銀行法改正の趣旨
令和3年の第204国会で5月19日に成立した「新型コロナウイルス感染症等の影響による社会経済情勢の変化に対応して金融の機能の強化及び安定の確保を図るための銀行法等の一部を改正する法律」は新型コロナの社会的影響を受けて、日本経済の回復・再生を力強く支える金融機能を確立するため、規制緩和や環境整備を推進するために、銀行に対してはデジタル化や地方創生への貢献を強化するための銀行法改正が行われています。

概要2
(2021年銀行法改正の概要。金融庁サイトより)

(2)銀行法改正の具体的内容
①銀行業高度化会社の他業業務の認可の要件の緩和
広告事業などの関係をみると、まず、2017年に制度が開始した銀行の子会社としての「銀行業高度化等会社」は、ITを活用した銀行業務の高度化などを認めるための制度ですが、従来「他業」とされていたFintechや地域商社業務などを金融庁の他業の認可を受けて実施するものでした。この認可には収入依存度規制などの厳格な規制が存在していました。

これに対して2021年の改正銀行法は、銀行高度化等会社の業務に「地域の活性化、産業の生産性の向上その他の持続可能な社会の構築に資する業務」が新たに追加されました。この業務の個別列挙は行われず、各銀行の創意工夫で幅広い業務を行うことが可能となります。具体的には、デジタル、地域創生、持続可能な社会の構築などに関する業務が想定されています。この業務は、収入依存度規制はなくなり銀行の負担を減らして金融庁の認可が取得できることになっています。(改正銀行法16条の2第1項15号など。)

②特例銀行業高度化等業務を行う銀行業高度化等会社の新設
つぎに、銀行業高度化等会社の他業認可よりも基準が緩い「特例銀行業高度化等業務」のみを行う高度化等会社というカテゴリが新設されました。この高度化等会社の業務は個別列挙されていますが、具体的には、①Fintech、②地域商社、③登録型人材派遣、④自行アプリやシステムの販売、⑤データ分析・マーケティング・広告、⑥ATM保守点検、⑦障害者雇用促進の特例子会社、⑧成年後見業務などが想定されています。そしてこれらの他業の金融庁の認可については収入度依存度規制などの厳格な規制はなくなり、銀行の負担が緩和されています。(改正銀行法52条の23の2第6項など。)

③銀行本体の付随業務
さらに、金融システムの潜在的なリスク(優越的な地位の濫用等)に配慮しつつ、銀行本体の付随業務に銀行業に係る経営資源を主として活用して営む業務であって、デジタル化や地方創生などの持続可能な社会の構築に資するものが個別列挙され認められることになりました。具体的には、①自行アプリやシステムの販売、②データ分析・マーケティング・広告、③登録型人材派遣、④コンサルティングなどが個別列挙されます。そして従来、銀行本体の付随業務には「銀行業との機能的な親近性」などの要件が課されていましたが、個別列挙された業務にはその制約がなくなります。(改正銀行法10条2項21号など。)

4.改正銀行法10条2項21号および金融分野における個人情報保護に関するガイドライン
(1)改正銀行法10条2項21号
読売新聞の本記事を読むと、三菱UFJ銀行が行おうとしているデータ分析・マーケティング・広告事業は③の銀行本体における業務であると思われます。そこで、個人情報に関する顧客の本人の同意についてはどうなっているのかと改正銀行法10条2項21号をみると、ここには特に規定がありません。

銀行法

(業務の範囲)
第十条 銀行は、次に掲げる業務を営むことができる。
 預金又は定期積金等の受入れ
 資金の貸付け又は手形の割引
 為替取引
 銀行は、前項各号に掲げる業務のほか、次に掲げる業務その他の銀行業に付随する業務を営むことができる。
(略)
二十一 当該銀行の保有する人材、情報通信技術、設備その他の当該銀行の営む銀行業に係る経営資源を主として活用して営む業務であつて、地域の活性化、産業の生産性の向上その他の持続可能な社会の構築に資する業務として内閣府令で定めるもの

(2)主要行等向けの総合的な監督指針
つぎに、金融分野個人情報保護ガイドライン(金融分野における個人情報保護に関するガイドライン)14条(個人関連情報の第三者提供の制限等(法第31条関係))1項 はつぎのように規定しています。

金融分野個人情報保護ガイドライン

第14条1項

金融分野における個人情報取扱事業者は、個人関連情報取扱事業者から法第31条第1項の規定による個人関連情報の提供を受けて個人データとして取得するに当たり、同項第1号の本人の同意を得る(提供元の個人関連情報取扱事業者に同意取得を代行させる場合を含む。)際には、原則として、書面によることとし、当該書面における記載を通じて、

① 対象となる個人関連情報の項目
② 個人関連情報の提供を受けて個人データとして取得した後の利用目的

本人に認識させた上で同意を得ることとする。

すなわち、個人情報保護法31条と同様に金融分野個人情報保護ガイドライン14条1項も、銀行が顧客の顧客番号、PCやスマートフォン等の端末ID、Cookie、閲覧履歴などの個人関連情報を広告会社などに第三者提供する際には、本人の同意を得ることが必要であるとしています。

5.まとめ
したがって、仮に三菱UFJ銀行が広告事業を行うにあたり、顧客の属性や金融資産情報などを匿名加工情報にしたとしても、顧客番号、PCやスマートフォン等の端末ID、Cookie、閲覧履歴などの個人関連情報を第三者提供する限りはやはり本人の同意の取得が必要となります。

なお、この銀行法改正に関連して、例えば野村総合研究所は銀行の広告事業を支援するサービスを開始したそうです(野村総合研究所「野村総合研究所、銀行の広告事業への進出を支援する「バンクディスプレイ」サービスを開始」)。

概要3
(野村総合研究所「野村総合研究所、銀行の広告事業への進出を支援する「バンクディスプレイ」サービスを開始」より)

このスキームは銀行と広告主の間に野村総研が入り、銀行の個人データなどの第三者提供などを媒介するスキームであるようです。この野村総研のスキームにおいては、銀行は個人関連情報だけでなく、金融資産や属性データ、閲覧履歴、行動履歴などの個人データの第三者提供のための顧客の本人の同意をあらかじめ取得することが必要であると思われます(個人情報保護法27条1項)。

このブログ記事が面白かったらブックマークやシェアをお願いします!

■参考文献
・荒井伴介・脇裕司・杉本陽・豊永康史「2021年銀行法等の一部を改正する法律の概要」『金融法務事情』2170号(2021年9月25日号)14頁
・家森信善「業務範囲規制の緩和を生かして顧客支援の充実を」『銀行実務』2021年8月号12頁
・松本亮孝・今拓久真・椎名沙彩・赤井啓人「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン改正の概要」『『金融法務事情』2183号(2022年4月10日号)9頁

■関連する記事
・情報銀行ビジネス開始を発表した三菱UFJ信託銀行の個人情報保護法の理解が心配な件
・みずほ銀行のみずほマイレージクラブの改正を考える-J.Score・信用スコア・個人情報
・日銀『プライバシーの経済学入門』の「プロファイリングによって取得した情報は「個人情報」には該当しない」を個人情報保護法的に考えた
・デジタル庁「教育データ利活用ロードマップ」は個人情報保護法・憲法的に大丈夫なのか?
・スーパーシティ構想・デジタル田園都市構想はマイナンバー法・個人情報保護法や憲法から大丈夫なのか?-デジタル・ファシズム
・コロナの緊急事態宣言をうけ、代表取締役が招集通知後に取締役会決議を経ずに株主総会の日時場所を変更したことが違法でないとされた裁判例-大阪地決令2.4.22
・コロナ下のテレワーク等におけるPCなどを利用した従業員のモニタリング・監視を考えた(追記あり)-個人情報・プライバシー・労働法・GDPR・プロファイリング
・令和2年改正個人情報保護法ガイドラインのパブコメ結果を読んでみた(追記あり)-貸出履歴・閲覧履歴・プロファイリング・内閣府の意見














このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

akutoku_shouhou_houmon - コピー

生損保の保険会社の営業職員等が、保険契約者等以外の他人(家族を含む)の名義を勝手に利用したり、架空の人間の名義を利用して保険契約を勧誘・募集することは「名義借契約」・「作成契約」などと呼ばれ法令で禁止されています(保険業法307条1項3号)。

同様に、証券会社の営業職員等が、他人(家族を含む)の名義を勝手に利用したり、架空の人間の名義を利用した取引の勧誘・募集を行うことは、「借名取引」と呼ばれ、法令で禁止されています(金融商品取引法157条、犯罪収受移転防止法)。これは、マネーロンダリングや脱税などの違法な行為を防止する趣旨であるとされています。

このような法令の規定を受けて、各証券会社は、自社ウェブサイトなどにおいても解説の項目をおいています(野村証券「「ご利用ガイド 不公正取引」など」)。

また、このような他人の名義を冒用した金融取引(契約)については、その取引(契約)の効力を無効とする民事上の裁判例も現れています(静岡地浜松支判平9.3.24)。

つまり、借名取引・名義借契約などの他人の名義を勝手に利用して金融機関の営業職員等が取引・契約を募集・勧誘することは、行政法規上違法なだけでなく、民事上も無効とされるものです。

証券会社などの金融機関は、借名取引などの違法・不正な取引は、監督官庁からの行政リスクだけでなく民事上のリスクも大きいことを十分留意し、その撲滅に努める必要があります。





このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

tatemono_bank_money

1.みずほマイレージクラブが改正となる
みずほ銀行のプレスリリースによると、来年(2020年)3月1日から、ATMの料金などに関する優待制度の「みずほマイレージクラブ」が大きく改悪となり、全体的に利用者にとって厳しいものとなるようです。

・「みずほマイレージクラブ」のサービス内容の変更について|みずほ銀行

みずほマイレージクラブ改正図
(みずほ銀行サイトより)

このみずほマイレージクラブでは利用者を、Bステージ、Aステージ、Sステージ と三段階のステージに分けて条件を設定しています。

今回の改正では、投資信託など資産運用商品について、現在は「残高あり」の条件を満たすとSステージとなったものが、来年3月からは「合計100万円以上」に条件が変更になるようです。

また、預金などの「預かり資産」について、現在は「50万円以上」の条件を満たすと、Aステージとなったものが、来年3月からはこの条件が廃止となるようです。

さらに、コンビニATMについては、イーネットATM(ファミリーマート等)での手数料の一部無料は継続するようですが、セブン銀行およびローソン銀行は一部無料を完全に廃止するようです。

加えて、Bステージ・Aステージは、他行宛振込手数料の一部無料がこれも完全に廃止となるようです。

このように、みずほ銀行の制度改正により、全体的に顧客の利便性、みずほ銀行に口座を持っているメリットは大きく後退しそうです。

2.信用スコア「J.Score」の登場
ところで、今回のみずほマイレージクラブの改正においては、一番エントリーレベルのBステージに、「J.Score を利用し、スコアをみずほ銀行に提供すること」という条件を新たに創設していることが、この改正の一番のポイントといえるのではないでしょうか。

AI、フィンテック(Fintech)、「個人情報の利活用」、「データ経済」などの言葉がもてはやされる時代に、メガバンクの一角であるみずほ銀行が、数年前からJ.Scoreという信用スコア事業を行っているのが気味が悪いと思っていたのですが、今回のみずほマイレージクラブの改正で、ついにJ.Scoreがみずほの正面に出てきてしまいました。

Sステージ、Aステージの、いわば富裕層に対しては、J.Scoreによる個人情報を寄越せとは言わないが、Bステージのあまりお金のない人に対しては、「ATMの時間外手数料やコンビニATM手数料をちょっと無料にしてほしければ、個人情報の山である信用スコアをよこせ」と言うみずほ銀行の姿勢は、控えめにいっても、銀行、とくにわが国を代表するメガバンクの一つとしての品格がある姿勢とは思えません。(日銀のマイナス金利政策など、みずほ銀行側の事情は理解できますが。)

今はまだ、みずほマイレージクラブのエントリーレベルの条件のみにJ.Score を限定していますが、近い将来、みずほ銀行のすべてのサービスの条件になってしまうのではと、昔からの利用者としては不安になります。

あるいはもし今後、三菱UFJ銀行や三井住友銀行も、信用スコアを自社サービスの前提条件とするようになったら、メガバンクによる、信用スコアの国民への事実上の強制が始まってしまいます。中国のような監視社会を連想させるものがあります。

3.個人情報保護法
このような、みずほ銀行の、圧力営業的あるいは強要・脅迫的な手法で個人情報を取得するという手法は、「偽りその他不正な手段で個人情報を取得してはならない」という個人情報保護法17条に抵触しないのか、気になるところです。

また、少し前に炎上した、ヤフースコア(Yahoo!スコア)、LINEスコアなどと同様に、J.Scoreについても、「これまで利用者・顧客が各銀行サービスを利用する目的で各取引においてみずほ銀行に提供してきた個人情報・個人データの山を、みずほ銀行が信用スコア事業という別の事業の目的に使用してよいのか?」という目的外利用(同法15条、16条)の問題がやはり発生するように思われます。

あるいは、社会一般の事業会社、例えば自動車メーカー、百貨店・スーパー・コンビニなどの小売業などと比較して、銀行・金融機関は、利用者・国民に対して、時間的スパンの長い、継続的な取引とさまざまな種類の金融商品の取引により、時間的にも質的・量的にも非常に多い、顧客の個人データの山を保有しているように思えます。

「相手は銀行だから」と信頼してデリケートな内容を相談する顧客も多いでしょうし、資産情報そのものがデリケートな個人情報です。近年は銀行も保険の販売等を扱っているので、顧客やその家族の傷病の情報など、センシティブな個人情報を保有する度合いは高くなっていると思われます。

このような機微で大量の個人情報を保有する銀行・金融機関と、一般の事業会社を同列に扱い、一般の事業会社と同じように銀行・金融機関に簡単に信用スコア事業をさせてしまってよいのか、それが国民個人の権利利益や福利にかなうのか、大いに疑問です(同法3条)。

このような問題について、個人情報保護委員会や公取委はどう考えているのか、一国民として気になるところです。

■関連するブログ記事
・ヤフーのYahoo!スコアは個人情報保護法的に大丈夫なのか?


人気ブログランキング





このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

1.米国法FATCA(外国口座税務コンプライアンス法)
2008年のスイス大手銀行における脱税事件を受けて、アメリカで「FATCA(外国口座税務コンプライアンス法、Foreign Account Tax Compliance Act、ファトカ)」が制定され、2014年から同法による確認手続きが始まりました。

FATCAとは、米国納税者による米国外の金融機関等を利用した租税回避を防ぐ目的で、米国外の金融機関に対して、顧客が米国納税義務者であるかどうかを確認すること等を求める米国法です。

そのため、日本の生命保険会社等は、顧客と保険取引等をする際には、顧客が米国納税義務者であるか否かを確認し、それに該当する場合には、米国の内国歳入庁に保険契約の情報等を報告しなければなりません。(法人契約を含む。)

このFATCAによる確認手続きが生命保険会社に求められるのは主につぎの場合です。

生命保険契約の締結、保険契約者の変更、満期保険金など保険金の支払等の取引発生時
米国への移住など、保険契約者の状況が変化した時

顧客が確認手続きに応じない場合、あるいは米国内国歳入庁への報告に同意しない場合、保険会社は保険契約の締結を行わないこととしています。また、契約締結後に顧客が確認手続きに応じない場合は、米国内国歳入庁の要請に基づき、当該保険契約情報を日米当局間で交換することとされています。

なお、実務上、生命保険各社は、FATCAの確認手続きについて、取引時に保険会社所定の書面等により、顧客自身により所定の米国納税義務者であるか否かについて申告を求める方法をとっています。

2.日本版CRS(共通報告基準)
このFATCA成立を受け、OECDにおいても国際的な脱税回避のために、非居住者に関する金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準である「共通報告基準(CRS、Common Reporting Standard)」が制定・公表されました。

これを受けて日本では、「租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律(実特法)」の改正により、2017年1月より新たに金融機関等に口座開設等を行う者等は、金融機関等へ居住地国名等を記載した届出書の提出が必要となりました(「日本版CRS」)。

日本版CRSでは、預金口座の開設、証券口座の開設、年金保険契約の締結の際に顧客から届出書の提出を求めることが必要となります。(法人契約を含む。)

■参考文献
・経済法令研究会『保険コンプライアンスの実務』79頁、81頁
・国税庁サイト「共通報告基準(CRS)に基づく自動的情報交換に関する情報」
・生命保険協会サイト「「FATCA(外国口座税務コンプライアンス法)」に関するお客さまへのお願い」







このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

↑このページのトップヘ