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カテゴリ: 保険業法

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1.はじめに
片側二車線道路の中央分離帯付近を歩いていた被保険者の交通事故が、生命保険会社の災害入院給付金等の約款条項の重過失免責に該当しないとした興味深い裁判例(福岡高裁令和2年8月27日判決(確定))が判例時報2505号(2022年3月1日号)56頁に掲載されていました。

2.事案の概要
(1)保険契約
A(本件交通事故当時33歳)はY生命保険会社(住友生命保険)との間で、平成27年4月1日付でAを保険契約者兼被保険者、Yを保険者とする最低保証利率付3年ごと利差変動積立保険契約(本件保険契約)を締結した。本件保険契約には、総合医療特約(180日型・災害入院給付金日額6000円)、入院保障充実特約および障害損傷特約が付加されていた。Aの指定代理請求人はAの母Xが指定されていた(本件訴訟の原告・控訴人)。

(2)交通事故の概要
福岡県に在住するAは、平成28年12月13日午後7時から午後11時まで職場の忘年会に出席して飲酒し、その後同僚とカラオケ店で翌14日午前3時半頃まで滞在して飲酒した。さらにAは同僚とラーメン店でラーメンを食べ、同日午前4時半頃、自宅まで徒歩で帰宅をはじめた。Aは紺のスーツに黒いコートを着て12月14日午前5時頃、まだ冬の夜の暗い時間帯、福岡県春日市の方々二車線の県道の第二車線(制限速度50キロメートル)の中央付近(中央分離帯寄り)を東側の歩道から西側の歩道に向けて県道に沿って歩行していたところ、同県道の第二車線を約50キロメートルで運転していたBの自動車に追突され、頭蓋骨骨折、硬膜下血腫などの傷害を負ったものである。事故当時、Aの血中アルコール濃度は1.25ミリグラム/1ミリリットルであり、これは酩酊度としては第一度(発揚期・微酔)に分類される濃度であり、「へべれけ」に酔っている状態ではなかった。

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(本件訴訟の交通事故現場見取図。判例時報2505号67頁より)

(3)保険金・給付金の請求と保険会社の対応
Aの指定代理人XはY生命保険に対して本件保険契約に基づき、災害入院給付金、手術給付金、入院保障充実特約給付金および障害損傷特約給付金の合計160万円の保険金等を請求したところ、Yは本件交通事故はAの重過失に該当するとして約款所定の重過失免責条項に基づいて保険金の支払いを拒んだ。この点、住友生命保険の最低保証利率付3年ごと利率変動型積立保険普通保険約款の総合医療特約12条1号は「被保険者または保険契約者の故意または重大な過失」の場合には給付金を支払わないと免責条項を置いており、入院保障充実特約、障害損傷特約にも同様の免責規定が置かれている。

住友生命約款
(住友生命保険・総合医療特約12条。住友生命保険サイトより)

これに対してXが保険金・給付金の支払いを求めて訴訟を提起。第一審(福岡地裁令和2年1月16日判決)はYに対して重過失免責を認めたのでXが控訴したところ、第二審(福岡高裁令和2年8月27日判決(確定))はAの重過失を認めず、Yに対して保険金の支払いを命じたのが本件訴訟である。本件訴訟の争点は、Aが二車線道路の中央分離帯寄りを歩行していたことが保険約款の定める重過失に該当するか否かである。

3.判旨
(1)第二審・福岡高裁令和2年8月27日判決(確定)の判旨 (ア)「重大な過失」の意義
『本件免責条項にいう「重大な過失」とは、通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見過ごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指すものと解すべきである(最高裁昭和27年(オ)第884号同32年7月9日第三小法廷判決・民集11巻7号1203頁、同昭和56年(オ)第111号同57年7月15日第一小法廷・民集36巻6号1188頁参照)。そうであるならば、「重大な過失」を基礎づけるに足りる被保険者等の行為(作為又は不作為)は、故意に保険事故を招致した疑いのあるものである必要はないが、保険事故発生の認識又は認容があれば故意に保険事故を招致したともいえるようなものである必要があるというべきであり、被保険者等の行為がそのようなものであることの立証責任は、保険者にあるというべきである。』

(イ)本件へのあてはめ
『確かに、車道は、車両の通行の用に供するためのものであり(道路交通法2条1項3号)、本件事故現場付近のように両側に歩道がある道路においては、歩行者は、横断等をする場合を除き、歩道を通行することを求められており(道路交通法10条2項)、車道を歩行することは予定されていない上、本件事故が発生したのは、本件事故現場周辺がまだ暗い時間帯であり、そのような中、暗い着衣で本件車道を歩行したAに過失があったこと自体は、否定することができない。

しかし、前記認定事実によれば、本件事故現場は、見通しの良い片側2車線の一般道路上の地点であり、本件事故発生当時の交通は、その直後に行われた実況見分と同様に、閑散としていた可能性が高いと考えられる。

そして、本件防護柵は全長130mほどであって、仮にAが本件防護柵のc3丁目側の端に近い地点で本件車道を横断したとしても、中央分離帯に沿って2分程度も歩けば、本件防護柵のd1丁目の端に到達することが可能であったことになる。

これに加えて、前記認定のとおり、Aが本件車道の第2車線の中央分離帯寄りを歩行していた可能性が高いと推認されることをも併せて考えると、Aにおいて、前記のような道路状況の下でAの後方から接近して来る車両の運転者が、前方を注視して走行することにより、Aの存在を認識し、僅かのハンドル操作により容易にAを回避して、その側方を通過するものときたいすることにも、一定の客観的合理性があったものということができる。

(略)

そうすると、Aには、本件事故の発生について、重大な過失があったということはでき(ない)。

4.検討
(1)旧商法下における被保険者の重過失
保険に関しては従来、商法第2編第10章に保険に関する規定が置かれていたところ、それを元に平成20年(2008年)に独立の法律として保険法が制定され、平成22年(2010年)4月から施行されています。なお、海上保険については現在も商法の第3編第6章に条文が置かれています。

旧商法下においては、損害保険について、旧商法641条に「保険契約者若クハ被保険者ノ悪意若クハ重大ナル過失ニ因リテ生シタル損害ハ保険者之ヲ塡補スル責ニ任セス」と保険契約者または被保険者の故意・重過失を免責とする規定が置かれており、同様に海上保険に関する旧商法829条(現商法826条2号)も同様の規定を置いています。

それに対して生命保険の保険者(=保険会社)の免責事由について定める旧商法680条は被保険者の自殺、犯罪行為など(同1号)や保険契約者の被保険者の故意による殺人(同3号)などを規定していましたが、保険契約者または被保険者の重過失については規定していないものの、生命保険会社の傷害保険特約や災害割増保険特約などの約款条項には保険契約者または被保険者の重過失を免責とする条項が置かれているのが一般的でした。

そのようななか、生命共済に加入していた被保険者が5、6合の酒を飲酒したあとに制限速度40キロメートルの屈曲した道路を時速70キロメートル以上の速度で自動車を運転し、レッカー車と衝突して死亡した事案について、最高裁昭和57年7月15日判決は「本件共済約款における災害給付金…の免責事由である「重大な過失」とは、…商法641条及び829条にいう「重大な過失」と同趣旨のものと解すべき」と判示し、生命共済、生命保険についても重過失免責を認める判断をしています。

この旧商法641条等の保険契約者・被保険者の故意・重過失を免責とする規定の趣旨は信義則または公序良俗を守るためであるとするのが判例・多数説です(大森忠夫『保険法 増補版』148頁)。

(2)保険法17条、80条の制定
2008年に成立した保険法の第17条は、損害保険について旧商法641条を原則として引き継ぐ内容となっています。また、傷害疾病定額保険について同80条1号は「被保険者が故意又は重大な過失により給付事由を発生させたとき」を免責事由としており、災害関係特約の被保険者の重過失の解釈問題は立法的に解決されています。この点、保険法制定のための平成19年8月8日法制審保険法部会「保険法の見直しに関する中間試案」第2-3(9)注3、別冊商事法務321号「保険法立案関係資料」)155頁において、保険法の立案担当者は、上の最高裁昭和57年7月15日判決を引用し、旧商法641条と同趣旨で傷害疾病定額保険についても被保険者の重過失を法定したと説明しています。

(3)保険法17条、80条の重過失免責の判断基準
保険法17条、80条の重過失免責の判断基準は解釈にゆだねられていますが、大審院大正2年12月20日判決は、積荷保険契約に関して、重過失を「容易ニ違法有害ノ結果ヲ予見シ回避スルコトヲ得ヘカリシ場合ニ於テ漫然意ハス之ヲ看過シテ回避防止セサリシガ如キ殆ト故意ニ近似スル注意欠如ノ状態」と判示しています。

つぎに、明治32年に制定された失火責任法は失火の場合は民法709条は適用しないと規定しつつ、但し書で「重大ナル過失」の場合はそれを否定しています。そして失火責任法但し書の「重大な過失」が争われた最高裁昭和32年7月9日判決は「重大な過失」について上の大審院大正2年12月20日判決を承継することを明らかにしています。また、上の最高裁昭和57年7月15日判決の調査官解説は、同判決はこの最高裁昭和32年7月9日判決を承継しているとしています(伊藤瑩子「最高裁判例解説民事編昭和57年度」639頁)。

(4)被保険者の重過失に関する裁判例
しかし被保険者の重過失について判例・学説の争いは決着したとは言い難い状況のようです。裁判例においては、①「ほとんど故意と同視すべき著しい注意欠如」(大阪高裁平成18年11月29日判決など)や、①-2「わずかに注意さえ払えば、違法有害な結果を予見することができたのにそうしなったもの」(東京地裁平成17年10月17日判決など)等、昭和32年の最高裁判決、昭和57年の最高裁判決の立場に立つものがある一方で、②注意義務の程度のみならず、信義則・公序良俗の趣旨、行為の社会的非難可能性等についても総合考慮するものが存在します(秋田地裁昭和31年5月22日判決、仙台地裁平成5年5月11日判決など)。

なお保険法の立案担当者は被保険者の重過失について、旧商法641条と同趣旨であり、重過失の判断基準は大審院大正2年12月20日判決のものであると考えています(萩本修『別冊商事法務321号 保険法立案関係資料』155頁、115頁、斉藤真紀「傷害保険契約における免責事由としての「被保険者の重大な過失」の意義」『保険法判例百選』210頁)。

まとめ3

(5)被保険者の重過失に関する学説
学説においては、重過失の解釈基準について、最高裁の昭和32年判決、昭和57年判決などのように「ほとんど故意に近い注意義務違反」と厳格に解釈する多数説と「著しい注意義務違反」とする少数説に分かれています。

厳格に解釈する多数説は、訴訟の攻撃防御において、保険会社側が故意を立証するのが困難であるため、故意の立証の困難を救済するために故意と重過失を並べて主張することに注目して、重過失を故意の代替概念ととらえているとされています(石田満『商法Ⅳ保険法 改訂版』194頁、江頭憲治郎『商取引法 第5版』450頁、竹濱修「生命保険契約および傷害疾病保険契約特有の事項」『ジュリスト』1364号48頁、潘阿憲『保険法解説』(山下友信・米山高生編)438頁)。

これに対して、訴訟上の実務を認めつつも、「一般人を基準とすれば甚だしい不注意で足り、故意が高度に疑われる場合に限るべきではない」とする有力説も存在します(山下友信『保険法』(2005年)368頁)。

山下教授のこの学説は、保険約款による保険契約などの符合契約においては、多数の契約を画一的に規律するために、個々の顧客の理解を基準に解釈するのではなく、画一的な解釈つまり客観的解釈をすべきであり、それはつまり平均的あるいは合理的な保険契約者の理解、あるいは保険契約者の合理的な利益を考慮した合理的な意思により約款は解釈されるべきであるとの符合契約における原則的な考え方に基づくものであると思われます(山下・前掲117頁)。

まとめ4

(6)本件高裁判決について
本件高裁判決は保険法80条および保険約款の「被保険者の重過失」の解釈について、最高裁昭和32年7月9日判決、最高裁昭和57年7月15日判決などと同様に「ほとんど故意と同視すべき著しい注意欠如」であるとして、被保険者の保険事故時の状況を検討し、「ほとんど故意と同視すべき著しい注意欠如」の状態ではなかったとして保険会社側の免責を認めず、給付金の支払いを命じています。

しかし、本件訴訟の第一審判決(福岡地裁令和2年1月16日判決・判例時報2505号62頁以下)は、重過失の解釈基準を「ほとんど故意と同視すべき著しい注意欠如」であるとしつつも、Aが相応の飲酒をした上で午前5時という周囲がまだ暗い時間帯に、片道2車線の県道の第2車線の中央付近を歩行または佇立していたこと、そのときの服装は紺のスーツに黒のコートであり自動車の運転者から発見が困難なものであったこと等から、被保険者には「ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態」であったと認定し、保険会社側の免責を認めています。

生命保険の元支払査定担当者として考えると、少なくとも本件訴訟のような事案は支払いあるいは不払いがあっさりと決まるものではなく、事実の確認(事項の確認、調査)を実施し、報告書などを基に慎重な判断を行うものであると思われます。

保険契約の締結時期から保険事故発生まで約1年しか経過していない早期の保険事故であることを考えると、自殺免責の可能性、あるいはいわゆる「当たり屋」などのモラルリスク(不正な保険金詐取)の危険を念頭に、管理職あるいはさらにその上が慎重な判断や決済を行うべき事案であると思われます。

一般論としては、冬のまだ夜の明けていない午前5時頃に片側2車線の県道において、飲酒をした上で黒色系の服装で第2車線の中央部分を歩行する行為は、一般人の合理的な理解としても非常に危険な行為であり、「ほとんど故意と同視すべき著しい注意欠如」との判例の重過失の判断基準に立つとしても被保険者の重過失に該当すると考える余地があるように思われます。個人的には、保険会社は給付金支払いを免責されるとの第一審判決のほうが妥当であったように思われます。

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■参考文献
・判例時報2505号(2022年3月1日号)56頁
・山下友信・米山高生編『保険法解説』(潘阿憲執筆)427頁、437頁
・山下友信『保険法』(2005年)117頁、367頁
・斉藤真紀「傷害保険契約における免責事由としての「被保険者の重大な過失」の意義」『保険法判例百選』210頁
・萩本修『別冊商事法務321号 保険法立案関係資料』155頁、115頁
・長谷川仁彦・竹内拓・岡田洋介『生命・傷害疾病保険法の基礎知識』269頁
・塩崎勤・山下丈・山野嘉朗『専門訴訟講座3 保険関係訴訟』432頁
・塩崎勤・山下丈編『新・裁判実務体系19 保険関係訴訟法』(福田弥夫執筆)394頁















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1.保険会社の営業職員等に保険募集の際に公的保険制度の情報提供を求める金融庁の監督指針の一部改正が行われる
金融庁は、保険会社の営業職員等に保険募集の際に公的保険制度の情報提供を顧客にすることを求めるための「保険会社向けの総合的な監督指針」(以下「監督指針」とする)等の一部改正のためのパブコメ手続きを2021年10月15日から同年11月16日まで実施し、その結果をまとめたパブコメ結果を同年12月28日にウェブサイトで公表しました。改正後の監督指針は12月28日より適用されるとなっています。

・「保険会社向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等について|金融庁
・コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方|金融庁
・「保険会社向けの総合的な監督指針」の一部改正(新旧対照表)|金融庁
・「保険会社向けの総合的な監督指針(別冊)(少額短期保険業者向けの監督指針)」の一部改正(新旧対照表)|金融庁
・「金融サービス仲介業者向けの総合的な監督指針」の一部改正(新旧対照表)|金融庁

2.監督指針の改正の概要
(1)2014年の保険業法の改正
保険業に関する金融庁の監督法である保険業法は、近年、保険商品の複雑化・販売形態の多様化や、スーパーや百貨店などに店舗を構える「ほけんの窓口」などの保険の乗合代理店の拡大などを踏まえ、2014年(平成26年)に大きな改正が行われ2016年に施行されました。この保険業法の改正は、①意向把握義務の創設(294条の2)、②情報提供義務の創設(294条1項)、③保険の乗合代理店の保険募集の態勢整備義務(294条の3)などが含まれます。

その改正点の一つの意向把握義務とは、保険会社・乗合代理店・営業職員(保険募集人)が保険募集(保険営業)を行う際に、顧客の保険契約への意向(ニーズ)を把握しなければならず、その顧客の意向に沿った保険契約の勧誘や提案を行わなければならないとするものです(保険業法294条の2)。

(2)2021年の監督指針の一部改正
そして2021年12月28日は、さらに保険会社の営業職員等に保険募集の際に公的保険制度の情報提供を顧客にすることを求めるための監督指針の一部改正が行われました。その内容は、①保険業法294条の2の意向把握義務に関する監督指針に、営業職員等が公的保険制度の情報提供を行うことを求める改正と、②保険会社の保険募集管理態勢(100条の2)に関連する監督指針に、「保険会社が営業職員などに公的保険制度に関する適切な理解を確保するための十分な教育体制を整備すること」の2点です。そしてこの監督指針の一部改正は、少額短期保険業者への監督指針、金融サービス仲介業者への監督指針においても同様の改正が行われています。

(3)保険業法294条の2の意向把握義務に関する監督指針に、保険会社や営業職員等が公的保険制度の情報提供を行うことが追加される。
今回の改正では、監督指針Ⅱ-4-2-2(保険契約の募集上の留意点)の(3)①(意向把握・確認の方法)の部分がつぎのように改正されました。(下線部が今回追加されたもの。)

Ⅱ-4-2-2 保険契約の募集上の留意点
(3)法第294条の2関係(意向の把握・確認義務)
①意向把握・確認の方法
意向把握・確認の方法については、顧客が、自らのライフプランや公的保険制度等を踏まえ、自らの抱えるリスクやそれに応じた保障の必要性を適切に理解しつつ、その意向に保険契約の内容が対応しているかどうかを判断したうえで保険契約を締結するよう図っているか。そのために、公的年金の受取試算額などの公的保険制度についての情報提供を適切に行うなど、取り扱う商品や募集形態を踏まえ、保険会社又は保険募集人の創意工夫による方法で行っているか。
監督指針改正1
(金融庁のプレスリリースより)

(4)公的保険制度の社内教育などの適正な保険募集管理態勢の確立の改正
また、今回の改正では、監督指針Ⅱ-4-2-1(適正な保険募集管理態勢lの確立)の(4)①(特定保健募集人等の教育について)の部分がつぎのように改正されました。(下線部が今回追加されたもの。)

II-4-2保険募集管理態勢
II-4-2-1適正な保険募集管理態勢の確立
(4)特定保険募集人等(略)の教育・管理・指導
①特定保険募集人の教育について
保険商品の特性に応じて、顧客が十分に理解できるよう、多様化した保険商品に関する十分な知識や保険契約に関する知識の付与及び適切な保険募集活動のための十分な教育を行っているか。
また、公的保険を補完する民間保険の趣旨に鑑みて、公的保険制度に関する適切な理解を確保するための十分な教育を行っているか。

監督指針改正2
(金融庁サイトより)

3.パブコメ結果の概要
(1)そもそも国の公的保険制度を国民に伝えるのは政府や所轄官庁の仕事ではないのか?
今回のパブコメ結果の概要を読むと、保険会社の営業職員と思われる方からのつぎのご意見が、大なり小なり保険会社関係の人間の思いを代弁していると思われます(パブコメ結果1)。

これ保険会社向けの監督指針に入れる必要があるのでしょうか?
そもそも国の制度を国民に伝えるのは政府や所轄官庁の仕事じゃないですか?
保険会社等はあくまでも補完サービスでしかないので筋違いの様に思います。

この営業職員と思われる方からのご意見は正論であり、読んでいて思わず笑ってしまいました。しかし、このカジュアルな意見に対して、金融庁の担当者の方はやや押され気味ながらも、つぎのようにまじめに回答しています。

政府において、公的保険に関する広報については、厚生労働省を中心に年金ポータルの開設やパンフレットの作成、対話集会の実施等、様々な取り組みを行っています。金融庁においても、金融経済教育における動画やパンフレット等において、公的保険や民間保険についても説明しています。

また金融庁ウェブサイト上に、公的保険制度について解説するポータルサイトを作成する予定です。他方で、保険会社や保険募集人等が保険募集を行う際には、顧客の意向を把握し、意向に沿った保険契約の提案を行うことが重要です。今般の監督指針案は、公的保険を補完する民間保険の趣旨に鑑み、顧客に対して、公的保険制度等に関する適切な情報提供を行うことによって、顧客が自らの抱えるリスクやそれに応じた保障の必要性を理解したうえでその意向に沿って保険契約の締結がなされることが図られているかという点などを監督上の着眼点として明確化したものです。

また、監督指針の改正趣旨を踏まえ、保険会社や保険募集人等が取り扱う商品や募集形態に応じて適切に判断し創意工夫を発揮して対応することは、顧客本位の業務運営に資するものと考えます。

パブコメ意見1
パブコメ意見2
(金融庁サイトより)

このように、金融庁は、公的保険制度の国民への説明として、厚労省がウェブサイトに公的保険制度の解説や公的年金の試算ができる専用のページなどを準備し、また金融庁もサイトに公的保険制度に関するポータルサイトを作成する予定なので、保険会社や営業職員などはそれを利用してほしいと異例の低姿勢で要請しています。

(2)今回の公的保険の情報提供は新たな情報提供義務ではない
また、パブコメ結果2は、「そもそも義務教育や高等教育の場面で、公的保険などに関する教育を行うべきではないか」との意見に対して、金融庁は「金融経済教育については、ご指摘を踏まえ、引き続きこうした取り組みを進めていきたいと考えております」とし、さらに「今回の改正案は、監督指針として盛り込むものであり、公的保険制度につき情報提供義務を課すものではありません。と回答しています。

そのため、仮に保険会社や営業職員などが公的保険制度の顧客への説明が不十分であったような場合でも、直ちに意向把握義務(保険業法294条の2)や情報提供義務(294条1項)の違反にはならないと金融庁は考えていると思われます。

(3)共済などには公的保険制度の説明を求めないのか?
パブコメ結果5では、「認可特定保険業者や、共済事業者、事業協同組合の共済事業に対しては公的保険制度の説明をさせないのか?との意見も出されています。この点、金融庁は、「認可特定保険業者についての貴重なご意見として今後の参考とさせていただきます」としています。また、共済などについての意見は、所管官庁へ伝えさせていただきます」と回答しています。

(4)証券会社が投資信託などを販売する際には公的保険制度の説明は不要なのか?
パブコメ結果10では、「証券会社が投資信託などを販売する際には、公的保険制度の説明は不要なのか?」との質問も出されています。これに対して金融庁は「本改正は保険会社や保険募集人を対象とするものであり、投資信託の販売などには影響しない。」「他方で、金融事業者の自主的な判断で、投資信託の販売時に厚労省の公的年金資産Web等を活用することは、望ましい取り組みである」と回答しています。

この点、投資信託の積立などのNISAやiDecoなどの老後のための備えを国民に促す制度を金融庁は推進しているのであり、このNISAやiDecoなども公的年金などとのバランスをとって国民が長期間にわたって準備するうことが大事なのですから、金融庁は保険会社や営業職員などに公的保険制度の説明をさせるだけでなく、証券会社やその営業職員などに対しても、監督指針を改正するなどして、公的年金制度などの説明をすることを求めるべきなのではないかと思われます。

(5)保険会社等はどのような公的保険について説明をすべきなのか?
保険会社等はどのような公的保険について説明をすべきなのかという質問が複数出されていますが、金融庁は「各保険会社が提供する商品種類・内容等、自社の事業の特性や募集チャネルを踏まえて、相違工夫を発揮しならが判断し対応すべき」ものであり、一律の基準などを設ける予定はないようです(パブコメ結果22)。また、金融庁は公的保険制には「遺族年金や障害年金も含まれる」と回答しています。

(6)実効性の担保について
パブコメ意見には、公的保険制度の説明を実施したことの担保・証拠として、「ねんきん定期便等から公的保険の受取資産額を踏まえた説明を受けた」とのチェック項目やチェックボックスを意向確認書に設ければよいのか?という質問も複数出されています(パブコメ結果32、33)。

これに対して金融庁は「実効性を担保するためには各種手段が考えられるところ、保険会社等が自らが取り扱う保険商品や募集形態などを踏まえ、創意工夫をもって判断すべきである」とし、「金融庁としてはこうした点を含めて保険会社等と対話をしてゆく所存です」と回答しています。そのため、保険会社等が顧客に公的年金制度について説明を行い、意向確認書に「公的保険制度の説明を受けた」とのチェック項目・チェックボックスなどを設けておけば、保険募集の際には保険会社等は公的保険制度の説明をせよとの金融庁の今回の監督指針の改正には一応適合していることになると思われます。

■関連する記事
・【解説】保険業法改正に伴う保険業法施行規則および監督指針の一部の改正について
・【解説】保険業法等の一部を改正する法律について
・かんぽ生命・日本郵便の不正な乗換契約・「乗換潜脱」を保険業法的に考える
・第一生命保険が営業職員等の不祥事の報告書を公表

■参考文献
・吉田桂公『一問一答改正保険業法早わかり』19頁、48頁
・錦野裕宗・稲田行祐『保険業法の読み方 三訂版』173頁
・吉田和央『詳解保険業法』614頁、628頁













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日生ポイントトップ画面
(日本生命保険サイトより)

1.日本生命保険のポイントに関する不祥事
日本生命保険が保険契約者のポイントを同社職員が横領・着服するなど、東洋経済のスクープを受けて炎上中のようです。

・日本生命で発覚「客のポイント使い込み」の唖然|東洋経済

2.保険募集の観点から
そもそも保険会社が保険契約者等に特別な利益を与えて保険募集等を行うことは法律上、原則禁止されています(特別利益の提供、保険業法300条1項5号)。

保険契約上の重要な事実の不説明(重要事項の不告知)や告知書に事実を告げないことをそそのかすこと(不告知教唆)などと並んで、特定の顧客に対してだけ利益を与えて保険の募集・勧誘を行うことは、保険会社の営業において発生しやすく、保険制度の公平性をゆがめかねない不正な事項であるからです。保険業法300条1項はこれらの保険募集上の禁止事項を列挙しています。

そのため、生命保険会社等がポイントを顧客に付与してよいかは比較的最近の法的論点であり、グレーゾーンです。

*詳しくはこのブログ記事をご参照ください。
・保険会社が保険契約者等にポイントを交付することは保険業法上許されるのか?/特別利益の提供

つまり、ポイント制度は特別利益の提供という、保険会社の不正が発生しやすい保険募集上の禁止事項に関係するデリケートな部分であり、保険業法の急所の一つともいえます。週刊誌にスクープされ、監督官庁の金融庁の担当部署は激怒中なのではないでしょうか。

私は日本生命の関係者ではないので分かりませんが、上のブログ記事でみたように、日生がこのポイント制度を積極的に推進していることから、おそらく日生は、この保険業法300条の問題をクリアするために、正面突破的な方法として、約款・事業方法書など保険業の骨格となる基礎書類上の許認可を金融庁から得た上で、ポイント制度を運営してるのではないかと推測されます(保険業法4条2項)。

しかしもしそうであるならば、日生は金融庁の許認可に明確に違反して業務を行っていることになるので、事態は非常に深刻だと思われます。

3.個人情報保護・情報セキュリティの観点から
また、生命保険業は顧客の金融情報を取扱う金融業界の一角である上に、顧客の健康状態・傷病の状態などのセンシィティブ情報(要配慮個人情報)を業務の性質上取り扱うので、情報管理や情報セキュリティは非常に高いレベルが要求されます。

にもかかわらず、業界1位の日生が情報管理・情報セキュリティの面でこれでは、生保業界全体の社会的信用の問題として非常にまずいものがあります。金融庁は業界全社に類似の事案の有無などに関して、保険募集上および情報システム上の調査を指示するのではないかと思われます。

*なお、日生の不祥事とは事案が異なりますが、第一生命等のウェブサイトも、情報セキュリティの観点から残念な事象がみられるようです。

■関連するブログ記事
・第一生命保険の「ご契約者専用サイト」の初期設定登録がセキュリティ的にひどい件

4.まとめ
このように、今回の不祥事について日生は、保険募集および情報管理・個人情報保護上の不祥事件として保険業法に基づく報告(不祥事件届出)を行い、金融庁・個人情報保護委員会が行政処分・行政指導を出す可能性があります(保険業法127条1項、同100条の2、同306条、個人情報保護法20条、保険業法施行規則85条5項、同53条の8、保険監督指針II-6、II -4-4-1-2(13))。

■参考文献
・錦野裕宗・稲田行祐『保険業法の読み方 三訂版』95頁、162頁、269頁
・中原健夫・山本啓太・関秀忠・岡本大毅『保険業務のコンプライアンス 第3版』165頁、316頁、340頁









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2020年12月22日のメディア各社の報道によると、営業職員の顧客の金銭の詐欺・横領などに関連し、第一生命保険の稲垣精二社長は謝罪の記者会見を行ったそうです。報道や同社サイト上で公表された報告書によると、新たに3件の営業職員による不祥事とともに、本社の保険事務部門(契約サービス部)の不祥事も1件発覚したとのことです。

・「元社員による金銭の不正取得」事案に関するご報告 (PDF)|第一生命保険

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(第一生命保険サイトより)

報告書によると、山口県の特別調査役については、高い営業成績をもつ特別調査役が社内で”女帝”扱いされ、本来、指揮監督する立場にあったはずの西日本マーケット統括部が監督を行っていなかったなどの、組織的な、ガバナンス上の問題が多かったように感じられます。

多くの保険会社は、社内に法務部門・コンプライアンス部門があり、また業務監査部や検査部門が社内の不正のチェックを多重的に行っています。そのような法務・コンプラ部門や監査・検査部門も有効に機能していなかったのでしょうか。コンプライアンスだけでなくガバナンスが機能不全であったということは、取締役ら経営幹部の法的責任が厳しく問われる問題であると思われます。

たしか第一生命は、生保業界では最初に法務部門を設置した会社であり、法務・コンプライアンスを重視しようという社風があったような気がするのですが、それも株式会社化などの時代の流れとともに変容してしまったのでしょうか。

ところで、この報告書をみると、営業部門だけでなく本社の保険事務部門(契約サービス部)でも不祥事があったようで、これも深刻な問題です。年金保険の取扱について、契約サービス部の社員が不正を行って数千万円の金銭を横領したとのことですが、事務手続き上も、情報システム上も、そのような不正が簡単にできたとは考えにくく、大いに気になるところです。

報道などによると、数年前より、第一生命は保険契約の保全に関する業務の大半を情報システム会社(NTTデータ)に外部委託していたそうです。この外部委託により何らかの不正のつけいる隙が生まれていたのだとしたら、由々しきことです。保険の引受業務や資産運用業務、保険金の支払い業務と並んで、保険契約の保全業務も、保険会社のコア業務なのですから。

稲垣社長は代替わりしたばかりですが、今回の一連の不祥事の再発防止策の実施が一区切りしたら、引責辞任は待ったなしの状況と思われます。今回の不祥事を受け、企業ブランドは大きく傷つき、この一年、大手生保の中で第一生命だけ営業成績が大きく低迷している状況です。金融庁だけでなく、"物言う株主"を含め多くの株主が黙っていないものと思われます。

なお、生命保険業界にとっては、この1年は第一生命やかんぽ生命の不祥事が大きく報道される一年だったように思われます。しかし、顧客の金銭の詐欺・横領でここ数年、毎年のように不祥事を起こしているソニー生命保険については、マスコミがほとんど報道を行わなかったのは不思議なことに思われます。

・当社の社員や代理店・グループ企業等を名乗る者が金員を詐取する事案にご注意ください。|ソニー生命

■関連するブログ記事
・第一生命保険が保険契約の保全業務をNTTデータに外注したことを保険業法から考える
・ソニー生命の個人年金保険契約を装う詐欺事件に対して金融庁が立入検査
・かんぽ生命・日本郵便の不正な乗換契約・「乗換潜脱」を保険業法的に考える









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1.生命保険会社の保険(災害割増特約・傷害保険・災害入院特約など)
新型肺炎・新型コロナウイルス(COVID-19)も疾病・病気の一つであるため、被保険者の方が新型肺炎で病院に入院したり、死亡された場合は、免責条項に抵触していない限り、疾病入院給付金や一般の死亡保険金は支払いとなると思われます。

一方、少し前までの生命保険各社の終身保険などには、交通事故など事故を原因とした被保険者の方の死亡に対して割増の保障を提供する災害割増特約を販売されていました。また、傷害特約、災害入院特約なども、事故を原因とした入院などに対して保険金・給付金を支払う保険は現在も広く販売されています。

ところで、これらの災害割増特約など災害系の保険は、新型肺炎を原因とした入院・死亡などにおいて保険金・給付金が支払われるのかが問題となります。

2.災害系の保険・特約の支払事由・「対象となる感染症」
この点、例えば日本生命保険の「新傷害特約(H11)」の約款をみると、災害死亡保険金の支払事由は、「つぎのいずれかを直接の原因として(略)被保険者(略)がこの特約の保険期間中に死亡したとき」とされ、「②責任開始時以後に発病した感染症(別表11)」と規定されています。

そして、「別表11」はつぎのようになっています。

疾病傷害死亡分類提要
(日本生命保険サイトより)

つまり、感染症を原因とする死亡であっても、一定のものは災害保険金の支払い対象となるが、その感染症は、別表に掲げられている疾病のどれかである必要があります(厚労省の「疾病、傷害および死因統計分類提要ICD-10」により限定列挙されている)。

そして、別表11の感染症には、今回の新型肺炎に関連しそうなものとしては、「重症急性呼吸器症候群(SARS) U04」が含まれていますが、「(ただし、病原体がコロナウイルス属SARSコロナウイルスであるものに限ります。)」とのただし書があります。

また、厚労省はWHOが新型肺炎のICD-10上の分類等を、「2019 年新型コロナウイルス急性呼吸器疾患 U07.1」としたことを周知する通達をだしています。これを読むと、今回の新型肺炎と以前のSARSとは、感染症として別のものとなっています。

・世界保健機関(WHO)による新型コロナウイルスに関する「疾病、傷害及び死因の統計分類第10版(ICD-10)」における対応について|日本神経学会

3.まとめ
したがって、新型肺炎は生命保険各社の災害割増特約・傷害特約・災害入院特約などにおいては、保険金・給付金の支払い対象外となるように思われます。

*なお、保険会社各社で約款などの規定が異なることや、社内規定などが異なりますので、保険契約者・被保険者等の方は、加入なさっておられる保険会社にご相談をお願いいたします。

■関連するブログ記事
・傷害保険/ダニにかまれてダニ媒介性脳炎で死亡した場合に保険金は支払われるか?

■参考文献
・日本生命保険『生命保険の法務と実務 第3版』238頁、245頁

生命保険の法務と実務 【第3版】

生命・傷害疾病保険法の基礎知識

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