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とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

カテゴリ: 知的財産法

OIG (13)
内閣府知的財産戦略推進事務局が11月5日まで「AI時代における知的財産権に関する御意見の募集について」のパブコメを実施しています。Twitterなどネット上をみていると、同人絵師の方々を中心に生成AIへの反対意見が強いように思われるので、私は次のような、あえて生成AIの研究開発に肯定的な意見を書いて提出してみました。

1 生成AIと著作権の関係について、どのように考えるか。
わが国のAI等の科学技術の発展や経済発展のためには、著作権法30条の4にあるとおり生成AIの学習・開発段階はできるだけ法規制せず、一方、生成・利用段階は著作権法等で法規制を行い、生成AIの研究開発と権利者の保護のバランスを図るべきだと考えます。

2 生成AIと著作権以外の知的財産法との関係について、どのように考えるか。
最近、声優・俳優等の「声」と生成AIとの関係が問題になっていますが、声優・俳優等の「声」はパブリシティ権で保護されます(法曹時報 65(5) 151頁、最高裁平成24年2月2日判決)。そのため、著作権法等で安易に新たに声優・俳優等の「声」を法規制することには反対です。

3 生成AIに係る知的財産権のリスク回避等の観点から、技術による対応について、どのように考えるか。
日本新聞協会などが「新聞記事を生成AIの学習に利用させるな」等と主張していますが、それは新聞社各社が自社サイトに「生成AI学習禁止」とのタグなどの技術的措置をすればよいだけであると考えます。新聞社の利益よりも生成AIの研究開発を重視すべきだと考えます。

4 生成AIに関し、クリエイター等への収益還元の在り方について、どのように考えるか。
わが国の生成AIの研究開発を積極的に推進するために、学習・開発段階で利用料をとるのではなく、生成・利用段階で利用料をとるなどしてクリエイター等に還元すべきだと考えます。

6 ディープフェイクについて、知的財産法の観点から、どのように考えるか。
欧米などのように、民主主義を守る観点から、生成AIを利用した記事や動画・画像などには「生成AIで作成」等の注意書きをつけるよう法令やガイドラインなどでマスメディアやSNS・検索サイト等のデジタルプラットフォーム等に義務付けるべきだと考えます。

7 社会への発信等の在り方について、どのように考えるか。
とくにマンガ・アニメ等のイラスト等の分野に関して、生成AIに反対する感情的な意見がネット上に広まっていると感じます。これに対して政府は、例えば先般の文化庁の「著作権とAI」の講演会のような、学術的・理性的な情報発信を行い対応すべきだと考えます。

その他
「知的財産法と生成AI」だけでなく、「個人情報保護法と生成AI」についても政府や国会で検討していただきたいと考えます。

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AIと著作権

■追記(2023年6月22日)
6月19日の文化庁の本セミナーがアーカイブで配信されています。
令和5年度著作権セミナー「AIと著作権」の講演映像及び講演資料を公開しました。

1.はじめに

2023年6月19日午後2時から3時まで、文化庁のYouTubeの著作権セミナー「AIと著作権」が開催されたので受講しました。とても興味深く面白い講義でした。受講して印象に残った点や感想などを少し書いてみたいと思います。(あくまでも個人の感想です。)

2.著作権法30条の4の「権利者の権利を不当に害する場合」
まず、文化庁としては、AIの①開発・学習段階と、②生成・利用段階を分けて考えてほしいということをとても強調されていました。

また文化庁は著作権法30条の4の「権利者の権利を不当に害する場合」については、情報解析用DBの販売・利用を阻害する場合が具体例として想定されると非常に狭く解して説明している点が印象に残りました。

(そのため、イラストレーターの方々が「自分の権利が不当に侵害されている」と法30条の4の「権利者の権利を不当に害する場合」に該当すると主張しても、ただちにその主張が採用されるかについては厳しそうだと感じました。)


2.類似性と依拠性
つぎに、AI生成物が著作権侵害となるかどうかについては一般の著作権侵害と同様に、①類似性と②依拠性があるかで判断されるが、類似性はAIでない創作物と同じ判断基準によるとなるが、依拠性は現在議論中で難しいとのことでした。講義のなかでは4つの見解が紹介されていました。

ただし、①Image to Imegi(i2i)の場合や、②特定のクリエイターの作品を集中的に学習させた場合は、依拠性が認められる可能性はあるのではないかとのことでした。この点に関しては、イラストレーターの方々にとっては朗報なのではと思いました。


3.利用者側の注意点
さらに、利用者側の注意点としては、①利用行為が著作権の権利制限規制に該当しないか検討する②既存の著作物と類似していないか検討し、もし類似している場合には、(a)利用をさける、(b)著作権者の許諾を得る、(c)大幅な修正を加えるなどの対応をとることが望ましい、との説明がありました。この点は、今後の法的紛争の予防のために重要な指針なのではと思いました。


4.AI生成物が著作物にあたるか
加えて、AI生成物が著作物にあたるかについては、AIが自律的に作成したものは該当しない、しかし人間が思想・感情を創作的に表現するために「道具」として利用した場合には該当するとし、それには「創作的意図」・「創作的寄与」が問題になるとのことでした。このうち創作的意図は簡単だが、創作的寄与の判断は難しく、現在、文化庁も有識者委員会などで検討中とのことでした。


5.その他
なお、文化庁はAIの問題に関連し「海賊版対策情報ポータルサイト」を準備しているのでイラストレーターなどの方々は利用してほしいとのことでした。
・インターネット上の海賊版による著作権侵害対策情報ポータルサイト

また、生成AIに関する説明を追加した文化庁の「著作権テキスト」(令和5年版)は7月に公開予定とのことでした。

YouTubeのセミナー終了後にはアンケートがあったのですが、「アーカイブ動画を希望しますか?」とあったので強く「希望」としました。


6.感想
このように1時間の講義ながら、全体として分かりやすく非常に勉強になりました。また文化庁の現在の考え方がよくわかるセミナーでした。文化庁におかれては、今後もネット媒体のセミナーなどで、生成AIと著作権の問題を取り上げてほしいと思いました。

■関連するブログ記事
・chatGPT等の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」に関して個人情報保護委員会に質問してみた

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internet_website_leech
1.リーチサイト「映画の無料動画で夢心地」が著作権法違反で立件
新聞報道によると、違法な海賊版映画がアップロードされたサイトに利用者を導く「リーチサイト」の「映画の無料動画で夢心地」について2023年5月8日、京都府警は著作権法違反の疑いで運営者を逮捕したとのことです。同リーチサイトは洋画、邦画やアニメなど約2万1800作品へのリンクを貼る、日本国内で運営されているものとして最大級のものであったそうです。

・違法アップロード映画に誘導 リーチサイト運営の疑い、京都府警逮捕|朝日新聞

2.海賊版サイト「漫画村」の問題とリーチサイト
このブログでもたびたび取り上げてきたとおり、漫画を中心に違法コピーしたコンテンツを掲載し、無料で閲覧可能にしたいわゆる「海賊版サイト」の「漫画村」などが2017年頃より大きな社会問題となりました。この海賊版サイト対策として政府は「サイト・ブロッキング」や「アクセス警告方式」、「侵害コンテンツのダウンロード違法化」などの検討や立法を行ってきましたが、著作権法改正によるリーチサイトおよびリーチアプリの違法化もその一環です。

3.改正著作権法によるリーチサイト・リーチアプリ対策
2020年の著作権法改正により、侵害著作物等へのリンク情報を集約し、利用者を侵害著作物等に誘導するウェブサイトや、これと同じ機能を有するプログラム・アプリの悪質な提供行為等が著作権を侵害する行為となりました(著作権法113条2項、3項)。

すなわち、「提供行為が違法となるリーチサイト・リーチアプリとは「公衆を侵害著作物等に殊更に誘導するもの」または「主として公衆による侵害著作物等の利用のために用いられるもの」に限定され(法113条2項1号、2号)、かつリンク先コンテンツが侵害著作物等であることについて故意または過失のある場合に限られる(法113条2項本文)」とされています(高林龍『標準著作権法 第5版』152頁)。

改正著作権法の概要
(2020年改正著作権法の概要(部分) 文化庁「令和2年通常国会 著作権法改正について」より)

・令和2年通常国会 著作権法改正について|文化庁

今回の「映画の無料動画で夢心地」は約2万1800作品へのリンクを貼る非常に大規模なものであったものであるそうで、著作権法113条2項違反の疑いがあるとして立件されたものであると思われます。

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■関連するブログ記事
・漫画の海賊版サイトのブロッキングに関する福井弁護士の論考を読んでー通信の秘密
・ネット上のマンガ海賊版サイト対策としてのアクセス警告方式を考える-通信の秘密



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1.はじめに
Twitterでツイートする際に他人のツイートのスクリーンショット(スクショ)画像を添付したことが 適法な「引用」ではないと判断された裁判例(東京地判令和4.2.10)が出され批判が大きいところ、今般別件で、ツイートに他人のツイートのスクショ画像を添付することは適法な引用であるとする興味深い知財高裁判決(知財高裁令和4.11.2)が出されていたので紹介します。

2.事案の概要
本件は、氏名不詳者によりTwitterにおいて、本件ツイート1および2が投稿されたことにより、同各ツイートに添付された本件投稿画像1または2に含まれる本件控訴人プロフィール画像に係る控訴人X1の著作権および控訴人X2の原著作者の権利が侵害されたこと並びに控訴人X1の名誉権が侵害されたとして、控訴人らが経由プロバイダである被控訴人に対して、プロバイダ責任制限法に基づき発信者情報の開示を求めた事案である。

本件投稿画像1および2は、控訴人X1が投稿したツイートをそれぞれスクリーンショット(スクショ)により撮影したものであり、ツイートには投稿者を示すアイコンとして、控訴人X1のプロフィール画像が付されていた。本件控訴人プロフィール画像は、控訴人X1が自らのアカウントにおいてプロフィール画像として用いていたものであり、控訴人X2が撮影した控訴人X1の写真の顔部分に控訴人X1がイラストを付して加工したものであった。本知財高裁判決はスクショ画像の添付によるツイートを適法な引用と認めた。(ただし名誉棄損などを認定して発信者情報の開示を認めた。)

3.判決の判旨
『イ  本件では、本件ツイート1の投稿者が、本件アカウントにおいて、控訴人らの許諾を得ることなく本件ツイート1を投稿しており、これにより、本件控訴人プロフィール画像をツイッターのサーバに複製し、送信可能化したとい える。

ウ  被控訴人は、上記イの本件控訴人プロフィール画像の利用について、「引用」に当たり適法であると主張するので検討するに、適法な「引用」に当たるには、①公正な慣行に合致し、②報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない(著作権法32条1項)。

エ(ア)  本件についてみると、本件ツイート1においては、「X1’ さん」「DM画像捏造してまで友人を悪人に仕立てあげるのやめてくれませんかね?」との文言と共に本件投稿画像1が投稿されているところ、「X1’」は控訴人X1の旧姓であるから、同ツイートは、控訴人X1 が「DM画像を捏造した」という行為を批判するために、控訴人X1 が捏造した画像として、本件投稿画像1を合わせて示したものと推認され、本件投稿画像1を付した目的は、控訴人 X1が「DM画像を捏造」してこれをツイートした行為を批評することにあると認められる。

(イ) 上記控訴人X1 の行為を批評するために、控訴人X1 のツイートに手を加えることなくそのまま示すことは、客観性が担保されているということができ、本件ツイート1の読者をして、批評の対象となったツイートが、誰の投稿によるものであるか、また、その内容を正確に理解することができるから、批評の妥当性を検討するために資するといえる。また、本件控訴人プロフィール画像は、ツイートにアイコンとして付されているものであるところ、本件ツイート1において、控訴人X1 のツイートをそのまま示す目的を超えて本件控訴人プロフィール画像が利用されているものではない。そうすると、控訴人X1 のツイートを、アイコン画像を含めてそのままスクリーンショットに撮影して示すことは、批評の目的上正当な範囲内での利用であるということができる。

(ウ) 次に、証拠によると、画像をキャプチャしてシェアするという手法が、情報を共有する際に一般に行われている手法であると認められることに照らすと、本件ツイート1における本件控訴人プロフィール画像の利用は、公正な慣行に合致するものと認めるのが相当である。

オ(ア)  控訴人らは、本件投稿画像1の分量が本件ツイート1の本文の分量と同等であり、主従関係にないから、引用に当たらないと主張するが、仮に「引用」に該当するために主従関係があることを要すると解したとしても、主従関係の有無は分量のみをもって確定されるものではなく、分量や内容を総合的に考慮して判断するべきである。本件では、本件投稿画像1ではなく、本件控訴人プロフィール画像と本件ツイート1の本文の分量を比較すべきである上、本件投稿画像1は、本件ツイート1の本文の内容を補足説明する性質を有するものとして利用されているといえることから、控訴人らの上記主張は採用できない。

(イ)  控訴人らは、引用リツイートではなくスクリーンショットによることは、ツイッター社の方針に反するものであって、公正な慣行に反すると主張する。しかしながら、そもそもツイッターの運営者の方針によって直ちに引用の適法性が左右されるものではない上、スクリーンショットの投稿がツイッターの利用規約に違反するなどの事情はうかがえない。

そして、批評対象となったツイートを示す手段として引用リツイートのみによったのでは、元のツイートが変更されたり削除された場合には、引用リツイートにおいて表示される内容も変更されたり削除されることから、読者をして、批評の妥当性を検討することができなくなるおそれがあるところ、スクリーンショットを添付することで、このような場合を回避することができる。(略)そうすると、スクリーンショットにより引用をすることは、批評という引用の目的に照らし必要性があるというべきであり、その余の本件に顕れた事情に照らしても公正な慣行に反するとはいえないから、控訴人らの上記主張は採用できない。』

4.検討
(1)「引用」 著作者の権利(著作権および著作者人格権)の享有にはいかなる方式の履行も要しないとされています(著作権法17条2項)。しかし著作権はさまざまな形で制約されます(法30条以下)。本件で問題となるのは「引用」です(法32条)。

著作権法
(引用)
第32条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

この著作権法32条1項の条文が示すように、適法な引用といえるためには、①公表されていること、②公正な慣行に合致すること、③報道、批評、研究その他の引用の正当な範囲内であること、が必要となります。ここで①は明確な要件ですが、②③は必ずしも明確ではないので、裁判例は判断基準として④明瞭区別性、⑤主従関係の要件をとることが一般的です(最高裁昭和55.3.28・パロディ=モンタージュ事件)。

(2)本判決の検討
(a)批評の引用の正当な範囲内であること
そこで本判決をみると、「エ(ア)」の部分で裁判所は、本件投稿画像(スクショ画像)の添付された本件ツイートは控訴人X1が「DM画像を捏造」してこれをツイートしたことを「批判」する目的のものであると認定しています。

そして「エ(イ)」の部分で裁判所は、X1のツイートを批評するためにスクショ画像でX1のツイートをそのまま示すことは、「客観性が担保」され、「誰の投稿によるものであるか明らか」であり、また「その内容を正確に理解できる」ので、「批評の妥当性を検討するに資する」と評価しています。そのため裁判所はスクショ画像をツイートに添付することは「批評の目的上正当な範囲内での利用ということができる」と結論付けています。

(b)公正な慣行・主従関係
また裁判所は「エ(ウ)」の部分で、「証拠によると、画像をキャプチャしてシェアするという手法が、情報を共有する際に一般に行われている手法であると認められていることに照らすと」、本件控訴人プロフィール画像の利用は「公正な慣行に合致」していると判断しています。

この点について控訴人は、本件投稿画像1の分量が本件ツイート1の本文の分量と同等であり主従関係にないと争っていますが、裁判所は、「主従関係の有無は分量のみをもって確定されるものではなく、分量や内容を総合的に考慮して判断すべきである」と判示し、控訴人らの主張を退けており注目されます。

(c)Twitterの利用規約-引用ツイートとスクショ・オーバーライド問題
さらに控訴人らは、Twitterの利用規約は他のツイートを引用する際には引用ツイートの手法のみを認めており、スクリーンショットによる手法を認めていないので、本件のスクショ画像は「公正な慣行」に反すると争っています。

この点に関しては、冒頭であげた東京地裁令和4.2.10は、スクショ画像の添付は"Twitterの利用規約に違反しており公正な慣行に合致しておらず適法な引用といえない"と判断してしまっておりますが、この東京地裁判決に対しては、「スクリーンショット画像の添付による引用がツイッター社の規約に違反するとしても、規約違反が「公正な慣行」という媒介を通じて直ちに32条1項の適法引用を否定することになるかについては、別個の検討が必要であろう(略)。さもなければ、SNS等のサービス運営者がその利用規約等をもって著作権法の定める適法引用要件を事実上修正できることになりかねない。」との批判(いわゆる「オーバーライド問題」への批判)がなされているところでした(小林利明「ツイッターにおけるスクリーンショット画像の添付と適法引用の成否」『ジュリスト』1572号9頁)。

これに対して本知財高裁判決は、「しかしながら、そもそもツイッターの運営者の方針によって直ちに引用の適法性が左右されるものではない」とし、さらに「批判対象となったツイートを示す手段として引用リツイートのみによったのでは、元のツイートが変更されたり削除された場合には、引用リツイートにおいて表示される内容も変更されたり削除されることから、読者をして、批評の妥当性を検討することができなくなるおそれがあるところ、スクリーンショットを添付することで、このような場合を回避することができる」と指摘し、その上で「そうすると、スクリーンショットによる引用をすることは、批評という引用の目的に照らし必要性があるというべきであり…公正な慣行に反するとはいえない」と結論付けています。

このように知財高裁が引用リツイートとスクショ画像とを比較検討し、スクショ画像のメリットを指摘し、その上でツイッター社の利用規約が引用リツイートしか認めていないからといってスクショ画像の添付が公正な慣行に反することにはならないと判示したことは極めて正当であると思われます。本知財高裁判決をもって、上述の東京地裁令和4.2.10の判旨は否定されたといえるのではないかと思われます。

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■参考文献
・知財高裁令和4年11月2日判決 令和4(ネ)10044 著作権侵害等に基づく発信者情報開示請求控訴事件|裁判所
・小林利明「ツイッターにおけるスクリーンショット画像の添付と適法引用の成否」『ジュリスト』1572号8頁
・中山信弘『著作権法 第2版』320頁
・高林龍『標準著作権法 第5版』181頁



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1.はじめに
新聞社の新聞記事を鉄道会社が社内イントラネットで許諾なく共有していたことが著作権侵害として損害賠償が認められた裁判例(東京地裁令和4.10.6判決)が出されています。新聞記事などを企業等が承諾なく内部で共有することが著作権法上許されるかどうかについては著作権法の教科書には載っている論点ですが、公開されている裁判例は少ないようなので見てみたいと思います。

・東京地裁令和4年10月6日・令和2(ワ)3931・著作権・損害賠償請求事件|裁判所

2.事案の概要
鉄道会社である被告Y(首都圏新都市鉄道株式会社)は、原告X(株式会社中日新聞社)の新聞記事のうちY社に関わるものや沿線に係るもの約130件を承諾なくスキャンして画像データを作成し社内イントラネットに保存し役職員(約500名)が当該画像データを閲覧できるようにしていた。XがYの当該行為は複製権および公衆送信権の侵害であると訴訟を提起したのに対して、裁判所はこれを認め、約190万円の損害賠償の支払いをYに命じた。

本件訴訟の主な争点は、①本件新聞記事は著作物であるといえるか、②Yの本件行為は「非営利で公共性のある場合」であるといえるか(私的複製であるといえるか)、③損害の程度について、であった。(③については本記事では割愛。)

3.判旨
(1)争点①:本件新聞記事は著作物であるといえるか
『(Yは本件記事は「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」にあたると主張するが)、(本件)記事は、事故に関する記事や、新しい機器やシステムの導入、物品販売、施策の紹介、イベントや企画の紹介、事業等に関する計画、駅の名称、列車接近メロディー、制服の変更等の出来事に関する記事である。そのうち、事故に関する記事については、相当量の情報について、読者に分かりやすく伝わるよう、順序等を整えて記載されるなどされており、表現上の工夫がされている。また、それ以外の記事については、いずれも、当該記事のテーマに関する直接的な事実関係に加えて、当該テーマに関連する相当数の事項を適宜の順序、形式で記事に組み合わせたり、関係者のインタビューや供述等を、適宜、取捨選択したり要約するなどの表現上の工夫をして記事を作成している。したがって、(本件)記事は、いずれも創作的な表現であり、著作物であると認められる。』

(2)争点②:Yの本件行為は「非営利で公共性のある場合」であるといえるか(私的複製であるといえるか)
(Xの個別規定には「非営利で公共性のある場合には無料」との規定があり、Yはその規定の適用があると主張している点について)『しかし、株式会社であるYにこれらの規定が適用されたかは明らかではなく、また、上記で定められている取扱いをしなければならないことが一般的であったことを認めるに足りる証拠はない。』

このように判示し、裁判所はYの複製権および公衆送信権の侵害を認定し、約190万円の損害賠償の支払いを命じた。

3.検討
(1)新聞記事は著作権法上の「著作物」といえるか
著作権法による保護を受けるためには、創作したものが「著作物」である必要性があります。この点、著作権法上の「著作物」は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と規定されています(著作権法2条1項1号)。

一方、著作権法10条2項は「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、…著作物に該当しない。」と規定しています。これは思想や感情を創作的に表現したものとはいえないものは著作物に該当しないことを注意的に規定したものです。そのため、新聞記事におけるある人物の死亡や地域の事故・火事等を伝える簡単な記事等(いわゆるベタ記事など)は「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」に該当し著作物性が否定されます。しかし一般的な新聞記事や雑誌記事などは著作物であると解されています。

この点、2.(1)でみたように、本判決は新聞記事が「相当量の情報について読者に分かりやすく伝わるよう、順序等を整えて記載されており表現上の工夫がされている」場合や、「当該記事のテーマに関する直接的な事実関係に加えて、当該テーマに関連する相当数の事項を適宜の順序、形式で記事に組み合わせ…表現上の工夫をして記事を作成している」場合には、「当該記事は創作的な表現であり、著格物であると認められる」としている点は妥当であると思われます。

(2)Yの本件行為は「非営利で公共性のある場合」であるといえるか(私的複製であるといえるか)
著作権法30条は「個人的に又は家庭内その他これに準じる限られた範囲内において使用すること」(私的使用)を目的とする複製をとくに許容しています。この規定の趣旨は、家庭内における零細な複製を許容することにあるとされています。

法30条の「個人的な」使用とは、職業上の利用でなく、個人が趣味や教養を深めるために使用することを指すとされています。また「家庭内」とは、同一家計で同居している家族に使用させるために複製を許す趣旨であり、「非営利目的」の意味合いを含むと解されています。さらに「これに準ずる限られた範囲内」とは、同好会やサークルなどのように10人あるいは4~5人のグループが想定されており、特定かつ少数により公正される範囲を指すと解されています。

したがって、会社などの企業内における内部的利用のための複製は、一般的にかつ少数により構成された範囲でも複製とはいえず、また、当該複製は営利を目的とするものなので、非営利的目的を前提とする法30条の私的利用のための複製としては許容されないと解されています(辻田芳幸「団体内部の複製(舞台装置設計図事件)」『著作権判例百選 第4版』116頁、東京地裁昭和52年7月22日判決)。

この点、本判決のXの個別規定に「非営利で公共性のある場合には無料」との規定があることは、著作権法30条を前提としていると思われるところ、本判決が「株式会社であるYにこれらの規定が適用されたかは明らかではなく、また、上記で定められている取扱いをしなければならないことが一般的であったことを認めるに足りる証拠はない。」と判示していることは妥当であると思われます。

(3)まとめ
このように企業内などで新聞記事や雑誌記事などをコピーをとるなどして複製して利用することは、かりにそれが社内研修などが目的であるとしても営利活動であるとみなされ著作権法30条の私的利用の適用対象外となると思われます。そのため、企業の実務担当者は新聞記事などをコピーなどして利用するにあたっては、新聞社などにあらかじめ許諾をとり、必要に応じて使用料を支払った上で利用することが望まれます。

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■参考文献
・中山信弘『著作権法 第3版』352頁
・辻田芳幸「団体内部の複製」『著作権判例百選 第4版』116頁



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