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とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

カテゴリ: 法務・コンプライアンス

LINE
6月11日、ZホールディングスLINEの個人情報事件に関する有識者委員会(座長・宍戸常寿教授)第一次報告書の概要をサイトで公表しました。

・「グローバルなデータガバナンスに関する特別委員会」第一次報告受領について|Zホールディングス

この報告書の概要を大まかにみると、まず、「LINEの主要な個人情報は主に日本のサーバーに保管されている」とLINE社2013年、2015年、2018年の3回、日本の国・自治体関係者に説明していた点が報告書にありますが、これはやはり、非常に不適切だと思われます。

なおこの点、個人情報保護法40条は、個人情報保護委員会は事業者に対して報告を求め、また立入検査をすることができると規定していますが、この報告に虚偽があった場合や検査忌避があった場合などは罰則(両罰規定)が科されると規定されています(法85条)。

また、個人情報保護委員会だけでなく、総務省もLINE社に対して報告徴求などを実施していますが、電気通信事業法169条も虚偽の報告などに対して罰則規定を置いています。さらに金融庁もLINE社に報告徴求などを実施していますが、例えばQRコード決済などに関する資金決済法も、報告徴求に対する事業者の虚偽の報告などに対して罰則規定をおいています(法112条7号、8号)。

これらの罰則規定が今後、LINE社などに対して適用されるのか、大いに気になるところです。

また、LINE社の話を鵜呑みにしていた国・自治体側も、個人情報保護法制や、国の安全保障あるいは経済安全保障の観点から非常に問題があるのではないでしょうか。

LINE報告書01

この点、例えば行政機関個人情報保護法6条は、行政機関は「保有個人情報の漏えい、滅失又は毀損の防止その他の保有個人情報の適切な管理のために必要な措置を講じなければならない」と規定しています(安全確保措置)。

また、これも例えば総務省の「総務省の保有する個人情報等の適切な管理のための措置に関する訓令 」(総務省訓令第54号)38条は、業務委託について、適切な安全確保措置が実施できる事業者を書面などを求めて選定すること(1項)、目的外利用の禁止や秘密保持条項、再委託の制限、個人情報漏洩事故があった場合の対応などを盛り込んだ契約書による業務委託契約を締結すること(2項)、少なくとも年1回の委託先への実地検査を実施すること(3項)等などを規定しています。

しかし、LINEを情報提供サービスなどのために利用していた総務省や、各自治体は、LINE社としっかり業務委託契約書を締結し、年1回以上のLINE社への実地検査などを法令に基づいて実施していたのでしょうか?大いに疑問です。

つぎに、3月の朝日新聞等の報道を受けて、LINE社はプレスリリースを公表し、2021年6月までに韓国サーバーに保管されている画像・動画などの個人データを日本のサーバーに移動させる等と発表しました。

しかし、この点についても、さまざまな個人データの日本への移動が、LINE社のリリースに示されたスケジュールに対して遅延していることが明らかにされています。この点を、本報告書は「ユーザーファーストの意識が欠けている」と指摘しています。
LINE報告書02

この点は、新興のIT企業であるLINE社およびZホールディングスは、「ユーザー・顧客との約束を守ろうという意識」、ユーザー・顧客への説明責任や、>ガバナンスコンプライアンスの意識が企業として極めて低いのではないでしょうか。Yahoo!Japan社も、2004年の450万人分の個人情報漏洩を起こしたYahoo!BB個人情報漏洩事件など、3年から5年おきに不祥事を起こしている印象があります。

さらに、朝日新聞の峯村健司氏のスクープ報道のとおり、やはりLINE社の委託先の中国子会社の日本サーバーへのアクセスログ等は、中国等の開発者が具体的にどんな個人データにアクセスしたか等の記録が残っていないとのことです。アクセスログも保存されていても、1年間しか保存されていないとのことです。さらに中国等の開発者PC等は外部ネットに接続可能な状態であり、当該PC等の挙動のログなども残っていないと報告書は指摘しています。これはLINE社の安全管理措置が非常に不十分であったと言わざるを得ません。
LINE報告書03

加えて、報告書は、2016年ごろより、中国の国家情報法に関する議論が日本国内で高まっていたのに、LINE社がシステムの開発・保守などを中国で継続していた点も指摘しています。
LINE報告書04

この点も、わが国の国民約8600万人のアクティブ・ユーザーを持ち、国・自治体の情報発信業務や国民・市民からの相談業務、多数の日本企業の情報発信業務などを担っているLINE社は、日本の国民の個人情報保護や国・自治体や多くの企業の機密情報の保護に対する大きな責任を負っていること、日本の安全保障および経済安全保障に大きな責任を負っていることに対して、企業市民としてあまりにも無頓着だったのではないでしょうか。

なお、本報告書の概要をざっとみる限り、本事件で個人情報とともに問題となった、電気通信事業法4条憲法21条2項の定めるユーザーの「通信の秘密」に関しては、有識者委員会であまり議論がなされていないようですが、大丈夫なのでしょうか。

4月の総務省のLINE社に対する行政指導のプレスリリースも、個人情報に関しては問題視していますが、「通信の秘密」に関しては、まるでなかったかのようにしているわけですが。この点を、情報法の大御所である宍戸教授などの有識者委員会に大いに議論していただきたいと、一般の国民としては思っていたのですが。
LINE報告書03

また、本日のZ社のプレスリリースでは、有識者委員会の第一次報告書は概要のみが公表されており、報告書本文は公表されていないことも、やや不可思議な対応であると思われます。

■関連する記事
・LINEの個人情報・通信の秘密の中国・韓国への漏洩事故を個人情報保護法・電気通信事業法から考えた
・LINEの通信の秘密の問題に対して総務省が行政指導を実施
・LINEの個人情報の問題に対して個人情報保護委員会が行政指導を実施











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1.はじめに
2020年(令和2年)4月に、国の新型コロナ緊急事態宣言をうけ、代表取締役が招集通知後に取締役会決議を経ずに株主総会の日時場所を変更したことが違法でないとされた興味深い裁判例が出されています(大阪地裁令和2年4月22日決定・積水ハウス株主総会事件)。

2.事案の概要
訴外A社(積水ハウス株式会社)は、住宅建設などを行う建設会社であり、会社法上の公開会社かつ大会社であり監査役設置会社である。YはA社の代表取締役であり、XはA社の取締役であり、A社の株式を6か月以上前から保有している。訴外Bは、A社の前代表取締役である。

XおよびBは、2020年2月14日付で、A社に対し、X、Bなど9名を取締役に選任するための提案権を行使した。同年3月5日、A社の取締役会は定時株主総会招集決議を行った(本件定時株主総会決議)。同年4月1日、A社は本件定時株主総会決議に基づき、定時株主総会(本件定時株主総会)の招集通知を同社のウェブサイトに公表し、同年4月6日、Yは株主に対して招集通知の書面を発送した。

招集通知においては本件定時株主総会は、日時は2020年4月23日午後10時より、場所は大阪市のCホテル2階のホテル大宴会場と記載されていた。

同年4月7日、国は新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)32条に基づき、新型コロナウイルス感染症に係る緊急事態宣言を発出し、同日、大阪府知事は、特措法24条9項に基づき府内の一定施設に対して、同年4月14日から同年5月6日までの休業等の要請を行った。

この緊急事態宣言を受けた大阪府知事の休業要請により、Cホテルのホテル大宴会場が利用不能となったため、Yは同年4月15日、本件定時株主総会の開催場所を大阪市のCホテルに隣接するDビルの35階フロアとし、開始時刻を30分遅らせて午前10時30分と変更し(本件変更)、「定時株主総会 開催場所・開始時刻変更等について」との情報を、A社ウェブサイトで公表した。

これに対してXは、Yの本件変更は、招集手続きに関する法令(会社法298条1項1号、4項、299条)に違反したYの違法行為であり、本件決定を前提に本件定時株主総会を開催することは、YのA社に対する善管注意義務違反であると主張し、差止請求権を被保全権利として、本件定時株主総会の開催禁止を求める仮処分命令を申し立てたのが本件訴訟である(同360条3項、1項)。

3.裁判所の決定の要旨
「会社法上、株主総会を招集するにあたり、取締役会で定めた会社法298条1項所定の事項を変更しようとする場合の要件や手続きにつき、明文の規定はない。(略)もっとも、(略)本件定時株主総会招集決議の権限の範囲は、本件定時株主総会招集決定の合理的解釈によって画定されるものというべきである。招集通知(略)の最初の頁には、新型コロナウイルス感染症への対応として、『本定時株主総会運営に変更が生じた場合には、以下のウェブサイトに掲載いたしますので、ご出席の際にはご確認ください。』という一文が明記され、参照先のURLが記載されていたのであるから、本件定時株主総会招集決定は、新型コロナウイルス感染症の動向いかんによっては定時株主総会の運営に変更があり得ることを前提としていたことは明らかであり、変更をおよそ許容しない趣旨と解することはできない。」

Y限りで株主総会の日時及び場所を変更することの可否等も、本件定時株主総会招集決議の解釈により決せられることになる。もとより、本件定時株主総会招集決議を執行するにあたり、株主の議決権行使が妨げられることとなるような恣意的な変更を許容する趣旨と解することはできないが、少なくとも本件のように、Yが、当初予定していたホテル大宴会場の使用が事実上不可能となったことに伴い、代替会場として、隣接する高層ビルの35階をフロアごと確保し、これに伴い、35階空きフロアへの移動時間を考慮して開始時刻を30分繰り下げる範囲で本件定時株主総会の開始時刻及び場所を変更するにとどまる本件変更は、本件定時株主総会決議の執行の域を逸脱するものとまではいえない。」

「Xは、Yが自己の保身等のために本件定時株主総会開催を強行しようとするものであるかのように主張する。(略)しかし、A社取締役会も、取締役候補者選任をめぐっては鋭く対立しているものの、緊急事態宣言前後を通じて、本件定時株主総会を開催する方向で異論なく準備を進めてきたと認められるのであり、それまでのYの認識と前提を全く異にする義務を肯定することは困難である。(略) よって、本件仮処分命令申立は、被保全権利の疎明を欠くものとして、理由がない。」

4.検討
(1)株主総会の日時・場所の変更について
監査役設置会社などの取締役会設置会社が株主総会を開催する場合には、株主総会の日時・場所など所定の事項を取締役会で決議し(会社法298条1項、4項)、株主総会の日の二週間前までに書面またはウェブサイト等で株主に通知しなければなりません(299条1項、2項、3項)。

しかし、会社法は株主総会の日時・場所などを変更する場合の要件や手続きなどの規定がないため、本事例のような場合に、株主総会の日時・場所などを変更できるのか、できるとしてどのような手続きをとるべきなのかが問題となります。

この点、学説・裁判例は、招集通知を通知後に株主総会の日時・場所を変更することも、正当な理由があり、かつ変更について株主に対する適切な周知方法がとられていれば、そのような変更は許されるとしています(広島地裁高松支部昭和36年3月20日判決)。

ただし、理由なく変更が行われた場合には、決議不存在事由になりうるとする裁判例も存在し(大阪高裁昭和58年6月14日判決)、開始時間を長時間遅らせることは決議取消事由となるとする裁判例も存在します(水戸地裁下妻支部昭和35年9月30日判決、江頭憲治郎『株式会社法 第7版』327頁)。

本判決の決定は、上の広島地裁高松支部の判決と異なり、招集通知送付後に取締役会決議を経ずに代表取締役限りで株主総会の日時・場所を変更することは、「本件定時株主総会招集決定決議の合理的解釈により決せられる」と判示しており、この点に意義のある裁判例です。

そして本裁判の決定は、招集通知に「本定時株主総会運営に変更が生じた場合には、以下のウェブサイトに掲載いたしますので、ご出席の際にはご確認ください」と明記されていることから、新型コロナの動向によっては定時株主総会の運営に変更がありうることを前提として取締役会決議がなされたことは明らかであり、変更を許容しない趣旨とは言えないとしています。この点は、招集通知からうかがわれる本件株主総会決議の内容として合理的な解釈であるといえるので、妥当なものであると思われます。

(2)取締役会決議を経ないで株主総会の日時・場所を変更することの可否
本裁判の決定は、取締役会決議を経ないで株主総会の日時・場所を変更することの可否について、「代表取締役限りで本件変更をすることの可否は、本件定時株主総会収集決議の解釈による」、そしてその解釈にあたっては、「株主の議決権行使が妨げられるような恣意的な変更は許されない」としています。

そのうえで、本裁判の決定は、①Cホテルのホテル大宴会場が事実上使用不可能となったこと、②代替会場として、隣接するDビルの35階フロアを確保したこと、③Dビルの35階フロアへの移動時間を考慮して開始時刻を30分遅らせて午前10時30分からとしたこと、の3点から、本件変更は本件定時株主総会招集決議の解釈の限度内にとどまると判示しています。これは妥当な判断であると考えられます。

(3)Yの善管注意義務違反の有無
Xは、Yが自己保身のために本件定時株主総会の開催を強行しており、それは取締役の善管注意義務(会社法330条、民法644条)の違反に該当すると主張しています。

これについて本裁判の決定は、「本件定時株主総会招集決議の趣旨は、流会等の措置を講じることではなく、新型コロナの動向に照らし、Yが本件変更を前提として本件定時総会を開催することにある」として、その趣旨に沿って開催のために事務を行う以上は、Yに善管注意義務は認められないと判示しています。上でみたように本件変更は妥当であると考えられますので、それを実現するためのYの行為は善管注意義務違反にならないとの判断は妥当であると思われます。

(4)その他、新型コロナと株主総会について
法務省は、新型コロナに関連して、定款で定めた時期に定時株主総会を開催できない場合には、その状況が解消された後、合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りるとしています。また、定款に定めた基準日から3か月以内に定時株主総会を開催できない場合は、新たに議決権行使のための基準日を定め、当該基準日の2週間前までに当該基準日および基準日株主が行使することができる権利の内容を公告した上で、定款に定めた基準日から3か月以上を経過した日に株主総会を開催することができるとしています(法務省「定時株主総会の開催について」2020年4月2日更新)。

また、新型コロナの動向により、招集通知送付後に予定していた株主総会の会場が使用できなくなった場合は、予定していた株主総会の会場のできるだけ近隣の施設や社内などを利用し、代替会場の手配を行い、開催場所・時間の変更を行うべきとされています。旧会場からの移動のために、開催時間の繰り下げや、株主を案内するためのスタッフの用意などが必要になります。そして株主総会の変更を会社のウェブサイト等で株主に周知する必要があります(須磨美月「総会準備と当日の運営」『新型コロナウイルス影響下の法務対応』44頁、52頁)。

■参考文献
・尾形祥「株主総会の開催場所の変更等を理由とする違法行為差止めの可否」TKCローライブラリー新・判例解説 商法136
・江頭憲治郎『株式会社法 第7版』327頁
・須磨美月「総会準備と当日の運営」『新型コロナウイルス影響下の法務対応』44頁、52頁
・東京弁護士会会社法部編『新・株主総会ガイドライン 第2版』6頁
・法務省「定時株主総会の開催について」2021年1月29日更新
・経産省・法務省「株主総会運営に係るQ&A」2020年4月2日
・経産省「「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集」を策定しました」2021年2月3日













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携帯電話大手のNTTドコモとKDDIが、解約の手続きを説明する自社のウェブサイトを検索サイトで表示されないように、HTMLタグに「noindex」を埋め込む等の設定していたことが総務省の審議会で報告されたと、2月27日のNHKなどが報道しています。

・ドコモとKDDI 解約手続きの自社HP 検索サイトで非表示の設定に|NHK
・ドコモとKDDI、解約ページに「検索回避タグ」。総務省会合で指摘、削除|すまほん!!

これだけでも十分に酷い話ですが、この問題に関連して、ネット上では、聴覚障害者などの方々の、「携帯電話・スマホやクレジットカードなどの解約をする際に、事業者側から「電話でないと解約に応じられない」という対応を受けることが多い」という意見が少なからず寄せられています。

法律論としては、民法上は契約の解約(解除)は当事者の一方から相手方への一方的な意思表示を行っただけで効果が発生します(民法540条1項)。

民法540条1項
契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。

この条文に、「その解除は、相手方に対する意思表示によってする」とのみあるように、解約(解除)は、相手方(=事業者など)に対する意思表示(=解約したいという意思)を伝えればよく、それは口頭でも書面でも民法上は問題ありません。事業者の担当者と交渉してその者に承諾してもらう必要もありません。

ただし、現実には、口頭のみ・電話のみでは後日トラブルとなったときに「言った言わない」の水かけ論となってしまうことを防止するために、証拠として解約(解除)の意思を「解約届」など書面の形で事業者がもらうように約款や利用規約などが制定されているのが一般的であると思われます。

しかし逆にいえば、そのような書面による取扱いはあくまでも後日の紛争防止という意味で許容されるにとどまります。そのため、例えば携帯電話会社などが自社の営業成績の数字を守りたいという理由で、聴覚障害者の方などに対して、「解約には当社所定の解約届を書いてもらう必要があるが、その前提として、本人からの電話でなければその手続きは受け付けられない」等と解約手続きを拒否することは違法であり許されないことになります。

この点、例えばNTTドコモのxiサービスの約款をみると、つぎのように第15条に利用者・契約者の契約の解約(解除)について規定されているようです。
ドコモ約款
(NTTドコモサイトより)

つまり、ドコモxiサービス約款15条1項は、「契約者はドコモの携帯契約の解約(解除)をするときは、「所属xiサービス取扱所」(おそらくNTTドコモの本社・支社やドコモショップ等)に「当社所定の書面」で「通知」せよ」となっています。ところで、同4項をみると、「同1項の場合で、電気通信事業法施行規則に定める「初期契約解除」または「確認措置」による解除による取扱いは「当社が別に定めるところによる」となっています。そしてその下の「(注3)」は、「本条第4項に規定する当社が別に定めるところは、当社のインターネットホームページに定めるところによります。」と規定しています。

ここで、この「当社が別に定めるところ」というものが不明確なので、NTTドコモのウェブサイトの契約の解約のページをみます。
ドコモ解約手続き

すると、「ドコモショップでお手続きできます」という表示となっており、ドコモショップに電話や来店などすることとなっていますが、結局、「当社が別に定めるところ」が明示されていません。

とはいえ、このようにNTTドコモの約款やウェブサイトをみる限り、「たとえ聴覚障害者であっても、解約は本人からの電話でないと受け付けられない」「代理は駄目」という実務を根拠づける条文や規定は存在しないようです。

明確な法的根拠がないのに「聴覚障害者等であっても本人からの電話でないと解約を受け付けられない」というのは法的におかしな話ですし、また、解約の手続きをするドコモショップなどで、万が一、某PCデポなどのような悪質な解約の「お引き留め」実務が行われていたらさらに問題と思われます。

なお、平成29年の改正で、民法に定型約款の条文が追加されました。電気、ガス、水道などの定型的で大量の事務取引における契約の内容として利用されるのが約款(定型約款)ですが、電気通信契約における約款はその典型例です。その新設された条文の一つの、民法548条の3第1項はつぎのように規定しています。
民法548条の3
定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。

つまり、事業者・企業側(定型約款準備者)は、利用者・顧客に対して、取引合意の時(契約締結時)までに、契約に関わる約款・利用規約など(定型約款)を書面で交付するか、または自社ウェブサイトなどで電子的に約款等を公表しておかなければならない。遅くとも、契約締結時から相当に期間内に利用者・顧客から請求があった場合には約款・利用規約などを開示しなければらなないと規定されています。

そのため、ネットが一般的となった今日では、NTTドコモなどの携帯電話会社などは、原則としてあらかじめ利用者・顧客に自社ウェブサイト上において、約款・利用規約などを公表しておくことが民法上、求められるのであり、約款・利用規約などの内容が不明確であるなどの状態は望ましいものとはいえないと思われます。

また、同時に民法548条の2第2項は、消費者契約法10条と同様に、約款条項の内容は、利用者・顧客の「権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす」と規定しており、社会通念や信義則に照らして利用者・顧客の権利・利益を不当に制限する等の条項は無効であるとも規定しています。

したがって、「聴覚障害者等であっても本人からの電話でないと解約を受け付けられない」などの取扱は、かりに事業者側の約款などにそのような根拠規定があったとしても、民法の定型約款の各規定に照らして、やはり違法・不当であると思われます。

いうまでもなく、憲法14条1項はあらゆる差別を禁止しており、平成28年に制定された障害者差別解消法は、事業者・企業に対して、障害者に対する不当な差別的取扱いの禁止と、障害者から社会的障壁の除去の要請があった場合にそれに対応する努力義務を定めています。

また、電気通信事業法も、電気通信業の「公共性」を定め、電気通信業務の提供について、「不当な差別的取扱い」を禁止し(6条)、電気通信役務の契約約款について「特定の者に対し不当な差別的取扱いをするもの」を禁止(19条など)しています。

そのため、総務省などは、携帯電話会社などに対して、聴覚障害者の方々からの携帯契約の解約について、「電話による申出でないので受け付けない」などの違法・不当な取扱いを止めるよう、助言・指導などを行うべきではないでしょうか。(また、NTTドコモに対しては、携帯契約の解約に関する約款やホームページの記載が不明確であるので明確化・平明化を行うよう助言・指導などを行うべきではないでしょうか。)

なお、同様の「電話でないと解約できない」という問題は、携帯電話だけでなく、クレジットカードなど金融業界や、ネット通販などさまざまな業界・分野でも未だに発生しているようです。金融庁や消費者庁、経産省などによる消費者保護、障害者保護、高齢者保護などの横断的な取り組みが必要なように思われます。



民法(全)(第2版)

憲法 第七版

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2020年12月22日のメディア各社の報道によると、営業職員の顧客の金銭の詐欺・横領などに関連し、第一生命保険の稲垣精二社長は謝罪の記者会見を行ったそうです。報道や同社サイト上で公表された報告書によると、新たに3件の営業職員による不祥事とともに、本社の保険事務部門(契約サービス部)の不祥事も1件発覚したとのことです。

・「元社員による金銭の不正取得」事案に関するご報告 (PDF)|第一生命保険

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(第一生命保険サイトより)

報告書によると、山口県の特別調査役については、高い営業成績をもつ特別調査役が社内で”女帝”扱いされ、本来、指揮監督する立場にあったはずの西日本マーケット統括部が監督を行っていなかったなどの、組織的な、ガバナンス上の問題が多かったように感じられます。

多くの保険会社は、社内に法務部門・コンプライアンス部門があり、また業務監査部や検査部門が社内の不正のチェックを多重的に行っています。そのような法務・コンプラ部門や監査・検査部門も有効に機能していなかったのでしょうか。コンプライアンスだけでなくガバナンスが機能不全であったということは、取締役ら経営幹部の法的責任が厳しく問われる問題であると思われます。

たしか第一生命は、生保業界では最初に法務部門を設置した会社であり、法務・コンプライアンスを重視しようという社風があったような気がするのですが、それも株式会社化などの時代の流れとともに変容してしまったのでしょうか。

ところで、この報告書をみると、営業部門だけでなく本社の保険事務部門(契約サービス部)でも不祥事があったようで、これも深刻な問題です。年金保険の取扱について、契約サービス部の社員が不正を行って数千万円の金銭を横領したとのことですが、事務手続き上も、情報システム上も、そのような不正が簡単にできたとは考えにくく、大いに気になるところです。

報道などによると、数年前より、第一生命は保険契約の保全に関する業務の大半を情報システム会社(NTTデータ)に外部委託していたそうです。この外部委託により何らかの不正のつけいる隙が生まれていたのだとしたら、由々しきことです。保険の引受業務や資産運用業務、保険金の支払い業務と並んで、保険契約の保全業務も、保険会社のコア業務なのですから。

稲垣社長は代替わりしたばかりですが、今回の一連の不祥事の再発防止策の実施が一区切りしたら、引責辞任は待ったなしの状況と思われます。今回の不祥事を受け、企業ブランドは大きく傷つき、この一年、大手生保の中で第一生命だけ営業成績が大きく低迷している状況です。金融庁だけでなく、"物言う株主"を含め多くの株主が黙っていないものと思われます。

なお、生命保険業界にとっては、この1年は第一生命やかんぽ生命の不祥事が大きく報道される一年だったように思われます。しかし、顧客の金銭の詐欺・横領でここ数年、毎年のように不祥事を起こしているソニー生命保険については、マスコミがほとんど報道を行わなかったのは不思議なことに思われます。

・当社の社員や代理店・グループ企業等を名乗る者が金員を詐取する事案にご注意ください。|ソニー生命

■関連するブログ記事
・第一生命保険が保険契約の保全業務をNTTデータに外注したことを保険業法から考える
・ソニー生命の個人年金保険契約を装う詐欺事件に対して金融庁が立入検査
・かんぽ生命・日本郵便の不正な乗換契約・「乗換潜脱」を保険業法的に考える









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1.はじめに
2019年12月16日付の新聞各紙によると、高齢者などの顧客に対して不正な保険販売(保険募集)を行い、空前の規模の不祥事(18万件以上)を起こしていたかんぽ生命とその保険代理店の日本郵便(郵便局)に対して、年内にも保険業法に基づく業務停止命令・業務改善命令をだす方針であるそうです(保険業法132条1項、同133条)。

■関連
・かんぽ生命・日本郵便の不正な乗換契約・「乗換潜脱」を保険業法的に考える

・かんぽ・日本郵便に保険販売で業務停止命令へ 金融庁|日経新聞

2.行政処分で想定される法令違反事項(保険業法)
かんぽ・郵便局の現場では、営業職員が保険契約の不正な乗換を行っていました。不利益となる事実(保険料が上がる、新しい保険に加入できないかもしれない等)を十分に説明しないまま行う契約乗換の保険募集は保険業法違反です(法300条1項4号)。

また、かんぽ等の営業職員は既に保険契約に加入している顧客に対して、「更新の時期です」などと虚偽のことを言って、新しい保険契約を締結させ、約半年間、「この期間は解約できません」と嘘をついて保険料の二重払いや無保険状態を発生させています。これは、「「保険契約者又は被保険者に対して、虚偽のことを告げる行為」なので保険業法違反です(法300条1項1号)。

さらに、平成28年の保険業法改正により新設された意向把握義務は、顧客本位の保険商品の購入を目指す制度ですが、かんぽ生命はひたすら営業職員都合・会社都合の商品をゴリ押ししているだけのようであり、この点も保険業法に違反しています(法294条の2)。

加えて、保険業法は法人としての保険会社、保険代理店に対して体制整備義務を課しています(法100条の2など)。保険業法施行規則53条以下は、保険会社たるかんぽや、募集代理店たる日本郵便は、全国のかんぽ支店や郵便局を定期的あるいは随時に臨検し、不正がないかどうかチェックが行われることを要求していますが、これをかんぽ生命・日本郵便はどの程度真面目に履行していたのでしょうか。

3.まとめ
平成17年には多くの生命保険・損害保険が、会社の利益を上げるなどの目的のために、顧客からの保険金請求について、保険約款の条文を不正に解釈したり、あるいは保険約款上の「詐欺無効」条項を濫用して保険金不払いを行ったことが、大きな社会問題となりました。この事件に対しては、最終的には平成17年10月28日付で金融庁が明治安田生命などに、重大な保険業法違反、コンプライアンス態勢およびガバナンス体制に根本的な問題があるとして、業務停止命令・業務改善命令が発出されました。

・明治安田生命保険相互会社等に対する行政処分について|金融庁

何万件、何十万件もの保険業法違反の保険募集による保険契約の事実が発覚した以上、かんぽ生命・日本郵便の違法は重大であり、社内にそれを防止するためのガバナンス体制・コンプライアンス態勢が整備されていなかったのですから、かんぽ・日本郵便・日本郵政などが厳しい行政処分を受けるのは当然のことと思われます。

*なお、政治的な事情からかんぽ生命の倒産等はないと思われますが、万が一かんぽ生命が倒産等しても、生命保険契約者保護機構により加入者の方々は保護されます。原則として、責任準備金の90%が保障の対象となります。

・生命保険契約者保護機構サイト


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保険業法の読み方 三訂版: 実務上の主要論点 一問一答

保険業務のコンプライアンス(第3版)

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