1.はじめに
令和6年能登半島地震について個人情報保護法に関連する興味深い記事を見かけました。・(時時刻刻)安否不明、公表情報求めて 迅速救助へ、避難した人の名も 能登地震|朝日新聞
この記事によると、
「石川県は安否不明者について3日深夜から、氏名、住所(大字まで)、年齢などの公表を始めた。当初発表されたのは15人だったが、随時更新し、4日夜に179人、5日朝には242人と一気に増えた。」「県危機管理監室によると、リストは市町からの報告のほか、県に問い合わせがあった情報を基に作成。昨年5月、速やかに捜索や救助を進めるため、家族の同意なく公表できるようにした。」とのことです。たしかに石川県ウェブサイトをみると、今回の大地震における安否不明者の一覧が掲載されています。
(石川県ウェブサイトより。墨塗は筆者。)
ところでこのような石川県の対応は個人情報保護法に照らしてどうなのでしょうか。
2.個人情報保護法から考える
これを個人情報保護法に当てはめて考えると、石川県は地方公共団体であり「行政機関等」(法2条11項)なので、石川県は個情法第5章の「行政機関等の義務等」を遵守しなければなりません。そして個情法第5章の69条1項は、「行政機関の長等は、法令に基づく場合を除き、利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、又は提供してはならない。」と規定しています。つまり原則として自治体は利用目的以外の目的のために、保有する個人情報を第三者提供してはならないのです。
しかしその例外の一つとして、同法同条2項4号は、「前三号に掲げる場合のほか…本人以外の者に提供することが明らかに本人の利益になるとき」には保有する個人情報を第三者提供することができると規定しています。
この点、個人情報保護委員会(PPC)の個人情報保護法Q&A(行政機関等編)の3-3-1は、「意思表示が困難な高齢者等要介護者の介護情報等の個人情報を、入所予定介護施設や当該要介護者の親族に提供することは、法第69条第2項第4号の「本人以外のものに提供することが明らかに本人の利益になるとき」に該当するとして、利用目的以外の目的のための外部提供が許容されるか。」とのQに対して、「法第69条第2項第4号の「本人以外のものに提供することが明らかに本人の利益になるとき」については、本人の生命、身体又は財産を保護するために必要がある場合や、本人に対する金銭の給付又は栄典の授与等のために必要がある場合などがこれに当たります。 」とのAを記述しています。
すなわち、「本人の生命、身体又は財産を保護するために必要がある場合」には、法69条2項4号の「本人以外のものに提供することが明らかに本人の利益になるとき」に該当し、第三者提供が認められるのです。
3.まとめ
そのため、今回の能登半島地震のような災害の場合に、石川県が保有する安否不明者の個人情報については、かりにそれが利用目的以外の目的であったとしても、安否確認のために県サイトに安否不明者として公表することやマスメディアに公表すること等(第三者提供)は個人情報保護法69条2項4号が許容しているのです。したがって、今回の石川県の安否不明者の個人情報の外部への公開は、個人情報保護法に照らしても問題のない行動であると思われます。
(なお、これが民間事業者の場合には、個人情報保護法27条1項が原則として本人の同意のない個人データの第三者提供を禁止していますが、同法同条1項2号が「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。」には例外の一つとして事業者は本人同意なしに個人データを第三者提供することができると規定しています。(個情法ガイドラインQA7-21参照。))
(個人情報保護法ガイドラインQA7-21)
■追記
なお、本ブログ記事を書くにあたって、能登半島地震などの自然災害による「緊急事態」に対しては、憲法に緊急事態条項を設けるのではなく、既存の災害対策法制や警察法制などの利用によるべきであるとのつぎの論文を見つけました。非常に興味深いので以下に追記します。
・石村修「緊急事態への憲法的対処方法」『専修ロージャーナル』14号
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