1.東京地裁が米クラウドフレア(Cloudflare)へのファイル削除等を認める判断を示す
本日付の弁護士ドットコムニュースによると、

『東京地裁は10月9日、CDN(コンテンツ配信ネットワーク)などのサービスを提供する米クラウドフレア(Cloudflare, Inc.)に対して、キャッシュファイル削除と発信者情報開示を命じる仮処分を決定した。』


と東京地裁が画期的な判断を示したとのことです。

弁護士ドットコムニュースは、

『クラフドフレアが裁判外での削除や開示をもとめる請求に応じない中、(本件事件を担当する)山岡裕明弁護士は今年7月、クラウドフレアの配信設備が国内にあることに着目して、東京地裁に仮処分を申し立てた。』


とも解説しています。

・クラウドフレアに「発信者情報開示」命令、海賊版サイト「ブロッキング」に影響も|弁護士ドットコムニュース

2.インターネット上の著作権の準拠法と裁判管轄
(1)準拠法と裁判管轄
国をまたぐ法的紛争が発生した場合、どの国の法律が適用されるのか(準拠法の問題)、また、どの国の裁判所で争うことができるのか(裁判管轄の問題)の2点が問題となります。

(2)準拠法
著作権など知的財産権侵害という権利侵害に基づく損害賠償請求の法的性質は不法行為であり、これについては通則法(「法の適用に関する通則法)17条により、原則として、「加害行為の結果が発生した地」の法律が準拠法になるとされています。

この「加害行為の結果が発生した地」について、裁判例はP2Pファイル交換サービスにおける著作権侵害が争われた事案において、サーバー自体はカナダにあったものの、ウェブサイトなどが日本語で書かれ、当該サービスによるファイルの送受信のほとんどが日本国内で行われていたとして、旧通則法11条(現17条)および条理により、不法行為および差止請求権は日本の著作権法が準拠法となると判断したものがあります(ファイルローグ事件・東京高裁平成17年3月31日判決)。(TMI総合法律事務所『IT・インターネットの法律相談』568頁(佐藤力哉))

(3)裁判管轄
つぎに、インターネット上で著作権が侵害されている場面など、当事者間が契約関係になく、当事者間に裁判に関する管轄の合意がない場合の裁判管轄について、民事訴訟法はつぎのように規定しています。

①被告の住所等による管轄
被告が法人である場合、その主たる事務所または営業所が日本にある場合、日本の裁判管轄が認められます。(民事訴訟法3条の2第3項)

②日本で事業を営む外国法人
日本で事業を営む外国法人に対する訴訟においては、当該訴えが「その者の日本における業務に関するものであるとき」は日本の裁判管轄が認められると規定されています。(同3条の3第5号)

③不法行為
不法行為については、「不法行為地が日本国内にあるとき」には、日本の裁判管轄が認められると規定されています(同3条の3第8号)。この「不法行為地が日本国内にあるとき」については、不法行為の行為地または結果発生地が日本国内にある場合を含むとされています。(TMI・前掲571頁(太田知成))


(4)クラウドフレアの事案について
本日、弁護士ドットコムで報道された内容によると、本件訴訟の山岡弁護士は「クラウドフレアの配信設備が国内にあることに着目」して申立てを裁判所に行ったとされており、本件東京地裁もファイルローグ事件同様に、準拠法を日本の著作権と認め、また、(3)の①から③までのいずれかの条文を適用して日本の裁判管轄を認めたものと思われます。

3.海賊版サイトのブロッキングの議論への影響
「漫画村」などの漫画の違法な海賊版サイトは、クラウドフレア社のようなCDNサービスを利用しているものが多いとされています。そして同社などが日本の権利者などからの権利侵害解消のための申し出に応じないことから、カドカワの川上量生氏など海賊版サイトのブロッキングに賛成する論者は、ブロッキングの立法化は不可欠であると主張してきたところです。

■参考
・カドカワ川上量生氏、クラウドフレア社は法的措置では対応できないという見解を示す|Yahoo!(山本一郎)

しかし、本日の東京地裁はクラウドフレアへのキャッシュファイルの削除、発信者情報の開示などを認め、日本の法令と日本の裁判所がインターネット上での著作権などの紛争に有効であることを示しました。これはファイルローグ事件などとともに、海賊版サイトのブロッキングの推進派の主張の前提を覆すものです。

今回の東京地裁の判断は、現在、国の知的財産戦略本部の審議会で議論が行われている、海賊版のブロッキングの立法化の是非の議論に影響するところが大きいと思われます。

■参考文献
・TMI総合法律事務所『IT・インターネットの法律相談』568頁、571頁
・清水陽平・神田知宏・中澤佑一『ケーススタディ ネット権利侵害対応の実務』83頁、44頁

IT・インターネットの法律相談 (最新青林法律相談)

ケース・スタディ ネット権利侵害対応の実務-発信者情報開示請求と削除請求-