KSB瀬戸内海放送などの報道によると、本日(2022年8月30日)、香川県ゲーム条例訴訟について高松地裁で、残念ながら原告の大学生らの請求を棄却する判決が出されたとのことです。
・【速報】香川県のゲーム条例は「憲法に反しない」 原告の大学生らの訴えを退け 高松地裁|KSB瀬戸内海放送
この訴訟は、18歳未満の子どものゲームの利用は平日60分、休日90分まで、スマートフォン等の使用は午後9時または10時までを目安として家庭でルールを作り、保護者に守らせる努力義務を課すという香川県のネット・ゲーム条例は憲法違反であると香川県の当時高校生の方が訴訟を提起したものです。
報道によると、原告側の訴えは、①本条例は家庭における親の子どもの教育・しつけに関する自己決定権(憲法13条)の侵害であること、②子どものゲームやスマホの利用に関する自己決定権の侵害であること、③子ども等のゲームをする権利(憲法13条の幸福追求権から導き出される「新しい人権」)の侵害であること、④そもそも本条例はゲームやスマホを依存症とするが、それは科学的根拠が欠けていること、などの内容であったそうです。
これに対して高松地裁の本日の判決は、「医学的知見が確立したとは言えないまでも、過度のネット・ゲームの使用が社会生活上の支障や弊害を引き起こす可能性は否定できず、条例が立法手段として相当でないとは言えない」と指摘し、また、「条例は原告らに具体的な権利の制約を課すものではない」などとして、「憲法に違反するものということはできない」と、原告の訴えを退けたとのことです。(KSB瀬戸内海放送の記事より。)
この点、本判決は「努力義務にすぎないから違憲でない」としているようですが、努力義務なら憲法の定める国民の基本的人権を制限する、あるいは憲法の定める基本的人権に反するような内容の条例でも許されると考えているようですが、このような考え方には疑問が残ります。
いうまでも無いことですが、憲法は国の最高法規(憲法98条1項)であり、国の行政機関も自治体も裁判所も憲法を遵守する必要があります。国・地方の公務員や裁判官は憲法尊重擁護義務を負っています(99条)。そして日本を含む西側自由主義諸国の近代憲法は、国民の個人の尊重と基本的人権の確立が目的であり、国・自治体や裁判所などの統治機構はその手段であるという構造をとっています(11条、13条、97条)。
そのように考えると、香川県が憲法の定める基本的人権に不当な介入をし、「子供の親への愛着を育てる」などの自由主義とは相いれない家族主義的・集団主義的な思想を押し付けるかのような本条例はやはり違法・違憲と評価せざるを得ないのではないでしょうか。
また、本条例は香川県議会での審議やパブリックコメントの手続き面でも多くの問題点が指摘されていましたが、それらが裁判所で十分に審理されたのかも気になるところです。
本判決において、高松地裁は、香川県とその議会の、地方自治体の自律権あるいは地方自治(92条)を重視し、本条例を違法・違憲とはしなかったのかもしれません。しかし裁判所は"基本的人権の最後の砦"であることを考えると、香川県の子どもとその親の基本的人権を軽視した本判決には疑問が残ります。
最後に、本判決により、「努力義務であれば憲法の定める基本的人権の規定や趣旨を制約したり、それらに反するような思想を押し付ける条例も合憲である」との考え方が司法上、裁判例として定着してしまうと、他の自治体や国の政策への悪い影響がおよぶことが懸念されます。
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