なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

タグ:セキュリティ

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Androidのスマホの設定をみたら、「緊急位置情報サービス(ELS)」とかいう物々しい項目がいつの間にか新設(?)されていました。

ELS1
リンクされている、グーグルのヘルプ画面を読むと、"緊急事態"があった場合にグーグルからの信号を受けて、スマホ(デバイス)の位置情報が"緊急通報機関"に伝達される仕組みのようです。しかも、かりに我々ユーザーがELSをオフにしていても、緊急通報機関の指示があった場合、グーグルはELSを強制的にオンにして位置情報を緊急通報機関に送信することがあるとされています。

ELS2

スマホの位置情報をユーザー本人の意思を無視してグーグルが取得し、第三者提供するからには、具体的な法律の根拠か、あるいは裁判所の令状が必要なのでは、と思ってしまうのですが・・・。

グーグルのヘルプみても、緊急事態や緊急通報機関とは具体的に何かなどが明示されてないのはどうなのでしょう。

素人考えとしては、この緊急位置情報サービス(ELS)は、まずは新型コロナ対応のための接触確認アプリ(COCOA)対応なのでしょうか?

しかし、政府・与党の説明では、同アプリは「インストールするのはユーザー本人の自由・任意に委ねられる。また、濃厚接触が発覚した場合に処理番号を入力し保健所に通報するのもユーザー本人の自由意思。」「とにかく個人情報を勝手に取らないプライバシーに配慮したアプリ。」であるのが最大のセールスポイントというか、同アプリが合法である根拠だったはずではないでしょうか?(いうまでもなく、接触確認アプリを明確に合法たらしめている個別具体的な立法などはいまだ存在しません。)

また、「緊急事態」というふわっとしたバスケット条項的な、大雑把な用語で、位置情報を強制的に国・自治体・企業などが取得できるような仕組みになっているのも大いに気になります。

最初は「コロナ対応のため」「本人が災害にあって命を助けるため」と言っていたのに、気が付いたら警察当局が何となく見込み捜査やこっそり内偵をするためであるとか、はては某万引き防止なんとか協会などの民間団体が何となく怪しいと思った国民を監視するため…等々と安易に拡大的な運用がグーグルにより行われて、なし崩し的に法令上の根拠なしに国や企業などによる国民・市民の電子的なモニタリングや監視化が進行しかねません。

それでは法令上の根拠なく、歯止めなく国民の個人情報やプライバシー権(憲法13条、個人情報保護法1条、3条)が侵害され、国民個人が人間として私的にも社会的にもまともに生きてゆけなくなってしまいます。

また、裁判所の令状や法令上の根拠なしに、国などによって国民が電子的に捜索や検証などを強制的に行われることは、令状主義や強制処分法定主義(憲法33条、刑事訴訟法197条)などに抵触する問題に思われ、憲法や刑事法的にも由々しき事態であると思われます。

■関連するブログ記事
・【最高裁】令状なしのGPS捜査は違法で立法的措置が必要とされた判決(最大判平成29年3月15日)








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akutoku_shouhou_houmon - コピー
NHKなどの報道によると、政府(総務省)は、マイナンバーカード未取得者約8000万人に対して、マイナンバーカード発行の申請手続き書類を再度郵送する方針だそうです。

・マイナンバーカード未取得者 約8000万人に申請書発送へ 総務省|NHK

かりに三つ折りハガキで郵送するとしても、郵送料だけでも単純計算で約48億円もの出費ですが、この莫大な行政コストは一体誰が負担するのでしょうか?

そもそもマイナンバー制度とは、国民一人一人にマイナンバー(個人番号)を付番した情報システムを行政が整備・運営することにより、「行政運営の効率化及び行政分野におけるより公正な給付と負担の確保」を図る制度です(番号法1条)。

つまり、従来は多くの人員と書類でやっていた行政の事務処理を、各官庁をまたいだ名寄せのためのマスターキーであるマイナンバー(個人番号)を付番した情報システムで行うことにより、行政を効率化・迅速化しコストダウンを図ろうという制度です。

マイナンバー制度概要図総務省
(総務省サイトのマイナンバー制度の解説より)


そのため、マイナンバー制度開始の平成27年に、国が国民全員にマイナンバーを情報システム上で付番した段階で、「行政の効率化とコストダウン」というマイナンバー制度の立法目的の本丸は達成されているのです。

なのに、なぜ政府・与党は制度のオマケのはずのマイナンバーカードに偏執的にこだわるのでしょうか?

制度の検討段階で「マイナンバーカードを国民に広く普及させたい」「住民基本台帳カードの二の舞にはならない」という目標を政府与党は掲げたようですが、その目標にこだわるあまり、オマケの目的が自己目的化して政府与党が暴走しているようにも思えます。(「行政の効率化やコストダウン」が制度目的のはずなのに、今回の政府方針だけでも約48億円もの行政の税金の無駄づかいに思えてなりません。)

政府与党は、「これからの日本はIT社会デジタル化を目指さなくてはならない。マイナンバーカードには本人認証機能があるから、日本のデジタル化の基盤である。だから国民は全員、マイナンバーカードを持たねばならない」と主張しているようです。

「日本はデジタル化を目指さなくてはならない」という理念を政府与党や国会が掲げるのはある意味自由です。しかし、わが国が「個人の尊重」「個人の基本的人権の尊重」を掲げる自由主義国家である以上は、それぞれの国民がどのような国家像や行政を望むか、そしてその国家に対して国民個人がなにをどの程度するかについては、原則として、国民一人一人の自由意思に委ねられています。わが国の主人公は国民であり、行政・国はその使用人(サービス機関)にすぎないのですから。

とくにマイナンバー(個人番号)は各官庁が持つ国民の個人情報・プライバシー情報を簡易・迅速にシステム的に名寄せする仕組みですから、その使い方を誤れば、いわば「国家の前に国民が丸裸となる状態」(金沢地裁平成17年5月30日判決)の危険をはらんでおり、マイナンバー制度は国民個人のプライバシー権(憲法13条)に隣接する制度です。

番号法17条1項が、マイナンバーカードの取得や所持を国民の義務とするのではなく、国民の任意による自治体への申請を踏まえて発行される建付けとしている趣旨は、このようにマイナンバー制度が国民のプライバシーに隣接する制度であることや、オマケとしてのマイナンバーカード(やそれに随伴する本人認証機能)を利用するか否かは国民個人の自由意思にゆだねているからであろうと思われます。

番号法
(個人番号カードの交付等)
第17条
   市町村長は、政令で定めるところにより、当該市町村が備える住民基本台帳に記録されている者に対し、その者の申請により、その者に係る個人番号カードを交付するものとする。この場合において、当該市町村長は、前条の政令で定める措置をとらなければならない。

この点、情報法や行政法の第一人者である学者にして最高裁判事の宇賀克也・東大教授の番号法の解説書は、番号法17条1項に関してつぎのように解説しています。

個人番号カードの取得を強制することは、(略)個人番号カードの取得を希望しない者や必要としない者に(市区町村の事務所への)出頭を強制してまで取得を義務づけることは適切でないと考えられたため、申請により取得することとしている。』(宇賀克也『番号法の逐条解説』78頁)

また、マイナンバーカードがICチップ部分に本人認証機能を有しながらも、本来はいわば「実印」のように慎重にも慎重に保管すべきマイナンバー(個人番号)が表面にでかでかと印刷されてしまっていること等など、マイナンバーカードの制度設計上の「おそまつさ」もマイナンバーカードの問題を難解なものにしています。先般の「10万円給付金」の電子申請の件で露呈したように、政府の運用する情報システムのレベルが非常に低いものであること等も、国民の心を冷やしています。

少なくとも今回の政府方針のように、マイナンバーカード普及というお役所が勝手に立てた目標のために、国の予算を大量に使い、本来、国の主人公である国民に、その使用人であるはずの国・行政が無理やりにでもマイナンバーカードを取得させようというのは、番号法17条1項違反であり、もっといえば国民の自由意思(憲法13条)や国民主権原理(憲法1条など)の侵害であるようにすら思われます。

番号法の逐条解説 第2版

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1.茨城県のコロナ接触確認システムに県民の登録が法的義務化!?
新聞報道などによると、茨城県は新型コロナに関する県独自の感染確認システム(「いばらきアマビエちゃん」)において、同県の事業者・店舗だけでなく、県民に対しても条例を制定し同システムへの登録を法的義務とする方針であるとのことです。住民・国民への法的義務付けはわが国初だそうです。
・【8月18日発表】「茨城県新型コロナウイルス感染症の発生の予防又はまん延の防止と社会経済活動との両立を図るための措置を定める条例」案について|茨城県
・「いばらきアマビエちゃん」について|茨城県

そこで、茨城県サイトをみると、同システムは個人のスマホ側でなく茨城県のシステム側に個人のメルアドを集めて管理する中央集権型システムのようです。

ところで、県サイトのQAをみると、「氏名、住所などは収集しない。」「位置情報は収集しない」となっています。

しかし、◯月◯日に登録した個人がどの企業・店舗にいたかとの位置情報は県システムは把握してるはずだが…?そうでないと通知のメールを登録をした県民に送れなくなってしまいます。

また、県サイト上の同条例案の説明資料を読むと、県民側の権利利益としては、「コロナ差別が問題となるが、それは本条例案で『コロナ差別禁止』条項を盛り込むので問題ない」、という整理になっているようです。県民の個人情報保護やプライバシー権・自己決定権などはスルーなのでしょうか…?

この点はまさか、茨城県としては、「氏名、住所などを県民に入力させていないから『個人情報』は収集していない。」という化石のような理解なのでしょうか!?もしそうなら唖然としてしまいますが。

世界の自由主義諸国の18世紀以降の近代憲法は、自由主義つまり国民の自由を最大限尊重することを理念とするものです。そして、国民の個人情報保護やプライバシー権・自己決定権は国民の精神的な人権の根本にかかわる基本的人権の問題です。とくに傷病に係る情報はセンシティブな個人情報です。

とはいえコロナの感染拡大は世界的に非常に深刻な問題です。そのため、両者のバランスをとるために、WHOなどは、”原則、コロナの接触確認アプリ等は、国が開発・運営し、インストールや利用はそれぞれの国民の任意に委ねるべき”との見解を出しており、また、それを受ける形で、GoogleやAppleもほぼ同様の考え方のもとに接触確認アプリのプラットフォームを提供しています。

県独自の取り組みとはいえ、茨城県も接触確認アプリ類似の制度として本システムを開発・運用しているのですから、本システムを開発・運用する上では、県民の個人情報やプライバシーについて十分検討を行った上で開発・運用を実施すべきです。

にもかかわらず、少なくとも県サイトに掲載されている資料上からは、そのような検討がまったくないままに県民への本システムへの強制が条例化されることには、大きな違和感があります。

2.県民の協力義務
また、本条例案は、「県民の協力義務」という条項がギラギラしています。感染や濃厚接触が県にばれたら、県職員などが県民の居宅や勤務先に乗り込んできて、身柄確保の上での取り調べや捜査・押収を始めるのでしょうか?

それはさすがに、憲法の定める令状主義(憲法31条、35条)や強制処分法定主義などの刑事訴訟法等に反してないかと不安になります。

戦前の治安維持法のようなノリと空気を感じますが、茨城県はいろいろと大丈夫なのでしょうか?


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2020年個人情報保護法改正と実務対応

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1.事案の概要
1か月以上たっても公表・通知などを実施していない?
「プレジデントオンライン」サイトの7月13日付の記事「人材派遣のアスカが最大3万件の個人情報を流出」などによると、人材派遣業の株式会社アスカは、自社システムに仮登録されていた派遣社員の個人情報が最大3万件分が本年5月中旬にサイバー攻撃により漏洩したにもかかわらず、1か月以上経過しても公表、被害者本人への連絡などを行っていないそうです(7月16日現在)。

取材に対して、アスカ側は「調査を行っている途中」などと回答しているそうですが、1か月以上も個人情報の大規模な漏洩事故があったのに公表などを行わないことは法的に許されるのかが問題となります。

・人材派遣のアスカが最大3万件の個人情報を流出…1カ月以上も周知せず|プレジデントオンライン

2.法的に考えてみる
(1)労働者派遣法
労働者派遣法24条の3は、派遣元事業者の個人情報保護について規定しています。そして、「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」(平成11年労働省告示第137号・平成30年厚生労働省告示第427号)の「11 個人情報等の保護」は、個人情報の収集、利用、保管、安全管理などともに、「(3)個人情報の保護に関する法律の遵守等」において、個人情報保護法「第4章第1節に規定する義務を遵守しなければならない」と規定しています。

(2)個人情報保護法
個人情報保護法第4章第1節は、個人情報を取り扱う事業者の義務を定めていますが、同法20条から22条までは、事業者の安全管理措置、従業員への監督、委託先への監督を規定しています。そして、個人情報保護委員会の個人情報保護法ガイドライン(通則編)は安全管理措置について規定しています。その上で、同委員会の「個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について」は、個人データの漏洩などの事故が発生した場合の対応についてつぎのように規定しています。

■個人データ漏洩事故が発覚した場合の対応(概要)
①事業者内部における報告及び被害の拡大防止
②事実関係の調査及び原因の究明
③影響範囲の特定
④再発防止策の検討及び実施
⑤影響を受ける可能性のある本人への連絡
漏えい等事案の内容等に応じて、二次被害の防止、類似事案の発生防止等の観点から、 事実関係等について、「速やかに」本人へ連絡し、又は本人が容易に知り得る状態に置く。
⑥事実関係及び再発防止策等の公表
漏えい等事案の内容等に応じて、二次被害の防止、類似事案の発生防止等の観点から、 事実関係及び再発防止策等について、「速やかに」公表する。
⑦個人情報保護委員会または監督官庁への報告
扱事業者は、漏えい等事案が発覚した場合は、その事実関係及び再発防止策等について、個人情報保護委員会等に対し、「速やかに」報告する
このように個人情報保護委員会の「個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について」は、個人データ漏洩事故が発生した場合には「速やかに」、⑤本人に連絡し、⑥事実関係などを自社サイトや記者会見などで公表し、⑦個人情報保護委員会や監督官庁に報告することを事業者に求めています。

ここで、「速やかに」の文言の意味が問題となりますが、多くの業法・行政法規が個人情報漏洩事故が発生した場合に、その発覚から1か月以内の報告を求めていることとの整合性から、少なくとも1か月以内に⑤本人に連絡し、⑥記者会見などで公表し、⑦個人情報保護委員会や監督官庁に報告しないと、事業者は同委員会の通達の趣旨に違反していることになると思われます(例えば保険業法127条など)。当該事業者は、個人情報保護法の趣旨に違反しているおそれがあることになります。

そもそも、このように個人情報漏洩事故が発生した場合にスピード感をもった本人への連絡や公表、監督官庁などへの報告の対応を事業者に法令が求めて趣旨・目的は、「二次被害の防止、類似事案の発生の防止」です。つまり例えば、顧客の個人情報が拡散してしまうことやクレジットカード情報などが第三者に利用されてしまうリスクの防止や、同じ業界で類似のサイバー犯罪が行われてしまうようなリスクの防止です。そうすると、個人情報漏洩事故が発覚したのに漫然と事業者が何週間も、あるいは何か月も対応を行わないことは、個人情報保護法の趣旨にも反しますし、顧客の信頼を裏切ることにもなります。

もし事業者が事実確認などに何週間もかかってしまうということになったら、当該事業者は「第一報」や「暫定版」などの連絡・報告・公表などを随時行うべきです(段階的な報告)。

こう考えると、個人情報漏洩事故が発覚してから1か月以上も顧客への連絡などを行っていない株式会社アスカは、個人情報保護法に違反しているおそれがあります。

(なお、EUのGDPR(一般データ保護規則)33条は、個人データ漏洩事故が発覚した事業者に対して72時間以内の個人データ保護当局への報告を義務付けています。EU国籍の顧客の個人データなどを取扱っている事業者はより迅速な対応が求められます。)

(3)個人情報保護法上の違反があった場合
上でみたように、労働者派遣法23条の3などは派遣元事業者に対して個人情報保護法上の事業者の義務を遵守することを求めています。

そして、同法などの違反があった場合について、労働者派遣法50条、51条は厚労大臣は派遣元事業者に対して報告徴求と立入検査を行う権限があることを定めています。さらに同法48条、49条は、厚労大臣は派遣元事業者に対して、指導・助言および改善命令・業務停止命令などを発出する権限があることを規定しています。 また、個人情報保護法も、同法40条以下において個人情報保護委員会は事業者に対して報告徴求、立入検査を行う権限があり、また個人情報保護に関して指導・助言を行う権限があることを規定しています。

(4)まとめ
つまり、個人情報漏洩事故を起こし、漫然と顧客への連絡や事実の公表などを1か月以上実施していない株式会社アスカは、監督官庁である厚労省だけでなく個人情報保護委員会から報告徴求、指導・助言などの行政指導等を受ける行政上の法的リスクが存在することになります。

(5)個人情報漏洩の場合の対応の法的義務化
なお、7月15日付の日経新聞によると、政府は2022年にも一定規模以上の個人情報漏洩事故が発生した場合に、事業者に対して顧客への連絡・通知を行うことを義務付ける方針であるとのことです(日経新聞「サイバー被害、全員に通知 個人情報漏洩で企業に義務」2020年7月15日付)。

■参考文献
・岡村久道『個人情報保護法 第3版』235頁
・小向太郎・石井夏生利『概説GDPR』106頁









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内閣府(CIO)の新型コロナ感染追跡アプリ(COCOA・以下「感染追跡アプリ」)のシステム仕様書をざっと読んでみました(「接触確認アプリ及び関連システム仕様書(案)[概要])」)。
・接触確認アプリ及び関連システム仕様書(案)[概要]|内閣府 CIO

接触感染アプリの仕組み
(内閣府の仕様書より)

仕様書において、内閣府は一生懸命「個人情報やプライバシー的に問題ない!」と力説していますが、コロナ感染発覚の時点で保健所が「コロナ感染者把握・管理支援システム」に感染者の個人データを登録するから、はなから国民にプライバシーないのではないでしょうか?

コロナアプリ情報の流れ
(内閣府の仕様書より)

また仕様書によると、内閣府は「本アプリから生成され発信される識別符号は毎日変更されるから、個人情報上の問題はない!」などと主張しています。

しかし、生成したスマホアプリ自身からは当該識別符号から本人を特定できるはずです。つまり、それは、本人を容易に識別できるのから個人情報そのものです(個人情報保護法2条1項)。なのに、どこが個人情報保護法上あるいはプライバシー(憲法13条)上問題ないといえるのでしょうか。

政府は「個人情報保護法上あるいはプライバシー上の問題」を、「セキュリティ上の安全性がある程度高い」という問題にすり替えてるだけに思えます。

一方国民側は、建前上は「任意」といいつつ、微妙なアプリをスマホにインストールさせられて、何かあると自らの医療データに関するセンシティブな個人データをアプリに入力する手間が増えるだけで、国民側にはそれほどメリットがあるとは思えません。

結局、コロナ感染追跡アプリのメリットは、保健所のデータ入力の事務負荷が少し下がる程度なのではないでしょうか。

スマホアプリの新技術でこんなことできるたらいいなと漠然と官民が考えて、効果の過多もわからないまま、国民のセンシティブな個人情報を取得したり、プライバシー上妙なことをするのは、OECD8原則の「個人情報の必要最小限度の取得」の原則や、「個人情報の利用目的をできるだけ厳格化して国民本人の個人情報・プライバシーを守る」という個人情報保護法15条の趣旨に反するのではないでしょうか。

新聞記事などを読むと、このアプリおよびシステムが有効な効果をあげるためには、国民のおよそ3分の2がアプリをインストールする必要があるそうですが、先行事例のあの強権的国家のシンガポールでも、国民はプライバシー侵害をおそれてそのほんの数分の1程度しかアプリをインストールしていないといいます。この感染追跡アプリが日本で成功するとはとても思えません。

内閣府CIOの資料をみていると、官民のITオタク達が、「ボクたちの考えた最強のインターネット」を国の予算で作ってドヤ顔したいだけに見えます。

コロナ対策として効果が漠然としているのなら、日本は中国やシンガポールなどと違い、国民主権の自由主義国なのだから、そんなアプリよりも国はもっと国民個人のプライバシー権や個人情報を守るべきではないでしょうか。国民の個人情報やプライバシー侵害のおそれがあるにもかかわらず、本アプリの企画・開発に、通信傍受法などのような国会の立法手当てがないことには不安を感じます。

コロナ対策としては、妙なITに頼るのではなく、今までどおり、地域や拠点の病院での治療や物資・人員を充実させること、国民はマスクや手洗いの徹底などの取り組みを地道に行うのが早道なのではないでしょうか。

■追記(6月18日)
なお、内閣府CIOサイトの5月26日付の感染確認アプリに関する有識者検討会合「感染確認アプリ及び仕様書に対するプライバシーおよびセキュリティ上の評価およびシステム運用上の留意事項」2頁、3頁は、①厚労省の感染者システムから国民のスマホの本アプリに発行される「処理番号」と、②陽性者と紐付けられた本アプリが作成する識別符号である「診断キー」は、行政機関個人情報保護法および個人情報保護法における要配慮個人情報、つまりセンシティブな個人情報であると明記しています。
・資料2: 「接触確認アプリ及び関連システム仕様書」に対するプライバシー及びセキュリティ上の評価及びシステム運用留意事項|政府CIOポータルサイト

この点、本アプリについては、首相やコロナ担当大臣などが記者会見などで繰り返し「本アプリは個人情報をまったく収集しない安全なものなので、安心して利用してもらいたい」旨の説明を行っています。

しかし個人情報保護法17条などは、「偽りその他不正の手段」による個人情報の取得などを禁止しています。国は、国民・利用者を「偽り」、本アプリで傷病データや行動履歴、利用者の友人・知人とのつながりなどの個人情報を違法に取得しているのではないでしょうか。

国が本当に本アプリの目的・手段などが正当であると考えるなら、国民・利用者に対して、「本アプリは利用者の個人情報を取得・利用するが、それは目的のために必要最低限のものである」等と偽りでない正確な情報開示を行い、その上で本アプリをリリースして運用すべきではないでしょうか。


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個人情報保護法の逐条解説--個人情報保護法・行政機関個人情報保護法・独立行政法人等個人情報保護法 第6版

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