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1.CCCがT会員規約などを改定
Tポイントやツタヤ図書館などを運営するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)の1月15日付のプレスリリースによると、同社はTポイントの個人情報・個人データの利用規約・プライバシーポリシーなどを一部変更したとのことです。

・T会員規約等、各種規約の改訂について|CCC

2.「他社データと組み合わせた個人情報の利用」の明確化
そのプレスリリースでは、CCCが個人情報・個人データの利用方法として新たにプライバシーポリシーなどに明確化したという使い方が説明されています(T会員規約4条6項)。

・T会員規約 改訂前後比較表|CCC

これは、おおざっぱにいうと、CCCが他社から他社の個人データを受け取り、CCCの持つ個人データと突合して分析・加工した個人データまたは統計データを生成して利用するというものですが、これは個人情報保護法上の委託スキームの、いわゆるデータセンター等における「混ぜるな危険の問題」に抵触してないでしょうか。

T会員規約4条6項
6.他社データと組み合わせた個人情報の利用
当社は、提携先を含む他社から、他社が保有するデータ(以下「他社データ」といいます)を、他社が当該規約等で定める利用目的の範囲内でお預かりした上で、本条第2項で定める会員の個人情報の一部と組み合わせるために一時的に提供を受け、本条第 3 項で定める利用目的の範囲内で、統計情報等の個人に関する情報に該当しない情報に加工する利用および当社の個人情報と他社データのそれぞれに会員が含まれているかどうかを確認した上での会員の興味・関心・生活属性または志向性に応じた会員への情報提供(以下あわせて「本件利用」といいます)を行う場合があります。
なお、当社は、本件利用のための他社データを明確に特定して分別管理し、本件利用後に他社データを破棄するものとし、本件利用のための、前述、当該他社から当社への一時的な提供を除いては、それぞれの利用目的を超えて利用することも、当該他社その他第三者に対して会員の個人情報の一部または全部を提供することもありません。

CCC他社データと組み合わせた個人情報の利用
(CCCサイトより)

3.飲料メーカーA社の事例(統計データ)
CCCのプレスリリースは、このT会員規約4条6項について、「飲料メーカーA社の事例(統計データ)」と「旅行代理店B社の事例(個人データ)」の二つの図を用意しているので、この二つの図で考えてみます。

飲料メーカーA社
(CCCサイトより)

まず一つ目の、飲料メーカーA社の事例では、飲料メーカーA社(他社)の他社個人データAをCCCがデータの分析・加工のために受取り(「委託」、個人情報保護法23条5項1号)、その他社個人データAとCCCの個人データを突合し、CCCの個人データに該当する個人の属性・嗜好などを分析した統計データ等を作成し、A社に渡すとなっています。

しかし、この事例のような個人データの委託元A社と委託先のCCCの個人データを混ぜて取り扱うことは禁止されています。

これは、たとえば、A社の個人データAとCCCの個人データを個人個人で本人同士突合し分析などを行うことがそれに該当します。つまり、個人データAとCCCの個人データの突合は、例えばD社、E社等などからCCCが本人同意の基に第三者提供を受けた個人データÐ・Eなどの合成されたCCCの個人データとの突合ということになります。委託のスキームをとらない本来の場合であれば、A社はD社、E社などから本人同意に基づく第三者提供を受けた上で個人データの突合が許されるわけですが、委託というスキームは、この第三者提供における本人同意の取得の省略を許すものではありません。(田中浩之・北山昇「個人データ取り扱いにおける「委託」の範囲」『ビジネス法務』2020年8月号30頁)

そもそも個人情報保護法における個人データの「委託」とは、契約の種類・形態を問わず、委託元の個人情報取扱事業者が自らの個人データの取扱の業務を委託先に行わせることであるから、委託元が自らやろうと思えばできるはずのことを委託先に依頼することです。したがって、委託元は自らが持っている個人データを委託先に渡すなどのことはできても、委託先が委託の前にすでに保有していた個人データや、委託先が他の委託元から受け取った個人データと本人ごとに突合させることはできないのです。そしてこれは、突合の結果、作成されるのが匿名加工情報等であっても同様であるとされています。(田中・北山・前掲『ビジネス法務』2020年8月号30頁)

この点は、個人情報保護委員会の個人情報保護法ガイドラインQ&A5-26-2の事例(2)にも明示されています。また、個人データを本人ごとに突合して作成するデータが匿名加工情報などであっても、これは同様であると同QA11-13-2に明記されています。

個人情報QA5
(個人情報保護委員会サイトより)

したがって、CCCの明確化した新しい個人情報の取扱である、T会員規約4条6項の「飲料メーカーA社の事例(統計データ)」については、個人情報保護法23条1項、個人情報保護法ガイドラインQ&A5-26-2・11-13-2に違反しており、許されないものであると思われます。また、このような個人データの取扱は、法16条の定める目的外利用の禁止に抵触するおそれもあります(岡村久道『個人情報保護法 第3版』262頁)。

4.旅行代理店Bの事例(個人データ)
つぎに、二つ目のT会員規約4条6項の「旅行代理店Bの事例(個人データ)」は、旅行代理店Bから受け取った個人データBをCCCの個人データと本人同士で突合し、加工した結果の「個人データ」を「CCC」が自社のマーケティングや販売促進等に利用するようです。

旅行代理店B社
(CCCサイトより)

つまり、こちらも、上の飲料メーカーAの事例と同様に、突合してはいけない個人データBとCCCの個人データを本人同士で突合していますし、作成するのは統計データや匿名加工データ等ではなく、個人データのようであり、さらに当該個人データを販売促進などに利用するのはCCCのようです。

すなわち、個人データの委託というより、CCCの主導による他社の個人データの突合による個人データの利用のようです。したがって、これはそもそも個人情報保護法23条5項1号の委託のスキームを踏み越えているので、CCCは、原則に戻って、B社から本人同意に基づく第三者提供(法23条1項)によって個人データBを受け取っていない限り、この取り扱いは許されないことになると思われます。

5.まとめ
最近の世の中は、ビッグデータやAI、DX、官民のデジタル化という用語をニュースなどで聞かない日はないような状況ですが、CCCはデジタル化に少し浮かれ過ぎているのではないかと心配になります。

2019年の就活生の内定辞退予測データに関するリクナビ事件においては、リクナビだけでなくトヨタ等の採用企業側に対しても、個人情報保護委員会と厚労省から、「社内において個人情報保護法などの法令を十分に検討していない」として安全管理措置違反(法20条)があったとして行政処分・行政指導が出されたことを、個人情報取扱事業者の大手のCCCは失念しているのではないでしょうか(個人情報保護委員会・令和元年12月4日付「個人情報の保護に関する法律に基づく行政上の対応について」)。

CCCによるとTポイントの会員は約6900万人、提携企業数は188社、店舗数は1,052,092店舗(2019年3月現在)であるとのことであり、CCCの個人情報のデータベースには日本国民の50%を超える人間の個人データが集積されていることになります。そのような莫大な個人データを預かる企業市民としてのCCCの社会的責任、法的責任は重大であると思われます。

■関連するブログ記事
・CCCがT会員6千万人の購買履歴等を利用してDDDを行うことを個人情報保護法的に考える
・Tポイントのツタヤ(CCC)がプライバシーマークを返上/個人情報保護法の安全管理措置
・海老名市立中央“ツタヤ”図書館に行ってみた/#公設ツタヤ問題
・リクルートなどの就活生の内定辞退予測データの販売を個人情報保護法・職安法的に考える

■参考文献
・田中浩之・北山昇「個人データ取り扱いにおける「委託」の範囲」『ビジネス法務』2020年8月号30頁
・岡村久道『個人情報保護法 第3版』262頁














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武雄市図書館
1.はじめに
佐賀県の武雄市がカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(CCC)に地方自治法の定める指定管理者制度により武雄市図書館を業務委託し開館した際に、蔵書購入で違法な支出があったとして、市民が当時の責任者だった樋渡啓祐前市長らに約1900万円を賠償請求するよう佐賀県武雄市に求めた住民訴訟において、佐賀地裁は昨年9月28日、住民側の請求を棄却する判決を出しました(佐賀地裁平成30年9月28日判決、法学セミナー770号117頁)。

2.事案の概要
2012年、武雄市は同市が設置する武雄市図書館のリニューアルを計画し、2013年4月から代官山蔦屋書店などを運営するCCCを指定管理者として同図書館を運営させることとした。2012年11月、武雄市とCCCは、新図書館サービス環境整備業務に関する業務委託契約(「本件契約」)および新図書館空間創出業務に関する業務委託契約(「本件別契約」)を締結した。本件契約は蔵書1万冊の納入などについて、本件別契約は什器・照明の設置などについて定めていた。2013年5月、副市長(当時)は本件契約に基づく委託料の支出命令を行った。

2015年、同図書館リニューアル時に金銭の調整が行われ、蔵書1万冊について、新刊ではなく中古本を購入することで蔵書購入価格が約756万円に抑えられ、約1200万円の金銭が館内の安全対策のための追加工事に流用されていたことが発覚した。また、リニューアル当時より、蔵書の選書の分野の集中や、複数冊の重複などの問題も指摘されていた。

これを受けて武雄市の住民であるXらは、本件契約に基づく蔵書の納入について、CCCによる最終見積りによれば約1958万円であったにもかかわらず、実際には約756万円しか執行されておらず、残りの金銭が本件別契約に関する追加工事に流用されていたことは違法である等と主張して住民監査請求を行ったが棄却された。そのためXらが提起したのが本件住民訴訟である(地方自治法242条の2)。

3.判旨
請求棄却(控訴)。
判旨1
 1958万円余で1万冊の書籍を購入するということは、最終的な見積りの金額を算出するための明細の一部にすぎない。本件契約においては、契約金額の内訳は明示されていないし、本件契約書に見積書が引用されていない。本件契約書と一体の本件仕様書には、「蔵書となるべき書籍の購入」「蔵書購入1万冊」といった記載はあるが、書籍の購入にかかる金額の記載はない。そうすると、見積書の記載をもって、CCCが、本件契約において、1万冊の蔵書を購入する費用として1958万円余を使う債務を負っていたとはいえない。』

判旨2
 武雄市図書館のリニューアル業務において最も重視されたのは、代官山蔦屋書店のコンセプトおよびノウハウを図書館に導入すること、リニューアルするに当たり、同店を運営するCCCが主導的役割を果たすことである。図書館への導入が想定されていたのは、書籍等を通じてライフスタイルを提案する場を作ること、同店と同じような空間を演出することなどであるから、その中には当然書籍の選定も含まれる。同店のコンセプトおよびノウハウを熟知しているのはCCCであるから、武雄市としても、具体的な書籍の種類、内容、構成などについては、広く同社に委ねるほかはない。

そうすると、本件契約上、CCCが書籍に関して追う債務は、代官山蔦屋書店のコンセプトおよびノウハウを図書館に導入するため、書籍等を通じてライフスタイルを提案する場を作り、同店と同じような空間を創出するのにふさわしい書籍1万冊を、広い裁量の下で自ら選び出し、納入することであったというべきである。』

4.検討
本判決に反対。

(1)公立図書館の趣旨・目的
本訴訟の対象となっているいわゆるツタヤ図書館は、代官山蔦屋書店のような民間施設ではなく、公立図書館であるため、その法的な趣旨・目的が問題となります。

この点、図書館法1条は、「この法律は、社会教育法の精神に基づき、図書館の設置及び運営に関して必要な事項を定め、その健全な発展を図り、もって国民の教育と文化の発展に寄与することを目的とする」と、「社会教育法の精神」を前提としていることから、公立図書館は、すべての国民の教育を受ける権利(憲法26条)の保障を基本的精神としています。

つぎに、公立図書館の設置・運営に関する事項は、地方自治体の自治事務ですが、図書館法は、図書館奉仕(=サービス)の例示(3条)、図書館評価の実施(7条の3)、図書館協議会の設置(14条)、公立図書館の無償制(17条)など、地方自治体と公立図書館に対して一定の制約を加えています。

このような図書館法の規制は、「図書館の健全な発展」と「国民の教育と文化の発展」つまり国民の教育を受ける権利を保障するために、個々の地方自治体の施策を越えて、「全国画一的保障=ナショナル・ミニマム確保の見地から、それぞれの図書館が提供する役務・サービスの最低限度の内容あるいはその利用手続き」について法律で定めたものと解されています(塩見昇・山口源治郎『新図書館法と現代の図書館』101頁)。

すなわち、図書館法3条各号の図書館奉仕の規定などは、国民の教育を受ける権利を保障する観点から、図書館の最低条件(ナショナル・ミニマム)を確保するためのものです。そのため、地方自治体および公立図書館はこうした図書館の最低条件を達成したうえで、「土地の事情および一般公衆の希望」(3条)に沿った創意工夫に富む図書館サービスを展開すべきと解されています。

(2)図書館の蔵書の収集
この点、本訴訟ではCCCによる武雄市図書館の蔵書の収集の妥当性が大きな争点となっていますが、図書館法3条1号は、図書館奉仕の一つとして「図書、記録、視聴覚教育の資料その他必要な資料(略)を収集し、一般公衆の利用に供すること」と規定しているところ、CCCは蔵書の収集にあたり、新刊ではなく中古の図書を収集しており、また、蔵書の選書の分野の集中や、複数冊の重複などの問題も発生していました。

そのため、武雄市図書館を指定管理者として運営するCCCは、図書の収集にあたり図書館の最低条件たる図書館法3条1号を満たしておらず、その運営は違法・不当です。

(3)「武雄市図書館のリニューアル業務において最も重視されたのは、CCCが主導的役割を果たすこと」の妥当性
本件判決において一番驚くべきことは、裁判所が武雄市図書館について、判旨のとおり「武雄市図書館のリニューアル業務において最も重視されたのは、代官山蔦屋書店のコンセプトおよびノウハウを図書館に導入すること、リニューアルするに当たり、同店を運営するCCCが主導的役割を果たすことである」とし、その上で「同店のコンセプトおよびノウハウを熟知しているのはCCCであるから、武雄市としても、具体的な書籍の種類、内容、構成などについては、広く同社に委ねるほかはない。」と言い切って平然としている点です。

しかし”代官山蔦屋書店をそのまま武雄市に持ってくる”ことをコンセプトとして図書館を集客施設とし、それにより「町おこし」や「街のにぎわいの創出」を目的として公立図書館をリニューアルすることが「土地の事情および一般公衆の希望」(図書館法3条)に照らし、地方自治の一環として仮に許容されるとしても、上でみたとおり、そのリニューアルは公立図書館の「図書館の最低条件(ナショナル・ミニマム)」を達成したうえで実現されなければ違法となります。

そもそも公立図書館などの「公の施設」を指定管理者制度により「民営化」することが許される要件は、「公の施設の設置の目的を効果的に達成するため必要があると認めるとき」です(地方自治法244条の2第3項)。

すなわち、図書館の開館時間の長期化、開館日数の増加などだけでなく、図書館法3条各号が例示する、レファレンスの充実、図書・蔵書の充実などが「効果的に達成」されることが求められるのです(鑓水三千男『図書館と法』84頁)。

この点、武雄市および本判決は、武雄市図書館のリニューアルは、蔵書の品質などはどうでもよいことであって、「代官山蔦屋書店のコンセプトおよびノウハウを図書館に導入すること」により町おこしをする目的であると開き直っていますが、これらは図書館法の定める公立図書館の目的外のものであって、図書館法の趣旨および地方自治法244条の2第3項の解釈・適用を誤った違法なものです。

(4)武雄市教育委員会はCCCに白地委任をすることが許されるのか
さらに本判決は、「同店のコンセプトおよびノウハウを熟知しているのはCCCであるから、武雄市としても、具体的な書籍の種類、内容、構成などについては、広く同社に委ねるほかはない。」とも述べていますが、地方自治体(教育委員会)が公の施設たる図書館の設置・運営に関し、民間企業たる指定管理者に白地委任ともいうべき全面的な委任をすることが許容されるのでしょうか。

この点、公立図書館は社会教育施設として自律的に運営されるべきであり、国・自治体からの不当な介入は許されないという制度設計がなされている一方で、各自治体の社会教育を所轄する教育委員会が公立図書館を指揮監督する構造となっています(社会教育法9条の3、11条、12条、地方教育行政の組織及び運営に関する法律19条、21条、鑓水・前掲78頁)。

地方自治法も、地方自治体に指定管理者に対する報告徴求、実地調査、指示、指定の取消などの規定を置いており、地方自治体が指定管理者を管理監督する制度となっています(地方自治法244条の2第10項、11項)。

したがって、武雄市の教育委員会がCCCに武雄図書館のリニューアル・運営を丸投げしている状況と、それを追認してしまっている本判決は、社会教育法などの関連法規の観点からも違法・不当といえます。

本件住民訴訟は控訴がされているそうであり、上級審で適切な判断がなされることが望まれます。

■関連するブログ記事
・海老名市ツタヤ図書館に関する住民訴訟判決について

■参考文献
・児玉弘「CCCを指定管理者とする武雄市図書館に関する住民訴訟」『法学セミナー』770号117頁
・塩見昇・山口源治郎『新図書館法と現代の図書館』101頁
・鑓水三千男『図書館と法』78頁、84頁















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1.はじめに
『判例地方自治』平成30年7月号55頁に、海老名市のいわゆるツタヤ図書館に関する住民訴訟の地裁判決が掲載されていました。結論として住民側敗訴の残念な内容の判決です。なお本判決は、公立図書館の指定管理者に関する住民訴訟の判決としては、公開された判決として初のものと思われ、先例的な意義があります。

2.横浜地裁平成29年1月30日判決(一部却下・一部棄却・控訴(控訴棄却))
(1)事案の概要
海老名市は、 市立中央図書館の管理・運営について、地方自治法244条の2 第3項の指定管理者制度を導人し、その指定管理者として、A共同事業体(カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と図書館流通センターの共同事業体、以下「本件事業体」という。なお図書館流通センターは後に本件共同事業体から撤退した)を指定し、本件事業体との間で基本協定(以下「本件基本協定」という)を締結し、本件事業体に市立中央図書館の管理を委ねるとともに、市立中央図書館の大規模改修工事(以下「本件改修工事」という 。)を行った上で、本件事業体を構成するB社(CCC)に対し、市立中央図書館の一部を書籍等の販売及び喫茶の営業のために使用することを許可した(以下「本件許可」という)。

本件住民訴訟は、海老名市の住民である原告ら(X)が、市の執行機関である被告(海老名市長、以下Yとする)に対し、①本件基本協定は、市立図書館の指定管理者としての適格がない本件事業体との間で締結されたもので違法である旨主張して、本件基本協定を解約することを求め (請求1 )、 ②YがB社に対してした本件使用許可は、市立中央図書館の機能を著しく阻害し、かつ、権限なくされたものであるから違法である旨主張して本件使用許可を取り消すことを求めるとともに(請求2)、本件使用許可をした当時の市長であるCに対して本件使用許可により市が被った損害の賠償請求をすることを求め(請求3)、③市が指定管理者である本件事業体に市立中央図書館の図書購入を委託してその支払を代行させることは違法である旨主張してこれを禁止することを求め(請求4)、④市が本件事業体に対して支出した平成26年度の指定管理料は杜撰な積算のため余剰を生じ、また、本件改修工事にはB社の営業を支援するために行われた必要性のない工事が含まれていたと主張して、上記指定管理料の支出及び本件改修工事に係る請負契約(以下「本件請負契約」という。)締結の当時の市長であるCに対し、当該支出及び本件請負契約締結により市が被った損害の賠償請求(請求5 )をすることを求めた訴訟である。

(2)裁判所の判断
横浜地裁は、Xの請求1、請求2、請求4について、地方自治法242条の2第1項各号の定める住民訴訟の各類型のいずれにも該当しない、あるいはXには訴えの利益がない等の理由により却下しました。

その上で、横浜地裁はXの請求3について次のように判示しています。

『地自法242条の2第1項が定める住民訴訟は、地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とし、その対象とされる事項は同法242条第1項の定める事項、すなわち、公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは徴収、管理若しくは債務その他の義務の負担、又は、公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実に限られるのであり、これらの事項はいずれも財務会計上の行為又は事実としての性質を有するものである。

したがって、 請求3に係る訴えが適法といえるためには、Yがした本件使用許可が、中央図書館の財産的価値に着目し、その価値の維持、保全を図る財務的処理を直接の日的とする財務会計上の行為としての財産管理行為に当たるものでなければならないと解するのが相当である (最高裁平成2年4月12日第一小法廷判決、民集44第31頁参照)。

地教法21条2項所定の教育財産である中央図書館の目的外利用についての使用許可(地自法238条の4 第7項)は、本来、市の教育財産の管理権限を有している市教委(地教法21条2号)が、その管理行為の一環として行うべきものである。

そして、地教法は、教育財産について、その取得及び処分を地方公共団体の長の権限とする一方で(22条4 号)、その管理を教育委員会の権限としていること(21 条2号)、 地自法238条の4第7項の許可を受けてする行政財産の使用については借地借家法の適用がなく(同条8項)、当該使用を許可した場合において、公用若しくは公共用に供するため必要が生じたとき等は、普通地方公共団体の長又は委員会はその許可を取り消すことができるとされており(同条9項)、使用料の額の決定及び減免については別途の処分が予定されていること (同法225条、 228条1項前段参照) に照らせば、 市の教育財産である図書館の目的外使用の許否処分それ自体は、教育行政を所掌する教育財産の管理である市教委が、 教育上及び公共上の政策的な見地から、図書館施設の管理に係る教育行政上の処理を直接の目的としてその許否を決すべき処分というべきであって、当該図書館施設の財産的価値に着目し、その価値の維持、保全を図る財務的処理を直接の目的とする財務会計上の行為としての財産管理行為には当たらないと解するのが相当である。

そして、 中央図書館の本件目的外使用につきYがした本件使用許可は、 許可権限のないYが誤って行ったものであるが、 そうであるからといって、教育上及び公共上の政策的見地から図書館施設の管理に係る教育行政上の処理を直接の目的としてその許否を決すべき処分である図書館の使用許可の性質が変わるものではないから、Yがした本件使用許可も、財務会計上の行為としての財産管理行為に当たらないというべきである。

そうすると、Yがした本件使用許可は、地自法242条1項が定める住民訴訟の対象となる行為であるということはできない』。

このように裁判所は判示し、請求3について却下しています。また、請求5についても裁判所は形式的な審査を行い「本件改修工事はB社の営業支援のために行われたとはいえない」と棄却しています。そして結論として、住民Xらの主張をすべてしりぞけています。

3.検討・解説
(1)住民訴訟の対象
住民訴訟の対象となる事項(地方自治法242条の2第1項)は財務会計行為に限るとされていますが(最判平成2・4・12)、何が財務会計行為かが本件訴訟のように問題となることが少なくありません。

(2)指定管理者制度
指定管理者の指定(地方自治法244条の2第3項)については、市立駐車場の運営に指定管理者を指定した事案において、指定管理者の指定は、当該公共要物の財産的価値の維持、保全を図る財務処理を直接の目的とする財務会計上の行為にあたらないとする裁判例が存在します(大阪地判平成18・9・14、判例タイムズ1236号201号)。このように、裁判例においては、財務会計行為該当性を判断するにあたり、財務会計処分を直接の目的としているかを重視する傾向がみられます(宇賀克也『地方自治法概説 第7版』357頁)。

このような裁判例に対しては、「公物の公物管理権は、当該公物の所有権から派生する権能であると解すれば、公の施設=公物を所有している自治体は、所有権に内包されている管理権限の1つとして管理者を指定する権能を行使することが地自法により認められているのである。それ故に管理者を指定する権能は当然にして財産的側面を有しているのである。それゆえ、住民訴訟の対象性が認められるべきである。すなわち、公の施設=公物の管理に関して、財産的管理と公物の機能管理を截然と区分(することはできない。)」(寺田友子「公の施設の管理外部化にみる住民訴訟」『桃山法学』7号31頁)との批判がなされています。

また、指定管理者の指定の問題は本件訴訟も否定するとおり、取消訴訟などの訴訟類型では争えないものです。そのため、住民としては指定管理者による公の施設の運営などに違法・不当の疑義がある際に住民訴訟で争えないとなれば、指定管理者制度による公の施設の運営は、司法審査が及ばないブラックボックスとなってしまい、これは妥当とは思われません。

(3)先行行為・後行行為論
なお、住民訴訟の場面においても、先行行為に違法があった場合にはその違法性は後行行為である財務会計行為に承継され、当該財務会計行為は住民訴訟の対象となるとするのが判例です(最判昭和60・9・12、宇賀・前掲375頁)。本件訴訟は、海老名市の予算執行部門による指定管理費の支給を後行行為として住民訴訟を提起する道もあったかもしれません。

(4)ツタヤ図書館
ツタヤ図書館は、「町おこし」「街のにぎわいの創出」を目的として、海老名市立中央図書館のおよそ半分の面積を目的外利用で本屋や喫茶店、各種のグッズ売り場とし、大音響のBGMを館内で流し、ツタヤの営業部分が主で図書館機能は従の関係になっています。そして図書館機能をみても、利用者にわかりにくい図書の「独自分類」を採用し図書を配架・分類しており、また、肝心の図書も1990年代、00年代の本が多く並んでいる状態です。

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(WindowsXPの図書が大量に並んでいる海老名市立中央図書館。2015年当時。)

図書館法1条は、図書館の目的を「社会教育法の精神に基づき、図書館の設置及び運営に関して必要な事項を定め、その健全な発達を図り、もって国民の教育と文化の発展に寄与することを目的とする」と規定しています。

解説書によれば、「社会教育法の精神」とは、「教育を受ける権利」(憲法26条)であり、同法は、「国民の教育と文化の発展に寄与する」ために、個々の地方自治体の施策を超えて、「全国画一的保障=ナショナル・ミニマム確保の見地から、それぞれの図書館施設が提供する役務・サービスの最低限度の内容あるいはその利用手続き」を規定したものであるとされています(塩見昇・山口源治郎『新図書館法と現代の図書館』98頁、101頁)。

また、図書館は利用者・国民の「知る権利」(憲法21条1項)に奉仕する公の施設であり、その機能は民主主義の土台でもあります。

図書館法3条は、それぞれの自治体・図書館が「土地の事情及び一般公衆の希望」に沿った創意工夫を行うことも規定していますが、しかしそれは同法3条各号が掲げる、図書・郷土資料等の収集・一般公衆への提供(1号)、図書の分類配置・目録の整備(2号)、レファレンス(3号)などのナショナル・ミニマムの役務・サービスを達成した上で行なわれるべきものです。

利用者・国民の「教育を受ける権利」や「知る権利」・民主主義ではなく、「町おこし」「街のにぎわいの創出」を目的としたCCCを指定管理者とした全国のツタヤ図書館の導入・運営は、図書館法1条に抵触する違法なものであると思われます。

民間により行政が担ってきた公的事業の代替が認められるためには、いやしくも民間化によって、それまで行政により確保されてきた国民の憲法が保障する社会権・生存権がないがしろにされてはならないのです(晴山一穂『現代国家と行政法学の課題』161頁)。

4.まとめ
本件訴訟は住民側敗訴という残念な結果に終わりました。しかしそれは住民訴訟という訴訟類型に住民側の訴えが適合していなかったという形式的な理由に止まるのであり、裁判所はツタヤ図書館に積極的なお墨付きを与えたわけではありません。

ボールは海老名市議会や市当局、海老名市の住民の方々に戻されたものと思われます。海老名市議会にはツタヤ図書館問題の追及を続けておられる理性的な議員の方もおられます。そのような方々のより一層の奮闘が望まれます。

■関連するブログ記事
・海老名市立中央“ツタヤ”図書館に行ってみた

■参考文献
・『判例地方自治』平成30年7月号55頁
・宇賀克也『地方自治法概説 第7版』357頁
・寺田友子「公の施設の管理外部化にみる住民訴訟」『桃山法学』7号31頁
・塩見昇・山口源治郎『新図書館法と現代の図書館』98頁、101頁
・晴山一穂『現代国家と行政法学の課題』161頁

地方自治法概説 第7版

新図書館法と現代の図書館

現代国家と行政法学の課題―新自由主義・国家・法

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