東京オリンピック
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の医師の尾身茂会長が、6月2日に国会で、「普通はオリンピック開催はない。このパンデミックで。」、「そもそもオリンピックをこういう状況のなかで何のためにやるのか。それがないと、一般の人は協力しようと思わない」と発言したことが大きな社会的注目を集めています。

・尾身氏「普通はない」発言、自民幹部反発「言葉過ぎる」|朝日

ところが、この尾身会長の発言に対して、丸川珠代・五輪担当大臣は6月4日に「我々はスポーツの力を信じて今までやってきた。別の地平から見てきた言葉をそのまま言っても(我々、政府・五輪関係者には)なかなか通じづらい」と記者会見で発言したとのことです。

・丸川五輪担当大臣 開催意義「スポーツの持つ力を」|テレ朝News

また、同じく4日には、菅首相は記者団からの質問に対して「夢と希望を届ける」と東京オリンピックの今夏開催の意義を書面で回答したそうです。

政府の首脳陣達のこのようなお花畑というかポエムのような回答にはさすがに呆れてしまいました。

(さらに、田村厚労大臣は、尾見会長の発言について、「自主研究にすぎない」と記者会見で発言したとのことです。菅首相らはコロナに関しては二言目には「専門家に相談する」と発言するのに、自分達に都合の悪い専門家の見解については「自主研究」とは呆れてしまいます。反知性主義もいいところです。)

朝日新聞が5月15日、16日に実施した東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査では、「今夏に開催」は14%、「中止すべき」が43%、「再び延期すべき」が40%と、東京オリンピックの中止・延期を求める国民の世論が実に83%となっているところです。

・五輪「中止」43%、「再延期」40% 朝日世論調査|朝日

Yahoo!Japanの新型コロナ特集サイトにおいても、6月4日現在の新型コロナの日本の新規感染者数は2593人、死者は13470人、世界の新規感染者数は約47万人、死者は約369万人と現在も大変な数字となっています。

コロナ世界の感染状況

このような状況下での丸川大臣の発言を意訳すると、「私達、政府や五輪関係者や選手達は皆、スポーツや金儲けしか関心のない脳ミソ筋肉のアホなので、医者の医学的・科学的な意見は理解できないので受け付けません」ということなのでしょうか?

あるいは、丸川大臣や菅首相は、日本全国の病院やホテル、自宅などで病気と闘っているコロナ患者や、1万3千人を超えるコロナの死者の遺族の前でも「スポーツの力」とか「夢や希望」などの薄っぺらい発言ができるのでしょうか?

しかし「別の地平から見てきた言葉をそのまま言っても、なかなか通じづらい」という発言はすさまじいものがあります。

丸川氏は東京五輪担当の国務大臣のはずであり、内閣の一人です。政府つまり行政は、国民の「全体の奉仕者であつて一部の奉仕者ではない」(憲法15条2項)のであり、「内閣は行政権の行使について、国会に対し連帯して責任」(66条3項)を負うのですから、丸川大臣や菅首相ら内閣は、政府与党側の意見だけを考えるのではなく、国民の反対派の意見や専門家の意見を十分考慮して国会(国民)に対して責任を持って国政(行政)を実施しなければならない立場です。

にもかかわらず、丸川大臣らは、「別の地平から見てきた言葉をそのまま言っても、なかなか通じづらい」として、専門家の意見や反対派の意見を受け止め検討することを拒否していますが、これは国務大臣任務の放棄であり、内閣の東京オリンピックに関する国政の、国会・国民への責任放棄です。

このような今夏の東京オリンピック開催に拘泥し、医師などの専門家や8割を超える国民の反対意見をシャットダウンする政府・与党の態度は、わが国の近代立憲主義憲法に基づく民主主義制の観点からも言語道断なのではないでしょうか。

生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については…立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と憲法13条に明記されているとおり、近代憲法の自由主義・民主主義の国家においては、国民の生命や健康は、国民の基本的人権のなかでも一番守られなければならないものです。そして近代憲法の国家においては、政府などの国の統治機構は国民の個人の尊重や基本的人権の確立のために存在します(11条、97条)。

日本国憲法
第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。


したがって、日本政府は世界的な新型コロナの大流行という状況を鑑み、今一度、医師など専門家の意見や主権者たる国民の声を十分に検討し、日本国民および世界の人々の生命・健康を守るために東京オリンピックの中止あるいは延期を決定すべきです。

また、わが国の憲法の前文第2段落は、「われらは、平和を維持し、専制と隷従圧迫と偏狭地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」と国際協調主義を規定しています。

日本国憲法
前文・第二段落後段
われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

新型コロナの蔓延という世界的な災厄を地上から永遠に除去しようと努力している国際社会において、日本が「名誉ある地位」のためにまず実施すべきことは、カネの亡者のバッハ・IOC会長やオリンピック選手達、スポンサー企業、テレビ局などのカネ儲けや名声のために東京五輪を開催するのではなく、東京オリンピックの中止または延期を決断することより他にないと思われます。世界の人々の生命と健康をコロナの感染拡大から守るという、これ以上の国際貢献は他にないと思われます。


■追記
弁護士で政治家の宇都宮健児氏が、東京オリンピック中止のネット署名を行っています。
・東京五輪の開催中止を求める署名はこちら | 宇都宮けんじ公式サイト

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