なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

タグ:パブコメ

デジタル認証アプリイメージ図
前回のブログ記事でも取り上げた、デジタル庁のデジタル認証アプリに関するパブコメに対して以下のような意見を提出しました。


『デジタル認証アプリについては、個人が官民の各種サービスを利用した履歴が一元管理され、不当な個人のプロファイリングや、関連性のないデータによる個人の選別・差別、国家による個人の監視などの個人の権利利益の侵害や個人の人格権侵害のリスクがあります(マイナンバー法1条、個人情報保護法1条、3条、憲法13条、「マイナカード利用「認証アプリ」、個人の利用状況を国が一元管理のプライバシーリスク」2024年2月26日付日経クロステック参照)。そのため、「法律による行政の原則」(憲法 41 条、65 条、 76 条)の観点から、公的個人認証法の施行規則の一部改正だけではなく、マイナンバー法そのものを一部改正し、根拠条文を設置し、利用目的や目的外利用の禁止、安全管理措置等を規定し、違法・不当な利用に歯止めをかけるべきと考えます。

また、デジタル認証アプリで収集された個人情報(「連続的に蓄積」されたサービス利用履歴等も含む。個情法ガイドライン(通則編)2-8(※)参照。)についても、利用目的の制限、第三者提供等の制限、安全管理措置、保存期間の設定、データ最小限の原則、開示・訂正請求など本人関与の仕組みの策定、情報公開・透明性の仕組みの確保、不適正利用・プロファイリングの禁止などの法規制がなされるべきと考えます。

さらに、マイナンバーカードの電子証明書の発行番号(シリアル番号)についても、マイナンバー(個人番号)に準じたものとして取扱うように法規制し、利用目的の厳格化、目的外利用の禁止、第三者提供の制限、厳格な安全管理措置などの法規制を、マイナンバー法を改正するなどして盛り込むべきだと考えます。(同様に、マイナンバーカードやマイナポータルなどについてもマイナンバー法に根拠条文が非常に少ないため、これらについても「法律による行政の原則」の観点から、政令や施行規則・通達等の整備ではなく法規制を実施すべきだと思われます。)』


■参考文献
・電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律施行規則の一部を改正する命令案に対する意見募集について|e-GOV
・マイナカード利用「認証アプリ」、個人の利用状況を国が一元管理のプライバシーリスク|日経クロステック
・マイナンバーカードの取得を強く求める政府 本当の狙いはどこに|朝日新聞
・マイナカード、目に見えない「もう一つの番号」 規制緩くて大丈夫?|朝日新聞
・民間事業者が公的個人認証サービスを利用するメリット|J‐LIS
・水町雅子『逐条解説マイナンバー法』267頁、269頁

■関連するブログ記事
・デジタル庁のマイナンバーカードの「デジタル認証アプリ」で個人の官民の各種サービスの利用履歴が一元管理されるリスクを考えた

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文化庁が、2月12日まで「AIと著作権に関する考え方について(素案)」についてパブコメを実施していたので、つぎのとおり意見を書いて提出しました。

・文化庁パブコメ「「AIと著作権に関する考え方について(素案)」に関する意見募集の実施について」|e-Gov

1.「2.(2)AIと著作権の関係に関する従来の整理」(7頁)について
「イ 法30条の4の対象となる利用行為」「ウ 「享受」の意義及び享受目的の併存」の部分については、本考え方において非常に重要な部分であると思われるので、2017年の文化審議会著作権分科会報告書38頁以下の説明や同40頁の図なども盛り込んで、どうして法30条の4が権利制限規定として許容されるのか、一般人にさらに分かりやすい説明とすべきではないか。(松尾剛行『ChatGPTと法律実務』83頁以下参照。)

報告書40頁の図
(平成29年の文化審議会著作権分科会報告書40頁の図)

2.クリエイター等の「声」(13頁③)について
最近の生成AIの発展に伴って、声優・俳優・歌手等の声を再現できるAIボイスチェンジャーなど生まれ、声優・俳優・歌手等の本人の許諾のない「声」データ等の売買がネット上で横行している(2023年6月13日付日本俳優連合「生成系AI技術の活用に関する提言」など参照)。しかし声優・俳優・歌手等の「声」そのものについては著作権法上保護されず、判例・学説上はパブリシティ権(民法709条)または人格権(憲法13条)で保護されると解されているが(ピンク・レディ事件・最高裁平成24年2月2日判決、法曹時報 65(5) 151頁、TMI総合法律事務所『著作権の法律相談Ⅱ』312頁、荒岡草馬・篠田詩織・藤村明子・成原慧「声の人格権に関する検討」『情報ネットワーク・ローレビュー』22号24頁)、その保護のためには、①氏名・肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で氏名・肖像等を商品等に付し、③氏名・肖像等を商品等の広告として使用すること、等の厳しい要件を満たす必要があり、声優・俳優・歌手等の保護としてハードルが高すぎる。そのため、声優・俳優・歌手等の「声」という人格権(憲法13条)の保護のため、著作権法や不正競争防止法などの法令において、何らかの立法手当が必要なのではないか。

3.「5.(1)ア(ア)平成30年改正の趣旨および(イ)議論の背景」(15頁)について
この部分については、本考え方において非常に重要な部分であると思われるので、2017年の文化審議会著作権分科会報告書38頁以下の説明や同40頁の図なども盛り込んで、どうして法30条の4が権利制限規定として許容されるのか、一般人にさらに分かりやすい説明とすべきではないか。(松尾剛行『ChatGPTと法律実務』83頁以下参照。)

4.「(4)海賊版等の権利侵害複製物をAI学習のため複製すること」(23頁)について
「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」について、学習用データセットだけでなく海賊版等を明示したことは良いことだと思いました。

5.「カ 差止請求として取りうる措置について」(32頁)について
差止請求としてAI利用者やAI開発事業者等に対して著作権者が取りうる各種の措置が詳しく例示されており良いと思いました。Twitterなどネット上ではアマチュアのイラストレーターと思われる人々による反画像生成AI、反著作権法30条の4の意見が非常に高まっておりますが、これらの差止請求が可能なことにより、それらの懸念や不満は一定程度は解消されるのではないでしょうか。

6.「コ 学習に用いた著作物等の開示が求められる場合について」(34頁)について
訴訟となった場合に、AI利用者が主張・立証のためAI開発事業者等に対して書類の提出等や文書提出命令、文書送付嘱託などを実施できることが詳しく説明されていることは実務的に大変良いと思いました。

7.補償金制度(36頁)について
著作権者への補償金制度が、著作権法上、理論的な説明が困難であるとしても、Twitterなどネット上でクリエイター等の画像生成AIや著作権法30条の4に反対する意見が非常に大きいことから、政策的な観点から何らかの著作権者への補償金制度が必要なのではないかと思われます。

■関連するブログ記事
・声優の「声」は法的に保護されないのか?-生成AI・パブリシティ権(追記あり)
・【備忘録】文化庁の著作権セミナー「AIと著作権」について

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OIG (13)
内閣府知的財産戦略推進事務局が11月5日まで「AI時代における知的財産権に関する御意見の募集について」のパブコメを実施しています。Twitterなどネット上をみていると、同人絵師の方々を中心に生成AIへの反対意見が強いように思われるので、私は次のような、あえて生成AIの研究開発に肯定的な意見を書いて提出してみました。

1 生成AIと著作権の関係について、どのように考えるか。
わが国のAI等の科学技術の発展や経済発展のためには、著作権法30条の4にあるとおり生成AIの学習・開発段階はできるだけ法規制せず、一方、生成・利用段階は著作権法等で法規制を行い、生成AIの研究開発と権利者の保護のバランスを図るべきだと考えます。

2 生成AIと著作権以外の知的財産法との関係について、どのように考えるか。
最近、声優・俳優等の「声」と生成AIとの関係が問題になっていますが、声優・俳優等の「声」はパブリシティ権で保護されます(法曹時報 65(5) 151頁、最高裁平成24年2月2日判決)。そのため、著作権法等で安易に新たに声優・俳優等の「声」を法規制することには反対です。

3 生成AIに係る知的財産権のリスク回避等の観点から、技術による対応について、どのように考えるか。
日本新聞協会などが「新聞記事を生成AIの学習に利用させるな」等と主張していますが、それは新聞社各社が自社サイトに「生成AI学習禁止」とのタグなどの技術的措置をすればよいだけであると考えます。新聞社の利益よりも生成AIの研究開発を重視すべきだと考えます。

4 生成AIに関し、クリエイター等への収益還元の在り方について、どのように考えるか。
わが国の生成AIの研究開発を積極的に推進するために、学習・開発段階で利用料をとるのではなく、生成・利用段階で利用料をとるなどしてクリエイター等に還元すべきだと考えます。

6 ディープフェイクについて、知的財産法の観点から、どのように考えるか。
欧米などのように、民主主義を守る観点から、生成AIを利用した記事や動画・画像などには「生成AIで作成」等の注意書きをつけるよう法令やガイドラインなどでマスメディアやSNS・検索サイト等のデジタルプラットフォーム等に義務付けるべきだと考えます。

7 社会への発信等の在り方について、どのように考えるか。
とくにマンガ・アニメ等のイラスト等の分野に関して、生成AIに反対する感情的な意見がネット上に広まっていると感じます。これに対して政府は、例えば先般の文化庁の「著作権とAI」の講演会のような、学術的・理性的な情報発信を行い対応すべきだと考えます。

その他
「知的財産法と生成AI」だけでなく、「個人情報保護法と生成AI」についても政府や国会で検討していただきたいと考えます。

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bouhan_camera
1.はじめに
「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会報告書(案)」に関するパブコメが2023年1月12日から2月12日まで行われていたところ、その結果が3月23日に公表されたので、誤登録の問題の部分を中心にざっと読んでみました。

・犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会報告書を公表しました。|個人情報保護委員会

結論からいうと、本パブコメ結果は、個人情報保護委員会の回答をみると、つぎの回答7にあるような「本報告書案では、顔識別機能付きカメラシステムを導入する際に、個人情報保護法の遵守や肖像権・プライバシー侵害を生じさせないための観点から少なくとも留意するべき点や、被撮影者や社会からの理解を得るための自主的な取組について整理を行っています。 まずは、事業者において、本報告書を踏まえて適切な運用を行うことが期待されます。」という形式的な回答が多く、誤登録の問題にあまり前向きでないと感じました。どこか他人事のように見えます。

【意見7】
(略)ガイドラインやQ&Aに示されていても改善されない。よって、第三者機関によるチェック体制が必要である。 運用基準は国会で議論し立法化して欲しい。 【個人】

【PPCの回答7】
本報告書案では、顔識別機能付きカメラシステムを導入する際に、個人情報保護法の遵守や肖像権・プライバシー侵害を生じさせないための観点から少なくとも留意するべき点や、被撮影者や社会からの理解を得るための自主的な取組について整理を行っています。 まずは、事業者において、本報告書を踏まえて適切な運用を行うことが期待されます。

2.誤登録の問題
とはいえ、いわゆる「誤登録」の問題、「防犯カメラの万引き犯の冤罪被害者」の問題について、つぎの個人情報保護委員会(PPC)の回答は比較的丁寧に回答しています。

すなわち、誤登録された本人は、「個人情報取扱事業者に対して、法第33条に基づく開示請求、法第34条に基づく訂正等請求及び法第35条に基づく利用停止等請求を行うことができ」るとし、そして「個人情報取扱事業者は、これらの条文に従って対応する必要があります。」としています。またPPCは、本報告書案においては、「自らの個人情報が誤登録されていると考える者から、開示等の請求やその他問合せがあった際に、請求者の請求に応じた対応や、誤登録の有無を直ちに確認し、誤登録の場合には消去するための体制をあらかじめ整えておくことが望ましい。」と明記したとしています。

【意見272】
防犯カメラの顔認証登録について、誤登録の可能性と、登録された本人には認知も抗議もできない一方的な現状に抗議する。(略)【個人】

【PPCの回答272】
照合用データベースに登録されているデータが保有個人データである場合には、当該保有個人データの本人は、個人情報取扱事業者に対して、法第33条に基づく開示請求、法第34条に基づく訂正等請求及び法第35条に基づく利用停止等請求を行うことができ、個人情報取扱事業者は、これらの条文に従って対応する必要があります。 また、本報告書案においては、「自らの個人情報が誤登録されていると考える者から、開示等の請求やその他問合せがあった際に、請求者の請求に応じた対応や、誤登録の有無を直ちに確認し、誤登録の場合には消去するための体制をあらかじめ整えておくことが望ましい。」と示しています。

3.施行令5条の問題
個人情報保護法施行令5条各号に該当すれば当該データは保有個人データではなくなり、個人情報取扱事業者は保有個人データに関する義務を負わなくてよい(個情法16条4項)と現行制度がなってしまっているところにはつぎのように多くの意見が寄せられていました。

施行令5条
(個人情報保護法施行令5条。PPCの本有識者検討会議の資料2より)

しかしこれに対してもPPCの意見は形式論が目立ちます。PPCは「なお、施行令第5条の該当性は個別の事案に応じて慎重に判断されるべきものであり、防犯目的であれば直ちに施行令第5条に該当するということを述べるものではありません。」と説明していますが、しかし誤登録の人々がスーパーや警備会社などに申し出を行っても「当店ではそのようなDBはない」等と回答されてしまっている実務を変えるものとはなっていません。

【意見45】
(意見内容)
定義コに以下の注釈を加える。 注釈:誤検知は本人が認識できない可能性があることも考慮されるべきである。また、防犯目的では省令5条で保有個人データとして扱わなくて良いと書いてあるが、問い合わせに対して該当なしとの回答を安易に返すべきではない。

(理由)
本人が誤登録されていることをどのような手段で認識するかは大きな問題であり、指摘すべき項目である。 また、防犯目的では省令5条で保有個人データとして扱わなくて良いと書いてある。そうすると、該当なしとの回答になってしまい、誤登録された場合の濡れ衣被害が継続することになる可能性がある。 【一般社団法人MyData Japan】

【PPCの回答45】
第2章は用語の定義を行っているものであり、顔識別機能付きカメラシステムの利用の在り方について述べるものではありませんので原案どおりとさせていただきます。 なお、施行令第5条の該当性は個別の事案に応じて慎重に判断されるべきものであり、防犯目的であれば直ちに施行令第5条に該当するということを述べるものではありません。


【意見94】
32頁7行目以下について、個情法第4章の個人情報取扱事業者の顔データの取扱いの各義務が検討されているが、そのような法の運用をするためには、個情法16条4項や個情法施行令5条の改正が必要なのではないか。 個情法第4章の個人情報取扱事業者の顔データの取扱い等が検討されているが、しかし顔識別機能付き防犯カメラによる顔データは、個情法施行令5条のいずれかの号に該当し、当該顔データは保有個人データではないということになり(個情法16条4項)、結局、顔識別機能付き防犯カメラを運用する個人情報取扱事業者は個情法を守る必要がないということになってしまうが、そのような結論はいわゆる「防犯カメラの万引き犯の冤罪被害者」の被害との関係で妥当とは思えない。そのため個情法16条4項や施行令5条の法改正などの法的手当が必要なのではないか。 【個人】

【PPCの回答94】
施行令第5条の該当性は個別の事案に応じて慎重に判断されるべきものであり、防犯目的であれば直ちに施行令第5条に該当するということを述べるものではありません。 また、保有個人データには該当しない場合であっても、個人情報取扱事業者は、個人情報又は個人データを取り扱う場合は、個人情報保護法の定めに基づき取り扱わなければなりません。

4.個情法19条
なお、スーパーや警備会社等が誤登録の人々からの申し出に誠実に対応しないことは個情法19条(不適正利用の禁止)や個情法23条(安全管理措置)違反となるのではないかとの意見に対してもPPCは答えをはぐらかしてゼロ回答です。

個人情報保護法
(不適正な利用の禁止)
第十九条 個人情報取扱事業者は、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法により個人情報を利用してはならない。

(安全管理措置)
第二十三条 個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。

【意見112】
誤登録された人、いわゆる「防犯カメラの万引き犯の冤罪被害者」の人からの苦情や開示請求・削除等の請求に個人情報取扱事業者が誠実に対応しないことも個情法19条違反または法23条違反となることを明記すべきではないか。 誤登録された人、いわゆる「防犯カメラの万引き犯の冤罪被害者」の人からの苦情や開示請求・削除等の請求に個人情報取扱事業者が誠実に対応しないことも「違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法」による個人情報の利用または安全管理措置違反であるといえる。 【個人】

【PPCの回答112】
照合用データベースに登録されているデータが保有個人データである場合には、当該保有個人データの本人は、個人情報取扱事業者に対して、法第33条に基づく開示請求、法第34条に基づく訂正等請求及び法第35条に基づく利用停止等請求を行うことができ、個人情報取扱事業者は、これらの条文に従って対応する必要があります。
また、第5章6(3)において、法令上の開示等の請求に該当しないような法令上対応する義務がない問合せについても、信頼醸成の観点から、できる限り丁寧に対応していくことが重要であると示していますので、原案どおりとさせていただきます。

5.共同利用の問題
さらに、個人データの共同利用(個情法27条5項3号)においてどの範囲までを認めるのか、全国レベルの共同利用も認めてよいのかについては、本有識者検討会でも長く議論がなされ、「全国レベルでの共同利用には事前に個人情報保護委員会への相談を求めるべき」などの意見が出されていたにもかかわらず、本報告書はその点をスルーしてしまっています。この点に関するPPCの回答も木で鼻をくくったような形式的なものとなっています。

【意見210】
顔識別機能付きカメラシステムによる顔データの共同利用については、全国レベルや複数の県をまたがる等の広域利用を行う場合には、事前に個人情報保護委員会に相談を求めることを明記すべきではないか。そのために必要であれば個情法の法改正等を行うべきでないか。 第6回目の「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会」の議事録5頁に、「そういった観点から、一つ地域というのがメルクマールになると理解している。広域利用に関しては相当の必要性がなければできないとしつつ、個人情報保護委員会に相談があったような場合に対応していくのが1つの落としどころかと感じた。」との議論がなされているから。 また、宇賀克也『新・個情法の逐条解説』275頁、園部逸夫・藤原静雄『個情法の解説 第二次改訂版』187頁などにおいても、共同利用が許される外延・限界は「一つの業界内」、「一つの地域内」などと解説されており、全国レベルの共同利用や県をまたぐ広域利用、業界をまたぐ共同利用などは法が予定していないと思われるから。

【PPCの回答210】
個人情報保護法には、個人情報取扱事業者における個人情報の取扱いについて、事前審査に係る規定は設けられておりません。(後略)

6.防犯カメラについて立法を求める意見などについて
さらに防犯カメラの運用に関して規制法を国会で立法すべきとの意見も非常に多く寄せられていましたが、これに対してもPPCは「本報告書案では、顔識別機能付きカメラシステムを導入する際に、個人情報保護法の遵守や肖像権・プライバシー侵害を生じさせないための観点から少なくとも留意するべき点や、被撮影者や社会からの理解を得るための自主的な取組について整理を行っています。 まずは、事業者において、本報告書を踏まえて適切な運用を行うことが期待されます。」という形式論で退けてしまっています。(本有識者検討会のメンバーの一人の山本龍彦・慶大教授は「防犯カメラについて事業者等や行政にガイドライン等を遵守させるための枠組み立法が必要」とのお考えだったのですが、残念です。)

7.まとめ
このように本パブコメ結果はおおむね、NECや全国万引犯罪防止機構などの防犯カメラの利活用を行う事業者や団体の意向に沿う一方で、誤登録の被害を受けた個人や、これからそのような被害を受けるかもしれない国民の意思を不当に軽視したものといえます。

EUでは2021年にAI規制法案が公表され、警察当局等による公共空間での防犯カメラの利用は禁止となっています。またEUのGDPR22条はコンピュータの個人データの自動処理のみによる法的決定等を拒否する権利を規定しています。日本でも近年、情報法制研究所の高木浩光先生が、個人情報保護法(個人データ保護法)の立法目的は「データによる人間の選別・差別」を防止することであると主張し、注目を集めています。(防犯カメラの誤登録の問題は「データによる人間の選別・差別」の問題そのものと思われます。)このような世界や日本の近年の動向に、誤登録の問題に消極的な日本のPPCの本パブコメ結果は大きく逆行しています。顔識別機能付き防犯カメラの問題は、引き続き国会などで議論が行われてほしいと思います。

※なお、本パブコメ結果後のPPCの予定が不明だったので、PPCに電話にて問い合わせを行ったところ、「本パブコメ結果を踏まえて、個人情報保護法ガイドラインQ&Aの見直しを行う」とのことでした。

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■関連するブログ記事
・個人情報保護委員会の「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会報告書(案)」に関するパブコメに意見を書いてみた
・JR東日本が防犯カメラ・顔認証技術により駅構内等の出所者や不審者等を監視することを個人情報保護法などから考えた(追記あり)

■参考文献
・宇賀克也『新・個情法の逐条解説』275頁
・園部逸夫・藤原静雄『個情法の解説 第二次改訂版』187頁
・成原慧「プライバシー」『Liberty2.0』187頁
・高木浩光「高木浩光さんに訊く、個人データ保護の真髄」 | Cafe JILIS



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dai_byouin2

厚労省が「がん対策推進基本計画(案)」に係るパブコメ(2023年1月20日~2月18日)を実施していたので、つぎのような意見を書いて提出しました。

(該当箇所)
50頁「全ゲノム解析等の新たな技術を含む更なるがん研究の推進」について
(意見)
全ゲノム解析などの研究開発を行う前提として、患者本人が進学や就職、保険加入などのさまざまなライフステージで遺伝子データによる差別を受けないための遺伝子差別禁止法を、日本も欧米のように早急に立法すべきである。


(該当箇所)
56頁「がん登録の利活用の推進」について
(意見)
がんの情報は病歴であるので要配慮個人情報である。そのため、その収集や目的外利用、第三者提供には本人の同意が必要であることを明記すべきである(個人情報保護法18条、20条2項、27条1項)。また、自分の病歴データを国・自治体や製薬会社等に利活用されたくない患者も多いのであるから、自己情報コントロール権(憲法13条)の一つとして、オプトアウト手続きを制定し明記すべきである。


(該当箇所)
60頁「国民の努力」について
(意見)
「国民の国・自治体・関係者への協力義務」が規定されているが、日本は自由な民主主義国家であり(憲法前文、1条)、中国やロシアのような国家主義・全体主義国家ではない。国が国民に協力義務を課したり、努力を要求することは自由な民主主義や立憲主義の観点から明らかに間違っているので、この部分の全面的な削除・見直しを求める。




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