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タグ:マイナンバーカード

今までどおり保険証を2
(ある病院のポスターより)
1.マイナンバーカードへの健康保険証の一体化にマイナンバーを入力?
3月下旬に、マイナンバーカードに健康保険証を一体化させる事業においてマイナンバーの入力などに多くの不備が見つかり、厚労省はこの業務の本格稼働を遅らせるとの報道がなされました。これに対して、「マイナンバーカードでなく何故マイナンバーを使っているのか?」とネット上で疑問の声があがっています。

・データ入力不備で相次いだマイナカード保険証トラブル、チェックシステム導入へ|日経新聞

上の日経新聞の記事には、「健康保険組合などは組合加入者の被保険者番号、マイナンバーを厚労省の「医療保険者等向け中間サーバー」に登録」しているとはっきり書いています。

マイナンバー制度開始の当初は、国は「マイナンバー(個人番号)は行政の個人情報のデータベースを名寄せできる究極のマスターキーであるので、国民の個人情報やプライバシー保護のために、行政の個人情報のデータベースは分散管理を続ける。」、「センシティブ情報の医療関係の個人情報は、マイナンバーに直結するのではなく医療IDで管理する」という趣旨の説明をしていたはずです。

マイナンバー分散管理
(マイナンバー制度と個人情報の分散管理の説明図。内閣府サイトより)

この点、厚労省の健康保険証のマイナンバーカードへの一体化を説明するページのQA9は、「医療機関・薬局がマイナンバー(12桁の番号)を取り扱うのですか。」という問いに対して、「医療機関・薬局がマイナンバー(12桁の番号)を取り扱うことはありません。マイナンバー(12桁の番号)ではなく、マイナンバーカードのICチップ内の利用者証明用電子証明書を利用します。」と回答しています。

厚労省マイナンバーカード健康保険証QA9

・マイナンバーカードの保険証利用について|厚労省サイト

厚労省の説明によれば、やはり健康保険証のマイナンバーカードにおいても、利用するのはマイナンバーカードのICチップ内の利用者証明用電子証明書であって、マイナンバーそのものではないはずです。厚労省や内閣府などの政府は国民に嘘をついているのでしょうか?

2.カルテ情報や処方箋情報もマイナンバーに連結される
しかも、この厚労省サイトの「マイナンバーカードの保険証利用について」をみると、問題はより深刻です。

NHKなどのマスメディアは、健康保険証の問題ばかりを取り上げていますが、厚労省サイトの説明によると、患者・国民が健康保険証のマイナンバーカードへの一体化に一度同意してしまうと、健康保険証番号だけでなく、カルテ情報処方箋情報健康診断などの医療データも自動的にマイナンバー連結されるとあります。(顔データも連結される。)

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(厚労省「マイナンバーカードの保険証利用について」より)

そしてこれらの機微な医療データがマイナンバーに連結後は、国・自治体、製薬会社やIT企業などから閲覧され利用され放題となることについての説明もありません。これは「偽りその他不正の手段」による個人情報の収集(個人情報保護法17条1項)、つまり騙し討ちなのではないでしょうか。

3.平成27年のマイナンバー法改正
この点、内閣府のマイナンバー関係のサイトによると、平成27年のマイナンバー法改正により、健康保険組合などがマイナンバーを取扱い可能となる改正がなされているようです。(法9条の別表一に関する改正。)そのため、法律上は健康保険組合がマイナンバーを扱うこと自体の手当はなされているようです。

平成27年マイナンバー法改正概要

・マイナンバー法|内閣府

しかし厚労省や内閣府のサイトを見ても、「税務関係で企業などに提出したマイナンバーを、目的外利用で企業から健康保険組合に第三者提供する」という通知・通達やガイドラインなどは出されていません。これでは、「マイナンバーの本人の同意のない目的外利用や第三者提供」であると、やはり国に騙されたと感じる国民も多いのではないでしょうか。

4.国民の医療データが製薬会社やIT企業などに利用される
さらに、カルテや処方箋データ、健康診断などの医療データをマイナンバーに直結させるという国の医療データの取扱に関する方針について、正面からの説明がありません。

国は、2018年に次世代医療基盤法などを制定し、医療データを病院・薬局などから地方自治体に共有化させ、さらには製薬会社やIT企業などにも利活用させることにより、日本の経済発展を行う方針のようです。

次世代医療基盤法概要
(次世代医療基盤法のイメージ図。内閣府サイトより)

しかし、国民の病気・ケガは、風邪など誰もがかかるような一般的な傷病だけでなく、例えば、ガン、HIV、精神病、身体障害・精神障害・知的障害など現在も社会的差別の原因となっている傷病も多く存在します。また傷病に関するカルテ上の情報などは、患者の人間としての身体的なデータや内心を含む精神的なデータ、さらには遺伝子情報も含む、人間そのものの機微な個人データです。(近年、アメリカ、ドイツなどには遺伝子差別禁止法が制定されていますが、日本にはそれさえも存在しません。)

そのため、製薬会社などの経済的利益や国・自治体の行政サービス向上のために患者・国民の医療データを利用する必要性があるとしても、まずは患者・国民が自らの医療データを病院・薬局などの医療機関だけでなく、国・自治体や製薬会社などに目的外利用および第三者提供させることについて明確な本人の同意が必要なはずです。日本は中国のような全体主義・国家主義の国ではなく、個人の尊重と基本的人権を目的とする自由な民主主義国家のはずなのですから(憲法11条、13条、97条)。

5.個人データ保護法の趣旨・目的
現在、参議院で審議中のデジタル関連法案のなかのマイナンバー法改正法案においては、国家資格の有資格者のデータをマイナンバーに連結すること等も盛り込まれています。また、政府・与党は銀行・商社など大企業の従業員の情報を国が管理し、それらの従業員を地方で働かせる政策を発表しています。

・官民を通じた個人情報保護制度の見直し|個人情報保護委員会

しかし、マイナンバーに医療データや国家資格のデータ、経歴や職務経歴などのさまざまな個人データをどんどん連結させてゆくことは、いわば「国家の前に国民が丸裸となる状態」(住基ネット訴訟・金沢地裁平成17年5月30日判決)の危険があるのではないでしょうか。

また、1974年の国連事務総長報告書「人権と科学技術の開発―人間の諸権利に影響をおよぼすおそれのあるエレクトロニックスの利用,及び民主的社会における右利用に課せられるべき制限」に始まり、1996年のILOの「労働者の個人情報保護に関する行動準則」2000年の日本の労働省「労働省の個人情報保護の行動指針」6(6)1995年の欧州のEUデータ保護指令2014年のEUのGDPR22条など、世界の個人データ保護法制は、「コンピュータによる人間の選別・差別から人間の「個人の尊重」を守ること」すなわち「コンピュータの個人データの自動処理(プロファイリング)のみによる決定を拒否する権利」を法目的の一つとしてきました。

「コンピュータによる人間の選別・差別から人間の「個人の尊重」を守ること」が世界の個人データ保護法制の法目的の一つであるとするなら、現在日本が推進している、マイナンバーに医療データや国家資格データなど各種の個人データをどんどん連結させてゆくことは、国・企業がコンピュータの個人データによる国民の選別・差別をどんどん容易にすることであり、1970年代からの世界の個人データ保護法制の趣旨に逆行しているのではないかと思われます。

コンピュータ自動処理拒否権の歴史の図1
コンピュータ自動処理拒否権の歴史の図2

6.まとめ
マイナンバー法3条2項は、国は「個人情報の保護に十分配慮」しなければならないと規定し、マイナンバー法の一般法にあたる個人情報保護法17条1項は「偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはならない」と規定し、同法同条2項はセンシティブ情報について「あらかじめ本人の同意を得ないで、要配慮個人情報を取得してはならない」と規定しています。(また、同法23条2項はオプトアウト方式による要配慮個人情報(センシティブ情報)の第三者提供も禁止しています。)

それを受けて、マイナンバー法17条は、マイナンバーカードの自治体の発行について、「その者の申請により、その者に係る個人番号カードを交付する」と規定し、あくまでも住民・国民の任意の申請に基づくことを規定しています。

さらに個人情報保護法1条および3条は、立法の趣旨・目的として「個人情報の有用性」だけでなく、「個人の権利利益の保護」、「個人情報は、個人の人格尊重の理念の下に慎重に取り扱われるべきもの」と明記しています。

法律による行政の原則、つまり法治主義に基づいて行政を運営することにより国民の個人の尊重と基本的人権を守るはずの国が、国民の個人情報やプライバシーを守るための個人情報保護法制や憲法を逸脱するような行政活動を行うことは許されないのではないでしょうか。

■関連するブログ記事
・日本年金機構からの再委託による中国へのマイナンバー等の流出疑惑について
・国がマイナンバーカード未取得者約8000万人に申請書発送の方針-国が国民に強制すべきことなのか?
・LINEの個人情報・通信の秘密の中国・韓国への漏洩事故を個人情報保護法・電気通信事業法から考えた
・遺伝子検査と個人情報・差別・生命保険/米遺伝子情報差別禁止法(GINA)


■参考文献
・高木浩光「個人情報保護から個人データ保護へ ―民間部門と公的部門の規定統合に向けた検討(2)」『情報法制研究』2号75頁
・高野一彦「従業者の監視とプライバシー保護」『プライバシー・個人情報保護の新課題』163頁(堀部政男)
・山本龍彦「AIと個人の尊重、プライバシー」『AIと憲法』59頁
・奥平康弘・戸松秀典「国連事務総長報告書(抄)人権と科学技術の開発」『ジュリスト』589号105頁









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NHKなどの報道によると、政府(総務省)は、マイナンバーカード未取得者約8000万人に対して、マイナンバーカード発行の申請手続き書類を再度郵送する方針だそうです。

・マイナンバーカード未取得者 約8000万人に申請書発送へ 総務省|NHK

かりに三つ折りハガキで郵送するとしても、郵送料だけでも単純計算で約48億円もの出費ですが、この莫大な行政コストは一体誰が負担するのでしょうか?

そもそもマイナンバー制度とは、国民一人一人にマイナンバー(個人番号)を付番した情報システムを行政が整備・運営することにより、「行政運営の効率化及び行政分野におけるより公正な給付と負担の確保」を図る制度です(番号法1条)。

つまり、従来は多くの人員と書類でやっていた行政の事務処理を、各官庁をまたいだ名寄せのためのマスターキーであるマイナンバー(個人番号)を付番した情報システムで行うことにより、行政を効率化・迅速化しコストダウンを図ろうという制度です。

マイナンバー制度概要図総務省
(総務省サイトのマイナンバー制度の解説より)


そのため、マイナンバー制度開始の平成27年に、国が国民全員にマイナンバーを情報システム上で付番した段階で、「行政の効率化とコストダウン」というマイナンバー制度の立法目的の本丸は達成されているのです。

なのに、なぜ政府・与党は制度のオマケのはずのマイナンバーカードに偏執的にこだわるのでしょうか?

制度の検討段階で「マイナンバーカードを国民に広く普及させたい」「住民基本台帳カードの二の舞にはならない」という目標を政府与党は掲げたようですが、その目標にこだわるあまり、オマケの目的が自己目的化して政府与党が暴走しているようにも思えます。(「行政の効率化やコストダウン」が制度目的のはずなのに、今回の政府方針だけでも約48億円もの行政の税金の無駄づかいに思えてなりません。)

政府与党は、「これからの日本はIT社会デジタル化を目指さなくてはならない。マイナンバーカードには本人認証機能があるから、日本のデジタル化の基盤である。だから国民は全員、マイナンバーカードを持たねばならない」と主張しているようです。

「日本はデジタル化を目指さなくてはならない」という理念を政府与党や国会が掲げるのはある意味自由です。しかし、わが国が「個人の尊重」「個人の基本的人権の尊重」を掲げる自由主義国家である以上は、それぞれの国民がどのような国家像や行政を望むか、そしてその国家に対して国民個人がなにをどの程度するかについては、原則として、国民一人一人の自由意思に委ねられています。わが国の主人公は国民であり、行政・国はその使用人(サービス機関)にすぎないのですから。

とくにマイナンバー(個人番号)は各官庁が持つ国民の個人情報・プライバシー情報を簡易・迅速にシステム的に名寄せする仕組みですから、その使い方を誤れば、いわば「国家の前に国民が丸裸となる状態」(金沢地裁平成17年5月30日判決)の危険をはらんでおり、マイナンバー制度は国民個人のプライバシー権(憲法13条)に隣接する制度です。

番号法17条1項が、マイナンバーカードの取得や所持を国民の義務とするのではなく、国民の任意による自治体への申請を踏まえて発行される建付けとしている趣旨は、このようにマイナンバー制度が国民のプライバシーに隣接する制度であることや、オマケとしてのマイナンバーカード(やそれに随伴する本人認証機能)を利用するか否かは国民個人の自由意思にゆだねているからであろうと思われます。

番号法
(個人番号カードの交付等)
第17条
   市町村長は、政令で定めるところにより、当該市町村が備える住民基本台帳に記録されている者に対し、その者の申請により、その者に係る個人番号カードを交付するものとする。この場合において、当該市町村長は、前条の政令で定める措置をとらなければならない。

この点、情報法や行政法の第一人者である学者にして最高裁判事の宇賀克也・東大教授の番号法の解説書は、番号法17条1項に関してつぎのように解説しています。

個人番号カードの取得を強制することは、(略)個人番号カードの取得を希望しない者や必要としない者に(市区町村の事務所への)出頭を強制してまで取得を義務づけることは適切でないと考えられたため、申請により取得することとしている。』(宇賀克也『番号法の逐条解説』78頁)

また、マイナンバーカードがICチップ部分に本人認証機能を有しながらも、本来はいわば「実印」のように慎重にも慎重に保管すべきマイナンバー(個人番号)が表面にでかでかと印刷されてしまっていること等など、マイナンバーカードの制度設計上の「おそまつさ」もマイナンバーカードの問題を難解なものにしています。先般の「10万円給付金」の電子申請の件で露呈したように、政府の運用する情報システムのレベルが非常に低いものであること等も、国民の心を冷やしています。

少なくとも今回の政府方針のように、マイナンバーカード普及というお役所が勝手に立てた目標のために、国の予算を大量に使い、本来、国の主人公である国民に、その使用人であるはずの国・行政が無理やりにでもマイナンバーカードを取得させようというのは、番号法17条1項違反であり、もっといえば国民の自由意思(憲法13条)や国民主権原理(憲法1条など)の侵害であるようにすら思われます。

番号法の逐条解説 第2版

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