ITmediaニュースによると、三菱UFJ信託銀行情報銀行事業を開始することを発表したそうです。

・三菱UFJ信託が情報銀行事業開始 Dprimeで「お金の代わりに個人情報を預かる」|ITmediaニュース
・情報銀行サービス「Dprime」ブランドアンバサダー・中田英寿氏の就任について|三菱UFJ信託銀行

記事によると、三菱UFJ信託銀行は、本人の同意のもとに、個人の氏名、住所などの情報とともに、趣味嗜好、位置情報・行動履歴、資産情報などを収集・保管して、本人が選択した企業に対して、本人の同意のもとにこれらの個人情報・個人データを第三者提供し、本人は当該企業から割引などの対価を受けるとのことです。

三菱信託銀行の情報銀行ビジネス
(ITmediaニュースより)

ところで、記事を読むと、「氏名、住所の詳細、メールアドレス等、個人が特定される法的に個人情報に該当するものは企業に第三者提供しない」と三菱UFJ信託銀行の方が記者会見で発表したとの点が個人的には非常に気になります。

三菱信託銀行法的に個人情報に該当する情報は第三者提供しない
(ITmediaニュースより)

この、「氏名、住所さえ消去すれば個人情報ではない」的な、まるで石器時代のような個人情報保護法の基本的な部分の誤解を前提にしたような発言は、本当に天下の三菱グループの、かつ金融機関の三菱UFJ信託銀行の方が発表したものなのでしょうか?そしてそれをIT系メディア大手のITmediaニュースの記者もツッコミを入れることなく報道してしまったのでしょうか?

記事によると、この三菱信託の情報銀行ビジネスのアンバサダーにはサッカーの中田英寿氏が就任したそうで、中田氏は「企業による個人データの利活用の重要性」を記者会見で力説したそうであり、この情報銀行ビジネスのアレな感じがさらに強調されているような気がします。

言うまでもなく、個人情報保護法2条1項1号は、「個人に関する情報」であって、かつ、「特定の個人を識別できるもの」は個人情報に該当すると定義しています。そのため、趣味嗜好、位置情報・行動履歴、資産情報などの情報・データも、この個人情報の定義に該当するものはやはり個人情報です(鈴木正朝・高木浩光・山本一郎『ニッポンの個人情報』20頁)。

個人情報の定義『ニッポンの個人情報』
鈴木正朝・高木浩光・山本一郎「「個人を特定する情報が個人情報である」と信じているすべての方へ―第1回プライバシーフリーク・カフェ(前編)」EnterpriseZineより

また、本年5月にパブコメで公表された、令和2年改正の個人情報保護法に対応する「個人情報保護法ガイドライン(通則編)」も、「行動履歴、閲覧履歴、位置情報・移動履歴、サービス利用履歴等も連続的蓄積されて特定の個人が識別できれば個人情報に該当すること」と、趣味・嗜好個人関連情報に該当すること」を明確化しています。

・「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編、外国にある第三者への提供編、第三者提供時の確認・記録義務編及び匿名加工情報編)の一部を改正する告示」等に関する意見募集について|e-GOV

■詳しくはこちら
・個人情報保護法ガイドラインは図書館の貸出履歴なども一定の場合、個人情報や要配慮個人情報となる場合があることを認めた!?

そのため、行動履歴、資産情報等のデータの多くはおおむね個人情報に該当すると思われますが、「法的に個人情報に該当するものは提供しない」との三菱UFJ信託銀行は、この情報銀行ビジネスにおいて、相手方の企業に対して一体何を第三者提供するつもりなのか非常に疑問です。

情報銀行ビジネスを開始すると経営判断した三菱UFJ信託銀行の経営陣の判断能力も心配ですし、同行の法務部は、この情報銀行業を事前にしっかりリーガルチェックしたのだろうかと非常に心配です。(ITmediaニュースの記者の方の個人情報保護法の理解も。)

三菱UFJ信託銀行の情報銀行ビジネスは、個人情報保護法の基本的な理解が間違っていて、開始前からグダグダな予感がします。日本は、EUのGDPRやAI規制法案など、西側自由主義・民主主義諸国の個人データ保護法の流れからますます離れてゆくガラパゴスだと思わざるを得ません。

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