1.大阪地裁がフラダンスの振り付けの著作権性を認める判断
9月20日の新聞各紙に、本日(20日)の大阪地裁が、フラダンスの振り付けについて振り付け師の原告の著作権を認め、被告の九州ハワイアン協会に対して、当該振り付け師による振り付けの使用の差止などを認める判決を出したという興味深い記事が載っていました。従来、ダンス等の振り付けを著作権として認めることはエンタメ業界等の実務において抑制的であったようであり、その意味で興味深い判決です。

・「フラダンス振り付けは著作物」判決 動作の独自性認定|朝日新聞

2.舞踏の著作物
著作権法において、身振り・手振り等の体の動きを通し、振付によって思想・感情を表現した著作物は「舞踏の著作物」とされ、著作権の客体とされています(著作権法2条1項3号)。舞踏の著作物というとき、振付自体が著作物(=著作権の客体)であって、踊る行為(舞踏行為)自体は著作物ではなく、「実演」に該当し、著作隣接権の対象です(同2条1項3号、7条等、中山信弘『著作権法 第2版』88頁)。

3.社交ダンス
ここで、例えば社交ダンスのように、既存のステップの組み合わせが多いようなジャンルの舞踏については、著作権を認めると他の者の行動を縛ることになりかねないので、著作物と認めにくいとされています。

この点、社交ダンスに関する裁判例も、“社交ダンスは原則として既存のごく短くかつ一般的に用いられるステップを自由に組み合わせて踊られるものであり、それにアレンジを加えることも一般的に行われており、特定の者にその独占を認めることは、本来自由であるべき人の身体の動きを過度に制約することになり妥当ではない”として、社交ダンスにおける振付けの著作権性を否定しています(東京地裁平成25年7月19日判決・「Shall we ダンス?」事件、中山・前掲89頁)。

このような学説・裁判例を受けて、エンターテイメント業界の実務においては、「ダンス等は一般的に基本の振り付けを組み合わせたものが多いことから、著作物性が認められるのは例外的な場合である」と考えられているようです(エンターテイメント・ロイヤーズ・ネットワーク『エンターテイメント法務Q&A』130頁)。

4.ダンス等の振り付けが著作物と認められる場合
しかし、著作権法上、「思想又は感情を創作的に表現したもの」が著作物となるので(2条1項1号)、ダンス等の振り付けであっても、それが「思想又は感情を創作的に表現したもの」といえるものであるなら、舞踏の著作物として保護の対象となります。

つまり、「創作者の個性が現れていること」、または、「ありふれた表現ではないこと」がその要件になるものと思われます。

この点、ダンス・舞踏の分野においても、振付の創作性を認め著作物性を認定した裁判例があるようです(福岡高裁平成14年12月26日・日本舞踊家元事件など)。

本日、大阪地裁で出された判決も、記事によると「他にない独自の動作が含まれ、全体として個性が表現されている」と判断し、原告の振り付けの著作物性を認め、原告側の主張を認めたようです。

5.「〇〇を踊ってみた動画」について
なお、数年おきくらいのタイミングで、TV番組などのダンス等を一般人が真似て「踊ってみて」、その様子の動画(「〇〇を踊ってみた動画」)をSNSなどに投稿することの当否が話題となります。

うえでみたことをまとめてみると、学説・裁判例やエンタメ業界の実務に照らして考えると、ダンス等の振り付けを真似してその動画をアップロード等することは、その元となるダンス等の振り付けが、基本の振り付けやステップなどを組み合わせたものにすぎないといえるものは、そもそも舞踏の著作物に該当せず、著作権性がないので、違法とならないと思われます。

一方、当該元となるダンス等の振り付けが、基本のステップなどの組み合わせのレベルを超えて、ありふれた表現ではなく、創作者の個性が現れていると評価できるものについては、舞踏の著作物に該当するので、一般人が著作者の許諾等なしにそれを真似る等することは違法となるでしょう。ただし、エンタメ業界の実務は、ダンス等の振り付けに舞踏の著作物が成立することは例外的であると考えているようです。

■参考文献
・中山信弘『著作権法 第2版』88頁
・エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク『エンターテインメント法務Q&A』130頁

著作権法 第2版