なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

タグ:二重オプトアウトの禁止

CCCマーケティングのプライバシーの考え方の図
(CCCマーケティングサイトより)

1.CCCがトレジャーデータと連携し7000万人分のT会員の個人データを販売開始
マイナビニュースの2022年7月28日付の記事「CCC、Tポイントデータをオープン化 - 7000万人の会員データが利用可能に」が、TポイントのCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)が、トレジャーデータと業務提携し、約7000万人分のT会員の個人データの販売を始めると報じ、ネット上では「CCCは正気か」と炎上しています。

記事によると、このCCCの新しい事業で注目すべきは、「利用する各企業が持っている自社データ(1st Party)を個人識別単位でT会員データと連携できる点」であるそうです。つまり、CCCからデータを購入する会社に提供されるのは、匿名加工情報などではなく、1対1で突合・名寄せされた個人データを分析・加工したものであるとのことです。(個人識別符号はメールアドレス・電話番号などになる予定とのこと。)CCCは約7000万人分のT会員の購入履歴・貸出履歴やネット閲覧履歴などを保有し、T会員の属性データなどを保有しているわけですが、このような個人データを匿名加工情報等ではなく、生データとして販売することが許容されるのでしょうか?

結論を先取りしてしまうと、CCCとトレジャーデータが提携して始めたこの新しいデータビジネスは、個人情報保護法上、「委託の混ぜるな危険」の問題」に抵触し法27条5項1号違反および法27条1項違反であり、また二重オプトアウトの禁止にも抵触し法27条2項違反のおそれがあります。そして利用企業側はCCCに対する委託先の監督の義務違反となる可能性があります(法25条)。これに対してTポイントのユーザーは、CCCに対して第三者への個人データの提供の停止を請求(法35条3項)することができると考えられます。

・CCC、Tポイントデータをオープン化 - 7000万人の会員データが利用可能に(TECH+)|マイナビニュース

2.個人情報保護法の「委託の「混ぜるな危険」の問題」違反
上のマイナビニュースには「利用する各企業が持っている自社データ(1st Party)を個人識別単位でT会員データと連携できる」と書かれていますが、この点、7月28日付のCCCとトレジャーデータのプレスリリース「CCCマーケティングとトレジャーデータ、生活者のライフスタイルを基点とした情報プラットフォーム構築に向けCDP領域で提携」もつぎのように記述しています。

■「CDP for LIFESTYLE Insights」ついて
「CDP for LIFESTYLE Insights」は、CCCマーケティングが有するユニークデータ※1と、トレジャーデータが有するデータ活用技術の掛け合わせにより提供されるデータサービスです。具体的には、CCCマーケティングの「Treasure Data CDP」において、「Treasure Data CDP」の利用企業が保有する自社顧客データと、T会員規約等にご同意いただいたT会員の皆さまに関するT会員データを、セキュアな環境下でプライバシーを保護した上で連携※2し、サービス※3を提供いたします。提供するレポートならびにT会員のデモグラフィック情報などにより、企業は自社顧客のインサイトを深く理解することができ、市場環境の把握、製品やサービス開発、顧客一人ひとりのライフスタイルに応じたコミュニケーション等への活用により、さらなる顧客エンゲージメントの向上を図ることが可能です。

今回の提携にあたり、データをお預かりするT会員の皆さまに向け、取り組み内容を説明するサイトを公開します。
(CCCとトレジャーデータのプレスリリース「CCCマーケティングとトレジャーデータ、生活者のライフスタイルを基点とした情報プラットフォーム構築に向けCDP領域で提携」より)

CCCのCDP
(CCCとトレジャーデータのプレスリリース「CCCマーケティングとトレジャーデータ、生活者のライフスタイルを基点とした情報プラットフォーム構築に向けCDP領域で提携」より)

つまり、利用企業が保有する自社顧客データ(個人データ)とCCCが保有するT会員の個人データを連携(=突合・名寄せ)し、利用企業が自社顧客の属性データなどのインサイトを深く理解できて、顧客エンゲージの向上を図ることができる個人データの提供を受けることができるとなっています。

すなわち、これは個人情報保護法的に考えると、いわゆる「委託の「混ぜるな危険」の問題」の典型例的な個人データの活用方法です。このような利用方法は個人情報保護委員会の個人情報保護法ガイドラインQ&A7-41、7‐42(=旧ガイドラインQ&A5-26-2の事例(2))に該当し違法です(法27条5項1号、法27条1項)。

QA7-41
(個人情報保護法ガイドラインQA7-41)

QA7-42
(個人情報保護法ガイドラインQA7-42)

これは、個人情報保護法上の「委託」とは、例えば委託元の企業が個人情報のPCへのデータ入力をIT企業に委託することなどのように、委託元の「利用目的の達成に必要な範囲内において、個人データの取扱いに関する業務の全部又は一部を委託すること」であるため、「委託された業務以外に当該個人データを取扱う」ことは「委託」に該当せず、これを本人の同意やオプトアウト手続きなしに行うことは原則に戻って本人の同意のない第三者提供として違法となります(法27条1項)。またこれは本人の同意のない個人データの目的外利用としても違法であり(法18条1項)、さらに委託元の事業者は個人データの安全管理措置に関する「委託先の監督」の義務違反にもなります(法25条)。(岡村久道『個人情報保護法 第4版』283頁。)

言い換えると、この「委託の混ぜるな危険の問題」が違法となるのは、そもそも個人情報保護法における個人データの「委託」とは、契約の種類・形態を問わず、委託元の個人情報取扱事業者が自らの個人データの取扱の業務を委託先に行わせることであるから、「委託元が自らやろうと思えばできるはずのことを委託先に依頼すること」であり、したがって、委託元は自らが持っている個人データを委託先に渡すなどのことはできても、委託先が委託の前にすでに保有していた個人データや、委託先が他の委託元から受け取った個人データと本人ごとに突合させることはできないからであると解されています。そしてこれは、突合の結果、作成されるのが匿名加工情報等であっても同様であるとされています(田中浩之・北山昇『令和2年改正個人情報保護法Q&A』182頁、田中浩之・北山昇「個人データ取り扱いにおける「委託」の範囲」『ビジネス法務』2020年8月号30頁)。

このCCCの個人データの取扱いは、CCCのT会員規約4条6項の「他社データと組み合わせた個人情報の利用」を根拠としています。このT会員利用規約4条6項は2021年1月の規約改正で新設されたものですが、「委託の「混ぜるな危険」の問題」などとの関係で個人情報保護法上違法であることは、本ブログで以前より取り上げてきたとおりです。
CCC利用規約新旧対照表
(T会員利用規約4条6項。CCCサイトより)

(関連する記事)


なお、上のマイナビニュースの記事によると、CCCは現在約5700社の企業とTポイントで提携し、それらの企業でのユーザーの購買履歴などの個人データをPOSベースで保有しているとのことですが、これを約5700社の提携企業の側から考えると、今回のCCCの新事業により、新事業の利用企業である競合企業やライバル企業などに自社の重要なデータであるPOSベースの購買履歴などの個人データが渡ってしまう可能性があるので、日本全国のTポイントの提携企業は、法律論は抜きにしても、経営判断の問題として、CCCとTポイントで提携を続けるべきか再考すべきかもしれません。

3.オプトアウト手続き
また、CCCサイトの説明ページ「情報プラットフォームにおけるデータとプライバシーの保護の考え方」には、このCCCの新しい事業で個人データを取り扱われたくないユーザーのためには、オプトアウト手続きのための画面(行動ターゲティング広告事業者への個人情報の提供の停止)が用意されています。しかし、上でみたように個人情報保護法の専門家の方々や個人情報保護委員会は、「委託の「混ぜるな危険の問題」を回避するためには原則に戻って「本人の同意」(法27条1項)が必要であり、オプトアウト手続きによる本人同意(法27条2項)でよいとはしていないので、CCCの本人同意の取得方法は依然として違法のおそれがあります。

オプトアウトのボタン
CCCサイトより)

4.二重オプトアウトの禁止
また、このCCCの新しい事業の利用企業もおそらくオプトアウト方式による第三者提供の方法を取っていると思われ、それに対してCCCもオプトアウト方式による第三者提供の本人同意を取得することは、2022年4月の改正個人情報保護法27条2項かっこ書きが規定するいわゆる「二重オプトアウトの禁止」に抵触し、これも違法であると思われます。

5.第三者への提供の停止の請求
さらに、法27条1項違反(本人同意なしの第三者提供)があった場合、本人(ユーザー)はCCCに対して第三者への個人データの提供の停止を請求することができます(法35条3項)。

6.まとめ
このように、CCCとトレジャーデータが提携して始めた新しいデータビジネスは、個人情報保護法上、「委託の「混ぜるな危険」の問題」に抵触し法27条5項1号違反および法27条1項違反であり、また二重オプトアウトの禁止にも抵触し法27条2項違反のおそれがあります。そして利用企業側はCCCに対する委託先の監督の義務違反となる可能性があります(法25条)。これに対してTポイントのユーザーは、CCCに対して第三者への個人データの提供の停止を請求(法35条3項)することができると考えられます。

■追記
上でみたように、「委託の混ぜるな危険の問題」の論点については、PPCの個人情報保護法ガイドラインQA7-41等では本人同意がないと違法となります。しかしこの点、これも上でみたようにCCCは2021年1月に「委託の混ぜるな危険の問題」に関してT会員規約4条6項を新設しています。

そのため2021年1月以降の新規ユーザーに対してはT会員への加入の際にウェブサイトに規約への本人同意のチェックボックスを設けるなどして、「委託の混ぜるな危険の問題」は一応クリアされているように思われます。しかし既存のユーザーに対しては問題はクリアされている、つまりQA7-41等や法27条1項の要求する本人同意がとれているといえるのでしょうか?しかしもしそうであるなら、ただでさえゆるい個情法の本人同意が骨抜きになってしまうのではないでしょうか。

プライバシーポリシーも一種の約款であり、定型約款の変更に関して新設された民法548条の4(2020年4月施行)は、ユーザーの利益に適合すること、約款改正の必要性、相当性、合理性などが満たされる場合には定型約款は個別の本人の同意がなくても契約内容が変更されると規定しています。

民法

(定型約款の変更)
第548条の4

 定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
(1)定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
(2)定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。
(以下略)

しかし既存のユーザーに対して民法548条の4で本人同意があったとみなして、個人情報保護法27条1項の本人同意があったとみなしてしまうことは、法27条1項の本人同意を骨抜きにしてしまうのではないでしょうか?(改正民法の制定に参画した民法の学者先生や官僚・国会議員の方々、情報法の先生方もそこまでは想定外なのではないでしょうか。)

既存のユーザーの一般人としての合理的な意思解釈として、「自分はそこまでのゆるい範囲でCCCから第三者の企業等に自分の個人データが1対1で突合され生データで提供されることを同意した覚えはない」と解釈されて、CCCのこの新しいデータビジネスは違法とされる余地があるのではないでしょうか。

個人情報保護委員会がこの件どのように考えているのか非常に気になるところです。もしこの部分が裁判所で争われた場合、裁判所がどのように判断するかも大いに気になるところです。

■追記
本件について日経新聞などが解説記事を掲載しています。

・CCC系とトレジャーデータの提携に懸念、「分かりにくい規約」での同意は有効か|日経XTECH
・Tカード会社、4千万人分の顧客データを販売へ…「同意」は有効か|読売新聞

日経XTECHの解説記事において、DataSignの太田祐一氏は、今回の同意取得のスキームがガイドラインの規定を満たしているとは思えないとした上で、「どのような同意が法的に有効なのか、これまで法改正などの過程で十分に議論できていなかった。個人情報保護委員会は改めて議論を整理する必要がある」とコメントされています。非常に同感です。

■参考文献
・岡村久道『個人情報保護法 第4版』283頁
・田中浩之・北山昇『令和2年改正個人情報保護法Q&A』182頁
・田中浩之・北山昇「個人データ取り扱いにおける「委託」の範囲」『ビジネス法務』2020年8月号30頁
・児玉隆晴・伊藤完『改正民法(債権法)の要点解説』108頁

■関連する記事
・令和2年改正の個人情報保護法ガイドラインQ&Aの「委託」の解説からTポイントのCCCの「他社データと組み合わせた個人情報の利用」を考えた-「委託の混ぜるな危険の問題」
・CCCがT会員規約やプライバシーポリシーを改定-他社データと組み合わせた個人情報の利用・「混ぜるな危険の問題」
・令和2年改正個人情報保護法ガイドラインのパブコメ結果を読んでみた(追記あり)-貸出履歴・閲覧履歴・プロファイリング・内閣府の意見
・武雄市のツタヤ図書館の公金支出に関する住民訴訟について-佐賀地判平成30・9・28
・CCCがT会員6千万人の購買履歴等を利用してDDDを行うことを個人情報保護法的に考える



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tatemono_yuubinkyoku
総務省が「郵便局データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会」報告書(案)等」に関するパブコメを7月15日まで実施していたので、つぎのような意見を提出しました。

1.地方公共団体や地図会社等に日本郵便が収集した公道の街路データ・外観データ・空き家情報やデジタル地図などの情報を販売・第三者提供するとのことについて(報告書(案)13頁4.(2)アなど)
(1)地方公共団体や地図会社等に日本郵便が収集した公道の街路データ・外観データ・空き家情報やデジタル地図などの情報を販売・第三者提供するとのことであるが、2022年4月に施行された個人情報保護法は「二重オプトアウトの禁止」を明示している(個人情報保護法27条2項ただし書き、佐脇紀代志『一問一答令和2年改正個人情報保護法』48頁参照)。

この点、表札等や人物等が映り込んでいない街頭データ・外観データ・空き家情報であっても、日本郵便が保有する配達原簿システムなどの国民・住民の居宅の住所データベースを照会すれば、街頭データに居住する特定の個人を容易に照合できるのであるから、個人の居宅などが写っている街頭データも個人情報・個人データである(個人情報保護法2条1項1号、16条3項)。

また、一般の地図会社はオプトアウト方式で本人同意をとり地図を作製していることを考えると、日本郵政グループも同様にオプトアウト方式により街頭データ・外観データ・空き家情報や「デジタル地図」等を収集・作成すると思われ、日本郵政がオプトアウト方式で作成した街頭データやデジタル地図等の個人データを地図会社が購入などすることは、個人情報の第三者提供のオプトアウトに該当し、「二重オプトアウト」(個人情報保護法23条2項ただし書き)に該当してしまうので、地図会社などは日本郵政のデジタル地図の個人データを購入することは違法となる。

そのため、本報告書13頁が提言している、日本郵政が郵便配達員などの目視やバイク、ドローンなどに設置されたカメラ・センサーなどの情報から居住者情報などの個人データの添付されたデジタル地図や街頭データ等を収集・作製し、地方自治体や地図会社などに販売・第三者提供しようというスキームは個人情報保護法との関係で違法であり許容されない(なお本報告書案は本スキームを「委託」と整理しているようであるが、「委託」とは委託元の事業者が保有する個人情報をIT企業にPCにデータ入力させるような、委託元ができる範囲の事柄を委託するスキームを指すのであり、街頭データの提供やデジタル地図のデータの提供などは委託ではなく第三者提供であると考えられる。)。

さらに、GPS捜査事件判決(最高裁平成29年3月15日判決)は、公道上の情報であっても継続的・網羅的に収集される場合にはプライバシー権の侵害となるとしていることから、郵便局の配達車やバイクなどの車載カメラやドローン、配達員の目視などによる継続的・網羅的な住民・国民の居宅の居住データやデジタル地図の収集・作成はプライバシー権との関係で違法の危険性があり慎重な検討がなされるべきである(民法709条、憲法13条、憲法35条)。

(2)地方公共団体や地図会社等に日本郵便が収集した公道上の街頭データ・街路データ・外観データ・空き家情報やデジタル地図などの情報を販売・第三者提供するとのことであるが、郵便法8条および憲法21条2項の定める「通信の秘密」・「信書の秘密」との関係で違法・違憲であり許容されないと考えられる。

なぜなら「通信の秘密」とは通信内容・信書の内容そのものだけでなく、通信の送信者・受信者、宛先、電話番号、住所、通信の個数や通信日時、通信の有無などの「通信の外形的事項」も含まれると解されている(曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説 第2版』53頁、大阪高裁昭和41年2月26日判決、賽原隆志『新・判例ハンドブック情報法』(宍戸常寿編)140頁)。郵便配達車やバイク等の車載カメラやドローン、郵便配達員などにより収集される街頭データやデジタル地図にはそれら通信の外形的事項も混入されざるを得ないから、それらの通信の秘密や信書の秘密に関する情報・データを地方自治体や地図業者などに第三者提供・販売等することは郵便法8条・憲法21条2項との関係で違法・違憲であり許容されない。

(3)地方公共団体や地図会社等に日本郵便が収集した公道上の街頭データ・街路データ・外観データ・空き家情報やデジタル地図などの情報を販売・第三者提供するとのことであるが、かりに地方自治体などと日本郵便との関係を個人情報保護法における「委託」(法27条5項1号)と整理した場合、いわゆる「委託の「混ぜるな危険」の問題」の規制があるため(令和2年改正の個人情報保護法ガイドラインQA15-18(2022年4月より施行)、田中浩之・北山昇「個人データ取扱いにおける「委託」の範囲」『ビジネス法務』2020年8月号29頁、田中浩之・北山昇『令和2年改正個人情報保護法Q&A』182頁)、日本郵便は地方自治体等の委託元から委託された範囲の個人データを収集・利用できるにとどまる。そのため、日本郵便は委託元ごとに街頭データやデジタル地図等を分別管理する必要があり、それらの複数のデータを「混ぜて」利用することは違法であり許容されない(法27条5項1号)。

また同様に日本郵便が、委託元から預かった個人データを自社が保有する個人データと名寄せ・突合して分析や加工などをした個人データを委託元に渡すなどの業務を行うことも違法であり許容されない。(「委託の「混ぜるな危険」の問題」を回避するためには、原則に戻り、日本の全国民のオプトイン方式による事前の個別の同意が必要である(法27条1項))。

2.カメラ画像の利用について(郵便局データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会報告書(案)15頁ア)
総務省・経産省の「カメラ画像利活用ガイドブックver3.0」の遵守が提言されているが、カメラ画像の利用に関する事柄であり、郵便局のカメラは商用カメラだけではなく防犯カメラも存在するため、個人情報保護委員会で現在審議中の「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会」の作成する報告書やガイドライン等も遵守すべき旨を追記すべきである。

3.情報銀行について(郵便局データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会報告書(案)24頁の「情報銀行」の部分)
郵便局の配達員などが配達業務に関連して目視や配送バイクに設置されたカメラ、ドローンのカメラなどで収集された顧客の個人情報・個人データを顧客本人の同意なく情報銀行や「デジタル地図」などに利用することは(あるいはオプトアウト方式の本人同意により利用することは)、本人同意なしに個人情報の目的外利用を禁止し、また第三者提供を禁止する個人情報保護法に抵触する違法なものであるだけでなく(法19条、27条1項)、郵便法8条や憲法21条2項の規定する「信書の秘密」「通信の秘密」や国民のプライバシー権(民法709条、憲法13条)をも侵害する違法・違憲のおそれがあり、許容されないのではないか。

また、日本郵政グループのかんぽ生命は生命保険の引き受けの告知や保険金・給付金支払い業務のために、国民の被保険者の医療データ・傷病データ・職業データ等を収集・保存しており、ゆうちょ銀行は国民・顧客の金融資産情報を保有しているが、それらのセンシティブな要配慮個人情報や機微な情報を「情報銀行」に利活用することは、金融庁の「金融分野の個人情報保護に関するガイドライン」第5条(機微(センシティブ)情報)が「機微(センシティブ)情報」という。)については、次に掲げる場合を除くほか、取得、利用又は第三者提供を行わないことと」と利用目的を限定列挙している規定に違反し許されないのではないか。

さらに、日本郵政グループが保有するセンシティブ情報・要配慮個人情報・金融資産などに関する機微情報を情報銀行に利活用することは、本人の明確な同意がないままに銀行など金融機関が保有するセンシティブ情報を保険営業に利用することを禁止する、保険業法や銀行法が定める「銀行窓販規制」に抵触し許容されないのではないか(保険業法300条1項9号、同施行規則212条3項1号等、中原健夫・山本啓太・関秀忠・岡本大毅『保険業務のコンプライアンス 第4版』260頁、経済法令研究会『保険コンプライアンスの実務』227頁)。

4.郵便局データなどの「データビジネスの段階的な展開」について(報告書(案)24頁の「データビジネスの段階的な展開」の部分)
日本郵政グループが情報銀行など、郵便局データなどの「データビジネスの段階的な展開」を実施することは、日本郵便が個人情報保護法上の個人情報取扱事業者(法16条2項)となることである。

すなわち、郵便局・日本郵便に信書や郵便物などの配達を委託する全国の中小企業を含む法人(個人情報取扱事業者)は、日本郵便に対して安全管理措置に関する「委託先の監督」(法25条)を実施することが法的に要求され、郵便物の配達の委託に際して日本郵便が十分な安全管理措置を講じているか事前のチェックや年1回の立入検査の実施、業務委託契約書の締結、秘密保持契約書の締結などが法的に要求されることになるが、これは現実的ではない。

日本郵便は「データビジネスの段階的な展開」を実施するとの計画は撤回し、郵便事業に専念すべきである。(産業技術総合研究所サイバーフィジカルセキュリティ研究センター主任研究員の高木浩光氏の「郵便事業がコモンキャリアを逸脱すれば郵便物を差し出す事業者が個人情報保護法に抵触する」『高木浩光@自宅の日記』参照。)

日本郵便が本業たる郵便事業だけでは経営が成り立たず、「データビジネス」という「副業」を行う必要があるということは、「郵政民営化」は失敗したということであり、国民の信書の自由(憲法21条2項)の基本的人権のための郵便局・日本郵便の事業は再び国が運営すべきである。

5.スマートシティについて(郵便局データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会報告書(案)21頁の「スマートシティ」の部分)
「スマートシティ」(「デジタル田園都市構想」)は、当該地域の行政、商業施設、学校、医療機関などの個人データを収集し、住民の「共通ID」を基にそれらの個人データを突合・名寄せ・分析・加工し、行政・民間・病院・学校などがそれらの個人データを共有するスキームであるが、これは個人情報保護法17条(利用目的の特定)やOECD8原則の「1.目的明確化の原則 (Purpose Specification Principle)」の背景となっている「個人データの必要最低限度の原則」に反しており、許容されない。

海外の例をみても、中国など国家主義諸国においては一定の実績があるものの、国民の個人の尊重と基本的人権を重視する西側自由主義諸国では失敗している。そのため、公的機関である日本郵便や日本郵政がスマートシティ構想に参加することは控えるべきである。

■関連する記事
・日本郵政がデジタル地図事業や情報銀行等に参入することを個人情報保護法などから考えた
・情報銀行ビジネス開始を発表した三菱UFJ信託銀行の個人情報保護法の理解が心配な件
・スーパーシティ構想・デジタル田園都市構想はマイナンバー法・個人情報保護法や憲法から大丈夫なのか?



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