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1.はじめに
最近、岸田首相が新型コロナに罹患し、リモート会議などのシステムを利用して執務を行っています。また本年7月の参院選で当選した海外に居るNHK党のガーシー氏がリモート会議のシステムなどによる国会への出席の意向を示していることなど、Zoomなどのリモート会議システムによる国会は可能なのか?という問題に一部のメディアで関心が高まっているようなので、私も少し考えてみました。

2.海外の動向
海外の動向をみると、フランスの上院および下院の委員会がTixeoというシステムを利用してテレビ会議形式で委員会を開催したとのことです(投票は含まず)。またイギリスは2020年4月21日に庶民院が「ヴァーチャル議会」を全会一致で承認し、650人の議員のうちの50人のみを議会に入れ、さらに別の120人の議員がZoomによるテレビ会議を通じてリモートで議会に参加する取り組みが同年4月22日から行われているとのことです。

さらにアメリカの下院議会の議員規則委員会では、2020年5月15日に、本会議において代理人議員を通じた遠隔投票を認めるための決議が賛成多数で可決したとのことです。(小林祐紀「リモート国会」『コロナの憲法学』254頁。)

このようにG7に属する西側先進国では、フランス、イギリス、アメリカなどで先行する事例があるようですが、他の諸国は未だ検討中の段階のようです。これは、西側諸国の憲法に、議会に議員が物理的に「出席」することを前提とする条文の文言があるため、リモート議会に慎重であるためであろうと思われます。(例えばアメリカ合衆国憲法は、1条4節、修正20条に「招集」という文言があり、また1条5節には「欠席議員の出席の強制」という文言があります。)

3.日本における「リモート国会」に関する議論
日本の現行憲法も56条1項、2項などが「出席」という文言を用いており、国会議員が国会に物理的に出席することを前提に規定されています。

日本国憲法

第56条 両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
 両議院の議事は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。

(なお地方議会についても、地方自治法113条、116条等が「出席」という文言を置いています。)

リモート国会との関係で憲法56条の「出席」の文言の意味をどう解するかについて、憲法学の重鎮の一人である早大の長谷部恭男教授は、「できない、というのが私の立場です。議員が議場にプレゼント(出席)していないとだめです。」「(モニター画面によるリモート国会は、)それはリプレゼント(代表)です。憲法は国会議員について「全国民の代表」と定めています(=憲法43条1項)。議員が議場に現に出席(プレゼント)することによってはじめて、主権者たる全国民をその場に改めて現前(リプレゼント)させることができる。「出席」なき「代表」はあり得ません。議場にいるのは単なる形式で、機能的に代替できるのならリモートで構わないというのは危ない議論です。」として「リモート国会」に消極的な立場をとっています。(「(考論 長谷部×杉田)コロナ対策、「罰則」と「自由」と」朝日新聞2020年7月26日朝刊2面。)

一方、東大の宍戸常寿教授(憲法)は、「(憲法56条の要件を満たし)成立した本会議にオンライン参加しても良いのではないか。『出席』は本会議場に集まることに限らない。(議場にいない議員も)審議に参加して表決し、その様子が公開される議会制の本質的要素を満たせば、出席と見て差し支えない」として「リモート国会」に積極的な立場をとっています。(東京新聞2020年5月10日。小林・前掲253頁。)

この点、憲法は直接民主制ではなく代表制民主制を原則としており(前文1項、43条1項)、議会に議員が出席して審議を行うことを原則としています。なぜ代表民主制が原則となっているかというと、日本をはじめとする現代国家は何千人、何億人の国民がいるため規模の面で直接民主制は現実的ではないこと、国民のすべてが審議に対応することができる時間的余裕がないことなどの理由があげられます。

また、第二次世界大戦のドイツや日本を振り返ると、議会での審議には意味はない、街頭における民衆の拍手・喝采こそがデモクラシーであるとドイツの国学者C・シュミットはナチズムを支持したのに対して、ケルゼンは議会における冷静な審議が重要であると主張していました。現在から振り返ると、ケルゼンの主張が正しかったことは明らかです。つまり、少数意見にも配慮した十分な議論(熟議)を行うためには、ある一定の数のメンバーを定め一定の時間、議会などで議論を行うことが優れており、そのために西側諸国の憲法は、議会に議員が「出席」して熟議を行う代表民主制を原則としているものと考えられます。(野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅱ 第5版』9頁、杉田敦『現代政治理論 新版』149頁、163頁)

4.まとめ
このように考えると、情報システムの発達した現代社会においても議会に議員が物理的に「出席」して審議を行うことが原則であるべきである一方で、新型コロナの感染拡大など、現実に議会に議員が物理的に出席して審議を行うことが困難である事情があるような例外的な場合には、少数意見にも配慮した十分な議論・審議が行える限りにおいて、イギリスやアメリカなどのように、リモート議会・リモート国会を行うことも許容されるように思われます。

(なおNHK党のガーシー議員の事例は、新型コロナの感染拡大などで現実に国会に物理的に出席が困難な場合には該当しないので、依然として同議員は日本に戻り、国会に出席することが求められるように思われます。)

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■参考文献
・小林祐紀「リモート国会」『コロナの憲法学』254頁
・野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅱ 第5版』9頁
・杉田敦『デモクラシーの論じ方』
・杉田敦・川崎修『現代政治理論 新版』149頁、163頁
・「(考論 長谷部×杉田)コロナ対策、「罰則」と「自由」と」朝日新聞2020年7月26日朝刊2面
・東京新聞2020年5月10日



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