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タグ:会社法

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1.はじめに
コロナ対策のために、定時株主総会において株主に対して事前登録制や抽選制などの制限を設けることが違法でないとされた興味深い裁判例が出されていました(静岡地裁沼津支部決定令4.6.27(確定)、『資料版/商事法務』461号137頁)。

2.事案の概要
Y1会社(スルガ銀行株式会社)の代表取締役であるY2は、令和4年6月、株主ら(議決権のある株式を有する株主約2万9000名)に対して、定時株主総会(本件株主総会)を令和4年6月29日午前10時から静岡県沼津市の総合コンベンション施設の一室(本件会場)で開催することを通知した。その招集通知には、新型コロナの感染拡大防止の観点から、健康状態にかかわらず来場を希望する株主は事前登録をし、事前登録を希望する者が本件会場の座席数を超える場合には抽選を実施すること等が記載されていた。

これに対して、Y1会社の株主のXら(合計303名)は、株主には株主総会に出席し、議題や議案に関する説明を求め、もしくは意見を述べる機会または株主提案の趣旨説明をする機会を与えられる権利(総会参与権)があり、本件株主総会の事前登録制や抽選制はこの総会参与権を不当に奪うものであると主張した。

XらはY1に対して、主位的に①株主の総会参与権に基づく妨害排除請求権または会社法360条所定の違法行為差止請求権を争いがある権利関係として本件株主総会の開催禁止を求め、予備的に②Y1会社およびY2に対して上記妨害排除請求権を争いがある権利関係として、本件株主総会にXらが出席して株主権を行使することの妨害禁止を求める仮の地位を定める仮処分命令を申し立てたのが本件訴訟である。

3.裁判所の判断
裁判所はつぎのように判示してXらの訴えを退けた(確定)。

判旨
(1)Xらは、株主総会に出席し、議題や議案に関する説明を求めもしくは意見を述べる機会等が権利(総会参与権)として各株主に保障されているとして、総会参与権を確保するための妨害排除請求権として本件株主総会の差止請求権を有していると主張する。しかし、会場の規模や時間的制約等により出席株主数を無制限とすることはできず、総会参与権を有するとしても、希望すれば必ず株主総会に出席できる権利であると認めることはできない。各株主の総会参与権に基づく株主総会開催差止請求権を観念することは困難である。

(2)仮に、各株主の総会参与権に基づく差止請求権を観念する余地があるとしても、令和4年6月時点で、不特定多数の株主がY1会社の定時株主総会に全国から集まる際に、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止という公益目的のために出席株主数を一定数に限定し、かつ、株主間の公平性を担保するために、事前登録の希望者が会場に設置する座席数を超える場合には事前登録者から抽選により出席者を選定するという事前登録制を採用することは、やむを得ないものであり、事前登録制の採用自体が合理性を欠くものであるとは認められない。

4.検討
株主は株主たる資格に基づいて株主総会に出席し、質問および意見を述べるような権利、すなわち総会参与権(総会参加権、広義の議決権)を有していると解されています(加美和照『新訂会社法 第10版』251頁)。

本判決は、このような総会参与権を認めつつも、新型コロナの感染拡大防止などの要請との比較衡量により、株主の総会参与権が制約を受けることがあり得るのであり、Xら株主の総会差止請求権は否定されることがあり得ると判示したものと解され、その結論は妥当であると思われます。

なお、令和2年4月に経産省と法務省が策定した「株主総会運営に係るQ&A」は、Q2で「会場に入場できる株主の人数を制限すること」も可能であるとし、Q3で「株主総会への出席について事前登録制を採用」することも可能であるとしており参考になります。

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■関連する記事
・新型コロナの緊急事態宣言をうけ、代表取締役が招集通知後に取締役会決議を経ずに株主総会の日時場所を変更したことが違法でないとされた裁判例-大阪地決令2.4.22

■参考文献
・前田庸『会社法入門 第12版』381頁
・加美和照『新訂会社法 第10版』251頁
・「スルガ銀行定時株主総会開催禁止等仮処分命令申立事件」『資料版/商事法務』461号137頁
・『銀行法務21』2022年10月号69頁
・経産省・法務省「株主総会運営に係るQ&A」(令和2年4月)



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1.はじめに
名古屋地裁で商品先物取引業の会社の代表取締役らについて内部統制システムの確立・整備義務違反があったとして損害賠償責任を認めた興味深い判決が出されています(名古屋地裁平成30年11月8日判決・一部認容・控訴、金融・商事判例1559号19頁・コムテックス事件)。

2.事案の概要
それまで商品先物取引を含む投資経験のなかった会社役員の30歳台の原告Xは、商品先物取引業を営む被告会社Y1の営業職員Y4らの勧誘により平成24年7月から11月にかけて124日間、金を対象とする商品先物取引を行ったが、約1700万円の損害が発生したとして、Y1、Y4および、取引期間中のY1の代表取締役であったY2およびY3に対して、不招請勧誘禁止違反、適合性原則違反、新規委託者保護義務違反などを理由として損害賠償請求訴訟を提起したのが本件訴訟である。

本件訴訟において、XはY2およびY3に対しては、Y1社における内部統制システム整備義務違反による会社法429条に基づく損害賠償責任を主張した。なお、Y1社は平成20年1月に商品先物取引法に基づき、農林水産省および経済産業省(主務省)より35日の業務停止処分および業務改善命令を受けていた(本件行政処分)。

3.判旨
請求一部認容。控訴。

判決はXの過失を4割と認定し、Y2およびY3に対してつぎのように判示して、Y1、Y2、Y3、Y4らに対して連帯して約1020万円の損害賠償の支払いを命じる判決をだしています。

『前記4(2)ア及びウ認定事実によれば、本件行政処分以後、Y1社においては、営業外務員に対する懲罰規程(略)、受託業務管理規則に係る勧誘規程(略)、社内監査規程(略)等の各種規程が改正策定され、従業員に対する研修や社内監査などを実施してきたこと、Y1社は、本件行政処分以後は行政処分を受けていないこと、平成23年1月に法第193条1項3号に基づく許可を受けていることなど、Y1社では、前記各規程等に沿い、法令等遵守体制や内部管理体制を構築しようとしてきたことが認められる。

 しかしながら、前記認定事実4(2)によれば、Y1社が、本件行政処分以前の平成13年頃から平成18年頃にかけて、顧客との間で多数の紛争を抱え、多数の訴訟を提起され、適合性原則違反、新規委託者保護義務違反、両建てによる特定売買などの違法行為を認める判決が出されていたこと、主務省から受託業務停止処分(35営業日)及び業務改善命令という極めて重い本件行政処分を受け、前記第2の2(2)のとおり、同処分の中で、本件の違法事由と同様に、商品取引市場における取引等につき、特定の上場商品構成物品等の売付け又は買付けその他これに準ずる取引等と対当する取引等であってこれらの取引と数量又は期限を同一にしないものの委託を、その取引等を理解していない顧客から受けていたことが指摘されていること、その後Y1社では、前記各種規程を改正策定していたが、その後も依然として顧客との間で多数の苦情、紛争、訴訟が発生し続けていたこと、実際に前記2認定説示のとおり、従前の訴訟や本件処分で指摘された事項と同様あるいは類似の事項について違法性が認められる。

そうすると、Y2及びY3においては、Y1らが主張する前記各種規程及び諸施策の実効性に疑問を持つべきであり、Y4らが本件のような違法な勧誘行為を行うことは予見可能というべきであるから、内部管理体制を確立・整備を怠ったことについて、重過失が認められるというべきである。
(略)

 したがって、Y2及びY3は、Xに対し、連帯して、会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負うものというべきである(同法430条)。』

4.検討
(1)内部統制システム
内部統制システムまたはリスク管理体制とは、一定以上の規模の会社において、会社の計算および業務執行が適正かつ効率的に行われることを確保するため、取締役および各部署の長が業務執行の手順を設定するとともに、不祥事の兆候を早期に発見し是正できるように人的組織を組み立てることを指します(伊藤靖史ほか『LEGALQUEST会社法 第4版』181頁)。

そして、この内部統制システムは取締役会で決定しなければなりません(会社法362条4項6号、会社法施行規則100条)。そのため、業務執行権限を有する代表取締役などの取締役は、内部統制システム構築義務を負い、また、各取締役は代表取締役等が内部統制システムを構築して運用する義務を履行しているか監視する義務を負います(神田秀樹『会社法 第21版』232頁)。

さらに、この内部統制システム構築義務に代表取締役等が違反した場合には、代表取締役は会社に対する任務懈怠責任(会社法423条)が問題となり、当該代表取締役は第三者に対する損害賠償責任(同429条)を負うことになります(野村修也「内部統制システム」『会社法判例百選 第3版』108頁)。

企業がどのような内部統制システムを構築するかについて、学説は、構築すべき最低水準のシステムを前提とした上で、その具体的な手段の選択と最低水準を超えてどこまで充実させるかは経営判断の原則に基づくとしています(野村・前掲108頁)。

この点、内部統制システムについて最高裁は、システム開発会社内の架空売上による不正経理の事案において、「通常想定される架空売上の計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制は整えられていた」とした上で、同社の代表取締役の責任を否定しています(最高裁平成21年7月9日判決・日本システム技術事件、判例時報2055号147頁)。

(2)本名古屋地裁判決について
本名古屋地裁判決は、Y1社は平成20年の行政処分以降、営業職員に対する懲戒規定、勧誘規定、社内監査規定など各種の社内規定の整備を行い、これらの社内規定に沿って内部統制システムを構築しようとしてきたと認定しつつも、その後も本件と同様の違法な取引が行われ、「依然として顧客との間で多数の苦情、紛争、訴訟が発生し続けていた」と認定し、結論としてY2およびY2は内部統制システムの確立・整備の義務に違反していたとして、会社法429条に基づく損害賠償責任を認定しています。

この本判決の考え方は、企業がどのような内部統制システムを構築するかについて、構築すべき最低水準のシステムを前提とした上で、その具体的な手段の選択と最低水準を超えてどこまで充実させるかは経営判断の原則に基づくとする学説・判例の考え方に沿うものであると考えられます。

■参考文献
・『金融・商事判例』1559号19頁
・神田秀樹『会社法 第21版』232頁
・伊藤靖史ほか『LEGAL QUEST 会社法 第4版』181頁
・野村修也「内部統制システム」『会社法判例百選 第3版』108頁







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