なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

タグ:保険業法

tablet_setsumei_business_woman
1.保険会社の営業職員等に保険募集の際に公的保険制度の情報提供を求める金融庁の監督指針の一部改正が行われる
金融庁は、保険会社の営業職員等に保険募集の際に公的保険制度の情報提供を顧客にすることを求めるための「保険会社向けの総合的な監督指針」(以下「監督指針」とする)等の一部改正のためのパブコメ手続きを2021年10月15日から同年11月16日まで実施し、その結果をまとめたパブコメ結果を同年12月28日にウェブサイトで公表しました。改正後の監督指針は12月28日より適用されるとなっています。

・「保険会社向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等について|金融庁
・コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方|金融庁
・「保険会社向けの総合的な監督指針」の一部改正(新旧対照表)|金融庁
・「保険会社向けの総合的な監督指針(別冊)(少額短期保険業者向けの監督指針)」の一部改正(新旧対照表)|金融庁
・「金融サービス仲介業者向けの総合的な監督指針」の一部改正(新旧対照表)|金融庁

2.監督指針の改正の概要
(1)2014年の保険業法の改正
保険業に関する金融庁の監督法である保険業法は、近年、保険商品の複雑化・販売形態の多様化や、スーパーや百貨店などに店舗を構える「ほけんの窓口」などの保険の乗合代理店の拡大などを踏まえ、2014年(平成26年)に大きな改正が行われ2016年に施行されました。この保険業法の改正は、①意向把握義務の創設(294条の2)、②情報提供義務の創設(294条1項)、③保険の乗合代理店の保険募集の態勢整備義務(294条の3)などが含まれます。

その改正点の一つの意向把握義務とは、保険会社・乗合代理店・営業職員(保険募集人)が保険募集(保険営業)を行う際に、顧客の保険契約への意向(ニーズ)を把握しなければならず、その顧客の意向に沿った保険契約の勧誘や提案を行わなければならないとするものです(保険業法294条の2)。

(2)2021年の監督指針の一部改正
そして2021年12月28日は、さらに保険会社の営業職員等に保険募集の際に公的保険制度の情報提供を顧客にすることを求めるための監督指針の一部改正が行われました。その内容は、①保険業法294条の2の意向把握義務に関する監督指針に、営業職員等が公的保険制度の情報提供を行うことを求める改正と、②保険会社の保険募集管理態勢(100条の2)に関連する監督指針に、「保険会社が営業職員などに公的保険制度に関する適切な理解を確保するための十分な教育体制を整備すること」の2点です。そしてこの監督指針の一部改正は、少額短期保険業者への監督指針、金融サービス仲介業者への監督指針においても同様の改正が行われています。

(3)保険業法294条の2の意向把握義務に関する監督指針に、保険会社や営業職員等が公的保険制度の情報提供を行うことが追加される。
今回の改正では、監督指針Ⅱ-4-2-2(保険契約の募集上の留意点)の(3)①(意向把握・確認の方法)の部分がつぎのように改正されました。(下線部が今回追加されたもの。)

Ⅱ-4-2-2 保険契約の募集上の留意点
(3)法第294条の2関係(意向の把握・確認義務)
①意向把握・確認の方法
意向把握・確認の方法については、顧客が、自らのライフプランや公的保険制度等を踏まえ、自らの抱えるリスクやそれに応じた保障の必要性を適切に理解しつつ、その意向に保険契約の内容が対応しているかどうかを判断したうえで保険契約を締結するよう図っているか。そのために、公的年金の受取試算額などの公的保険制度についての情報提供を適切に行うなど、取り扱う商品や募集形態を踏まえ、保険会社又は保険募集人の創意工夫による方法で行っているか。
監督指針改正1
(金融庁のプレスリリースより)

(4)公的保険制度の社内教育などの適正な保険募集管理態勢の確立の改正
また、今回の改正では、監督指針Ⅱ-4-2-1(適正な保険募集管理態勢lの確立)の(4)①(特定保健募集人等の教育について)の部分がつぎのように改正されました。(下線部が今回追加されたもの。)

II-4-2保険募集管理態勢
II-4-2-1適正な保険募集管理態勢の確立
(4)特定保険募集人等(略)の教育・管理・指導
①特定保険募集人の教育について
保険商品の特性に応じて、顧客が十分に理解できるよう、多様化した保険商品に関する十分な知識や保険契約に関する知識の付与及び適切な保険募集活動のための十分な教育を行っているか。
また、公的保険を補完する民間保険の趣旨に鑑みて、公的保険制度に関する適切な理解を確保するための十分な教育を行っているか。

監督指針改正2
(金融庁サイトより)

3.パブコメ結果の概要
(1)そもそも国の公的保険制度を国民に伝えるのは政府や所轄官庁の仕事ではないのか?
今回のパブコメ結果の概要を読むと、保険会社の営業職員と思われる方からのつぎのご意見が、大なり小なり保険会社関係の人間の思いを代弁していると思われます(パブコメ結果1)。

これ保険会社向けの監督指針に入れる必要があるのでしょうか?
そもそも国の制度を国民に伝えるのは政府や所轄官庁の仕事じゃないですか?
保険会社等はあくまでも補完サービスでしかないので筋違いの様に思います。

この営業職員と思われる方からのご意見は正論であり、読んでいて思わず笑ってしまいました。しかし、このカジュアルな意見に対して、金融庁の担当者の方はやや押され気味ながらも、つぎのようにまじめに回答しています。

政府において、公的保険に関する広報については、厚生労働省を中心に年金ポータルの開設やパンフレットの作成、対話集会の実施等、様々な取り組みを行っています。金融庁においても、金融経済教育における動画やパンフレット等において、公的保険や民間保険についても説明しています。

また金融庁ウェブサイト上に、公的保険制度について解説するポータルサイトを作成する予定です。他方で、保険会社や保険募集人等が保険募集を行う際には、顧客の意向を把握し、意向に沿った保険契約の提案を行うことが重要です。今般の監督指針案は、公的保険を補完する民間保険の趣旨に鑑み、顧客に対して、公的保険制度等に関する適切な情報提供を行うことによって、顧客が自らの抱えるリスクやそれに応じた保障の必要性を理解したうえでその意向に沿って保険契約の締結がなされることが図られているかという点などを監督上の着眼点として明確化したものです。

また、監督指針の改正趣旨を踏まえ、保険会社や保険募集人等が取り扱う商品や募集形態に応じて適切に判断し創意工夫を発揮して対応することは、顧客本位の業務運営に資するものと考えます。

パブコメ意見1
パブコメ意見2
(金融庁サイトより)

このように、金融庁は、公的保険制度の国民への説明として、厚労省がウェブサイトに公的保険制度の解説や公的年金の試算ができる専用のページなどを準備し、また金融庁もサイトに公的保険制度に関するポータルサイトを作成する予定なので、保険会社や営業職員などはそれを利用してほしいと異例の低姿勢で要請しています。

(2)今回の公的保険の情報提供は新たな情報提供義務ではない
また、パブコメ結果2は、「そもそも義務教育や高等教育の場面で、公的保険などに関する教育を行うべきではないか」との意見に対して、金融庁は「金融経済教育については、ご指摘を踏まえ、引き続きこうした取り組みを進めていきたいと考えております」とし、さらに「今回の改正案は、監督指針として盛り込むものであり、公的保険制度につき情報提供義務を課すものではありません。と回答しています。

そのため、仮に保険会社や営業職員などが公的保険制度の顧客への説明が不十分であったような場合でも、直ちに意向把握義務(保険業法294条の2)や情報提供義務(294条1項)の違反にはならないと金融庁は考えていると思われます。

(3)共済などには公的保険制度の説明を求めないのか?
パブコメ結果5では、「認可特定保険業者や、共済事業者、事業協同組合の共済事業に対しては公的保険制度の説明をさせないのか?との意見も出されています。この点、金融庁は、「認可特定保険業者についての貴重なご意見として今後の参考とさせていただきます」としています。また、共済などについての意見は、所管官庁へ伝えさせていただきます」と回答しています。

(4)証券会社が投資信託などを販売する際には公的保険制度の説明は不要なのか?
パブコメ結果10では、「証券会社が投資信託などを販売する際には、公的保険制度の説明は不要なのか?」との質問も出されています。これに対して金融庁は「本改正は保険会社や保険募集人を対象とするものであり、投資信託の販売などには影響しない。」「他方で、金融事業者の自主的な判断で、投資信託の販売時に厚労省の公的年金資産Web等を活用することは、望ましい取り組みである」と回答しています。

この点、投資信託の積立などのNISAやiDecoなどの老後のための備えを国民に促す制度を金融庁は推進しているのであり、このNISAやiDecoなども公的年金などとのバランスをとって国民が長期間にわたって準備するうことが大事なのですから、金融庁は保険会社や営業職員などに公的保険制度の説明をさせるだけでなく、証券会社やその営業職員などに対しても、監督指針を改正するなどして、公的年金制度などの説明をすることを求めるべきなのではないかと思われます。

(5)保険会社等はどのような公的保険について説明をすべきなのか?
保険会社等はどのような公的保険について説明をすべきなのかという質問が複数出されていますが、金融庁は「各保険会社が提供する商品種類・内容等、自社の事業の特性や募集チャネルを踏まえて、相違工夫を発揮しならが判断し対応すべき」ものであり、一律の基準などを設ける予定はないようです(パブコメ結果22)。また、金融庁は公的保険制には「遺族年金や障害年金も含まれる」と回答しています。

(6)実効性の担保について
パブコメ意見には、公的保険制度の説明を実施したことの担保・証拠として、「ねんきん定期便等から公的保険の受取資産額を踏まえた説明を受けた」とのチェック項目やチェックボックスを意向確認書に設ければよいのか?という質問も複数出されています(パブコメ結果32、33)。

これに対して金融庁は「実効性を担保するためには各種手段が考えられるところ、保険会社等が自らが取り扱う保険商品や募集形態などを踏まえ、創意工夫をもって判断すべきである」とし、「金融庁としてはこうした点を含めて保険会社等と対話をしてゆく所存です」と回答しています。そのため、保険会社等が顧客に公的年金制度について説明を行い、意向確認書に「公的保険制度の説明を受けた」とのチェック項目・チェックボックスなどを設けておけば、保険募集の際には保険会社等は公的保険制度の説明をせよとの金融庁の今回の監督指針の改正には一応適合していることになると思われます。

■関連する記事
・【解説】保険業法改正に伴う保険業法施行規則および監督指針の一部の改正について
・【解説】保険業法等の一部を改正する法律について
・かんぽ生命・日本郵便の不正な乗換契約・「乗換潜脱」を保険業法的に考える
・第一生命保険が営業職員等の不祥事の報告書を公表

■参考文献
・吉田桂公『一問一答改正保険業法早わかり』19頁、48頁
・錦野裕宗・稲田行祐『保険業法の読み方 三訂版』173頁
・吉田和央『詳解保険業法』614頁、628頁













このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

日生ポイントトップ画面
(日本生命保険サイトより)

1.日本生命保険のポイントに関する不祥事
日本生命保険が保険契約者のポイントを同社職員が横領・着服するなど、東洋経済のスクープを受けて炎上中のようです。

・日本生命で発覚「客のポイント使い込み」の唖然|東洋経済

2.保険募集の観点から
そもそも保険会社が保険契約者等に特別な利益を与えて保険募集等を行うことは法律上、原則禁止されています(特別利益の提供、保険業法300条1項5号)。

保険契約上の重要な事実の不説明(重要事項の不告知)や告知書に事実を告げないことをそそのかすこと(不告知教唆)などと並んで、特定の顧客に対してだけ利益を与えて保険の募集・勧誘を行うことは、保険会社の営業において発生しやすく、保険制度の公平性をゆがめかねない不正な事項であるからです。保険業法300条1項はこれらの保険募集上の禁止事項を列挙しています。

そのため、生命保険会社等がポイントを顧客に付与してよいかは比較的最近の法的論点であり、グレーゾーンです。

*詳しくはこのブログ記事をご参照ください。
・保険会社が保険契約者等にポイントを交付することは保険業法上許されるのか?/特別利益の提供

つまり、ポイント制度は特別利益の提供という、保険会社の不正が発生しやすい保険募集上の禁止事項に関係するデリケートな部分であり、保険業法の急所の一つともいえます。週刊誌にスクープされ、監督官庁の金融庁の担当部署は激怒中なのではないでしょうか。

私は日本生命の関係者ではないので分かりませんが、上のブログ記事でみたように、日生がこのポイント制度を積極的に推進していることから、おそらく日生は、この保険業法300条の問題をクリアするために、正面突破的な方法として、約款・事業方法書など保険業の骨格となる基礎書類上の許認可を金融庁から得た上で、ポイント制度を運営してるのではないかと推測されます(保険業法4条2項)。

しかしもしそうであるならば、日生は金融庁の許認可に明確に違反して業務を行っていることになるので、事態は非常に深刻だと思われます。

3.個人情報保護・情報セキュリティの観点から
また、生命保険業は顧客の金融情報を取扱う金融業界の一角である上に、顧客の健康状態・傷病の状態などのセンシィティブ情報(要配慮個人情報)を業務の性質上取り扱うので、情報管理や情報セキュリティは非常に高いレベルが要求されます。

にもかかわらず、業界1位の日生が情報管理・情報セキュリティの面でこれでは、生保業界全体の社会的信用の問題として非常にまずいものがあります。金融庁は業界全社に類似の事案の有無などに関して、保険募集上および情報システム上の調査を指示するのではないかと思われます。

*なお、日生の不祥事とは事案が異なりますが、第一生命等のウェブサイトも、情報セキュリティの観点から残念な事象がみられるようです。

■関連するブログ記事
・第一生命保険の「ご契約者専用サイト」の初期設定登録がセキュリティ的にひどい件

4.まとめ
このように、今回の不祥事について日生は、保険募集および情報管理・個人情報保護上の不祥事件として保険業法に基づく報告(不祥事件届出)を行い、金融庁・個人情報保護委員会が行政処分・行政指導を出す可能性があります(保険業法127条1項、同100条の2、同306条、個人情報保護法20条、保険業法施行規則85条5項、同53条の8、保険監督指針II-6、II -4-4-1-2(13))。

■参考文献
・錦野裕宗・稲田行祐『保険業法の読み方 三訂版』95頁、162頁、269頁
・中原健夫・山本啓太・関秀忠・岡本大毅『保険業務のコンプライアンス 第3版』165頁、316頁、340頁









このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

250px-DN_Tower_2018
2020年12月22日のメディア各社の報道によると、営業職員の顧客の金銭の詐欺・横領などに関連し、第一生命保険の稲垣精二社長は謝罪の記者会見を行ったそうです。報道や同社サイト上で公表された報告書によると、新たに3件の営業職員による不祥事とともに、本社の保険事務部門(契約サービス部)の不祥事も1件発覚したとのことです。

・「元社員による金銭の不正取得」事案に関するご報告 (PDF)|第一生命保険

Ep01VNKUwAAzSUX
(第一生命保険サイトより)

報告書によると、山口県の特別調査役については、高い営業成績をもつ特別調査役が社内で”女帝”扱いされ、本来、指揮監督する立場にあったはずの西日本マーケット統括部が監督を行っていなかったなどの、組織的な、ガバナンス上の問題が多かったように感じられます。

多くの保険会社は、社内に法務部門・コンプライアンス部門があり、また業務監査部や検査部門が社内の不正のチェックを多重的に行っています。そのような法務・コンプラ部門や監査・検査部門も有効に機能していなかったのでしょうか。コンプライアンスだけでなくガバナンスが機能不全であったということは、取締役ら経営幹部の法的責任が厳しく問われる問題であると思われます。

たしか第一生命は、生保業界では最初に法務部門を設置した会社であり、法務・コンプライアンスを重視しようという社風があったような気がするのですが、それも株式会社化などの時代の流れとともに変容してしまったのでしょうか。

ところで、この報告書をみると、営業部門だけでなく本社の保険事務部門(契約サービス部)でも不祥事があったようで、これも深刻な問題です。年金保険の取扱について、契約サービス部の社員が不正を行って数千万円の金銭を横領したとのことですが、事務手続き上も、情報システム上も、そのような不正が簡単にできたとは考えにくく、大いに気になるところです。

報道などによると、数年前より、第一生命は保険契約の保全に関する業務の大半を情報システム会社(NTTデータ)に外部委託していたそうです。この外部委託により何らかの不正のつけいる隙が生まれていたのだとしたら、由々しきことです。保険の引受業務や資産運用業務、保険金の支払い業務と並んで、保険契約の保全業務も、保険会社のコア業務なのですから。

稲垣社長は代替わりしたばかりですが、今回の一連の不祥事の再発防止策の実施が一区切りしたら、引責辞任は待ったなしの状況と思われます。今回の不祥事を受け、企業ブランドは大きく傷つき、この一年、大手生保の中で第一生命だけ営業成績が大きく低迷している状況です。金融庁だけでなく、"物言う株主"を含め多くの株主が黙っていないものと思われます。

なお、生命保険業界にとっては、この1年は第一生命やかんぽ生命の不祥事が大きく報道される一年だったように思われます。しかし、顧客の金銭の詐欺・横領でここ数年、毎年のように不祥事を起こしているソニー生命保険については、マスコミがほとんど報道を行わなかったのは不思議なことに思われます。

・当社の社員や代理店・グループ企業等を名乗る者が金員を詐取する事案にご注意ください。|ソニー生命

■関連するブログ記事
・第一生命保険が保険契約の保全業務をNTTデータに外注したことを保険業法から考える
・ソニー生命の個人年金保険契約を装う詐欺事件に対して金融庁が立入検査
・かんぽ生命・日本郵便の不正な乗換契約・「乗換潜脱」を保険業法的に考える









このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

tatemono_yuubinkyoku

1.はじめに
日本郵政グループのかんぽ生命保険は6月27日に、サンプル調査により顧客に不利益となる不正な生命保険の乗換契約が過去5年間に約2万3900件発覚したと発表しました。

・保障の見直し時等におけるお客さま本位の業務運営のさらなる向上について|かんぽ生命

かんぽ不祥事図
(かんぽ生命プレスリリースより)

続いて、7月上旬には、かんぽ生命および保険代理店業務を行っている日本郵便(郵便局)において、これも乗換契約について営業職員の手当やノルマのアップのために顧客に新契約・旧契約双方の保険料を不正に二重払いさせていた事例が2016年4月から約2万2000件発覚しました(日本郵政グループ内では「乗換潜脱」と呼ばれる)。

これを受けてかんぽ生命および日本郵便は7月10日に謝罪の記者会見を行い、顧客に不利益が生じた保険契約は少なくとも約10万件を超える等と説明しました。

・契約乗換に係る今後の取り組みについて|かんぽ生命
・かんぽ生命、ノルマ偏重を見直しへ 植平社長が謝罪|日経新聞

2.不正な乗換契約に対する法規制
保険業法は、営業職員等による保険募集における禁止行為の一つとして不正な乗換契約を規制しています(保険業法300条1項4号)。

保険業法300条1項4号
「保険契約者又は被保険者に対して、不利益となるべき事実を告げずに、既に成立している保険契約を消滅させて新たな保険契約の申込みをさせ、又は新たな保険契約の申込みをさせて既に成立している保険契約を消滅させる行為」

つまり、現在の保険契約を中途で解約させて新しい保険契約に加入させる乗換契約(乗換募集)は、顧客である保険契約者等にとって生活の変化等に応じて保障内容を見直すことができるメリットがある一方で、新しい保険契約に加入することによる予定利率の低下(保険料の上昇)や、被保険者の年齢が上がることによる保険料の増加、被保険者の健康状態によっては新しい保険契約に加入できないおそれなどの大きなデメリットが存在します。

そのため、保険業法は、これらのデメリットすなわち「不利益となるべき事実」を営業職員等が保険契約者等に十分に説明することを求めているのです。

この営業職員等が説明すべき「不利益となるべき事実」に関しては、金融庁のガイドラインである監督指針が例示していますが、そのなかには「被保険者の健康状態の悪化等のため新たな保険契約を締結できないこととなる場合があること」が含まれています(監督指針Ⅱ-4-2-2(7))。

そして営業職員等は、保険契約者等に「不利益となるべき事実」を説明し、顧客が不利益となる事実を理解したことを十分確認しなければならないとされており(監督指針Ⅱ-4-2-2(7))、民間生命保険各社の実務は、契約申込の際に交付する注意喚起情報に不利益となる事実を記載し、証拠として顧客から確認印をいただくことが通常です。

そしてこの保険業法300条1項4号に違反した場合、営業職員等は保険募集人の資格の取消などの行政処分を受ける可能性があります(保険業法307条1項3号)。

この点、6月27日付のかんぽ生命等のプレスリリース「保障の見直し時等におけるお客さま本位の業務運営のさらなる向上について」においては、

「この契約乗換により新しい契約にご加入いただく際は、「新旧比較表」を活用して既契 約と新規契約の保障内容や保険料額、予定利率などを比較説明するとともに、「ご留意事 項」、「注意喚起情報」などの書面により、解約等にともなう不利益事項についてもお客 さまに丁寧にご説明し、十分にご理解いただいた上で、お申し込みいただくこととして おります。」


と説明され、一見、「不利益となるべき事実」がしっかりと営業職員等から説明されていたようにみえます。しかし、民間の一般生命保険会社各社が実務取扱いで行っている確認印の取り付けの記述がないことは、かんぽ生命および代理店の日本郵便の営業職員の実務取扱いにおいては、「新旧比較表」、「ご留意事項」、「注意喚起情報」などの書面を漫然と顧客に手渡しているだけなのではないかとの疑問が生じます。

3.乗換契約の保険料の二重払い(「乗換潜脱」)
つぎに7月上旬には、かんぽ生命および日本郵便において、これも乗換契約について顧客に6か月間、新契約・旧契約双方の保険料を不正に二重払いさせていた事例が2016年4月から約2万2000件発覚しました(「乗換潜脱」)。

この不正な取り扱いは、営業職員の営業手当アップやノルマ達成のために行われたものであって、営業職員は顧客に対して、「新契約の申込後6か月間は、旧契約を解約できない」と虚偽の説明を行っていたそうです(「かんぽ保険料、二重払い2.2万件 手当金や営業実績目当て 解約時期遅らせる 不適切販売問題」西日本新聞2019年7月8日付)。

この点、保険業法は営業職員等の保険募集上の禁止行為の一つとして、虚偽説明の禁止を規定しています(保険業法300条1項1号前段)。すなわち、営業職員等が、「保険契約者又は被保険者に対して、虚偽のことを告げる行為」が禁止されています。

この保険業法300条1項1号違反の者に対しては、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金が科されます(保険業法317条の2第7号)。また、当該違反者は、保険募集人の登録の取消などの行政処分が科されます。さらに、この違反は不祥事件に該当するので、かんぽ生命および日本郵便は総務省および金融庁に対して不祥事件報告書を会社が事実を知ったときから30日以内に提出しなければなりません(保険業法127条)。

4.意向把握義務
現在の一部改正された保険業法は平成28年4月から施行されました。そして、この改正は、金融庁「保険商品・サービスの提供等の在り方に関するワーキング・グループ」での議論を踏まえて作成された報告書「新しい保険商品・サービス及び募集ルールのあり方について」をベースとしています。

同報告書は、「国民が自身のニーズに合った保険を選択し、それぞれが備えるべきリスクに的確に対応することができるためには、保険会社・保険募集人が顧客のニーズを的確に把握し、そのニーズに合った保険商品を勧めるとともに、その保険商品の内容等を適切に説明し顧客が内容について理解・納得をした上で当該保険に加入することが望ましい。」としています。

つまり、従来からの保険会社や営業職員などによる顧客への保険の押し売り販売ではなく、保険に加入しようとしている顧客の意思やニーズを主役とした保険商品の販売という基本的な方針が掲げられているのです。この方針に基づいて、平成28年の保険業法改正においては、営業職員等が顧客に初めてアクセスした段階から、営業職員に顧客のニーズなどを把握させる意向把握義務などが新設されました(保険業法294条の2)。

ひるがえってかんぽ生命・日本郵便の今回の不祥事をみると、乗換契約はゼロからの新規契約に比べて楽だからその分野で営業ノルマ達成や募集手当アップを図るという営業職員側の都合により、既存契約を持つ顧客の意向などどうでもよいと、強引に転換契約が繰り返されたように思われます。これは押し付け営業ではなく顧客のニーズを主役としようとする平成28年の保険業法改正の趣旨に明らかに反しています。

挙句に営業職員の手当の出方がよいからと乗換契約をさせられた顧客に対して6か月分も二重で保険料を支払わせる行為などは、金銭を扱う金融機関としてはあってはならないモラルハザードです。

とくに、強引に顧客に乗換契約をさせたのに新契約の引受審査で健康上の理由で新契約が謝絶となってしまうというケースは、顧客あるいはその遺族に万が一の際の保障を提供することを社会的使命とする生命保険会社としては最悪の、あってはならない不祥事です。そのようなケースが少なくとも1万8千件も発生していることには、正直怒りを感じます。2万2千件も「無保険状態」を発生させていたことも同様です。

このような不自然な数字を前に、かんぽ生命の引受審査部門・保険金支払査定部門や事務企画部門は、経営陣に疑問の声などを上げることはできなかったのでしょうか。かんぽ生命や日本郵便などの社内には内部告発制度(公益通報者保護制度)などは存在しないのでしょうか。

かんぽ生命および日本郵便の経営陣や募集管理統括部門、法務・コンプライアンス部門、内部監査部門は、今一度、平成28年の保険業法改正の趣旨を一から勉強すべきなのではないでしょうか。

5.保険会社の体制整備義務・保険代理店の体制整備義務
(1)保険会社の体制整備義務
上でみたように、保険業法は300条、307条などにおいて、主に営業職員等が保険募集上行ってはならない行為を禁止規範として規定しています。しかしそれだけでなく、同法は100条の2において、保険会社が保険募集において遵守すべき規範を規定しています。これが保険会社全体の体制整備義務(業務運営に関する措置)です。

この保険会社の体制義務は、主に、つぎの3点を確保するための措置です。
①業務に係る重要事項の顧客への説明
②業務に関して取得した顧客に関する情報の適正な取扱
③業務を第三者に委託する場合における当該業務の的確な遂行

そして保険業法施行規則53条の7などがより詳細な規定を置いていますが、今回のかんぽ生命の事件では、情報提供義務に関する体制整備義務につき詳細を規定した監督指針Ⅱ-4-2-2(2)⑩、および、意向把握義務に関する体制整備義務につき詳細を規定した監督指針Ⅱ-4-2-2(3)④のそれぞれが問題となると思われます。

また、「業務を第三者に委託する場合における当該業務の的確な遂行」については、保険業法施行規則53条の11が詳細な規定を置いていますが、そのなかには、「当該業務の委託を受けた者における当該業務の実施状況を、定期的に又は必要に応じて確認すること等により、受託者が当該業務を的確に遂行しているかを検証し、必要に応じて改善させる等、受託者に対する必要かつ適切な監督等を行うための措置」が含まれています(施行規則53条の11第2号)。

(2)保険代理店の体制整備義務
大型乗合代理店の出現などにより、平成28年の保険業法改正において、保険代理店に対しても保険会社と同様の体制整備義務が課せられました(保険業法294条の3)。この保険代理店の体制整備義務は上の①から③までは同様です。

(3)不祥事の規模
この点、今回のかんぽ生命および日本郵便の不祥事においては、不正な乗換契約が過去5年間に約2万3900件発覚し、乗換契約で保険料を不正に二重払いさせていた事例が2016年4月から約2万2000件発覚し、顧客に不利益を与えた契約が約10万件にのぼるというのです。

不正な乗換契約を年ベースにすると、1年間におよそ5000件の新契約が不正な乗換契約により水増しされていたことになります。

1年におよそ5000件の乗換契約に関する不祥事が一つの生命保険会社とその傘下の代理店で発生してきたということは、大変な異常事態です。

かんぽ生命のディスクロージャー資料によると、同社の1年間の新契約の件数の合計は約173万件(18年3月期)であり、およそ1000件に2件の新契約が不正であったことになります。

また、顧客に不利益を与えた契約が約10万件とのことですが、これもディスクロージャー資料によると、かんぽ生命の保有契約件数は約2900万件とのことであり、かんぽ生命の全保有契約のうち、およそ1000件に3件の不正があったことになります。

近年の生命保険業界における不祥事を振り返ると、平成17年頃に大きな社会問題となった、「保険金の不払い問題」においては、明治安田生命が保険金支払において保険約款の「詐欺無効」条項を濫用し、1053件の不正な保険金不払を行ったとして金融庁から業務停止命令・業務改善命令の発出を受けています。過去の保険業界の不祥事の規模と比較しても、かんぽ生命および日本郵便の今回の不祥事は大規模であり悪質です。

このように、全国2万5千か所の日本郵便の郵便局では、少なくとも過去5年以上にわたり顧客への意向把握義務が尽くされておらず、情報提供義務も果たされておらず、本社部門による全国の郵便局の監督は不十分であり、日本郵便の保険代理店の体制整備義務は尽くされていませんでした。

そして、日本郵便に保険募集を委託しているかんぽ生命は、日本郵便の全国の郵便局を監督し、必要に応じて臨検するなどの措置を講じておらず、かんぽ生命も保険会社の体制整備義務を尽くしていません。

今回の日本郵政の不祥事は、上でみた「保険金の不払い問題」を上回る大規模・悪質な不祥事であるように思われます。金融庁および総務省からかんぽ生命・日本郵便に対して、業務停止命令・業務改善命令(保険業法132条)などの厳しい処分が発出されるのではないかと予想されます。

■追記
7月30日の日経新聞などの報道によると、かんぽ生命は顧客に不利益を与えた過去5年間の保険契約の件数を約10万件から18万3千件に修正したとのことです。

・かんぽ、不適切契約の疑い18.3万件に倍増 過去5年分|日経新聞

うえでもふれたとおり、10万件、18万件の不正という数字は、食品や自動車などのメーカー業界のものとしてはままあると思われますが、保険業界、金融業界の不祥事としては空前の、最悪レベルの事故であると思われます。かんぽ生命、日本郵便、日本郵政の経営陣の経営責任が厳しく追及されることは必至です。

あるいは、金融庁および総務省は、従来より郵政民営化により日本郵政グループにおける銀行・保険の業務範囲を徐々に「規制緩和」しつつありましたが、今回発覚したこの不祥事により、その流れは逆転するかもしれません。

■参考文献
・中原健夫・山本啓太・関秀忠・岡本大毅『保険業務のコンプライアンス  第3版』156頁、160頁
・錦野裕宗・稲田行祐『三訂版 保険業法の読み方』65頁







このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

金融庁プレート

1.ソニー生命で詐欺事件
新聞記事などによると、ソニー生命保険の高松支社の営業職員が、個人年金保険等の契約を装い、顧客から合計約1億3000万円を詐取していたことが、2017年4月に発覚したそうです。この詐欺事件は2009年から2017年まで行われ、6人の顧客が被害にあったそうです。この営業職員は、高松支社の第一営業所長であり、16人の営業職員の長の立場であったとのことです。

このような不祥事件が発生した場合、保険会社は顧客に対しても、監督官庁に対しても、迅速な対応が求められます。しかし、ソニー生命はこの詐欺事件を起こした営業職員を事件発覚後も5月まで同営業所長の業務を続けさせ、また同社がこの事件について同社ウェブサイト上でプレスリリースを行ったのは約3か月後の7月18日、お詫びの文書を同社の保険契約者約230万人に郵送したのは9月であったそうです。

そうしたなか、同年9月に広島県でもソニー生命関係者が同様の手口で複数の顧客から数千万円の金銭をだまし取っていたことも発覚しました(2018年1月に逮捕)。同月、金融庁はソニー生命に対する立入検査を開始し、現在も検査中であるそうです。記事によると、金融庁は5月に業務改善命令などの行政処分を発出する予定とのことです。

・金融庁、ソニー生命に立ち入り検査 架空契約被害で「完全歩合制」問題視|産経新聞
・ソニー生命、元所長の1億円超詐取で露呈した残念すぎる体質|週刊ダイヤモンド

2.スピード感が求められる-不祥事件の届出
このように一連の経緯をみると、なぜ今回のソニー生命の不祥事件対応はこんなに遅いのだろうかと疑問を感じます。

上でも記したとおり、このような重大な保険募集上の事故(不祥事件)が発覚した場合、保険会社は迅速な対応を要求されます。つまり、営業職員などが保険会社の業務において詐欺・横領・背任などの犯罪行為があった場合、保険業法300条が定める保険募集上の禁止行為があった場合などを不祥事件と呼びます(保険業法施行規則85条1項17号、5項)。

そして、保険会社において不祥事件が発覚した場合は、①本社管理部門などへの迅速な報告およびコンプライアンス規程に基づいた取締役会等への報告、②刑事法に抵触しているおそれのある事実については警察等の関係機関に通報、③事件とは独立した部署での事件の調査解明の実施、を行い、迅速に金融庁または事件が起きた場所を管轄する財務局に「第一報」を行わなければなりません。

そして、当該保険会社は、不祥事件の発生を知った日から30日以内に不祥事件届出書を金融庁に提出しなければなりません(施行規則85条6項、監督指針Ⅲ-2-15(2)①)。かりに保険会社が不祥事件の届出を怠った場合、100万円以下の過料に処されます(保険業法333条43号)。そして、この届出を受けて、金融庁は必要に応じて報告を徴求し資料の提出を求め(法128条)、今回のように立入検査を行い(法129条)、必要に応じて、業務改善命令・業務停止命令などの行政処分を発出します(法132条以下)。

このように、保険業法などは、保険会社において不祥事件が発覚したら、本社関連部門と取締役会に報告し、事件の発生した部署への調査が開始されたら、迅速に金融庁に第一報を行い、そして発覚から30日以内に事件の概要、関係者の処分、被害者への対応、事件の公表、再発防止策などを記載した不祥事件届出書を金融庁に提出することを求めており、不祥事件を起こした保険会社の関係部署や取締役会にはとにかくスピード感が求められます。にもかかわらず、今回、ソニー生命が非常に緩慢な対応をしているようにみえるのは意外です。

また、今回の事件は典型的な刑事被疑事件であるので、保険会社は警察などに通報するとともに、証拠が隠滅されたり、他の新たな案件が勃発する前に、できるだけ早期の段階で損害の拡大を食い止める措置を講じることが求められます(中原健夫・山本啓太・関秀忠・岡本大毅『保険業務のコンプライアンス 第3版』345頁)。にもかかわらず、記事などによると、ソニー生命は事故を起こした営業職員に事件発覚後も1か月以上も業務を続けさせたそうであり、この点は、金融庁から厳しく説明が求められると思われます。

3.コンプライアンス部門や取締役会は何をしていたのか
(1)コンプライアンス部門が2つあるのだろうか
ソニー生命の、「ディスクロージャー誌 2017」65頁以下の「コンプライアンス態勢」の部分を読むと、取締役会の下部組織の「経営会議」に「コンプライアンス委員会」を置き、「全社的なコンプライアンスを統括する部門として「コンプライアンス統括部」を設置」しているとあります。ところがさらに、「営業活動におけるコンプライアンス態勢の強化を目的として「MCC(マーケットコンダクト・コンプライアンス)委員会」を設置し、営業活動におけるコンプライアンス統括のために「業務管理部」を設置しているとあります。

ソニーコンプラ部図
(ソニー生命「ディスクロージャー誌 2017」65頁より)

率直なところ、一つの生命保険会社に、コンプライアンス委員会が二つあり、その傘下にそれぞれコンプライアンス部門が合計2つ存在するというのは、意外な感があります。コンプライアンス統括部が全社を「ゆるく」統括し、保険募集上の事故が起こりやすい支社や代理店部門などの営業部門は、業務管理部が「厳格に」統括するというのなら、まだわかります。(とはいえ、営業部門以外にも、保険金支払査定部門の事務リスク、情報システム部門におけるシステム上のリスク、全社における個人情報漏洩リスクなど、リスクは全社的に存在するので、これもどうかと思われます。)

しかし今回の約10年にもおよぶ被害額1億円超の保険料詐欺事件と、その発覚後のスローモーな事故対応をみると、ひょっとして、ソニー生命社内では、コンプライアンス統括部が主に本社保険事務部門や管理部門を「厳格に」統括する一方で、業務管理部が、営業現場の専門部門であるがゆえに、現場に対して「甘い」対応をしてしまったのではないでしょうか。

(なお、他の生命保険会社にも「募集管理部」という部署はありますが、営業職員等が保険募集の際に使うパンフレットなどの募集資料の作成やチェックなどを行う部署であることが一般的と思われます。)

(2)コンプライアンス委員会が取締役会に直結していない
また、ソニー生命の、「ディスクロージャー誌 2017」89頁の組織図の各委員会をみると、取締役会に直結している委員会は、コーポレートガバナンス委員会など3つのみで、今回の不祥事件対応で主に活動すべきコンプライアンス委員会およびMCC委員会が、取締役会に直結せず、取締役会の下部組織の経営会議に接続されているのも意外な感があります。また社内のほぼすべての部・支社などは、取締役会でなく、経営会議の下におかれています。

ソニー組織図
(ソニー生命「ディスクロージャー誌 2017」89頁より)

そして、経営会議は、ディスクロージャー誌によると、取締役会から選任された執行役員で構成された会議と記載されています。もちろん、代表取締役社長らもこの経営会議のメンバーとなっていますが、多くの執行役員は取締役ではなく従業員のようです。

取締役会は、それぞれの取締役の職務の執行の監督を行い(会社法362条2項2号)、社内を上から下に監督することにより、社内に違法や不正がないかチェックしコントロールしています。しかし、取締役会と経営会議という二重の組織構造をとることにより、取締役会による社内の監督が阻害されていたのではないかというおそれがあります。

このような本社経営部門の二重の組織構造と、コンプライアンス委員会・コンプライアンス部門が2つ存在するということも、今回のような本来、危急の対応を行わなければならない大事件において、ソニー生命が会社として迅速で機動的な運営が行えなかった要因であったかもしれません。

4.まとめ
保険業法は主に法300条で保険募集上の禁止事項を列挙し、個々の営業職員に対して、保険募集上のルールを定めています。そしてさらに、法100条の2は、「保険会社は、その業務に関し、(略)当該業務の的確な遂行その他の健全かつ適切な運営を確保するための措置を講じなければならない」と規定し、法人としての保険会社に、「業務運営のための体制整備義務」を課しています。

今回の不祥事件においては、詐欺をはたらいた営業職員が悪いのはもちろんですが、しかしそれを防止あるいは早期に発見できず、事故が発覚しても迅速な対応を行えなかったソニー生命全体、とくに経営陣と管理部門の体制整備義務違反の程度は軽くないと思われます。

■参考文献
・中原健夫・山本啓太・関秀忠・岡本大毅『保険業務のコンプライアンス 第3版』340頁、345頁

■関連するブログ記事
・ジブラルタ生命の営業職員が契約を偽り顧客から約2億円を詐取/営業職員の契約締結権・告知受領権

保険業務のコンプライアンス(第3版)

保険法(上)

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

↑このページのトップヘ