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1.老人ホームなどで施設職員が入居者に「誕生日おめでとうございます」と声を掛けることは許されない?
5月20日付でYahoo!ニュースに、「「誕生日おめでとうございます」は禁止? 過剰な「高齢者の個人情報保護」がもたらすデメリット|オトナンサー」という興味深い記事が掲載されていました。この記事によると、個人情報保護法を遵守する目的で、施設職員が入居者に「誕生日おめでとうございます」と声を掛けるのを禁じている高齢者住宅や高齢者施設があるとのことです。これはいわゆる「個人情報保護法の過剰反応」と呼ばれる問題ですが、これはなかなかまずい問題だなと思いました。

2.個人情報保護委員会・厚労省の個人情報保護法ガイドラインQA
この点、例えば個人情報保護委員会(PPC)の個人情報保護法ガイドラインQA1-35を見ると、「Q1-35 障害福祉サービス事業者等において個人情報を取り扱う際に、留意すべきことはありますか。 」というQに対して、「施設利用者の特性に応じて、個人情報の取扱いについて分かりやすい説明を行うことが望ましい」等の趣旨のAが解説されているだけで、別に福祉施設等に対して一律に利用者本人の氏名・生年月日などを声にだすことを禁止する等のことは記載されていません。

QA1-35
(PPCの個人情報保護法ガイドラインQA1-35より)

あるいは個人情報保護委員会・厚労省の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」 に関するQ&A(事例集)」の各論3-10は、「外来患者を氏名で呼び出したり、病室における入院患者の氏名を掲示したりする場合の留意点は何ですか。(後略)」というQに対して、「患者から、他の患者に聞こえるような氏名による呼び出しをやめて欲しい旨の要望があった場合には、医療機関は、誠実に対応する必要がある」とのAを解説していますが、一律に氏名で呼び出すことは禁止などとはしていません。

3-10
(医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンスQA各論3-10より)

このように個人情報保護委員会や厚労省のQAを見てみると、やはり冒頭の記事にあった、施設職員が入居者に「誕生日おめでとうございます」と声を掛けるのを禁じている高齢者住宅や高齢者施設があるということは過剰な対応であり、望ましくないと思われます。

3.個人情報保護法の立法目的
なお、個人情報保護法の立法目的については日本の多数説的な見解は自己情報コントロール権としますが、その伝統的な見解は、その立法目的の核心部分は個人の思想・信条や内心などが保護されるべきものであると考えています。この考え方からは老人ホームなどの福祉施設や医療機関などで誕生日や氏名などを呼ぶことは一律禁止にすることは「個人情報保護法の過剰反応」であり的外れであると思われます。

あるいは、産業技術総合研究所主任研究員の高木浩光先生などは近年、個人情報保護法の立法目的はAIやコンピュータの「個人データによる人間の選別」の防止であるとの見解(つまり個人情報保護法が真に保護しようとしているのは「個人」であって、「氏名・住所・生年月日」などの個人情報ではない)を主張されておられますが、この見解にたてば、福祉施設や医療機関などで利用者本人の氏名や誕生日などを声に出すことを一律に禁止することなどは、これも完全に的外れになると思われます。

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