なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

タグ:個人情報

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2024年7月8日付で東京都が「個人情報の漏えい」というプレスリリースを出しています。
・個人情報の漏えい|東京都

本リリースを読むと、「東京都産業労働局(委託元)と公益財団法人東京しごと財団(委託先)は、「シニア中小企業サポート人材プログラム」という再就職のためのプログラムを実施しているところ、このプログラムの希望者56名について、本来、個人が特定されないよう匿名加工を施した人材情報を提供すべきところ、個人が特定できる内部保存用のファイルを、488社に対しEメールで誤って送付した。」というのが本個人情報漏洩事故の概要のようです。

ところが本リリースの「漏洩した個人情報」の部分を読むと、つぎのようになっています。

3 漏えいした個人情報
本来送信予定の項目
「希望職種」「希望条件」「主な職歴」「資格、自己PR」「最寄駅」

実際に送信してしまった項目
上記に加え、「漢字氏名」「年齢」「性別」
漏洩した個人情報

・・・これは「匿名加工情報」(個人情報保護法2条6項)の問題なのでしょうか?つまり、東京都産業労働局および東京しごと財団は、個人情報の生データ(「希望職種」「希望条件」「主な職歴」「資格、自己PR」「最寄駅」)から氏名・年齢・性別などを除外しただけのデータを「匿名加工」した個人情報ではないデータと認識しているということなのでしょうか?(もしそうであるなら、東京都産業労働局および東京しごと財団における情報管理が心配です。)

そこで東京都産業労働局および東京しごと財団に電話で質問してみたところ、おおむね次のような回答でした。

〇「Excelで人材情報を管理しているところ、「希望職種」「希望条件」「主な職歴」「資格、自己PR」「最寄駅」などのデータから、氏名・年齢・性別を除外したデータなので「匿名加工」とプレスリリースに標記した。」

〇「ただしこれらの情報を求人企業に第三者提供するにあたっては、求職者の本人同意は得ている。」

〇「「匿名加工」という記載が妥当ではないとのご意見に関しては、貴重なご意見としてうけたまわる。」

いうまでもなく個人情報保護法上の「匿名加工情報」は、「次の各号に掲げる個人情報の区分に応じて当該各号に定める措置を講じて特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報であって、当該個人情報を復元することができないようにしたものをいう。」(法2条6項)であり、個人データの生データのデータセットから氏名・住所などを削除しただけでは匿名加工情報とはいえず、このデータは以前として個人情報・個人データです。

本プレスリリースによると、東京都産業労働局は再発防止策として、「個人情報の適切な取扱い及びメール送信内容のダブルチェックを改めて徹底する。」「産業労働局における、委託業務を含めた個人情報の適切な管理について、改めて注意喚起を行った。」の2点をあげていますが、まずは東京都産業労働局および東京しごと財団における個人情報保護法の再教育を実施したほうがよいのではと思いました。

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デジタル認証アプリトップページ
1.デジタル庁のデジタル認証アプリのパブコメ結果が公開される
デジタル庁のデジタル認証アプリについてはこのブログで何回か取り上げていますが、そのパブコメ結果が公表されているので読んでみました。つぎのパブコメ意見13番は私が送った意見とその回答です。
・「電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律施行規則の一部を改正する命令案」に係る意見募集の結果について|e-Gov

パブコメ結果1
パブコメ結果2
パブコメ意見13番のデジタル庁の回答
デジタル認証アプリにおいては、個人情報を取り扱う場合、個人情報保護法に基づき適切に取り扱い対応します。シリアル電子証明書の発行番号をもとに、氏名等の4情報を照会することは、目的外利用に当たるため行うことができません。
また、デジタル庁がデジタル認証アプリを提供する際には、改正案の第29条第2項に基づき、セキュリティに関してプラットフォーム事業者と同等の基準を遵守する必要があります。
なお、デジタル庁を含む署名検証者については、電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律(以下「公的個人認証法」といいます。)第52条及び第53条において、シリアル番号を含む、地方公共団体情報システム機構から受領した電子証明書失効情報等について確認以外の目的での利用・提供が禁止されております。


2.「基本4情報は個人情報保護法上、目的外利用しない」
公的個人認証法の施行規則の一部改正で、デジタル庁が署名検証者になると個人の官民の各種サービスの利用履歴が一元管理され、国による名寄せやプロファイリング等の危険があるのでは?との趣旨の意見を私は送りました。しかし、デジタル庁の回答は「基本4情報は個人情報保護法上、目的外利用しない」だけです。

名寄せやプロファイリングの危険の対象は氏名・住所などの基本4情報というよりは官民の各種サービスの利用履歴であるわけですが、これら基本4情報以外の利用履歴等の情報の問題についてはデジタル庁は答えていないのは肩透かしであるように思えます。

3.公的個人認証法52条、53条の「電子証明書失効情報等」
また、パブコメ回答は公的個人認証法52条、53条が「電子証明書失効情報等」についても認証業務以外の利用が禁止されている旨を書いていますが、電子証明書失効情報等は同法の条文を読む限り、電子証明書が失効しているかどうかの情報であって、個人の官民の各種サービスの利用履歴の問題には関係ないように思われます。ここも肩透かしの回答のように思われます。

4.法律による行政の原則
さらに、デジタル庁が署名検証者になるという国民のプライバシーリスクのある今回の重大な制度改正について、国会による法律でなく施行規則(行政の内部規則)の一部改正だけで対応することは、「法律による行政の原則」(=国会による行政の民主的コントロール、憲法 41 条、65 条、 76 条)に反するとも私はパブコメ意見を書きました。しかし、この点は完全にゼロ回答となっています。

この点に関しては、デジタル庁に憲法・行政法をわかっている職員の方がいないのだろうかと、やや心配です。(デジタル庁の役職員の方々は、自分達を行政ではなく民間IT企業と勘違いしているのではないかと心配になることがあります。)

5.デジタル認証アプリのプライバシーポリシー
なお、デジタル庁は「基本4情報は個人情報保護法上、目的外利用しない」と回答しているので、デジタル認証アプリの利用目的をみるためにデジタル認証アプリのプライバシーポリシーを見てみると、「2. 取得する情報の範囲及び利用目的」の2項が「デジタル認証アプリサービスは、行政機関等又は民間事業者の依頼を受け、マイナンバーカードの読み取り等又は検証等を行い、当該読み取り等又は当該検証等に係る情報を当該行政機関等又は当該民間事業者(以下「委託者」という。)に連携するに当たり、利用者証明用電子証明書のシリアル番号、委託者、依頼に係るサービス、検証等の結果又は検証等若しくは連携等の日時を記録します。保有する当該記録は、デジタル認証アプリサービスの運用のために必要がある場合のみ利用します。」と規定しています。

プラポリ
すなわち、「シリアル番号、委託者、依頼に係るサービス、検証等の結果又は検証等若しくは連携等の日時」などの利用履歴に関する情報については、「デジタル認証アプリサービスの運用のために必要がある場合のみ利用します。」と規定されています。

そのため、デジタル認証アプリによりデジタル庁のサーバーに蓄積・保存された国民個人のさまざまな官民のサービスの利用履歴を政府(デジタル庁)が不当に名寄せ・プロファイリングなどしてしまうのではないかとのプライバシーリスクの問題については、デジタル認証アプリのプライバシーポリシーで一応対応がなされているように思われます。(しかしこのような重大な問題を、法律でなくプライバシーポリシー・レベルで対応してよいのか?という問題は依然として残るように思われます。)

ただし、デジタル認証アプリのプライバシーポリシーの「3. 利用及び提供の制限」は、「デジタル庁は、法令に基づく場合を除き、デジタル認証アプリサービスにおいて保有する情報を前条の利用目的以外の目的のために自ら利用し、又は第三者に提供いたしません。」と規定しており、「法令に基づく場合」にはデジタル庁が保有する各種の利用履歴が政府の各部門に利用やされる余地が残されている点は、やや心配です。

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こども家庭庁トップ画面

日本版DBS(こども性暴力防止法案)の導入の議論が国会で始まりました。この制度については刑法上の論点(刑法34条の2との整合性等)、憲法上の論点(職業選択の自由・営業の自由(憲法22条、29条)、プライバシー権(13条)等)などがありますが、このブログ記事では、個人情報保護法上の論点について見てみたいと思います。

まず犯罪歴は社会的な差別のおそれがあるため要配慮個人情報(個情法2条3項)の一つに分類されており、犯罪歴や前科などの情報の収集には原則として本人の同意が要求される等、厳格な取扱いが求められています(個情法20条2項)。

そして、個情法124条1項は行政機関等に対する本人からの個人情報の開示請求につき、犯罪歴等を対象外と規定しています。

個人情報保護法
(適用除外等)
第124条 第四節の規定は、刑事事件若しくは少年の保護事件に係る裁判、検察官、検察事務官若しくは司法警察職員が行う処分、刑若しくは保護処分の執行、更生緊急保護又は恩赦に係る保有個人情報(当該裁判、処分若しくは執行を受けた者、更生緊急保護の申出をした者又は恩赦の上申があった者に係るものに限る。)については、適用しない。

この条文は、雇用主が採用予定者の前科の有無等をチェックする目的で、本人に開示請求をさせる等の、本人の社会復帰や更生の阻害を避ける趣旨であるとされており、旧・行政機関個人情報保護法45条1項を承継するものです(岡村久道『個人情報保護法 第4版』554頁、宇賀克也『新・個人情報保護法の逐条解説』715頁)。つまり、個情法124条1項はまさに日本版DBS制度のようなことが行われることを防止している条文なのです。

このように、個人情報保護法には、犯罪歴等のある従業員等の更生のために、雇用主による従業員等の前科等のチェックが行われることを防止する条文が存在します(法124条1項)。その観点からも、政府や国会は、日本版DBSについて慎重な検討を行うべきです。

(なお、同様のことは、これも国会で法案が成立した、セキュリティ・クリアランス制度についても言えるのではないかと思われます。)

いうまでもなく子どもに対する性犯罪は許しがたい犯罪です。子どもに対する性犯罪の防止は重要です。しかし、政府が政策を実施するためには、日本が近代立憲主義の法治国家である以上、犯罪防止や被害者の権利利益の保護と、過去に性犯罪を犯した者の権利利益とのバランスが必要となります。

政府与党は「被害者がかわいそう」と感情的に思考停止するのではなく、日本版DBS制度が過去に性犯罪を犯した者の社会復帰や更生にどのような影響を与えるのか、その影響にどのような歯止めをかけるのか(比例原則に応じた犯罪歴の保存期間・照会可能期間の限定、犯罪歴を参照できる事業者等の制限、本人からの開示・訂正・削除請求など本人関与の仕組み、目的外利用の禁止、安全管理措置)等について、もう少し慎重に議論をすべきではないでしょうか。国会でもこの点を十分に議論してほしいと思います。情報法・行政法・憲法などの学者の先生方も社会に情報発信していただきたいと思います。

■参考文献
・高平奇恵「日本版DBSの課題と展望」『法学セミナー』2024年3月号52頁
・岡村久道『個人情報保護法 第4版』554頁
・宇賀克也『新・個人情報保護法の逐条解説』715頁
・「日本版DBS」についてぜひ考えてほしいこと|園田寿

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1.4月3日の個人情報保護委員会の議論

個人情報保護委員会では現在、個人情報保護法の「いわゆる3年ごと見直し規定に基づく検討」、つまり次の個人情報保護法改正に向けた検討が行われています。そして2024年4月3日の同委員会では、AIと医療関係に関する有識者ヒアリングが行われたそうです。

・第279回個人情報保護委員会|個人情報保護委員会

そして同委員会では、医療データの取扱いについて患者の本人の同意を原則不要とする方向の議論が行われたようですが、私個人はこの方向性に反対です。

すなわち、4月3日の個人情報保護委員会の有識者ヒアリングにおける森田朗・名誉教授の資料「医療情報の利活用の促進と個人情報保護」には、医療関係において一時利用(=治療)の場合の患者の本人の同意を不要とし、二次利用(=製薬会社やIT企業などによる二次利用)の場合にも本人の同意を不要とする(ただしオプトアウトについては要検討)となっています。

森田氏資料の図
(4月3日の個人情報保護委員会資料より)

現行の個人情報保護法は目的外利用の場合、第三者提供の場合、要配慮個人情報の取得の場合、には本人の同意が必要と規定しています(法18条、20条2項、27条1項)。また、厚労省・個人情報保護委員会の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」も、これらの場合には患者の「黙示の同意」が必要であるとしています。そのため、現在、個情委など政府で議論されていることは、仮に実現した場合、従来の個人情報保護法制の基本的なルールの大きな転換をもたらすものです。

2.プライバシーや個人情報保護法(個人データ保護法)の趣旨・目的

憲法・情報法学上、学説や下級審判例においては、プライバシーや個人情報保護法(個人データ保護法)の趣旨・目的を「個人の私生活上の事項の秘匿の権利を超えて、より積極的に公権力による個人情報の管理システムに対して、個人に開示請求、修正・削除請求、利用停止請求といった権利行使が認められるべきである」とする自己情報コントロール権(情報自己決定権)説が学説上の通説とされています。

近年、曽我部真裕教授、音無知展教授などによる「自己の情報を適切に取扱われる権利」説が有力に唱えられ、また情報技術者の高木浩光氏の「関連性のないデータによる個人の選別を防止する権利」説なども主張されていますが、現状では自己情報コントロール権(情報自己決定権)説が学説上の通説であると思われます(渡辺康行・宍戸常寿・松本和彦・工藤達朗『憲法Ⅰ基本権』120頁、曽我部真裕など『情報法概説 第2版』209頁、宍戸常寿等『憲法学読本』93頁、村上康二郎「情報プライバシー権の類型化に向けた一考察」(2023年12月)など)。

「自己の情報を適切に取扱われる権利」説からは、個人の個人情報・個人データが官民の情報システムで「適切」に取扱われている限りは、個人の側は官民の情報システムの管理者・運営者に対して何も言えないことになってしまいますが、自己情報コントロール権説からは、個人の人格的自律や自己決定権の観点から情報システムの管理者に対して自己の情報に対して申出ができることになります。日本が個人の人格的自律を基本とする自由主義・民主主義国家(憲法1条、13条)である以上、現状では自己情報コントロール権説(または自己情報コントロール権と「自己の情報を適切に取扱われる権利」との折衷説(村上康二郎))が現状では妥当であるように思われます。

そして自己情報コントロール権説からは、個人情報保護法が目的外利用や第三者提供をする場合、医療データなどの要配慮個人情報を収集する場合において、事業者や行政機関等が患者などの本人の同意を取得することが必要と規定されていることは当然のことと考えられます。

そのため、この目的外利用や第三者提供をする場合、医療データなどの要配慮個人情報を収集する場合に本人の同意の取得を不要とする森田朗名誉教授などの主張は自己情報コントロール権説に反し、つまり個人情報保護法(個人データ保護法)の趣旨・目的に反していることになります。

また、法律論を離れても、たとえば4月3日の個人情報保護委員会の有識者ヒアリングでは、横野恵准教授の「医療・医学系研究における個人情報の保護と利活用」との資料13頁の「ゲノムデータの利活用と信頼」においては、一般大衆の考えとして、ゲノムデータの利活用に関する「信頼の醸成に寄与する要素」の2番目に「オプトアウト制度」があがっています(“Public Attitudes for Genomic Policy Brief: Trust and Trustworthiness.” )。

横田氏資料
(4月3日の個人情報保護委員会資料より)

したがって、医療データの利用等に関して、患者の本人の同意やオプトアウト制度を廃止する考え方は、一般国民の支持を得られないのではないでしょうか。

3.すべての国民個人は医療に貢献すべきなのか?

森田名誉教授など、医療データの製薬会社やIT企業などによる利活用を推進する立場の人々は、「日本国民はすべて医療データを製薬会社などに提供し、医療や社会に貢献すべきだ」との考え方を前提としているように思われます。

たしかに患者が医療に貢献することは一般論としては「善」かもしれません。しかし上でも見たように、日本は個人の自由意思を原則とする自由主義・民主主義国です(憲法1条、13条)。患者個人が医療や社会に貢献すべきか否かは個人のモラルにゆだねるべき問題であり、ことさら法律で強制する問題ではないはずです。すなわち、患者の医療への貢献などは、自由主義社会においては自由な討論・議論によって検討されるべきものであり、最終的には個人の内心や自己決定にゆだねられるべきものです(憲法19条、13条)。

「日本国民はすべて医療データを製薬会社などに提供し、医療や社会に貢献すべきだ」「そのような考え方を個人情報保護法の改正や新法を制定し、国民に強制すべきだ」との考え方は、中国やロシアなど全体主義・国家主義国家の考え方であり、自由主義・民主主義国家の日本にはなじまないものではないでしょうか。

また、患者の疾病・傷害にはさまざまなものがあります。風邪などの軽い疾病のデータについては、製薬会社などに提供することを拒む国民は少ないかもしれません。しかし、がんやHIVなど社会的差別のおそれのある疾病や、精神疾患など患者個人の内心にもかかわる疾病など、疾病・傷害にはさまざまな種類があります。それをすべて統一的に本人同意を不要とする政府の議論は乱暴なのではないでしょうか。

4.まとめ

したがって、憲法の立憲主義に係る基本的な考え方からも、医療データの一時利用・二次利用について患者の本人の同意を原則として不要とする議論は、個人情報保護法の趣旨・目的に反しているだけでなく、わが国の憲法の趣旨にも反しているのではないでしょうか。以上のような理由から、私は医療データの一時利用・二次利用について患者の本人の同意を原則として不要とする個人情報保護委員会や政府の議論には反対です。

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■関連するブログ記事
・政府の検討会議で健康・医療データについて患者の本人同意なしに二次利用を認める方向で検討がなされていることに反対する

■参考文献
・渡辺康行・宍戸常寿・松本和彦・工藤達朗『憲法Ⅰ基本権』120頁
・宍戸常寿など『憲法学読本』93頁
・曽我部真裕など『情報法概説 第2版』209頁
・駒村圭吾『Liberty2.0』187頁(成原慧執筆)
・村上康二郎「情報プライバシー権の類型化に向けた一考察」(2023年12月)

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1.はじめに

個人情報保護委員会が令和6年4月10日付で公表している「個人情報保護法いわゆる3年ごと見直し規定に基づく検討(個人の権利利益のより実質的な保護の在り方②)」の資料を読んでみました。今回の資料は、①子どもの個人情報、②消費者団体訴訟制度、の2点を取り上げています。

2.子どもの個人情報

本資料1頁は、まず「現行の個人情報保護法上、子どもの個人情報の取扱い等に係る明文の規定はない」とした上で、個人情報保護法ガイドライン(通則編)2-16および個人情報保護法ガイドラインQA1-62が、「「本人の同意」を得ることが求められる場面(目的外利用、要配慮個人情報の取得、第三者提供等)について、以下のとおり、「一般的には12歳から15歳までの年齢以下の子どもの場合には法定代理人等から同意を得る必要がある」とされている」と説明しています。

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つぎに本資料は、児童の権利条約(1989年)やデジタル環境下のこどもに関するOECD勧告(2021年)が、子どものプライバシーやデータ保護が重要であると規定していると説明しています。

また、本資料3頁以下は、子どもの個人情報に関する外国制度として、EU、イギリス、アメリカ、中国、韓国、インド、インドネシア、ブラジル、カナダ等の法制度を概観しており、「子どもの個人情報等をセンシティブ情報又はセンシティブデータと分類した上で特別な規律の対象とするケース」や「子どもの個人情報に特有の規律を設けるケース」が多いと分析しています。

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さらに本資料8頁以下は、子どもの個人情報に関する外国における主な執行事例として、InstagramやTikTok、YouTubeなどの事例をあげています。

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加えて本資料10頁は、日本における子どもの個人情報に関する社会的反響の大きかった事例として、①全寮制の学校Aが、全生徒にウェアラブル端末を購入してもらい、心拍数、 血圧、睡眠時間等の個人データを収集しようとした事件(広島叡智学園事件(2018年))、②学校Bで、生徒の手首につけた端末で脈拍を計測し、授業中の集中度を測定する実証研究を行った事件(市立鷲宮中学校事件(2021年))の概要が紹介されています。

また、子どもの個人情報に関連して個人情報保護法に基づく行政上の対応が行われた事例として、四谷大塚事件(2024年2月)の概要が紹介されています。

ppc6

なお本資料12頁は、「個人情報保護法相談ダイヤルにおける子どもの個人情報等に係る相談事例等」として、頻度の多い相談事例や、その他の相談事例等をあげていますが、とくに「事例C 事業者がパンフレットに児童の個人情報を掲載しているが、当該掲載について児童から口頭で同意をとったのみであり、親には何らの連絡もなかった」事例や、「事例D 未成年の娘あてに事業者からDMが届いた。発送先の事業者に確認したところ、名簿販売業者から娘の情報を取得したうえで営業をかけているようであった」という事例、「事例G 事業者が保有する児童の個人情報について、親が開示・削除等の請求をしているにもかかわらず、なかなか応じてくれない」事例、などを読むと、やはり子どもの個人情報の法規制は待ったなしだと思われます。

ppc7

3.消費者団体訴訟制度

本資料15頁は、適格消費者団体は、「不当な勧誘」、「不当な契約条項」、「不当な表示」などの事業者の不当な行為をやめるよう求めることができるとし、「事業者が不特定かつ多数の消費者に対して消費者契約法等に違反する不当な行為を行っている、又は、行うおそれのあるとき」には差止請求を行うことができると説明しています。この「消費者契約法等」には消費者契約法のほか、景品表示法、特定商取引法、食品表示法が規定されていると説明されています。(個人情報保護法はまだ規定されていない。)

また本資料17頁は、団体訴訟の差止請求に関連し、「個人情報に係る本人が不特定かつ多数と評価しえる事例に係る個人情報保護法に基づくこれまでの主な行政上の対応」として、Facebook事件(平成30年10月)、JapanTaxi事件(平成30年11月、令和元年9月)、リクルート内定辞退率予測データ事件(2019年)、破産者マップ事件(令和4年)、ビジネスプランニング事件(令和6年1月)の概要をあげています。

ppc8
ppc9

さらに本資料21頁は、「不法行為の成否と個人情報保護法の関係」として、令和5年の顔識別機能付き防犯カメラ報告書からつぎのように一部を抜粋しています。

『「不法行為法と個人情報保護法はその目的や性格に異なる部分があることから、不法行為が成立する場合、同時に個人情報保護法違反となる場合もあり得るが、不法行為が成立したからといって必ずしも個人情報保護法違反となるわけではない。」
不法行為の成否を評価するに当たり考慮される要素は、個人情報保護法上も不適正利用の禁止規定(法第19条)や適正取得規定(法第20条第1項)の解釈などにおいて、考慮すべきであると考えられる。
(出典)「犯罪予防や安全確保のための顔識別機能付きカメラシステムの利用について」(令和5年3月)から引用。』
「不法行為の成立=個人情報保護法違反ではない」としつつも、「不法行為の成否を評価するに当たり考慮される要素は、個人情報保護法上も不適正利用の禁止規定(法第19条)や適正取得規定(法第20条第1項)の解釈などにおいて、考慮すべきであると考えられる。」と個人情報保護委員会がしていることは、個情委が今後、不適性利用禁止条項を積極的に発動する可能性があるのではないでしょうか。個人的には個情委のこの取組みに期待したいです。

また本資料21頁は、個人情報の取扱いにおいて損害賠償責任が問題となった主な事例として、早大名簿提出事件(最高裁平成15年9月12日判決)とベネッセ個人情報漏洩事件(最高裁平成29年10月23日判決)をあげています。

ppc10

ベネッセ個人情報漏洩事件はおよそ3500万件もの個人情報が漏洩した事件ですが、このように被害者が不特定かつ多数の個人情報漏洩事件について、消費者団体訴訟における損害賠償請求ができるようになることは、被害者救済の観点から重要であると思われます。また、団体訴訟制度の個人情報保護法への導入は、事業者の実務への影響は非常に大きいと思われます。

■関連するブログ記事
・PPCの「個人情報保護法いわゆる3年ごと見直し規定に基づく検討」(2023年11月)を読んでみた
・個情委の「個人情報保護法いわゆる3年ごと見直し規定に基づく検討(個人の権利利益のより実質的な保護の在り方①)」を読んでみた
・埼玉県の公立中学校の「集中しない生徒をリアルタイムで把握」するシステムを個人情報保護法や憲法から考えた
・戸田市の教育データを利用したAI「不登校予測モデル」構築実証事業を考えた-データによる個人の選別

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