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タグ:傷害保険

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1.生命保険会社の保険(災害割増特約・傷害保険・災害入院特約など)
新型肺炎・新型コロナウイルス(COVID-19)も疾病・病気の一つであるため、被保険者の方が新型肺炎で病院に入院したり、死亡された場合は、免責条項に抵触していない限り、疾病入院給付金や一般の死亡保険金は支払いとなると思われます。

一方、少し前までの生命保険各社の終身保険などには、交通事故など事故を原因とした被保険者の方の死亡に対して割増の保障を提供する災害割増特約を販売されていました。また、傷害特約、災害入院特約なども、事故を原因とした入院などに対して保険金・給付金を支払う保険は現在も広く販売されています。

ところで、これらの災害割増特約など災害系の保険は、新型肺炎を原因とした入院・死亡などにおいて保険金・給付金が支払われるのかが問題となります。

2.災害系の保険・特約の支払事由・「対象となる感染症」
この点、例えば日本生命保険の「新傷害特約(H11)」の約款をみると、災害死亡保険金の支払事由は、「つぎのいずれかを直接の原因として(略)被保険者(略)がこの特約の保険期間中に死亡したとき」とされ、「②責任開始時以後に発病した感染症(別表11)」と規定されています。

そして、「別表11」はつぎのようになっています。

疾病傷害死亡分類提要
(日本生命保険サイトより)

つまり、感染症を原因とする死亡であっても、一定のものは災害保険金の支払い対象となるが、その感染症は、別表に掲げられている疾病のどれかである必要があります(厚労省の「疾病、傷害および死因統計分類提要ICD-10」により限定列挙されている)。

そして、別表11の感染症には、今回の新型肺炎に関連しそうなものとしては、「重症急性呼吸器症候群(SARS) U04」が含まれていますが、「(ただし、病原体がコロナウイルス属SARSコロナウイルスであるものに限ります。)」とのただし書があります。

また、厚労省はWHOが新型肺炎のICD-10上の分類等を、「2019 年新型コロナウイルス急性呼吸器疾患 U07.1」としたことを周知する通達をだしています。これを読むと、今回の新型肺炎と以前のSARSとは、感染症として別のものとなっています。

・世界保健機関(WHO)による新型コロナウイルスに関する「疾病、傷害及び死因の統計分類第10版(ICD-10)」における対応について|日本神経学会

3.まとめ
したがって、新型肺炎は生命保険各社の災害割増特約・傷害特約・災害入院特約などにおいては、保険金・給付金の支払い対象外となるように思われます。

*なお、保険会社各社で約款などの規定が異なることや、社内規定などが異なりますので、保険契約者・被保険者等の方は、加入なさっておられる保険会社にご相談をお願いいたします。

■関連するブログ記事
・傷害保険/ダニにかまれてダニ媒介性脳炎で死亡した場合に保険金は支払われるか?

■参考文献
・日本生命保険『生命保険の法務と実務 第3版』238頁、245頁

生命保険の法務と実務 【第3版】

生命・傷害疾病保険法の基礎知識

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爆発事故現場
(毎日新聞2018年12月17日付より)

新聞報道などによると、昨日(12月16日)夜に札幌市豊平区3条8丁目の複数の店舗の入った2階建ての建物で大規模な爆発・炎上が発生し、40人を超える方々がケガを負ったとのことです。

ところで、その事故原因は、

「不動産仲介会社の従業員2人は16日、店内の片付けをしていて、室内で100本以上の除菌消臭スプレーを放出した後、手を洗おうとして湯沸かし器をつけた際に爆発した」(朝日新聞2018年12月17日付)

ということで、驚きというか呆れてしまいます。
・100本以上スプレー放出、湯沸かし器つけ爆発か 札幌|朝日新聞

ネットのニュースなどをみていると、どうもこの不動産仲介業者は業界大手のアパ〇ンショップの豊平支店だそうですが、ア〇マンショップは従業員に対して一体どういう社内教育をやっているのでしょうか?

・アパマンショップ親会社の株価急落 従業員の「スプレー缶穴開け」が札幌爆発事故の原因か|ITmedia

今回、被害にあった居酒屋店や整骨店は、おそらく火災保険の一種である店舗総合保険に加入しているものと思われます。火災保険は火災だけでなく、「破裂・爆発」による損害も保障の対象としているので、建物の被害にあった居酒屋店や整骨院はその損害賠償を損害保険会社に請求することができます。あるいは、居酒屋店や整骨院は直接、アパ〇ンショップに対して損害賠償請求を行うことができます(民法709条、715条)。

また、今回の事故でケガを負った40名以上の方々は、生損保の身体に関する保険(傷害保険・医療保険など)に加入していれば、今回の事故は不慮の事故を原因とするものとして、入院や手術をした場合、給付金の支払い対象となるでしょう。同様に、被害にあった方々は直接、アパ〇ンショップに対して損害賠償請求を行うことができます。

こういったアパ〇ンショップに対する損害賠償の合計金額は、場合によっては何十億円単位くらいのレベルになるのではないでしょうか。レピュテーション上の損害はその何十倍、何百倍もあるでしょう。

一方、アパ〇ンショップ豊平支店の従業員2名は、店舗のなかで100本を超える消臭スプレーを放出し、湯沸かし器を点火したところ引火して爆発したとのことで、これは火災保険の保険約款の免責条項のなかの「保険契約者の重過失」に該当するものと思われます。アパ〇ンショップ豊平支店も火災保険に加入しているものと思われますが、約款の免責条項により損害保険金は支払われないでしょう。

同様に、爆発事故を起こした従業員2名も、「被保険者の重過失」の約款の免責条項により、傷害保険や医療保険の給付金は支払われないものと思われます。

同時に、このような常軌を逸した大失態の爆発事故を起こした2名の従業員と支店長のクビも雇用契約的に吹っ飛ぶのではないでしょうか。爆発・炎上事故だけに。アパ〇ンショップの運営会社の株価は本日、この事故を受けて急落したようですし。

なお、事件から約1日たった17日夜になっても、アパ〇ンショップ本社が記者会見やプレスリリースの発表などを行わないことは、コンプライアンスや会社の危機管理の観点からいかがなものかと思われます。

■追記
アパマンショップの運営会社APAMANは、18日に謝罪の記者会見をするとともにプレスリリースを発表しました。

・札幌市豊平区の爆発事故に関するお詫びとお知らせ|APAMAN

損害保険の法務と実務(第2版)

実例解説 企業不祥事対応: これだけは知っておきたい法律実務

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1.はじめに
プロの総合格闘技選手が激しい練習により捻挫などを受傷したとして約2年間で合計393日分もの過大な通院給付金の支払いを求めたというなかなかマニアックな裁判例が最近出されていました。これは典型的なモラルリスク事案であるといえます(保険金の不正請求事案)。結論として判決は「不慮の事故」に該当しないとして、選手側の通院給付金の支払いの主張を退けています(東京地裁平成29年4月24日判決、『自保ジャーナル』2000号140頁、土岐孝宏『法学セミナー』2018年7月号119頁)。

2.東京地裁平成29年4月24日判決(棄却)
(1)事案の概要
(a)共済契約の内容・約款条項
プロの総合格闘技選手のXは30歳台の男性であり、平成8年にY1共済との間で生命共済契約を締結し、また、Y2生活協同組合との間でも生命共済契約を締結した。

この2件の共済契約は、契約内容の変更などを経つつ本件各事故の当時まで保険期間を1年として毎年自動更新されていた。本件各事故当時、2つの生命共済契約はいずれも保険料が月4000円であり、「不慮の事故」によるケガを対象とする日額3000円の傷害通院共済金の特約が付加されていた。これらの通院共済金は、事故から90日以内の通院を対象とし、かつ通算90日間までを対象とするものであった。

Y1・Y2の生命共済契約の普通共済約款においては、傷害通院共済金の支払い事由となる「不慮の事故」等はつぎのように定義されていた。

ウ 不慮の事故
「不慮の事故」とは、急激かつ偶発的な外来の事故(略)で、かつ、昭和53年12月15日行政管理庁告示第73号に定められた分類項目中下配のものとし、分類項目の内容については「厚生省大臣官房統計情報部編、疾病、傷害および死因統計分類提要、昭和54年版」によるものとする。

そして、本件に関連する分類項目は

「16.その他の不慮の事故」

であり、かつ、

努力過度および激しい運動(略)中の過度の肉体行使、レクリエーション、その他の活動における過度の運動

は支払い事由から除外することが規定されていた。
加えて、通院共済金の支払い事由における通院先については、つぎのように定義されていた。

エ 「病院、診療所等」
「病院、診療所等」とは、次に掲げるものをいう。
(ア)医療法に定める日本国内にある病院または診療所(略)
(イ)柔道整復師法に定める日本国内にある施術所
(後略)

(b)事案の経緯
①本件事故1
平成25年5月8日、Xは自宅において椅子から立ち上がろうとした際に右大腿部に痛みが生じ、右大腿部挫傷の傷害を負い、Xは同日から同年8月13日まで、B接骨院に合計47日間通院した。

②本件事故2
平成25年9月17日、Xは格闘技の練習を行っているCジムにおいて、練習中、足を踏み込んだ際に左股関節に痛みが生じ、左股関節捻挫の傷害を負い、XはB整骨院に合計80日通院した。

③本件事故3
平成26年4月7日、XはCジムにおいて、走った際につまずき、右足間接捻挫の傷害を負い、B整骨院に合計61日間通院した。

④本件事故4
平成26年7月1日、XはCジムにおいてランニング中、滑って転倒し、右手を床についた際に右手関節捻挫を負い、B接骨院に合計90日間通院した。

⑤本件事故5
平成26年9月24日、XはCジムにおいて格闘技の投げの練習中に転倒し、右肩鎖関節脱臼の傷害を負った。そしてD整形外科に4日通院し、その後、B接骨院に合計26日通院した。

⑥本件事故6
平成26年12月1日、XはCジムにおいて格闘技の練習中、左ひざをひねり、左膝内側側副靭帯損傷の傷害を負った。そしてD整形外科に2日間通院し、その後B整骨院に89日通院した。

Xが本件事故1から6までに関する通院共済金の支払いをY1・Y2に行ったところ、Y1らは本件各事故の頻度や通院の状況などから、事故の偶然性や通院の必要性に疑問があるとして通院共済金の支払いを拒んだため、XがY1・Y2を提訴。

(2)判旨
(a)本件事故1~本件事故4について
本件事故1について
『また、本件事故1の発生日時について、 原告が作成した事故状況報告書とB整骨院において作成された施術記録及び施術録の記載に齟齬があり、また、Bが作成した診断書の 「受傷日」 欄が平成25年5月 8日から同月7日に訂正されていることに関し、原告は、B整骨院の施術記録は、治療内容や負傷日の記載が実際と異なると感じるところがあるが、自分もはっきり覚えていない旨供述する。
 さらに、前提事実(7)ウのとおり、原告は、本件事故1の発生日として主張している平成25年5 月8日に、本件ジムにおいてランニングマシンを使用中、右膝を打撲したとして、E株式会社に対して保険金の支払を請求している。この点、原告は、同日のB整骨院での診察において、右膝の打撲については伝えていないが、他の機関等での治療を受けておらず、保険金を請求する際にどのような資料を添付したかは覚えていないと供述し、また、本件事故1 の受傷部位である右大腿部の受傷も、ランニングマシンの使用中に生じたものであると思うなどと、事故発生状況について自らの主張と矛盾する供述をしている。
(略)

   これらの事情に照らすと、B整骨院において作成された診断書、施術記録及び施術録に記載された、原告の怪我の症状、発生原因、治療内容等について信用性を認めることはできず、それは原告本人の供述も同様である。
 よって、上記各書面の記載及び原告本人の供述によっても、本件事故1が発生したと認めることはできない。
 したがって、本件事故1が発生したとは認められないから、 本件事故1に係る共済金支払請求は認められない。

本地裁判決はこのように判示し、本件事故1について、接骨院の診断書およびXの供述は信用できないとして、Xの請求を退けています。そして同様の理由で、本件事故2~本件事故4までのXの請求も退けています。

(b)本件事故5・本件事故6について
本件事故5について
『Xが、 平成26年9月24日、本件ジムの格闘技スタジオにおいて、数人の仲間とスパーリングをしており、一緒に練習していた者と組み合った状態で投げられ、右肩から落ちて床に強打したことにより、右肩鎖関節脱臼の傷害を負ったことが認められる余地がある。
 しかしながら、 原告の主張する事故態様が認められたとしても、Xは、総合格闘家であるところ、本件事故5の際、 Xは仲間とともに、実戦同様、実際に相手を投げるという、 程度の強い練習をしており、本件事故5は、「激しい運動中の過度の肉体の行使」に当たり、「不慮の事故」 に当たらないと解される。
 すなわち、「激しい運動中の過度の肉体の行使」から生じた負傷が、共済金給付の対象である 「不慮の事故」から除外されるのは、肉体を酷使する場面は、そもそも負傷が生じやすい運動であるとの質的な側面、あるいはその強度等により負傷が生じやすいとの量的な側面から、負傷事故が発生しやすく、一般的な共済契約加入者の日常的な生活においては通常想定されない場面であることから、「不慮の事故」の要素たる偶発性を欠くものと考えられるためであると解される。そのうえで、原告のような職業格闘家の、かつ (通常人でも行うであろう基礎トレーニングなどではなく)実戦形式の練習は、格闘技がその性質上、選手同士が体を酷使する面を伴うことが必須であることからしても、負傷する可能性が高いのであり、質的な面で正しく「不慮の事故」から除外すべき、つまり、負傷が偶発的でない場面であるといえる。(略)
 したがって、本件事故5は、「不慮の事故」に当たらないから、本件事故5に係る共済金支払請求は認められない。』

このように本地裁判決は判示し、本件事故5についてXの主張を退けました。同様の趣旨で裁判所は本件事故6についてもXの主張を退け、結局、Xの請求すべてを棄却しています。

5.検討・解説
(1)本地裁判決
本地裁判決は、Xの請求について、本件事故1~4について、B接骨院およびXの供述はあいまいで信用できないとして棄却しています。また、本件事故5・6については、実戦形式の激しいトレーニングであり、「激しい運動中の過度の肉体の行使」に該当し、偶然性を欠くとして「不慮の事故」に該当しないとして請求を棄却しています。これら本地裁判決の判断はおおむね妥当であると思われます。

(2)「激しい運動中の過度の肉体の行使」
生命保険などにおける災害給付金・傷害給付金等の支払事由から「激しい運動中の過度の肉体の行使」が対象外とされている理由としては、「身体の自然な衰弱化の経過によるものであり、外来性・急激性・偶発性を充足しないため」と解説されています(日本生命保険『生命保険の法務と実務 第3版』243頁)。この点、本地裁判決は実戦形式による激しい格闘技のトレーニングは不慮の事故の偶発性を欠くとしており、この点も妥当であると思われます。

(3)「激しい運動中の過度の肉体の行使」はプロ選手・若年層に不公平なのか?
ところで、『法学セミナー』2018年7月号119頁の本地裁判決の判例評釈において、土岐孝宏教授は、「激しい運動中の過度の肉体の行使」要件について、激しい運動によりケガを起こしやすいプロ選手・若年層に不利で、高齢者に有利ではないかとの問題提起を行っておられます。

しかし、保険が成り立つためには、保険者(保険会社)が引き受ける危険の程度が数量化でき、合理的尺度で測定できなくてはなりません。つまり、同一保険料で同一の保障を受ける被保険者集団は同質の危険度を有するものの集団でなければなりません(危険均一性の原則)。たとえば標準の危険の集団に、より高い危険を有するものが混入した場合、集団の利益を損ねることになります(生命保険協会『生命保険講座 生命保険総論』17頁、長谷川仁彦『生命・傷害疾病保険法の基礎知識』59頁)。

たとえば生命保険実務においては、保険の引き受けにおいて、被保険者の健康状態等だけでなく、被保険者の職業も審査の対象となります。保険各社は「審査基準」というリストにより健康状態や職業等を審査しますが、プロボクサーやパイロットなどは保険金額の上限が普通の被保険者より低く条件付けされる等の基準が設定されているのが通常です。

つまり、保険各社の一般的な個人向け生命保険商品は、一般的な職業の国民をメインの被保険者と想定しており、総合格闘家やプロボクサーなど危険な職業はメインの顧客ではないのです。「激しい運動」などによるケガなどは、一般の生命保険が引き受けるべきリスクとして想定されていないので、支払対象外の規定が置かれているのです。

(4)モラルリスク・不必要通院
ところで本件は、被保険者(給付金請求者)が捻挫など患者の主観面の要素が強い傷病により、1事故につき40日から90日もの通常ではありえない日数の通院を行っており、しかもその通院先は接骨院となっています。元保険金・給付金支払査定担当の人間からすると、これは給付金の不正請求が強く疑われるモラルリスク事案であると考えられます。

保険会社各社の約款には、「重大事由による解除」の約款条項が置かれており、そのなかには「保険金請求者による詐欺」も含まれています。この重大事由による解除は保険法57条、86条にも盛り込まれています(長谷川・前掲187頁)。本件は事案の悪質性に鑑み、Y1・Y2の各共済は、通院給付金の不払いを主張するだけでなく、重大事由による解除を適用する余地もあったのではないかと思われます。

(5)保険会社の調査と被保険者のプライバシー
なお本件においては、Xは保険会社の調査員による調査(事実の確認)は被保険者のプライバシーの侵害であるという争点も争っています。この点、本地裁判決は、「合理的な範囲を超えない調査はプライバシーの侵害にあたらない」との判断を示している点も注目されます。(なお、保険実務においては、保険会社の調査員が調査を開始するにあたり、被保険者の書面による同意を得たうえで調査に着手します。)

■参考文献
・『自保ジャーナル』2000号140頁
・土岐孝宏『法学セミナー』2018年7月号119頁
・生命保険協会『生命保険講座 生命保険総論』17頁
・長谷川仁彦『生命・傷害疾病保険法の基礎知識』59頁
・日本生命保険『生命保険の法務と実務 第3版』243頁





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