新型コロナの8月5日付の東京都の新規感染者数が5,042人、日本全体の新規感染者数が15,259人という新型コロナの感染爆発の状況(Yahoo!Japan「新型コロナウイルス感染症まとめ」および東京都「都内の感染状況」より)のなか、東京都などのコロナ感染者が急増する地域で、コロナ患者の入院を制限する菅内閣の新しい方針に対して、自民党も撤回の要求を行っているにもかかわらず、菅義偉首相や田村憲久厚労大臣らは撤回しない考えを示しています。
・菅首相、入院制限方針を撤回せず「理解してもらいたい」|朝日新聞
20210804菅首相
(菅首相、朝日新聞サイトより)

結論を先取りすると、菅内閣のコロナ患者の入院制限というこの新しい方針は、国民の生存権(憲法25条1項)や、公衆衛生や感染症対策を国の任務とする憲法25条2項や厚労省設置法などの法律に抵触し、「法律による行政の原則」や法治主義などの西側自由主義諸国の近代憲法の大原則に反しています。菅内閣は迅速に臨時国会などを召集し、国会で説明を行うとともに、コロナ対策やオリンピック中止などについて国会審議を行うべきです。

菅政権は新型コロナの感染拡大を悪化させると批判されている東京オリンピック・パラリンピック開催の強行を続けている一方で、新型コロナへの対応は、ワクチン接種の遅れなど後手後手にまわり続けています。

このような状況下で、東京都などコロナの感染拡大が大幅に悪化している地域において、コロナ患者の重症患者以外は入院を拒否するという菅政権の新しい方針は、菅首相の政治公約である東京オリンピックは推進する一方で、東京都などのコロナの重症患者以外の患者の生命・健康を見殺しにする、つまり国家の目的のために民主主義国家における主権者の国民を見殺しにするという恐るべきものです。

菅政権がコロナ対応において多くの国民・住民を見殺しにするとことは、国民の生存権(憲法25条1項)を侵害するだけでなく、「公衆衛生」「感染症対策」などを国の任務とする憲法25条2項、厚労省設置法(3条、4条4号、19号等)にも違反していると思われます。

憲法
第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

厚生労働省設置法
(任務)
第3条 厚生労働省は、国民生活の保障及び向上を図り、並びに経済の発展に寄与するため、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進並びに労働条件その他の労働者の働く環境の整備及び職業の確保を図ることを任務とする。

(所掌事務)
第4条 厚生労働省は、前条第一項及び第二項の任務を達成するため、次に掲げる事務をつかさどる。
 原因の明らかでない公衆衛生上重大な危害が生じ、又は生じるおそれがある緊急の事態への対処に関すること。
十九 感染症の発生及びまん延の防止並びに港及び飛行場における検疫に関すること。

また、菅内閣の新しい方針は、憲法や厚労省設置法などの法律に違反した行為を、行政権である菅内閣が行うものであるので、「法の支配」法治主義(実質的法治主義)、「法律による行政の原則」(憲法41条、65条等)などの民主主義国家の大原則に反しており、また菅首相や田村厚労大臣、西村経済担当大臣などは、「国務大臣、国会議員…その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」との憲法尊重擁護義務(99条)にも反しています。

さらに、そもそも菅内閣の新しい方針は、国民の「個人の尊重」と「基本的人権の確立」のために国・国会などの統治機構は手段として存在するという近代立憲主義憲法の基本構造(憲法11条、97条)に反しています。

つまり、菅内閣が多くの国民を見殺しにするということは、18世紀以降の西側の自由主義・民主主義諸国の近代立憲主義憲法の基本原則に反し、戦前の日本・ナチスドイツや、あるいは現代の中国のような国家主義・全体主義的なものです。

これはもはや日本の医療の危機にとどまらず、日本の議会制民主主義の危機近代立憲主義憲法の危機といえます。

菅首相は8月4日の記者会見で、国民に対して「丁寧な説明を行う」と発言しました。そうであるならば、菅内閣は迅速に国会の臨時会(臨時国会、憲法53条)または参議院の緊急集会(54条2項)を招集し開催すべきです。

国会において、感染爆発の状況にあるコロナ対策のためにロックダウンなどを可能にするための特措法改正のための法律審議と、あわせて東京オリンピック・パラリンピックの中止などの審議を実施すべきです。