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タグ:入院給付金

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■追記(2022年2月4日)
PCR検査などなしで「みなし陽性」として自主療養・自宅療養を行う制度を神奈川県などが開始しました。この制度と民間の保険会社の医療保険の入院給付金などの支払いに関してはこのブログ記事下部の「追記(2022年2月4日)」をご参照ください。

1.新型コロナにより自宅療養をした場合、生損保の医療保険の入院給付金は支払われないのか?
2022年1月24日夜、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、後藤厚生労働大臣は、自治体が判断すれば、感染者の濃厚接触者に発熱などの症状が出た場合、PCR検査等を患者が受けなくても、医師が感染したと診断できるようにする方針を明らかにしたとのことです。

・濃厚接触者 検査なしでも医師が感染と診断可能に 厚労相|NHKニュース

これに対しては、ネット上で、「自宅療養(自主療養)では生損保の医療保険の入院給付金が支払われなくなってしまうのではないか?支払いをめぐって保険会社ともめ事が発生するのでは?」との心配の声があがっています。

これ保険で絶対もめる
(Twitterより)

2.保険会社の対応
この点、例えば住友生命保険の医療保険の疾病入院給付金の約款(5年ごと利差配当付医療定期保険普通保険約款)の5条1項1号(支払理由)は、「イ 疾病の治療を目的としている入院であること」、「ハ 病院または診療所等における入院であること」などを支払いの要件としています。

そしてこの「病院または診療所等」について、同約款は「「病院または診療所等」とは、次のいずれかに該当する施設とします。(1)医療法に定める日本国内にある病院または患者を入院させるための施設を有する診療所、(2)柔道整復師法に定める日本国内にある施術所(患者を入院させるための施設と同等の施設を有する施術所に限ります。)(3)前(1)および(2)と同等の日本国外にある医療施設」と補足しています。

住友生命医療保険約款
(住友生命保険「5年ごと利差配当付医療定期保険普通保険約款」より)

しかし、例えば日本生命保険のプレスリリース「新型コロナウイルス感染症に関するお知らせ」(最終更新日:2021年10月1日)「保険金・給付金のお支払いについて」の「1.入院給付金のお支払いについて」は、つぎのように説明しています。
1.入院給付金のお支払いについて
新型コロナウイルス感染症は疾病に該当しますので、新型コロナウイルス感染症の治療を目的とされた入院は、(疾病)入院給付金のお支払い対象となります。
※ご契約内容によっては、入院給付金のお支払いに、所定の入院日数が必要となる場合があります。

なお、新型コロナウイルス感染症に罹患された場合で、医療機関の事情などにより、自宅またはその他病院などと同等とみなされる施設で治療を受けられる場合も、その治療期間に関する保健所等発行の証明書入院勧告書または就業制限・解除通知等)などをご提出いただくことで、入院給付金等のお支払いの対象としてお取扱いします。

この場合、お支払いの対象となる期間は原則、PCR検査等で陽性と判明した日から厚生労働省等の定める解除基準に該当した日(保健所等から通知された解除日)となります。
※上記は2021年7月1日時点での取扱いであり、今後法令の改正等により変更する可能性があります。

日本生命コロナ入院給付金支払いについて
(日本生命保険「新型コロナウイルス感染症に関するお知らせ」より)
・新型コロナウイルス感染症に関するお知らせ|日本生命保険

このように日本生命保険は、コロナに感染したが、病院などの事情により病院への入院でなく、自宅療養ホテルなどの宿泊所療養などをした場合であっても、お客様が「その治療期間に関する保健所等発行の証明書入院勧告書または就業制限・解除通知等)など」を提出した場合は、自宅療養などであっても入院給付金の支払い対象となるとしています。

同様に、第一生命保険、住友生命保険、明治安田生命保険、損保ジャパンなどもプレスリリースで、医師診断書等「会社所定の宿泊療養・自宅療養書」「保健所の証明書」などの提出があった場合には、コロナによる自宅療養でも入院給付金・医療保険金を支払い対象になるとしています。

・新型コロナウイルス感染症に関連したご案内等について(12月30日更新)|第一生命保険
・新型コロナウイルス感染症宿泊療養・自宅療養による入院給付金のご請求について|住友生命保険
・新型コロナウイルス感染症に関する当社の対応について|明治安田生命保険
・新型コロナウイルス感染症に関する商品・特別措置等のご案内|損保ジャパン

3.まとめ
そのため、コロナで入院治療が必要となったが、自治体や病院等の都合で自宅療養やホテル療養などとなった場合であっても、保健所の証明書医師の診断書などを提出した場合は、自宅療養などであっても入院給付金の支払い対象となると思われます。

※くわしくはご加入の保険会社にお問い合わせください。

■追記(2022年2月4日)
PCR検査などなしで「みなし陽性」として自主療養・自宅療養を行う制度を神奈川県などが開始しました。この制度と民間の保険会社の医療保険の入院給付金などの支払いに関して、神奈川県サイト「新型コロナ 自主療養について」のページの「5 よくある質問」QA7はつぎのように説明しています。
Q(7)自主療養届を療養に関する民間保険金請求や傷病手当に使えますか?
A いいえ。医療機関を受診し、発生届が提出された場合、神奈川県は療養終了後に別途「療養証明書」を発行しています。自主療養届は、制度開始時点においては、各種保険金や手当の請求に使う想定はしておりません。
神奈川県QA
(神奈川県サイトより)
・自主療養について|神奈川県

神奈川県サイトの説明によると、「みなし陽性」による自主療養の場合、患者は自治体の用意している「自主療養届出システム」に届出者情報などを入力すると、「自主療養届」が同システムからダウンロードできるようになり、これを学校勤務先などに提出して欠席や欠勤の届け出に利用できるとなっていますが、この「自主療養届」は民間の保険会社の医療保険などの入院給付金などの請求には「利用を想定していない」となっています。そして保険会社の医療保険などの入院給付金などの請求には、自治体が療養終了後に別途「療養証明書」を発行するので、この「療養証明書」を利用してほしいと説明しています。

神奈川県の自主療養届
(神奈川県の自主療養届。神奈川県サイトより)

たしかに神奈川県サイトに掲載された自主療養届のひな型をみると、自主療養の開始の日などの記載はありますが、終了の日などの記載はなく、入院給付金などの請求には使えないと思われます。

したがって、検査を受けずに自主療養・自宅療養を開始する「みなし陽性」の患者の方々は、「自主療養届」ではなく、療養終了後に自治体が発行する「療養証明書」を入院給付金などの請求に利用することになると思われます。

※くわしくはご加入の保険会社にお問い合わせください。

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1.はじめに
腰痛などで通算500日以上入院した患者による医療保険の入院給付金請求という典型的なモラルリスク事案に関する判決が出されていました。裁判所は患者側の請求を棄却しています(鹿児島地裁平成29年9月19日判決・請求棄却・確定、判例タイムズ1456号236頁)。

2.事案の概要
Xは平成17年10月に、損害保険会社Y(損保ジャパン日本興亜)との間で、ケガ・疾病による入院・手術などを保障する医療保険である、「新・長期医療保険」(Dr.ジャパン)の保険契約を締結した。入院給付金日額は1万円であった。

本件保険契約の約款上、入院給付金の支払事由としての「入院」とは、医師による治療が必要な場合であって、かつ、自宅等での治療が困難なため病院または診療所に入り、常に医師の管理下において治療に専念することをいうと規定されていた。

Xは平成23年2月ごろより腰痛を訴え整形外科病院に16日間入院をしたことを皮切りに、腰痛による入院や、不安感を訴え精神科病院への入院などを平成27年までに合計9回繰り返し、その入院日数は合計500日を超えた。

これらの入院に基づいてXがYに対して約462万円の入院給付金の支払いを請求したところ、Yが拒んだためXが提起したのが本件訴訟である。

3.判旨
本件保険契約における入院給付金の支払事由としての「入院」に該当するか否かの判断は、契約上の要件の該当性の判断であり、前提事実(略)のとおりの本件保険契約における「入院」の定義(医師による治療が必要であり、かつ自宅等での治療が困難なため、病院又は診療所に入り、常に医師の管理下において治療に専念すること)からしても、単に当該入院が医師の判断によるということにとどまらず、同判断に客観的な合理性があるか、すなわち、患者の症状等に照らし、病院に入り常に医師の管理下において治療に専念しなければならないほどの医師による治療の必要性や自宅等での治療の困難性が客観的に認められるかという観点から判断されるべきものと解される。
 なお、担当医師による判断の具体的な内容やその医学的な根拠は、上記の「入院」該当性の判断に際して一つの重要な事情とはなるものの、通常、医師の判断によらない入院を想定できないことからしても、医師による判断の存在という外形的な事情のみからは、直ちに「入院」該当性が推認されるとまではいえないというべきである。』

『ア 本件入院1
 入院時の検査所見は、入院の必要性を基礎付けるものであるとはいえず(略)、入院日である平成23年2月1日において、Xは、腰を押さえながらも独歩は可能だったのであり、翌2日にも喫煙のため独歩で移動し、同月11日にはほぼ終日外出し、その後も頻繁に外出・外泊していることからすれば、Xの症状が自宅等での治療が困難であるほどの重いものであったとはいえない。(略)これらのXの症状やその後の治療内容等に照らせば、本件入院1においては、(略)客観的な契約上の要件である「入院」該当性の根拠とすることはできないというべきである。』

このように判示し、本判決はXのすべての入院は医療保険契約上の「入院」に該当しないとしてXの請求を退けています。

4.検討
医療保険、入院特約などにおける入院給付金の支払い要件の一つである「入院」の該当性について、実務書は、医師の判断とあわせて、「保険制度の基本である収支相当の原則および給付反対給付均等の原則からみて、その支払要件を合理的・画一的・公平に規制する必要があり、それに合致した保険事故に対してのみ給付されるのが当然の前提とされていること、入院当時の一般的な医学上の水準によるべき」と解説しています(長谷川仁彦など『生命・傷害疾病保険法の基礎知識』249頁)。

裁判例も、「本件保険特約が設けられている趣旨およびその内容に鑑みると、本件入院要件の有無の判断は、通常は医師の判断を尊重して決定されるであろうが、いかなる場合においても、一旦なされた医師の判断を無条件に尊重して決定されなければならないというものではなく、(略)客観的、合理的に行われるべきである。このように解することは、保険契約が有する射幸性による弊害を防止し、保険契約者一般の公平を守るという点に照らしても妥当である。」と判示するものがあります(札幌高裁平成13年6月13日判決・生命保険判例集13巻499頁)。

本判決はこのような保険会社の実務・裁判例に沿う考え方をとった妥当な判決であると思われます。

なお、最近の本判決に類似した事案として、ケガを理由とする不必要な通院給付金請求というモラルリスク事案が争われたつぎの裁判例が存在します(東京地裁平成29年4月24日判決)。

・総合格闘技選手の練習によるケガは傷害共済の「不慮の事故」に該当するか?(東京地裁平成29・4・24)-モラルリスク・不必要な通院

生命・傷害疾病保険法の基礎知識

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