1.はじめに
4月12日(日)に都内で開催された自民党大会で、陸上自衛隊中央音楽隊の鶫真衣3等陸曹が自衛隊の儀礼用の礼服を着て登壇し、国歌を斉唱したことが自衛隊法などが規定する自衛隊員や公務員の政治的中立に反するのではないかと話題となっています。

自衛官国歌斉唱2
自衛官国歌斉唱1
(上は毎日新聞、下はTwitterより)

このような批判の声に対して、小泉防衛大臣や高市首相などは、「私人としての行為であるから法律的に問題ない」と主張しているようです。

結論を先取りすると、本件自衛官の自民党大会での行為は、自衛隊法・自衛隊法施行令や憲法15条2項に抵触する、違法・違憲なものである可能性が高く、本件自衛官がもし刑事裁判にかけられた場合は、3年以下の拘禁刑の罰則が科される可能性があると考えられますが、この問題をどのように考えるべきなのでしょうか。憲法や判例からみてみたいと思います。

2.公務員の政治活動の自由
(1)公務員の政治活動の自由

自衛隊法61条1項は自衛隊員の政治的活動を制限しておりその規定には罰則が存在します(119条1項)。このような問題は、「公務員の政治活動の自由」として憲法学上の著名な論点の一つとなっています。
本件の自衛官が自民党の党大会に出席した等の行為は政治的行為(政治的表現行為)といえます。このような行為は表現の自由により国民に保障されています(憲法21条1項)。表現の自由は自己実現に資するとともに、民主主義にも資するので基本的人権のなかでも特に重要です。自衛官・公務員も国民の一人である以上はこの表現の自由を持っています。

しかし一方、行政・国・自治体が公平・中立な行政を運営し(憲法15条2項)、国民からの公平・中立への信頼にこたえるために、行政や公務員の政治活動には一定の制約を課すこともやむを得ないと解されています。あるいは、憲法が公務員関係の自律性を憲法的秩序の構成要素として認めていることから、公務員の政治活動の自由への制約も一定程度求められると解されています。

(2)猿払事件
裁判においても、昭和40年代の郵便局員(当時は国家公務員)が、勤務時間外にある政党のポスターを掲示板に掲示した行為が、国家公務員法および人事院規則の定める政治活動の制限に抵触したとして刑事裁判にかけられた事件において、最高裁は国家公務員の全面一律の政治行為の禁止を定める国家公務員法および人事院規則を合憲として、この郵便局員を有罪としています(猿払事件・最高裁昭和49年11月6日判決)。

(3)堀越事件
その後、平成24年には、社会保険事務所の管理職でない年金審査官(国家公務員)が勤務時間外に同事務所とは関係のない場所である政党のビラを配ったことが、これも国家公務員法および人事院規則の定める政治活動の制限に抵触したとして刑事裁判にかけられた事件において、最高裁はつぎのように判示した上で、本件の年金審査官の行為は国家公務員法違反ではないとして無罪としています(堀越事件・最高裁平成24年12月7日判決)。

「国家公務員法102条1項は,…行政の中立的運営を確保し,これに対する国民の信頼を維持することをその趣旨とするものと解される。すなわち,憲法15条2項は,「すべて公務員は,全体の奉仕者であって,一部の奉仕者ではない。」と定めており,国民の信託に基づく国政の運営のために行われる公務は,国民の一部でなく,その全体の利益のために行われるべきものであることが要請されている。その中で,国の行政機関における公務は,憲法の定める我が国の統治機構の仕組みの下で,議会制民主主義に基づく政治過程を経て決定された政策を忠実に遂行するため,国民全体に対する奉仕を旨として,政治的に中立に運営されるべきものといえる。そして,このような行政の中立的運営が確保されるためには,公務員が,政治的に公正かつ中立的な立場に立って職務の遂行に当たることが必要となるものである。このように,本法102条1項は,公務員の職務の遂行の政治的中立性を保持することによって行政の中立的運営を確保し,これに対する国民の信頼を維持することを目的とするものと解される。

他方,国民は,憲法上,表現の自由(21条1項)としての政治活動の自由を保障されており,この精神的自由は立憲民主政の政治過程にとって不可欠の基本的人権であって,民主主義社会を基礎付ける重要な権利であることに鑑みると,上記の目的に基づく法令による公務員に対する政治的行為の禁止は,国民としての政治活動の自由に対する必要やむを得ない限度にその範囲が画されるべきものである。

このような本法102条1項の文言,趣旨,目的や規制される政治活動の自由の重要性に加え,同項の規定が刑罰法規の構成要件となることを考慮すると,同項にいう「政治的行為」とは,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが,観念的なものにとどまらず,現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものを指し,同項はそのような行為の類型の具体的な定めを人事院規則に委任したものと解するのが相当である。…そして,上記のような規制の目的やその対象となる政治的行為の内容等に鑑みると,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるかどうかは,当該公務員の地位,その職務の内容や権限等,当該公務員がした行為の性質,態様,目的,内容等の諸般の事情を総合して判断するのが相当である。具体的には,当該公務員につき,指揮命令や指導監督等を通じて他の職員の職務の遂行に一定の影響を及ぼし得る地位(管理職的地位)の有無,職務の内容や権限における裁量の有無,当該行為につき,勤務時間の内外,国ないし職場の施設の利用の有無,公務員の地位の利用の有無,公務員により組織される団体の活動としての性格の有無,公務員による行為と直接認識され得る態様の有無,行政の中立的運営と直接相反する目的や内容の有無等が考慮の対象となるものと解される。(後略)」
すなわち、最高裁は、猿払事件判決を踏襲し、「国の行政機関における公務は,憲法の定める我が国の統治機構の仕組みの下で,議会制民主主義に基づく政治過程を経て決定された政策を忠実に遂行するため,国民全体に対する奉仕を旨として,政治的に中立に運営されるべきもの」であるため、国家公務員法102条の公務員の政治的自由制限規定は「行政の中立的運営を確保し,これに対する国民の信頼を維持することをその趣旨」として規定されているとしつつ、公務員を含む国民は議会制民主主義を支える表現の自由を持つため、「公務員に対する政治的行為の禁止は,国民としての政治活動の自由に対する必要やむを得ない限度にその範囲が画されるべき」としています。

そしてその「必要やむを得ない限度」の判断基準としては、「当該公務員の地位,その職務の内容や権限等,当該公務員がした行為の性質,態様,目的,内容等の諸般の事情を総合して判断するのが相当である。具体的には,当該公務員につき,指揮命令や指導監督等を通じて他の職員の職務の遂行に一定の影響を及ぼし得る地位(管理職的地位)の有無,職務の内容や権限における裁量の有無,当該行為につき,勤務時間の内外,国ないし職場の施設の利用の有無,公務員の地位の利用の有無,公務員により組織される団体の活動としての性格の有無,公務員による行為と直接認識され得る態様の有無,行政の中立的運営と直接相反する目的や内容の有無等が考慮の対象となるものと解される。」としています。その上で、本件公務員は非管理職であること、ビラの配布の行為が年金事務所の公務とは関係のない態様で行われていたこと、等を認定した上で、本件公務員は国家公務員法等が規定する公務員の政治活動の制限に抵触していないとして無罪としています。

3.本事案を考える
(1)自衛隊法等

まず条文を確認すると、自衛隊法61条1項はつぎのように規定し、同条の違反に対しては同119条1項は罰則(3年以下の拘禁刑)を規定しています。

自衛隊法
第61条1項

 隊員は、政党又は政令で定める政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法をもつてするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除くほか、政令で定める政治的行為をしてはならない。

第119条1項
次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の拘禁刑に処する。
一 第六十一条第一項の規定に違反した者
この自衛隊法61条1項の「政令で定める政治的行為」について、自衛隊法施行規則87条1項1号はつぎのように規定しています。

自衛隊法施行令
(政治的行為の定義)
第八十七条
 法第六十一条第一項に規定する政令で定める政治的行為は、次の各号に掲げるものとする。
一 政治的目的のために官職、職権その他公私の影響力を利用すること。
すなわち、自衛隊法61条1項および自衛隊法施行令87条をよむと、「自衛隊員は、政党のために、政治的目的のために官職、職権その他公私の影響力を利用することを行ってはならない」と規定されていることがわかります。

ここで、公務員の政治的行為についてはこれまで最高裁が猿払事件、堀越事件などについて判断していることを踏まえると、今回の自衛官の事案についてももし刑事裁判になれば、裁判所は猿払事件、堀越事件の判断枠ぐみを踏襲して判断する可能性が高いでしょう。

(2)本事案へのあてはめ
ここで本件の自衛官の自民党大会での国家斉唱について考えると、本件自衛官の鶫真衣氏は「3等陸曹」という下士官つまり非管理職です。しかしその一方、その職務は陸上自衛隊の「中央音楽隊」という儀式・儀礼に関するものであり、一般自衛官とは異なりその職務は行為の態様によっては政治的色彩を帯びやすいものであるといえます。党大会で国歌斉唱を行うという行為は、少なくとも当該政党への反対の意思表示とはみられないことを考えると、当該政党を支持・応援している意思表示とみられると思われ支持・応援の政治的意図つまり政治的目的があるといえます。

また、本件自衛官は、自民党がある商社を通じて依頼したところ、「党大会での独唱」には、法違反のおそれがあったため、本件自衛官は防衛省に事前に問い合わせを行い「問題なし」の回答をえて、上司とともに党大会に臨んだとのことです。つまり本件自衛官の行為は自衛隊・防衛省の公認の行為つまり「組織ぐるみ」の行為であり、当日は日曜日ではありますが、本件自衛官は職務として本件行為を行っていたといえます。さらに、本件行為は自民党という特定政党の党大会で衆人の前で国歌斉唱を行うというという態様の行為であり、その際に本件自衛官は私服ではなく、自衛隊の陸上自衛隊中央音楽隊の特別な儀礼・式典の際にしか着用を許されない礼服を着用して斉唱を行ったとのことであり、これを見聞きした一般国民としては、「自衛隊と自民党は一体の関係なのだ」と感じるものといえます。

そのため、本件自衛官の自民党大会での行為は、「当該公務員の地位,その職務の内容や権限等,当該公務員がした行為の性質,態様,目的,内容等の諸般の事情を総合考慮すると、自衛隊・国の政治的中立性を侵害するものといえます。

4.結論
したがって、本件自衛官の自民党大会での行為は、猿払事件・堀越事件などの判例に照らすと、自衛隊法・自衛隊法施行令や憲法15条2項の公務員の政治活動の自由の制限に抵触する、違法・違憲なものである可能性があり、本件自衛官がもし刑事裁判にかけられた場合は、3年以下の拘禁刑の罰則が科されるおそれがあるのではないでしょうか。

本件事案について本件自衛官が刑事告訴・告発されて刑事事件にかけれれるか不明ですが、政府幹部は「私人の行為だから法的に問題ない」等と主張するのではなく、本件について調査を行い、関係者を処分等し、再発防止策を策定し実行する等の不祥事対応を行うべきと考えられます。そうでなくては、一般国民の自衛隊や公務員への公平性・中立性への信頼の失墜を回復することができません。それでは自衛隊や国・自治体が公平中立な行政運営を行うことができません。

※本ブログ記事については、専修大学名誉教授の石村修先生(憲法学)、同名誉教授の晴山一穂先生(行政法学)のご教示をいただきました。石村先生、晴山先生、どうもありがとうございました。

■追記(4月29日)
ある方より、小泉防衛大臣や高市首相などが「私人の行為だから法的に問題ない」と主張していることについてはどう考えるのかとご指摘をいただきました。

この点については、上記でもふれたとおり、本件自衛官は自民党大会において、特別な儀式用の自衛隊の礼服を着ており、また防衛省にあらかじめ照会を行い、上司とともに自民党大会に臨んでおり、これらを勘案すると本件自衛官の行為は「私人としての行為」ではないと考えられます。そもそも上であげた猿払事件判決は、「公務員は24時間365日公務員」というスタンスをとっており、堀越事件判決もこの点を否定しているわけではありません。

また、ある方より、本件は「高度に政治的な問題」であるので刑事罰は科されないのではないかとのご指摘をいただきました。

たしかに裁判所は砂川事件判決(最高裁昭和34年12月16日判決)などで、「高度に政治的な行為」については判断を回避しています(統治行為論)。しかし、このようなことは安全保障や外交の問題などまさに高度に政治的な問題に限定されるべきです。そうでなければ、基本的人権の確立や統治機構の維持、憲法的秩序の維持などの裁判所の任務の責任放棄となってしまいます。本件は刑事告発されたそうですが、裁判所は政治的圧力などに負けずに、自衛隊法や判例などに従って冷静な判断を行うことが望まれます。万が一、「社会党のポスター(猿払事件)や共産党のビラ(堀越事件・世田谷事件)に関しては嬉々として判断を行い場合によっては有罪判決を出すのに、自民党の党大会への自衛官の出席等に関する事案については判断を回避する」ということがあっては、裁判所の政治的中立性や独立性(憲法76条3項)に重大なクエスチョンマークがついてしまうのではないでしょうか。

(関連するブログ記事)
・自民党の憲法改正案の「自衛隊の明記」について
・自民党の憲法改正案の「緊急事態対応」について
・自民党の憲法改正案の「一票の格差(合区解消・地方公共団体)」について
・自民党の憲法改正案の「教育充実」について

■参考文献
・芦部信喜・高橋和之『憲法 第8版』304頁
・渡辺康行・宍戸常寿・松本和彦・工藤達朗『憲法Ⅰ基本権 第2版』47頁
・長谷部恭男「公務員による政党機関紙の配布-堀越事件」『憲法判例百選Ⅰ 第6版』32頁
・高橋和之『新・判例ハンドブック憲法』44頁、46頁

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2023-09-28

憲法Ⅰ [第2版] 基本権
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日本評論社
2023-03-27



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