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このブログ記事の概要
埼玉県および共産党の対応は、埼玉県都市公園条例9条2項、都市公園法3条、憲法21条1項に照らして違法のおそれがある。

1.「都市公園法第1条に反する」?
日本共産党が埼玉県の公営プール(しらこばと水上公園)での水着撮影会を中止させた件が炎上しています。炎上の端緒は、日本共産党埼玉県議会議員団のTwitterアカウントが6月6日に「埼玉県営公園で女性の水着撮影会が行われます。未成年も出演するという情報については調査中です。城下のり子・伊藤はつみ・山﨑すなお県議は、本日、都市公園法第1条に反するとして、貸し出しを禁止するよう県に申し入れました。」とツイートしたことでした。

共産党埼玉県議員団
(日本共産党埼玉県議会議員団のTwitterより)

・「開催2日前にいきなり電話で言われ…」共産党の申し入れで「水着撮影会」が中止に 騒動の裏側に迫る|デイリー新潮

都市計画法1条はこの法律の趣旨・目的を「都市計画の健全性」「公共の福祉」などと定めていますが、集会の自由・表現の自由は憲法21条1項が定める基本的人権の一つです。それを「都市公園法1条」で中止を求めることはあまりに大雑把すぎます。

都市公園法
(目的)
第1条 この法律は、都市公園の設置及び管理に関する基準等を定めて、都市公園の健全な発達を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。

これに対しては憲法学者の玉蟲先生や弁護士の先生方などからさっそくTwitter上でツッコミがなされていました。

玉蟲由樹・日大教授(憲法学)のツイート
玉蟲先生ツイート

戸舘圭之弁護士のツイート
戸館弁護士ツイート

2.都市計画法・埼玉県都市公園条例
しかし、いくら共産党の申し出がおおざっぱすぎで酷いとしても、それを受けた埼玉県が都市公園法1条のみでこの水着撮影会を中止させたとは思えないので調べてみました。すると、都市公園法3条は「地方公共団体が都市公園を設置する場合においては、政令で定める都市公園の配置及び規模に関する技術的基準を参酌して条例で定める基準に適合するように行うものとする。」と規定し、法律が定めていない基準などは自治体の条例で定めることとしています。

そこで埼玉県都市公園条例9条をみるとつぎのように利用(行為)の許可基準が規定されています。

埼玉県都市公園条例9条

つまり、埼玉県都市公園条例9条2項は、「都市公園の管理上支障があると認められるとき」(1号)、「公共の福祉を阻害するおそれがあると認められるとき」(2号)、「その他都市公園の設置の目的に反すると認められるとき」(3号)のいずれかに該当する場合は、埼玉県は都市公園の利用の許可をしないと規定しています。

そのため、本事件においては、埼玉県は共産党の申し出などを受けて、この1号から3号のいずれか(おそらく2号)に該当するとして、プールの利用の許可の取消または撤回を行ったものと思われます。このように法律や条例の規定を読んでいくと、「都市公園法1条」によりプールの利用の中止を求めたとしている共産党の主張は法的には正しくないと思われます。

3.憲法から考えるー泉佐野市民会館事件
ところで憲法からこの事件を考えると、公共施設における集会の自由(憲法21条1項)が問題となります。

集会の自由を含む表現の自由は①自己実現に資する価値と②自己統治に資する価値(民主主義に資する価値)の二つの面があり、その後者の価値により、基本的人権のなかでもとくに重要であるとされています。つまり、集会の自由・表現の自由は、自由な言論やデモなどを保障する人権であり、民主主義国における民主政治(憲法1条)の前提となるものなので極めて重要であると考えられているのです(渡辺康行・宍戸常寿・松本和彦・工藤達朗『憲法Ⅰ基本権』214頁、芦部信喜・高橋和之補訂『憲法 第7版』180頁)。

そのため、公民館などの公共施設における集会の自由・表現の自由が争われた泉佐野市民会館事件判決(最高裁平成7年3月7日判決)は、公共施設の利用を許可しないことが許される判断枠組みについて、「集会の自由の保障の重要性よりも…集会が開かれることによって人の生命、身体または財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し防止する必要性が優越する場合に限られる」とし、その危険性の程度は「明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されること」と非常に厳しい判断枠組みを示しています。

この泉佐野市民会館事件判決の判断枠組みに照らすと、「集会が開かれることによって人の生命、身体または財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し防止する必要性が優越する場合」でなければ埼玉県はプールの利用の不許可は許されないわけですが、本事件においてはしらこばと水上公園で開催予定だったのはただの水着撮影会だったそうであり、およそ「人の生命・身体・財産が侵害され公共の安全が損なわれる危険」が発生するとは思えません。

したがって泉佐野市民会館事件判決に照らすと、本事件で埼玉県がプールの利用を不許可としたこと、また共産党が埼玉県に不許可をするように申し出たことは違法ということになると思われます(埼玉県都市公園条例9条2項、都市公園法3条、憲法21条1項)。

4.まとめ
このように、本事件で埼玉県が水着撮影会のためのしらこばと水上公園の利用を不許可としたこと、共産党がそのような申し出を行ったことは、埼玉県都市公園条例9条2項、都市公園法3条、憲法21条1項と泉佐野市民会館事件判決に照らして違法であると思われます。

上でもみたとおり、集会の自由・表現の自由(憲法21条1項)は民主主義政治(同1条)のために重要であり、基本的人権のなかでも特に重要です。もしこのようなことがまかり通ってしまえば、冒頭であげた戸舘圭之弁護士のツイートのとおり、メーデーのための集会や、国会前のデモなども安易に政府等によって禁止とされてしまうのではないでしょうか。

近年、共産党やその支持者達は「非実在児童ポルノ」政策の主張などにみられるように、女性の権利向上のために表現の自由を規制すべきであることを強く主張しておりますが(いわゆる「キャンセルカルチャー」)、それは表現の自由や民主主義の価値を軽視するものであり大きな疑問が残ります。「護憲」を掲げる政党が安易に表現の自由を規制せよと主張することには大きな違和感があります。またそのような主張は、「表現の不自由展」の際のリベラル・左派の人々の「あらゆる表現は守られるべきだ」との主張と矛盾するのではないかと気になります。

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■参考文献
・渡辺康行・宍戸常寿・松本和彦・工藤達朗『憲法Ⅰ基本権』214頁
・芦部信喜・高橋和之補訂『憲法 第7版』180頁、224頁

■関連するブログ記事
・日本共産党の衆院選公約の「非実在児童ポルノ」政策は憲法的に間違っているので撤回を求める
・「月曜日のたわわ」の日経新聞の広告と「見たくないものを見ない自由」を法的に考えた-「とらわれの聴衆」事件判決
・「表現の不自由展かんさい」実行委員会の会場の利用承認の取消処分の提訴とその後を憲法的に考えた

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