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1.消費者金融の主戦場がスマートフォンに
最近の日経新聞の記事(「消費者金融、スマホ申し込み9割 LINEはペイ借り入れも」)によると、消費者金融の主戦場が店舗からスマートフォンに移行しているそうです。同記事はLINE子会社の消費者金融「LINEクレジット」の「LINEポケットマネー」とその前提となる信用スコアリングの「LINEスコア」について解説しています。

ところで同記事によると、LINEスコアではAI分析により、LINEの利用において「1か月前より友だち(連絡先)が減少した場合には、延滞や貸し倒れの確率(リスク)が2倍になった」等の分析結果を割り出し信用スコアリングを行っていることに、ネット上では「LINEの「友だち」が減ると信用スコアが減ってしまうのか!?」等と驚きや困惑の声が広がっています。

LINEクレジットの与信判断の例
(LINEクレジットの与信判断の例。「消費者金融、スマホ申し込み9割 LINEはペイ借り入れも」日経新聞記事より)

2.プロファイリングと差別の問題
2022年4月に公表された、商事法務の「パーソナルデータ+α研究会」の「プロファイリングに関する最終提言」4頁によると、AI等によるプロファイリングとは「パーソナルデータとアルゴリズムを用いて、特定の個人の趣味嗜好、能力、信用力、知性、振る舞いなどを分析・予測すること」と定義されています。そしてプロファイリングの具体例は「融資の場面におけるAIを用いた個人の信用力の測定」などであるとされています。つまりLINEポケットマネーおよびLINEスコアはAIによるプロファイリングの問題といえます。

そしてプロファイリングにおいては差別のおそれが重要なリスクです。つまり、AIに学習させた個人データのデータセットに、もし人種や性別などの個人の属性に関するバイアス(偏り)が存在していた場合、そのバイアスが含まれた評価結果が生成され、結果として審査等の対象となる個人が不当な差別を受けるおそれがあります。

例えば2018年に米アマゾンがAIを用いた人事採用システムを導入した後、女性の評価が不当に低い欠陥が発覚し当該システムの利用を取りやめた事例は注目を集めました。このように不当な差別が意図せず生じてしまうことに、AIによるプロファイリングの恐ろしさがあります。また、AIを活用した機械的な審査では、対象者のスキルや実績などを十分に評価できず、特定の属性を持つ者に対して不当に厳しい条件が出力されてしまうおそれもあり、人間による判断が介在しないことは危険であると考えられます(久保田真悟「プロファイリングのリスクと実務上の留意点」『銀行法務21』890号(2022年10月号)45頁、47頁)。

この点、LINEポケットマネー・LINEスコアの「1か月前より友だち(連絡先)が減少した場合には、延滞や貸し倒れの確立(リスク)が2倍になった」等のAIの機械学習による評価結果には本当に不当な差別を招くバイアスが含まれていないかには疑問が残ります。(なおLINEポケットマネーのサイトを読むと「10分で融資可能か審査します」等と記載されており、人間の判断が介在していないのではと思われます。)

3.プロファイリングにおける要配慮個人情報の推知と取得の問題
プロファイリングによる個人データの生成行為(あるいは推知)が要配慮個人情報の「取得」に該当するかについては重要な解釈問題として議論されています(宇賀克也『新・個人情報保護法の逐条解説』215頁)。

しかしプライバシー権(憲法13条)との関係上、プロファイリングは要配慮個人情報やセンシティブ情報について、直接これらの情報を取得せずとも高い確率でこれらの情報を推知可能です。つまりプロファイリングによる要配慮個人情報の推知は取得とほぼ異ならないため、実務上は要配慮個人情報やセンシティブ情報の推知を取得とみなして業務対応を行うべきとの指摘がなされています(久保田・前掲46頁)。

この点、要配慮個人情報の取得については「本人の同意」が必要であるところ(個人情報保護法20条2項)、LINEポケットマネー(同クレジット)およびLINEスコアのプライバシーポリシーを読むと、「与信・融資の審査のために要配慮個人情報を取得・利用する」等との明示はなされておらず、本人の同意は十分に取得されていないのではないかとの疑問が残ります。(「本人の同意」については後述。)

(なお、LINE社のプレスリリース「【LINE】「LINE」、スペインの登録ユーザー数がヨーロッパ圏で初めて1,000万人を突破」などによると、LINEのスペインのユーザーは1000万人を超えているそうです。欧州のGDPR(一般データ保護規則)22条1項は、コンピュータやAIによる個人データの自動処理の結果のみをもって法的決定や重要な決定を下されない権利を規定し、同条2項はそのような処理のためには本人の明確な同意が必要であると規定しています。そのため、もしLINEポケットマネーのサービスがスペイン等の欧州のユーザーに提供されていた場合、LINEはGDPR22条2項違反のおそれがあります。)

4.「本人の同意」の方式をLINEは満たしているか?
個人情報保護法は上でみた法20条2項だけでなく、法18条(利用目的の制限)、法27条(第三者提供の制限)、法28条(外国にある第三者への提供の制限)および法31条(個人関連情報の提供の制限)などの場面で本人の同意の取得を事業者に義務付けています。この本人の同意の方法については、「事業の性質および個人情報の取得状況に応じ、本人が同意に係る判断を行うために必要と考えられる合理的かつ適切な方法」によらなければならないと解されています(岡村久道『個人情報保護法 第4版』119頁)。

そして金融業や信用業務に関しては一般の事業よりもデリケートな個人情報を扱うため、それぞれの分野の個人情報保護に関するガイドラインが制定されています。「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン」3条は、金融機関に対して、本人の同意を得る場合には、原則として書面(電磁的記録を含む)によるとした上で、事業者が事前に作成した同意書面を用いる場合には、文字の大きさ及び文書の表現を変える等の措置を講じることが望ましいとしています。

また「信用分野における個人情報保護に関するガイドライン」Ⅱ.1.(3)は、与信事業者は本人の同意を得る場合には、原則として書面(電磁的記録を含む)によることとし、文字の大きさ、文章の表現その他の消費者の理解に影響する事項について消費者の理解を容易にするための講じることを義務付けています。債権管理回収業ガイドラインもほぼ同様の規定を置いています(岡村・前掲121頁)。

この点、LINEポケットマネーのユーザーの申込み画面をみると、つぎの画像のように、LINEクレジット(LINEポケットマネー)やLINEスコアの利用規約やプライバシーポリシーへのリンク一覧が貼られ、そのリンク横にチェックを入れる画面があるだけで「次へ」と進むボタンがあるだけとなっています。

LINEポケットマネー同意画面
(LINEポケットマネーの申込みの際の同意画面)

それぞれのプライバシーポリシーを個別に見ても、プロファイリングや要配慮個人情報を取得(または推知)することを明示した条項はありません。(LINEポケットマネーのプライバシーポリシーの「3.機微(センシティブ情報の取扱い)」には、「(7)保険業その他金融分野の事業のため」との条項があるが、「与信」、「融資」または「信用」などの明示はなく、文字の大きさや文章の表現などの工夫もなされていない。)

したがってLINEポケットマネーのサービスは、「文字の大きさ、文章の表現その他の消費者の理解に影響する事項について消費者の理解を容易にするための講じる」等の信用分野個人情報保護ガイドラインⅡ.1.(3)などの規定への違反があるといえます。

また、LINEポケットマネーのプライバシーポリシーを見ると、韓国の関連会社(決済・バンキングシステムのLINE Biz Plus等)に業務委託を行っているとありますが、外国にある第三者(韓国の関連会社)への業務委託があるにもかかわらず、上でみたようにユーザーの本人の同意を明確に得ていないことは、これも個人情報保護法28条や信用分野個人情報保護ガイドラインⅡ.1.(3)などの規定への違反であると思われます。(法28条(外国にある第三者への提供の制限)の「提供」には、「委託」や「共同利用」なども含むため。)

5.まとめ
このように、LINEポケットマネーおよびLINEスコアのサービスは、プロファイリングについて不当な差別のおそれがあり、また特に要配慮個人情報の推知・取得について個人情報保護法20条2項などの違反の可能性があり、さらにユーザーの本人の同意の取得について法28条や信用分野個人情報保護ガイドラインⅡ.1.(3)等の違反の可能性があると思われます。

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■参考文献
・宇賀克也『新・個人情報保護法の逐条解説』215頁
・岡村久道『個人情報保護法 第4版』119頁、121頁
・山本龍彦「AIと個人の尊重、プライバシー」『AIと憲法』59頁
・久保田真悟「プロファイリングのリスクと実務上の留意点」『銀行法務21』890号(2022年10月号)44頁
・ヤフーの信用スコアはなぜ知恵袋スコアになってしまったのか|高木浩光@自宅の日記
・「消費者金融、スマホ申し込み9割 LINEはペイ借り入れも」|日本経済新聞
・「プロファイリングに関する最終提言」|商事法務「パーソナルデータ+α研究会」

■関連する記事
・日銀『プライバシーの経済学入門』の「プロファイリングによって取得した情報は「個人情報」には該当しない」を個人情報保護法的に考えた(追記あり)
・LINEの個人情報・通信の秘密の中国・韓国への漏洩事故を個人情報保護法・電気通信事業法から考えた
・LINEの改正プライバシーポリシーがいろいろとひどいー委託の「混ぜるな危険」の問題・外国にある第三者
・ヤフーのYahoo!スコアは個人情報保護法的に大丈夫なのか?



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1.LINE社のLINE通知メッセージ
ネット上でLINEの「LINE通知メッセージ」は個人情報保護法的に大丈夫なのか?という声があがっています。

「LINE通知メッセージ」とは、郵便局(日本郵便)の「郵便局eお届け通知」などのメッセージが、郵便局等のアカウントを友だち追加していなくても勝手に突然届くサービスのことです。LINE社の説明サイト「LINE通知メッセージを受信する方法」などによると、本サービスは郵便局などの提携事業者から電話番号とメッセージを、委託されたLINE社が自社が保有する顧客個人データの電話番号と突合し、該当するユーザーに当該メッセージを送信するものであるそうです。またLINE社は該当するユーザーのユーザー識別符号を郵便局などの提携事業者に第三者提供するそうです。そしてユーザー本人はLINEの設定画面からこのユーザー識別符号の提供をオプトアウト手続きで停止することができるとされています。

結論を先取りしてしまうと、この「LINE通知メッセージ」は、①いわゆる委託の「混ぜるな危険」の問題(個人情報保護法27条5項1号)の違反②提携企業にユーザー識別符号をオプトアウト方式で提供するとなっていること等がプライバシーポリシーに明記がなく法27条2項違反、の2点で違法なのではないかと思われます。

2.委託の「混ぜるな危険」の問題
個人情報保護委員会(PPC)の個人情報保護法ガイドラインQA7-41は、委託に伴って委託元から提供された個人データを委託先が独自に取得した個人データ又は個人関連情報と本人ごとに突合することはできないとしています。

これは「委託」(個人情報保護法27条5項1号)とは、PCへのデータ入力など委託元ができる業務を委託先に委託するスキームであり、委託元ができないことを委託先に行わせることは「委託」のスキームを超えるものであるからです。これはいわゆる「委託の「混ぜるな危険」の問題」と呼ばれるものです(岡村久道『個人情報保護法 第4版』327頁、田中浩之・北山昇「個人データ取扱いにおける「委託」の範囲」『ビジネス法務』2020年8月号29頁)。

個人情報保護法ガイドラインQA7-41
(個人情報保護法ガイドラインQA7-41。個人情報保護委員会サイトより)

この点、LINE社の「LINE通知サービス」は日本郵便などの委託元から提供された電話番号という個人データを委託先であるLINE社が独自に収集して保有するユーザーの電話番号等の個人データと突合し、該当するユーザーに提供されたメッセージ等を表示するものであり、個人情報保護法の「委託」のスキームを踏み越えており違法なものです(法27条5項1号、個人情報保護法ガイドラインQA7-41)。(もしLINE社がこのような業務を行うためには、第三者提供の原則に戻って、ユーザー本人のあらかじめの本人の同意が必要となります(法27条1項)。)

3.「LINE通知サービス」のオプトアウト手続き
つぎに、個人情報保護法27条2項はオプトアウト方式による第三者提供のためには、第三者に個人データをオプトアウト方式で提供することをプライバシーポリシーなどの利用目的に明示すること(法27条2項2号)や、本人はオプトアウトできること(同6号)等の事項をあらかじめプライバシーポリシー等に表示しなければならないと規定していますが、LINE社のLINEのプライバシーポリシーにはその明示がありません。 パーソナルデータの利用目的
(LINEの「パーソナルデータの利用目的」。LINE社のLINEプライバシーポリシーより)

そして、LINEプライバシーポリシーの「4.d.お客様に最適化されたコンテンツの提供」と、Google検索などでようやく出てくる「LINE通知メッセージを受信する方法」サイトやLINEの設定画面などを読んでようやく「LINE通知サービス」の概要とオプトアウト方法が分かるのは、個人情報保護法27条2項違反と言わざるを得ないのではないでしょうか。 お客様に最適化されたコンテンツの提供
(LINEプライバシーポリシーの「4.d.お客様に最適化されたコンテンツの提供」より)

LINE通知メッセージを受信する方法
(LINE社サイト「LINE通知メッセージを受信する方法」より)

LINE通知メッセージの設定画面
(LINEアプリの設定画面の「LINE通知メッセージの設定画面」より)

4.個人情報・個人関連情報
なお、LINE社はユーザー識別符号や電話番号は個人情報ではないと反論するかもしれません。しかし、提供元のLINE社内の顧客情報DB等を照合して、「個人に関する情報」であって「あの人、この人」と「個人を識別できるもの」は個人情報です(法2条1項1号)。

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(鈴木正朝・高木浩光・山本一郎『ニッポンの個人情報』20頁より)

また、万一、これらのユーザー識別符号や電話番号が個人情報でないとしても個人関連情報に該当するので、第三者提供にはやはり本人の同意が必要です(法31条1項1号)。

5.まとめ
このように、「LINE通知メッセージ」は、①いわゆる委託の「混ぜるな危険」の問題(個人情報保護法27条5項1号)の違反②提携企業にユーザー識別符号をオプトアウト方式で提供するとなっていること等がプライバシーポリシーに明記がなく法27条2項違反、の2点で違法なのではないかと思われます。

LINE社のLINEは2021年3月に、峯村健司氏などの朝日新聞のスクープ報道により個人情報の杜撰な取扱いが発覚し、大きな社会問題となり、個人情報保護委員会と総務省から行政指導を受けました。また内閣官房・個人情報保護委員会・金融庁などは、行政機関・自治体のLINE利用のガイドラインを制定する等しました。Zホールディングスが設置した有識者委員会の最終報告書は、LINE社内の情報セキュリティ部門などが繰り返し問題点を経営陣に伝えていたのに、出澤剛社長ら経営陣はそれらの問題の解決を放置していたことなど、LINE社の経営陣はコンプライアンスやガバナンスの意識が欠落していたことを指摘していました。出澤社長を始めとするLINE社は、コンプライアンスとガバナンスの徹底を記者会見などで誓ったはずですが、この「LINE通知メッセージ」の個人情報保護法違反の問題には、LINE社の姿勢に大きな疑問が残ります。

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■関連する記事
・LINEの個人情報・通信の秘密の中国・韓国への漏洩事故を個人情報保護法・電気通信事業法から考えた
・LINEの個人情報事件に関するZホールディンクスの有識者委員会の最終報告書を読んでみた
・LINEの改正プライバシーポリシーがいろいろとひどいー委託の「混ぜるな危険」の問題・外国にある第三者
・LINE Pay の約13万人の決済情報がGitHub上に公開されていたことを考えた
・令和2年改正の個人情報保護法ガイドラインQ&Aの「委託」の解説からTポイントのCCCの「他社データと組み合わせた個人情報の利用」を考えた-「委託の混ぜるな危険の問題」
・CCCがトレジャーデータと提携しTポイントの個人データを販売することで炎上中なことを考えたー委託の「混ぜるな危険」の問題

■参考文献
・岡村久道『個人情報保護法 第4版』319頁
・田中浩之・北山昇「個人データ取扱いにおける「委託」の範囲」『ビジネス法務』2020年8月号29頁
・鈴木正朝・高木浩光・山本一郎『ニッポンの個人情報』20頁













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1.LINEの個人情報・通信の秘密に関する不祥事が発覚
2021年10月18日に、LINEの個人情報の事件に関するZホールディングスの有識者委員会の最終報告書が公表されました。

・「グローバルなデータガバナンスに関する特別委員会」最終報告書受領および今後のグループガバナンス強化について|Zホールディングス

朝日新聞の編集委員の峰村健司氏などによる2021年3月17日付のスクープ報道により、通信アプリ大手LINE(国内の月間利用者約8900万人・2021年9月現在)を運営するLINE社が、中国の関連会社にシステム開発やユーザーから通報を受けた投稿等に問題がないかどうかのチェックなどの業務を委託し、中国関連会社の技術者らが日本のLINEのサーバーの個人情報にアクセスすることができる状態にあったことや、日本のユーザーの画像データ、動画データなどのすべての個人データがLINE社の韓国の関連会社のサーバーに保存されていることが発覚し、LINE社とその親会社のZホールディングス社には大きな社会的非難が起きました。
・【独自】LINEの個人情報管理に不備 中国の委託先が接続可能|朝日新聞

■参考
・LINEの個人情報・通信の秘密の中国・韓国への漏洩事故を個人情報保護法・電気通信事業法から考えた

このLINEの事件に関しては、日本の約8900万人の個人データが中国の関連会社からアクセス可能であったことや、日本のユーザーの膨大な個人データが韓国の関連会社のサーバーに保管されていたこと等が、国民の個人情報保護やプライバシー保護の問題だけでなく、政府与党の要人や大企業の経営陣などの挙動が海外に密かに知られてしまうリスクや、国家の機密や大企業などの営業秘密などが海外に漏洩してしまうリスクとして、「経済安全保障」という新しいリスクとして社会的な大きな注目を集めました。

このLINEの事件を受けて総務省など国の官庁や多くの自治体は、LINEを利用した行政サービスを中止する事態となりました。

このLINE事件に関しては4月23日付で個人情報保護委員会がLINE社に対して行政指導を実施し、4月26日付で総務省がLINE社に行政指導を実施しました。また、個人情報保護委員会・総務省・金融庁・内閣官房は4月30日付で、「政府機関・地方公共団体等における業務でのLINE利用状況調査を踏まえた今後のLINEサービス等の利用の際の考え方(ガイドライン)」を制定・公表しました。しかし個人情報保護委員会はプレスリリースで、現在もLINE社に対する調査は続行中であることを公表していました。
・個人情報の保護に関する法律に基づく行政上の対応について(LINE株式会社・令和3年4月23日)|個人情報保護委員会
・LINE株式会社に対する指導|総務省
・「政府機関・地方公共団体等における業務でのLINE利用状況調査を踏まえた今後のLINEサービス等の利用の際の考え方(ガイドライン)」の公表について|金融庁

これに対してZホールディングス社はLINEの問題に関する有識者による調査委員会(「グローバルなデータガバナンスに関する特別委員会」、座長・宍戸常寿・東大教授(憲法・情報法))を設置し、調査を開始し、6月11日付で第一次報告書を公表しました。
・LINEの個人情報事件に関する有識者委員会の第一次報告書をZホールディンクスが公表

2.最終報告書
その後、2021年10月18日付でZホールディングス社の有識者委員会はLINEの事件に関する最終報告書を公表し、また同日、有識者委員会は座長の宍戸教授と川口洋委員(株式会社川口設計代表取締役)が記者会見を行いました。

・「グローバルなデータガバナンスに関する特別委員会」最終報告|Zホールディングス

このブログでは、LINEの個人情報などに関する不祥事について何回か取り上げてきましたが、本ブログ記事では、この最終報告書を簡単にみてみたいと思います。

3.中国の関連会社について
本最終報告書20頁以下を読むと、LINE社の情報セキュリティ部門は、外部の法律事務所に委託して中国のリーガルリスクの検討を行っていたが、2015年頃に中国向けアプリサービスを中止したことを受け、法律事務所に委託して中国のリーガルリスクを検討することが中断したとされています。そのため、「中国の国民や法人は中国政府の情報活動に協力する法的義務がある」(中国国家情報法7条)との規定がある2017年に中国で制定された中国国家情報法のリーガルチェックがLINE社において会社組織として漏れていたとされています(本最終報告書20頁)。

ライン2
(Zホールディングス社サイトより)

また、本最終報告書によると、有識者委員会の技術部会がログなどから調査を行ったところ、中国の関連会社の職員によるシステムの保守・開発や通報を受けたメッセージや画像などの確認のために、日本のサーバーにアクセスした件数は、2021年3月23日にLINE社が行った個人情報保護委員会及び総務省への報告においては、LINEアプリのトークに関して通報されたメッセージに係る情報を閲覧し得る権限によるアクセスについては132件、そのうちLINEアプリのトークに関して通報されたメッセージの内容を直接閲覧できるURLへのアクセスは32件としていたところ、その後の調査で、LINE社は、LINEアプリのトークに関して通報されたメッセージに係る情報を閲覧し得る権限によるアクセスについては132件から139件に、LINEアプリのトークに関して通報されたメッセージの内容を直接閲覧できるページ(URL)へのアクセスについては32件から35件が確認されたとしています(本最終報告書24頁注18)。

ただし、ログは一部しか保管がされていなかったことや、ページ(URL)へのアクセスのログはあっても、そのアクセスで具体的にどのような操作を行ったかのログは残っていないこと等も、本最終報告書には記載されており(本最終報告書24頁)、これらのアクセスの数字がどこまで正確なのか不明であり、また中国関連会社の職員等が具体的にアクセスしたメッセージに対して中国当局の諜報活動に協力する等のために当該メッセージをコピー等して別の端末などに保存した等の行為があったか否かについては不明のままです。

また、法律事務所などによる詳細なリーガルチェックは中断していたものの、その期間中もLINE社の情報セキュリティ部門は、「中国に関するサイバーセキュリティリスクとして、例えば、Huaweiに代表される中国企業の製品利用に関わるリスクや、中国のハッカー集団による攻撃リスク等、中国企業や政府に絡んだサイバー攻撃のリスクを認識し、分析・対応」しており、中国にはサイバーセキュリティリスクがある旨を経営陣に報告していたが、経営陣はそのような中国のセキュリティリスクを経営上の課題として適切に取り上げ、対応をしていなかったと本報告書は記述しています(本最終報告書24頁)。

ところが、本最終報告書は、技術部会によるログのチェックなどから、「これらは、開発及び保守プロセスにおける正規の作業であるということが確認された。このことから、技術検証部会におけるこれらの調査による限り、調査対象期間(2020年3月19日から2021年3月19日)において、LINE China社から外部の組織に対して、LMPに関する情報の漏えいは認められなかった。」(本最終報告書24頁)との、「情報漏洩は発生していない」との結論を導き出していますが、これは不祥事に対する有識者委員会の報告書としてあまり正しくないのではないでしょうか。

ライン24
(Zホールディングス社サイトより)

ただし、情報セキュリティ部門からの中国のセキュリティ上のリスクの報告があったにもかかわらず経営陣が適切な対応をとらなかったことに関して、本最終報告書は「このように経営陣がLINE社に求められるガバメントアクセスのリスクの検討やそれへの対応を怠ったと考えられ、結果、通信内容である送受信されたテキスト、画像、動画及びファイル(PDFなど)のうち、ユーザーから通報されたものについて、個人情報保護法制が著しく異なる中国の委託先企業からの継続的なアクセスを許容していたことは、極めて不適切であったと、本委員会は判断する。」(本最終報告書26頁)としていることは正当な評価であると思われます。

この点、中国の国家情報法については、制定された2017年前後においては、日本のマスメディアなどもこれを大きく取り上げ、同法7条により中国の個人・法人が中国当局の諜報活動・情報活動に協力する義務があることは国・大企業の役職員などにおいて公知の事柄であったにもかかわらず、かつ、社内の情報セキュリティ部門からの報告・進言があったにもかかわらず、LINE社の経営陣がLINEのシステムの保守・開発や通報のあったメッセージなどの監視・モニタリングなどの業務の委託を中国関連会社に漫然と継続し、中国関連会社からの日本のサーバーへのアクセス権の見直しなどの対応を実施していなかったことは、LINE社の個人情報取扱事業者としての安全管理措置(個人情報保護法20条)や、委託先の監督(同法22条)の明確な違反であると思われます。

個人情報保護法

(安全管理措置)
第20条 個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又はき損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。

(委託先の監督)
第22条 個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。

つまり、個人情報保護委員会の「個人情報保護法ガイドライン(通則編)」「8(別添)講ずべき安全管理措置の内容」「8-3 組織的安全管理措置」は、「(5)取扱状況の把握及び安全管理措置の見直し」として「個人データの取扱状況を把握し、安全管理措置の評価、見直し及び改善に取り組まなければならない。」と規定しています。

83組織的安全管理措置
(個人情報保護委員会「個人情報保護法ガイドライン(通則編)8-3 組織的安全管理措置」より)

また、同ガイドラインの「8-6 技術的安全管理措置」「(1)アクセス制御」として「担当者及び取り扱う個人情報データベース等の範囲を限定するために、適切なアクセス制御を行わなければならない。」と規定しており、LINE社の経営陣はこれらの安全管理措置を完全に怠っているからです。

84技術的安全管理措置
(個人情報保護委員会「個人情報保護法ガイドライン(通則編)8-6 技術的的安全管理措置」より)

4.韓国の関連会社について
また有識者委員会の第一次報告書でも、LINE社は日本の国・自治体に対して、「LINEの個人情報を扱う主要なサーバーは日本国内にある」との虚偽の説明を2013年、2015年、2018年の3回実施していたことを公表しましたが、今回の最終報告書も同様の記述をしています。

LINE社の公共政策・政策渉外部門の担当者達「「LINEアプリの日本ユーザーに関する全てのデータが『日本に閉じている』旨の説明を国・自治体にしていたとされています。

しかしその理由について、本最終報告書は「本委員会による調査の範囲においては、公共政策・政策渉外部門の役職者が、上記の説明に反して、LINEアプリの画像や動画、ファイル(PDFなど)が韓国に保管されている事実を認識していたことを示す事実は確認されなかった」という不可解な結論を本文で示しています(本最終報告書46頁)。

しかし本最終報告書は同時に、脚注部分で、「公共政策・政策渉外部門の役職者のみが韓国サーバーに個人データが保存されていることを知らなかったとは考え難い」との委員の反対意見を付記しています(本最終報告書46頁注35)。

また、有識者委員会は、公共政策・政策渉外部門の役職者達「「LINEアプリの日本ユーザーに関する全てのデータが『日本に閉じている』」旨の説明を国・自治体にしていたことの理由をLINE社の経営陣にヒアリングしたところ、出澤代表取締役社長CEO(ChiefExecutiveOfficer)をはじめとするLINE社の経営陣(取締役)は、いずれも画像、動画及びファイル(PDFなど)は韓国で保管されていると認識していた一方、このような説明が行われていた事実を認識していなかったと説明した。このほか、本委員会による調査の範囲においては、LINE社の経営陣が公共政策・政策渉外部門の役職員が当該説明を行っていたことについて関与した事実は認められなかった。と本文では結論づけられてしまっています(本最終報告書47頁)。

しかしこの点に関しても、本最終報告者は脚注部分で、「本委員会では、本文の結論に対し、以下のとおり反対意見があった。公共政策・政策渉外部門の役職員による「日本に閉じている」との説明は、本文記載のとおり、地方公共団体、中央省庁、政党等の公的機関に対し繰り返してなされたものであり、本委員会の委員の中にも直接これを耳にしたことがある者が複数名存在した。「日本に閉じている」という説明は、まさに公然と繰り返されていたと評価しうるのである。それにもかかわらず、LINE社の上級役員らがこの説明のことを知らなかったとは、およそ信じがたいところである。むしろ、上級役員らはこの説明を知っており、上級役員らの「韓国色を隠す」という意向・方針に沿ってこのような説明が繰り返されたと考えるのが自然である。との委員からの反対意見を付加しています(本最終報告書47頁注37)。

ライン47
(本最終報告書47頁注37より)

これは、ここ最近の10年、20年の日韓関係が冷え込んでいる状況から、LINE社が、LINEがもともと韓国のものであるという「韓国色」を明確にすると、日本の利用者・ユーザーからの不評を買い、LINEサービス利用の低下などの風評リスクが発生することを恐れたLINE社の経営陣や役職員達が、「韓国色隠し」を全社的に行っていた結果、日本の国・自治体や一般国民や企業などへの説明も、「LINEアプリの日本ユーザーに関する全てのデータが『日本に閉じている』」という趣旨の虚偽のものになってしまったと考えるのが自然なのではないでしょうか。

本最終報告書がこのように切り込み不足・踏み込み不足で、結果としてLINE社やZホールディングス社に有利となるような結論ばかりが目につくのは、この報告書のための調査や作成を行った委員会は外部の弁護士などによる第三者委員会ではなく、あくまでも有識者委員会であることの限界なのではないでしょうか。

現に、本有識者委員会の座長の宍戸常寿教授は、LINE社の傘下団体である一般財団法人 情報法制研究所(JILIS)参与であり、この有識者委員会の報告書は自然とLINE社やZホールディングスに忖度した内容となってしまっているのではないでしょうか。
・メンバー紹介|情報法制研究所

(なお、このように特定のIT企業と関係の深い情報法制研究所に、日本の著名な情報法や情報セキュリティの学者・研究者の先生方のほとんどが所属しておられる状況は、日本の情報法学の健全な発展や学問の自由(憲法23条)を阻害しないのか懸念が残ります。)

いずれにせよ、上でみた、中国の国家情報法によるセキュリティ上のリスクへの対応を漫然と放置していたことや、日本の国・自治体や国民・法人・ユーザーに対して「韓国色隠し」の虚偽の説明を行っていたこと等について、LINE社の出澤剛社長をはじめとする経営陣は今後、取締役の善管注意義務・忠実義務などの法的責任経営責任について、株主代表訴訟なども含めて、会社や株主、ユーザー・利用者、監督官庁・国民などから厳しく責任を追及されるのは必至であろうと思われます。(会社法355条、423条、429条、847条、民法644条など、江頭憲治郎『株式会社法 第7版』434頁、469頁)。

会社法
(忠実義務)
第355条 取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。

(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
第423条 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この章において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法
(受任者の注意義務)
第644条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

5.LINEpayの問題
さらに、LINEpayについては、LINE社は資金決済法39条に基づき、資金移動業を行うための申請書類として、商号及び住所、資本金の額、「資金移動業の一部を第三者に委託する場合にあっては、当該委託に係る業務の内容並びにその委託先の氏名又は商号若しくは名称及び住所」(同法38条1項9号)などを金融庁・財務局に申請し、金融庁・財務局は登録簿(資金移動業者登録簿)に登録する必要があるところ、LINE社は韓国、台湾及びタイの子会社にも資金移動業を委託していたにもかかわらずその申請を怠っており、金融庁の登録簿と現実に齟齬が発生していたことが本最終報告書では明らかにされています(本最終報告書70頁)。

キャッシュレス決済の資金移動業という金融機関の業務に関する申請書類において、金融庁への申請漏れがあったということは、金融業としては重大なミスであり、金融庁・財務局はヒアリングや報告徴求立入検査などを実施し(資金決済法54条)、業務改善命令(同55条)などの行政処分をLINE社に対して発出すべき事態ではないでしょうか(堀天子『実務解説 資金決済法 第3版』160頁、167頁、177頁)。

こういったところにも、LINE社がベンチャー企業として急成長した企業にありがちなように、利益の追求や業務の拡大には熱心な一方で、コンプライアンスガバナンスなどをおろそかにしている傾向がみられます。

6.LINEヘルスケア・LINEドクターなどの問題
本年3月には、LINE社は韓国の関連会社のサーバーに保管されている日本のユーザーの画像データ・動画データなどの個人データを日本のサーバーに移動させる方針を発表しました。この点に関して、本最終報告書はおおむね予定通り進んでいるとしています(本最終報告書27頁)。

しかし、LINEヘルスケア・LINEドクターに関して本最終報告書を読んでみると、LINEヘルスケア・LINEドクター等に関連する決済関係の情報(医療機関名称、所在地、担当者氏名、決済情報等)が、現在でも、韓国のLINEグループの財務情報システムに保存されており、このデータに関しては日本に移転するか否か検討中となっています(本最終報告書71頁、72頁)。

ライン72
(Zホールディングス社サイトより)

医療に関連するデータがまだ韓国の関連会社のサーバーに残っていて、しかもLINE社は当該データを日本に移転させるか否か検討中としている点については、医療データはセンシティブな個人情報であることに鑑み、厚労省や個人情報保護委員会は、これらのデータも日本に移転させるように行政指導などを実施すべきではないでしょうか。

欧州のGDPR(EU一般データ保護規則)などでは、医療データ・健康データや生体データなど「特別カテゴリーの個人データ」(GDPR9条)として厳格な取扱いが要求され、クレジットカードなどの金融関連のデータ個人データの取扱の安全性を規定するGDPR32条により厳格な取扱いが要求されます。

これに対して日本は、平成27年の個人情報保護法の改正で思想・信条や病歴、犯罪歴などに関する「要配慮個人情報」(法2条3項)という用語を新設しました。しかし、最近のJR東日本の防犯カメラ・顔認証技術による犯罪歴のある人物や不審者などの監視の問題などに見れれるように、日本は医療データや金融データなどのセンシティブな個人データの企業などによる取扱に関して中央官庁の対応が非常に甘すぎるのではないかと強く懸念されます。

7.虚偽の報告の罰則の可能性?
今回の最終報告書では、中国などの委託先企業からのアクセス件数がこれまでの報告書よりさらに増加したことや、LINE社の出澤社長ら経営陣が「日本の個人データは日本にある」との国・自治体や国民・法人への3回の虚偽の説明に関して「関与していない」等と主張してる件などについて、個人情報保護法85条は、個人情報保護委員会が報告徴求や立入検査をした場合(法40条)に事業者が虚偽の報告や検査忌避などをした場合の罰則を規定しているところ、この罰則が発動されるのか個人的には気になるところです。

LINE社内のコンプライアンスやガバナンスが極めて低いレベルであることから、個人情報保護委員会による追加の報告徴求・立入検査や、追加の行政指導等は必至と思われますし、金融庁や厚労省等も少しは行政指導・行政処分を実施すべきではないかと一般国民としては考えます。

8.「通信の秘密」について
なお、本最終報告書も個人情報保護法や情報セキュリティに関する検討がほとんどで、憲法21条2項が明記し、電気通信事業法4条や同179条が罰則付きで明示する「通信の秘密」に関して、有識者委員会がほとんど検討を行っていないことが気になります。座長の宍戸教授などをはじめ、憲法・情報法の専門家の先生方が委員を務めておられるにもかかわらずです。

日本国憲法
第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

電気通信事業法
(秘密の保護)
第4条 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。
 電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。

【追記】 LINE社は、総務省に届出を行い通信事業を行っている電気通信事業者です(届出番号A-20-9913)。そのためLINE社は電気通信事業法が定める「通信の秘密」(法4条)などを遵守する義務を負っています。)

電気通信事業法4条の「通信の秘密」には、通信の内容や本文が保護対象となるのは当然として、宛先や差出人、通信をした年月日、通信の有無、電子メールやネットなどの場合にはヘッダー情報、メタデータなどの通信の外形的な事項も含まれるとされています。そして「通信の秘密」については、「緊急避難」、「正当業務行為」あるいは利用者の「本人の同意」などがあった場合には、通信の秘密侵害は例外的に許容されるとされています(曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説 第2版』53頁、大阪高裁昭和41年2月26日判決、實原隆志『新・判例ハンドブック 情報法』(宍戸常寿編)140頁)。

しかし、今回のLINEの事件については、中国の関連会社が日本のサーバーにアクセス可能であったことや、日本のユーザーの画像データ・動画データなどのすべてが韓国のサーバーに保存されていたこと等は、緊急避難、正当業務行為、本人の同意、のいずれにも該当せず、やはりLINE社の日本のユーザーの情報の雑然とした取扱いは、個人情報保護法上問題となるだけでなく、電気通信事業法の観点からも違法となり罰則などが適用されるべき状況なのではないでしょうか。

ところが、総務省が2021年4月26日付で行ったLINE社に対する行政指導においては、個人情報保護法上の安全管理措置や情報セキュリティなどに関する指導が行われている一方で、「通信の秘密」に関しては何故かほとんどスルーされています。
・LINEの通信の秘密の問題に対して総務省が行政指導を実施

総務省は、2021年9月30日にはインターネットイニシアティブ(IIJ)に対しては、通信の秘密侵害があったとして行政指導を実施していますが、LINE社に対しては通信の秘密侵害について行政指導等を実施しないことは、行政の公平性・中立性(憲法15条2項、国家公務員法96条1項)が害される不公平な状況なのではないでしょうか。
・株式会社インターネットイニシアティブに対する通信の秘密の保護及び個人情報の適正な管理に係る措置(指導)|総務省

(なお、本最終報告書はその他にも、警察等からの照会へのLINE社の対応や、LINE社と情報法制研究所(JILIS)との関係などについても調査・検討しているのは興味深いものがあります。)

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■参考文献
・岡村久道『個人情報保護法 第3版』87頁、218頁、220頁、227頁
・曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説 第2版』53頁
・實原隆志『新・判例ハンドブック 情報法』(宍戸常寿編)140頁
・小向太郎・石井夏生利『概説GDPR』64頁、105頁
・江頭憲治郎『株式会社法 第7版』434頁、469頁
・堀天子『実務解説 資金決済法 第3版』160頁、167頁、177頁

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