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とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

タグ:匿名加工情報

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2024年7月8日付で東京都が「個人情報の漏えい」というプレスリリースを出しています。
・個人情報の漏えい|東京都

本リリースを読むと、「東京都産業労働局(委託元)と公益財団法人東京しごと財団(委託先)は、「シニア中小企業サポート人材プログラム」という再就職のためのプログラムを実施しているところ、このプログラムの希望者56名について、本来、個人が特定されないよう匿名加工を施した人材情報を提供すべきところ、個人が特定できる内部保存用のファイルを、488社に対しEメールで誤って送付した。」というのが本個人情報漏洩事故の概要のようです。

ところが本リリースの「漏洩した個人情報」の部分を読むと、つぎのようになっています。

3 漏えいした個人情報
本来送信予定の項目
「希望職種」「希望条件」「主な職歴」「資格、自己PR」「最寄駅」

実際に送信してしまった項目
上記に加え、「漢字氏名」「年齢」「性別」
漏洩した個人情報

・・・これは「匿名加工情報」(個人情報保護法2条6項)の問題なのでしょうか?つまり、東京都産業労働局および東京しごと財団は、個人情報の生データ(「希望職種」「希望条件」「主な職歴」「資格、自己PR」「最寄駅」)から氏名・年齢・性別などを除外しただけのデータを「匿名加工」した個人情報ではないデータと認識しているということなのでしょうか?(もしそうであるなら、東京都産業労働局および東京しごと財団における情報管理が心配です。)

そこで東京都産業労働局および東京しごと財団に電話で質問してみたところ、おおむね次のような回答でした。

〇「Excelで人材情報を管理しているところ、「希望職種」「希望条件」「主な職歴」「資格、自己PR」「最寄駅」などのデータから、氏名・年齢・性別を除外したデータなので「匿名加工」とプレスリリースに標記した。」

〇「ただしこれらの情報を求人企業に第三者提供するにあたっては、求職者の本人同意は得ている。」

〇「「匿名加工」という記載が妥当ではないとのご意見に関しては、貴重なご意見としてうけたまわる。」

いうまでもなく個人情報保護法上の「匿名加工情報」は、「次の各号に掲げる個人情報の区分に応じて当該各号に定める措置を講じて特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報であって、当該個人情報を復元することができないようにしたものをいう。」(法2条6項)であり、個人データの生データのデータセットから氏名・住所などを削除しただけでは匿名加工情報とはいえず、このデータは以前として個人情報・個人データです。

本プレスリリースによると、東京都産業労働局は再発防止策として、「個人情報の適切な取扱い及びメール送信内容のダブルチェックを改めて徹底する。」「産業労働局における、委託業務を含めた個人情報の適切な管理について、改めて注意喚起を行った。」の2点をあげていますが、まずは東京都産業労働局および東京しごと財団における個人情報保護法の再教育を実施したほうがよいのではと思いました。

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東京都調布市が「調布市個人情報保護法施行条例(案)の概要」のパブコメ手続きを行っていたので、私も次のような意見を作成して送ってみました(2022年10月11日まで)。

・「(仮称)調布市個人情報保護法施行条例(案)の概要」へのご意見をお寄せください|調布市

1.「個人情報」の定義についてー改正調布市個人情報保護条例(以下「改正条例」とする)3条2号
個人情報の定義が「生存する」をつけない「個人に関する情報(以下略)」となっているが、死者の個人情報も含むのか、生存する個人に関する情報に限るのか、規定を明確化すべきではないか。

2.条例要配慮個人情報についてー改正条例3条
改正条例3条に要配慮個人情報の定義が存在せず、個人情報保護法にすでに要配慮個人情報の定義規定があるので条例要配慮個人情報の規定は改正条例に設けない方針とのことであるが、改正条例5条2項各号には要配慮個人情報に類する事項の規定があるところ、同2項2号の「社会的差別の原因となる個人情報」には、調布市の実務において個人情報保護法2条3項が列挙する事項以外の事項が存在しないか調査は行われているのであろうか(例えば信仰、病歴、障害歴、ワクチン接種等の履歴、本籍地、資産情報、金融情報など)。もし存在するのであれば、条例要配慮個人情報として明文で定義規定を置くべきではないか。

3.安全管理措置についてー改正条例8条の条文名、2項、4項、同10条1項
改正条例8条、10条の「適正管理」または「適正な管理」は、個人情報保護法66条にそろえて「安全管理」または「安全な管理」に用語をそろえては如何でしょうか。

4.オンライン結合の制限規定についてー改正条例13条
改正条例13条に現行条例13条と同様のオンライン結合の制限規定があることに賛成いたします。

国や企業等による個人情報の利活用だけでなく、主権者たる市民・国民の「個人の権利利益の保護」(個人情報保護法1条)と、「個人情報は、個人の人格尊重の理念の下に慎重に取り扱われるべき」(法3条)との個人情報保護法制の趣旨・目的に照らすと、市民・国民個人の個人情報とプライバシー権の保護を重視する調布市の姿勢に賛成します。

5.開示請求手続きにおける実施機関以外のものとの協議についてー改正条例16条5項
2021年11月に発覚した調布市つつじが丘のNEXCO東日本による陥没事故の被害者住民の情報公開請求に係る個人情報漏洩事件を踏まえ、改正条例16条5項に「ただし、当該開示決定等に係る保有個人情報の安全管理を徹底し、当該実施機関以外のものに当該保有個人情報の漏洩等が発生しないようにして、開示請求者の権利利益を保護しなければならない。」等のただし書きを設けるべきではないか。

6.利用停止・外部提供の停止についてー改正条例26条1号、2号
改正条例26条1号の利用停止又は消去の要件の部分に、「個人情報保護法63条の定める不適正利用が行われたとき」を追加すべきではないか。また改正条例26条2号の外部提供の停止の要件の部分に、「個人情報保護法68条の定める個人情報の漏洩等が発生した場合その他本人の権利または正当な利益が害されるおそれがあるとき」を追記すべきではないか。

7.行政機関等匿名加工情報についてー「調布市個人情報保護法施行条例(案)の概要について(説明資料)」2頁の図表3の「ウ行政機関等匿名加工情報(改正法第109条等)の作成・提供」
改正条例に行政機関等匿名加工情報の規定を設けないとの調布市の判断に賛成いたします。

国や企業等による個人情報の利活用だけでなく、主権者たる市民・国民の「個人の権利利益の保護」(個人情報保護法1条)と、「個人情報は、個人の人格尊重の理念の下に慎重に取り扱われるべき」(法3条)との個人情報保護法制の趣旨・目的に照らすと、市民・国民個人の個人情報とプライバシー権の保護を重視する調布市の姿勢に賛成します。

(注:今回の令和3年改正対応の個人情報保護法改正では、市区町村に対しては行政機関等匿名加工情報の規定の設置は義務とはなっていない。)

■関連する記事
・調布市の陥没事故の被害者住民の情報公開請求に係る個人情報の漏洩事件について考えた(追記あり)
・令和2年改正個人情報保護法ガイドラインのパブコメ結果を読んでみた(追記あり)-貸出履歴・閲覧履歴・プロファイリング・内閣府の意見
・健康保険証のマイナンバーカードへの一体化でカルテや処方箋等の医療データがマイナンバーに連結されることを考えた
・スーパーシティ構想・デジタル田園都市構想はマイナンバー法・個人情報保護法や憲法から大丈夫なのか?-デジタル・ファシズム
・デジタル庁「教育データ利活用ロードマップ」は個人情報保護法・憲法的に大丈夫なのか?



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三菱銀行トップページ
(三菱UFJ銀行サイトより)

1.はじめに
2022年5月8日の読売新聞の報道によると、三菱UFJ銀行はサイバーエージェントと提携し、年度内に自社の個人・法人の顧客の金融資産などの個人データを利用した広告事業を年度内に開始するとのことです。記事によると三菱UFJ銀行はこの新しい広告事業を同銀行本体で実施するようですが、これは2021年の銀行法改正で可能になったスキームのようです。銀行の広告事業などには関心があったため、2021年の銀行法改正や個人情報保護法上の「本人の同意」について少し調べてみました。

・三菱UFJ銀、サイバーエージェントと提携し広告事業参入…同意得て匿名化の顧客情報活用|読売新聞

2.三菱UFJ銀行の広告のスキーム
まず、本記事によると、「三菱UFJ銀は約3400万人の預金口座や約120万社の取引データの活用を想定している。顧客の事前の同意を前提に、口座所有者の年齢や性別、住所に加え、預金額や運用資産・住宅ローンの有無といった金融データを匿名化した上で利用する。広告主は宣伝したい対象として、例えば「預金1000万円以上の女性」や「資産運用している40歳代男性」などに絞る。対象に合った個人や法人が、スマホやパソコンなどの端末でSNSやアプリ、検索サイトなどを利用すると、広告が表示される仕組み」とのことです。

三菱銀行の広告スキーム図
(三菱UFJ銀行の広告事業のスキーム図。読売新聞より)

3.2021年の銀行法改正
(1)2021年の銀行法改正の趣旨
令和3年の第204国会で5月19日に成立した「新型コロナウイルス感染症等の影響による社会経済情勢の変化に対応して金融の機能の強化及び安定の確保を図るための銀行法等の一部を改正する法律」は新型コロナの社会的影響を受けて、日本経済の回復・再生を力強く支える金融機能を確立するため、規制緩和や環境整備を推進するために、銀行に対してはデジタル化や地方創生への貢献を強化するための銀行法改正が行われています。

概要2
(2021年銀行法改正の概要。金融庁サイトより)

(2)銀行法改正の具体的内容
①銀行業高度化会社の他業業務の認可の要件の緩和
広告事業などの関係をみると、まず、2017年に制度が開始した銀行の子会社としての「銀行業高度化等会社」は、ITを活用した銀行業務の高度化などを認めるための制度ですが、従来「他業」とされていたFintechや地域商社業務などを金融庁の他業の認可を受けて実施するものでした。この認可には収入依存度規制などの厳格な規制が存在していました。

これに対して2021年の改正銀行法は、銀行高度化等会社の業務に「地域の活性化、産業の生産性の向上その他の持続可能な社会の構築に資する業務」が新たに追加されました。この業務の個別列挙は行われず、各銀行の創意工夫で幅広い業務を行うことが可能となります。具体的には、デジタル、地域創生、持続可能な社会の構築などに関する業務が想定されています。この業務は、収入依存度規制はなくなり銀行の負担を減らして金融庁の認可が取得できることになっています。(改正銀行法16条の2第1項15号など。)

②特例銀行業高度化等業務を行う銀行業高度化等会社の新設
つぎに、銀行業高度化等会社の他業認可よりも基準が緩い「特例銀行業高度化等業務」のみを行う高度化等会社というカテゴリが新設されました。この高度化等会社の業務は個別列挙されていますが、具体的には、①Fintech、②地域商社、③登録型人材派遣、④自行アプリやシステムの販売、⑤データ分析・マーケティング・広告、⑥ATM保守点検、⑦障害者雇用促進の特例子会社、⑧成年後見業務などが想定されています。そしてこれらの他業の金融庁の認可については収入度依存度規制などの厳格な規制はなくなり、銀行の負担が緩和されています。(改正銀行法52条の23の2第6項など。)

③銀行本体の付随業務
さらに、金融システムの潜在的なリスク(優越的な地位の濫用等)に配慮しつつ、銀行本体の付随業務に銀行業に係る経営資源を主として活用して営む業務であって、デジタル化や地方創生などの持続可能な社会の構築に資するものが個別列挙され認められることになりました。具体的には、①自行アプリやシステムの販売、②データ分析・マーケティング・広告、③登録型人材派遣、④コンサルティングなどが個別列挙されます。そして従来、銀行本体の付随業務には「銀行業との機能的な親近性」などの要件が課されていましたが、個別列挙された業務にはその制約がなくなります。(改正銀行法10条2項21号など。)

4.改正銀行法10条2項21号および金融分野における個人情報保護に関するガイドライン
(1)改正銀行法10条2項21号
読売新聞の本記事を読むと、三菱UFJ銀行が行おうとしているデータ分析・マーケティング・広告事業は③の銀行本体における業務であると思われます。そこで、個人情報に関する顧客の本人の同意についてはどうなっているのかと改正銀行法10条2項21号をみると、ここには特に規定がありません。

銀行法

(業務の範囲)
第十条 銀行は、次に掲げる業務を営むことができる。
 預金又は定期積金等の受入れ
 資金の貸付け又は手形の割引
 為替取引
 銀行は、前項各号に掲げる業務のほか、次に掲げる業務その他の銀行業に付随する業務を営むことができる。
(略)
二十一 当該銀行の保有する人材、情報通信技術、設備その他の当該銀行の営む銀行業に係る経営資源を主として活用して営む業務であつて、地域の活性化、産業の生産性の向上その他の持続可能な社会の構築に資する業務として内閣府令で定めるもの

(2)主要行等向けの総合的な監督指針
つぎに、金融分野個人情報保護ガイドライン(金融分野における個人情報保護に関するガイドライン)14条(個人関連情報の第三者提供の制限等(法第31条関係))1項 はつぎのように規定しています。

金融分野個人情報保護ガイドライン

第14条1項

金融分野における個人情報取扱事業者は、個人関連情報取扱事業者から法第31条第1項の規定による個人関連情報の提供を受けて個人データとして取得するに当たり、同項第1号の本人の同意を得る(提供元の個人関連情報取扱事業者に同意取得を代行させる場合を含む。)際には、原則として、書面によることとし、当該書面における記載を通じて、

① 対象となる個人関連情報の項目
② 個人関連情報の提供を受けて個人データとして取得した後の利用目的

本人に認識させた上で同意を得ることとする。

すなわち、個人情報保護法31条と同様に金融分野個人情報保護ガイドライン14条1項も、銀行が顧客の顧客番号、PCやスマートフォン等の端末ID、Cookie、閲覧履歴などの個人関連情報を広告会社などに第三者提供する際には、本人の同意を得ることが必要であるとしています。

5.まとめ
したがって、仮に三菱UFJ銀行が広告事業を行うにあたり、顧客の属性や金融資産情報などを匿名加工情報にしたとしても、顧客番号、PCやスマートフォン等の端末ID、Cookie、閲覧履歴などの個人関連情報を第三者提供する限りはやはり本人の同意の取得が必要となります。

なお、この銀行法改正に関連して、例えば野村総合研究所は銀行の広告事業を支援するサービスを開始したそうです(野村総合研究所「野村総合研究所、銀行の広告事業への進出を支援する「バンクディスプレイ」サービスを開始」)。

概要3
(野村総合研究所「野村総合研究所、銀行の広告事業への進出を支援する「バンクディスプレイ」サービスを開始」より)

このスキームは銀行と広告主の間に野村総研が入り、銀行の個人データなどの第三者提供などを媒介するスキームであるようです。この野村総研のスキームにおいては、銀行は個人関連情報だけでなく、金融資産や属性データ、閲覧履歴、行動履歴などの個人データの第三者提供のための顧客の本人の同意をあらかじめ取得することが必要であると思われます(個人情報保護法27条1項)。

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■参考文献
・荒井伴介・脇裕司・杉本陽・豊永康史「2021年銀行法等の一部を改正する法律の概要」『金融法務事情』2170号(2021年9月25日号)14頁
・家森信善「業務範囲規制の緩和を生かして顧客支援の充実を」『銀行実務』2021年8月号12頁
・松本亮孝・今拓久真・椎名沙彩・赤井啓人「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン改正の概要」『『金融法務事情』2183号(2022年4月10日号)9頁

■関連する記事
・情報銀行ビジネス開始を発表した三菱UFJ信託銀行の個人情報保護法の理解が心配な件
・みずほ銀行のみずほマイレージクラブの改正を考える-J.Score・信用スコア・個人情報
・日銀『プライバシーの経済学入門』の「プロファイリングによって取得した情報は「個人情報」には該当しない」を個人情報保護法的に考えた
・デジタル庁「教育データ利活用ロードマップ」は個人情報保護法・憲法的に大丈夫なのか?
・スーパーシティ構想・デジタル田園都市構想はマイナンバー法・個人情報保護法や憲法から大丈夫なのか?-デジタル・ファシズム
・コロナの緊急事態宣言をうけ、代表取締役が招集通知後に取締役会決議を経ずに株主総会の日時場所を変更したことが違法でないとされた裁判例-大阪地決令2.4.22
・コロナ下のテレワーク等におけるPCなどを利用した従業員のモニタリング・監視を考えた(追記あり)-個人情報・プライバシー・労働法・GDPR・プロファイリング
・令和2年改正個人情報保護法ガイドラインのパブコメ結果を読んでみた(追記あり)-貸出履歴・閲覧履歴・プロファイリング・内閣府の意見














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1.日経のプライバシーポリシーが改正される
日本経済新聞社から最近来たメールによると、令和2年・令和3年に改正された個人情報保護法が今年4月1日から施行されることを受けて、同社のプライバシーポリシー(日経IDプライバシーポリシー)が4月1日に改正されるとのことです。ところがこの改正後の日経IDプライバシーポリシーをざっと見たところ、個人情報保護法的に突っ込みどころが満載で驚いてしまいました。

・(改正後)日経IDプライバシーポリシー|日本経済新聞

2.Cookie、IPアドレスおよびサイト閲覧履歴などは個人情報ではない?
(1)個人情報と個人関連情報
第一に、改正後の日経IDプライバシーポリシー(以下「本プライバシーポリシー」とする)の「はじめに」を読むと、日経新聞が取扱う情報を4つ(あるいは3つ)に分類するようです。

日経プライバシーポリシー1
(「(改正後)日経IDプライバシーポリシー」より)

つまり、まず情報を①氏名、住所、職業などの「お客様登録情報」、②Cookie、サイト閲覧履歴、IPアドレス、OSなどの環境情報などの「ご利用履歴情報」の2つに分類しています。

日経プライバシーポリシー3
(「(改正後)日経IDプライバシーポリシー」より)

そしてさらに、②のご利用履歴情報について、お客様登録情報と関連付けて収集するか否かで場合分けし、③「お客様登録情報と関連付けて収集するご利用履歴情報」と、④「お客様登録情報と関連付けないで収集するご利用履歴情報」の2つに分けています。③の具体例としては「日経ID登録されたお客さまの日経電子版閲覧履歴や閲覧状況など」があげられており、④の具体例としては「日経ID登録されていないお客さまの日経電子版閲覧履歴や閲覧状況など」があげられています。

その上で本プライバシーポリシーは、①と②は個人情報であり、④は個人関連情報(個人情報保護法2条7項)であるとしています。

しかし、④に関するこの説明は正しいといえるのでしょうか。個人関連情報(法2条7項)は令和2年の個人情報保護法改正で新設されたもので、具体例としてはCookieやIPアドレス、サイトの閲覧履歴、位置情報などのことであり、条文上は「生存する個人に関する情報であって、個人情報、仮名加工情報及び匿名加工情報のいずれにも該当しないものをいう」と定義されています(法2条7項)。

そして、個人情報保護委員会(PPC)の個人情報保護法ガイドライン通則編(2022年4月1日版)22頁の個人関連情報に関する注(※)はつぎのように説明しています。
(※) 個人情報に該当する場合は、個人関連情報に該当しないことになる。例えば、一般的に、ある個人の位置情報それ自体のみでは個人情報には該当しないが、個人に関する位置情報が連続的に蓄積される等して特定の個人を識別することができる場合には、個人情報に該当し、個人関連情報には該当しない。(個人情報保護法ガイドライン通則編(2022年4月1日版)22頁より)

個人情報保護法ガイドライン22ページ
(個人情報保護法ガイドライン通則編(2022年4月1日版)22頁より)

すなわち、PPCのガイドライン22頁の注は、CookieやIPアドレス、閲覧履歴、位置情報、移動履歴なども「連続的に蓄積」されると、それぞれがお互いに差異のあるユニークなデータとなり、たとえ個人名を識別できないとしても、「あの人のデータ、この人のデータ」と、ある個人(特定の個人)を識別できるデータになるから、それは個人情報でありもはや個人関連情報ではないと明記しています。

(参考)
・令和2年改正個人情報保護法ガイドラインのパブコメ結果を読んでみた(追記あり)-貸出履歴・閲覧履歴・プロファイリング・内閣府の意見
・個人情報保護法ガイドラインは図書館の貸出履歴なども一定の場合、個人情報や要配慮個人情報となる場合があることを認めた!?

個人関連情報などの図

したがって、④「お客様登録情報と関連付けないで収集するご利用履歴情報」であっても、「連続的に蓄積」されたデータは個人情報であり、これも一律に個人関連情報であるとしている本プライバシーポリシーは正しくありません。

(2)個人情報の容易照合性
さらに、個人情報は、生存する(a)「個人に関する情報であって」かつ(b)「特定の個人を識別できるもの」です(鈴木正朝・高木浩光・山本一郎『ニッポンの個人情報』20頁)。そしてさらに(c)「(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む)」(=容易照合性)と定義されています(法2条1項1号)。

この(c)の容易照合性について、PPCの個人情報保護法ガイドラインQA1-18は、「事業者の各取扱部門が独自に取得した個人情報を取扱部門ごとに設置されているデータベースにそれぞれ別々に保管している場合において…双方の取扱部門の間で、通常の業務における一般的な方法で双方のデータベース上の情報を照合することができる状態である場合は、「容易に照合することができ」る状態であると考えられます。」としています。

個人情報ガイドライン1-18の1
個人情報ガイドライン1-18の2
(個人情報保護法ガイドラインQA(2022年4月1日版)より)

日経新聞社の社内の個人情報関係のデータベースの仕組みやアクセス制御、社内規程などを私は知りませんが、しかし一般論としては、同一の企業内のある部門のもつデータベースと別の部門のもつデータベースはお互いに職員が情報を照会して照合することが可能であると思われます。そうでなければ利用できず、社内でリソースを使って収集・保存する意味がないからです。

そう考えると、日経新聞社内のご利用履歴情報のデータベースとお客様登録情報のデータベースは容易に照合が可能であるといえるのではないでしょうか。すると、④「お客様登録情報と関連付けないで収集するご利用履歴情報」であっても、お客様登録情報と容易に照合してある個人を識別できる個人情報であるといえる情報・データも存在するものと思われ、この点からも日経の本プライバシーポリシーは正しくないと思われます。

3.第三者提供について
第二に、気になる個人情報の第三者提供について、本プライバシーポリシーをみると、「3.個人情報の提供など」の部分は、本人同意による第三者提供(法27条1項(改正前法23条1項))についてはそれなりに記載がありますが、広告業者、DMP業者などへの第三者提供のオプトアウト方式(法27条2項(改正前法23条2項))の記載がないことが気になります。
日経プライバシーポリシー6
(「(改正後)日経IDプライバシーポリシー」より)

従来は50も100もオプトアウト先が列挙されており、ネット上では「オプトアウトが事実上不可能」と批判されていました。その日経新聞の個人データの提供先にはGoogleやFacebook、Twitter、ヤフーや楽天、LINE、セールスフォースなどのIT企業が列挙されていましたが、あれはどうなってしまったのでしょうか?

アクセスデータの共有先1
アクセスデータの共有先2
オーディエンスワン概要図
(日経新聞社サイトより。2022年3月5日現在)

また、上でみた個人関連情報は、個人情報ではありませんが、国民・消費者保護のため、第三者提供には本人の同意が必要となっています(法31条)。にもかかわらず、日経の本プライバシーポリシーが、④「お客様登録情報と関連付けないで収集するご利用履歴情報」の提供について本人同意について何も書いていないのは大丈夫なのでしょうか?不安が残ります。

4.「広告業者等に単体では個人を識別できない情報を提供する」
第三に、利用目的の「(5)個人情報の共同利用について」は「広告業者等に単体では個人を識別できない情報を提供する」との記載があります。この「単体では個人を識別できない情報」とは匿名加工情報のことなのでしょうか?しかし、データを潰してならして個人が識別できないようにした匿名加工情報を提供されても、広告企業やDMP業者などは業務には使えないのではないでしょうか?

この点、個人データから氏名や住所などの個人データの一部を削除した仮名加工情報が今回の令和2年の個人情報保護法の改正で新設されました(法2条5項、法41条)。しかし仮名加工情報は他の情報と照合して本人を識別することは禁止され(同条7項)、本人に電話や郵便・メールなどでアクセスすることも禁止され(同条8項)、そしてさらに仮名加工情報の利用は社内に限られ、第三者提供は禁止されています(同条6項、同42条1項)。したがって、もし万が一、日経新聞社が「単体では個人を識別できない情報」として仮名加工情報を広告業者やDMP業者などに提供しようとしているとしたら、それは個人情報保護法41条6項および法42条1項違反です。

5.「外国にある第三者」など
第四に、保有する個人情報に講じた安全管理措置の記載などがないことも気になります(法27条1項)。また、本プライバシーポリシーの共同利用の事業者一覧には、中国法人なども含まれていますが、LINEの個人情報問題で注目を集めた「外国にある第三者」(法28条)に関して、外国の個人情報保護法制などの情報に関する記載がないことも気になります。「外国にある第三者」に関しては、委託や事業承継、共同利用は対象外となっていないからです(法28条1項後段、宇賀克也『新・個人情報保護法の逐条解説』285頁)。
共同利用1
(「(改正後)日経IDプライバシーポリシー」より)

6.まとめ
Twitterなどで拝見していると、日経新聞記者は個人情報保護法に強い方が多いのに、本プライバシーポリシーはいろいろと大丈夫なのだろうかと心配になる点が多々あります。日経新聞社内の法務部などは事前にリーガルチェックなどをしっかり実施しているのでしょうか。「日本の企業・国は国民の個人情報をますます利活用して日本の経済発展を!」と「個人情報の利活用」を熱心に主張している日経新聞のプライバシーポリシーがこれでは、今後の日本のデジタル庁などの政府やIT企業、製薬会社、自動車メーカーなどの個人情報の取り扱いが心配になります。

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■参考文献
・宇賀克也『新・個人情報保護法の逐条解説』285頁
・佐脇紀代志『一問一答令和2年改正個人情報保護法』24頁、54頁、62頁、71頁
・鈴木正朝・高木浩光・山本一郎『ニッポンの個人情報』20頁

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