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とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

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1.事案の概要
1か月以上たっても公表・通知などを実施していない?
「プレジデントオンライン」サイトの7月13日付の記事「人材派遣のアスカが最大3万件の個人情報を流出」などによると、人材派遣業の株式会社アスカは、自社システムに仮登録されていた派遣社員の個人情報が最大3万件分が本年5月中旬にサイバー攻撃により漏洩したにもかかわらず、1か月以上経過しても公表、被害者本人への連絡などを行っていないそうです(7月16日現在)。

取材に対して、アスカ側は「調査を行っている途中」などと回答しているそうですが、1か月以上も個人情報の大規模な漏洩事故があったのに公表などを行わないことは法的に許されるのかが問題となります。

・人材派遣のアスカが最大3万件の個人情報を流出…1カ月以上も周知せず|プレジデントオンライン

2.法的に考えてみる
(1)労働者派遣法
労働者派遣法24条の3は、派遣元事業者の個人情報保護について規定しています。そして、「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」(平成11年労働省告示第137号・平成30年厚生労働省告示第427号)の「11 個人情報等の保護」は、個人情報の収集、利用、保管、安全管理などともに、「(3)個人情報の保護に関する法律の遵守等」において、個人情報保護法「第4章第1節に規定する義務を遵守しなければならない」と規定しています。

(2)個人情報保護法
個人情報保護法第4章第1節は、個人情報を取り扱う事業者の義務を定めていますが、同法20条から22条までは、事業者の安全管理措置、従業員への監督、委託先への監督を規定しています。そして、個人情報保護委員会の個人情報保護法ガイドライン(通則編)は安全管理措置について規定しています。その上で、同委員会の「個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について」は、個人データの漏洩などの事故が発生した場合の対応についてつぎのように規定しています。

■個人データ漏洩事故が発覚した場合の対応(概要)
①事業者内部における報告及び被害の拡大防止
②事実関係の調査及び原因の究明
③影響範囲の特定
④再発防止策の検討及び実施
⑤影響を受ける可能性のある本人への連絡
漏えい等事案の内容等に応じて、二次被害の防止、類似事案の発生防止等の観点から、 事実関係等について、「速やかに」本人へ連絡し、又は本人が容易に知り得る状態に置く。
⑥事実関係及び再発防止策等の公表
漏えい等事案の内容等に応じて、二次被害の防止、類似事案の発生防止等の観点から、 事実関係及び再発防止策等について、「速やかに」公表する。
⑦個人情報保護委員会または監督官庁への報告
扱事業者は、漏えい等事案が発覚した場合は、その事実関係及び再発防止策等について、個人情報保護委員会等に対し、「速やかに」報告する
このように個人情報保護委員会の「個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について」は、個人データ漏洩事故が発生した場合には「速やかに」、⑤本人に連絡し、⑥事実関係などを自社サイトや記者会見などで公表し、⑦個人情報保護委員会や監督官庁に報告することを事業者に求めています。

ここで、「速やかに」の文言の意味が問題となりますが、多くの業法・行政法規が個人情報漏洩事故が発生した場合に、その発覚から1か月以内の報告を求めていることとの整合性から、少なくとも1か月以内に⑤本人に連絡し、⑥記者会見などで公表し、⑦個人情報保護委員会や監督官庁に報告しないと、事業者は同委員会の通達の趣旨に違反していることになると思われます(例えば保険業法127条など)。当該事業者は、個人情報保護法の趣旨に違反しているおそれがあることになります。

そもそも、このように個人情報漏洩事故が発生した場合にスピード感をもった本人への連絡や公表、監督官庁などへの報告の対応を事業者に法令が求めて趣旨・目的は、「二次被害の防止、類似事案の発生の防止」です。つまり例えば、顧客の個人情報が拡散してしまうことやクレジットカード情報などが第三者に利用されてしまうリスクの防止や、同じ業界で類似のサイバー犯罪が行われてしまうようなリスクの防止です。そうすると、個人情報漏洩事故が発覚したのに漫然と事業者が何週間も、あるいは何か月も対応を行わないことは、個人情報保護法の趣旨にも反しますし、顧客の信頼を裏切ることにもなります。

もし事業者が事実確認などに何週間もかかってしまうということになったら、当該事業者は「第一報」や「暫定版」などの連絡・報告・公表などを随時行うべきです(段階的な報告)。

こう考えると、個人情報漏洩事故が発覚してから1か月以上も顧客への連絡などを行っていない株式会社アスカは、個人情報保護法に違反しているおそれがあります。

(なお、EUのGDPR(一般データ保護規則)33条は、個人データ漏洩事故が発覚した事業者に対して72時間以内の個人データ保護当局への報告を義務付けています。EU国籍の顧客の個人データなどを取扱っている事業者はより迅速な対応が求められます。)

(3)個人情報保護法上の違反があった場合
上でみたように、労働者派遣法23条の3などは派遣元事業者に対して個人情報保護法上の事業者の義務を遵守することを求めています。

そして、同法などの違反があった場合について、労働者派遣法50条、51条は厚労大臣は派遣元事業者に対して報告徴求と立入検査を行う権限があることを定めています。さらに同法48条、49条は、厚労大臣は派遣元事業者に対して、指導・助言および改善命令・業務停止命令などを発出する権限があることを規定しています。 また、個人情報保護法も、同法40条以下において個人情報保護委員会は事業者に対して報告徴求、立入検査を行う権限があり、また個人情報保護に関して指導・助言を行う権限があることを規定しています。

(4)まとめ
つまり、個人情報漏洩事故を起こし、漫然と顧客への連絡や事実の公表などを1か月以上実施していない株式会社アスカは、監督官庁である厚労省だけでなく個人情報保護委員会から報告徴求、指導・助言などの行政指導等を受ける行政上の法的リスクが存在することになります。

(5)個人情報漏洩の場合の対応の法的義務化
なお、7月15日付の日経新聞によると、政府は2022年にも一定規模以上の個人情報漏洩事故が発生した場合に、事業者に対して顧客への連絡・通知を行うことを義務付ける方針であるとのことです(日経新聞「サイバー被害、全員に通知 個人情報漏洩で企業に義務」2020年7月15日付)。

■参考文献
・岡村久道『個人情報保護法 第3版』235頁
・小向太郎・石井夏生利『概説GDPR』106頁

個人情報保護法〔第3版〕

概説GDPR

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LINE厚労省コロナ

3月31日より、新型コロナウイルスに関して厚労省がLINEを使って情報収集していますが、法的に大丈夫なのか大いに疑問です。

・厚生労働省とLINEは「新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報提供に関する協定」を締結しました|厚労省

健康状態や病気・ケガに関する情報・データは、個人情報のなかでもセンシティブで慎重な取り扱いが必要な要配慮個人情報です(個人情報保護法2条3項、行政機関個人情報保護法2条4項)。第三者提供等は原則禁止となっています(個人情報保護法23条)。また一般の個人情報よりも厳重な安全管理措置が事業者等に課されます。

ところが、このような厳重に取り扱われなければならない病歴などの個人データについて、厚労省やLINEは法的に検討することを止めてしまっているように思われます。

厚労省のウェブサイトには、今回のLINEとのコロナの件に関するプライバシーポリシーなどは全く掲載されていません。また、LINEのウェブサイトのプライバシーポリシーも19年5月改正版にとどまっています。

個人情報のなかでもセンシティブな医療データの収集という場面でありながら、取得された医療データがどんなことに使われるのか・何には使われないのかという個人情報の利用目的や、これらの個人情報がどんな団体に第三者提供・共有・委託されるのか等々が事前にLINEの利用者の国民に何も明示されていません。

医療情報がLINEや厚労省などにおいて、どのように利用されるのか利用目的がまったく特定されておらず、国民の個人情報がLINEや厚労省あるいはその他の民間企業などに好き放題に利活用されてしまうおそれが大いにあります。これは個人情報保護法15条に明らかに反しています。

これでは利用者・国民は個人としての、自分の医療情報・個人情報をLINEや厚労省などに提供するかどうかの十分な検討に基づく判断ができません。利用者からLINEに提供された個人情報がLINEから厚労省などに第三者提供される際の「本人の同意」が十分に得られておらず違法です(23条)。

これは個人情報の取得において、利用目的などを明確化せよと規定する個人情報保護法18条に抵触しています。

また、メディアの報道によると、厚労省などはLINEやヤフー等のプラットフォーム事業者から、利用者の病歴データだけでなく検索履歴や位置情報を徴収するとのことです。この点、個人情報保護法16条(目的制限)3項3号と23条(第三者提供)の1項3号は、個人情報の目的外利用と第三者提供が許されるのは、「公衆衛生の向上のため…特に必要」の場合としてることから、国がなんとなく見込み捜査的に要求しLINEが応じるのはやはり違法ではないかと思われます。法が許容するのは「特に必要」な場合であって、「漠然と必要」「何となく必要」では法の文言に抵触しているからです。

・LINE、新型コロナ調査結果を提出 厚労省に|日経新聞

さらに、利用者の何千万人分もの検索履歴などの個人データをLINEやヤフー等が国に提供することは、端的にプライバシー侵害なのではないでしょうか(憲法13条、民法709条)。新聞記事などによると、政府はヤフーから提供された検索履歴や位置情報から、検索内容によりコロナに感染している国民を割り出し対処を行うとしています。しかし法令に根拠がないのに、国が警察・検察の捜査のようなまねが法的に許容されるのでしょうか。

あるいは、利用者本人のほとんどは、LINEなどに対して、友人・知人との会話・通話などを目的として、安心して会話等を行い、あらかじめ自らの個人情報などプライバシー情報をLINE等に提供しています。まさかそのLINE等が自分の同意を得ることなく勝手に自らのプライバシー情報を国に第三者提供されるとか予見できない状況です。これは、いずれも事業者・大学側がプライバシー侵害として違法と判断された、早大名簿提出事件(最高裁平成15年9月12日)やベネッセ事件(最高裁平成29年10月23日)と同じ状況であると思われます。

最後に、厚労省などがLINE等から利用者の病歴データや検索履歴を徴収するということは、利用者の内心や私的領域のデリケートな情報を大規模かつ網羅的に国が取得するということです。すなわち、憲法21条2項、電気通信事業者法4条などの定める、検閲禁止や通信の秘密の漏洩禁止に違反しているのではないかという問題があります。通信傍受法などと異なりコロナの件では根拠法もなく、政府からの「要請=任意のお願い」で何千万人分の膨大なデータをLINEやヤフーなどが政府に提供することは、正当業務行為や緊急避難で説明することは無理筋であると思われます。

厚労省とLINEは、個人情報保護法や憲法などをまるで無視して暴走しているようですが、これではもはや日本は法治国家や文明国家とは言えません。国民の一人として、私も一日も早い新型コロナウイルスの収束を強く願っています。とはいえ、わが国が民主主義国家である以上、政府は国民から信託を受けたサービス機関として、できるだけ法令を遵守し、もしこの世界的な危機時に法令では対応が追い付かない場合は、せめて国民に対して誠実な説明や情報開示を行うべきであると思われます。

個人情報保護法の逐条解説--個人情報保護法・行政機関個人情報保護法・独立行政法人等個人情報保護法 第6版

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hellowork_mendan
1.ネット版ハローワークがバージョンアップ
厚労省サイトによると、ハローワークのネット版(ウェブサイト)が1月6日より大幅にバージョンアップしたとのことです。そこで見てみたのですが、ログイン画面のプライバシーポリシーが非常に残念な出来栄えで驚きました。

・ハローワーク・インターネットサービス利用規約・プライバシーポリシー|厚労省

2.求職情報公開サービス
(1)個人を特定できない情報
このプライバシーポリシーによると、求職者がこのハローワークのネットサービス(「求職者マイページ 」)を申込む際に、ハローワーク窓口に「求職情報公開」および「求職情報公開サービス」を拒否(オプトアウト)しないと、 求職者の個人情報・個人データが求人企業、自治体および民間人材ビジネス企業提供・第三者提供されるとさらっと書かれており、ぎょっとします。

ここで、求人企業や民間人材ビジネス起業などに提供される個人情報について、このプライバシーポリシーは、「(個人を特定できない情報)」とかっこ書きをつけています。

しかし、このネット版ハローワークや現実のハローワークで登録され取り扱われている求職者の氏名・住所・生年月日・学歴・職歴・資格などのデータは、どう考えても厚労省職安局(あるいは委託されたIT企業)のサーバーの求職者個人DBの一部の個人データのはずです。

行政機関個人情報保護法2条2項1号は、個人情報とは、「特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。) 」と定めています。

このかっこ書きの部分(「他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む」)に照らすと、ハローワークの求職者データベースの一部のデータを民間企業に提供する際にそれを「個人を特定できないから個人情報ではない」というこのプライバシーポリシーは間違っています。

厚労省職業安定局は、これは非識別情報(匿名加工情報)なのだと主張するのかもしれませんが、それならそれでプライバシーポリシーにしっかりと明示するべきです。(統計データについては明文化されていますが、ここで明示されていないので、統計データでもないようです。)

(2)「民間人材ビジネス企業」に個人データを第三者提供?
また、第三者提供先が「民間人材ビジネス企業」としか書かれておらず、求職者本人からみてあまりにも漠然・広範囲であり、第三者提供の同意のための透明性がまったく保たれていません。これでは求職者は、自分の個人情報がどこのどんな事業者まで転々と流通してしまうのかまったく分かりません。

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(厚労省サイトのネット版ハローワークのプライバシーポリシーより)

なお、ハローワークや民間人材ビジネス会社を規制する職業安定法も、個人情報の定義につき行政機関個人情報保護法と同様の規定を置いており(4条11号)、またハローワーク等に対して利用目的を特定しその範囲内で個人情報を収集・利用するよう規定し(5条の4第1項)、さらにハローワークなどに対して安全管理措置を講じることを義務づけています(5条の4第2項)。加えて、ハローワークなどの職員には求職者の個人情報などについて守秘義務が課せられています(51条、51条の2、国家公務員法100条参照)。 にもかかわらず、職業安定法の所管である厚労省職業安定局・ハローワーク自身が、職業安定法の各規定に抵触しているおそれがあります。

このような状態でプライバシーポリシーに「企業などからメールなどが送信されることがあります」とあるのは、CCCのTポイントなのか、リクナビのような民間サービスを目指しているのかと目が点になってしまいします。

医療データほどセンシティブではないものの、学歴・職歴などがまとまったハローワークの求職者の個人情報・個人データは非常にデリケートな情報のはずですが、厚労省職業安定局は、そのような認識を持っていないのでしょうか?

ちょっと前に大量の就活生の個人データを不正に利用・加工・第三者提供するなどして大炎上したリクナビ事件で、リクルートグループやトヨタ等に対し、職安法に基づき行政指導などを行ったのは厚労省職業安定局・東京労働局ですが、その厚労省職安局がリクナビの真似してどうするのかと思います。

3.その他
その他にも、このプライバシーポリシーは、

・利用目的が「ハローワーク業務に使う」と漠然としておりまったく特定されていない
・開示・訂正等請求の手続きに関する条文が存在しない
・安全管理措置について組織的・人的・物理的安全管理措置の規定がない
・そもそも条文構成になっていない

等などざっと見ただけでもツッコミどころ満載です。

利用規約を読むと、このネット版ハローワークはマイナンバー(個人番号)も利用可能のようで、つまり個人情報保護委員会の管轄に含まれるようであり、同委員会はぜひ、厚労省職業安定局・ハローワークに対して助言・指導などを行っていただきたいと思われます。

■関連するブログ記事
・リクルートなどの就活生の内定辞退予測データの販売を個人情報保護法・職安法的に考える
・厚労省の障害者向け「就労パスポート」を法的に考える-個人情報保護法・プライバシー・憲法

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個人情報保護法〔第3版〕

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1.はじめに
NHKの報道番組「クローズアップ現代+」が、「人事・転職ここまで!? AIがあなたを点数化」という番組を10月29日に放送しました。そのなかで、”AI人材紹介会社”のLAPRAS(ラプラス)が取り上げられ、その恐ろしさがネット上で反響を呼んでいます。

・人事・転職ここまで!? AIがあなたを点数化|NHK

LAPRASは、インターネット上のウェブサイト、ブログ、SNSなどの記載、書き込みなどをAIプログラムが収集し、データベータ化し、プロフィールなどを作成して人材紹介を行う会社であるようです。同社は、同事業を行っていたscoutyの後継会社です。

2.オプトアウト手続き
scoutyがLAPRASになって、大きく変わったのは、LAPRASからの求人企業への個人情報の第三者提供などについてオプトアウト制度を採用することとしています(個人情報保護法23条2項)。

つまり、"当社から求人企業に個人情報(データ)を第三者提供されたくないお客様は、当社にお申し出ください。”とする制度を明示したことであると思われます。

このように、個人情報の第三者提供という、“出口”の部分についてオプトアウト手続きが明確化されたことは大きな一歩前進ですが、”入口”にあたる、個人情報の収集・管理・利用などについてはどうなっているのでしょうか。

3.職業安定法5条の4
この点、個人情報の取得については、職業安定法5条の4、厚労省通達平成11年141号第4は、「本人から直接取得」することを原則とし、つぎに「本人の同意」を得た上で紹介会社等が本人以外のものから情報を収集することができるという仕組みになっています。

にもかかわらずLAPRASは、本人から直接個人情報を取得するのではなく、また、本人からあらかじめ同意も得ず、勝手にこっそり本人のネット上の書き込み等から個人データ取得して人材紹介業を行っていますが、これは職業安定法5条の4等に抵触しているのではないでしょうか。

4.個人情報保護法18条2項
また、個人情報保護法18条2項は、事業者が本人から「書面(電磁的記録を含む)」により個人情報(データ)を取得するときは、「あらかじめ本人に利用目的を明示」せよと規定しています。

(取得に際しての利用目的の通知等)
第十八条
    (略)
 個人情報取扱事業者は、前項の規定にかかわらず、本人との間で契約を締結することに伴って契約書その他の書面(電磁的記録を含む。以下この項において同じ。)に記載された当該本人の個人情報を取得する場合その他本人から直接書面に記載された当該本人の個人情報を取得する場合は、あらかじめ、本人に対し、その利用目的を明示しなければならない。ただし、人の生命、身体又は財産の保護のために緊急に必要がある場合は、この限りでない。

この点、ラプラスは、AIプログラム等が、個人・本人のネット上の書き込み等から個人データの収集を始める段階では本人への利用目的の明示を行ってないようです。(NHKのクロ現+や数年前のニュース記事等によると。)これは明らかに個人情報保護法18条2項に反しているのではないかと懸念されます。

5.正確性・安全管理措置
さらに、もしLAPRASのAIプログラムにバグなどの瑕疵があり、ネット上の他人の書き込み等を間違えて本人のものとしていること等があるとしたら、個人データの正確性の確保(19条)や、個人データの安全管理措置(20条)にも違反してるのではないかと懸念されます。

LAPRASサイトをみると、同社のAIプログラムはネット上のさまざまな個人データを収集、分析、突合し、自動で本人のプロフィールなどを作成するそうですが、このプロフィールが本人からみて本当に正しいのか等の問題も発生するものと思われます。

6.守秘義務
加えて、職業安定法51条は人材紹介会社等に守秘義務を課しています。この義務違反には罰則があります(66条9号)。

本人にとって、例えば大学・大学院研究室サイトなどに掲載された本人の業績などはあまり問題がないかもしれませんが、その一方でネット上の過去のツイッターなどのSNSにおける書き込みや、過去に本人が匿名で書いたブログ記事などは、一般論としては本人にとって「黒歴史」であり、本人が求人企業などに見せたいとは思わない「秘密」であろうと思われます。

このようなさまざまな「黒歴史」で「秘密」な個人データをLAPRASはコンピュータプログラムを使って自動的に突合・分析し、個人データベースを作成し、本人のプロフィールを作成し、求人企業に対してそれらのデータをみせた上で「こんな人いますよ」と営業を行っているわけですが、もし安易に求人企業にこれらの「秘密」を元にした個人データベースやプロフィール等を見せているとしたら、それは守秘義務違反となるのではないでしょうか。

7.厚労省職業安定局の通達
この点、リクナビ事件について厚労省職業安定局は9月6日に、「本人の同意なく…あるいは十分な同意がない…内定辞退予測の…本人のあずかり知らぬ形での募集企業への提供は…学生本人の立場を弱め…学生の不安感を惹起するもの…職安法51条に照らし違法のおそれがある」との趣旨の通達を出しています。

厚労省通知リクナビ事件
(厚労省サイトより)

・募集情報等提供事業等の適切な運営について|厚労省職業安定局(令和元年9月6日)

本人の同意を得ていない内定辞退予測の募集企業への提供が、本人の秘密侵害であるとして人材紹介会社の守秘義務違反となるのなら、本人の同意を得ずに勝手にさまざまなネット上から情報を収集し、それを分析・加工した個人データも同様に本人の秘密であるとして、その本人のあずかり知らぬところでの募集企業などへの提供は、守秘義務違反となるのではないでしょうか。

8.人材会社「の判断による選別または加工」の禁止
くわえて、本通知は、本人の個人データを、「人材会社の判断による選別または加工」を行うことも禁止しています。LAPRASは、ネット上の本人のツイッターなどのSNSやブログ記事などの個人データを収集し、LAPRASの判断により選別・加工を行い、プロフィールなどDBを運営して事業を行っていますが、この本人のさまざまな個人データを収集したうえで選別・加工を行うビジネスモデルは職業安定法に反し、個人情報保護法制の趣旨に反するものであると思われます。

(なお、「コンピュータによる個人データの自動処理」については、1996年にILOが「労働者の個人データの保護に関する行動準則」を制定し、そのなかには、「一般原則 5.6 電子的な監視で収集された個人データを、労働者の成績を評価する唯一の要素とすべきではない。」との条文があります。この考え方は欧州では、EU指令からGDPRに引き継がれています。日本においても、2000年の労働省「労働者の個人情報保護に関する行動指針」などに表れています。(堀部政男『プライバシー・個人情報保護の新課題』163頁))

9.まとめ
このように職業安定法や厚労省通達、個人情報保護法などに照らすと、さまざまな面でLAPRASの業務は、ビジネスモデルの根幹の部分で法令に抵触しているように思われます。


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