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6月11日、ZホールディングスLINEの個人情報事件に関する有識者委員会(座長・宍戸常寿教授)第一次報告書の概要をサイトで公表しました。

・「グローバルなデータガバナンスに関する特別委員会」第一次報告受領について|Zホールディングス

この報告書の概要を大まかにみると、まず、「LINEの主要な個人情報は主に日本のサーバーに保管されている」とLINE社2013年、2015年、2018年の3回、日本の国・自治体関係者に説明していた点が報告書にありますが、これはやはり、非常に不適切だと思われます。

なおこの点、個人情報保護法40条は、個人情報保護委員会は事業者に対して報告を求め、また立入検査をすることができると規定していますが、この報告に虚偽があった場合や検査忌避があった場合などは罰則(両罰規定)が科されると規定されています(法85条)。

また、個人情報保護委員会だけでなく、総務省もLINE社に対して報告徴求などを実施していますが、電気通信事業法169条も虚偽の報告などに対して罰則規定を置いています。さらに金融庁もLINE社に報告徴求などを実施していますが、例えばQRコード決済などに関する資金決済法も、報告徴求に対する事業者の虚偽の報告などに対して罰則規定をおいています(法112条7号、8号)。

これらの罰則規定が今後、LINE社などに対して適用されるのか、大いに気になるところです。

また、LINE社の話を鵜呑みにしていた国・自治体側も、個人情報保護法制や、国の安全保障あるいは経済安全保障の観点から非常に問題があるのではないでしょうか。

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この点、例えば行政機関個人情報保護法6条は、行政機関は「保有個人情報の漏えい、滅失又は毀損の防止その他の保有個人情報の適切な管理のために必要な措置を講じなければならない」と規定しています(安全確保措置)。

また、これも例えば総務省の「総務省の保有する個人情報等の適切な管理のための措置に関する訓令 」(総務省訓令第54号)38条は、業務委託について、適切な安全確保措置が実施できる事業者を書面などを求めて選定すること(1項)、目的外利用の禁止や秘密保持条項、再委託の制限、個人情報漏洩事故があった場合の対応などを盛り込んだ契約書による業務委託契約を締結すること(2項)、少なくとも年1回の委託先への実地検査を実施すること(3項)等などを規定しています。

しかし、LINEを情報提供サービスなどのために利用していた総務省や、各自治体は、LINE社としっかり業務委託契約書を締結し、年1回以上のLINE社への実地検査などを法令に基づいて実施していたのでしょうか?大いに疑問です。

つぎに、3月の朝日新聞等の報道を受けて、LINE社はプレスリリースを公表し、2021年6月までに韓国サーバーに保管されている画像・動画などの個人データを日本のサーバーに移動させる等と発表しました。

しかし、この点についても、さまざまな個人データの日本への移動が、LINE社のリリースに示されたスケジュールに対して遅延していることが明らかにされています。この点を、本報告書は「ユーザーファーストの意識が欠けている」と指摘しています。
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この点は、新興のIT企業であるLINE社およびZホールディングスは、「ユーザー・顧客との約束を守ろうという意識」、ユーザー・顧客への説明責任や、>ガバナンスコンプライアンスの意識が企業として極めて低いのではないでしょうか。Yahoo!Japan社も、2004年の450万人分の個人情報漏洩を起こしたYahoo!BB個人情報漏洩事件など、3年から5年おきに不祥事を起こしている印象があります。

さらに、朝日新聞の峯村健司氏のスクープ報道のとおり、やはりLINE社の委託先の中国子会社の日本サーバーへのアクセスログ等は、中国等の開発者が具体的にどんな個人データにアクセスしたか等の記録が残っていないとのことです。アクセスログも保存されていても、1年間しか保存されていないとのことです。さらに中国等の開発者PC等は外部ネットに接続可能な状態であり、当該PC等の挙動のログなども残っていないと報告書は指摘しています。これはLINE社の安全管理措置が非常に不十分であったと言わざるを得ません。
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加えて、報告書は、2016年ごろより、中国の国家情報法に関する議論が日本国内で高まっていたのに、LINE社がシステムの開発・保守などを中国で継続していた点も指摘しています。
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この点も、わが国の国民約8600万人のアクティブ・ユーザーを持ち、国・自治体の情報発信業務や国民・市民からの相談業務、多数の日本企業の情報発信業務などを担っているLINE社は、日本の国民の個人情報保護や国・自治体や多くの企業の機密情報の保護に対する大きな責任を負っていること、日本の安全保障および経済安全保障に大きな責任を負っていることに対して、企業市民としてあまりにも無頓着だったのではないでしょうか。

なお、本報告書の概要をざっとみる限り、本事件で個人情報とともに問題となった、電気通信事業法4条憲法21条2項の定めるユーザーの「通信の秘密」に関しては、有識者委員会であまり議論がなされていないようですが、大丈夫なのでしょうか。

4月の総務省のLINE社に対する行政指導のプレスリリースも、個人情報に関しては問題視していますが、「通信の秘密」に関しては、まるでなかったかのようにしているわけですが。この点を、情報法の大御所である宍戸教授などの有識者委員会に大いに議論していただきたいと、一般の国民としては思っていたのですが。
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また、本日のZ社のプレスリリースでは、有識者委員会の第一次報告書は概要のみが公表されており、報告書本文は公表されていないことも、やや不可思議な対応であると思われます。

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