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タグ:外国にある第三者

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1.日経のプライバシーポリシーが改正される
日本経済新聞社から最近来たメールによると、令和2年・令和3年に改正された個人情報保護法が今年4月1日から施行されることを受けて、同社のプライバシーポリシー(日経IDプライバシーポリシー)が4月1日に改正されるとのことです。ところがこの改正後の日経IDプライバシーポリシーをざっと見たところ、個人情報保護法的に突っ込みどころが満載で驚いてしまいました。

・(改正後)日経IDプライバシーポリシー|日本経済新聞

2.Cookie、IPアドレスおよびサイト閲覧履歴などは個人情報ではない?
(1)個人情報と個人関連情報
第一に、改正後の日経IDプライバシーポリシー(以下「本プライバシーポリシー」とする)の「はじめに」を読むと、日経新聞が取扱う情報を4つ(あるいは3つ)に分類するようです。

日経プライバシーポリシー1
(「(改正後)日経IDプライバシーポリシー」より)

つまり、まず情報を①氏名、住所、職業などの「お客様登録情報」、②Cookie、サイト閲覧履歴、IPアドレス、OSなどの環境情報などの「ご利用履歴情報」の2つに分類しています。

日経プライバシーポリシー3
(「(改正後)日経IDプライバシーポリシー」より)

そしてさらに、②のご利用履歴情報について、お客様登録情報と関連付けて収集するか否かで場合分けし、③「お客様登録情報と関連付けて収集するご利用履歴情報」と、④「お客様登録情報と関連付けないで収集するご利用履歴情報」の2つに分けています。③の具体例としては「日経ID登録されたお客さまの日経電子版閲覧履歴や閲覧状況など」があげられており、④の具体例としては「日経ID登録されていないお客さまの日経電子版閲覧履歴や閲覧状況など」があげられています。

その上で本プライバシーポリシーは、①と②は個人情報であり、④は個人関連情報(個人情報保護法2条7項)であるとしています。

しかし、④に関するこの説明は正しいといえるのでしょうか。個人関連情報(法2条7項)は令和2年の個人情報保護法改正で新設されたもので、具体例としてはCookieやIPアドレス、サイトの閲覧履歴、位置情報などのことであり、条文上は「生存する個人に関する情報であって、個人情報、仮名加工情報及び匿名加工情報のいずれにも該当しないものをいう」と定義されています(法2条7項)。

そして、個人情報保護委員会(PPC)の個人情報保護法ガイドライン通則編(2022年4月1日版)22頁の個人関連情報に関する注(※)はつぎのように説明しています。
(※) 個人情報に該当する場合は、個人関連情報に該当しないことになる。例えば、一般的に、ある個人の位置情報それ自体のみでは個人情報には該当しないが、個人に関する位置情報が連続的に蓄積される等して特定の個人を識別することができる場合には、個人情報に該当し、個人関連情報には該当しない。(個人情報保護法ガイドライン通則編(2022年4月1日版)22頁より)

個人情報保護法ガイドライン22ページ
(個人情報保護法ガイドライン通則編(2022年4月1日版)22頁より)

すなわち、PPCのガイドライン22頁の注は、CookieやIPアドレス、閲覧履歴、位置情報、移動履歴なども「連続的に蓄積」されると、それぞれがお互いに差異のあるユニークなデータとなり、たとえ個人名を識別できないとしても、「あの人のデータ、この人のデータ」と、ある個人(特定の個人)を識別できるデータになるから、それは個人情報でありもはや個人関連情報ではないと明記しています。

(参考)
・令和2年改正個人情報保護法ガイドラインのパブコメ結果を読んでみた(追記あり)-貸出履歴・閲覧履歴・プロファイリング・内閣府の意見
・個人情報保護法ガイドラインは図書館の貸出履歴なども一定の場合、個人情報や要配慮個人情報となる場合があることを認めた!?

個人関連情報などの図

したがって、④「お客様登録情報と関連付けないで収集するご利用履歴情報」であっても、「連続的に蓄積」されたデータは個人情報であり、これも一律に個人関連情報であるとしている本プライバシーポリシーは正しくありません。

(2)個人情報の容易照合性
さらに、個人情報は、生存する(a)「個人に関する情報であって」かつ(b)「特定の個人を識別できるもの」です(鈴木正朝・高木浩光・山本一郎『ニッポンの個人情報』20頁)。そしてさらに(c)「(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む)」(=容易照合性)と定義されています(法2条1項1号)。

この(c)の容易照合性について、PPCの個人情報保護法ガイドラインQA1-18は、「事業者の各取扱部門が独自に取得した個人情報を取扱部門ごとに設置されているデータベースにそれぞれ別々に保管している場合において…双方の取扱部門の間で、通常の業務における一般的な方法で双方のデータベース上の情報を照合することができる状態である場合は、「容易に照合することができ」る状態であると考えられます。」としています。

個人情報ガイドライン1-18の1
個人情報ガイドライン1-18の2
(個人情報保護法ガイドラインQA(2022年4月1日版)より)

日経新聞社の社内の個人情報関係のデータベースの仕組みやアクセス制御、社内規程などを私は知りませんが、しかし一般論としては、同一の企業内のある部門のもつデータベースと別の部門のもつデータベースはお互いに職員が情報を照会して照合することが可能であると思われます。そうでなければ利用できず、社内でリソースを使って収集・保存する意味がないからです。

そう考えると、日経新聞社内のご利用履歴情報のデータベースとお客様登録情報のデータベースは容易に照合が可能であるといえるのではないでしょうか。すると、④「お客様登録情報と関連付けないで収集するご利用履歴情報」であっても、お客様登録情報と容易に照合してある個人を識別できる個人情報であるといえる情報・データも存在するものと思われ、この点からも日経の本プライバシーポリシーは正しくないと思われます。

3.第三者提供について
第二に、気になる個人情報の第三者提供について、本プライバシーポリシーをみると、「3.個人情報の提供など」の部分は、本人同意による第三者提供(法27条1項(改正前法23条1項))についてはそれなりに記載がありますが、広告業者、DMP業者などへの第三者提供のオプトアウト方式(法27条2項(改正前法23条2項))の記載がないことが気になります。
日経プライバシーポリシー6
(「(改正後)日経IDプライバシーポリシー」より)

従来は50も100もオプトアウト先が列挙されており、ネット上では「オプトアウトが事実上不可能」と批判されていました。その日経新聞の個人データの提供先にはGoogleやFacebook、Twitter、ヤフーや楽天、LINE、セールスフォースなどのIT企業が列挙されていましたが、あれはどうなってしまったのでしょうか?

アクセスデータの共有先1
アクセスデータの共有先2
オーディエンスワン概要図
(日経新聞社サイトより。2022年3月5日現在)

また、上でみた個人関連情報は、個人情報ではありませんが、国民・消費者保護のため、第三者提供には本人の同意が必要となっています(法31条)。にもかかわらず、日経の本プライバシーポリシーが、④「お客様登録情報と関連付けないで収集するご利用履歴情報」の提供について本人同意について何も書いていないのは大丈夫なのでしょうか?不安が残ります。

4.「広告業者等に単体では個人を識別できない情報を提供する」
第三に、利用目的の「(5)個人情報の共同利用について」は「広告業者等に単体では個人を識別できない情報を提供する」との記載があります。この「単体では個人を識別できない情報」とは匿名加工情報のことなのでしょうか?しかし、データを潰してならして個人が識別できないようにした匿名加工情報を提供されても、広告企業やDMP業者などは業務には使えないのではないでしょうか?

この点、個人データから氏名や住所などの個人データの一部を削除した仮名加工情報が今回の令和2年の個人情報保護法の改正で新設されました(法2条5項、法41条)。しかし仮名加工情報は他の情報と照合して本人を識別することは禁止され(同条7項)、本人に電話や郵便・メールなどでアクセスすることも禁止され(同条8項)、そしてさらに仮名加工情報の利用は社内に限られ、第三者提供は禁止されています(同条6項、同42条1項)。したがって、もし万が一、日経新聞社が「単体では個人を識別できない情報」として仮名加工情報を広告業者やDMP業者などに提供しようとしているとしたら、それは個人情報保護法41条6項および法42条1項違反です。

5.「外国にある第三者」など
第四に、保有する個人情報に講じた安全管理措置の記載などがないことも気になります(法27条1項)。また、本プライバシーポリシーの共同利用の事業者一覧には、中国法人なども含まれていますが、LINEの個人情報問題で注目を集めた「外国にある第三者」(法28条)に関して、外国の個人情報保護法制などの情報に関する記載がないことも気になります。「外国にある第三者」に関しては、委託や事業承継、共同利用は対象外となっていないからです(法28条1項後段、宇賀克也『新・個人情報保護法の逐条解説』285頁)。
共同利用1
(「(改正後)日経IDプライバシーポリシー」より)

6.まとめ
Twitterなどで拝見していると、日経新聞記者は個人情報保護法に強い方が多いのに、本プライバシーポリシーはいろいろと大丈夫なのだろうかと心配になる点が多々あります。日経新聞社内の法務部などは事前にリーガルチェックなどをしっかり実施しているのでしょうか。「日本の企業・国は国民の個人情報をますます利活用して日本の経済発展を!」と「個人情報の利活用」を熱心に主張している日経新聞のプライバシーポリシーがこれでは、今後の日本のデジタル庁などの政府やIT企業、製薬会社、自動車メーカーなどの個人情報の取り扱いが心配になります。

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■参考文献
・宇賀克也『新・個人情報保護法の逐条解説』285頁
・佐脇紀代志『一問一答令和2年改正個人情報保護法』24頁、54頁、62頁、71頁
・鈴木正朝・高木浩光・山本一郎『ニッポンの個人情報』20頁

■関連する記事
・令和2年改正個人情報保護法ガイドラインのパブコメ結果を読んでみた(追記あり)-貸出履歴・閲覧履歴・プロファイリング・内閣府の意見
・個人情報保護法ガイドラインは図書館の貸出履歴なども一定の場合、個人情報や要配慮個人情報となる場合があることを認めた!?
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LINE
4月23日、個人情報保護委員会は、LINE社に対して指導(個人情報保護法41条の指導)を行った旨のプレスリリースを発表しました。

・個人情報の保護に関する法律に基づく行政上の対応について(LINE株式会社・令和3年4月23日)|個人情報保護委員会

同リリースによると、個人情報保護委員会は、LINEの事件について、委託先の監督(法22条)の違反を認定した一方で、個人データの外国にある第三者への移転に関する規制(法24条)については違反とは認定しなかったようです。(なお、同リリースによると、個人情報保護委員会のLINE社に対する立入検査は現在も続行中とのことです。LINE社に報告徴収などを行っている総務省、金融庁などの行政処分・行政指導はまだのようです。)

同リリースによると、LINEの委託先の監督(法22条)については、つぎの3点に不備があったとして、個人情報保護委員会は、委託先の監督(法22条)違反があったとして、改善するように指導(法41条)を行ったとしています。

①委託先に個人データへのアクセス権を付与する際には、その必要性や権限の範囲を社内で検討する等の技術的安全管理措置を講じるべきであったが不備があったこと

②委託先に個人データへのアクセス権を付与する際には、不正閲覧等の防止のためにログなどの保管・分析などの組織的安全管理措置が必要であるが、それに不備があったこと

③委託先の個人データの取扱状況の確認のために定期的に立入監査などを行い、委託の契約内容を適切に評価すべきであるが、それに不備があったこと

一方、LINEの個人データが韓国などに提供されていた点に関する、「外国にある第三者に個人データを提供する場合の制限」(法24条)に関しては、個人情報保護委員会は、現行法24条が、「本人の同意」を取得して外国にある第三者への個人データの移転を行う場合には、「外国にある第三者」に個人データを移転することさえプライバシーポリシーなどに記載しておけば、具体的な国名などの記載はなくてよいと大雑把にしか規定していないことから、「利用者にとって外国にある第三者に提供する場面を特定できなかったとは言い難い」として、法24条については違反を認定していません。

この点は、利用者の保護に欠けると思われますが、現行法の法24条が大雑把にしか規定していないので、やむを得ないということなのでしょうか。

なお、2020年の個人情報保護法改正においては、「外国にある第三者に個人データを提供する場合の制限」(法24条)に関する事業者の義務が追加され、「本人の同意」の取得により外国にある第三者に個人データを提供する場合は、事業者は、①移転先の具体的な国名、②当該移転先の国の個人情報保護制度の有無、③当該個人情報保護制度がある場合にはその概要、④当該外国にある第三者のプライバシーポリシーなどを、事業者は利用者に情報提供することが義務付けられました(2020年改正法24条2項、佐脇紀代志『一問一答令和2年改正個人情報保護法』52頁、54頁)。

ところで、同リリースで個人情報保護委員会は、「LINE社が委託等した個人情報は秘匿性が高く数量も多いことから、不適切な取扱が生じたときの影響も大きい。LINE社にはそれに応じた高い安全管理措置が必要」と述べています。

LINE社およびZホールディングスの経営陣は、この部分を胸に刻み、大いに反省すべきではないでしょうか。

■関連するブログ記事
・LINEの個人情報・通信の秘密の中国・韓国への漏洩事故を個人情報保護法・電気通信事業法から考えた
・LINEが個人情報漏洩事件に関し改正したプライバシーポリシーを読んでみた #峯村砲









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