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タグ:子ども

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1.はじめに

個人情報保護委員会が令和6年4月10日付で公表している「個人情報保護法いわゆる3年ごと見直し規定に基づく検討(個人の権利利益のより実質的な保護の在り方②)」の資料を読んでみました。今回の資料は、①子どもの個人情報、②消費者団体訴訟制度、の2点を取り上げています。

2.子どもの個人情報

本資料1頁は、まず「現行の個人情報保護法上、子どもの個人情報の取扱い等に係る明文の規定はない」とした上で、個人情報保護法ガイドライン(通則編)2-16および個人情報保護法ガイドラインQA1-62が、「「本人の同意」を得ることが求められる場面(目的外利用、要配慮個人情報の取得、第三者提供等)について、以下のとおり、「一般的には12歳から15歳までの年齢以下の子どもの場合には法定代理人等から同意を得る必要がある」とされている」と説明しています。

ppc1

つぎに本資料は、児童の権利条約(1989年)やデジタル環境下のこどもに関するOECD勧告(2021年)が、子どものプライバシーやデータ保護が重要であると規定していると説明しています。

また、本資料3頁以下は、子どもの個人情報に関する外国制度として、EU、イギリス、アメリカ、中国、韓国、インド、インドネシア、ブラジル、カナダ等の法制度を概観しており、「子どもの個人情報等をセンシティブ情報又はセンシティブデータと分類した上で特別な規律の対象とするケース」や「子どもの個人情報に特有の規律を設けるケース」が多いと分析しています。

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ppc3
ppc4

さらに本資料8頁以下は、子どもの個人情報に関する外国における主な執行事例として、InstagramやTikTok、YouTubeなどの事例をあげています。

ppc5
加えて本資料10頁は、日本における子どもの個人情報に関する社会的反響の大きかった事例として、①全寮制の学校Aが、全生徒にウェアラブル端末を購入してもらい、心拍数、 血圧、睡眠時間等の個人データを収集しようとした事件(広島叡智学園事件(2018年))、②学校Bで、生徒の手首につけた端末で脈拍を計測し、授業中の集中度を測定する実証研究を行った事件(市立鷲宮中学校事件(2021年))の概要が紹介されています。

また、子どもの個人情報に関連して個人情報保護法に基づく行政上の対応が行われた事例として、四谷大塚事件(2024年2月)の概要が紹介されています。

ppc6

なお本資料12頁は、「個人情報保護法相談ダイヤルにおける子どもの個人情報等に係る相談事例等」として、頻度の多い相談事例や、その他の相談事例等をあげていますが、とくに「事例C 事業者がパンフレットに児童の個人情報を掲載しているが、当該掲載について児童から口頭で同意をとったのみであり、親には何らの連絡もなかった」事例や、「事例D 未成年の娘あてに事業者からDMが届いた。発送先の事業者に確認したところ、名簿販売業者から娘の情報を取得したうえで営業をかけているようであった」という事例、「事例G 事業者が保有する児童の個人情報について、親が開示・削除等の請求をしているにもかかわらず、なかなか応じてくれない」事例、などを読むと、やはり子どもの個人情報の法規制は待ったなしだと思われます。

ppc7

3.消費者団体訴訟制度

本資料15頁は、適格消費者団体は、「不当な勧誘」、「不当な契約条項」、「不当な表示」などの事業者の不当な行為をやめるよう求めることができるとし、「事業者が不特定かつ多数の消費者に対して消費者契約法等に違反する不当な行為を行っている、又は、行うおそれのあるとき」には差止請求を行うことができると説明しています。この「消費者契約法等」には消費者契約法のほか、景品表示法、特定商取引法、食品表示法が規定されていると説明されています。(個人情報保護法はまだ規定されていない。)

また本資料17頁は、団体訴訟の差止請求に関連し、「個人情報に係る本人が不特定かつ多数と評価しえる事例に係る個人情報保護法に基づくこれまでの主な行政上の対応」として、Facebook事件(平成30年10月)、JapanTaxi事件(平成30年11月、令和元年9月)、リクルート内定辞退率予測データ事件(2019年)、破産者マップ事件(令和4年)、ビジネスプランニング事件(令和6年1月)の概要をあげています。

ppc8
ppc9

さらに本資料21頁は、「不法行為の成否と個人情報保護法の関係」として、令和5年の顔識別機能付き防犯カメラ報告書からつぎのように一部を抜粋しています。

『「不法行為法と個人情報保護法はその目的や性格に異なる部分があることから、不法行為が成立する場合、同時に個人情報保護法違反となる場合もあり得るが、不法行為が成立したからといって必ずしも個人情報保護法違反となるわけではない。」
不法行為の成否を評価するに当たり考慮される要素は、個人情報保護法上も不適正利用の禁止規定(法第19条)や適正取得規定(法第20条第1項)の解釈などにおいて、考慮すべきであると考えられる。
(出典)「犯罪予防や安全確保のための顔識別機能付きカメラシステムの利用について」(令和5年3月)から引用。』
「不法行為の成立=個人情報保護法違反ではない」としつつも、「不法行為の成否を評価するに当たり考慮される要素は、個人情報保護法上も不適正利用の禁止規定(法第19条)や適正取得規定(法第20条第1項)の解釈などにおいて、考慮すべきであると考えられる。」と個人情報保護委員会がしていることは、個情委が今後、不適性利用禁止条項を積極的に発動する可能性があるのではないでしょうか。個人的には個情委のこの取組みに期待したいです。

また本資料21頁は、個人情報の取扱いにおいて損害賠償責任が問題となった主な事例として、早大名簿提出事件(最高裁平成15年9月12日判決)とベネッセ個人情報漏洩事件(最高裁平成29年10月23日判決)をあげています。

ppc10

ベネッセ個人情報漏洩事件はおよそ3500万件もの個人情報が漏洩した事件ですが、このように被害者が不特定かつ多数の個人情報漏洩事件について、消費者団体訴訟における損害賠償請求ができるようになることは、被害者救済の観点から重要であると思われます。また、団体訴訟制度の個人情報保護法への導入は、事業者の実務への影響は非常に大きいと思われます。

■関連するブログ記事
・PPCの「個人情報保護法いわゆる3年ごと見直し規定に基づく検討」(2023年11月)を読んでみた
・個情委の「個人情報保護法いわゆる3年ごと見直し規定に基づく検討(個人の権利利益のより実質的な保護の在り方①)」を読んでみた
・埼玉県の公立中学校の「集中しない生徒をリアルタイムで把握」するシステムを個人情報保護法や憲法から考えた
・戸田市の教育データを利用したAI「不登校予測モデル」構築実証事業を考えた-データによる個人の選別

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kojinjouhou_businessman (1)
1.はじめに
2023年11月15日付で個人情報保護委員会(PPC)が「個人情報保護法いわゆる3年ごと見直し規定に基づく検討」を公表していたので読んでみました。今回の「個人情報保護法いわゆる3年ごと見直し規定に基づく検討」(以下「本検討」)は、大きく、①個人の権利利益のより実質的な保護の在り方、②実効性のある監視・監督の在り方、③データ利活用に向けた取組に対する支援等の在り方、の3つを次回の個人情報保護法改正の柱として掲げています。(なお本ブログ記事の意見の部分は、あくまで筆者の個人的な意見にすぎません。)
・第261回個人情報保護委員会

2.「検討の方向性① 個人の権利利益のより実質的な保護の在り方」について
検討の方向性1
(PPC「個人情報保護法いわゆる3年ごと見直し規定に基づく検討」より)

この「検討の方向性① 個人の権利利益のより実質的な保護の在り方」では、PPCは「概要」として、「破産者等情報のインターネット掲載事案や、犯罪者グループ等に名簿を提供する悪質な「名簿屋」事案等、個人情報が不適正に利用される事案も発生している。こうした状況に鑑み、技術的な動向等を十分に踏まえた、実質的な個人の権利利益の保護の在り方を検討する。」等としています。

そしてその下の「検討の視点(例)」は、とくにつぎの①~③をあげています。

①技術発展に伴って、多様な場面で個人情報の利活用が進み、その有用性が認められる一方で、こうした技術による個人の権利利益の侵害を防ぐためには、どのような規律を設定すべきか。

②個人情報を取り扱う様々なサービス等が生まれる中、個人の権利利益の保護の観点から、本人の関与の在り方を検討すべきではないか。その際、その年齢及び発達の程度に応じた配慮が必要なこども等の関与の在り方はどうあるべきか、併せて検討すべきではないか。

③個人の権利利益保護のための手段を増やし、個々の事案の性質に応じて効果的な救済の在り方を検討すべきではないか。
この点、①に関しては、本検討3頁の「施行状況に係る委員会における主な意見」において、「生成AI、認証技術の普及等」を踏まえて「不適正利用の禁止」に関する規律(法19条)を「実効ある形になるよう…その考え方を検討すべき」との意見が出されています。

主な意見
(PPC「個人情報保護法いわゆる3年ごと見直し規定に基づく検討」より)

最近はchatGPTなど生成AIや画像生成AIが製造開発され普及しつつありますが、AIによる個人のプロファイリングなどについては日本の個情法には法19条の不適正利用の禁止の条文しか存在せず、しかもその条文は抽象的で謙抑的です。この不適正利用の禁止規定の具体化・積極化は個人の権利利益の保護に資するものとして、次の個人情報保護法改正において大きな目玉になるのではないかと思われます。(あくまで個人的な予想ですが。)

つぎに②に関しては、「本人関与の在り方」を検討すべきとされていますが、これは現行の個情法の開示・利用停止等の請求権のさらなる拡大を意味しているのでしょうか。ところでその後の「その年齢及び発達の程度に応じた配慮が必要なこども等の関与」を検討すべきとの記述が注目されます。

EUのGDPR(一般データ保護規則)は原則16歳未満の子どもの個人データの収集等に規制を設け、アメリカの児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)も同様に13歳未満の子どもの個人データの収集等に規制を設けているところ、日本の個情法は子どもの個人データ・個人情報を保護するための明文規定を置いていません。そのため、次の個人情報保護法改正では、遅ればせながらもわが国の子どもの個人データへの規律が新設されるのかもしれません。

さらに③に関しては、本検討3頁の「施行状況に係る委員会における主な意見」において、「個人の権利利益保護のための手段を増やす観点から」「集団訴訟」を「検討すべき」との意見が出されています。現状の裁判例では、個人情報漏洩について民事訴訟が提起されても認められる損害額が数千円程度であり、被害を受けた個人が訴訟をためらう現状があるように思われます。消費者契約法にある消費者団体訴訟制度のような制度が個人情報保護法の分野にも創設されたら、そのような被害を受けた国民個人の救済に資するように思われます。(一方、もし集団訴訟制度が個情法に創設された場合、事業者側に対するインパクトは大きいものがあると思われます。)

3.「検討の方向性② 実効性のある監視・監督の在り方」について
検討の方向性2
(PPC「個人情報保護法いわゆる3年ごと見直し規定に基づく検討」より)

この部分の「検討の視点(例)」はつぎのようになっています。
①ヒューマンエラーのような過失による漏えい等事案が多い一方で、非常に大規模な漏えい等事案等、重大な個人の権利利益の侵害に繋がるケースも発生しているところ、従来の指導を中心とした対応にとらわれない、より実効性のある監視・監督の在り方を検討すべきではないか。

②重大な事案や、故意犯による悪質な事案を抑止するための方策を検討すべきではないか。また、そのための関係省庁等との連携の在り方を検討すべきではないか。

③個人の権利利益の保護のため、重大な漏えい等事案の状況をどのように把握し、適切な執行につなげていくべきか検討すべきではないか。
まず、①に関しては、本検討3頁の「施行状況に係る委員会における主な意見」は、現行の事業者に対する行政指導中心の監視・監督だけでなく、「緊急命令」(法148条3項)をも利用した監視・監督を提言する意見が出されています。そのため今後のPPCの監視・監督においては、報告徴求や立入検査、行政指導などだけでなく積極的に緊急命令が発動される実務が行われる可能性があります。

つぎに②に関しては、公正取引委員会、総務省、消費者庁、厚労省、金融庁、デジタル庁、こども家庭庁等の関係行政庁とのさらなる連携が行われるのかもしれません。また本検討3頁の「施行状況に係る委員会における主な意見」は、「課徴金制度」を導入することに関する意見も出されているので、次の個人情報保護法改正においては、個人情報データベース等提供罪などの罰則強化だけでなく、独禁法に規定がある課徴金減免制度のような制度が盛り込まれるのかもしれません。さらに公取委などのように内部通報窓口(内部告発窓口)などがPPCに用意されるかもしれません。加えて、個人情報データベース等提供罪などの罰則強化の改正があるかもしれません。

4.「検討の方向性③ データ利活用に向けた取組に対する支援等の在り方」について
検討の方向性3
(PPC「個人情報保護法いわゆる3年ごと見直し規定に基づく検討」より)

この部分に関しては、本検討3頁の「施行状況に係る委員会における主な意見」には、「個票データの利活用」の検討があげられています。「個票データ」というものの概念がはっきりしませんが、ひょっとしたら匿名加工情報、仮名加工情報につぐ個人データの利活用のための新たなカテゴリーが創設される可能性があるのでしょうか。

また、同「主な意見」には、「健康・医療データ、子どもデータ等の公共性の高い分野」の個人データのさらなる利活用のために関係官庁とさらなる連携を行うべきであるとの意見も出されています。これらの個人データに関しては良い悪いは別として、国策としてさらなる利活用が検討・実施されるように思われます。

5.その他・スケジュールなど
今後のスケジュールに関しては、11月下旬以降に関係団体等のヒアリングを順次実施とあり、その後、2024年春頃に「委員会「中間整理」公表」とあります。この段階でパブコメが実施されるのでしょうか。

また、同「主な意見」では、いわゆる「クラウド例外」の見直しも議論の対象となっているようです。

なお、上の本検討3頁の「施行状況に係る委員会の主な意見」を読んでも、個人情報保護法の立法目的に自己情報コントロール権あるいは「自らの個人情報を適正に取扱われる権利」(曽我部真裕説)、「関連性のない個人データで個人が選別・差別されない権利」(高木浩光説)などを盛り込むべきといった議論はなされていないようでした。また、EUのGDPR22条のプロファイリング拒否権のような規定や、コントローラー・プロセッサー等の概念を盛り込むべきとの議論もなされていないようです。カメラ規制法やEUのようなAI規制法などの立法化の議論もなされていないようです。

このように次回の個人情報保護法改正は、これまでの法改正に比べて小ぶりな改正に留まるのかもしれません。

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