小林解任
(TBSニュースより)
1.東京オリンピック開会式・閉会式のトップのディレクター・小林賢太郎氏が解任
東京オリンピックの開会式が明日にせまるなか、7月22日午前11時頃に、開会式のディレクターで開会式の演出のトップの元お笑い芸人の小林賢太郎氏が、お笑い芸人時代にナチス・ドイツのユダヤ人大虐殺(ホロコースト)を笑いの対象としたコントをしていたことに対し、ユダヤ人人権団体のサイモン・ウィーゼンタール・センター(SWC)が同氏を非難する声明を公表したことを受け、組織委員会は本日、小林賢太郎氏を解任したとのことです。
・小林賢太郎氏を解任 五輪開会式演出担当、ホロコーストをやゆ|毎日新聞

・SWC Condemns Anti-Semitic Remarks by Director of Opening Ceremony of Tokyo Olympics|SWC

SWCサイト
(SWCサイトより)

たしかに、SWCサイトをみると7月21日付で、「SWC Condemns Anti-Semitic Remarks by Director of Opening Ceremony of Tokyo Olympics」(SWCは東京オリンピックの開会式のディレクターによる反ユダヤ主義の発言を非難する)との抗議声明が出されています。

同声明はつぎのように、小林賢太郎氏を強く非難しています。

“Any person, no matter how creative, does not have the right to mock the victims of the Nazi genocide. The Nazi regime also gassed Germans with disabilities. Any association of this person to the Tokyo Olympics would insult the memory of six million Jews and make a cruel mockery of the Paralympics,”
(どんなに創造的であっても、ナチスの虐殺の犠牲者をあざける権利は誰にもありません。ナチス政権はまた、障害を持つドイツ人をガス処刑した。この人物(=小林賢太郎氏)と東京オリンピックとの関係は、600万人のユダヤ人の記憶を侮辱するものであり、パラリンピックへの残酷な嘲笑を引き起こすでしょう。)

「どんなに創造的であっても、ナチスの虐殺の犠牲者をあざける権利は誰にもありません。」との批判は正当であり、もはや東京オリンピックは開会を前に、完全にレイムダック、「死に体」の状況に陥っているように思われます。

障害者のパラリンピックを含む東京五輪の開会式・閉会式の音楽担当の小山田圭吾氏が、学校時代の障害者へのいじめ加害で辞任となったばかりですが、今度は開会式の演出トップが、ナチスドイツのユダヤ人大虐殺を笑いの対象としていたことでSWCから非難され解任というのは非常に深刻な状況です。(SWCはアメリカに本部を置く、日本を含む西側自由主義諸国の政治に大きな影響力のある団体です。)

ナチスドイツによる600万人を超えるユダヤ人虐殺は、第二次世界大戦における重大な戦争犯罪の一つであり、ナチスドイツと同盟を結び軍国主義・全体主義国家として第二次世界大戦を行ってしまった日本も、このユダヤ人虐殺を軍国主義・全体主義国家の重大な間違いとして深く反省しなければならない立場のはずです。

世界の国々が参加する、オリンピックという準国家的なイベントの開会式・閉会式の演出のトップのディレクターの人選にあたり、組織委員会や国は、十分な身元調査などを実施していなかったのでしょうか?

また身元調査以前の問題として、そもそも、オリンピックという準国家的なイベントの演出ディレクターや楽曲担当などの要職は、いわば日本の広告塔となるわけですから、イベントの演出や音楽などの実務能力だけでなく、学識経験や高潔な人格など高い水準が要求されるように思われますが、なぜ東京オリンピック開会式・閉会式のスタッフ達は、お笑い芸人であるとか、露悪趣味を売り物にしているサブカル系のミュージシャン等ばかりが幹部に選抜されているのでしょうか?

武藤組織員会事務総長は、小山田氏の辞任劇に際し「我々は開会式・閉会式のスタッフは一人一人選んでいない」と自分達に責任がないと強調していましたが、電通などに重要な人事を丸投げにして放置していた点にこそ、重大な責任があるのではないでしょうか。武藤事務総長や橋本組織委員長ら幹部達は、重要な人事すら丸投げして放置しておいて、自分達はこれまで一体何の仕事をしていたのでしょうか?電通やテレビ局、政治家などへの中抜きのカネ勘定しかやっていなかったのでしょうか。

このように、五輪組織委員会の幹部達の経営責任や、監督する立場の菅首相や丸川大臣らの国の責任は重大であると思われます。

2.中山泰秀・防衛副大臣がサイモン・ウィーゼンタール・センター(SWC)に通報?
また、この解任劇は、Twitter等によると、ネット上で小林賢太郎氏の過去のコントが問題であると話題になり、7月22日午前1時頃にあるネット上の人物からTwitter上で申告を受けた防衛省副大臣の中山泰秀氏が同日午前2時前にSWCに通報を行い、22日午前11時頃に組織委員会が小林氏を解任したという経緯があるようです。

防衛省副大臣中山氏のツイート2
(中山泰秀氏のTwitterより)
https://twitter.com/iloveyatchan/status/1417896461262483457

Twitter等によると、中山泰秀・防衛副大臣は菅総理や丸川五輪担当大臣、橋本聖子組織委員長などに連絡することなしに、直接、SWCに通報を行ったようですが、これは少し大げさにいえば、防衛省幹部による、政府に対する一種の電子的なクーデターなのではないでしょうか。

新型コロナの第5波が日本を襲うなか、世論調査によると国民の5割~8割が東京オリンピックに反対しているにもかかわらず、菅首相は東京五輪の開催を強行しています。昨日は、経団連など経済界の3団体のトップが東京五輪の開会式を欠席することを明らかにしただけでなく、東京オリンピック開催を推進してきた安倍前総理も開会式を欠席することが明らかになりました。もはや政府与党の中では、菅首相に幹部達が公然と従わない空気となっているのかもしれません。

東京オリンピックとともに、菅政権も「死に体」、レイムダックの状況となっているのかもしれません。これまでの東京五輪のごたごたをみると、不祥事は小林氏の件で終わりになるとは思えません。オリンピック関係者や選手、スポーツ関係者達だけならまだよいですが、一般国民に対してもトラブルや政治的混乱の悪影響が及ばないことを願うばかりです。

今からでも菅政権は東京オリンピックを中止し、コロナ対応に全力を尽くすべきです。

■関連する記事
・菅義偉首相の「東京五輪をやめるのは簡単」「挑戦するのが政府の役割」発言を考える
・西村大臣の酒類販売事業者や金融機関に酒類提供を続ける飲食店との取引停止を求める方針を憲法・法律的に考えた
・西村大臣の金融機関や酒類販売事業者への要請を行政法から考えた-行政指導の限界
・新型コロナ・尾見会長「五輪何のためにやるのか」発言への丸川五輪大臣の「別の地平の言葉」発言を憲法的に考えた
・菅首相の「東京オリンピックの主催は私ではない」発言を法的に考えた-国家の主権
・川渕三郎氏の東京オリンピックに関するツイートが戦時中の政府のように根性論の思考停止でひどい件
・自民党憲法改正草案の緊急事態条項について考える
・「幸福追求権は基本的人権ではない」/香川県ゲーム規制条例訴訟の香川県側の主張が憲法的にひどいことを考えた