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1.マイナンバーカード取得者専用の電子図書館?
岐阜新聞の9月1日付の記事「マイナカード取得者専用の電子図書館、10月導入 岐阜・美濃市、普及促進図る」によると、美濃市は8月31日、マイナンバーカード取得者専用の電子図書館サービスを10月に導入すると発表したとのことです。マイナンバーカードの普及促進を図るのが狙いで、雑誌や小説など幅広いジャンルの電子図書5千冊を用意するとのことです。しかし自治体の公共図書館がマイナンバーカードを所持している国民だけを特別扱いすることは法的に許されるのか?とネット上がざわついています。

2.地方自治法・マイナンバー法から考える
自治体の公立図書館は行政法上の「公の施設」(公共施設)です。そして公の施設について地方自治法244条3項は、「不当な差別的取扱」を禁止しています。また同法同条2項は「正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない。」と規定しています。

地方自治法
(公の施設)
第二百四十四条 普通地方公共団体は、住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設(これを公の施設という。)を設けるものとする。
 普通地方公共団体(次条第三項に規定する指定管理者を含む。次項において同じ。)は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない。
 普通地方公共団体は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならない。

マイナンバー法
(個人番号カードの発行等)
第十六条の二 機構は、政令で定めるところにより、住民基本台帳に記録されている者の申請に基づき、その者に係る個人番号カードを発行するものとする。
また、マイナンバー法16条の2第1項は、「住民基本台帳に記録されている者の申請に基づき、その者に係る個人番号カードを発行するものとする。」とマイナンバーカードの発行は住民の任意であることが明記されています。

このように地方自治法とマイナンバー法をみると、マイナンバーカードの取得は住民のあくまで任意であるのに、そのマイナンバーカードを取得した住民・市民のみに専用の電子図書館サービスを実施しようとしている美濃市の対応は、公の施設たる図書館の利用について不当な差別的取扱を行うものであり、地方自治法244条2項、3項違反、マイナンバー法16条の2第1項違反のおそれがあるのではないでしょうか。(また平等原則を定める憲法14条1項にも抵触すると思われます。)

3.図書館の自由に関する宣言
また、図書館の役職員の職業倫理規範である「図書館の自由に関する宣言」の前文5条は、「すべての国民は、図書館利用に公平な権利をもっており、人種、信条、性別、年齢やそのおかれている条件等によっていかなる差別もあってはならない。外国人も、その権利は保障される。」と規定しています。つまりすべての国民は「図書館利用について公平な権利を持っており」、「いかなる差別もあってはならない」のです。

そのため、美濃市の取組はこの図書館の自由に関する宣言前文5条にも抵触しているものと思われます。

4.まとめ
このように、この美濃市の新しい取組みは地方自治法244条2項、3項に抵触し、憲法14条1項に抵触し、マイナンバー法16条の2にも抵触しています。また図書館の自由に関する宣言前文5条にも抵触しています。美濃市は今一度この新しい取組みを再検討すべきです。

■追記(9月12日)
ネット上の議論をみていると、どうも内閣官房・内閣府のデジタル田園都市構想の担当が、 この美濃市のようなマイナンバーカードの普及の取組みをすると当該自治体に交付金を多く支払うという施策を 行っているようです。

・デジタル田園都市国家構想交付金|内閣官房・内閣府

デジタル田園都市構想交付金
内閣官房「デジタル田園都市構想交付金について」より)

つまりこれは内閣官房がカネで釣って自治体に違法な施策を講じるように仕向けているわけで、 大変な問題だと思います。内閣官房を含む国は、デジタル田園都市国家構想の施策に違法性がないか今一度再検討を行うべきです。

■関連するブログ記事
・備前市が学校給食無償をマイナンバーカード取得世帯のみにすることをマイナンバー法から考えたーなぜマイナンバー法16条の2は「任意」なのか?(追記あり)

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tatemono_bank_money
1.はじめに
2023年4月5日付の週刊金曜日の「特別永住者証提示断った在日韓国人の口座開設を銀行拒否 「外国人差別」と救済申し立て」との記事がネット上で話題を呼んでいます。

・特別永住者証提示断った在日韓国人の口座開設を銀行拒否 「外国人差別」と救済申し立て|週間金曜日

この記事によると、2021年12月に韓国籍の在日3世の男性が、大阪市内のりそな銀行支店窓口で預金口座の口座開設を申し込んだ際に、本人確認のために運転免許証を提示したが特別永住者証明書を提示しなかったとして口座開設を拒否されたとのことです。男性は2023年3月に日弁連に対して、りそな銀行と金融庁に対してこれは「外国人差別」であるとして、差別的取扱をやめるよう警告することを求める人権救済申立を行ったとのことです。すなわち、犯罪収受移転法などによると外国人であっても運転免許証を提示した場合には特別永住者証明書の提示は不要なはずであり、それを求めるのは不当な差別だというのがこの男性の主張であるそうです。しかし、結論を先取りすると、りそな銀行支店窓口の対応は「外国人差別」ではありません。

2.マネロン・テロ資金供与対策の国際的な流れ
2001年のアメリカ同時多発テロなどの事件を受けて、マネーロンダリング対策・テロ資金供与対策などの機運が国際的に高まっています。そして2007年には銀行や保険会社など金融機関等にマネロン対策などのために顧客の本人確認や、疑わしい取引があった場合に当局に報告などを求める犯罪収受移転防止法が制定されました。さらに2018年には金融庁は「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」などを制定しています。

そして、金融庁サイトの「金融機関におけるマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策について」は金融機関の利用者に対してつぎのように説明しています。

「こうしたマネロン等対策の一環として、皆様が金融機関を利用する際に、従来よりも詳しい説明を求められたり、取引目的の確認、資産及び収入の状況等について従来は求められなかった資料の提出や質問への回答を求められたりする場合があります。
(略)
こうした確認は、年々複雑化・高度化するマネロン等の手口に対抗できるよう、金融機関が行っているマネロン等対策の一環です。利用者の皆様におかれましては、マネー・ローンダリングや、テロ資金供与等の防止のために、また、皆様の預金や資産を守るために必要な取り組みであることにつき、ご理解・ご協力をお願いいたします。」

マネロンの図
(金融庁「金融機関におけるマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策について」より)

この金融庁の説明にあるように、銀行等は犯罪収受移転防止法などが定める規定に加え、マネロン対策・テロ資金供与対策などのために、顧客属性に応じた顧客管理を行うために、個社の判断でさらに厳格な社内ルールを定め、それを実践することが求められているのです。

3.犯罪収受移転防止法や裁判例
なお犯罪収受移転法は銀行等に取引時に本人確認を行うことを義務付け(法4条)、銀行等がそれを怠った場合には罰則が科されると規定しています(法26条)。そして、銀行等の口座開設などの取引にあたって、顧客が本人確認書類の提示などを拒んだ場合には、銀行等は銀行口座の開設などを拒否しても免責されると規定されています(法5条)。

さらに、ある銀行が外国人に対しては住宅ローンは永住資格のある外国人にしか認めないとの内規を持っていたところ、永住資格を持たない外国人が住宅ローンが自分に認められないのは不当な差別(憲法14条1項)であるとして提起された訴訟において、「金融機関の対応に合理性がある場合には、特定の類型の顧客に対して特定の取引を拒絶してもそれは不当な差別ではなく不法行為は成立しない」と判示した裁判例も存在します(東京高裁平成14年8月29日判決・金融商事判例1155号20頁・畑中龍太郎・神田秀樹など『銀行窓口の法務対策4500講Ⅰ』423頁)。

4.本事件へのあてはめ・まとめ
この点、本記事によると、りそな銀行は内規で、外国人の顧客の場合には特別永住者証明書や在留カードの提示を求めることとしていたそうであり、これは上でみた金融庁の「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」・「金融機関におけるマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策について」などの考え方にも合致しています。

また上でもみたように口座開設などの場面で顧客が本人確認書類の提示を拒んだ場合には銀行等は口座開設を拒むことが認められています(犯罪収受移転防止法5条)。加えて、これも上でみたとおり、銀行が内規に基づいて外国人に銀行取引を拒絶することは不当な差別ではなく不法行為とはならないとした裁判例も存在します。

したがって、本事件の男性は日弁連に金融庁やりそな銀行への警告を求める人権救済申立を行ったそうですが、マネロン対策等に関する世界的な動向や、法令、裁判例などに照らすと不当な差別ではありませんので、本件男性の人権救済の申立ては日弁連から退けられるか、あるいは仮に警告が日弁連からなされたとしても、金融庁やりそな銀行はそれを受け入れる義務はないと思われます。

■参考文献
・畑中龍太郎・神田秀樹など『銀行窓口の法務対策4500講Ⅰ』378頁、423頁
・日本生命保険生命保険研究会『生命保険の法務と実務 第4版』676頁、678頁
・金融機関におけるマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策について|金融庁



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携帯電話大手のNTTドコモとKDDIが、解約の手続きを説明する自社のウェブサイトを検索サイトで表示されないように、HTMLタグに「noindex」を埋め込む等の設定していたことが総務省の審議会で報告されたと、2月27日のNHKなどが報道しています。

・ドコモとKDDI 解約手続きの自社HP 検索サイトで非表示の設定に|NHK
・ドコモとKDDI、解約ページに「検索回避タグ」。総務省会合で指摘、削除|すまほん!!

これだけでも十分に酷い話ですが、この問題に関連して、ネット上では、聴覚障害者などの方々の、「携帯電話・スマホやクレジットカードなどの解約をする際に、事業者側から「電話でないと解約に応じられない」という対応を受けることが多い」という意見が少なからず寄せられています。

法律論としては、民法上は契約の解約(解除)は当事者の一方から相手方への一方的な意思表示を行っただけで効果が発生します(民法540条1項)。

民法540条1項
契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。

この条文に、「その解除は、相手方に対する意思表示によってする」とのみあるように、解約(解除)は、相手方(=事業者など)に対する意思表示(=解約したいという意思)を伝えればよく、それは口頭でも書面でも民法上は問題ありません。事業者の担当者と交渉してその者に承諾してもらう必要もありません。

ただし、現実には、口頭のみ・電話のみでは後日トラブルとなったときに「言った言わない」の水かけ論となってしまうことを防止するために、証拠として解約(解除)の意思を「解約届」など書面の形で事業者がもらうように約款や利用規約などが制定されているのが一般的であると思われます。

しかし逆にいえば、そのような書面による取扱いはあくまでも後日の紛争防止という意味で許容されるにとどまります。そのため、例えば携帯電話会社などが自社の営業成績の数字を守りたいという理由で、聴覚障害者の方などに対して、「解約には当社所定の解約届を書いてもらう必要があるが、その前提として、本人からの電話でなければその手続きは受け付けられない」等と解約手続きを拒否することは違法であり許されないことになります。

この点、例えばNTTドコモのxiサービスの約款をみると、つぎのように第15条に利用者・契約者の契約の解約(解除)について規定されているようです。
ドコモ約款
(NTTドコモサイトより)

つまり、ドコモxiサービス約款15条1項は、「契約者はドコモの携帯契約の解約(解除)をするときは、「所属xiサービス取扱所」(おそらくNTTドコモの本社・支社やドコモショップ等)に「当社所定の書面」で「通知」せよ」となっています。ところで、同4項をみると、「同1項の場合で、電気通信事業法施行規則に定める「初期契約解除」または「確認措置」による解除による取扱いは「当社が別に定めるところによる」となっています。そしてその下の「(注3)」は、「本条第4項に規定する当社が別に定めるところは、当社のインターネットホームページに定めるところによります。」と規定しています。

ここで、この「当社が別に定めるところ」というものが不明確なので、NTTドコモのウェブサイトの契約の解約のページをみます。
ドコモ解約手続き

すると、「ドコモショップでお手続きできます」という表示となっており、ドコモショップに電話や来店などすることとなっていますが、結局、「当社が別に定めるところ」が明示されていません。

とはいえ、このようにNTTドコモの約款やウェブサイトをみる限り、「たとえ聴覚障害者であっても、解約は本人からの電話でないと受け付けられない」「代理は駄目」という実務を根拠づける条文や規定は存在しないようです。

明確な法的根拠がないのに「聴覚障害者等であっても本人からの電話でないと解約を受け付けられない」というのは法的におかしな話ですし、また、解約の手続きをするドコモショップなどで、万が一、某PCデポなどのような悪質な解約の「お引き留め」実務が行われていたらさらに問題と思われます。

なお、平成29年の改正で、民法に定型約款の条文が追加されました。電気、ガス、水道などの定型的で大量の事務取引における契約の内容として利用されるのが約款(定型約款)ですが、電気通信契約における約款はその典型例です。その新設された条文の一つの、民法548条の3第1項はつぎのように規定しています。
民法548条の3
定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。

つまり、事業者・企業側(定型約款準備者)は、利用者・顧客に対して、取引合意の時(契約締結時)までに、契約に関わる約款・利用規約など(定型約款)を書面で交付するか、または自社ウェブサイトなどで電子的に約款等を公表しておかなければならない。遅くとも、契約締結時から相当に期間内に利用者・顧客から請求があった場合には約款・利用規約などを開示しなければらなないと規定されています。

そのため、ネットが一般的となった今日では、NTTドコモなどの携帯電話会社などは、原則としてあらかじめ利用者・顧客に自社ウェブサイト上において、約款・利用規約などを公表しておくことが民法上、求められるのであり、約款・利用規約などの内容が不明確であるなどの状態は望ましいものとはいえないと思われます。

また、同時に民法548条の2第2項は、消費者契約法10条と同様に、約款条項の内容は、利用者・顧客の「権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす」と規定しており、社会通念や信義則に照らして利用者・顧客の権利・利益を不当に制限する等の条項は無効であるとも規定しています。

したがって、「聴覚障害者等であっても本人からの電話でないと解約を受け付けられない」などの取扱は、かりに事業者側の約款などにそのような根拠規定があったとしても、民法の定型約款の各規定に照らして、やはり違法・不当であると思われます。

いうまでもなく、憲法14条1項はあらゆる差別を禁止しており、平成28年に制定された障害者差別解消法は、事業者・企業に対して、障害者に対する不当な差別的取扱いの禁止と、障害者から社会的障壁の除去の要請があった場合にそれに対応する努力義務を定めています。

また、電気通信事業法も、電気通信業の「公共性」を定め、電気通信業務の提供について、「不当な差別的取扱い」を禁止し(6条)、電気通信役務の契約約款について「特定の者に対し不当な差別的取扱いをするもの」を禁止(19条など)しています。

そのため、総務省などは、携帯電話会社などに対して、聴覚障害者の方々からの携帯契約の解約について、「電話による申出でないので受け付けない」などの違法・不当な取扱いを止めるよう、助言・指導などを行うべきではないでしょうか。(また、NTTドコモに対しては、携帯契約の解約に関する約款やホームページの記載が不明確であるので明確化・平明化を行うよう助言・指導などを行うべきではないでしょうか。)

なお、同様の「電話でないと解約できない」という問題は、携帯電話だけでなく、クレジットカードなど金融業界や、ネット通販などさまざまな業界・分野でも未だに発生しているようです。金融庁や消費者庁、経産省などによる消費者保護、障害者保護、高齢者保護などの横断的な取り組みが必要なように思われます。



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