なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

タグ:情報法

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1.声優の「声」は現行法下では保護されないのか?
最近の生成AIの発展に伴って、声優の声を再現できるAIボイスチェンジャーなどが販売されているそうです。このような時代の流れを受けて、本年6月には日本俳優連合が著作権法を改正して「声の肖像権」の確立などを国に求める声明を出しています。たしかに人間の「声」そのものは著作権法で保護されていませんが(ただし声優の声の演技は著作隣接権で保護される)、現行法下で声優等の「声」そのものは保護されていないのでしょうか?

日本俳優連合が“生成AI”に提言 「新たな法律の制定を強く望む」 声の肖像権確立など求める|ITmedeiaニュース

2.柿沼太一弁護士のご見解・「ピンク・レディ」事件
この点、「有名声優の「声」を生成AIで量産し、それを商用利用することは可能か?【CEDEC 2023】」GameBusiness.jpによると、本年8月に一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)が開催した講演会「CEDEC 2023」において、生成AIや著作権などに詳しい弁護士の柿沼太一先生(STORIA法律事務所)がつぎのように講演したとのことです。

「簡単に言うと、声優さんの声をAIに学習させてモデルを作るところまでは適法です。が、そのモデルから既存の声優さんの声を新たに生成し、ゲームに使うのはパブリシティ権侵害になると思います」
すなわち、同講演会において、パブリシティ権を認めた最高裁判決であるピンク・レディ事件(最高裁平成24年2月2日判決、芸能人ピンク・レディの写真を週刊誌が無断で使用した事件)について、判決の調査官解説(法曹時報 65(5) 151頁、TMI総合法律事務所『著作権の法律相談Ⅱ』312頁も同旨)は、パブリシティ権で保護される著名人の「肖像等」には「本人の人物認識情報、サイン、署名、、ペンネーム、芸名等を含む」と解説していると柿沼弁護士は指摘しておられます。つまり、声優や俳優などの「声」はパブリシティ権で現行法上も保護されるのです。

3.パブリシティ権
パブリシティ権とは判例で形成された権利です。芸能人やスポーツ選手などの氏名・肖像等の持つ顧客吸引力を排他的に利用する権利のことをパブリシティ権と呼びます(潮見佳男『基本講義 債権各論Ⅱ不法行為法 第3版』219頁)。そしてこのパブリシティ権の保護対象の「肖像等」には声優・俳優等の「声」も含まれるのです。

また、氏名・肖像等を無断で使用する行為がパブリシティ権を侵害するものとして不法行為として違法となるのは、①氏名・肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で氏名・肖像等を商品等に付し、③氏名・肖像等を商品等の広告として使用するなど、もっぱら氏名・肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合であると解されています(潮見・前掲219頁、ピンク・レディ事件)。

4.損害賠償請求・差止請求・死者のパブリシティ権
ところでこのパブリシティ権の法的性質については人格権の一つとする考え方と財産権の一つとする考え方に分かれていますが、ピンク・レディ事件において最高裁は人格権的な考え方を採用しています。そのため、声優などはパブリシティ権を根拠に損害賠償請求だけでなく、差止請求もすることができるといえます。一方、人格権ということは、相続などは発生しないので、死亡した声優・俳優についてパブリシティ権は主張できないことになると思われます(『新注釈民法(15)』547頁)。

5.まとめ
このように柿沼弁護士のご見解や、民法などの解説書などによると、現行法下においても声優・俳優などの「声」はパブリシティ権で保護されているといえます。そして3.でみた①~③の要件を満たす場合には、パブリシティ権を侵害された声優等は、侵害の主体に対して損害賠償請求や差止請求を行うことができることになります。そのため、現在すでに存在する声優の声を再現できるAIボイスチェンジャーなども、場合によっては違法となる可能性があります。

■追記(2024年1月6日)
この問題に関連して、声優などの「声」も人格権の一つとして憲法13条により保護されるとのつぎの興味深い論文に接しました。

・荒岡草馬・篠田詩織・藤村明子・成原慧「声の人格権に関する検討」『情報ネットワーク・ローレビュー』22号24頁(2023年)


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■参考文献
・法曹時報 65(5) 151頁
・TMI総合法律事務所『著作権の法律相談Ⅱ』312頁
・『新注釈民法(15)』547頁
・潮見佳男『基本講義 債権各論Ⅱ不法行為法 第3版』219頁

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2019年の9月30日から10月30日まで実施された、海賊版サイトについての「侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブコメ」の結果などの資料を、文化庁がこっそりとようやく、「侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計等に関する検討会(第1回・11月27日)」の資料の一部として公開しています。
・侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計等に関する検討会(第1回)|文化庁

資料3-1のパブコメ結果全体像によると、団体の提出意見は約50件となっています。個人の提出意見は実に約4300件となっています。
そして、個人の意見のうち、「侵害コンテンツのダウンロード違法化について」は、回答した個人4274人のうち、約89%にあたる3792名が「反対またはどちらかといえば反対」との意見を表明しているとのことです。(団体は、連名の個人を含む。)

文化庁は、3-1以下の資料において、個人の意見を分析した内容、代表的な意見を要約して引用していますが、4000件という多さか、あるいは国民の提出意見に価値を見出していないのか、要約などがやや雑に思われます。

その一方で、出版社や映画会社、漫画家などの提出意見については、おそらく全文をそっくりそのまま会議の資料としてコピペした分厚いものを検討会に持ち込んでおり、文化庁の姿勢は漫画家や出版業界・映画業界などに偏りすぎているのではないかと思われます。

ただ、団体の提出意見についての資料をみると、知財法の重鎮である明治大の中山信弘教授らの提出意見も掲載されていました。さすがの文化庁も中山先生を無視するわけにはいかなかったのでしょうか。

ところで、このパブコメ結果などは、パブコメ募集や結果公表などの際に中央官庁に利用されている、総務省の電子政府窓口(e-Gov)に公開されていません。

また、今回のパブコメは、官庁の施行令・施行規則・通達などを定める場合ではなく法案に関するものであるため、パブコメ手続きを定める行政手続法は直接適用ではなく準用のレベルではありますが、文化庁はパブコメ募集の際に、前回没になった著作権法改正法案等の資料をそのまま添付するのみであり、今回の著作権法改正案はまったく示しておらず、「具体的かつ明確な内容の案」をあらかじめ明示してパブコメを行わなければならないと規定する行政手続法39条2項に反しています。

なお、行政手続法は、行政はパブコメ手続を行った場合は、国民の提出意見を「十分に考慮」しなければならないと規定していますが、本検討会の第一回の議事録を読むと、本検討会のメンバーは、「漫画家・出版社・映画会社のエラい人々とそのお友達の御用学者・弁護士」ばかりのようであり心配です。

漫画家や出版社などの経済的利益の保護も重要ではありますが、しかしそれは、国民の知る権利・表現の自由(憲法21条1項)の規制と裏腹の関係にあります。本検討会や文化庁は、国民の基本的人権に十分配慮した慎重な議論を行っていただきたいと、一国民としては思います。

■関連するブログ記事
・文化庁の海賊版サイトに係る侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブコメへの提出意見-ダウンロード違法化・リーチサイト


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