なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

タグ:憲法21条

1.「百合展2018」の開催を池袋マルイが拒否
少し前ですが、本年春に「百合展2018」が開催される予定であったところ、その会場であったファッションビルなど小売業の池袋マルイがこれを拒否し、同展の東京での開催が一時宙に浮くという事態が発生し、ネット上で話題となりました。

ネット記事などによると、「百合展」とは女性同士の友情や愛情をテーマに、漫画家・イラストレーターや写真家が出展するというイベントです。ところが、池袋マルイは、本展示に先立って同店で3月9日より開催予定だった、「ふともも写真の世界展 2018 in 池袋マルイ」も諸事情を理由として突如中止し話題となっていました。そして池袋マルイは、「ふともも写真の世界展 2018」に出展予定だった作家と同じ作家が参加予定であることを理由として、「百合展2018」の開催も拒否したとのことです。

・池袋マルイで開催予定だった「百合展2018」が中止に|ねとらぼ

しかし、少し前に展示を拒否した展示と同じ作家が含まれているという漠然とした理由で、別の展示も拒否するということは、池袋マルイが民間企業であることを差し引いても許容されるのでしょうか?

2.民間施設における集会の自由・表現の自由-プリンスホテル事件
(1)公の施設の場合
従来、ある施設における表現の自由・集会の自由(憲法21条1項)への制約は、自治体の公民館などの「公の施設」を舞台として裁判において争われてきました。

そのようななか、泉佐野市民会館事件(最高裁平成7年3月7日判決)は、自治体が住民からの集会の申請を拒否できるのは、「集会の自由の保障の重要性よりも…集会が開かれることによって人の生命、身体または財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し防止する必要性が優越する場合に限られる」とし、その危険性の程度は、「明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されること」と厳格な判断を示しました。(ただし判決は住民側の敗訴。)

このように、裁判所は、表現の自由・集会の自由が自己実現・自己統治のためにとりわけ重要な基本的人権であることを重視し、表現の自由・集会の自由への制約には厳しいハードルを課しています。そして泉佐野市民会館事件のあと、上尾市福祉会館事件においても同様の判断が示されています(最高裁平成8年3月15日判決)。

(2)民間施設の場合-プリンスホテル事件(東京高裁平成22年11月25日判決・確定) そのようななか、平成22年には、民間企業であるプリンスホテルに関しても、上の判例の考え方を維持した判決が出され注目されました。

この事件は、日教組が全国大会を開くため、プリンスホテルと、ホールと客室を借りる契約を締結していたところ、プリンスホテルが「他のお客様にご迷惑となる言動」との同社の会場利用規約の条項を理由として、日教組との契約を解除したため訴訟となったものです。

本高裁判決は、

「本件使用拒否は、…本件各集会の中止を余儀なくさせるものであって…違法であることは明白であり、かつその違法性は著しく、不法行為にも当たる」とし、また、「規約に定める「他のお客様のご迷惑となる言動」とは、法令又は公序良俗に違反する行為に準ずる程度の不利益をほかの利用客に与える行為であると解するのが相当…本件各集会を開催したとしても、そのような程度の不利益が他の利用客に生じると認めるに足りる的確な証拠はない

と判示し、プリンスホテル側の主張を退けました。

このように、自治体の公民館などのような公の施設だけでなく、民間企業のホールなどの利用においても、裁判所が集会の自由・表現の自由を重視していることが注目されます。

3.まとめ
本高裁判決に照らしても、池袋マルイは、「百合展」が開催されることにより「法令又は公序良俗に違反する行為に準ずる程度の不利益をほかの利用客に与える行為」が発生するという証拠を示せない限りは、その開催拒否は債務不履行(民法415条)だけでなく不法行為(709条)に該当することになります。

そのため、「以前拒否した展示と同じ作家が参加している」という漠然とした理由で池袋マルイが「百合展」を拒否したことは、作家達の集会の自由・表現の自由を不当に軽んじる、 債務不履行または不法行為に該当する違法な対応であるといえます。

また、最近は、渋谷区や世田谷区など全国で、同性パートナーシップ協定条約が相次いで制定されるなど、同性パートナーやLGBTの問題についても、社会の理解が進みつつあります。そのようななかファッション小売業などを営むマルイが、このような社会の変化に鈍感な経営判断を行ったことは、残念な事例であると思われます。

■関連するブログ記事
・集会の自由 プリンスホテル日教組会場使用拒否事件(東京高裁平成22年11月25日)
・渋谷区、世田谷区でパートナーシップ証明条例等が成立

■参考文献
・野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅰ 第4版』349頁
・松田浩「プリンスホテル日教組大会会場使用拒否事件控訴審判決」『平成23年重要判例解説』24頁











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1.はじめに
「漫画村」などの漫画の海賊版サイトにより、わが国の出版社・漫画家などが財産上の大きな被害を受けていることを受けて、政府が、「悪質な海賊版サイトに対して、『一時的な緊急措置』として、ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)へ海外の海賊版サイトへの日本ユーザーからのアクセスをISPが遮断(ブロッキング)することを『要請』を検討している」と本年4月初めに新聞報道が行われました。

・漫画やアニメの海賊版サイト 政府、遮断要請へ|日経新聞

このような政府が海賊版サイトのブロッキングの「要請」をISPに行い、それを受けたそれぞれのISPが「任意」に海賊版サイトのブロッキングを実施するというスキームに対しては、ネット上では、憲法や電子通信事業法の定める「通信の秘密」や「表現の自由」規制を国会での立法審議なしに、政府の行政指導により行うもので、濫用のおそれが強く、「通信の秘密」・「表現の自由」が政府の恣意的判断により安易に侵害されるおそれがあると、批判的な意見が多く出されています。

・海賊版サイト「ブロッキング要請は法的に無理筋」東大・宍戸教授、立法を議論すべきと批判|弁護士ドットコム
・著作権侵害サイトのブロッキング要請に関する緊急提言の発表|一般財団法人 情報法制研究所

2.政府の要請に基づく海賊版サイトブロッキングの緊急措置に賛成の福井弁護士の論考
このようななか、4月10日には、政府の要請に基づく海賊版サイトの緊急措置としてのブロッキングに賛成とする趣旨の骨董通り法律事務所の福井健策弁護士の論考が、ITmediaNEWSに掲載され、注目を集めています。

・漫画の海賊版サイト、問題の深刻さとブロッキングの是非  福井弁護士の考え|ITmediaNEWS

福井弁護士の見解はごく大雑把に要約すると、①最も悪質な漫画専門サイトは、訪問者が月に1億6000万人を超えるなど、漫画業界の被害は重大であり、緊急性が高いこと、②そもそも「通信の秘密」とは電子メールが漏洩した場合など、第三者の存在を予定するもので、ユーザーからの海賊版サイトをみたいとアクセスしようとした際に、IPSのシステムが機械的にそれを拒否(ブロッキング)することは、第三者が登場しないで完結するので「通信の秘密」の侵害に該当しない、③「通信の秘密」の侵害であったか否かは緊急避難に該当するか否かであり、その要件の一つの「法益の均衡」については、一般の考えと異なり、「海賊版サイトを発表したいという運営者の表現の自由」と「海賊版サイトをみたいという国民の知る権利」の均衡と考えるべきであるが、どちらも法的価値が低いので問題とならず、緊急避難は成立する、④国家権力による濫用のおそれがあるので、立法を行うべきだが、法律ができるまでは政府の「要請」によりISPが任意でブロッキングを行うべきである、というものです。

福井弁護士の主張の①には賛成できますが、②③④には全く賛成できません。これは法的にあまりに無理筋な議論です。

3.ネット上の児童ポルノのブロッキングについて
ブロッキングを行う場合、ISPは、あらかじめ遮断対象となるサイト等のURLをリスト化し、ユーザーが閲覧しようとするサイトやデータ等のURL等を検知し、当該リストと照合し、該当した場合にはその通信を遮断するものなので、通信の秘密を侵害するのではないかとの問題があります。

通信の秘密については憲法21条2項に「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」との規定があり、また、電気通信事業法4条1項にも「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない」と規定があり、ISP等が同4条に違反した場合、3年以下の懲役又は200万円以下の罰金の罰則が科されることになります(同179条2項)。

ここで、「通信の秘密の範囲」が問題となりますが、電話等の通話内容、メールや手紙の本文などの「通信の内容」がこれに含まれるのは当然です。また、通信の送信者・受信者、宛先の住所・電話番号・メールアドレス・URL等、通信の個数や年月日などの「通信の外形的事項」も通信の秘密の範囲に含まれるとされています。なぜなら、通信の外形的事項により、通信の内容が推知され、本人のプライバシーの侵害が発生するおそれがあるからです。

つぎに、「通信の秘密の侵害」とはどのような事柄かというと、知得(通信当事者以外の第三者が知ろうとすること)・窃用(本人の意思に反して用いること)・漏えい(他人が知りうる状態におくこと)、の3類型があります(曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説』51頁)。

そして、ユーザーがアクセスしようとする通信先のURL等は、通信の秘密の保護対象であり、また、ISPがブロッキングの目的で、ユーザーのアクセス先を探知し、これを利用する行為は、「知得」かつ「窃用」に該当するので、ブロッキングは通信の秘密を侵害することになります(田島正広『インターネット新時代の法律相談Q&A』344頁)。

この点、ISPの情報システムが自動的にサイトの遮断を行っているのだから通信の秘密の侵害はそもそも発生していないとする福井弁護士の主張は正しくありません。

実際にユーザーからのアクセスを遮断しているのはISPの情報システムであったりプログラムであったりしたとしても、あらかじめ遮断対象となるサイト等のURLをリスト化し、ユーザーが閲覧しようとするサイトやデータ等のURL等を検知し、当該リストと照合し、該当した場合にはその通信を遮断するように情報システム・プログラムを設定・運営するのは個々のISPとその従業員である技術者達であるからです。機械が勝手にやるわけではないのです。

とはいえ、通信の秘密も常に保護されるというわけにもいかず(「公共の福祉」・憲法12条、13条等)、法律がその例外規定をいくつか作っています。たとえば、刑事手続に基づいて郵便物が押収される場合(刑事訴訟法100条等)、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報が開示される場合、通信傍受法などです。

そして、海賊版サイトのブロッキングについて、リーディングケースとされているのが、ネット上の児童ポルノに対するブロッキングです。

このネット上の児童ポルノに対するブロッキングは、ネット上も対象とするために児童ポルノ法が平成16年に改正されて立法的な手当てがなされています。

その上で、警視庁や総務省における諮問委員会の検討を踏まえ、「安心ネットづくり促進協議会」(以下「安心協議会」とする)が作られ、法的問題の検討や、ISPのための基準やガイドラインなどが制定されています。

安心協議会は、2010年に、「法的問題検討サブワーキング 報告書」をサイトで公表しています。

・「法的問題検討サブワーキング 報告書」(PDF)|安心ネットづくり促進協議会

この報告書は、NTT脅迫電報事件(大阪地裁平成16年7月7日判決)などを検討し、ネット上の児童ポルノをISPがブロッキングすると通信の秘密の侵害に該当するとした上で、刑法上の緊急避難(刑法37条)の考え方により、ISPが違法性を阻却され罰則を科されないスキームを検討しています。

そして、緊急避難が成立するためには、①現在の危難の存在、②補充性(他に取りうる手段がないこと)、③法益均衡(避難行為によって生じた害が避けようとした害の程度を超えないこと)の3点をクリアする必要があります。

児童ポルノに関しては、安心協議会の上の報告書は、サーバーにアップロードされた段階で、「児童ポルノがウェブ上において流通し得る状態に置かれた段階で、当該児童の心身とその健全な成長への重大な影響が生ずるとともに、本来性欲の対象とされるべきでない段階で自己の意思に反して性欲の対象にされた性的虐待画像が公開されることにより特に保護を要する人格的利益に対する侵害が生じている」点を重視し、現在の危難の存在、法益均衡などの要件は満たされ、緊急避難は可能としています。

そして、緊急避難における法益均衡について、当該児童の被る重大で回復困難な人格権的利益の侵害と、通信の秘密との比較考量を行い、緊急避難もやむを得ないとしています。一方、福井弁護士は、上の論考において、法益均衡において、「「海賊版サイトを発表したいという運営者の表現の自由」と「海賊版サイトをみたいという国民の知る権利」の均衡」としているのは、非常にずれた主張であり、理解に苦しみます。

4.ネット上の児童ポルノのブロッキングの考え方は著作権侵害などにも応用できるか?
ところで、この安心協議会の報告書20頁以下は、ネット上の児童ポルノと、今回問題となっている海賊版サイトによる著作権侵害等に関して興味深い検討を行っています。

【児童ポルノ以外の違法情報についても妥当し得るか】
インターネット上には、児童ポルノのほか、成人のわいせつ画像、著作権侵害情報、誹謗中傷やプライバシー侵害等様々な違法情報が存在する。これら児童ポルノ以外の違法情報についても同様に緊急避難としてブロッキングすることができるかどうかが問題となる。

前記のとおり、児童ポルノについては、ウェブ上において流通し得る状態に置かれた段階で児童の権利等に対する重大かつ深刻な法益侵害の蓋然性があると言えることから、この段階で危難の存在を肯定できるものと解されるが、これはあくまでもウェブ上で児童ポルノが流通することの重大性や深刻性に鑑みてのことであって、直ちに他の違法有害情報一般に妥当するものではなく、安易に応用が許されるものではないと考えるべきである。
(略)
著作権侵害との関係では、著作権という財産に対する現在の危難が認められる可能性はあるものの、児童ポルノと同様に当該サイトを閲覧され得る状態に置かれることによって直ちに重大かつ深刻な人格権侵害の蓋然性を生じるとは言い難いこと、補充性との関係でも、基本的に削除(差止め請求)検挙の可能性があり、削除までの間に生じる損害も損害賠償によって填補可能であること、法益権衡の要件との関係でも財産権であり被害回復の可能性のある著作権を一度インターネット上で流通すれば被害回復が不可能となる児童の権利等と同様に考えることはできないことなどから、本構成を応用することは不可能である。

ブロッキングは、適切な内容を含む通信全般を監視し、不適当な内容の通信を遮断するというものであり、事実上の私的検閲行為であり、その実施対象については、児童ポルノに限定し、他に拡大することがあってはならないと考える。
(安心ネットづくり促進協議会 「法的問題検討サブワーキング 報告書」20頁より)

このように、安心協議会の報告書は、児童ポルノの被害が人格権上の重大な侵害であるのに対して、著作権侵害の被害は多大な被害がでたとしてもそれは財産権上のものであり、被害のレベルが下がるので緊急性の要件を満たさないこと、そして財産上の損害である以上は金銭で填補できる問題なので補充性の要件も満たさないこと、最後に、財産権であり被害回復の可能性のある著作権を一度インターネット上で流通すれば被害回復が不可能となる児童の権利等と同様に考えることはできないとして、法益権衡の要件も満たさないとして、著作権侵害の事案に対しては緊急避難は成立せず、児童ポルトへのブロッキングの考え方を著作権侵害の事案に応用することはできないと結論づけています。

また、この報告書が述べるとおり、ISPによるブロッキングは、事実上の私的検閲行為です。ですから、ISPやそれに指示を出す国の恣意的な運用により、わが国の国民の通信の秘密や表現の自由などが侵害されないよう、慎重な検討と対応を行う必要があります。

とくに表現の自由は、民主政の土台をなすものです。もし今回の漫画の海賊版サイトのブロッキングを立法によらない政府の「要請」(行政指導)で実施することが許されてしまったら、最悪、名誉棄損やプライバシー侵害などを名目として、政府からの恣意的な「要請」により、例えば原発問題、安保法制問題などについて、政府与党を批判するウェブサイトやブログ、SNSにおける投稿などが安易に恣意的なブロッキングが許されてしまう危険があります。それは治安維持法等で日本社会を厳しく言論統制した戦前の日本の政府・軍部と同じやり口です。

そのため、上であげた記事で宍戸教授が述べておられるとおり、児童ポルノや通信傍受などのように、まずは国会で議論を行い、それに基づいて海賊版サイトのブロッキングの立法が本当に必要であれば、立法を行うべきでしょう。

また、出版社や漫画家の方々は、まずは政府に妙なロビー活動をする前に、海賊版サイトに対して差止や損害賠償請求などを求める訴訟を提起し、警察などへの刑事告訴を行うべきです。音楽教室が著作権の問題に関してJASRACに対して大規模な集団訴訟を行っているのに、出版業界・漫画業界が「漫画村」などに対して同様の訴訟活動・法的措置をしているというニュースがまったくないのはおかしな話です。

たしかに海賊版サイトのサーバーが海外にあるような事案の訴訟は、準拠法や裁判管轄などの面で悩ましいものがありますが、日本国内の被害者側を勝訴とした裁判例も出されています(ファイルローグ事件・東京高裁平成17年3月31日判決など、TMI総合法律事務所『IT・インターネットの法律相談』569頁)。

出版社の役職員の方々や漫画家の方々は、相当な知識人がそろっているはずなのに、ご自身を含む国民の通信の秘密や表現の自由、民主主義などをとても軽くみているのは不思議なことに思えます。

■関連するブログ記事
・出版社等は海賊版サイト「漫画村」に対して法的措置を講じることはできないのか?
・JASRACと音楽教室との著作権使用料訴訟-「公衆」への演奏にあたるか?

■参考文献
・曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説』51頁、239頁
・田島正広『インターネット新時代の法律相談Q&A 第2版』344頁
・TMI総合法律事務所『IT・インターネットの法律相談』569頁
・中山信弘『著作権法 第2版』616頁
・宇賀克也・長谷部恭男『情報法』67頁
・芦部信喜『憲法 第6版』175頁

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