なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

タグ:憲法96条

seiji_kokkai_gijidou

前回のブログ記事では、「憲法改正を大臣や国会議員などが主張することは憲法違反なのか?」という問題を考えてみました。
・憲法改正を大臣や国会議員などが主張することは憲法違反なのか?ー憲法99条・96条・憲法尊重擁護義務・憲法改正の限界

この問題に関連し、石村修・専修大学名誉教授(憲法学)の「憲法尊重擁護義務と最高権力者の言葉」『法律時報』89巻5号(2017年5月号)45頁を読んでみました。

同論文は、憲法尊重擁護義務(憲法99条)の条文が最高法規の章にあり、同章は97条が最高法規(=憲法)は基本的人権を中核とするものであることを宣言し、これを中心として構成される憲法が最高法規であり(98条1項)、「この憲法」を国家機関の構成員は遵守する責務(憲法尊重擁護義務)を負わねばならないと規定していることから、99条の義務は道義的な義務ではなく法的な義務であるとします。

そのため公務員が職務を遂行するにあたり憲法違反の行為があったときは、罷免その他の懲戒処分を受けることが免れないが、国務大臣等の憲法侵害行為について弾劾制度が設けられていないのは、憲法および法律の重大な欠陥であるとします。

とはいえ現行制度上も、内閣総理大臣や国務大臣が憲法侵害行為を行った場合には、政治的には内閣不信任決議や問責決議がなされ、司法的にも行政訴訟により責任を問う余地があるとします。(同論文は、国会法の改正により国務大臣の弾劾制度の創設を提言しています。)

その上で、同論文は、内閣総理大臣が憲法改正を提言できるかについては、96条の文言から消極的に解すべきであること(96条には国会議員の文言はあるが総理大臣の文言はない)、96条にある国会議員は、憲法改正提案権の範囲内で99条から離れると考えられるが、しかしその場合でも憲法改正の限界はある、としています。(石村修「憲法尊重擁護義務と最高権力者の言葉」法律時報89巻5号(2017年5月号)45頁より)

このように、憲法尊重擁護義務の法的義務性を重視する考え方によれば、内閣総理大臣が憲法改正を提言できるかについては、96条の文言から消極的に解すべきであること、ただし国会議員は憲法改正を提言できること、しかしその憲法改正の内容が憲法改正の限界を超える場合には、前回のブログ記事でふれたとおり、やはりその憲法改正は無効なものとなるということになるようです。

人気ブログランキング

PR
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

seiji_kokkai_gijidou
1.憲法改正を政治家が主張することは憲法違反?
最近、X(旧Twitter)上で、「憲法改正を大臣や国会議員などの政治家が主張することは憲法違反(憲法99条)なのか?」という論争が起きているようです。

例えばこの投稿はリプ欄で賛成・反対多くの論争を巻き起こしているようです。

Drナイフ投稿
(Dr.ナイフ氏(@knife900)の投稿より)

2.憲法96条・99条
この憲法上の論点を考える上で、まず前提として、憲法は憲法改正(96条)の規定と憲法尊重擁護義務(99条)の規定を置いています。

憲法
第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ

つまり、憲法上には憲法改正の規定がある一方で、国務大臣、国会議員、公務員等は憲法尊重擁護義務が課されているのですが、憲法改正との観点ではこの両者をどのように考えるべきなのでしょうか?

3.憲法学的には
この点、憲法の教科書はつぎのように解説しています。

「確かに、憲法自身が改正手続を定めている以上、憲法改正を主張することは(憲法尊重)尊重擁護義務に反するものではない。しかし、国務大臣が憲法の規定や精神に反する立場を明らかにし、その改正を主張・唱道することによって、憲法および法令に従って行われるべきその職務の公平性に対する信頼を疑わしめる結果となるような場合には、本条の義務違反の問題となる。」
『基本法コンメンタール憲法 第5版』446頁(畑尻剛執筆部分)
つまり、「憲法自身が憲法改正手続の規定をおいている以上、憲法改正を主張すること自体は憲法尊重尊重擁護義務に反するものではない。しかし、国務大臣が憲法の規定や精神に反する立場を明らかにし、その改正を主張・唱道することによって、憲法および法令に従って行われるべきその職務の公平性に対する信頼を疑わしめる結果となるような場合には、本条の義務違反の問題となる」というのが、この論点に対する憲法学の考え方のようです。

なお、憲法改正には「憲法改正の限界」、つまりかりに憲法改正手続きによっても許されない限界があり、憲法の基本原則つまり国民主権、基本的人権の確立、平和主義、立憲主義、憲法改正手続などを侵害する憲法改正は「憲法改正の限界」に抵触し無効であるというのが憲法学上の通説です(芦部信喜・高橋和之補訂『憲法 第7版』409頁)。そのため、国民主権、基本的人権の確立、平和主義、立憲主義や基本的人権を大きく制約するような憲法改正を大臣や国会議員が主張したり実行することは憲法96条、99条違反になると考えられます。

4.まとめ
すなわち、「憲法自身が憲法改正手続の規定をおいている以上、憲法改正を主張すること自体は憲法尊重尊重擁護義務に反するものではない。しかし、国務大臣などが憲法の規定や精神に反する立場を明らかにし、その改正を主張することによって、憲法および法令に従って行われるべきその職務の公平性に対する信頼を疑わしめる結果となるような場合には、本条の義務違反の問題となる。国民主権、基本的人権の確立、平和主義、立憲主義や基本的人権を大きく制約するような憲法改正を大臣や国会議員が主張したり実行することは憲法96条、99条違反になる」というのが、この論点に対する憲法学上の考え方になるように思われます。

■関連するブログ記事
・(続)憲法改正を大臣や国会議員などが主張することは憲法違反なのか?ー憲法99条・96条・憲法尊重擁護義務・憲法改正の限界

人気ブログランキング

PR
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

↑このページのトップヘ