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とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

タグ:損害保険

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1.はじめに
腰痛などで通算500日以上入院した患者による医療保険の入院給付金請求という典型的なモラルリスク事案に関する判決が出されていました。裁判所は患者側の請求を棄却しています(鹿児島地裁平成29年9月19日判決・請求棄却・確定、判例タイムズ1456号236頁)。

2.事案の概要
Xは平成17年10月に、損害保険会社Y(損保ジャパン日本興亜)との間で、ケガ・疾病による入院・手術などを保障する医療保険である、「新・長期医療保険」(Dr.ジャパン)の保険契約を締結した。入院給付金日額は1万円であった。

本件保険契約の約款上、入院給付金の支払事由としての「入院」とは、医師による治療が必要な場合であって、かつ、自宅等での治療が困難なため病院または診療所に入り、常に医師の管理下において治療に専念することをいうと規定されていた。

Xは平成23年2月ごろより腰痛を訴え整形外科病院に16日間入院をしたことを皮切りに、腰痛による入院や、不安感を訴え精神科病院への入院などを平成27年までに合計9回繰り返し、その入院日数は合計500日を超えた。

これらの入院に基づいてXがYに対して約462万円の入院給付金の支払いを請求したところ、Yが拒んだためXが提起したのが本件訴訟である。

3.判旨
本件保険契約における入院給付金の支払事由としての「入院」に該当するか否かの判断は、契約上の要件の該当性の判断であり、前提事実(略)のとおりの本件保険契約における「入院」の定義(医師による治療が必要であり、かつ自宅等での治療が困難なため、病院又は診療所に入り、常に医師の管理下において治療に専念すること)からしても、単に当該入院が医師の判断によるということにとどまらず、同判断に客観的な合理性があるか、すなわち、患者の症状等に照らし、病院に入り常に医師の管理下において治療に専念しなければならないほどの医師による治療の必要性や自宅等での治療の困難性が客観的に認められるかという観点から判断されるべきものと解される。
 なお、担当医師による判断の具体的な内容やその医学的な根拠は、上記の「入院」該当性の判断に際して一つの重要な事情とはなるものの、通常、医師の判断によらない入院を想定できないことからしても、医師による判断の存在という外形的な事情のみからは、直ちに「入院」該当性が推認されるとまではいえないというべきである。』

『ア 本件入院1
 入院時の検査所見は、入院の必要性を基礎付けるものであるとはいえず(略)、入院日である平成23年2月1日において、Xは、腰を押さえながらも独歩は可能だったのであり、翌2日にも喫煙のため独歩で移動し、同月11日にはほぼ終日外出し、その後も頻繁に外出・外泊していることからすれば、Xの症状が自宅等での治療が困難であるほどの重いものであったとはいえない。(略)これらのXの症状やその後の治療内容等に照らせば、本件入院1においては、(略)客観的な契約上の要件である「入院」該当性の根拠とすることはできないというべきである。』

このように判示し、本判決はXのすべての入院は医療保険契約上の「入院」に該当しないとしてXの請求を退けています。

4.検討
医療保険、入院特約などにおける入院給付金の支払い要件の一つである「入院」の該当性について、実務書は、医師の判断とあわせて、「保険制度の基本である収支相当の原則および給付反対給付均等の原則からみて、その支払要件を合理的・画一的・公平に規制する必要があり、それに合致した保険事故に対してのみ給付されるのが当然の前提とされていること、入院当時の一般的な医学上の水準によるべき」と解説しています(長谷川仁彦など『生命・傷害疾病保険法の基礎知識』249頁)。

裁判例も、「本件保険特約が設けられている趣旨およびその内容に鑑みると、本件入院要件の有無の判断は、通常は医師の判断を尊重して決定されるであろうが、いかなる場合においても、一旦なされた医師の判断を無条件に尊重して決定されなければならないというものではなく、(略)客観的、合理的に行われるべきである。このように解することは、保険契約が有する射幸性による弊害を防止し、保険契約者一般の公平を守るという点に照らしても妥当である。」と判示するものがあります(札幌高裁平成13年6月13日判決・生命保険判例集13巻499頁)。

本判決はこのような保険会社の実務・裁判例に沿う考え方をとった妥当な判決であると思われます。

なお、最近の本判決に類似した事案として、ケガを理由とする不必要な通院給付金請求というモラルリスク事案が争われたつぎの裁判例が存在します(東京地裁平成29年4月24日判決)。

・総合格闘技選手の練習によるケガは傷害共済の「不慮の事故」に該当するか?(東京地裁平成29・4・24)-モラルリスク・不必要な通院

生命・傷害疾病保険法の基礎知識

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1.はじめに
喧嘩による受傷・後遺症について、自動車保険の闘争行為免責が認められためずらしい裁判例が神戸地裁で出されていました(神戸地裁平成30年5月10日判決、金融・商事判例1556号32頁)。

2.事案の概要
(1)事案
平成25年7月10日午後5時ごろ、神戸市のAパチンコ店(本件パチンコ店)の駐車場(本件駐車場)の出入り口付近において、Y1(被告)は、X(原告)の運転する自動車がY1の自動車(Y1車)と衝突しそうになったことに立腹し、Xの運転する自動車の前にY1車を停止させ、X・Y1はそれぞれその場で自動車を降りて口論となった。

その後、Y1は「もうええわ」とその場を立ち去ろうとY1車に乗り発進させようとしたところ、XはY1を追いかけて解放された状態のY1車の運転席ドアの内側に入り、エンジンキーを取ろうとしてY1とXはもみあい状態となった。さらにその後、Xの知人Bが本件駐車場に来てXの加勢をしようとY1車に近づいてきたのをみたY1は、XがY1の左肩の襟の辺りをつかみ、Y1を助手席に押し込もうとしていたところ、その場を逃走したいと考え、Y1車の前に別の自動車が停止していたため、Y1車を後方に発進させた。

このY1車の後方発進により、Xは約5m引きずられ、顔面、右肩、左胸、両手、右膝、右足を負傷する本件事故が発生した。Xは整形外科で頸椎捻挫、右腋穿挫傷と診断され、通院治療を受け、後遺症を負った。

(2)保険契約の状況
Y1の妻Bは、損害保険会社Y2との間で、対象となる車をY1車、被保険者をY2とする任意自動車保険契約を締結していた。当該自動車保険の普通保険約款には、保険契約者、被保険者またはこれらの者の法定代理人の故意によって生じた損害に対しては保険金を支払わない旨の免責条項(故意免責条項)が規定されていた。

また、Xは損害保険会社Y3との間で、被保険者をXの妻Cとする自動車保険契約を締結していたところ、同保険契約には無保険車傷害特約が付加されていた。同特約の約款条項には、被保険者等の闘争行為によって生じた損害に対しては保険金を支払わない旨の免責条項(闘争免責条項)が規定されていた。

(3)訴訟提起
XはY1に対して不法行為に基づく損害賠償として約1345万円の支払いを、Y2損害保険会社に対しては約1345万円の支払いを、Y3損害保険会社に対しては約1079万円の支払いを求めて提訴した。

(4)主な争点
争点①
対人・対物賠償保険における故意免責の適否
争点②
無保険車傷害特約における闘争行為免責の適否

3.判旨(一部認容・一部棄却、控訴後取下げ)
判決はY1に対する約130万円の支払いを命じたものの、Y2およびY3に対する請求は棄却。

(1)争点① 対人・対物賠償保険における故意免責の適否
『そうすると、Y1は、Xと至近距離にあり、現にXに身体を掴まれていたのであるから、Y1車を後退させる際、Xが運転席ドアの内側におり、Y1を掴んでいたことを認識していたと認めるのが相当であり、そのような認識である以上、Y1は、そのような状態でY1車を後退させれば、重量がある金属製のY1車と生身のXが接触し、これによりXが転倒するなどして負傷するという結果を認識・認容していたとみるのが自然であるから、Y1に傷害の確定的故意を認めるのが相当である。
(略)

したがって、被保険者であるY1は、Y1車の後退からXの傷害が発生することを認識しながら、Y1車を後退させ、Xを負傷させたと認めるのが相当であるから、対物の関係も含めて、Y2に故意による免責が認められ、Y2は、Xに対し、対人・対物賠償保険金の支払義務を負わないと認めるのが相当である。』


(2)争点② 無保険車傷害特約における闘争行為免責の適否
『保険約款における闘争行為とは、被保険者の任意の意思をもってする闘争を意味し、車内での被保険者相互のけんかや、自動車同士のぶつかり合い等がこれにあたるが、正当防衛の範囲内の行為は含まれないと解される(証拠略)。
(略)

以上に(略)照らすと、被保険者であるXは、任意の意思をもって、Y1に暴行(有形力の行使)を加えるなど一連の闘争を行い、その結果、その場から逃げようとしたY1によるY1車の後退を誘発し、これにより負傷したことが認められる一方、XにY1車の後退から身を守るための正当防衛や正当行為を認めることはできないから、Xは、任意の意思をもって、闘争を行い、これにより本件事故が発生し、Xが負傷したと認めるのが相当である。

したがって、Y3に闘争行為による免責が認められ、Y3は、Xに対し、無保険車傷害特約に基づく保険金の支払義務を負わないと認めるのが相当である。』


4.闘争行為免責条項について
保険約款がけんかなどの闘争行為を免責とする趣旨について、学説は、「闘争行為…は、傷害の発生の危険を著しく高める行為であるし、また、…被保険者の故意による傷害の惹起に準ずる非難可能性のつよい行為であるということにより保険会社免責とする趣旨である」とする見解(西島梅治『註釈自動車保険約款』228頁)、「保険の倫理性ないし信義則」に求める見解(梅津昭彦「闘争行為免責」『損害保険判例百選 第2版』176頁)、「受傷自体が偶然性を欠くこと、及び自らの意思で受傷の機会を作り出しておきながら保険金請求をすることが信義則に反すること」とする見解(大澤康孝「傷害保険約款中の闘争行為免責の適用事例」『ジュリスト』997号98頁)としています。

裁判例は闘争行為免責の趣旨について、「被保険者にとって、闘争という第三者とお互いに有形力を行使して争う過程に身を置く以上、相手方の攻撃により自分が受傷することは当然予測できるから、受傷自体が偶然性を欠くといえるし、また、被保険者が、自らの意思で闘争行為を開始して受傷の機会を作り出しておきながら、その結果として生じた受傷につき保険金の請求をすることが、信義誠実の原則に反するからである」と判示するものがあります(大阪高裁昭和62年4月30日判決、判例時報1243号、梅津・前掲176頁)。

本件事件のパチンコ店の駐車場におけるXとY1との一連の喧嘩の状況をみると、「闘争という第三者とお互いに有形力を行使して争う過程」に該当するうえに、正当防衛・正当行為と評価することは難しく、本判決が保険会社を闘争行為免責条項により保険金支払義務なしと判断したことはやむを得ないのではないかと思われます。

本件訴訟に類似する事例としては、損害保険のものとして、東京地裁平成12年7月26日判決(ウエストロー・ジャパン2000WLJPCA07260009)、大阪地裁平成26年6月10日判決(ウエストロー・ジャパン2014WLJPCA06106001)が存在します。

また、生命保険の故意・重過失に関するものとして、大阪高裁平成2年1月17日判決(判例タイムズ721号227頁)、大阪地裁平成元年3月15日判決(判例タイムズ712号237頁)が存在します(長谷川仁彦・潘阿憲ほか『生命保険・傷害疾病定額保険契約法 実務判例集成(下)』150頁)。

■参考文献
・『金融・商事判例』1556号32頁
・『判例時報』1243号120頁
・鴻常夫『註釈自動車保険約款』〔西島梅治〕228頁
・梅津昭彦「闘争行為免責」『損害保険判例百選 第2版』176頁
・大澤康孝「傷害保険約款中の闘争行為免責の適用事例」『ジュリスト』997号98頁
・長谷川仁彦・潘阿憲ほか『生命保険・傷害疾病定額保険契約法 実務判例集成(下)』150頁

保険法 第3版補訂版 (有斐閣アルマ)

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1.はじめに
最近の法律雑誌に、損害保険会社が代位取得した損害賠償請求権を行使する際に、弁護士費用の費用を認めない興味深い判決が掲載されていました(名古屋高裁平成29年10月13日判決、判例時報2381号87頁)。

2.名古屋高裁平成29年10月13日判決(確定)
(1)事案の概要
幅4.2メートルの道路の十字路において、X1~X3が乗っていたX1の運転する自動車と、右折しようと対向して進行してきたAの運転する自動車が正面衝突し、X1~X3が負傷した。本件事故の原因はAの前方不注意であった。

Aの自動車の所有者であるYに対して、X1~X3が損害賠償を請求し、またX1の損害賠償請求権を代位取得した損害保険会社X4が保険法25条による請求を行ったのが本件訴訟である。

原判決(津地裁平成28年12月16日判決)は、本件事故はAの過失であると認定し、X1らにつき、治療費、通院交通費、休業損害、弁護士費用などの損害を認めたため、Yが控訴。

(2)判旨
本判決は原審をおおむね肯定したものの、損害保険会社X4について、つぎのように弁護士費用を認めなかった。

『なお、X4のYに対する請求は、保険代位により取得した損害賠償請求権に基づく弁護士費用が当然に賠償の対象となるものではないと解される。しかるに、X4は、弁護士費用が賠償の対象となる旨の具体的な主張・立証をせず、他に、これを認めるべき事情もうかがわれないから、弁護士費用は認められない。』


3.検討
損害保険会社が保険代位により取得した損害賠償請求権に基づき提起する求償権訴訟における弁護士費用について、損害保険の実務書はつぎのように消極的な立場をとっています。

『不法行為による損害賠償請求では、不法行為により発生した損害として弁護士費用相当額の賠償を認めるのが判例である(最高裁昭和44年2月27日)。ここでいう弁護士費用とは、被害者が不法行為によって生じたその余の損害の賠償を求めるにについて弁護士に訴訟の追行を委任し、かつ、相手方に対して勝訴した場合に限って、弁護士費用の全額または一部が損害と認められるものであ(る。)(略)

他方、交通事故によるものであっても、保険金請求訴訟や、保険会社が保険代位により取得した損害賠償請求権に基づき提起するいわゆる求償権請求訴訟においては、原則として弁護士費用の賠償は否定的に解される。

ただし、例えば(略)保険代位によるいわゆる求償権請求訴訟において、保険代位が生じた時点で既に被害者が訴訟追行を弁護士に委託していた場合には、具体的に発生した弁護士費用相当額の賠償を求める権利が、損害賠償請求権の一部として保険会社に移転したものとして、その請求が認められる余地がある。』
(佐久間邦夫・八木一洋『交通損害関係訴訟(増補版)』112頁)

本件訴訟は、上の実務書の「ただし―」以下の場合に該当するようではないので、本高裁判決は、原則どおり従来からの損保実務に沿った判断をしたものと思われます。

■参考文献
・『判例時報』2381号87頁
・佐久間邦夫・八木一洋『交通損害関係訴訟(増補版)』112頁

交通損害関係訴訟 (リーガル・プログレッシブ・シリーズ)

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1.はじめに
生損保の保険会社各社は保険約款に暴力団排除条項(暴排条項)を設けていますが、この暴排条項を根拠として法人契約を解除した保険会社の対応は正当とする興味深い判決が出されていました(広島高裁岡山支部平成30年3月22日判決)。

本判決は下級審判決ではあるものの、保険約款上の暴排条項の適用を有効と認定した初の公開事例です。また、暴排条項の一つの「その他反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有していると認められること」について具体的な例示を行っている点で、保険訴訟以外の分野においても参考になる事例であると思われます。

2.広島高裁岡山支部平成30年3月22日判決(控訴棄却・確定)
(1)事案の概要
(a)保険契約など
平成26年8月、塗装工事・土木工事等を業とするX株式会社は、Y1生命保険およびY2損害保険との間で、保険契約者をX、被保険者をXの代表取締役Qとする生命保険と損害保険のセット商品である経営者大型総合保障制度保険契約を締結した。

Y1らの普通保険約款の「重大事由による解除」の条項にはつぎのような暴排条項が規定されていた。

第 18 条(重大事由による保険契約の解除および保険金の不支払等)
当会社は、次の(1)から(6)のどれかに該当する事由が発生した場合には、この保険契約を将来に向って解除することができます。
(1)~(4) (略)
(5) 保険契約者、被保険者または保険金の受取人が、次の(ア)から(オ)のどれかに該当する場合
 (ア) 反社会的勢力に該当すると認められること
 (イ) 反社会的勢力に対して資金等を提供し、または便宜を供与するなどの関与をしていると認められること
 (ウ) 反社会的勢力を不当に利用していると認められること
 (エ) (略)
 (オ) その他反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有していると認められること
  (後略)
(大同生命保険「無配当年満期定期保険(無解約払戻金型)」より)

(b)経緯
Qは暴力団組長Rの犯した傷害事件の被害者であるSに被害申告をしないよう約束させRに対して便宜を供与したり、その後、被害申告をしたSに対してRが逮捕されたことに因縁をつけ、X社の工事代金支払い債務を免れようとする等した。

そこで、県は平成26年9月1日付で、同日から平成28年8月31日までの間、X社を入札指名業者から排除する旨の措置を行った。

これを受け、Y1およびY2は、平成27年11月13日付の各通知により、各普通保険約款の暴排条項に基づき、本件各保険契約を解除する旨の意思表示を行った。

これに対して、Xが本件各保険契約の保険契約者の地位を確認する訴訟を提起したのが本件訴訟である。

原審(岡山地裁平成29年8月31日判決)では、X側は、本件暴排条項は、保険金不正請求を招来する高い蓋然性がある場合に限り適用されるように限定解釈すべき規定であると主張したが、裁判所は限定解釈すべきではなく、また、あいまいかつ広範ということもできないとしてY1らの保険契約解除は正当としてX側の主張を退けた。Xが控訴。

(2)判旨
『Xは、本件排除条項が、暴力団していると単に噂されたり、暴力団員と幼な間柄という関係のみで交際したりしているだけでは適用されないと解釈できるというだけでは、どのような場合に「社会的に非難されるべき関係」と評価されるのか明らかではないと主張する。

 しかし、本件排除条項の趣旨が、反社会的勢力を社会から排除していくことが社会の秩序や安全性を確保する上で極めて重要な課題であることに鑑み、保険会社として公共の信頼を維持し、 業務及び健全性を確保することにあると解されることは、 前記1で引用した原判決が説示するとおりである。

 また、本件排除条項は、被保険者等が、①反社会的勢力に該当すると認められること、②反社会的勢力に対して資金等を提供し、または便宜を供するなどの関与をしていると認められること、③反社会的勢力を不当に利用していると認められること等に加えて、「その他反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有していると認められること」と規定するものである(甲7、8 )。

 そうすると、本件排除条項の「社会的に非難されるべき関係」とは、前記①ないし③に準じるものであって、反社会的勢力を社会から排除していくことの妨げになる、反社会的勢力の不当な活動に積極的に協力するものや、反社会的勢力の不当な活動を積極的に支援するものや、反社会的勢力との関係を積極的に誇示するもの等をいうことは容易に認められる。

 よって、本件排除条項が、控訴人が主張するような意味において不明確ということはできず、上記の観点からその適用すべき場合の限界を画されているといえるから、控訴人の前記主張は採用できない。』

このように本高裁判決は判示し、QのSに対する行為は「反社会的勢力の不当な活動を積極的に支援するものや、反社会的勢力との関係を積極的に誇示するもの」に該当するとし、Y1・Y2の保険契約解除は正当であるとしてXの主張を退けました。

3.検討・解説
(1)暴排条項導入の経緯
政府の平成19年の「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」の策定と、金融庁の平成20年3月の「保険会社向けの総合的な監督指針」の一部改訂等(監督指針II -4-9「反社会的勢力による被害の防止」)により、保険会社は反社会的勢力との一切の関係遮断が求められることになりました。それを受けて、平成23年、生命保険協会および日本損害保険協会はそれぞれ暴排条項の約款例を策定・公表し、平成24年4月以降、生損保の各保険会社の保険約款に暴排条項が順次導入されてゆきました(長谷川仁彦・竹山拓・岡田洋介『生命・傷害疾病保険法の基礎知識』200頁)。

(2)重大事由による解除条項と暴排条項の構造
平成20年に成立した保険法は、「保険者の保険契約者、被保険者又は保険金受取人に対する信頼を損ない、当該生命保険契約の存続を困難とする重大な事由」があるときは、保険会社(保険者)は、「生命保険契約を解除することができる」とする、いわゆる「重大事由による解除」の規定を新設しました(保険法30条3号、57条3号、86条3号)。これは故意による事故招致による不正な保険金請求などのモラルリスクを排除するためです(萩本修『一問一答保険法』97頁)。

保険法

(重大事由による解除)
第五十七条 保険者は、次に掲げる事由がある場合には、生命保険契約(第一号の場合にあっては、死亡保険契約に限る。)を解除することができる。
 一 保険契約者又は保険金受取人が、保険者に保険給付を行わせることを目的として故意に被保険者を死亡させ、又は死亡させようとしたこと。
 二 保険金受取人が、当該生命保険契約に基づく保険給付の請求について詐欺を行い、又は行おうとしたこと。
 三 前二号に掲げるもののほか、保険者の保険契約者、被保険者又は保険金受取人に対する信頼を損ない、当該生命保険契約の存続を困難とする重大な事由

そして、冒頭の2.(1)(a)でみたように、この重大事由による解除の規定をより具体化するために、生命保険各社の保険約款には重大事由による解除の条項が規定されています。この保険約款における重大事由による解除の条項の一つに暴排条項は規定されています。

この点、暴排条項に該当することが、保険法57条3項などの要件である「保険契約者等に対する信頼を損ない、当該保険契約の存続を困難とするものである」といえるか否かが問題となりますが、反社会的勢力等が保険金詐取等の犯罪行為に関与する蓋然性は通常人に比べて相当に高いと考えられ、また、反社会的勢力等に属すること自体から保険金不正請求を招来する高い蓋然性があることから、「信頼関係が破壊され、契約継続が困難」であると考えられるので、保険約款の暴排条項は保険法57条3項等の重大事由による解除の規定の趣旨に沿い、その一つの条項であるといえるとするのが学説・保険実務のおおむねの理解です(日本生命保険『生命保険の法務と実務 第3版』316頁、山下友信・永沢徹『論点体系 保険法2』214頁)。

なお、 保険法の重大事由による解除は、片面的強行規定 (保険法33条2項、65条2号、 94条2号)であることから、保険法に比して保険契約関係者にとって不利な約款規定は無効となる点も問題となります。しかし、モラルリスク事案等の保険制度の健全性を害する行為の排除を目的とした重大事由による解除の保険法の趣旨は、暴排条項の規定目的と合致すること、暴排条項がもたらす保険契約の解除という効果も、重大事由による解除の予定する範囲であることから、片面的強行規定に反することにはならないと解されています(日本生命保険・前掲215頁、山下・永沢・前掲215頁)。

(3)本高裁判決における暴排条項
本高裁判決は、本件の保険約款の暴排条項が保険法上の重大事由による解除として位置づけられるのか否か、そして、本件暴排条項が保険法上の片面的強行規定に抵触しないのか否かについては明確には述べていません。

しかし、2.(2)でみたように、本高裁判決は、Xの本件暴排条項が不明確であるとの主張に対して、「本件暴排条項の趣旨が…保険会社として公共の信頼を維持し、業務の適切性及び健全性を確保することにある」ことは「原判決が説示するとおりである」と述べ、本件暴排条項の効力とその行使を否定していません。そのため、本高裁判決は、学説・保険実務の立場に近い考え方をしているように思われます。

加えて、本高裁判決は、本件暴排条項の「反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係」の意味と、当該条項の具体的事案へのあてはめを行っている点も注目されます。

つまり、本高裁判決は、「反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係」とは、「(被保険者等が、①反社会的勢力に該当すると認められること、②反社会的勢力に対して資金等を提供し、または便宜を供するなどの関与をしていると認められること、③反社会的勢力を不当に利用していると認められること)に準じるものであって、反社会的勢力を社会から排除していくことの妨げになる、(a)反社会的勢力の不当な活動に積極的に協力するものや、(b)反社会的勢力の不当な活動を積極的に支援するものや、(c)反社会的勢力との関係を積極的に誇示するもの、と(a)~(c)の3類型を具体的に例示して判示しています。

そのうえで本高裁判決は、本件のQがSに対して行った一連の行為は、(b)(c)に該当するとして、「反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有していると認められる」とあてはめを行い、結論としてY1らの本件各保険契約の解除を肯定しています。

このように本判決は、下級審判決ではあるものの、保険訴訟における保険約款上の暴排条項の適用を肯定した初の公表事例として、また、暴排条項中の「反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係」の意味や具体的例示を行った判決として保険実務および企業法務全般において意義のあるものといえます。

■参考文献
・『金融法務事情』2090号70頁
・『銀行法務21』830号65頁
・山下友信・永沢徹『論点体系 保険法2』214頁
・日本生命保険『生命保険の法務と実務 第3版』316頁
・長谷川仁彦・竹山拓・岡田洋介『生命・傷害疾病保険法の基礎知識』200頁
・萩本修『一問一答保険法』97頁
・潘阿憲『保険法概説 第2版』275頁、280頁

論点体系 保険法2

生命保険の法務と実務 【第3版】

生命・傷害疾病保険法の基礎知識

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1.はじめに
判例雑誌を読んでいたところ、火災保険契約の保険金の不払いについて、保険契約者・被保険者ではなく、建物の所有権者が当該火災保険契約の真の被保険者は自分であるとして、その論証として、火災保険の被保険者を「保険の対象の所有者で保険証券に記載されたもの」とする保険会社の約款条項は保険法2条4号に反し無効であると主張しているややめずらしい裁判例がありました(神戸地裁平成29年9月8日判決・『判例時報』2365号84頁)。

2.神戸地裁平成29年9月8日判決(棄却・確定)
(1)事案の概要
原告X1は、住宅建物など2棟(以下「本件建物」とする)の所有者であった。本件建物には、X1の姪であるX2と、X1の妹夫婦が同居していた。

平成27年5月27日、X2は損害保険会社Y(東京海上日動)との間で、保険期間を3年、保険契約者兼被保険者をX2、保険の対象を本件建物とする火災保険契約(「住まいの保険」)を締結した(以下「本件保険契約」という)。保険金額は建物2400万円、家財300万円であった。

本件保険契約の約款にはつぎのような条項があった。

第4条(被保険者)
 この住まいの保険普通保険約款において、被保険者とは、保険の対象の所有者で保険証券に記載されたものをいいます。

第5条(保険金をお支払いしない場合)
 当会社は、下表(抄)のいずれかに該当する事由によって生じた損害に対しては、保険金を支払いません。
①次のいずれかに該当する者の故意もしくは重大な過失または法令違反
 ア 保険契約者
 イ 被保険者
 ウ (略)
 エ アまたはイの同居の親族

平成27年12月26日午後11時すぎに、本件建物で火災が発生し本件建物および内部の家財はすべて焼損した。X1・X2らの保険金請求に対してYは免責条項(同居親族の重過失)を理由として保険金の支払いを拒んだため、X1らがYを名宛人として本件訴訟を提起した。

本件訴訟においては、①X1は被保険者に該当するか、②本件では同居親族の重過失による免責条項が適用されるか、の2点が争点となった。(②については本ブログ記事では省略。)

X1は、争点①に関して、“保険法2条4号イによれば、損害保険契約によっててん補することとされる損害を受ける者以外の者は、当該契約の被保険者になることはできない。しかるところ、X1は本件建物の所有者であり、その損害のてん補を受けるべき地位にあった以上、本件保険契約の被保険者に当たることは明らかである。そうするとX1以外の者を被保険者とする本件約款4条および本件保険証券は無効というべきである。”等と主張した。

(2)判旨
X1の主張について
(略)しかし、損害保険契約の被保険者が誰であるかということは、契約の内容がその当事者の自由な意思に委ねられるという一般原則に基づき、当該損害保険契約の当事者、すなわち、保険者(保険会社)と保険契約者の合意により定まることは明らかである。このことは、保険法上も、損害保険契約を締結したときは、保険者は、保険契約者に対し、「被保険者の氏名又は名称その他の被保険者を特定するために必要な事項」を記載した書面を交付しなければならないとしていること(6条1項3号参照)から明らかである。

 この点、保険法2条4号イは、損害保険契約の被保険者とは、損害保険契約によりてん補することとされる損害を受ける者をいうと定めているから、当該損害保険契約の当事者が上記の者以外の者を被保険者と定めた場合には、当該損害保険契約は無効になると解される。この点、同号イは、(損害保険契約の性質に照らし)、契約の内容はその当事者が自由に定めることができるという一般原則を修正する趣旨のものであると解される。

 そうすると、損害保険契約の当事者が、保険法2条4号イ所定の要件を満たさない者を被保険者と定めた場合には、たとえ客観的には同要件を満たす者が他に存在するとしても、その者は、当該損害保険契約の当事者から被保険者と定められていない以上、同号イの定めから直ちに、当該損害保険契約の被保険者に当たるとはいえないといわざるを得ない。

 したがって、本件約款が、本件保険契約の被保険者の要件として、「保険の対象の所有者」に加えて「保険証券に記載されたもの」と定めていることは、以上の説示に沿ったものであるから、保険法に反する無効なものであるということはできない。』

このように本判決は争点①について判示し、争点②についてもX1らの親族による重大な過失を認定し、結論としてX1・X2の主張を退けました。

3.検討・解説
損害保険契約とは、保険者が一定の偶然の事故(保険事故)によって生ずることのある損害をてん補することを約する保険契約をいいます(保険法2条6号)。そして、損害保険契約における被保険者について、保険法2条4号イはつぎのように定義しています。

保険法
第2条
  被保険者 次のイからハまでに掲げる保険契約の区分に応じ、当該イからハまでに定める者をいう。
   損害保険契約 損害保険契約によりてん補することとされる損害を受ける者
  (略)

つまり、保険法上、損害保険の被保険者とは「損害保険契約によりてん補することとされる損害を受ける者」となっています。すなわち、損害保険契約においては、生命保険契約等と異なり、被保険者は保険金請求権者でもあることになります(萩本修『一問一答保険法』33頁)。

これは、損害保険契約においては、利得禁止原則(被保険者は保険により不当な利得を得てはならないとする原則)が妥当し、この原則を貫徹するために、保険事故の発生について経済的な利害関係の存在(被保険利益)が必要とされ、その帰属主体を被保険者とし、また、同じく利得禁止原則および被保険利益の考え方より、被保険利益の帰属主体としての被保険者は保険金請求権の帰属主体となるからであるとされています(山下友信『保険法(上)』89頁)。

そして、平成20年の保険法成立前の旧商法において、保険の対象が保険契約者兼被保険者の所有する不動産であることを前提に損害保険が締結されたところ、実際には当該被保険者の所有物でなかった事例において、判例は当該損害保険契約は無効と解していました(最高裁昭和36年3月16日判決・高田桂一『損害保険判例百選 第2版』12頁)。

4.まとめ
今回の本神戸地裁判決は、この昭和36年の最高裁判決が、保険法施行後も判例として有効であることを裁判所が確認した点に意義があるものと思われます。

また、損害保険契約の被保険者が保険法2条4号イに照らして真の被保険者ではなく当該損害保険契約が無効となる際に、保険法2条4号イが実質上の被保険者にみえる者を当該保険契約の真の被保険者とする作用は持っていないと本神戸地裁判決が判示している点も注目されます。

なお、本神戸地裁判決が、本件火災保険の保険約款4条が被保険者を「保険証券に記載のある者」と定義していること自体を違法としていないことは、民事における契約自由の原則と、それに修正を加える保険法とのあり方を考えると妥当であると思われます。

■参考文献
・『判例時報』2365号84頁
・山下友信『保険法(上)』89頁
・萩本修『一問一答保険法』33頁
・高田桂一『損害保険判例百選 第2版』12頁

保険法(上)

一問一答 保険法 (一問一答シリーズ)

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