なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

タグ:損害保険

損保協会リリース

1.はじめに

令和6年能登半島地震によりお亡くなりになられた方々に謹んで哀悼の意を表しますとともに、被災された方々に心からお見舞い申し上げます。

令和6年能登半島地震について、生命保険協会日本損害保険協会が対策本部の設置と非常時取扱いに関するニュースリリースを公表しています。

2.日本損害保険協会のリリース

日本損害保険協会は、災害対策本部を設置するとともに、火災保険、自動車保険、傷害保険などの各種損害保険および自賠責保険について、①保険料の払い込み猶予と②継続契約の締結手続き猶予を行う旨をリリースで公表しています。
・令和6年能登半島地震に関する損保業界の対応について(PDF)|日本損害保険協会
・令和6年能登半島地震による被害に伴う特別措置(自賠責保険)の実施について|日本損害保険協会

また、日本損害保険協会は地震保険の概要の説明などに関するリリースも公表しています。
・令和6年能登半島地震により被災された皆様へ(地震保険の概要やお問い合わせ窓口等)|日本損害保険協会

3.生命保険協会のリリース

生命保険協会は、能登半島地震についてすべての生命保険会社において、今回の災害で被災されたお客さまのご契約に約款の地震による免責条項等を適用せず、災害関係保険金・給付金の全額をお支払いすることを決定した旨のリリースを公表しました。
・令和6年能登半島地震による免責条項等の不適用について|生命保険協会

生保協会リリース

また、生命保険協会は、能登半島地震について、災害救助法適用地域(新潟県、富山県、石川県、福井県)のお客様の保険契約について、①保険料払込猶予期間の延長、②保険金・給付金、契約者貸付金の簡易迅速なお支払い、③保険証券などを紛失してしまいご自身がどこの生命保険会社に保険契約をもっているか分からないお客様のために災害時の契約照会制度を実施することについてのリリースを公表しています。
・災害救助法適用地域の特別取扱いについて(新潟県、富山県、石川県、福井県)|生命保険協会

■追記
なお、金融庁も能登半島地震について特設ページを設置しています。
・令和6年能登半島地震関連情報に関する特設ページを開設しました|金融庁

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1.はじめに

金融法務事情2223号(2023年12月10日号)64頁に、損害保険会社の法人向けの傷害総合保険契約に関して、入院保険金等は会社ではなく従業員に支払われるべきとされた興味深い裁判例(大阪高判令5.4.14、控訴棄却・確定)が掲載されていました。これは損保業界の実務に影響がありそうな裁判例なので見てみたいと思います。

2.事案の概要

(1)Y(砕石業の会社)は平成27年5月に損害保険会社との間で全役員および従業員を被保険者とする傷害総合保険契約(本件保険契約)を締結した。本件保険契約においては入院保険金・通院保険金・手術保険金等の保険金請求権者は被保険者もしくはその父母、配偶者または子と保険約款に規定されていた。Yは入院給付金等はYが受け取る趣旨の法人契約特約が本件保険契約には付加されていたと主張しているが、この点については本件訴訟で争われている。

(2)Xは従業員としてY社で働いていた。平成27年9月、YはXに80万円を貸し付けて、Xがこの貸金の分割返済を怠ったときは強制執行を行う旨の公正証書を作成した。Xは平成27年9月25日、就労中に労災事故により受傷し、入院して手術を受けるなどした。そしてYは平成28年9月に損害保険会社から本件保険契約に基づき、入院保険金19万円、休業保険金90万円、手術保険金5万円など合計114万円の保険金(本件保険金)を受取り、またXはその旨を損害保険会社から通知を受けた。

(3)その後、Xは上記貸金をYに返済しないまま他社に転職したため、Yは令和3年4月に上記公正証書に基づき、Xの転職先の会社から支払われる給与を差押えた。それに対してXは、社簡易裁判所に請求異議の訴えを提起し、本件保険金はXが取得すべきものであるにもかかわらずYが保持しているため、XはYに対して引渡請求権または不当利得返還請求権を有しており、これを自働債権として上記貸金債権と相殺したと主張して、上記公正証書に基づく強制執行は認められないとの判決を求めた。社簡易裁判所は本件訴訟を神戸地裁社支部に移送した。神戸地裁社支部(神戸地裁社支部令4.10.11)はXの主張を認めたためYが控訴したのが本件訴訟である。

3.高裁判決の判旨(控訴棄却・確定)

「そうである以上、Yが保険会社から本件保険契約に基づき本件保険金を受け取った場合、当該受取行為は、被保険者である被控訴人からの委託に基づくものでなくとも、同人のためにするものとして、事務管理に該当し、受け取った本件保険金は、特段の事情がない限り、同人に引き渡さなければならず(民法701条、646条1項)、Yがこれを引き渡さない場合には、本件保険金は不当利得になると解される。」

「Yは、当審においても、本件保険契約には法人契約特約(法人を保険契約者とし、その役員、従業員を被保険者とする保険契約において、死亡保険金受取人を保険契約者である法人とした場合に、後遺障害保険金、入院保険金、手術保険金、通院保険金についても死亡保険金受取人に支払う特約)が付されており、したがって、本件保険金の受給権者はYであるから、Yに不当利得が生じる余地はない旨主張する。  しかし、本件保険契約に係る「傷害総合保険契約更改申込書」(乙3)を子細にみても、本件保険契約について、事業者費用補償特約は付されているものの、Yが主張する、法人契約特約が付されていることを明確に示す記載は見当たらない。(略)」

「結局、本件保険契約においては、Yが主張する法人契約特約が付されていたとまでは認めることができない。なお、仮に、本件保険契約において法人契約特約が付されていたとしても、同特約は、本件保険契約の内容や、本件保険金がXの労災事故に起因して給付された入院保険金、通院保険金等であることからしても、保険法8条の規定に反する特約で被保険者であるXに不利なものとして、同法12条により無効であるというべきである。

4.検討

(1)本判決は、とくに「なお、仮に、本件保険契約において法人契約特約が付されていたとしても、同特約は、本件保険契約の内容や、本件保険金がXの労災事故に起因して給付された入院保険金、通院保険金等であることからしても、保険法8条の規定に反する特約で被保険者であるXに不利なものとして、同法12条により無効であるというべきである。」と判示している部分が重要であると思われます。

保険法
(第三者のためにする損害保険契約)
第8条 被保険者が損害保険契約の当事者以外の者であるときは、当該被保険者は、当然に当該損害保険契約の利益を享受する。

(強行規定)
第12条 第八条の規定に反する特約で被保険者に不利なもの及び第九条本文又は前二条の規定に反する特約で保険契約者に不利なものは、無効とする。
すなわち、保険法8条は、損害保険契約において被保険者が保険契約者と別人である場合には、当該被保険者は保険金を受け取ると規定しており、同法12条は同法8条に反する特約で被保険者に不利なものは無効となると規定しています。これらの条文を受けて、本判決は、法人契約特約は、「本件保険契約の内容や、本件保険金がXの労災事故に起因して給付された入院保険金、通院保険金等であることからしても、保険法8条の規定に反する特約で被保険者であるXに不利なものとして、同法12条により無効である」と判示しているのです。

(2)損害保険会社各社から法人向けの傷害総合保険が販売されているところ、その保険金について、これを受け取った企業が社内の補償規程に基づいて従業員に支払えば問題は起きませんが、補償規程がないとか、企業が被った損害にこの金銭を充当するなどして従業員に保険金を支払わずトラブルとなるケースがあるとされています。

この点に関しては生命保険会社各社の団体定期保険(全員加入型のいわゆる「Aグループ」の団体定期保険)においても約30年前に同様の法的トラブルが多発し、最高裁判決(最判平18.4.11民集60巻4号1387頁)などが出され、生命保険会社各社は主契約の保険金は従業員の遺族に、ヒューマンバリュー特約の保険金は法人に支払うとする「総合福祉団体定期保険」を創設するなどの実務対応を行いました。

これに対して、本件判決は損害保険分野における法人向け傷害総合保険の入院給付金等を会社が受け取るべきなのか、従業員が受け取るべきなのかについて訴訟となり、保険法8条、12条に基づいて従業員が受け取るべきと裁判所が判示しためずらしい裁判例であると思われます(金融法務事情2223号66頁コメント部分)。

(3)この大阪高裁判決を受けて、損害保険会社各社は、とくに法人契約特約などの保険約款の保険金を受け取るべき者の規定について見直しを行うなどの対応が必要になると思われます。

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■参考文献
・金融法務事情2223号(2023年12月10日号)64頁
・山下友信『保険法(上)』345頁
・山下友信・竹濱修・洲崎博史・山本哲生『有斐閣アルマ保険法 第3版補訂版』236頁
・出口正義・平澤宗夫『生命保険の法律相談』(学陽書房)314頁

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保険と個人情報

1.はじめに

このブログ記事は法務系アドベントカレンダー2023( #legalAC)のエントリーです。tomoさんから頂いたバトンを、ヤマダ タツロウさんにお渡ししたいと思います。

令和2年の個人情報保護法改正に関して生命保険会社・損害保険会社が注意すべき点について、とくに①外国にある第三者への提供規制、②保有個人データの利用停止等請求、について個人的に気になる点をまとめてみました。(なお本ブログ記事は筆者の個人的な見解です。)

2.外国にある第三者への提供規制

(1)制度の概要
外国にある第三者への個人データの提供が許される要件は、①本人の同意があること、②日本と同等の個人情報保護の水準国(EU・英国)であること、③移転先の事業者が個情法4章2節の事業者の講ずべき措置に相当する措置を継続的に講じるために必要な基準に適合する体制(「基準適合体制」)を整備した事業者であること、の3類型に分かれます(個情法28条1項)。

外国にある第三者への個人データの提供が許される要件の図

(2)損害保険会社の実務
損害保険会社の実務上、外国にある第三者への個人データの提供は、①再保険契約に基づき外国の再保険会社に提供する場合、②外国法人に個人データの入力作業を委託する場合、③海外の遠隔地で海外旅行保険の保険契約者に保険事故が発生し緊急の対応を要する際に損害保険会社が委託をしている現地のクレームエージェントに情報提供を行う場合、④委託先が外国法人に対して損害保険会社から受託した業務の一部を再委託する場合、⑤外国にある第三者が提供するクラウドサービスをわが国の損害保険会社が利用する場合であって、クラウド事業者がクラウドサービス内の個人データの取扱いを行う場合などがあります。(浅井弘章「令和2年改正個人情報保護法が損害保険会社の業務に与える影響」『損害保険研究』83巻3号60頁。)

(3)本人の同意に基づいて外国にある第三者に提供する場合
本人の同意に基づいて外国にある第三者に個人データを提供する場合には、情報提供義務が新設されたため、本人同意を取得する際の申込書あるいは申込画面に法定の情報を提供・表示した上で、本人同意を取得することが必要です(個情法28条1項)。

わが国の損害保険会社が外国にある第三者の再保険会社に出再を行う場合において、わが国の損害保険会社による顧客からの保険引受および同意取得の時点では、最終的にどの再保険会社に再保険を行うかが未確定であり、当該顧客の個人データを移転する外国を特定できない場合がありえます。

このような場合には、損害保険会社は、①特定できない旨およびその理由、②提供先の第三者が所在する外国の名称に代わる本人に参考となるべき情報、を本人に提供する必要があります(施行規則17条3項)。

(4)基準適合体制を整備している外国にある第三者への提供
1.(2)の①から⑤の業務については、損害保険会社は実務上、基準適合体制(施行規則18条1項)を整備して個情法28条1項に対応していることが一般的であると思われます。

この点、施行規則18条1項は、①当該第三者による相当措置の実施状況並びに当該相当措置の実施に影響を及ぼすおそれのある当該外国の制度の有無及びその内容を、適切かつ合理的な方法により、定期的に確認すること(1号)、②当該第三者による相当措置の実施に支障が生じたときは、必要かつ適切な措置を講ずるとともに、当該相当措置の継続的な実施の確保が困難となったときは、個人データ(法第三十一条第二項において読み替えて準用する場合にあっては、個人関連情報)の当該第三者への提供を停止すること(2号)の2点が要求されています。このうち①の「定期的に確認」については、年1回程度またはそれ以上の頻度での確認が求められています(個情法ガイドライン(外国第三者編)6-1)。

保険会社の実務では、外国にある第三者の委託先事業者に対して個人データの取扱いを委託する場合、当該委託先事業者との間で契約書等を締結することにより当該委託先事業者の基準適合体制を整備し、その上で年1回のアンケートへの回答を依頼していることが多いと思われます。当該年1回の頻度でのアンケート回答は、上記の「定期的に確認」に含まれると考えられます(個情法ガイドライン(外国第三者編)6-1)。

万が一、この年1回のアンケートなどにより契約書違反が発覚した場合には、損害保険会社は施行規則18条1項2号に従った対応ができるように、委託先との契約書等を改訂するとともに、自社の委託先管理の社内規程等を改訂することが必要であると思われます(浅井・前掲63頁)。

(5)生命保険会社の実務
例えば住友生命保険においては、Vitality健康プログラム(日々の運動や健康診断などの継続的な健康増進活動をポイント化し、ポイントに応じて保険料の変動や特典の提供を行うプログラム)の提供にあたり、南アフリカの金融サービス会社と業務提携しており、同社における商品開発などを目的として契約内容や健康状態などの個人データを保険契約者等の本人同意に基づいて南アフリカの同社に第三者提供しているとのことです。

令和2年改正後、住友生命は外国にある第三者への提供規制への対応として、その所在する国名、当該外国における個人情報保護に関する法制度、提携企業等が講じる個人情報保護措置等に関し同社ウェブサイト上のプライバシーポリシー等にて情報提供を行っているとのことです。

また、米国法のFATCA(アメリカ外国口座税務コンプライアンス法)は租税回避の防止を目的として米国人の米国納税者番号や契約内容等を米国内国歳入庁に提供することを求めているところ、日本の生命保険各社は、保険契約者等の本人同意に基づいて契約内容などの個人データを米国内国歳入庁に提供しています。このFATCA対応として日本の生命保険会社各社は、FATCAに係る同意取得書面等に米国の個人情報保護に関する制度や米国内国歳入庁における個人情報保護措置の内容に係る情報提供を行っています。(黒丸栞「令和2年個人情報保護法改正と生保会社における実務対応」『生命保険経営』91巻2号110頁)

3.保有個人データの利用停止等請求の改正

(1)改正の概要
令和2年の個情法改正では事業者が保有個人データの利用停止等(利用の停止又は消去)を行わなければならない場合として、法18条、20条違反に加えて法19条(不適正利用の禁止)違反が追加されました(法35条1項)。

また、法35条5項は、本人は、①利用する必要がなくなった場合、②当該本人が識別される保有個人データに係る第26条1項本文に規定する事態(個人情報漏洩)が生じた場合、③その他当該本人が識別される保有個人データの取扱いにより当該本人の権利又は正当な利益が害されるおそれがある場合、には個人情報取扱事業者に対して当該保有個人データの利用停止等又は第三者への提供の停止を請求することができることとなりました。

一方、上記①から③に該当する場合であっても、利用停止等を行うことが「困難である場合」には、本人の権利利益を保護するために必要な代替措置を講じることによる対応が認められています(法35条6項但し書き)。

個情法35条5項の事業者が利用停止等を行わなければならない場合

(2)損害保険会社の実務
この法35条6項但し書きが該当する場合としては、例えば重大な個人情報漏洩事故が発生した場合において、保険会社と当該本人(保険契約者)との保険契約が存続しているため、利用停止等が困難であるとして、以後個人情報漏洩の事態が生じることがないよう必要かつ適切な再発防止策を講じる場合などが該当すると考えられます(個情法ガイドライン(通則編)3-8-5-3)。

また、③の「本人の権利又は正当な利益が害されるおそれがある場合」については、「正当な」利益であることが要件であるところ、個情法ガイドライン(通則編)は、例えば「過去に利用規約に違反したことを理由としてサービスの強制退会処分を受けた者が、再度当該サービスを利用するために、当該サービスを提供する事業者に当該強制退会処分に係るユーザー情報の利用停止等を請求する場合」は「本人の権利又は正当な利益が害されるおそれがある場合」に該当しないとしています(個情法ガイドライン(通則編)3-8-5-1)。

そのため、例えば保険会社が告知義務違反等により保険契約を解除した場合において、その告知書などの個人データの利用停止等の請求がなされた場合は、保険会社はこれに応じる必要はないと考えられます(浅井・前掲78頁)。

(3)生命保険会社の実務
さらに、法35条1項の①「利用する必要がなくなった場合」については、(a)保険契約の解約や被保険者の死亡により保険契約が消滅した場合、(b)保険契約の加入の申込があったものの引受審査により不承諾となり告知などの個人データの消去請求がなされる場合、なども想定されます。

この点、(a)については、保険会社においては税務調査への対応や、各種証明の申出を受けた場合への対応などに備え、引き続き当該保有個人データを保有する必要性があります。そのため、保険会社としては、当該保有個人データの営業活動への利用については停止し、税務調査等への利用は継続するなどの対応ができないか検討するべきと考えられます。

また、(b)については、引受審査の判断のために告知により取得した医的情報等に関しては、不承諾(謝絶)となった場合にはすでに当初の利用目的を達成しているため消去請求に応じることが考えられます。一方で不承諾となった事実や氏名等、消去請求への対応の経緯などの情報については、事後的な対応に備えて保有を続けることついては消去に応じないことが妥当と考えられます。(黒丸・前掲94頁。)

法務系アドベントカレンダー2023 の次回はヤマダ タツロウさんです。よろしくお願いします!

■参考文献
・浅井弘章「令和2年改正個人情報保護法が損害保険会社の業務に与える影響」『損害保険研究』83巻3号55頁
・黒丸栞「令和2年個人情報保護法改正と生保会社における実務対応」『生命保険経営』91巻2号88頁
・宮本順「個人情報保護法の改正が生保業界に与える影響」『生命保険経営』88巻5号4頁
・岡村久道『個人情報保護法 第4版』333頁、373頁

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byouki_oldman
■追記(2022年8月31日)
生命保険協会は、自宅療養・自主療養等について、入院給付金等の支払い対象を限定する方針を固めたとのことです。詳しくはこのブログ記事の下の追記をご参照ください。

■追記(2022年2月4日)
PCR検査などなしで「みなし陽性」として自主療養・自宅療養を行う制度を神奈川県などが開始しました。この制度と民間の保険会社の医療保険の入院給付金などの支払いに関してはこのブログ記事下部の「追記(2022年2月4日)」をご参照ください。

1.新型コロナにより自宅療養をした場合、生損保の医療保険の入院給付金は支払われないのか?
2022年1月24日夜、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、後藤厚生労働大臣は、自治体が判断すれば、感染者の濃厚接触者に発熱などの症状が出た場合、PCR検査等を患者が受けなくても、医師が感染したと診断できるようにする方針を明らかにしたとのことです。

・濃厚接触者 検査なしでも医師が感染と診断可能に 厚労相|NHKニュース

これに対しては、ネット上で、「自宅療養(自主療養)では生損保の医療保険の入院給付金が支払われなくなってしまうのではないか?支払いをめぐって保険会社ともめ事が発生するのでは?」との心配の声があがっています。

これ保険で絶対もめる
(Twitterより)

2.保険会社の対応
この点、例えば住友生命保険の医療保険の疾病入院給付金の約款(5年ごと利差配当付医療定期保険普通保険約款)の5条1項1号(支払理由)は、「イ 疾病の治療を目的としている入院であること」、「ハ 病院または診療所等における入院であること」などを支払いの要件としています。

そしてこの「病院または診療所等」について、同約款は「「病院または診療所等」とは、次のいずれかに該当する施設とします。(1)医療法に定める日本国内にある病院または患者を入院させるための施設を有する診療所、(2)柔道整復師法に定める日本国内にある施術所(患者を入院させるための施設と同等の施設を有する施術所に限ります。)(3)前(1)および(2)と同等の日本国外にある医療施設」と補足しています。

住友生命医療保険約款
(住友生命保険「5年ごと利差配当付医療定期保険普通保険約款」より)

しかし、例えば日本生命保険のプレスリリース「新型コロナウイルス感染症に関するお知らせ」(最終更新日:2021年10月1日)「保険金・給付金のお支払いについて」の「1.入院給付金のお支払いについて」は、つぎのように説明しています。
1.入院給付金のお支払いについて
新型コロナウイルス感染症は疾病に該当しますので、新型コロナウイルス感染症の治療を目的とされた入院は、(疾病)入院給付金のお支払い対象となります。
※ご契約内容によっては、入院給付金のお支払いに、所定の入院日数が必要となる場合があります。

なお、新型コロナウイルス感染症に罹患された場合で、医療機関の事情などにより、自宅またはその他病院などと同等とみなされる施設で治療を受けられる場合も、その治療期間に関する保健所等発行の証明書入院勧告書または就業制限・解除通知等)などをご提出いただくことで、入院給付金等のお支払いの対象としてお取扱いします。

この場合、お支払いの対象となる期間は原則、PCR検査等で陽性と判明した日から厚生労働省等の定める解除基準に該当した日(保健所等から通知された解除日)となります。
※上記は2021年7月1日時点での取扱いであり、今後法令の改正等により変更する可能性があります。

日本生命コロナ入院給付金支払いについて
(日本生命保険「新型コロナウイルス感染症に関するお知らせ」より)
・新型コロナウイルス感染症に関するお知らせ|日本生命保険

このように日本生命保険は、コロナに感染したが、病院などの事情により病院への入院でなく、自宅療養ホテルなどの宿泊所療養などをした場合であっても、お客様が「その治療期間に関する保健所等発行の証明書入院勧告書または就業制限・解除通知等)など」を提出した場合は、自宅療養などであっても入院給付金の支払い対象となるとしています。

同様に、第一生命保険、住友生命保険、明治安田生命保険、損保ジャパンなどもプレスリリースで、医師診断書等「会社所定の宿泊療養・自宅療養書」「保健所の証明書」などの提出があった場合には、コロナによる自宅療養でも入院給付金・医療保険金を支払い対象になるとしています。

・新型コロナウイルス感染症に関連したご案内等について(12月30日更新)|第一生命保険
・新型コロナウイルス感染症宿泊療養・自宅療養による入院給付金のご請求について|住友生命保険
・新型コロナウイルス感染症に関する当社の対応について|明治安田生命保険
・新型コロナウイルス感染症に関する商品・特別措置等のご案内|損保ジャパン

3.まとめ
そのため、コロナで入院治療が必要となったが、自治体や病院等の都合で自宅療養やホテル療養などとなった場合であっても、保健所の証明書医師の診断書などを提出した場合は、自宅療養などであっても入院給付金の支払い対象となると思われます。

※くわしくはご加入の保険会社にお問い合わせください。

■追記(2022年2月4日)
PCR検査などなしで「みなし陽性」として自主療養・自宅療養を行う制度を神奈川県などが開始しました。この制度と民間の保険会社の医療保険の入院給付金などの支払いに関して、神奈川県サイト「新型コロナ 自主療養について」のページの「5 よくある質問」QA7はつぎのように説明しています。
Q(7)自主療養届を療養に関する民間保険金請求や傷病手当に使えますか?
A いいえ。医療機関を受診し、発生届が提出された場合、神奈川県は療養終了後に別途「療養証明書」を発行しています。自主療養届は、制度開始時点においては、各種保険金や手当の請求に使う想定はしておりません。
神奈川県QA
(神奈川県サイトより)
・自主療養について|神奈川県

神奈川県サイトの説明によると、「みなし陽性」による自主療養の場合、患者は自治体の用意している「自主療養届出システム」に届出者情報などを入力すると、「自主療養届」が同システムからダウンロードできるようになり、これを学校勤務先などに提出して欠席や欠勤の届け出に利用できるとなっていますが、この「自主療養届」は民間の保険会社の医療保険などの入院給付金などの請求には「利用を想定していない」となっています。そして保険会社の医療保険などの入院給付金などの請求には、自治体が療養終了後に別途「療養証明書」を発行するので、この「療養証明書」を利用してほしいと説明しています。

神奈川県の自主療養届
(神奈川県の自主療養届。神奈川県サイトより)

たしかに神奈川県サイトに掲載された自主療養届のひな型をみると、自主療養の開始の日などの記載はありますが、終了の日などの記載はなく、入院給付金などの請求には使えないと思われます。

したがって、検査を受けずに自主療養・自宅療養を開始する「みなし陽性」の患者の方々は、「自主療養届」ではなく、療養終了後に自治体が発行する「療養証明書」を入院給付金などの請求に利用することになると思われます。

※くわしくはご加入の保険会社にお問い合わせください。

■追記(2022年8月31日)
新聞報道によると、各生命保険会社が加入する生命保険協会は、上でみたコロナによる自宅療養等について、入院給付金等の支払対象を「65歳以上の高齢者や入院患者、コロナの治療薬投与を受けた患者、妊婦」に限定する方針とのことです。

・医療保険、コロナ対象縮小 「みなし入院」扱い見直し 支払い7割減 生保協会方針|朝日新聞

※くわしくはご加入の保険会社にお問い合わせください。

■関連する記事
・保険会社・営業職員等に保険募集の際に公的保険制度の情報提供を求める金融庁の監督指針の一部改正を考えた
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は生命保険の保険金支払いの対象となるか?
・かんぽ生命・日本郵便の不正な乗換契約・「乗換潜脱」を保険業法的に考える
・デジタル庁「教育データ利活用ロードマップ」は個人情報保護法・憲法的に大丈夫なのか?
・スーパーシティ構想・デジタル田園都市構想はマイナンバー法・個人情報保護法や憲法から大丈夫なのか?

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1.はじめに
腰痛などで通算500日以上入院した患者による医療保険の入院給付金請求という典型的なモラルリスク事案に関する判決が出されていました。裁判所は患者側の請求を棄却しています(鹿児島地裁平成29年9月19日判決・請求棄却・確定、判例タイムズ1456号236頁)。

2.事案の概要
Xは平成17年10月に、損害保険会社Y(損保ジャパン日本興亜)との間で、ケガ・疾病による入院・手術などを保障する医療保険である、「新・長期医療保険」(Dr.ジャパン)の保険契約を締結した。入院給付金日額は1万円であった。

本件保険契約の約款上、入院給付金の支払事由としての「入院」とは、医師による治療が必要な場合であって、かつ、自宅等での治療が困難なため病院または診療所に入り、常に医師の管理下において治療に専念することをいうと規定されていた。

Xは平成23年2月ごろより腰痛を訴え整形外科病院に16日間入院をしたことを皮切りに、腰痛による入院や、不安感を訴え精神科病院への入院などを平成27年までに合計9回繰り返し、その入院日数は合計500日を超えた。

これらの入院に基づいてXがYに対して約462万円の入院給付金の支払いを請求したところ、Yが拒んだためXが提起したのが本件訴訟である。

3.判旨
本件保険契約における入院給付金の支払事由としての「入院」に該当するか否かの判断は、契約上の要件の該当性の判断であり、前提事実(略)のとおりの本件保険契約における「入院」の定義(医師による治療が必要であり、かつ自宅等での治療が困難なため、病院又は診療所に入り、常に医師の管理下において治療に専念すること)からしても、単に当該入院が医師の判断によるということにとどまらず、同判断に客観的な合理性があるか、すなわち、患者の症状等に照らし、病院に入り常に医師の管理下において治療に専念しなければならないほどの医師による治療の必要性や自宅等での治療の困難性が客観的に認められるかという観点から判断されるべきものと解される。
 なお、担当医師による判断の具体的な内容やその医学的な根拠は、上記の「入院」該当性の判断に際して一つの重要な事情とはなるものの、通常、医師の判断によらない入院を想定できないことからしても、医師による判断の存在という外形的な事情のみからは、直ちに「入院」該当性が推認されるとまではいえないというべきである。』

『ア 本件入院1
 入院時の検査所見は、入院の必要性を基礎付けるものであるとはいえず(略)、入院日である平成23年2月1日において、Xは、腰を押さえながらも独歩は可能だったのであり、翌2日にも喫煙のため独歩で移動し、同月11日にはほぼ終日外出し、その後も頻繁に外出・外泊していることからすれば、Xの症状が自宅等での治療が困難であるほどの重いものであったとはいえない。(略)これらのXの症状やその後の治療内容等に照らせば、本件入院1においては、(略)客観的な契約上の要件である「入院」該当性の根拠とすることはできないというべきである。』

このように判示し、本判決はXのすべての入院は医療保険契約上の「入院」に該当しないとしてXの請求を退けています。

4.検討
医療保険、入院特約などにおける入院給付金の支払い要件の一つである「入院」の該当性について、実務書は、医師の判断とあわせて、「保険制度の基本である収支相当の原則および給付反対給付均等の原則からみて、その支払要件を合理的・画一的・公平に規制する必要があり、それに合致した保険事故に対してのみ給付されるのが当然の前提とされていること、入院当時の一般的な医学上の水準によるべき」と解説しています(長谷川仁彦など『生命・傷害疾病保険法の基礎知識』249頁)。

裁判例も、「本件保険特約が設けられている趣旨およびその内容に鑑みると、本件入院要件の有無の判断は、通常は医師の判断を尊重して決定されるであろうが、いかなる場合においても、一旦なされた医師の判断を無条件に尊重して決定されなければならないというものではなく、(略)客観的、合理的に行われるべきである。このように解することは、保険契約が有する射幸性による弊害を防止し、保険契約者一般の公平を守るという点に照らしても妥当である。」と判示するものがあります(札幌高裁平成13年6月13日判決・生命保険判例集13巻499頁)。

本判決はこのような保険会社の実務・裁判例に沿う考え方をとった妥当な判決であると思われます。

なお、最近の本判決に類似した事案として、ケガを理由とする不必要な通院給付金請求というモラルリスク事案が争われたつぎの裁判例が存在します(東京地裁平成29年4月24日判決)。

・総合格闘技選手の練習によるケガは傷害共済の「不慮の事故」に該当するか?(東京地裁平成29・4・24)-モラルリスク・不必要な通院

生命・傷害疾病保険法の基礎知識

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