なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

タグ:曽我部真裕

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2025年4月11日のCNET Japanの記事によると、「ChatGPTを提供するOpenAIは4月11日、有料の「Plus」「Pro」プランでメモリ機能を強化し、過去の会話をすべて参照できるようにしたと発表した。これにより、より適切で有用なパーソナライズされた回答を提供できるようになる」とのことです。

これは「メモリ機能のオン・オフはユーザーが設定できる。「保存されたメモリを参照する」をオンにすれば、ユーザーの名前や好みなど、過去に保存した情報を参照するようになる。これは、ユーザーが明示的にChatGPTに伝えたとき、あるいはChatGPTが特に有用と判断した場合に、メモリに情報を追加する仕組みだ。チャット履歴を参照する設定をオンにすれば、ChatGPTは過去の会話にある情報を参照し、ユーザーの目標や興味、トーンなどに合わせて会話を進める。こちらはより広範囲に及ぶ設定だ。」という改正であるそうです。

この改正についてX(Twitter)では、「ChatGPTによるプロファイリングの精度があがっている」等の声があがっています。ある方のXの投稿では、ChatGPTに推測させてみたところ、「所属する業界、職業、年収、性別、年齢層、居住地、血液型、家族構成、MBTI診断結果などを当てられた」とのことで、これはなかなかゾッとするというか、恐ろしいものがあります。

この点、Xで、sabakichi(@knshtyk)氏は、「今回のアプデで気が付かされたが、個人のやり取りから学習した特徴のデータというのは要するに"究極の個人情報"であるから、将来的に法的に保護されるべき「個人情報」が指す範囲は今後拡張されていく必要があり、データの生殺与奪の権も利用先の制御もすべてユーザの手元で行える必要が出てくるのでは」と投稿していますが、この点は私も非常に同感です。

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(sabakichi(@knshtyk)氏の投稿より)

最近、個人情報保護法については、「個情法の保護法益は何か?」という点について議論があるところです。これまで自己情報コントロール権(情報自己決定権)説が有力であったところ、最近は曽我部真裕教授などによる「自己の情報を適切に取扱われる権利説」や、高木浩光氏による「個人データによる個人の不当な選別・差別の防止説」が有力に主張されています。

しかし最近のChatGPTの猛烈な進化をみると、状況は今後変わってゆくのではないでしょうか。つまり、生成AIなどにより、どんどん個人の内心やプライバシーが緻密にプロファイリングされてしまう状況になり、その機微な情報をOpenAIなどのIT企業が収集・保管・利用するようになる、ビッグテック企業等がどんどん個人の内心やプライバシー、アイデンティティの部分に踏み込んでくると、「自己の個人情報が適切に取扱われる」ことや、「個人データによる個人の不当な選別・差別の防止」が達成されるだけでは不十分であり、sabakichi氏が上で投稿しているように、自己の個人情報・個人データの取扱いについて、個人がコントロールする必要性がより増加してくるのではないでしょうか。

すなわち、曽我部説や高木説に立つと、OpenAIなどのIT企業から「いやいや貴方の個人データはプライバシーポリシーで通知・公表した内容にしたがって適切に処理しています。もちろん不当な選別・差別は行っていません。なので、貴方の個人データをますますプロファイリングに利活用させていただきます」と言われたときに、個人の側としては何の反論もできなくなってしまうわけですが、ChatGPTなどの生成AIがどんどん進歩してゆく今日においては、そのような状況では個人の人間としての存立が危うくなってしまうのではないでしょうか。そのような状況においては、個人としては、自己の情報・データについて、収集したデータをこれ以上勝手に処理・プロファイリングするな、収集・利用・プロファイリングしたデータの利用を停止せよ・データを削除せよ等と主張することが、個人の尊厳、個人の尊重、個人の人格尊重(憲法13条、個情法3条)の保護のためにますます必要となってくるのではないでしょうか。

そのように考えると、生成AIの発展する今日においては、個情法の保護法益としては、「自己の情報を適切に取扱われる権利説」の側面や、「個人データによる個人の不当な選別・差別の防止説」の側面ももちろん重要ではありますが、それと同時に自己情報コントロール権(情報自己決定権)説の側面の重要性も増加しているように思われます。

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ジュリスト2024年12月号が日本版DBS法(こども性暴力防止法)の特集を組んでいたので読んでみました。

54頁の曽我部真裕「日本版DBS法の憲法問題-プライバシーの視点から」で、曽我部先生はつぎのように解説している点が印象に残りました。

「本法による情報提供制度は粗雑なプロファイリングであり、特定性犯罪を行った事実(や)宣告刑の種類のみが考慮され、それ以上に個々の申請従事者の再犯リスクが斟酌されていない。このことは、現在における様々な制約からするとやむを得ないとも言える側面もあろうが、こうした一律の取扱いを緩和する措置が望まれる。」
曽我部真裕「日本版DBS法の憲法問題-プライバシーの視点から」ジュリスト2024年12月号58頁
学校や民間教育期間における児童に対する性犯罪が重大な問題であることは当然ですが、日本版DBS法の情報提供制度は「粗雑なプロファイリング」であり、「個々の申請従事者の再犯リスクが斟酌されていない」との曽我部先生のご指摘はそのとおりであると思われます。個々の申請従事者の再犯リスクに対して個別に対応してゆく方策が求められるように思われます。

また、66頁の小西暁和「日本版DBS法についての検討-刑事法の視点から」では、小西先生は日本版DBS法の対象となる法定期間(原則として20年)が長すぎるのではないかという問題について、つぎのように解説していることが印象に残りました。

「法務省法務総合研究所の調査では、再犯調査対象者のうち性犯罪再犯があった者について、再犯が可能となった日から再犯までの期間を性犯罪者類型別にみると、「強制わいせつ型」…は、中央値が470日・最長が1771日、「小児わいせつ型」は、中央値が499日・最長が1330日…であった。また、いずれの性犯罪者類型も4分の3以上が1000日にも満たないで再犯に及んでいた。」「これらの研究を踏まえると(日本版DBS法の対象となる法定期間は、)十分な科学的根拠に基づいているのか疑問が残る」
小西暁和「日本版DBS法についての検討-刑事法の視点から」ジュリスト2024年12月号69頁

この小西先生のご指摘のように、日本版DBS法の対象となる法定期間については、「とにかくまずは20年」という結論ありきで、科学的根拠がないがしろなままに法律が制定されたのではないかと疑問です。このように日本版DBS法にはいくつもの問題があるように思われます。

日本版DBS法は学校や民間教育施設などの労働者の労働の自由や職業選択の自由(憲法22条、27条)やプライバシー(13条)に対して大きな制約を課す法制度であるにもかかわらず、「子ども達がかわいそう」という一部国民の感情論や与党の「お気持ち」により、十分な理性的な議論もないままに一気呵成に制定されてしまったように思われます。(今後、このような仕組みが性犯罪だけでなく、あらゆる犯罪に対して、あらゆる国民に対象を広げて、就職・進学・結婚・保険への加入などのあらゆる場面で利活用されてしまうおそれもあります。)今後の国会での慎重な検討や見直しが必要であると思われます。

■関連するブログ記事
日本版DBS(こども性暴力防止法案)について個人情報保護法124条から考える

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内閣府や厚労省等の検討会議で、健康・医療データについて本人同意なしに二次利用(目的外利用・第三者提供)を認める方向で検討がなされているようですが、この方向の検討に難治性の疾患の長年の患者の一人として反対です。

例えば、厚労省の検討会「健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報の二次利用に関するワーキンググループ」の第2回資料をみると、健康・医療データを本人同意なしで二次利用する方向で議論しています。

第一回でいただいたご意見
(厚労省の検討会「健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報の二次利用に関するワーキンググループ」の第2回資料より)

医療データ利活用の関する議論の全体像
「医療データの利活用に関する議論の全体像ー目指すべき未来」『医療データ利活用について(論点整理(骨子))』内閣府より)

医療データは要配慮個人情報・センシティブ情報であり、個人情報のなかでもとりわけ取扱注意な情報です(個人情報保護法2条3項、20条2項、27条2項ただし書き)。それを患者本人の同意を取らずに勝手に二次利用とは個情法の観点からもあまりにもおかしいと考えます。

プライバシーに関しては日本の憲法学では一応、自己情報コントロール権説(情報自己決定権説)が通説なのですから、その観点からも本人同意なしは説明がつかないと考えます。

(なお、有力説としては曽我部真裕教授などの「自らの個人情報を適切に取扱われる権利」説や、高木浩光氏の「関連性のない個人データによる個人の選別・差別禁止」説などがあるが、これらの説ではこの医療データの本人同意なしの二次利用の問題などについて、政府等から「いやいや貴方の医療データは適切に取扱います。もちろん関連性のない個人データで貴方を選別・差別したりしません。」と言われたときに患者・国民は何も反論できないという問題点がある。)

医療データは風邪のような軽微なものから、がんやHIV、精神病など社会的差別の原因となる疾病が多いのに、医療データを乱雑に扱ってよいとはとても思えません。とくに精神疾患は患者の内心(憲法19条)に直結しています。政府や製薬会社・IT企業等は、患者・国民の内心・内面や思想・信条に土足で踏み込むつもりなのでしょうか。これらの社会的差別の原因となる、あるいは患者の内面に直結する医療データを患者の本人同意なしに二次利用してよいとはとても思えません。

日本経済の発展のために医療データの利活用が必要だとしても、オプトアウト制度など何らかの患者本人が関与するしくみが絶対に必要だと考えます。

日本は中国やシンガポール等のような全体主義国家ではなく、国民主権の民主主義国なのですから(憲法1条)、国民の個人の尊重や基本的人権の確立が最も重要な国家目的のはずです(憲法13条、12条、97条)。患者・国民を国や製薬会社・IT企業等のために個人データを生産する家畜のように扱うことは絶対に止めるべきです。

健康・医療データについて本人同意なしに二次利用を認めることには患者の一人として私は反対です。政府は患者・国民不在でこういう検討を勝手に進めるのは止めてほしいと思います。

■関連するブログ記事
・健康保険証のマイナンバーカードへの一体化でカルテや処方箋等の医療データがマイナンバーに連結されることを考えた

■参考文献

・山本龍彦・曽我部真裕「自己情報コントロール権のゆくえ」『<超個人主義>の逆説』165頁
・高木浩光「個人情報保護から個人データ保護へ(6)」『情報法制研究』12 巻49頁
・黒澤修一郎「プライバシー権」『憲法学の現在地』(山本龍彦・横大道聡編)139頁
・成原慧「プライバシー」『Liberty2.0』(駒村圭吾編)187頁
・「患者データ利用 同意不要へ」読売新聞2023年7月26日付記事

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