なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

タグ:海賊版サイト

1.東京地裁が米クラウドフレア(Cloudflare)へのファイル削除等を認める判断を示す
本日付の弁護士ドットコムニュースによると、

『東京地裁は10月9日、CDN(コンテンツ配信ネットワーク)などのサービスを提供する米クラウドフレア(Cloudflare, Inc.)に対して、キャッシュファイル削除と発信者情報開示を命じる仮処分を決定した。』


と東京地裁が画期的な判断を示したとのことです。

弁護士ドットコムニュースは、

『クラフドフレアが裁判外での削除や開示をもとめる請求に応じない中、(本件事件を担当する)山岡裕明弁護士は今年7月、クラウドフレアの配信設備が国内にあることに着目して、東京地裁に仮処分を申し立てた。』


とも解説しています。

・クラウドフレアに「発信者情報開示」命令、海賊版サイト「ブロッキング」に影響も|弁護士ドットコムニュース

2.インターネット上の著作権の準拠法と裁判管轄
(1)準拠法と裁判管轄
国をまたぐ法的紛争が発生した場合、どの国の法律が適用されるのか(準拠法の問題)、また、どの国の裁判所で争うことができるのか(裁判管轄の問題)の2点が問題となります。

(2)準拠法
著作権など知的財産権侵害という権利侵害に基づく損害賠償請求の法的性質は不法行為であり、これについては通則法(「法の適用に関する通則法)17条により、原則として、「加害行為の結果が発生した地」の法律が準拠法になるとされています。

この「加害行為の結果が発生した地」について、裁判例はP2Pファイル交換サービスにおける著作権侵害が争われた事案において、サーバー自体はカナダにあったものの、ウェブサイトなどが日本語で書かれ、当該サービスによるファイルの送受信のほとんどが日本国内で行われていたとして、旧通則法11条(現17条)および条理により、不法行為および差止請求権は日本の著作権法が準拠法となると判断したものがあります(ファイルローグ事件・東京高裁平成17年3月31日判決)。(TMI総合法律事務所『IT・インターネットの法律相談』568頁(佐藤力哉))

(3)裁判管轄
つぎに、インターネット上で著作権が侵害されている場面など、当事者間が契約関係になく、当事者間に裁判に関する管轄の合意がない場合の裁判管轄について、民事訴訟法はつぎのように規定しています。

①被告の住所等による管轄
被告が法人である場合、その主たる事務所または営業所が日本にある場合、日本の裁判管轄が認められます。(民事訴訟法3条の2第3項)

②日本で事業を営む外国法人
日本で事業を営む外国法人に対する訴訟においては、当該訴えが「その者の日本における業務に関するものであるとき」は日本の裁判管轄が認められると規定されています。(同3条の3第5号)

③不法行為
不法行為については、「不法行為地が日本国内にあるとき」には、日本の裁判管轄が認められると規定されています(同3条の3第8号)。この「不法行為地が日本国内にあるとき」については、不法行為の行為地または結果発生地が日本国内にある場合を含むとされています。(TMI・前掲571頁(太田知成))


(4)クラウドフレアの事案について
本日、弁護士ドットコムで報道された内容によると、本件訴訟の山岡弁護士は「クラウドフレアの配信設備が国内にあることに着目」して申立てを裁判所に行ったとされており、本件東京地裁もファイルローグ事件同様に、準拠法を日本の著作権と認め、また、(3)の①から③までのいずれかの条文を適用して日本の裁判管轄を認めたものと思われます。

3.海賊版サイトのブロッキングの議論への影響
「漫画村」などの漫画の違法な海賊版サイトは、クラウドフレア社のようなCDNサービスを利用しているものが多いとされています。そして同社などが日本の権利者などからの権利侵害解消のための申し出に応じないことから、カドカワの川上量生氏など海賊版サイトのブロッキングに賛成する論者は、ブロッキングの立法化は不可欠であると主張してきたところです。

■参考
・カドカワ川上量生氏、クラウドフレア社は法的措置では対応できないという見解を示す|Yahoo!(山本一郎)

しかし、本日の東京地裁はクラウドフレアへのキャッシュファイルの削除、発信者情報の開示などを認め、日本の法令と日本の裁判所がインターネット上での著作権などの紛争に有効であることを示しました。これはファイルローグ事件などとともに、海賊版サイトのブロッキングの推進派の主張の前提を覆すものです。

今回の東京地裁の判断は、現在、国の知的財産戦略本部の審議会で議論が行われている、海賊版のブロッキングの立法化の是非の議論に影響するところが大きいと思われます。

■参考文献
・TMI総合法律事務所『IT・インターネットの法律相談』568頁、571頁
・清水陽平・神田知宏・中澤佑一『ケーススタディ ネット権利侵害対応の実務』83頁、44頁

IT・インターネットの法律相談 (最新青林法律相談)

ケース・スタディ ネット権利侵害対応の実務-発信者情報開示請求と削除請求-

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1.「漫画村」が止めにくいとされる理由
漫画の海賊版サイト「漫画村」を出版社が止めることが難しいとされる理由は、主に2つあると思われます。一つは、①「漫画村」自体が著作権違反の漫画の画像を掲載しているのではなく、違法に漫画の画像ファイルを掲載している保存サイトにリンク(ハイパーリンク)を貼っているだけで、いってみればリンク集のようなサイトであること、二つ目は、②「漫画村」サイトが、ウクライナあるいはベトナムなど著作権法のない国のサーバーに設置されていることであると思われます。

2.リンク(ハイパーリンク)の問題
たしかに、リンクに関して、従来の伝統的な考え方は、ウェブサイトに別のサイトのリンク(URL)を貼ることは、リンク先をいわば「参照先」として提示しているにすぎないので、リンクを貼る行為が違法となることはないとする見解が主流でした。リンクは違法であるとする法律も存在しません。

しかし、近年、リンクを貼る行為が場合によっては違法になると判断する裁判例が出されています。

たとえば、掲示板「2ちゃんねる」において、「X(僧侶)のセクハラ」との記事に続き、別のサイトのURL(リンク)が貼られたことについて、Xがプロバイダ責任制限法に基づき発信者情報開示を求めた裁判において、東京高裁は、「本件記事3(=リンク先の記事)はハイパーリンクの設定により、本件各記事に取り込まれている」と判断し、名誉棄損を認定しました。つまり、リンク先が違法である場合、リンクを貼ったリンク元も違法と判断される余地があることになります(東京高裁平成24年4月18日判決・プロバイダ責任制限法実務研究会『最新 プロバイダ責任制限法判例集』125頁)。

また、あるサイトにアップロードされた児童ポルノのURLの一部を英数字からカタカナに換えた文字列を自身のウェブサイトに掲載したことが、児童ポルノ公然陳列罪の正犯に該当するとした判例も出されています(最高裁平成24年7月9日判決)。

このように、近似の裁判例は、リンクを貼る行為について、もしリンク先が違法であった場合、リンク元のサイトもその内容を取り込んで違法性を帯びることがあると考えているように思われます。つまり、「リンクを貼っただけだから合法」とは考えていないのです。

ところで、「漫画村」がリンクにより掲載している海賊版の漫画は、6万2000件以上(2017年8月現在)であるとされています。そして、「漫画村」サイトの訪問者数は、月に1億6000万人を超えている(2018年4月現在)とのことです。

このように、「漫画村」サイトは、漫画の海賊版を保管サイトにアップロードしている者が、6万件以上も複製権侵害(著作権法21条)、翻案権侵害(27条)、公衆送信権侵害(23条)に該当していることは明らかであり、それらの海賊版のアップロードされた保管サイトに対して、「漫画村」サイトは多数の違法が存在する保管サイトであることを知りながら、そのような保管サイトのリンクを複数掲載しているような事案であり、意図的に当該サイトを閲覧する者が違法なコンテンツへ簡単にアクセスできるサイトを構築しており、リンク先の著作権侵害を幇助しているとして、違法性を帯びることになります(TMI総合法律事務所『IT・インターネットの法律相談』15頁)。

そのため、「リンクを貼っているだけだから合法」という「漫画村」の抗弁は意味を持たず、「漫画村」に対して、漫画家・出版社などの著作権者は、差止請求(著作権法112条)および損害賠償請求(民法709条)などを主張できることになります。また、著作権法119条1項(著作権等侵害罪)は、著作権等を侵害した者に対して、「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金」の罰則を規定していますので、著作権者は警察などに対して刑事告訴することができます。

3.「漫画村」サイトが海外のサーバーに設置されているという問題
国外に違法なサイトがあるという今回の事案のような場合は、準拠法がどこの国のものとなるかが問題となりますが、この点は、基本的にベルヌ条約(文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約)および「法の適用に関する通則法」によることになります。

本事案のようにインターネット上の著作権侵害があった場合の準拠法について、学説は考え方が分かれていますが、裁判例にはつぎのようなものがあります。

これは、日本法人がウェブサイト上において、カナダにあるサーバーを介したP2Pファイル交換サービスを提供していたところ著作権侵害が争われた事案ですが、裁判所は、当該サービスに係るサイト、ソフトウェア等が日本語で記述され、当該サービスによるファイルの送受信のほとんどが日本国内で行われていた事実を重視し、サーバーがカナダにあるとしても、当該サービスに関する稼働等は、当該日本法人が決定できるものであるから、サーバーの所在にかかわらず、著作権侵害行為は実質的に日本国内で行われたものといえるとして、被侵害利益も日本の著作権法に基づくものであるとして、差止請求と日本の民法による損害賠償(709条)を認めた裁判です(ファイルローグ事件・東京高裁平成17年3月31日判決、TMI総合法律事務所『IT・インターネットの法律相談』569頁)。

(なお、福井弁護士の記事などにある、ウクライナなどの東ヨーロッパ諸国の多くや、ベトナムなどのアジア諸国の多くは、文科省文化審議会著作権分科会の資料によると、2007年現在、ベルヌ条約に加盟しています。)

・ベルヌ条約加盟国 保護期間一覧|文科省

4.まとめ
今回の「漫画村」の事案も、6万件の漫画の海賊版のほとんどは日本のもののようであり、かつ、漫画村を閲覧しているユーザーもほとんどが日本国民であるようなので、出版社・漫画業界などの著作権者は、ファイルローグ事件に照らし、日本の著作権法および民法に基づき、「漫画村」に対して差止請求および損害賠償請求の訴訟を提起するとともに、日本の警察などに刑事告訴すべきと思われます。

このように、出版社・漫画家には、「漫画村」に対して差止をはじめとする複数の法的措置を取る手段があり、それが成功する見込みもあるのですから、いきなり政府に法令に基づかないブロッキングをISPに要請するというおかしな行動にでるのではなく、まずは差止および損害賠償を求める裁判を提起し、著作権等侵害罪について刑事告訴を行うべきです。

■関連するブログ記事
・漫画の海賊版サイトのブロッキングに関する福井弁護士の論考を読んで

■参考文献
・中山信弘『著作権法 第2版』597頁、627頁
・TMI総合法律事務所『IT・インターネットの法律相談』15頁、569頁
・プロバイダ責任制限法実務研究会『最新 プロバイダ責任制限法判例集』125頁

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1.はじめに
「漫画村」などの漫画の海賊版サイトにより、わが国の出版社・漫画家などが財産上の大きな被害を受けていることを受けて、政府が、「悪質な海賊版サイトに対して、『一時的な緊急措置』として、ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)へ海外の海賊版サイトへの日本ユーザーからのアクセスをISPが遮断(ブロッキング)することを『要請』を検討している」と本年4月初めに新聞報道が行われました。

・漫画やアニメの海賊版サイト 政府、遮断要請へ|日経新聞

このような政府が海賊版サイトのブロッキングの「要請」をISPに行い、それを受けたそれぞれのISPが「任意」に海賊版サイトのブロッキングを実施するというスキームに対しては、ネット上では、憲法や電子通信事業法の定める「通信の秘密」や「表現の自由」規制を国会での立法審議なしに、政府の行政指導により行うもので、濫用のおそれが強く、「通信の秘密」・「表現の自由」が政府の恣意的判断により安易に侵害されるおそれがあると、批判的な意見が多く出されています。

・海賊版サイト「ブロッキング要請は法的に無理筋」東大・宍戸教授、立法を議論すべきと批判|弁護士ドットコム
・著作権侵害サイトのブロッキング要請に関する緊急提言の発表|一般財団法人 情報法制研究所

2.政府の要請に基づく海賊版サイトブロッキングの緊急措置に賛成の福井弁護士の論考
このようななか、4月10日には、政府の要請に基づく海賊版サイトの緊急措置としてのブロッキングに賛成とする趣旨の骨董通り法律事務所の福井健策弁護士の論考が、ITmediaNEWSに掲載され、注目を集めています。

・漫画の海賊版サイト、問題の深刻さとブロッキングの是非  福井弁護士の考え|ITmediaNEWS

福井弁護士の見解はごく大雑把に要約すると、①最も悪質な漫画専門サイトは、訪問者が月に1億6000万人を超えるなど、漫画業界の被害は重大であり、緊急性が高いこと、②そもそも「通信の秘密」とは電子メールが漏洩した場合など、第三者の存在を予定するもので、ユーザーからの海賊版サイトをみたいとアクセスしようとした際に、IPSのシステムが機械的にそれを拒否(ブロッキング)することは、第三者が登場しないで完結するので「通信の秘密」の侵害に該当しない、③「通信の秘密」の侵害であったか否かは緊急避難に該当するか否かであり、その要件の一つの「法益の均衡」については、一般の考えと異なり、「海賊版サイトを発表したいという運営者の表現の自由」と「海賊版サイトをみたいという国民の知る権利」の均衡と考えるべきであるが、どちらも法的価値が低いので問題とならず、緊急避難は成立する、④国家権力による濫用のおそれがあるので、立法を行うべきだが、法律ができるまでは政府の「要請」によりISPが任意でブロッキングを行うべきである、というものです。

福井弁護士の主張の①には賛成できますが、②③④には全く賛成できません。これは法的にあまりに無理筋な議論です。

3.ネット上の児童ポルノのブロッキングについて
ブロッキングを行う場合、ISPは、あらかじめ遮断対象となるサイト等のURLをリスト化し、ユーザーが閲覧しようとするサイトやデータ等のURL等を検知し、当該リストと照合し、該当した場合にはその通信を遮断するものなので、通信の秘密を侵害するのではないかとの問題があります。

通信の秘密については憲法21条2項に「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」との規定があり、また、電気通信事業法4条1項にも「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない」と規定があり、ISP等が同4条に違反した場合、3年以下の懲役又は200万円以下の罰金の罰則が科されることになります(同179条2項)。

ここで、「通信の秘密の範囲」が問題となりますが、電話等の通話内容、メールや手紙の本文などの「通信の内容」がこれに含まれるのは当然です。また、通信の送信者・受信者、宛先の住所・電話番号・メールアドレス・URL等、通信の個数や年月日などの「通信の外形的事項」も通信の秘密の範囲に含まれるとされています。なぜなら、通信の外形的事項により、通信の内容が推知され、本人のプライバシーの侵害が発生するおそれがあるからです。

つぎに、「通信の秘密の侵害」とはどのような事柄かというと、知得(通信当事者以外の第三者が知ろうとすること)・窃用(本人の意思に反して用いること)・漏えい(他人が知りうる状態におくこと)、の3類型があります(曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説』51頁)。

そして、ユーザーがアクセスしようとする通信先のURL等は、通信の秘密の保護対象であり、また、ISPがブロッキングの目的で、ユーザーのアクセス先を探知し、これを利用する行為は、「知得」かつ「窃用」に該当するので、ブロッキングは通信の秘密を侵害することになります(田島正広『インターネット新時代の法律相談Q&A』344頁)。

この点、ISPの情報システムが自動的にサイトの遮断を行っているのだから通信の秘密の侵害はそもそも発生していないとする福井弁護士の主張は正しくありません。

実際にユーザーからのアクセスを遮断しているのはISPの情報システムであったりプログラムであったりしたとしても、あらかじめ遮断対象となるサイト等のURLをリスト化し、ユーザーが閲覧しようとするサイトやデータ等のURL等を検知し、当該リストと照合し、該当した場合にはその通信を遮断するように情報システム・プログラムを設定・運営するのは個々のISPとその従業員である技術者達であるからです。機械が勝手にやるわけではないのです。

とはいえ、通信の秘密も常に保護されるというわけにもいかず(「公共の福祉」・憲法12条、13条等)、法律がその例外規定をいくつか作っています。たとえば、刑事手続に基づいて郵便物が押収される場合(刑事訴訟法100条等)、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報が開示される場合、通信傍受法などです。

そして、海賊版サイトのブロッキングについて、リーディングケースとされているのが、ネット上の児童ポルノに対するブロッキングです。

このネット上の児童ポルノに対するブロッキングは、ネット上も対象とするために児童ポルノ法が平成16年に改正されて立法的な手当てがなされています。

その上で、警視庁や総務省における諮問委員会の検討を踏まえ、「安心ネットづくり促進協議会」(以下「安心協議会」とする)が作られ、法的問題の検討や、ISPのための基準やガイドラインなどが制定されています。

安心協議会は、2010年に、「法的問題検討サブワーキング 報告書」をサイトで公表しています。

・「法的問題検討サブワーキング 報告書」(PDF)|安心ネットづくり促進協議会

この報告書は、NTT脅迫電報事件(大阪地裁平成16年7月7日判決)などを検討し、ネット上の児童ポルノをISPがブロッキングすると通信の秘密の侵害に該当するとした上で、刑法上の緊急避難(刑法37条)の考え方により、ISPが違法性を阻却され罰則を科されないスキームを検討しています。

そして、緊急避難が成立するためには、①現在の危難の存在、②補充性(他に取りうる手段がないこと)、③法益均衡(避難行為によって生じた害が避けようとした害の程度を超えないこと)の3点をクリアする必要があります。

児童ポルノに関しては、安心協議会の上の報告書は、サーバーにアップロードされた段階で、「児童ポルノがウェブ上において流通し得る状態に置かれた段階で、当該児童の心身とその健全な成長への重大な影響が生ずるとともに、本来性欲の対象とされるべきでない段階で自己の意思に反して性欲の対象にされた性的虐待画像が公開されることにより特に保護を要する人格的利益に対する侵害が生じている」点を重視し、現在の危難の存在、法益均衡などの要件は満たされ、緊急避難は可能としています。

そして、緊急避難における法益均衡について、当該児童の被る重大で回復困難な人格権的利益の侵害と、通信の秘密との比較考量を行い、緊急避難もやむを得ないとしています。一方、福井弁護士は、上の論考において、法益均衡において、「「海賊版サイトを発表したいという運営者の表現の自由」と「海賊版サイトをみたいという国民の知る権利」の均衡」としているのは、非常にずれた主張であり、理解に苦しみます。

4.ネット上の児童ポルノのブロッキングの考え方は著作権侵害などにも応用できるか?
ところで、この安心協議会の報告書20頁以下は、ネット上の児童ポルノと、今回問題となっている海賊版サイトによる著作権侵害等に関して興味深い検討を行っています。

【児童ポルノ以外の違法情報についても妥当し得るか】
インターネット上には、児童ポルノのほか、成人のわいせつ画像、著作権侵害情報、誹謗中傷やプライバシー侵害等様々な違法情報が存在する。これら児童ポルノ以外の違法情報についても同様に緊急避難としてブロッキングすることができるかどうかが問題となる。

前記のとおり、児童ポルノについては、ウェブ上において流通し得る状態に置かれた段階で児童の権利等に対する重大かつ深刻な法益侵害の蓋然性があると言えることから、この段階で危難の存在を肯定できるものと解されるが、これはあくまでもウェブ上で児童ポルノが流通することの重大性や深刻性に鑑みてのことであって、直ちに他の違法有害情報一般に妥当するものではなく、安易に応用が許されるものではないと考えるべきである。
(略)
著作権侵害との関係では、著作権という財産に対する現在の危難が認められる可能性はあるものの、児童ポルノと同様に当該サイトを閲覧され得る状態に置かれることによって直ちに重大かつ深刻な人格権侵害の蓋然性を生じるとは言い難いこと、補充性との関係でも、基本的に削除(差止め請求)検挙の可能性があり、削除までの間に生じる損害も損害賠償によって填補可能であること、法益権衡の要件との関係でも財産権であり被害回復の可能性のある著作権を一度インターネット上で流通すれば被害回復が不可能となる児童の権利等と同様に考えることはできないことなどから、本構成を応用することは不可能である。

ブロッキングは、適切な内容を含む通信全般を監視し、不適当な内容の通信を遮断するというものであり、事実上の私的検閲行為であり、その実施対象については、児童ポルノに限定し、他に拡大することがあってはならないと考える。
(安心ネットづくり促進協議会 「法的問題検討サブワーキング 報告書」20頁より)

このように、安心協議会の報告書は、児童ポルノの被害が人格権上の重大な侵害であるのに対して、著作権侵害の被害は多大な被害がでたとしてもそれは財産権上のものであり、被害のレベルが下がるので緊急性の要件を満たさないこと、そして財産上の損害である以上は金銭で填補できる問題なので補充性の要件も満たさないこと、最後に、財産権であり被害回復の可能性のある著作権を一度インターネット上で流通すれば被害回復が不可能となる児童の権利等と同様に考えることはできないとして、法益権衡の要件も満たさないとして、著作権侵害の事案に対しては緊急避難は成立せず、児童ポルトへのブロッキングの考え方を著作権侵害の事案に応用することはできないと結論づけています。

また、この報告書が述べるとおり、ISPによるブロッキングは、事実上の私的検閲行為です。ですから、ISPやそれに指示を出す国の恣意的な運用により、わが国の国民の通信の秘密や表現の自由などが侵害されないよう、慎重な検討と対応を行う必要があります。

とくに表現の自由は、民主政の土台をなすものです。もし今回の漫画の海賊版サイトのブロッキングを立法によらない政府の「要請」(行政指導)で実施することが許されてしまったら、最悪、名誉棄損やプライバシー侵害などを名目として、政府からの恣意的な「要請」により、例えば原発問題、安保法制問題などについて、政府与党を批判するウェブサイトやブログ、SNSにおける投稿などが安易に恣意的なブロッキングが許されてしまう危険があります。それは治安維持法等で日本社会を厳しく言論統制した戦前の日本の政府・軍部と同じやり口です。

そのため、上であげた記事で宍戸教授が述べておられるとおり、児童ポルノや通信傍受などのように、まずは国会で議論を行い、それに基づいて海賊版サイトのブロッキングの立法が本当に必要であれば、立法を行うべきでしょう。

また、出版社や漫画家の方々は、まずは政府に妙なロビー活動をする前に、海賊版サイトに対して差止や損害賠償請求などを求める訴訟を提起し、警察などへの刑事告訴を行うべきです。音楽教室が著作権の問題に関してJASRACに対して大規模な集団訴訟を行っているのに、出版業界・漫画業界が「漫画村」などに対して同様の訴訟活動・法的措置をしているというニュースがまったくないのはおかしな話です。

たしかに海賊版サイトのサーバーが海外にあるような事案の訴訟は、準拠法や裁判管轄などの面で悩ましいものがありますが、日本国内の被害者側を勝訴とした裁判例も出されています(ファイルローグ事件・東京高裁平成17年3月31日判決など、TMI総合法律事務所『IT・インターネットの法律相談』569頁)。

出版社の役職員の方々や漫画家の方々は、相当な知識人がそろっているはずなのに、ご自身を含む国民の通信の秘密や表現の自由、民主主義などをとても軽くみているのは不思議なことに思えます。

■関連するブログ記事
・出版社等は海賊版サイト「漫画村」に対して法的措置を講じることはできないのか?
・JASRACと音楽教室との著作権使用料訴訟-「公衆」への演奏にあたるか?

■参考文献
・曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説』51頁、239頁
・田島正広『インターネット新時代の法律相談Q&A 第2版』344頁
・TMI総合法律事務所『IT・インターネットの法律相談』569頁
・中山信弘『著作権法 第2版』616頁
・宇賀克也・長谷部恭男『情報法』67頁
・芦部信喜『憲法 第6版』175頁

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