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タグ:火災保険

爆発事故現場
(毎日新聞2018年12月17日付より)

新聞報道などによると、昨日(12月16日)夜に札幌市豊平区3条8丁目の複数の店舗の入った2階建ての建物で大規模な爆発・炎上が発生し、40人を超える方々がケガを負ったとのことです。

ところで、その事故原因は、

「不動産仲介会社の従業員2人は16日、店内の片付けをしていて、室内で100本以上の除菌消臭スプレーを放出した後、手を洗おうとして湯沸かし器をつけた際に爆発した」(朝日新聞2018年12月17日付)

ということで、驚きというか呆れてしまいます。
・100本以上スプレー放出、湯沸かし器つけ爆発か 札幌|朝日新聞

ネットのニュースなどをみていると、どうもこの不動産仲介業者は業界大手のアパ〇ンショップの豊平支店だそうですが、ア〇マンショップは従業員に対して一体どういう社内教育をやっているのでしょうか?

・アパマンショップ親会社の株価急落 従業員の「スプレー缶穴開け」が札幌爆発事故の原因か|ITmedia

今回、被害にあった居酒屋店や整骨店は、おそらく火災保険の一種である店舗総合保険に加入しているものと思われます。火災保険は火災だけでなく、「破裂・爆発」による損害も保障の対象としているので、建物の被害にあった居酒屋店や整骨院はその損害賠償を損害保険会社に請求することができます。あるいは、居酒屋店や整骨院は直接、アパ〇ンショップに対して損害賠償請求を行うことができます(民法709条、715条)。

また、今回の事故でケガを負った40名以上の方々は、生損保の身体に関する保険(傷害保険・医療保険など)に加入していれば、今回の事故は不慮の事故を原因とするものとして、入院や手術をした場合、給付金の支払い対象となるでしょう。同様に、被害にあった方々は直接、アパ〇ンショップに対して損害賠償請求を行うことができます。

こういったアパ〇ンショップに対する損害賠償の合計金額は、場合によっては何十億円単位くらいのレベルになるのではないでしょうか。レピュテーション上の損害はその何十倍、何百倍もあるでしょう。

一方、アパ〇ンショップ豊平支店の従業員2名は、店舗のなかで100本を超える消臭スプレーを放出し、湯沸かし器を点火したところ引火して爆発したとのことで、これは火災保険の保険約款の免責条項のなかの「保険契約者の重過失」に該当するものと思われます。アパ〇ンショップ豊平支店も火災保険に加入しているものと思われますが、約款の免責条項により損害保険金は支払われないでしょう。

同様に、爆発事故を起こした従業員2名も、「被保険者の重過失」の約款の免責条項により、傷害保険や医療保険の給付金は支払われないものと思われます。

同時に、このような常軌を逸した大失態の爆発事故を起こした2名の従業員と支店長のクビも雇用契約的に吹っ飛ぶのではないでしょうか。爆発・炎上事故だけに。アパ〇ンショップの運営会社の株価は本日、この事故を受けて急落したようですし。

なお、事件から約1日たった17日夜になっても、アパ〇ンショップ本社が記者会見やプレスリリースの発表などを行わないことは、コンプライアンスや会社の危機管理の観点からいかがなものかと思われます。

■追記
アパマンショップの運営会社APAMANは、18日に謝罪の記者会見をするとともにプレスリリースを発表しました。

・札幌市豊平区の爆発事故に関するお詫びとお知らせ|APAMAN

損害保険の法務と実務(第2版)

実例解説 企業不祥事対応: これだけは知っておきたい法律実務

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1.はじめに
判例雑誌を読んでいたところ、火災保険契約の保険金の不払いについて、保険契約者・被保険者ではなく、建物の所有権者が当該火災保険契約の真の被保険者は自分であるとして、その論証として、火災保険の被保険者を「保険の対象の所有者で保険証券に記載されたもの」とする保険会社の約款条項は保険法2条4号に反し無効であると主張しているややめずらしい裁判例がありました(神戸地裁平成29年9月8日判決・『判例時報』2365号84頁)。

2.神戸地裁平成29年9月8日判決(棄却・確定)
(1)事案の概要
原告X1は、住宅建物など2棟(以下「本件建物」とする)の所有者であった。本件建物には、X1の姪であるX2と、X1の妹夫婦が同居していた。

平成27年5月27日、X2は損害保険会社Y(東京海上日動)との間で、保険期間を3年、保険契約者兼被保険者をX2、保険の対象を本件建物とする火災保険契約(「住まいの保険」)を締結した(以下「本件保険契約」という)。保険金額は建物2400万円、家財300万円であった。

本件保険契約の約款にはつぎのような条項があった。

第4条(被保険者)
 この住まいの保険普通保険約款において、被保険者とは、保険の対象の所有者で保険証券に記載されたものをいいます。

第5条(保険金をお支払いしない場合)
 当会社は、下表(抄)のいずれかに該当する事由によって生じた損害に対しては、保険金を支払いません。
①次のいずれかに該当する者の故意もしくは重大な過失または法令違反
 ア 保険契約者
 イ 被保険者
 ウ (略)
 エ アまたはイの同居の親族

平成27年12月26日午後11時すぎに、本件建物で火災が発生し本件建物および内部の家財はすべて焼損した。X1・X2らの保険金請求に対してYは免責条項(同居親族の重過失)を理由として保険金の支払いを拒んだため、X1らがYを名宛人として本件訴訟を提起した。

本件訴訟においては、①X1は被保険者に該当するか、②本件では同居親族の重過失による免責条項が適用されるか、の2点が争点となった。(②については本ブログ記事では省略。)

X1は、争点①に関して、“保険法2条4号イによれば、損害保険契約によっててん補することとされる損害を受ける者以外の者は、当該契約の被保険者になることはできない。しかるところ、X1は本件建物の所有者であり、その損害のてん補を受けるべき地位にあった以上、本件保険契約の被保険者に当たることは明らかである。そうするとX1以外の者を被保険者とする本件約款4条および本件保険証券は無効というべきである。”等と主張した。

(2)判旨
X1の主張について
(略)しかし、損害保険契約の被保険者が誰であるかということは、契約の内容がその当事者の自由な意思に委ねられるという一般原則に基づき、当該損害保険契約の当事者、すなわち、保険者(保険会社)と保険契約者の合意により定まることは明らかである。このことは、保険法上も、損害保険契約を締結したときは、保険者は、保険契約者に対し、「被保険者の氏名又は名称その他の被保険者を特定するために必要な事項」を記載した書面を交付しなければならないとしていること(6条1項3号参照)から明らかである。

 この点、保険法2条4号イは、損害保険契約の被保険者とは、損害保険契約によりてん補することとされる損害を受ける者をいうと定めているから、当該損害保険契約の当事者が上記の者以外の者を被保険者と定めた場合には、当該損害保険契約は無効になると解される。この点、同号イは、(損害保険契約の性質に照らし)、契約の内容はその当事者が自由に定めることができるという一般原則を修正する趣旨のものであると解される。

 そうすると、損害保険契約の当事者が、保険法2条4号イ所定の要件を満たさない者を被保険者と定めた場合には、たとえ客観的には同要件を満たす者が他に存在するとしても、その者は、当該損害保険契約の当事者から被保険者と定められていない以上、同号イの定めから直ちに、当該損害保険契約の被保険者に当たるとはいえないといわざるを得ない。

 したがって、本件約款が、本件保険契約の被保険者の要件として、「保険の対象の所有者」に加えて「保険証券に記載されたもの」と定めていることは、以上の説示に沿ったものであるから、保険法に反する無効なものであるということはできない。』

このように本判決は争点①について判示し、争点②についてもX1らの親族による重大な過失を認定し、結論としてX1・X2の主張を退けました。

3.検討・解説
損害保険契約とは、保険者が一定の偶然の事故(保険事故)によって生ずることのある損害をてん補することを約する保険契約をいいます(保険法2条6号)。そして、損害保険契約における被保険者について、保険法2条4号イはつぎのように定義しています。

保険法
第2条
  被保険者 次のイからハまでに掲げる保険契約の区分に応じ、当該イからハまでに定める者をいう。
   損害保険契約 損害保険契約によりてん補することとされる損害を受ける者
  (略)

つまり、保険法上、損害保険の被保険者とは「損害保険契約によりてん補することとされる損害を受ける者」となっています。すなわち、損害保険契約においては、生命保険契約等と異なり、被保険者は保険金請求権者でもあることになります(萩本修『一問一答保険法』33頁)。

これは、損害保険契約においては、利得禁止原則(被保険者は保険により不当な利得を得てはならないとする原則)が妥当し、この原則を貫徹するために、保険事故の発生について経済的な利害関係の存在(被保険利益)が必要とされ、その帰属主体を被保険者とし、また、同じく利得禁止原則および被保険利益の考え方より、被保険利益の帰属主体としての被保険者は保険金請求権の帰属主体となるからであるとされています(山下友信『保険法(上)』89頁)。

そして、平成20年の保険法成立前の旧商法において、保険の対象が保険契約者兼被保険者の所有する不動産であることを前提に損害保険が締結されたところ、実際には当該被保険者の所有物でなかった事例において、判例は当該損害保険契約は無効と解していました(最高裁昭和36年3月16日判決・高田桂一『損害保険判例百選 第2版』12頁)。

4.まとめ
今回の本神戸地裁判決は、この昭和36年の最高裁判決が、保険法施行後も判例として有効であることを裁判所が確認した点に意義があるものと思われます。

また、損害保険契約の被保険者が保険法2条4号イに照らして真の被保険者ではなく当該損害保険契約が無効となる際に、保険法2条4号イが実質上の被保険者にみえる者を当該保険契約の真の被保険者とする作用は持っていないと本神戸地裁判決が判示している点も注目されます。

なお、本神戸地裁判決が、本件火災保険の保険約款4条が被保険者を「保険証券に記載のある者」と定義していること自体を違法としていないことは、民事における契約自由の原則と、それに修正を加える保険法とのあり方を考えると妥当であると思われます。

■参考文献
・『判例時報』2365号84頁
・山下友信『保険法(上)』89頁
・萩本修『一問一答保険法』33頁
・高田桂一『損害保険判例百選 第2版』12頁

保険法(上)

一問一答 保険法 (一問一答シリーズ)

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