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個人情報保護委員会の「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会報告書(案)」に関するパブコメ(2023年1月12日~2月12日)に、つぎのような意見を書いて提出しました。

1.「2 本報告書の対象範囲について」について
(該当箇所)
2頁8行目
(意見)
「2 本報告書の対象範囲について」に、本報告書30頁に記載のある「ドローンやロボット」、トヨタなどのコネクテッドカー・「つながる自動車」の車載カメラ、職場やリモートワークの業務用PCのカメラなども対象として含まれることを明記すべきではないか。
(理由)
記載が抜けているため。


2.「(2)顔識別機能付きカメラシステムを利用することの懸念点」について
(該当箇所)
11頁15行目
(意見)
「(2)顔識別機能付きカメラシステムを利用することの懸念点」の部分に、顔識別機能付きカメラシステムによる誤登録や、いわゆる「防犯カメラの万引き犯の冤罪被害者」の問題を明記すべきではないか。
(理由)
顔識別機能付きカメラシステムに関する一番の問題点・課題であると思われるから。


3.「エ 撮影の態様」について
(該当箇所)
17頁・12行目
(意見)
「エ 撮影の態様」の部分に、⑦⑭の裁判例などに関連し、「防犯カメラが追跡的か、被撮影者のプライバシー侵害が強度か」などの「手段・方法の相当性」の観点も明記すべきではないか。
(理由)
⑭、⑦などの裁判例は、違法性の判断において、防犯カメラによる被撮影者のプライバシー侵害が強度か否かなどにより防犯カメラの手段・方法の相当性を検討しているため。また、GPS捜査事件判決(最高裁平成29年3月15日判決)も「継続的・網羅的」な情報収集はプライバシー侵害となり個別の立法が必要である旨判示しており、手段・方法の相当性の検討も、顔識別機能付き防犯カメラシステムを検討する上で重要であるため。


4.住基ネット訴訟の最高裁判決の「判旨」について
(該当箇所)
28頁・3行目
(意見)
住基ネット訴訟の最高裁判決の「判旨」に、「裁判所は、①システムの技術上の安全性、②十分な法的手当の存在などの構造審査により住基ネット制度を適法とした」等の記述を置くべきではないか。
(理由)
情報システム上の十分な安全性および十分な法的手当が施されていない情報システムを、裁判所は違法と判断することを本判決は示しており、このことは顔識別機能付き防犯カメラシステムを検討する上で重要であるから。


5.「顔画像とそれに関する情報の例①」および「顔画像とそれに関する情報の例②」の図について
(該当箇所)
31頁・1行目と9行目
「顔画像とそれに関する情報の例①」および「顔画像とそれに関する情報の例②」の図
(意見)
図に顔特徴データを加えるべきではないか。
(理由)
重要なのは顔画像でなく顔特徴データなので。


6.個人情報保護法第4章の個人情報取扱事業者の顔データの取扱いの各義務と法16条4項や個人情報保護法施行令5条について
(該当箇所)
32頁7行目以下
(意見)
個人情報保護法第4章の個人情報取扱事業者の顔データの取扱いの各義務が検討されているが、そのような法の運用をするためには、個人情報保護法16条4項や個人情報保護法施行令5条の改正が必要なのではないか。
(理由)
個人情報保護法第4章の個人情報取扱事業者の顔データの取扱い等が検討されているが、しかし顔識別機能付き防犯カメラによる顔データは、個人情報保護法施行令5条のいずれかの号に該当し、当該顔データは保有個人データではないということになり(個人情報保護法16条4項)、結局、顔識別機能付き防犯カメラを運用する個人情報取扱事業者は個人情報保護法を守る必要がないということになってしまうが、そのような結論はいわゆる「防犯カメラの万引き犯の冤罪被害者」の被害との関係で妥当とは思えない。そのため個人情報保護法16条4項や施行令5条の法改正などの法的手当が必要なのではないか。


7.本報告書はテロ防止、万引防止というひとまとまりの目的のための顔識別機能付き防犯カメラの遵守すべき事柄を検討していることについて
(該当箇所)
33頁15行目
(意見)
本報告書はテロ防止、万引防止のための顔識別機能付き防犯カメラの遵守すべき事柄を検討しているが、「テロ防止のためには~」「万引き防止のためには~」と場合分けをして個人情報取扱事業者が遵守すべき事項を検討すべきではないか。
(理由)
テロ対策や鉄道等の重大事故対策等に関しては、もしテロ等が発生してしまうと発生してしまう被害は重大なので、反対利益となる個人のプライバシー権などの権利利益はある程度侵害されてもやむを得ないという判断になりやすいと思われるが、その一方、万引き犯等は反対利益となる個人の権利利益が侵害されてもやむを得ないという幅はテロ対策などに比べれば小さいと思われ、テロ対策や鉄道の重大事故などと万引き対策を一まとまりにして検討するのは適切ではないのではないのだろうか。そのため、「テロ対策のためには~」「万引き対策のためには~」と場合分けして対応を検討する必要があるのではないか。


8.いわゆる「防犯カメラの万引き犯の冤罪被害者」の人からの苦情や開示請求・削除等の請求に個人情報取扱事業者が誠実に対応しないことと個人情報保護法19条、23条について
(該当箇所)
37頁8行目
(意見)
誤登録された人、いわゆる「防犯カメラの万引き犯の冤罪被害者」の人からの苦情や開示請求・削除等の請求に個人情報取扱事業者が誠実に対応しないことも個人情報保護法19条違反または法23条違反となることを明記すべきではないか。
(理由)
誤登録された人、いわゆる「防犯カメラの万引き犯の冤罪被害者」の人からの苦情や開示請求・削除等の請求に個人情報取扱事業者が誠実に対応しないことも「違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法」による個人情報の利用または安全管理措置違反であるといえるから。


9.脚注の「なお、顔識別機能付きカメラシステムにより個人情報を取り扱う場合は、取得の状況からみて利用目的が明らかであるとは認められない(法21条4項4号)。」について
(該当箇所)
38頁注56
(意見)
「なお、顔識別機能付きカメラシステムにより個人情報を取り扱う場合は、取得の状況からみて利用目的が明らかであるとは認められない(法21条4項4号)。」という一文は非常に重要であるため、脚注ではなく本文に明記すべきではないか。
(理由)
顔識別機能付きカメラシステムの運用を考える上で非常に重要な法的な事項であるから。


10.データの保存期間について
(該当箇所)
42頁8行目以下
(意見)
保存期間について個人情報保護委員会が具体的な目安を示すべきではないか。例えば「万引き対策のためのデータの保存期間は最長で1か月」など。
(理由)
保存期間について個人情報保護委員会などから具体的な保存期間の例示がないため、個人情報取扱事業者の実務上、その設定に困ることがあるため。なお、たとえば自治体の防犯カメラ条例のデータの保存期間をみると、静岡県は1か月、千葉県市川市は7日間、東京都三鷹市も7日間などとなっている。


11.データの共同利用について
(該当箇所)
47頁17行以下
(意見)
顔識別機能付きカメラシステムによる顔データの共同利用については、全国レベルや複数の県をまたがる等の広域利用を行う場合には、事前に個人情報保護委員会に相談を求めることを明記すべきではないか。そのために必要であれば個人情報保護法の法改正等を行うべきでないか。
(理由)
第6回目の「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会」の議事録5頁に、「そういった観点から、一つ地域というのがメルクマールになると理解している。広域利用に関しては相当の必要性がなければできないとしつつ、個人情報保護委員会に相談があったような場合に対応していくのが1つの落としどころかと感じた。」との議論がなされているから。
また、宇賀克也『新・個人情報保護法の逐条解説』275頁、園部逸夫・藤原静雄『個人情報保護法の解説 第二次改訂版』187頁などにおいても、共同利用が許される外延・限界は「一つの業界内」、「一つの地域内」などと解説されており、全国レベルの共同利用や県をまたぐ広域利用、業界をまたぐ共同利用などは法が予定していないと思われるから。
さらに、共同利用についても、例えばテロ対策なのか、万引き対策なのか等で許容される共同利用の範囲は異なってくるのではないか。場合分けをした検討が必要なのではないか。


12.「⑦東京地判平成27年11月5日判タ1425号318頁」の【事案の概要】について
(該当箇所)
24頁9行目以下
(意見)
「⑦東京地判平成27年11月5日判タ1425号318頁」の【事案の概要】について「建物1階にカメラを設置」とあるが、これは「Yは共有建物の共有部分の屋根の支柱などにカメラ4台を設置したところ、裁判所はそのうちのカメラ1台の撤去と損害賠償を認めた」等が正当ではないか。
(理由)
判例タイムズ1425号318頁に掲載された判決文によると、「建物1階にカメラを設置」との記載はないので。


13.「防犯カメラの万引き犯冤罪被害者」の人々については施行令5条から除外する方向で、施行令5条や個人情報保護法16条4項の法改正等を行うべきである
(該当箇所)
48頁18行目
(意見)
個人の権利利益の救済のために、誤登録された人や「防犯カメラの万引き犯冤罪被害者」の人々については施行令5条から除外する方向で、施行令5条や個人情報保護法16条4項の法改正等を行うべきである。
また、誤登録された人や「防犯カメラの万引き犯冤罪被害者」の人々が事業者に苦情申し出や開示等請求をした場合に事業者側が誠実に対応しなかった場合には、誤登録された人や「防犯カメラの万引き犯冤罪被害者」の人々が個人情報保護委員会に申し出を行い、個人情報保護委員会が当該事業者に助言・指導を行うなどの対応を個人情報保護委員会に法的に義務付ける方向で個人情報保護法を法改正すべきである。
(理由)
個人情報保護法施行令5条各号のいずれかに該当すると保有個人データでないことになり(個人情報保護法16条4項)、個人情報取扱事業者は本人からの開示・訂正等の請求や苦情への対応に応じなくてよくなってしまう。
この点、誤登録された人や「防犯カメラの万引き犯冤罪被害者」の人々はスーパーや警備会社などの事業者に苦情申し出や開示訂正等の請求を行っても、事業者から「当社にはそのようなデータベースはない」「当社は顔識別技術つき防犯カメラを導入していない」等と拒絶されてしまっている。個人情報保護法33条以下には開示・訂正等請求の手続き規定があるにもかかわらず、施行令5条が悪質な事業者の免罪符になってしまっている。そのような「防犯カメラの万引き犯冤罪被害者」はまともな日常生活・社会生活が送れなくなってしまい、権利利益や人格権の侵害は重大である(個人情報保護法1条、3条、憲法13条)。
そのため、個人の権利利益の救済のために、誤登録された人や「防犯カメラの万引き犯冤罪被害者」の人々については施行令5条から除外する方向で、施行令5条や個人情報保護法16条4項の法改正を行うべきである。
あわせて、誤登録された人や「防犯カメラの万引き犯冤罪被害者」の人々が事業者に苦情申し出や開示等請求をしたにもかかわらず事業者側が誠実に対応しなかった場合には、誤登録された人や「防犯カメラの万引き犯冤罪被害者」の人々が個人情報保護委員会に申し出を行い、個人情報保護委員会が当該事業者に助言・指導・報告徴求・立入検査・命令を行うなどの対応を個人情報保護委員会に法的に義務付ける方向で個人情報保護法を法改正すべきである。


14.民間事業者・業界団体および行政機関に防犯カメラに関する指針やガイドライン等を遵守させるための枠組み立法を国会で制定すべきである
(該当箇所)
全般
(意見)
民間事業者・業界団体および行政機関に防犯カメラに関する指針やガイドライン等を遵守させるための枠組み立法を国会で制定すべきである。
(理由)
防犯カメラに関する個人情報保護委員会のガイドライン等や、民間事業者や業界団体などによる自主的なガイドラインが策定されたとしても、それが遵守されなくては国民個人の権利利益が侵害される。この点、2021年夏の朝日新聞社主催の個人情報保護法に係る市民講座において、本有識者検討会の構成員の山本龍彦教授は「民間事業者および行政機関に防犯カメラに関する指針やガイドライン等を遵守させるために枠組み立法を設けるべきである」とのご見解であったため。
また、海外をみてもEUではGDPR22条に「プロファイリング拒否権」を規定する条項が置かれ、警察などによる公道などにおける防犯カメラの利用を禁止するAI規制法案も公開されている。海外の動向に照らして日本でも、防犯カメラに関する立法が必要なのではないか。
さらに、現在、個人情報保護委員会の個人情報保護法ガイドラインと経産省・総務省の商用カメラ利用ガイドラインは分離しているが、重なり合う部分も多いため統一化すべきである。


15.今後の方針やスケジュールについて
(該当箇所)
全般
(意見)
個人情報保護委員会は本報告書のパブリックコメント後、顔識別機能付きカメラシステムについて何らかのガイドライン等を策定するのか、あるいは何らかの立法を行うのか等、今後の方針やスケジュールを具体的に公表すべきである。また、ウェブサイト等をみても個人情報保護委員会は議事録や資料が非公開とされていることが多いが、個人情報保護委員会は国民のための公共の行政機関なのであるから、原則公開とすべきである。
(理由)
本報告書に係る議事録などを読んでも、今後の方針やスケジュール等が全く公表されていないので。個人情報保護委員会は国民の税金で運営される公的な行政機関なのであるから、内輪で物事を決めるのではなく、もう少し情報公開に努めるべきである。同様の理由で議事録や会議資料などの情報公開に努めるべきである。


16.「顔画像とそれに関する情報の例②」のデータベースBについて
(該当箇所)
31頁1行目
(意見)
「顔画像とそれに関する情報の例②」のデータベースBは、「含まれる発生日時や状況、特徴単体だけでは特定の個人を識別することはできない」とあるが、「特定の個人を識別することはできる」のではないか。
(理由)
「顔画像とそれに関する情報の例②」の事例でも、データベースBに含まれる、発生日時や状況、特徴単体などのデータだけで当該個人の氏名はわからないとしても、「その人」と特定の個人を識別できるのだから、データベースBはデータベースAとの容易照合性をまつまでもなく単体で個人情報(個人情報データベース等)であり、データベースBに含まれる各データも個人情報(個人データ)である(個人情報保護法2条1項1号、岡村久道『個人情報保護法 第4版』75頁)。


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