1.はじめに
公正取引委員会は、本年12月17日付で、デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用規制の考え方を明確化するために、「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(以下「考え方」)を公表しました。
これは、デジタル・プラットフォーム事業者が提供するデジタル・プラットフォームにおける個人情報等の取得又は当該取得した個人情報等の利用における行為に、独占禁止法の優越的地位の濫用条項を適用するというものです(2条9項5号)。
・(令和元年12月17日)「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」の公表について|公正取引委員会
公取委は、この優越的地位の濫用に該当する行為類型をつぎのようにしています。
<優越的地位の濫用となる行為類型>
⑴ 個人情報等の不当な取得
ア 利用目的を消費者に知らせずに個人情報を取得すること
イ 利用目的の達成に必要な範囲を超えて,消費者の意に反して個人情報を取得すること
ウ 個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに,個人情報を取得すること
エ 自己の提供するサービスを継続して利用する消費者に対して,消費者がサービスを利用するための対価として提供している個人情報等とは別に,個人情報等その他の経済上の利益を提供させること
⑵ 個人情報等の不当な利用
ア 利用目的の達成に必要な範囲を超えて,消費者の意に反して個人情報を利用すること
イ 個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに,個人情報を利用すること
※ 上記に限らず,消費者に対して優越した地位にあるデジタル・プラットフォーム事業者による個人情報等の取得又は利用に関する行為が,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなる場合には,優越的地位の濫用として問題となる。
2.独禁法上、個人情報の目的外利用が違法とならない場合があるのか?
ところで、この公取委の「考え方」について、12月29付で企業法務系の弁護士の方が書かれたYahoo!の解説記事「GAFAはどうなる?独禁法適用、巨大IT企業の個人情報利用」(Wedge・河本秀介)の、公取委の行為類型(2)アに関するつぎの部分は興味深いものがあります。
・GAFAはどうなる?独禁法適用、巨大IT企業の個人情報利用
『例えば、(略)プラットフォーマーが、(略)サービスに全く無関係な第三者に個人情報を提供することを認めさせるような場合には、独占禁止法に違反する可能性があります。
ただし、公正取引委員会の「考え方」は、プラットフォーマーによる個人情報活用の有用性も認めていますので、たとえ利用目的を超えた個人情報の取得・利用があっても、ユーザに個人情報を提供するかどうかの選択肢が与えられているような場合には、独占禁止法違反の問題にはならないと考えられます。』
つまり、このYahoo!の解説記事によれば、個人情報の目的外利用であっても、プラットフォーマー事業者による個人情報の利用・活用の有用性が認められる場合であって、本人(ユーザー)に個人情報の提供について同意をする機会が与えられている場合には、当該プラットフォーマー事業者による個人情報の目的外利用は優越的地位の濫用行為とはならず、「考え方」および独禁法2条9項5号との関係で違法とならないということになるようです。
しかしこの点、公取委の「考え方」は、個人情報の目的外利用について、つぎのように説明しています(9頁)。
『【想定例⑥】
デジタル・プラットフォーム事業者F社が,サービスを利用する消費者から取得した個人情報を,消費者の同意を得ることなく第三者に提供した(注19)。
(注19)個人情報を第三者に提供することについて,例えば,電子メールによって個々の消費者に連絡し,自社のウェブサイトにおいて,消費者から取得した個人情報を第三者に提供することに同意する旨の確認欄へのチェックを得た上で提供する場合には,通常,問題とならない。ただし,消費者が,サービスを利用せざるを得ないことから,個人情報の第三者への提供にやむを得ず同意した場合には,当該同意は消費者の意に反するものと判断される場合がある。(以下略)』
公取委の「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」のポイント」15頁も同様です。
つまり、公取委の「考え方」は、個人情報の取得において、プラットフォーマー事業者は個人情報の利用目的を特定しなければならないことを前提にしており、また、もしプラットフォーマー事業者がその利用目的を超えて個人情報を利用する場合には本人の同意が必要であることを前提にしています(個人情報保護法15条、16条)。
その上で、「考え方」は、プラットフォーマー事業者が利用目的を超えて個人情報を利用できる要件として、個人情報保護法16条と同様に「本人の同意」をあげ、ただし、さらにプラットフォーマー事業者の優越的な地位による本人の「やむを得ない同意」は無効であるとしているのです。
3.まとめ
この点、Yahoo!の解説記事は、プラットフォーマー事業者の事業に「有用性」がある場合で、本人に個人情報を提供することに同意するか否かを選択する場面さえあれば、個人情報の利用目的を超えた取得・利用・第三者提供なども可能であるとしています。しかし上でみたように、公取委の「考え方」や同「ポイント」はそのような考え方は採用していないように思われます。
例えば、本年発覚し大きな社会問題となったリクナビ事件においては、「リクナビ」サイトの有用性は否定できないとしても、利用目的を超え就活生本人が同意していない個人情報の収集・利用・分析や採用企業への提供などが大きく社会的非難を受け、リクルートグループは行政処分を受けています。漠然とした「有用性」、「公共性」などの抽象的な概念によって法令解釈を行うことには慎重であるべきです。
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